(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】掘削底面監視システム
(51)【国際特許分類】
E02D 23/08 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
E02D23/08 C
E02D23/08 F
(21)【出願番号】P 2019093177
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祟
(72)【発明者】
【氏名】木下 勇人
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-200013(JP,A)
【文献】特開昭61-257535(JP,A)
【文献】特開2018-155619(JP,A)
【文献】特開2017-082463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定開始時刻から測定終了時刻までのケーソンの沈下量を取得する沈下量取得部と、
前記ケーソンの底版に設置され、掘削底面までの距離を測定する測距部と、
前記測定開始時刻から前記測定終了時刻までの前記距離の変化量を、前記沈下量で補正することにより、前記掘削底面の変形情報を取得する掘削底面取得部と、
前記変形情報に基づいて前記掘削底面に異常が発生しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部が異常発生を検知したときに異常を報知する警報発生部とを備えることを特徴とする掘削底面監視システム。
【請求項2】
前記測距部が2次元センサであることを特徴とする請求項1に記載の掘削底面監視システム。
【請求項3】
前記測距部の測定方向を調整する回転装置を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削底面監視システム。
【請求項4】
前記測距部を複数備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の掘削底面監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーソン工法における掘削底面監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ケーソン工法においては、ケーソン底版下の作業空間を地下水圧と同等の高気圧にして掘削作業および排土作業を行うことにより、作業空間への浸水等を防止する。高気圧環境下での作業による作業者の負担を軽減するため、掘削にあたっては、ケーソン底版に設置した掘削機を遠隔操作することが望ましく、さらに掘削状況についても遠隔管理できることが望ましい。
【0003】
掘削状況を遠隔管理するための技術として、例えば特許文献1には、ケーソン刃口の受ける地盤反力の指標として、土砂の掘り残し部の形状を監視する発明が開示されている。特許文献1のケーソン沈設管理システムは、ケーソン底版の下面に設けられた測距装置により、ケーソンの刃口近傍の堀り残し部の法面までの距離を測定し、ケーソンの平面図形と、堀り残しの法面までの距離に基づいて算出される堀り残し部の形状とを併せて表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
掘削状況の管理においては、地盤反力の管理だけでなく、掘削底面の形状変化に基づく異常の検知も重要である。このような異常の代表としては、例えば、地下水の上向きの圧力により掘削底面が隆起してしまう、いわゆる盤ぶくれが挙げられる。
【0006】
盤ぶくれが生じた場合、ケーソン底版と掘削底面とが接近する。しかし、盤ぶくれが生じた場合だけでなく、ケーソン自体の沈下が進行した場合も、同様にケーソン底版と掘削底面とが接近する。よって、ケーソン底版と掘削底面との距離が縮まったという情報だけでは、盤ぶくれの発生と、ケーソンの沈下を区別することは難しい。よって、特許文献1のようにケーソン底版と掘削底面との距離を測る方法では、盤ぶくれの発生を検知することが困難である。
【0007】
以上を踏まえ、本発明は、ケーソンの沈下の有無に関わらず、掘削底面の異常を検知する掘削底面監視システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るケーソン工法における掘削底面監視システムは、測定開始時刻から測定終了時刻までのケーソンの沈下量を取得する沈下量取得部と、前記ケーソンの底版に設置され、掘削底面までの距離を測定する測距部と、前記測定開始時刻から前記測定終了時刻までの前記距離の変化量を、前記沈下量で補正することにより、前記掘削底面の変形情報を取得する掘削底面取得部と、前記変形情報に基づいて前記掘削底面に異常が発生しているか否かを判定する判定部と、前記判定部が異常発生を検知したときに異常を報知する警報発生部とを備える。
かかる掘削底面監視システムによれば、ケーソンの沈下の有無に関わらず、ケーソンの掘削底面の変形を精度良く取得できるので、当該変形から異常を検知して、異常を報知することができる。
【0009】
さらに、本発明に係る掘削底面監視システムは、前記測距部が2次元センサであることが好ましい。
かかる掘削底面監視システムによれば、システム構築のコストを低減させつつ測距部から掘削底面までの距離を測距することができる。
【0010】
さらに、本発明に係る掘削底面監視システムは、前記測距部の測定方向を調整する回転装置を備えることが好ましい。
かかる掘削底面監視システムによれば、測定方向を変更しながら測距を行うことで、掘削底面までの測距の漏れを少なくすることが可能となる。
