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特許7174647溶接線データ生成装置、溶接システム、溶接線データ生成方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】溶接線データ生成装置、溶接システム、溶接線データ生成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20221110BHJP
   B25J 9/22 20060101ALI20221110BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B23K9/12 C
B25J9/22 Z
G05B19/4093 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019032635
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020131279
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】焦 有卓
(72)【発明者】
【氏名】定廣 健次
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-1226(JP,A)
【文献】特開平11-224119(JP,A)
【文献】特開2015-104743(JP,A)
【文献】特開2014-194657(JP,A)
【文献】特開2010-184278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B25J 9/22
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ロボットによって溶接する部位を特定する溶接線データを生成する溶接線データ生成装置において、
部材の構成名の組み合わせ別に溶接ロボットによる溶接の可否を示す可否情報が記録される記録部と、
溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する抽出部と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、当該組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する前記溶接線データを生成する生成部と
を有する溶接線データ生成装置。
【請求項2】
前記3次元データを構成する各部材の形状及び部材と他の部材の位置関係の両方又は一方に基づいて、前記構造体を構成する各部材の構成名を特定する構成名特定部
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項3】
前記構成名特定部は、溶接ロボットによる溶接が不要な部材を非溶接部材として特定し、
前記生成部は、抽出された部材の組み合わせの一方が前記非溶接部材である場合、当該組み合わせを溶接の対象から除外する、ことを特徴とする請求項2に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項4】
前記構成名特定部は、前記3次元データを構成する部材の面積に基づいて、板状の形状を有する部材の構成名を特定する、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項5】
前記部材の形状の情報には、開先形状の情報が含まれる、ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項6】
前記構成名特定部は、構成名が特定されている他の部材に対する位置関係に基づいて当該他の部材に隣り合う部材の構成名を特定する、請求項2~5のいずれか1項に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項7】
前記構成名特定部は、抽出された2つの部材間の位置関係として、一方の部材に対する他方の部材の傾斜角、回転角、捻じれ角のうち少なくとも1つ以上の値を算出し、算出された値が閾値以上である場合、当該他方の部材を非溶接部材として特定し、
前記生成部は、抽出された隣り合う部材の組み合わせの一方が前記非溶接部材である場合、当該組み合わせを溶接の対象から除外する、ことを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項8】
前記構成名特定部は、部材の形状及び部材と他の部材の位置関係の両方又は一方と、部材の構成名との関係を学習した学習済みモデルを用い、前記構造体を構成する各部材の構成名を特定する、請求項2~7のいずれか1項に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項9】
前記生成部は、抽出された2つの部材が溶接可である場合には、2つの部材同士が隣り合う部分における開先の有無を更に判定し、開先有りのときには開先形状の情報に従って前記溶接線データを生成する
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の溶接線データ生成装置。
