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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】鉄道車両用ゴムブッシュ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20221110BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20221110BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20221110BHJP
   B61F 5/08 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/08 K
F16F1/38 T
B61F5/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019038718
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143698
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】福山 敦士
(72)【発明者】
【氏名】大坪 繁宏
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-182338(JP,U)
【文献】特開2018-168908(JP,A)
【文献】特開2015-178854(JP,A)
【文献】実開昭61-085735(JP,U)
【文献】特開2005-344762(JP,A)
【文献】特開2013-047556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
B61F 1/00-99/00
F16F 1/00- 6/00
15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアウタ部材と、
前記アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、
前記アウタ部材と前記インナ部材とを互いに連結すると共に、前記アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、
前記弾性支持部材の前記空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、
を含んでなり、
前記マス部材に、前記アウタ部材と同軸上に位置する環状プレートが取り付けられていることを特徴とする鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項2】
筒状のアウタ部材と、
前記アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、
前記アウタ部材と前記インナ部材とを互いに連結すると共に、前記アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、
前記弾性支持部材の前記空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、
を含んでなり、
前記インナ部材と前記マス部材との互いの対向面はそれぞれ平坦面であることを特徴とする鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項3】
筒状のアウタ部材と、
前記アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、
前記アウタ部材と前記インナ部材とを互いに連結すると共に、前記アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、
前記弾性支持部材の前記空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、
を含んでなり、
前記インナ部材における前記マス部材との対向面には凹部が形成され、前記マス部材における前記インナ部材との対向面には、前記凹部側へ突出する凸部が形成されていることを特徴とする鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項4】
前記インナ部材は、前記アウタ部材と略同軸上に配置されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項5】
前記空隙部は、鉄道車両への取付状態で荷重が入力する方向を除いて配置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項6】
前記空隙部は、前記アウタ部材の軸方向に貫通していることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項7】
前記マス部材は、振動部材を介して前記アウタ部材に固定されていることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項8】
