(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定方法および航走体
(51)【国際特許分類】
G01C 21/12 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G01C21/12
(21)【出願番号】P 2019136118
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】彌城 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
(72)【発明者】
【氏名】真島 浩
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】網谷 和之
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148607(JP,A)
【文献】特開2010-107307(JP,A)
【文献】特開2017-105306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
B60W 10/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航走体の現在位置を推定する位置推定装置であって、
前記航走体が有するセンサおよび慣性航法装置からそれぞれ出力される規定タイミングの到来時毎の実センサ情報および位置算出結果を記憶するよう構成される第1記憶部と、
前記実センサ情報との照合により位置特定を行うための参照センサ情報が位置座標に関連付けられた地図情報を記憶するよう構成される第2記憶部と、
前記現在位置の推定時を含む複数回の前記規定タイミングの到来時の各々における前記位置算出結果に基づく推定位置の時系列をそれぞれ示す複数の候補経路を生成するよう構成される候補経路生成部と、
前記複数の候補経路がそれぞれ有する複数の前記推定位置の各々における、前記地図情報に基づいて得られる前記参照センサ情報の時系列および前記実センサ情報の時系列に基づいて、前記複数の候補経路の各々の確からしさの評価値を算出するよう構成される評価値算出部と、
前記複数の候補経路の各々の前記評価値に基づいて前記現在位置を特定するよう構成される位置特定部と、を備えることを特徴とする位置推定装置。
【請求項2】
前記評価値算出部は、
前記候補経路の前記参照センサ情報の時系列を取得する第1取得部と、
前記候補経路の前記実センサ情報の時系列を取得する第2取得部と、
取得された前記参照センサ情報の時系列と前記実センサ情報の時系列との比較に基づいて算出される誤差の時系列である誤差列を算出する誤差列算出部と、
前記誤差列に基づいて前記評価値を算出する評価部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記候補経路生成部は、
前記現在位置の候補となる複数の候補位置を取得する候補位置取得部と、
前記複数の候補位置の各々から、規定回数前までの前記規定タイミングの到来時の各々における前記推定位置をそれぞれ算出することにより、前記複数の候補経路を算出する候補経路算出部と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記候補経路生成部は、
前記候補経路を取得する候補経路取得部と、
取得された前記候補経路に基づいて、新たな前記候補経路を算出する生成部と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記候補経路生成部は、
前記複数回の前記規定タイミングの到来時の各々において、それぞれ、所定数の前記推定位置を抽出する候推定位置抽出部と、
抽出された各々の前記規定タイミングの到来時毎の前記所定数の推定位置を総当たりで組み合わせることで、前記複数の候補経路を生成する組合せ部と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の位置推定装置。
【請求項6】
慣性航法により航走体の位置を算出する慣性航法装置と、
少なくとも1つのセンサと、
前記
慣性航法装置による位置算出結果、および前記少なくとも1つのセンサにより検出された検出情報である実センサ情報に基づいて、前記航走体の現在位置を推定する請求項1~5のいずれか1項に記載の位置推定装置と、
前記位置推定装置によって推定された前記現在位置に基づいて前記航走体の航走を制御する航走制御装置と、を備えることを特徴とする航走体。