【請求項10】
部材同士を溶接する溶接ロボットと、溶接線データに基づいて溶接ロボットの動作を制御する溶接制御装置とを有する溶接システムにおいて、
部材の構成名の組み合わせ別に溶接ロボットによる溶接の可否を示す可否情報が記録される記録部と、
溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する抽出部と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、当該組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する前記溶接線データを生成する生成部と
を有する溶接システム。
【請求項11】
溶接ロボットによって溶接する部位を特定する溶接線データを生成する溶接線データ生成方法において、
溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する処理と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせの溶接の可否を、予め用意された構成名の組み合わせ別の可否情報を参照することにより判定する処理と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、当該組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する前記溶接線データを生成する処理と
を有する溶接線データ生成方法。
【請求項12】
コンピュータに、
溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する処理と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせの溶接の可否を、予め用意された構成名の組み合わせ別の可否情報を参照することにより判定する処理と、
抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、当該組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する溶接線データを生成する処理と
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接線データ生成装置、溶接システム、溶接線データ生成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、多くの分野で溶接ロボットが使用され、溶接作業の自動化が進められている。溶接ロボットによる溶接には、事前に、溶接対象とする構造物全体の溶接パス(又は溶接線)を決定し、溶接ロボットに設定しておく必要がある。特許文献1には、オペレータによる溶接線の選定を迅速化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-184278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術により溶接線を特定するには、オペレータがマニュアル操作で各面を指定する必要があり、手作業による労力が掛かっていた。また、溶接線の特定を自動的に行う技術も一部普及しているが、各面に対して総当たりで溶接線とするか否かを判定する処理を行う必要があり、溶接線を特定するには非常に時間がかかっていた。
【0005】
本発明の目的は、溶接ロボットによって溶接する部位又はその候補を効率的かつ自動的に特定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、1つの発明として、溶接ロボットによって溶接する部位を特定する溶接線データを生成する溶接線データ生成装置であって、部材の構成名の組み合わせ別に溶接ロボットによる溶接の可否を示す可否情報が記録される記録部と、溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する抽出部と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、該当する組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する溶接線データを生成する生成部とを有する溶接線データ生成装置を提供する。
【0007】
なお、溶接線データ生成装置は、3次元データを構成する各部材の形状及び部材と他の部材の位置関係の両方又は一方に基づいて、構造体を構成する各部材の構成名を特定する構成名特定部を更に有することが好ましい。
ここでの構成名特定部は、溶接ロボットによる溶接が不要な部材を非溶接部材として特定し、生成部は、抽出された部材の組み合わせの一方が非溶接部材である場合、該当する組み合わせを溶接の対象から除外してもよい。
また、構成名特定部は、3次元データを構成する部材の面積に基づいて、板状の形状を有する部材の構成名を特定してもよい。
なお、構成名の特定に使用する部材の形状の情報には、開先形状の情報が含まれてもよい。
【0008】