前記振動部材は、前記弾性支持部材と同一材料であることを特徴とする請求項に記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項9】
前記振動部材は、前記弾性支持部材と部分的に繋がっていることを特徴とする請求項に記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項10】
前記空隙部及び前記マス部材は、複数配置されていることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項11】
前記マス部材は、前記アウタ部材の軸方向に伸びて形成されていることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項12】
前記環状プレートは、前記アウタ部材の軸方向外側に配置されていることを特徴とする請求項に記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【請求項13】
前記環状プレートは、前記アウタ部材の軸方向で前記マス部材の両端部にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項1又は12に記載の鉄道車両用ゴムブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両において、車体と台車とを繋ぐ牽引装置等に用いられる鉄道車両用ゴムブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、台車側の振動が車体に伝わることを抑制するために、鉄道車両用ゴムブッシュが用いられる。この鉄道車両用ゴムブッシュは、車体と台車とを弾性的に支持する弾性支持機能と、牽引力を台車側に伝える牽引機能とを備えると共に、鉄道車両の発車時や停車時に台車側に牽引力が伝わる際に加わる力を緩衝する機能を備えている。
これらの本来の機能に加えて、走行時に発生する一定方向から伝わる特定の振動を絶縁する機能も備えたものが知られている。例えば特許文献1には、モータを含む被支持体を車体側の支持構造物に支持するブッシュ装置として、外筒(アウタ部材)と内筒(インナ部材)との間で外筒側に外側弾性体を、内筒側に内側弾性体をそれぞれ配置して両弾性体の間に中間板を設け、中間板にマス部材を取り付けることで、騒音の原因となる周波数の振動が車体側に伝達される特性をコントロール可能とした発明が記載されている。また、特許文献2には、内外筒間に弾性体を介在させた弾性ブッシュとして、軸線方向へ外筒、内筒若しくは弾性体の何れかのみに繋がる弾性部材を設け、その弾性部材にウエイト部材を設けてダイナミックダンパを形成した発明が記載されている。何れも特定周波数で共振するダイナミックダンパを設置することで特定の振動の絶縁を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-178854号公報
【文献】実開平4-4541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1,2のブッシュでは、ダイナミックダンパを構成するマス部材(ウエイト部材)が外筒及び内筒の軸方向外側に配置されているため、コンパクト化を阻害し、設置場所によっては取付ができないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、本来の機能である弾性支持機能、牽引機能、緩衝機能を低下させることなく、省スペースでダイナミックダンパが設置可能な鉄道車両用ゴムブッシュを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、筒状のアウタ部材と、アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、アウタ部材とインナ部材とを互いに連結すると共に、アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、弾性支持部材の空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、を含んでなり、
マス部材に、アウタ部材と同軸上に位置する環状プレートが取り付けられていることを特徴とする。
なお、本発明において、インナ部材の「筒状」は、周方向の全周で繋がる形態に限らず、横断面が半円状や円弧状となる複数の部材を組み合わせたり、横断面C字状の部材を用いたりすることで、周方向の一部が部分的に分断された形態も含む。また、「環状」とは、全周に亘って分断されないループ状は勿論、部分的に分断されるC字状も含む。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、筒状のアウタ部材と、アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、アウタ部材とインナ部材とを互いに連結すると共に、アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、弾性支持部材の空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、を含んでなり、