【請求項7】
航走体の現在位置を推定する位置推定方法であって、
前記航走体が有するセンサおよび慣性航法装置からそれぞれ出力される規定タイミングの到来時毎の実センサ情報および位置算出結果を記憶する第1記憶ステップと、
前記実センサ情報との照合により位置特定を行うための参照センサ情報が位置座標に関連付けられた地図情報を記憶する第2記憶ステップと、
前記現在位置の推定時を含む複数回の前記規定タイミングの到来時の各々における前記位置算出結果に基づく推定位置の時系列をそれぞれ示す複数の候補経路を生成する候補経路生成ステップと、
前記複数の候補経路がそれぞれ有する複数の前記推定位置の各々における、前記地図情報に基づいて得られる前記参照センサ情報の時系列および前記実センサ情報の時系列に基づいて、前記複数の候補経路の各々の確からしさの評価値を算出する評価値算出ステップと、
前記複数の候補経路の各々の前記評価値に基づいて前記現在位置を特定する位置特定ステップと、を備えることを特徴とする位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航走体の位置推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
慣性航法装置(INS:Inertial Navigation System)は、慣性力の積分に基づいて自己位置を推定するが、慣性航法装置のみでの推定位置は、積分誤差のために真の位置から次第にずれていく。このため、従来から、慣性航法装置およびGPS(Global Positioning System)を用いて現在の自己位置を推定する方法が知られている(例えば特許文献1~2)。しかし、GPSを用いる場合には、GPS信号が届かない例えば水中など領域を航走する場合や、GPS信号の受信が妨害されるような場合など、GPSが利用できない場合もある。
【0003】
このような場合には、慣性航法装置およびマップマッチング技術を用いて自己位置を推定する手法の適用が考えられる(例えば特許文献3)。マップマッチング技術では、走領域の各位置(座標)における高度や重力ポテンシャル、風景等の外部環境情報を予め記録した(関連付けた)地図を用意しておく。そして、実際の位置において高度計、重力計、カメラ等のセンサ(計測器)を使用して検出した情報と地図情報とを照合(マッチング)し、自己位置を推定する。この地図は、事前に利用可能に用意しておくので、GPS等の外部信号が使用できない場合でも、現地においてセンサを用いて検出した検出情報と地図情報との照合結果によって、慣性航法装置で算出された位置(INS位置)の算出結果(推定結果)を補正し、自己位置の推定精度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-91294号公報
【文献】特開平9-119843号公報
【文献】特開2006-78286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、マップマッチング技術では地図上の情報(参照情報)と、現地での自己推定時におけるセンサによる計測値等(検出情報)とを照合して自己位置を推定するが、参照情報あるいは検出情報の変化が乏しい領域(平坦な地形等)を航走する場合には、その近傍領域のどの位置にいるかの判別は困難である。そればかりか、マップマッチングによる結果が、上記の平坦な地形を航走しているなどの理由でずれた位置を示す場合もあり、このような場合に慣性航法装置による推定位置をマップマッチングの結果で補正すると、逆に誤差の拡大の要因にもなり得る。このような課題に対して、分解能の高いセンサを用いることで、微小な差異も判別してマップマッチングを行うことも考えられるが、コストが多大となる。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、GPSを用いることなく、平坦な地形を航走する場合であっても位置の推定精度を高めることが可能な位置推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る位置推定装置は、
航走体の現在位置を推定する位置推定装置であって、
前記航走体が有するセンサおよび慣性航法装置からそれぞれ出力される規定タイミングの到来時毎の実センサ情報および位置算出結果を記憶するよう構成される第1記憶部と、
前記実センサ情報との照合により位置特定を行うための参照センサ情報が位置座標に関連付けられた地図情報を記憶するよう構成される第2記憶部と、