また、構成名特定部は、構成名が特定されている他の部材に対する位置関係に基づいて他の部材に隣り合う部材の構成名を特定してもよい。
また、構成名特定部は、抽出された2つの部材間の位置関係として、一方の部材に対する他方の部材の傾斜角、回転角、捻じれ角のうち少なくとも1つ以上の値を算出し、算出された値が閾値以上である場合、他方の部材を非溶接部材として特定し、生成部は、抽出された隣り合う部材の組み合わせの一方が非溶接部材である場合、該当する組み合わせを溶接の対象から除外してもよい。
また、ここでの構成名特定部は、部材の形状及び部材と他の部材の位置関係の両方又は一方と、部材の構成名との関係を学習した学習済みモデルを用い、構造体を構成する各部材の構成名を特定してもよい。
なお、生成部は、抽出された2つの部材が溶接可である場合には、2つの部材同士が隣り合う部分における開先の有無を更に判定し、開先有りのときには開先形状の情報に従って前記溶接線データを生成してもよい。
【0009】
また、別の発明として、部材同士を溶接する溶接ロボットと、溶接線データに基づいて溶接ロボットの動作を制御する溶接制御装置とを有する溶接システムであって、部材の構成名の組み合わせ別に溶接ロボットによる溶接の可否を示す可否情報が記録される記録部と、溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する抽出部と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、該当する組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する溶接線データを生成する生成部とを有する溶接システムを提供する。
【0010】
さらに、別の発明として、溶接ロボットによって溶接する部位を特定する溶接線データを生成する溶接線データ生成方法であって、溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する処理と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせの溶接の可否を、予め用意された構成名の組み合わせ別の可否情報を参照することにより判定する処理と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、該当する組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する前記溶接線データを生成する処理とを有する溶接線データ生成方法を提供する。
【0011】
さらに、別の発明として、溶接により製造される構造体の3次元データから、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせを抽出する処理と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせの溶接の可否を、予め用意された構成名の組み合わせ別の可否情報を参照することにより判定する処理と、抽出された2つ以上の部材の組み合わせに対応する構成名の組み合わせが溶接可である場合、該当する組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定する溶接線データを生成する処理とをコンピュータに実行させるプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接ロボットによって溶接する部位又はその候補を効率的かつ自動的に特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る溶接システムの構成例を示す図である。
図2】傾斜、回転、捻じれなどの位置関係を説明する図である。
図3】構造体とその構成要素である部材を説明する図である。
図4】可否情報記録部に記録される溶接の可否情報の構造例を示す図である。
図5】開先有りと判定される部材間の関係の例を示す図である。
図6】開先無しと判定される部材間の関係の例を示す図である。
図7】溶接線データ生成装置によって実行される処理動作を説明するフローチャートである。
図8】溶接線の候補の修正を受け付ける画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る溶接電源、溶接システム、溶接電源の制御方法及びプログラムの実施形態の例を説明する。なお、各図は、本発明の説明のために作成されたものであり、本発明の実施の形態は、図示の内容に限らない。
【0015】
<システムの全体構成>
図1は、本実施の形態に係る溶接システム1の構成例を示す図である。
図1に示す溶接システム1は、溶接の対象である部材同士を溶接する溶接ロボット10と、溶接ロボット10の動きを制御する溶接制御装置20と、溶接位置を与える溶接線データを溶接制御装置20に与える溶接線データ生成装置30と、溶接によって製造する構造体を構成する各部材の形状や部材間の位置関係等を記述した3次元データを記憶する構造体データベース40とを有している。
【0016】
溶接ロボット10は、用途に応じて様々な種類がある。例えば鉄骨の溶接に使用される鉄骨溶接ロボット、建築部品溶接ロボット、橋梁溶接ロボット、台車部品溶接ロボット、フォークリフト部品溶接ロボット、船舶分野向け溶接ロボットがある。