インナ部材とマス部材との互いの対向面はそれぞれ平坦面であることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、筒状のアウタ部材と、アウタ部材の内側に配置される筒状又は軸状のインナ部材と、アウタ部材とインナ部材とを互いに連結すると共に、アウタ部材の周方向の少なくとも1箇所に空隙部を有する弾性支持部材と、弾性支持部材の空隙部に配置され、ダイナミックダンパを構成するマス部材と、を含んでなり、
インナ部材におけるマス部材との対向面には凹部が形成され、マス部材におけるインナ部材との対向面には、凹部側へ突出する凸部が形成されていることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、インナ部材は、アウタ部材と略同軸上に配置されることを特徴とする。
なお、ここでの「略同軸」とは、軸心が一致する場合を含んで軸心間に僅かな誤差がある場合を許容する趣旨である。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、空隙部は、鉄道車両への取付状態で荷重が入力する方向を除いて配置されていることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至の何れかの構成において、空隙部は、アウタ部材の軸方向に貫通していることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至の何れかの構成において、マス部材は、振動部材を介してアウタ部材に固定されていることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、振動部材は、弾性支持部材と同一材料であることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、振動部材は、弾性支持部材と部分的に繋がっていることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至の何れかの構成において、空隙部及びマス部材は、複数配置されていることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10の何れかの構成において、マス部材は、アウタ部材の軸方向に伸びて形成されていることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項の構成において、環状プレートは、アウタ部材の軸方向外側に配置されていることを特徴とする。
請求項13に記載の発明は、請求項1又は12の構成において、環状プレートは、アウタ部材の軸方向でマス部材の両端部にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1乃至3に記載の発明によれば、弾性支持部材に設けた空隙部に、ダイナミックダンパを構成するマス部材を配置するので、本来の機能である弾性支持機能、牽引機能、緩衝機能を低下させることなく、省スペースでダイナミックダンパが設置可能となる。
特に、請求項1に記載の発明では、上記効果に加えて、マス部材に、アウタ部材と同軸上に位置する環状プレートが取り付けられているので、環状プレートの質量や形状の選択により、対応する固有振動数が容易に調整可能となる。
特に、請求項2に記載の発明では、上記効果に加えて、インナ部材とマス部材との互いの対向面はそれぞれ平坦面となっているので、空隙部を広くしてマス部材を配置するスペースを確保することができる。
特に、請求項3に記載の発明では、上記効果に加えて、インナ部材におけるマス部材との対向面には凹部が形成され、マス部材におけるインナ部材との対向面には、凹部側へ突出する凸部が形成されているので、空隙部内でのマス部材の形状を大きく確保できる。
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、インナ部材は、アウタ部材と略同軸上に配置されるので、空隙部を除く全方向に弾性支持部材が均等に配置され、力や振動の入力方向が変わっても弾性支持機能や緩衝機能等に偏りがなくなる。
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、空隙部は、鉄道車両への取付状態で荷重が入力する方向を除いて配置されるので、空隙部を設けても弾性支持機能や緩衝機能等を損なうことがない。
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至の何れかの効果に加えて、空隙部は、アウタ部材の軸方向に貫通しているので、空隙部が広く確保できてマス部材の形状の設計自由度が高まる上、マス部材の取付や取り外しも容易に行える。