前記現在位置の推定時を含む複数回の前記規定タイミングの到来時の各々における前記位置算出結果に基づく推定位置の時系列をそれぞれ示す複数の候補経路を生成するよう構成される候補経路生成部と、
前記複数の候補経路がそれぞれ有する複数の前記推定位置の各々における、前記地図情報に基づいて得られる前記参照センサ情報の時系列および前記実センサ情報の時系列に基づいて、前記複数の候補経路の各々の確からしさの評価値を算出するよう構成される評価値算出部と、
前記複数の候補経路の各々の前記評価値に基づいて前記現在位置を特定するよう構成される位置特定部と、を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、航走体が通過した可能性のある複数の候補経路を、慣性航法による位置算出結果から得られる規定タイミングの到来時毎の複数の候補位置のいずれかを選択して時系列で並べるなどして生成する。こうして生成した各候補経路を地図情報と照合することで、各候補経路を航走体が通過した場合に得られるはずのセンサ情報(参照センサ情報)の時系列を得ると共に、この参照センサ情報の時系列と推定時刻などの規定タイミングを同じくする実センサ情報の時系列とを比較することで、誤差列を算出するなどして、各候補経路の確からしさを評価する。そして、この評価値が最も高い候補経路に含まれる最新の位置を現在位置とするなどして、現在位置を特定(推定)する。
【0009】
換言すれば、航走体の現在位置を、実際に測定等により検出された複数の規定タイミングの到来時における実センサ情報を期待値として、現在位置の推定時の参照センサ情報の一致度のみならず、さらに1回以上遡った規定タイミングの到来時おける参照センサ情報との一致度を考慮して、実センサ情報の時系列と一致度の高い候補経路に基づいて航走体7の現在位置を推定する。このように、慣性航法に基づいて生成した複数の候補経路の各位置に対応した実センサ情報と参照センサ情報との比較を通して、候補経路の全体と地図情報とのマッチングを行うことで、GPSを用いることなく、航走体の現在位置を適切に推定することができる。
【0010】
また、慣性航法による位置算出結果(後述するINS位置)をマップマッチング技術により補正する場合には、地図情報(参照センサ情報)とセンサによる検出情報とを照合して自己位置を推定するが、参照センサ情報の変化が乏しい(平坦な地形等)領域を航走する場合、その照合による位置の絞り込みは困難であるが、上述したように候補経路の生成を通して推定を行うことで、平坦な地形等の領域に途中から航走体が進入したとしても、わずかな起伏を検出可能な高精度の計測器を用いることなく、より高い精度で現在位置を推定することができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記評価値算出部は、
前記候補経路の前記参照センサ情報の時系列を取得する第1取得部と、
前記候補経路の前記実センサ情報の時系列を取得する第2取得部と、
取得された前記参照センサ情報の時系列と前記実センサ情報の時系列との比較に基づいて算出される誤差の時系列である誤差列を算出する誤差列算出部と、
前記誤差列に基づいて前記評価値を算出する評価部と、を有する。
【0012】
上記(2)の構成によれば、複数の候補経路について、それぞれ、候補経路を航走体が通った場合の参照センサ情報の時系列を地図情報に基づいて取得し、実際の計測等の検出により得られた実センサ情報の時系列と比較することで誤差列を算出する。そして、各候補経路の評価値を、航走体の航走時に実際に検出された実センサ情報の時系列との比較により得られる誤差列に基づいて算出する。これによって、誤差列における誤差が小さいほど評価値が高くなるなど、実センサ情報の時系列との比較に基づく誤差に応じて、評価値を適切に算出することができる。よって、実際の実センサ情報の時系列に合うような確度の高い候補経路を選択することができ、現在位置を適切に推定することができる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記候補経路生成部は、
前記現在位置の候補となる複数の候補位置を取得する候補位置取得部と、
前記複数の候補位置の各々から、規定回数前までの前記規定タイミングの到来時の各々における前記推定位置をそれぞれ算出することにより、前記複数の候補経路を算出する候補経路算出部と、を有する。
【0014】