本実施の形態では、溶接ロボット10として鉄骨溶接ロボットを想定する。
【0017】
溶接制御装置20は、例えばコンピュータによって構成され、1台又は複数台の溶接ロボット10の動きを制御する。
コンピュータは、制御プログラムを実行する演算部と、起動プログラム等を記憶する不揮発性の半導体メモリと、制御プログラムが実行される揮発性の半導体メモリと、溶接ロボット10から収集される動作パラメータや溶接する部位を指定する溶接線データを記憶するハードディスク装置等で構成されている。
コンピュータとしての溶接制御装置20には、キーボードやタッチパネル等の入力装置、溶接の進行に関する情報を表示する表示装置も接続されている。
【0018】
本実施の形態における溶接線データは、隣り合う関係にある2つ以上の部材のうち溶接する部位(溶接線)を規定するデータの集合をいう。
隣り合う関係には、例えばある部材と別の部材が接触する関係、ある部材と別の部材との間に隙間がある関係、ある部材に別の部材が食込む関係などがある。本実施の形態の場合、隙間とは、溶接による部材の接続が可能な、予め定めた距離以下の空間をいう。
【0019】
溶接線データ生成装置30も、例えばコンピュータによって構成される。ここでのコンピュータは、アプリケーションプログラムを実行する演算部と、起動プログラム等を記憶する不揮発性の半導体メモリと、アプリケーションプログラムが実行される揮発性の半導体メモリと、アプリケーションプログラムや溶接線データを含むデータを記録するハードディスク装置、入力装置、表示装置等で構成されている。
本実施の形態におけるハードディスク装置には、部材の構成名の組み合わせ別に溶接の可否を示す情報(以下「溶接の可否情報」という)も記録されている。本実施の形態では、ハードディスク装置のうち溶接の可否情報が記録されている領域部分を可否情報記録部31という。可否情報記録部31は、記録部の一例である。
【0020】
本実施の形態では、アプリケーションプログラム等の記録装置としてハードディスク装置を例示しているが、半導体メモリその他の記録媒体にデータを読み書きする装置でもよい。また、ハードディスク装置は、溶接線データ生成装置30に内蔵された装置でも外付けされた装置でもよい。
図1では、溶接制御装置20と溶接線データ生成装置30をそれぞれ独立した装置として描いているが、溶接線データ生成装置30の機能の一部又は全部を溶接制御装置20に含めることも可能である。
【0021】
本実施の形態の場合、溶接線データ生成装置30は、溶接制御装置20に通信線やネットワークを通じて接続されている。ここでのネットワークは、例えばLAN(Local Area Network)やインターネット(クラウドネットワークを含む)である。
もっとも、溶接線データ生成装置30の役割は、溶接に必要な溶接線データを生成することであり、溶接線データ生成装置30と溶接制御装置20の接続は必須ではない。例えば溶接線データ生成装置30と溶接制御装置20とが通信線等で接続されていない場合、溶接線データ生成装置30で生成された溶接線データは、可搬型の記録媒体を用いて溶接制御装置20に書き込めばよい。
【0022】
溶接線データ生成装置30は、演算部によるアプリケーションプログラムの実行を通じ、溶接線又は溶接線の候補を効率的かつ自動的に特定する機能を実現する。図1では、溶接線データ生成装置30が実行する機能のうち溶接線又は溶接線の候補を効率的かつ自動的に特定する機能の要素として、構成名特定部32と、組み合わせ抽出部33と、溶接線データ生成部34の3つを表している。
本実施の形態では、3次元CAD(computer-aided design)データ上の各部材に構成名が与えられていない場合を想定するため、構成名特定部32が用意されている。構成名特定部32を設けることにより、各部材に構成名が与えられていない場合にも、組み合わせ抽出部33と溶接線データ生成部34を用いた溶接線又は溶接線の候補の特定が可能になる。
なお、3次元CADデータ(以下「3次元データ」ともいう)上の各部材に既に構成名が与えられている場合には、構成名特定部32は不要であるか、設けられている構成名特定部32の実行を停止する。
【0023】
構成名特定部32は、構造体データベース40に記録されている3次元データから構造体を構成する各部材の形状や部材間の位置関係等に関する情報を読み出し、構造体を構成する各部材の構成名を自動的に特定する機能部である。構成名を特定するために用いる手法は、構造体によって異なってもよい。
本実施の形態の場合、構成名特定部32は、先ず、面積などの形状に特徴がある部材について構成名を特定し、続いて、構成名が特定された部材に対する位置関係などに基づいて他の部材の構成名を特定する。なお、構成名には、対応する部材が満たすべき条件が予め与えられている。
本実施の形態の場合、予め定めた条件を満たさない部材の構成名として「その他」が用いられる。溶接が不要な部材(以下「非溶接部材」という)も「その他」に分類される。
【0024】