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至の何れかの効果に加えて、マス部材は、振動部材を介してアウタ部材に固定されているので、空隙部内でダイナミックダンパをコンパクトに形成可能となる。
請求項に記載の発明によれば、請求項の効果に加えて、振動部材を、弾性支持部材と同一材料としているので、鉄道車両用ゴムブッシュが低コストで製造可能となる。
請求項に記載の発明によれば、請求項の効果に加えて、振動部材は、弾性支持部材と部分的に繋がっているので、製造工程も合理化でき、短時間で製造可能となる。
請求項10に記載の発明によれば、請求項1乃至の何れかの効果に加えて、空隙部及びマス部材は、複数配置されているので、ダイナミックダンパによる振動の絶縁性能が良好となる。
請求項11に記載の発明によれば、請求項1乃至10の何れかの効果に加えて、マス部材は、アウタ部材の軸方向に伸びて形成されているので、必要な質量が確保しやすくなる。
請求項12に記載の発明によれば、請求項の効果に加えて、環状プレートは、アウタ部材の軸方向外側に配置されているので、環状プレートの取付や取り外しがしやすくなる。
請求項13に記載の発明によれば、請求項1又は12の効果に加えて、環状プレートは、アウタ部材の軸方向でマス部材の両端部にそれぞれ取り付けられているので、マス部材が振動部材から剥離したり、振動部材がアウタ部材から剥離したりしても、両端の環状プレートによって落下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】鉄道車両用ゴムブッシュの斜視図である。
図2】鉄道車両用ゴムブッシュの説明図で、(A)が正面、(B)が側面、(C)が平面をそれぞれ示す。
図3】(A)は図2のA-A線断面図、(B)はB-B線断面図である。
図4】環状プレートを用いない鉄道車両用ゴムブッシュの変更例の斜視図である。
図5】振動部材と弾性支持部材とを一体成型した変更例を示す横断面図である。
図6】空隙部を1つとした変更例を示す横断面図である。
図7】インナ部材、マス部材、振動部材の変更例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、鉄道車両用ゴムブッシュ(以下単に「ゴムブッシュ」という。)の一例を示す斜視図、図2(A)は正面図、同図(B)は側面図、同図(C)は平面図である。
ここでのゴムブッシュ1は、車体と台車とを1本の牽引リンクで繋ぐ牽引装置において、牽引リンクの両端にそれぞれ緩衝装置として使用されるもので、図1での左下から右上への矢印を車両の進行方向とし、右上を前方として説明する。上下の矢印は上下方向、左上から右下への矢印は左右方向となる。
このゴムブッシュ1は、筒状のアウタ部材2と、アウタ部材2の内側に同軸で配置され、アウタ部材2から軸方向へ左右両端を突出させた軸状のインナ部材3と、アウタ部材2とインナ部材3との間で両者を弾性的に連結する弾性支持部材4と、アウタ部材2とインナ部材3との間に配置されるマス部材5,5とを含んでなる。アウタ部材2、インナ部材3、マス部材5は炭素鋼等の金属製、弾性支持部材4は天然ゴム等のゴム製で、上記牽引装置では、アウタ部材2が牽引リンクの端部に連結され、インナ部材3が、牽引リンクの一端側では車体側の中心ピンに、他端側では台車にそれぞれ連結される。
【0010】
インナ部材3は、図3に示すように、アウタ部材2の内側に位置して上下に一対の平行な平坦面7,7を備えた横断面長円状の中央部6と、アウタ部材2から左右外側に突出し、前後に貫通する透孔9,9を備えた横断面四角形状の連結部8,8とからなる。但し、中央部6はアウタ部材2よりも軸方向にやや長く形成されて、左右両端をアウタ部材2よりも外側に突出させている。
弾性支持部材4は、アウタ部材2の内周面とインナ部材3の外周面とに接着されているが、インナ部材3の中央部6の平坦面7,7に対向する上下の内周面には接着されておらず、平坦面7,7の上下に薄肉状に接着されている。よって、弾性支持部材4の上下には、左右両端が軸方向に貫通する2つの空隙部10,10が、インナ部材3の中央部6を中心とした点対称位置に形成される。
マス部材5は、平坦面7と平行な上下辺を有する横断面横長矩形状の板状体で、上下の空隙部10,10内にそれぞれ配置される。上側の空隙部10では、アウタ部材2の内周面の上側に接着される振動部材11の下面に接着されて弾性支持部材4と非接触で吊り下げ支持され、下側の空隙部10では、アウタ部材2の内周面の下側に接着される振動部材11の上面に接着されて弾性支持部材4と非接触で持ち上げ支持されている。振動部材11は弾性支持部材4と同じ材料で形成されている。
【0011】
また、マス部材5も、アウタ部材2よりも軸方向にやや長く(但し、インナ部材3の中央部6よりも短い)形成されて、左右両端をアウタ部材2よりも外側に突出させており、上下及び前後の中央部分には、左右方向に貫通する取付孔12が形成されている。
マス部材5の左右両端には、一対の環状プレート13,13が取り付けられている。この環状プレート13は、外径がアウタ部材2の内径よりも小さく、内径がインナ部材3の中央部6の円形部分の外径よりも大きい円形の外形状を有し、内周縁における中央部6の平坦面7,7に対向する上下部位は、平坦面7と平行な直線となって径方向の幅が大きい幅広部14,14をそれぞれ形成している。この幅広部14,14に、マス部材5,5の取付孔12,12に左右方向でオーバーラップする小孔16を備えた半円状の取付片15,15がそれぞれ対向状に突設されている。