【0011】
さらに、本発明に係る掘削底面監視システムは、前記測距部を複数備えることが好ましい。
かかる掘削底面監視システムによれば、一つの測距部では掘削機等に阻まれて測距できない場所であっても、当該場所を測定可能な別の測距部で測距することができるため、障害物のある作業空間内であっても測距の漏れを少なくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の掘削底面監視システムは、ケーソンの沈下の有無に関わらず、掘削底面の異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3A】測定開始時刻における、掘削底面が正常な場合のケーソンの作業空間の断面図である。
【
図3B】測定終了時刻における、掘削底面に盤ぶくれが生じている場合のケーソンの作業空間の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。
【0015】
図1に本実施形態の掘削底面監視システム10のブロック図を示す。
掘削底面監視システム10は、沈下量取得部11と、測距部12と、掘削底面取得部13と、判定部14と、警報発生部15とを備えている。掘削底面監視システム10は、掘削底面までの距離の変化量をケーソンの沈下量で補正することにより、掘削底面G(
図2参照)の変形情報を取得して、当該変形情報から異常を検知したときに異常を報知する。
【0016】
沈下量取得部11は、測定開始時刻T1から測定終了時刻T2までにおけるケーソンの沈下量を取得し、掘削底面取得部13に送信する。沈下量取得部11は、ケーソンの沈下量を取得できる装置であれば特に限定されないが、例えばケーソンの任意の位置にGPS(Global Positioning System)等の測位システムの受信機を設置し、自動的にケーソンの沈下量を取得できるようにすることが好ましい。沈下量を自動取得することは、作業員を監視作業から開放することができるだけでなく、夜間等の休工時においても沈下量を把握できる点でも好適である。また、沈下量取得部11は、ケーソンの周方向に、複数箇所設置されていることが好ましい。複数箇所に設置されることで、ケーソンの傾斜が検出できる。つまり、複数箇所の沈下量取得部11で取得した沈下量が一定であればケーソンはまっすぐ沈下しており、沈下量にばらつきがあればケーソンは傾斜していると判断できる。
【0017】
その他の沈下量測定の手段として、ケーソンの地上側端面(上面)に箱尺を設置し、ケーソン外の定点から定時観測することにより、ケーソンがある期間にどれだけ沈下したのかを取得する方法も挙げられる。このように作業者が目視で沈下量を測定して、沈下量取得部11に沈下量を入力する方法でも、沈下量の取得を実現できる。このような方式によれば、自動化はできないものの、簡便に沈下量を取得できる。
【0018】
測距部12は、ケーソン底版から懸架され、掘削底面G上の複数箇所について、測距部12との距離を取得し、掘削底面取得部13に送信する。測距部12は、距離を光学的に測距できるレーザセンサ(レーザスキャナ)であれば特に限定されないが、2次元センサであることが好ましい。2次元センサは3次元センサよりも安価であるため掘削底面監視システム10のコストを低減させることができ、かつ、
図2で後述する回転装置120と組み合わせることで全方位の測距も可能である。測距部12の測距の方式は位相差検出方式でも、TOF(Time of Flight)方式でも、三角測距方式でも、その他の方式でもよい。
【0019】
上記のように、測距部12で取得可能な情報は、掘削底面Gまでの距離である。そのため、測距部12だけでは、掘削底面Gまでの距離が縮まった場合、掘削底面G全体が盛り上がったのか、ケーソン自体が沈下したのかの区別が難しく、掘削底面Gの変形情報の取得が困難である。そこで、本実施形態では、掘削底面Gの変形情報の取得のために、掘削底面取得部13を設ける。
【0020】
掘削底面取得部13は、測定開始時刻T1における測距部12から掘削底面Gまでの距離と、測定終了時刻T2における測距部12から掘削底面Gまでの距離とを測距部12から取得し、測定開始時刻T1における距離と測定終了時刻T2における距離との変化量を算出する。掘削底面取得部13は、この変化量を、沈下量取得部11から取得したケーソンの沈下量で補正することにより、掘削底面Gの変形情報を取得し、当該変形情報を判定部14に送信する。
【0021】
補正の方法としては様々な方式が可能だが、例えば、ケーソンがまっすぐに沈下していると仮定するのであれば、掘削底面Gまでの距離の鉛直方向の変化量をケーソンの沈下量で減算することにより、掘削底面Gの変形情報を取得することができる。
【0022】
沈下量取得部11により、ケーソンの傾斜発生が検知されていた場合は、例えばケーソンの所定の複数の基準点に対して座標変換を行い、ケーソンの傾斜の具体的な方向や角度等を算出して、当該方向や角度等に基づいた補正を行うことができる。
【0023】
判定部14は、掘削底面取得部13から掘削底面Gの変形情報を取得し、当該変形情報が異常か否かを判定する。
判定内容は種々考えられるが、例えば、変形情報において、掘削底面Gと測距部12との距離の減少量が所定の閾値以上になった場合は、掘削底面Gに盤ぶくれが生じている可能性がある。一方、上記距離の増加量が所定の閾値以上になった場合は、地下水等の要因でケーソンに浮き上がりが生じている可能性がある。このように、掘削底面Gと測距部12との距離の変化量が所定の範囲を超えていた場合は、判定部14は掘削底面Gに異常が発生していると判定し、警報発生部15に異常発生を送信する。