上記(3)の構成によれば、例えば慣性航法装置により得られる推定位置の範囲にある複数の候補位置の各々について、それぞれ、例えば状態遷移行列などを用いて、過去の規定タイミングの到来時の位置を遡るようにすることにより、複数の候補位置の各々に対応した複数の候補経路を算出する。これによって、複数の適切な候補経路を生成することができる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記候補経路生成部は、
前記候補経路を取得する候補経路取得部と、
取得された前記候補経路に基づいて、新たな前記候補経路を算出する生成部と、を有する。
【0016】
上記(4)の構成によれば、入力されるなどして取得した候補経路に基づいて、例えば誤差が小さくなるような新たな候補経路を算出する。これによって、複数の候補経路を適切に生成することができる。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記候補経路生成部は、
前記複数回の前記規定タイミングの到来時の各々において、それぞれ、所定数の前記推定位置を抽出する候推定位置抽出部と、
抽出された各々の前記規定タイミングの到来時毎の前記所定数の推定位置を総当たりで組み合わせることで、前記複数の候補経路を生成する組合せ部と、を有する。
【0018】
上記(5)の構成によれば、例えば複数の規定タイミングの到来時の各々における航走体の位置として可能性のある全ての推定位置を抽出すると共に、抽出した各規定タイミングの到来時毎の複数の推定位置同士の総当たりにより候補経路Rsを生成することで、想定される全ての候補経路Rsを網羅的に生成することもできる。
【0019】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係る航走体は、
慣性航法により航走体の位置を算出する慣性航法装置と、
少なくとも1つのセンサと、
前記慣性航走装置による位置算出結果、および前記少なくとも1つのセンサにより検出された検出情報である実センサ情報に基づいて、前記航走体の現在位置を推定する上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の位置推定装置と、
前記位置推定装置によって推定された前記現在位置に基づいて前記航走体の航走を制御する航走制御装置と、を備える。
上記(6)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0020】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係る位置推定方法は、
航走体の現在位置を推定する位置推定方法であって、
前記航走体が有するセンサおよび慣性航法装置からそれぞれ出力される規定タイミングの到来時毎の実センサ情報および位置算出結果を記憶する第1記憶ステップと、
前記実センサ情報との照合により位置特定を行うための参照センサ情報が位置座標に関連付けられた地図情報を記憶する第2記憶ステップと、
前記現在位置の推定時を含む複数回の前記規定タイミングの到来時の各々における前記位置算出結果に基づく推定位置の時系列をそれぞれ示す複数の候補経路を生成する候補経路生成ステップと、
前記複数の候補経路がそれぞれ有する複数の前記推定位置の各々における、前記地図情報に基づいて得られる前記参照センサ情報の時系列および前記実センサ情報の時系列に基づいて、前記複数の候補経路の各々の確からしさの評価値を算出する評価値算出ステップと、
前記複数の候補経路の各々の前記評価値に基づいて前記現在位置を特定する位置特定ステップと、を備える。
上記(7)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、GPSを用いることなく、平坦な地形を航走する場合であっても位置の推定精度を高めることが可能な位置推定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る位置推定装置の機能を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る位置推定装置を備える航走体の航走時の状況を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る候補経路生成部の機能を示すブロック図であり、候補位置に基づいて候補経路を生成する。
【
図4】本発明の一実施形態に係る候補経路生成部の機能を示すブロック図であり、候補経路に基づいて新たな候補経路を生成する。
【