【0012】
ここでは右側の環状プレート13の上下において、それぞれボルト17,17を取付片15,15の小孔16,16及びマス部材5,5の取付孔12,12に貫通させて、左側の環状プレート13の取付片15,15の小孔16,16から突出させた端部にナット18,18を締結することで、左右の環状プレート13,13は上下のマス部材5,5と一体に連結される。
こうしてアウタ部材2とインナ部材3との間には、ボルト17及びナット18を含む左右の環状プレート13,13と共に上下のマス部材5,5を振動部材11,11で弾性支持するダイナミックダンパ20が形成される。このダイナミックダンパ20の固有振動数は、環状プレート13の厚みや材質等の選択によって設定できる。
環状プレート13が1つのマス部材5にのみ連結されると、環状プレート13が振り子のように揺動してしまい、ダイナミックダンパの機能が低下するが、ここでは環状プレート13が上下2つのマス部材5,5に連結されているので、振幅が安定し、一定方向からの振動に好適に対応可能となる。
【0013】
以上の如く構成されたゴムブッシュ1においては、前述のようにアウタ部材2が牽引リンクの端部に、インナ部材3の連結部8,8が台車にそれぞれ連結される取付状態では、台車に発生する振動が弾性支持部材4によって減衰される。特に、ダイナミックダンパ20では、牽引リンクからインナ部材3へ前後方向に入力される振動に対し、特定周波数で共振するように固有振動数を設定すれば、ダイナミックダンパ20における振動部材11とマス部材5と環状プレート13との同時振動により、アウタ部材2から車体側への振動を絶縁することができる。ここでは弾性支持部材4に空隙部10,10が形成されていても、上下に配置されて振動の入力方向である前後方向と一致していないため、空隙部10,10の影響はなく、弾性支持部材4による緩衝機能は損なわれない。
【0014】
このように、上記形態のゴムブッシュ1によれば、筒状のアウタ部材2と、アウタ部材2の内側に配置される軸状のインナ部材3と、アウタ部材2とインナ部材3とを互いに連結すると共に、アウタ部材2の周方向の上下2箇所に空隙部10,10を有する弾性支持部材4と、弾性支持部材4の空隙部10,10に配置され、ダイナミックダンパ20を構成するマス部材5と、を含んでなることで、本来の機能である弾性支持機能、牽引機能、緩衝機能を低下させることなく、省スペースでダイナミックダンパ20が設置可能となる。
【0015】
特にここでは、インナ部材3は、アウタ部材2と同軸上に配置されるので、空隙部10を除く全方向に弾性支持部材4が均等に配置され、力や振動の入力方向が変わっても弾性支持機能や緩衝機能等に偏りがなくなる。
また、空隙部10は、鉄道車両への取付状態で荷重が入力する方向を除いて配置されるので、空隙部10を設けても弾性支持機能や緩衝機能等を損なうことがない。
さらに、空隙部10は、アウタ部材2の軸方向に貫通しているので、空隙部10が広く確保できてマス部材5の形状の設計自由度が高まる上、マス部材5の取付や取り外しも容易に行える。
【0016】
一方、マス部材5は、振動部材11を介してアウタ部材2に固定されているので、空隙部10内でダイナミックダンパ20をコンパクトに形成可能となる。
また、振動部材11を、弾性支持部材4と同一材料としているので、ゴムブッシュ1が低コストで製造可能となる。
さらに、空隙部10及びマス部材5は、複数(ここではインナ部材3を中心とした点対称位置に2つ)配置されているので、ダイナミックダンパ20による振動の絶縁性能が良好となる。
加えて、マス部材5は、アウタ部材2の軸方向に伸びて形成されているので、必要な質量が確保しやすくなる。
【0017】
そして、マス部材5に、アウタ部材2と同軸上に位置する環状プレート13が取り付けられていることで、環状プレート13の質量や形状の選択により、対応する固有振動数が容易に調整可能となる。
また、環状プレート13は、アウタ部材2の軸方向外側に配置されていることで、環状プレート13の取付や取り外しがしやすくなる。
さらに、環状プレート13は、アウタ部材2の軸方向でマス部材5の両端部にそれぞれ取り付けられているので、マス部材5が振動部材11から剥離したり、振動部材11がアウタ部材2から剥離したりしても、両端の環状プレート13,13によって落下が防止される。
加えて、インナ部材3とマス部材5との互いの対向面はそれぞれ平坦面7となっているので、空隙部10を広くしてマス部材5を配置するスペースを確保することができる。
【0018】
なお、環状プレートは、上記形態に限らず、厚みを変えたり、取り付ける枚数を増やしたりしても差し支えない。外形も円形に限らず、長円形や楕円形、多角形等も採用できる。環状プレートの外径をアウタ部材の内径より大きくしたり当該内径と等しくしたりしてもよい。また、環状プレートは、全周に亘って分断されないループ状に限らず、部分的に分断されるC字状であってもよい。