なお、掘削底面Gの盤ぶくれについては後述の
図3A、
図3Bで図解する。
【0024】
警報発生部15は、判定部14から異常発生を受信した場合、警報を報知する。報知手段は、作業者の注意喚起を促せる手段であれば特に限定されず、回転灯、サイレン等の既存の技術が使用できる。また、異常発生時には、作業者の携帯端末に異常発生を知らせるメール等を送信することが好ましい。このように警報を報知することにより、作業時間外に異常が発生した場合であっても、作業者に迅速に異常を報知することができる。
【0025】
判定部14が警報発生部15に異常発生を送信する際に、掘削底面Gの変形情報から推測された異常の内容を付与し、警報発生部15は報知する警報に当該異常の内容を含めることが好ましい。このように、警報に異常の内容を含めることで、作業者の状況把握が迅速になり、異常への素早い対処が可能となる。
【0026】
図2に本実施形態のケーソンの断面図を示す。本実施形態のケーソンは、ケーソン底版とケーソン刃口と掘削底面Gに囲まれた作業空間を備える。この作業空間内には、底版の走行部を移動する1台以上の掘削機2と、1台以上の回転装置120と、回転装置120によって回動される1台以上の測距部12とが設置されている。そして、掘削機2を用いて掘削底面Gを掘削することにより、ケーソン自身を沈下させる。なお、2台目以降の掘削機2、回転装置120、測距部12については
図2では描画を省略している。
【0027】
回転装置120と測距部12はケーソン底版から懸架されている。回転装置120は、ケーソン底版の仮面に垂直な回転軸を中心に回動する回転板を備えている。回転装置120は、この回転板に固定されている。なお、
図2ではケーソン底版と測距部12との間に回転装置120が設置されているように描写されているが回転装置120と測距部12のレイアウトはこれに限れない。回転装置120と測距部12がケーソン底版に設置され、かつ、回転装置120が測距部12を回動させることができる態様であれば他のレイアウトも可能である。
【0028】
このように、測距部12は、回転装置120によってケーソンの底版の下面に垂直な軸まわりに回動されることが好ましい。回動範囲に制限はないが、360度回動されることがより好ましい。測距部12が回動されることにより、測距の漏れ(死角)を少なくすることができる。回転装置120は、測距部12を回動させることができる装置であれば特に限定されず、ターンテーブル型でも、揺動型でもよく、その他の型でもよい。例えば、ステッピングモーター駆動のターンテーブルは、回転量や速度を高精度に制御可能なため、回転装置120として好適である。
【0029】
また、測距部12はケーソンの底版の複数箇所に設けられることが好ましい。測距部12を複数設けることにより、掘削機2等が測距部12のレーザを遮っても、別の測距部12が掘削機2等の影を測定することができるため、測距の死角の発生を抑制できる。
このように、測距部12がケーソン底版の複数箇所に設けられ、さらに回動されることにより、掘削機2等が停止している休工時であっても、掘削底面の監視を死角の発生を少なくしつつ行うことが可能となる。
【0030】
図3Aと
図3Bとの比較により、掘削底面Gの盤ぶくれによる変形を示す。
図3Aに、測定開始時刻T1における、掘削底面Gが正常な場合のケーソンの作業空間の断面図を示す。距離d1は、測距部12から正常な掘削底面Gの測定点Pまでの距離を示す。
図3Bに、測定終了時刻T2における、掘削底面Gに盤ぶくれが生じている場合のケーソンの作業空間の断面図を示す。距離d2は、盤ぶくれが生じた掘削底面Gの測定点Pまでの距離を示す。
図3Aの測定点Pと
図3Bの測定点Pは掘削底面G上の同一の位置を示す。
【0031】
図3A、
図3Bの他の構成については
図2と同様である。なお、
図3Aに示す測定開始時刻T1から
図3Bに示す測定終了時刻T2までの間に、ケーソンの沈下は進行していないものとする。
【0032】
測距部12は、測定開始時刻T1に距離d1を、測定終了時刻T2に距離d2を、掘削底面取得部13に送信する。このとき、ケーソンの沈下は進行していないため、掘削底面取得部13は、距離d1と距離d2の差分を変形情報として判定部14に送信する。距離d1と距離d2の差分から、測距部12と掘削底面Gとの距離の減少量が所定の閾値以上であると判定した判定部14は、警報発生部15に異常発生を送信する。警報発生部15は、回転灯、サイレンで作業現場に異常を報知し、また、作業者の携帯端末にもメール等で異常を報知する。
【0033】
このように、本実施形態の掘削底面監視システムによれば、ケーソン底版に設置された測距部から掘削底面までの距離の変化量を、ケーソンの沈下量で補正することにより、掘削底面の変形を取得し、当該変形から掘採底面に発生した異常を検知することができる。
また、本実施形態の掘削底面監視システムによれば、作業者が施工現場から離れている休工時を含めて、常に、測定の盲点の発生を抑制しつつ掘削底面の監視を行うことができる。さらに、掘削底面に異常があった場合は警報が報知されるので、作業者は常時掘削底面の状態を監視する必要がなく、また、休工時であっても迅速に異常を察知し対応することができる。
【0034】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜追加や変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
G 掘削底面
10 掘削底面監視システム
11 沈下量取得部
12 測距部
13 掘削底面取得部
14 判定部
15 警報発生部