図5】本発明の一実施形態に係る候補経路生成部の機能を示すブロック図であり、推定位置の総当たりにより新たな候補経路を生成する。
【
図6】本発明の一実施形態に係る位置推定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る位置推定装置1の機能を概略的に示す図である。また、
図2は、本発明の一実施形態に係る位置推定装置1を備える航走体7の航走時の状況を示す図である。
【0025】
位置推定装置1は、所望の航路を無人または有人で航走可能な航走体7の現在位置Pcを推定するための装置である。航走体7は、例えば潜水艦、自律型無人潜水機(AUV:Autonomou Underwater Vehicle)、空中を飛翔する飛翔体などである。
図1に示すように、航走体7は、上記の位置推定装置1と、慣性航法により航走体7の位置を算出する慣性航法装置8(INS:Inertial Navigation System)と、例えば高度計や重力計、周辺の風景を撮影可能なカメラが有する撮像センサ(例えばCMOSセンサ)など、マップマッチングによる現在位置Pcの推定(補正)に利用可能な、例えば高度や重力、周辺の風景などの少なくとも1種類の外部環境情報を検出するための少なくとも1種類(
図1では複数種類)のセンサ7sと、航走体7の航走を制御する航走制御装置9と、を備える。
【0026】
この航走体7においては、
図2に示すように、例えば周期的などの規定タイミングが到来した際の慣性航法装置8による位置算出結果(以下、INS位置Pb)、および航走体7が備える1以上のセンサ7sの少なくとも一部(
図1では全部)によるセンシング対象(高度、重量など)の検出結果が蓄積される。そして、位置推定装置1は、規定タイミングが到来する度に、上記の蓄積された慣性航法装置8による位置算出結果、および少なくとも1つのセンサ7sによる検出結果を用いて、その際の航走体7の位置である現在位置Pcの推定を実行するように構成される。また、航走制御装置9は、位置推定装置1から得られる現在位置Pcを確認しながら、予め定められた航路(既定航路)などを航走体7が航走するように航走を制御する。
【0027】
図1~
図2に示す実施形態では、航走体7はAUVであり、水中を無人で潜水航走する。なお、航走体7は人が操縦しても良く、この場合には既定航路を航走しても良いし、現在位置Pcを確認しながら任意の航路を航走しても良い。また、慣性航法装置8は、上記のセンサ7sの検出結果を利用して位置の算出を行っても良い。
【0028】
以下、位置推定装置1について、詳細に説明する。
図1に示すように、位置推定装置1は、第1記憶部2aと、第2記憶部2bと、候補経路生成部3と、評価値算出部4と、位置特定部5と、を備える。位置推定装置1が備える上記の機能部について、それぞれ説明する。
【0029】
なお、位置推定装置1は、コンピュータで構成されても良く、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリや外部記憶装置などとなる記憶装置mを備えている。そして、メモリ(主記憶装置)にロードされたプログラム(位置推定プログラム)の命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、位置推定装置1が備える上記の各機能部を実現する。換言すれば、上記の位置推定プログラムは、コンピュータに後述する各機能部を実現させるためのソフトウェアであり、コンピュータによる読み込みが可能な記憶媒体に記憶されても良い。
【0030】
第1記憶部2aは、航走体7が有する1以上のセンサ7sおよび慣性航法装置8からそれぞれ出力される、規定タイミングの到来時毎のセンサ7sによる検出情報(以下、実センサ情報St)および慣性航法装置8による航走体7の位置の算出結果を記憶するよう構成される記憶部である。規定タイミングは例えば周期的なタイミングであり、
図2に示すように、規定タイミングが到来する度に、その到来時におけるセンサ7sによるセンシング対象の検出結果(検出値など)である検出情報が実センサ情報Stとして第1記憶部2aに記憶される。例えば、航走体7が複数種類のセンサ7sを備える場合には、規定タイミングの到来時毎の実センサ情報Stは、航走体7が備える全てのセンサ7sによる複数種類の検出情報を含んでも良いし、全てのセンサ7sの少なくとも一部のセンサ7sによる1種類以上の検出情報を含んでも良い。同様に、規定タイミングが到来する度に、その到来時における慣性航法装置8によるINS位置Pb(位置算出結果)が第1記憶部2aに記憶される。