構成名特定部32は、2つの部材間の位置関係として、一方の部材に対する他方の部材の傾斜角、回転角、捻じれ角のうち少なくとも1つ以上の値も使用する。本実施の形態における構成名特定部32は、3次元データに基づいて算出された傾斜角、回転角、捻じれ角の値が閾値以上の場合、他方の部材を非溶接部材に分類する。傾斜角等の情報を位置関係に含めることにより、構成名の特定精度が高くなる。
本実施の形態では、相対的に面積が大きい方の部材を「一方の部材」とし、相対的に面積が小さい方の部材を「他方の部材」とする。客観的に比較可能な面積を用いることで、部材間の位置関係が明確となり、各部材の構成名の特定精度が高くなる。また、既に構成名が特定されている部材と構成名が特定されていない部材との関係では、既に構成名が特定されている部材を「一方の部材」とし、構成名が特定されていない部材を「他方の部材」とする。一方の構成名が特定されている場合、他方の部材の構成名の特定精度が高くなる。
【0025】
図2は、傾斜、回転、捻じれなどの位置関係を説明する図である。
図2には、最も面積が大きい平板状の部材Aと2番目に面積が大きい平板状の部材Bとで規定される構造物に対する部材C~Gの位置関係が例示されている。なお、部材Aのうち最も大きい面はXZ面に平行であり、部材Bのうち最も大きい面はXY面に平行である。すなわち、部材Aと部材Bは互いに垂直である。また、部材BはX軸方向に延長するように部材Aに対して取り付けられている。
【0026】
図中、部材Cは、傾斜も回転もない位置関係を表している。図2の場合、部材Cのうち最も大きい面は、YZ面に平行である。従って、部材Cは、部材Aと部材Bの両方に垂直である。
部材Dは、その最も大きい面の法線軸(ここではX軸)の周りに回転した位置関係をいう。この位置関係を「捻じれ」という。
部材Eは、部材Aと接する辺(ここではZ軸)の周りに回転した位置関係をいう。この場合、部材Eは、部材Bとだけ垂直である。この位置関係を「傾斜」という。
部材Fは、部材Bと接する辺(ここではY軸)の周りに回転した位置関係をいう。この場合、部材Fは部材Aとだけ垂直である。この位置関係を「回転」という。
部材Gは、傾斜と回転の両方を含む位置関係をいう。
【0027】
なお、各部材の構成名の特定には、ディープラーニングなどの手法で学習された学習済みモデルを用いてもよい。ここでの学習済みモデルは、部材の形状と部材同士の位置関係と構成名との関係を学習した汎用的なモデルであってもよいし、用途別に部材の形状と部材同士の位置関係と構成名との関係を学習した専用のモデルでもよい。
学習済みモデルを用いる場合、構成名特定部32は、製造する構造体に対応する3次元データを学習済みモデルに与えることで、各部材の構成名を得る。
なお、学習済みモデルの生成時には、部材の形状と構成名との関係を学習させてもよいし、部材同士の位置関係と構成名との関係を学習させてもよい。
学習済みモデルを使用する場合には、出力結果に対する作業員等の評価結果を報酬(いわゆるQ値)として与え、学習済モデルに修正を加えてもよい。
学習済みモデルを利用することで、各部材の構成名を効率的に特定できる。
【0028】
図1の説明に戻る。
組み合わせ抽出部33は、構造体データベース40に記録されている3次元データから構造体を構成する部材間の位置関係を読み出し、隣り合う関係にある2つ以上の部材の組み合わせを自動的に抽出する機能部である。ここでの組み合わせ抽出部33は、抽出部の一例である。
例えば図2に示す構造体の3次元データが与えられた場合、組み合わせ抽出部33は、部材Aと部材Bと部材Cの組み合わせ、部材Aと部材Bと部材Dの組み合わせ、部材Aと部材Bと部材Eの組み合わせ、部材Aと部材Bと部材Fの組み合わせ、部材Aと部材Bと部材Gの組み合わせを抽出する。ただし、いずれの組み合わせも、算出された傾斜角、回転角、捻じれ角の各値が閾値未満であるものとする。
【0029】
図2の場合、部材Dは、X軸の方向について部材Cの隣に位置している。このため、部材Cと部材Dの組み合わせも、広義には、隣り合う関係とみなすことが可能である。
本実施の形態では、部材同士の間の距離が予め定めた最小距離を超える場合には、隣り合う2つ以上の部材の組み合わせから除外する。
ここでの最小距離は、前述した溶接による部材の接続が可能な、予め定めた距離以下に当たる。
例えば部材が平板状の場合、最小距離は、最も大きい面の面積と厚みとによって部材毎に定めてもよいし、溶接が可能な距離を基準に一律に定めてもよい。
以上の条件により、部材Cと部材Dは、隣り合う関係にある2つ以上の部材の組み合わせからは除外される。
【0030】
溶接線データ生成部34は、組み合わせ抽出部33で抽出された2つ以上の部材の組み合わせのそれぞれについて、組み合わせを構成する各部材の構成名の組み合わせが溶接可として登録されているか否かを判定する機能と、溶接可である場合には、該当する組み合わせに対応する2つ以上の部材間で溶接する部位を特定し、溶接線データとして出力する機能とを実行する機能部である。
ここで、溶接可であるか否かの判定には、可否情報記録部31に記録されている情報が用いられる。なお、ここでの溶接線データ生成部34は、生成部の一例である。
【0031】
図3は、構造体とその構成要素である部材を説明する図である。
図3に示す構造体は、YZ平面においてI字に配置されたH形鋼に対して複数の部材を取り付けた構成を有している。なお、図中の「部材1」~「部材7」及び「その他」は、本実施の形態における各部材の名称(すなわち部材名)を表している。