さらに、環状プレートは、弾性支持部材の左右の長さによってはアウタ部材の軸方向内側に収まる大きさとしてアウタ部材の軸方向内側に配置することもできる。質量や形状がそれぞれ異なる環状プレートを左右別々に取り付けることもできる。
加えて、左右両端に環状プレートを一対設ける上記形態に限らず、左右何れか一方にのみ取り付けてもよい。環状プレートの取付構造も、1本のボルトでなく、左右それぞれ異なるボルトをマス部材にねじ込むことで左右別々に着脱可能としてもよい。このような場合、マス部材の取付孔は貫通させずに有底のネジ孔等としてもよい。
【0019】
但し、ゴムブッシュにおいて環状プレートは必須ではなく、図4に示すゴムブッシュ1Aのように、上下のマス部材5,5と振動部材11,11のみでダイナミックダンパ20A,20Aを構成することもできる。この場合、各マス部材5の取付孔12は省略してもよいし、取付孔を利用して質量が異なるブロック状や板状の別のマス部材を着脱可能としてもよい。
【0020】
一方、空隙部でのマス部材の配設形態も上記形態に限らず、図5に示すゴムブッシュ1Bのように、振動部材11と弾性支持部材4とがアウタ部材2の内周面で繋がるようにしてもよい。このように振動部材11を弾性支持部材4と部分的に繋がる形状とすれば、製造工程も合理化でき、短時間で製造可能となる。この場合も環状プレート13の形状を変えたり省略したり等、先の形態と同じ変更が可能である。
また、これと逆に、振動部材を弾性支持部材と異なる材料で成型しても差し支えない。ゴムに限らず、コイルバネ等で振動部材を形成することも可能である。
さらに、空隙部の数も上記形態に限らず、荷重の入力方向と異なっていれば数を増やしたり、周方向の長さを長くしたりしてもよい。図6に示すゴムブッシュ1Cのように、空隙部10を1つのみ設けて、この空隙部10内に配置される1つのマス部材5と振動部材11とでダイナミックダンパ20Bを構成することもできる。
加えて、空隙部を広く取れればインナ部材とマス部材との対向面は平坦面とせず、インナ部材の横断面を円形にしたりしてもよい。マス部材の横断面形状も矩形状以外に、正方形や円形、長円形や楕円形、多角形等、適宜変更可能である。
また、マス部材は、アウタ部材よりも軸方向に長くなる上記形態に限らず、アウタ部材よりも軸方向に短くしたり、アウタ部材と軸方向に同じ長さとしたりしてもよい。
【0021】
図7は、インナ部材、マス部材、振動部材の形状を変更した一例を示すもので、このゴムブッシュ1Dでは、インナ部材3の前後面を平坦面とし、中央部6の上下面に、軸方向に伸びる横断面半円状の凹部30,30をそれぞれ形成している。また、上下のマス部材5,5における凹部30,30との対向面に、凹部30側に膨出する横断面半円形の凸部31,31をそれぞれ形成している。一方、空隙部10,10を、アウタ部材2の径方向外側へ行くに従って周方向の幅が広くなるように拡開状に形成し、振動部材11,11も同様にアウタ部材2の径方向外側へ行くに従って周方向の幅が広くなるように拡開状に形成されている。
このようにインナ部材3側に凹部30を、マス部材5に凹部30側に突出する凸部31をそれぞれ設ければ、空隙部10内でのマス部材5の形状を大きく確保できる。振動部材11もアウタ部材2側の幅が広くなることで、接着面積を広く確保できる。
なお、この変更例でも空隙部の数は増減してもよいし、凹部と凸部との形状を変更したりしてもよい。インナ部材の横断面形状における上下と前後の寸法は同じとしてもよいし、何れか一方を他方よりも長くしてもよい。インナ部材の前後面を先の形態のように半円形としてもよい。勿論マス部材に環状プレートを連結してもよい。
【0022】
その他、各例において、荷重の入力方向に応じて空隙部の位置が入力方向と異なる位置に変更されることは当然である。
インナ部材も、軸状に限らず、周方向の全周で繋がる筒状としてもよいし、横断面が半円状や円弧状となる複数の部材を組み合わせたり、横断面C字状の部材を用いたりすることで、周方向の一部が部分的に分断された筒状としてもよい。
アウタ部材とインナ部材との軸心同士が僅かにずれる構造であっても必要な緩衝機能が得られれば許容できる。インナ部材をアウタ部材の軸心に対して大きく偏心して配置してもよい。
また、インナ部材の両端がアウタ部材から突出する上記形態に限らず、インナ部材がアウタ部材よりも軸方向に短い形態や、同じ長さの形態であってもよい。この場合、インナ部材を円筒状としてその内側に別の軸部材を挿入してもよい。
そして、ゴムブッシュの設置位置も、1本の牽引リンクに用いられる場合に限らず、例えば先の特許文献1に記載されるように、鉄道車両の車体において、車体とモータとの間に介在させたりることも可能である。
【符号の説明】
【0023】
1,1A,1B,1C,1D・・鉄道車両用ゴムブッシュ、2・・アウタ部材、3・・インナ部材、4・・弾性支持部材、5・・マス部材、6・・中央部、7・・平坦面、8・・連結部、10・・空隙部、11・・振動部材、12・・取付孔、13・・環状プレート、17・・ボルト,18・・ナット、20,20A,20B・・ダイナミックダンパ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7