【0031】
また、第1記憶部2aには、最新のものから規定回数Nの前までの各規定タイミングの到来時における実センサ情報StおよびINS位置Pbが、時系列が分かるような状態で記憶される。具体的には、各実センサ情報Stが、検出時刻、あるいは規定タイミングの到来時を識別するための序数などの識別情報が時系列情報Tと共に記憶されても良い。また、上記の規定回数Nは、航走体7が自己位置の推定を開始してから到来した規定タイミングの到来数よりも少ない数である。
図1に示す実施形態では、第1記憶部2aは、位置推定装置1が備える記憶装置mの既定の記憶領域に形成されており、外部情報取得部6が、規定タイミングが到来する度に、最新の実センサ情報StおよびINS位置Pbを取得して、時系列情報Tと共に第1記憶部2aに記憶するようになっている。
【0032】
第2記憶部2bは、上述した各実センサ情報Stとの照合により位置特定を行うための参照センサ情報Srが位置座標に関連付けられた地図情報Mを記憶するよう構成される記憶部である。参照センサ情報Srは、1種類以上の外部環境情報を事前に検出した検出情報である。また、地図情報Mは、航走体7の航路を含む所定地域に仮想的に設定した座標系(2次元または3次元)の各座標に参照センサ情報Srを関連付けた情報である。つまり、地図情報Mの任意の座標を参照すれば、その座標で得られるべき高度や重力といった外部環境情報がわかる。よって、航走体7のセンサ7sで検出するセンシング対象と同種類の外部環境情報が参照センサ情報Srに含まれるのを前提に、実センサ情報Stと地図情報Mの参照センサ情報Srとを照合する(マップマッチング)ことで、自己位置の特定(推定)が可能である。すなわち、実センサ情報Stと一致すると言えるような参照センサ情報Srを有する地図情報M上の座標が自己位置である可能性が高い。
図1に示す実施形態では、第2記憶部2bは、位置推定装置1が備える記憶装置mの既定の記憶領域に形成されている。
【0033】
候補経路生成部3は、現在位置Pcの推定時を含む複数回(2以上)の規定タイミングの到来時の各々における、慣性航法装置8の位置算出結果に基づく推定位置Peの時系列をそれぞれ示す複数の候補経路Rsを生成するよう構成される機能部である。候補経路Rsは、現在位置Pcの候補位置Psおよび、現在位置Pcの推定時から規定回数Nだけ前の各規定タイミングの到来時における航走体7の推定位置Peを含む。つまり、候補経路Rsは、上記の複数回(N+1回)の規定タイミングの到来時の各々における推定位置Peの時系列が分かる情報である。
【0034】
慣性航法装置8(慣性航法)により算出される位置には積分誤差があるため、航走体7の実際の位置は、INS位置Pbおよびその積分誤差を考慮した範囲内のいずれかの座標である可能性がある。つまり、慣性航法装置8による位置算出結果に基づいて、INS位置Pbに加えて、INS位置Pbを中心とした誤差半径の円(
図2の破線円)で囲われるような誤差範囲Aeの内側にある複数の推定位置Peが得られる。よって、各候補経路Rsは、複数の規定タイミングの到来時の各々における誤差範囲Aeから1つずつ選択された位置座標を時系列で並べることで、候補経路Rsが生成可能である。
【0035】
そして、後述するように、複数の候補経路Rsの中から1つの候補経路Rsが最も確からしいものとして選択されると共に、選択された候補経路Rsにおける候補位置Ps(時系列で最新の位置)が現在位置Pcとして推定される。この複数の候補経路Rsの具体的な生成手法については後述する。なお、上記の誤差半径は、慣性航法装置8の仕様(カタログスペックなど)に基づいて定めても良い。また、
図2のtiは、規定タイミングのi番目の到来時(推定時刻など)を示すが、上記の積分誤差は推定回数が増えるほど大きくなり、誤差範囲Ae(破線円の面積)は時間の経過(t
1<t
2<t
3)と共に大きくなる。
【0036】
評価値算出部4は、複数の候補経路Rsがそれぞれ有する複数の推定位置Peの各々における、上記の地図情報Mに基づく参照センサ情報Srの時系列(以下、参照センサ時系列Cr)および実センサ情報Stの時系列(以下、実センサ時系列Ct)に基づいて、複数の候補経路Rsの各々の確からしさの評価値Vを算出するよう構成される機能部である。より具体的には、幾つかの実施形態では、