図3の場合、H形鋼は、「部材1」、「部材3」及び「部材4」の3つの平板部で構成されている。本実施の形態では、H形鋼が3つの平板状の部材の溶接により製造される場合だけでなく、圧延によって一体的に製造される場合も、各部を区別して「部材1」、「部材3」及び「部材4」という。
「部材2」、「部材6」、「部材7」は、H形鋼の変形を防ぐために用いられる補強材の名称である。「部材5」は、H型の部材の端部に取り付けられる部材の名称であり、不図示の部材との結合に用いられる。
なお、「その他」は、「部材1」~「部材7」として特定することができない部材の集合名である。前述の「非溶接部材」に該当する部材も「その他」に含まれる。
【0032】
図4は、可否情報記録部31(図1参照)に記録される溶接の可否情報の構造例を示す図である。
溶接の可否情報は、異なる部材の組み合わせ毎に、溶接ロボット10(図1参照)による溶接の可否等を示す情報を記録した構造を有している。
図4の場合、可否等を示す情報は、溶接可(図中の○)と溶接不可(図中の×)の2つである。
図4に示す「部材1」~「部材7」及び「その他」は、図3の「部材1」~「部材7」及び「その他」に対応する。
部材1の場合、溶接可となる部材名は、「部材5」と「部材6」の2つである。
【0033】
図1の説明に戻る。
溶接線データ生成部34は、組み合わせ抽出部33で抽出された個々の組み合わせを構成する部材名の組み合わせが、溶接可(図4では○)の組み合わせを含むか否かを判定する機能を有している。ここでの判定は、2つの部材間の関係を単位とする。
例えば抽出された1つの組み合わせが3つの部材で構成される場合、溶接線データ生成部34は、判定の対象とする1つの組み合わせを2つの部材の組み合わせに分解し、分解後によって得られた複数の組み合わせのそれぞれについて溶接可であるか否かを判定する。
【0034】
ここで、抽出された部材の組み合わせの一方が非溶接部材(すなわち「その他」)である場合、その組み合わせは溶接の対象から除外される。溶接されない部位を事前に除くことで、溶接線又は溶接線の候補を効率的に特定できる。
溶接可である部材名の組み合わせが含まれる場合、溶接線データ生成部34は、複数の部材が互いに接触する部位又は部材間の隙間が溶接可能な距離未満の部位を3次元データに基づいて特定し、溶接線又は溶接線の候補として登録する。
なお、溶接可の組み合わせの一方の部材の一部に開先が有る場合、溶接線データ生成部34は、開先形状の情報に従って溶接線の候補とする部位を特定する。本実施の形態では、開先が設けられている部位が溶接線又は溶接線の候補に特定される。
このため、本実施の形態の溶接線データ生成部34には、開先の有無を判定する機能が設けられている。
【0035】
図5は、開先有りと判定される部材間の関係の例を示す図である。図6は、開先無しと判定される部材間の関係の例を示す図である。
図5には、開先有りとみなされる3つの例が示されている。
部材Kの場合、部材Jと隣り合う面の全体が斜面に加工されている。この場合、部材Jと部材Kの斜面が形成する角度が開先角度となる。また、開先深さは、部材Kのうち、X軸方向についての斜面の長さで与えられる。
部材Lの場合、部材Jと隣り合う面の一部分が斜面に加工されており、残りの面は部材Jと接している。この場合、部材Jと部材Lの斜面部分が形成する角度が開先角度となる。また、開先深さは、部材Lのうち、X軸方向についての斜面部分の長さで与えられる。
部材Mは、部材Lと同じ形状であるが、部材Lとの間に隙間が形成されている。この場合、部材Mの斜面部分の延長線が部材Jと形成する角度が開先角度となる。また、開先深さは、部材Mのうち、X軸方向についての斜面部分の長さで与えられる。
なお、開先の形状は、図5に示したレ形に限らず、K形、I形、V形、J形、X形、U形、両面J形、両面U形でもよい。
【0036】
図6には、開先無しとみなされる3つの例が示されている。
部材Nと部材Jの関係はT継ぎ手と呼ばれるもので、矩形形状の部材Nと部材JとがT字を形成している。この場合、部材Nには開先がないと判定される。
部材Oと部材Jの関係は自然開先と呼ばれるもので、矩形形状の部材Oの角で部材Jが接している。部材Oと部材Jの間には、XZ面において三角形状の隙間が形成されているが、これは取り付けの関係で生じたものであり、開先とは扱わない。
部材Pと部材Jの関係は全開先と呼ばれるものである。部材Pは、部材K(図5参照)と同じ形状であるが、斜面の全体が部材Jの表面に接しているので、部材Nと同じく開先とは扱わない。開先の有無を利用することで、構成名の特定精度は勿論、溶接線又は溶接線の候補とする部位の特定精度を高めることができる。
【0037】
<溶接線データ生成装置の処理動作>
図7は、溶接線データ生成装置30(図1参照)によって実行される処理動作を説明するフローチャートである。図7に示す手順は、溶接線データ生成方法の一例である。なお、図中の記号Sはステップを示す。
【0038】
まず、溶接線データ生成装置30は、溶接によって製造する構造体の3次元データを構造体データベース40(図1参照)から取り込む(ステップ1)。取り込みの対象である3次元データは、例えば不図示の操作画面を通じて作業者が指定する。
次に、溶接線データ生成装置30は、隣り合う関係の2つ以上の部材の組み合わせを全て抽出する(ステップ2)。この処理動作は、組み合わせ抽出部33(図1参照)が実行する。
3次元データからの抽出が完了すると、溶接線データ生成装置30は、抽出された全ての組み合わせの中から未処理の1つの組み合わせを選択する(ステップ3)。
【0039】
次に、溶接線データ生成装置30は、選択された組み合わせを構成する複数の部材の構成名を特定する(ステップ4)。構造体を構成する各位置の部材の構成名は、構成名特定部32(図1参照)によって特定されている。
選択された組み合わせを構成する部材の構成名が特定されると、溶接線データ生成装置30は、溶接の可否情報との照合を通じ、溶接可の組み合わせを含むか否かを判定する(ステップ5)。この処理動作は、溶接線データ生成部34(図1参照)が実行する。
ステップ5で肯定結果が得られた場合、溶接線データ生成装置30は、溶接可の部材間で溶接する部位を特定し(ステップ6)、溶接線の候補に登録する(ステップ7)。
この後、溶接線データ生成装置30は、未処理の組み合わせは無いか否かを判定する(ステップ8)。
なお、ステップ5で否定結果が得られた場合、溶接線データ生成装置30は、ステップ6及び7を実行することなくステップ8の判定を実行する。
【0040】
ステップ8で否定結果が得られる間、溶接線データ生成装置30は、ステップ3に戻り、新たに選択した1つの組み合わせについて前述した一連の処理を実行する。
ステップ8で肯定結果が得られると、溶接線データ生成装置30は、候補の確認は不要か否かを判定する(ステップ9)。この判定処理は必須ではないが、本実施の形態では、自動的に登録された溶接線の候補を作業者が確認するか否かを選択できるようになっている。
ステップ9で肯定結果が得られた場合(すなわち、確認が不要である場合)、溶接線データ生成装置30は、溶接線データとして、自動的に登録された溶接線の候補の全てを出力する(ステップ11)。
一方、ステップ9で否定結果が得られた場合(すなわち、作業者による確認が行われる場合)、溶接線データ生成装置30は、溶接線の候補の修正を受け付ける(ステップ10)。
【0041】
図8は、溶接線の候補の修正を受け付ける画面100の一例を示す図である。
図8に示す画面100は、構造体に対応する3次元モデルを表示する確認画面110と、溶接線の候補の一覧が表示される候補欄120と、カーソル121で指定された候補を溶接線として確定する場合に操作する確定ボタン130と、カーソル121で指定された候補を溶接線から除外する場合に操作する除外ボタン140と、候補には含まれていない部位を溶接線として追加する場合に使用する新規ボタン150と、修正作業の終了時に操作する終了ボタン160とを含んでいる。
【0042】
図8に示す確認画面110には、図3に示す構造体が表示されている。図8に示す確認画面110では、溶接線データ生成装置30によって特定された構成名が、対応する部材からの引出線付きで表示されている。
また、確認画面110では、カーソル121によって指定された候補に対応する部位が作業者に分かるように表示される。図8の例では、カーソル121で指定された「候補2」に対応する構造体上の部位が強調表示に変更されている。ここでの強調表示には、例えば太線による表示、高輝度による表示、予め設定された色による表示、引出線による表示、これらの組み合わせが用いられる。
【0043】
なお、候補には含まれていない部位を溶接線に含める場合、作業者は、例えば新規ボタン150を操作して新たなレコードを生成した後に、確認画面110上で追加する部位を指定する。
自動的に登録された溶接線の候補が誤っている場合には、カーソル121で誤っている候補を指定した後に、除外ボタン140を操作すればよい。
終了ボタン160が操作されると、溶接線データ生成装置30は、ステップ11に移行し、修正後の溶接線の候補の集合を溶接線データとして出力する。
【0044】
<他の実施の形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上述の実施の形態に記載の範囲に限定されない。上述の実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば前述の実施の形態では、開先の有無の情報を溶接線又は溶接線の候補となる部位の特定に用いているが、構造体を構成する部材の構成名の特定に用いてもよい。
また、前述の実施の形態においては、溶接線データ生成部34(図1参照)によって登録された溶接線の候補を修正するか否かを選択できるようにしているが、溶接線データ生成部34は、修正の有無を選択する機能を有していなくてもよい。この場合は、溶接線データ生成部34が特定した部位がそのまま溶接線となる。
【符号の説明】
【0045】
1…溶接システム、10…溶接ロボット、20…溶接制御装置、30…溶接線データ生成装置、31…可否情報記録部、32…構成名特定部、33…組み合わせ抽出部、34…溶接線データ生成部、40…構造体データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8