図1に示すように、評価値算出部4は、入力などされた候補経路Rsの参照センサ時系列Crを取得する第1取得部41と、この候補経路Rsの実センサ時系列Ctを取得する第2取得部42と、第1取得部41および第2取得部42によってそれぞれ取得された参照センサ時系列Crと実センサ時系列Ctとの比較に基づいて算出される誤差Eの時系列である誤差列Ceを算出する誤差列算出部43と、この誤差列算出部43によって算出された誤差列Ceに基づいて評価値Vを算出する評価部44と、を有しても良い。
【0037】
既に説明した通り、各候補経路Rsは、複数回の規定タイミングの到来時の各々における推定位置Peの時系列の情報を含む。よって、任意の候補経路Rsが有する複数の推定位置Peの各々における参照センサ情報Srを地図情報Mから取得して時系列に並べることで、その候補経路Rsに対応した参照センサ時系列Crが得られる。同様に、任意の候補経路Rsが有する複数の推定位置Peの各々の推定時刻などが一致する実センサ情報Stを第1記憶部2aから取得して時系列に並べることで、その候補経路Rsに対応した実センサ時系列Ctが得られる。そして、各候補経路Rsで得られる参照センサ時系列Crと実センサ時系列Ctとを比較することで、各推定位置Pe(各規定タイミング)における誤差Eを算出し、その誤差Eを時系列に並べることで誤差列Ceが得られる。
【0038】
この各推定位置Peでの誤差Eは、実センサ情報Stが1種類の検出情報のみを含む場合には、候補経路Rsに含まれる各推定位置Peにおける実センサ情報Stと参照センサ情報Srとの差などの差異の演算値であっても良い。他方、実センサ情報Stが複数種類の検出情報を含む場合には、各推定位置Peでの誤差Eは、各推定位置Peにおける実センサ情報Stと参照センサ情報Srとのセンシング対象の種類毎の差異を、その種類の違いを調整するための係数で調整するなどした上で加算などした演算値であっても良い。この係数は、センシング対象の種類毎に全て同じであっても良い。
【0039】
そして、評価値算出部4は、この誤差列Ceに基づいて、各候補経路Rsの評価値Vを算出する。具体的には、この評価値Vは、誤差列Ceに含まれる各推定位置Peの誤差Eを合計するなどして、算出しても良い。各推定位置Peの誤差に重み付け係数を乗算して合計しても良い。この場合、評価値Vは誤差が大きいほど大きくなるので、誤差列Ceにおける誤差Eの合計の逆数を算出するなどすることで、評価値Vの値は確からしさが高いほど大きくなるように算出されても良い。なお、逆に、評価値Vの値は確からしさが高いほど小さくなるように算出されても良い。
【0040】
位置特定部5は、複数の候補経路Rsの各々の評価値Vに基づいて現在位置Pcを特定するよう構成される機能部である。本実施形態では、評価値Vが高い候補経路Rsほど確からしいので、複数の候補経路Rsのうちから例えば評価値Vが最も高い候補経路Rsを選択し、選択した候補経路Rsの最新の推定位置Peを現在位置Pcとして特定する。
【0041】
図1に示す実施形態では、候補経路生成部3と評価値算出部4とが接続されており、候補経路生成部3が推定した複数の候補経路Rsが評価値算出部4に入力されるようになっている。評価値算出部4において、第1取得部41が、候補経路生成部3から入力される各候補経路Rsの有する複数の推定位置Peの各々に対応する参照センサ情報Srを第2記憶部2bから取得し、これらの参照センサ情報Srの時系列が分かるように記憶することで、参照センサ時系列Crを取得する。同様に、第2取得部42が、候補経路生成部3から入力される各候補経路Rsの有する複数の推定位置Peの各々に対応する実センサ情報Stを第1記憶部2aから取得し、これらの実センサ情報Stの時系列が分かるように記憶することで、実センサ時系列Ctを取得する。こうして得られた、1つの候補経路Rsについて参照センサ時系列Crおよび実センサ時系列Ctが、第1取得部41および第2取得部42に接続された誤差列算出部43に入力されて誤差列Ceが算出される。この誤差列算出部43は評価部44に接続されており、評価部44において、誤差列算出部43から入力された誤差列Ceの評価値Vが、確からしさが高いほど大きくなるように算出される。これによって、各候補経路Rsの評価値Vを適切に算出することが可能となる。
【0042】
上記の構成によれば、航走体7が通過した可能性のある複数の候補経路Rsを、慣性航法による位置算出結果から得られる規定タイミングの到来時毎の複数の候補位置のいずれかを選択して時系列で並べるなどして生成する。こうして生成した各候補経路Rsを地図情報と照合することで、各候補経路Rsを航走体7が通過した場合に得られるはずのセンサ情報の時系列(参照センサ時系列Cr)を得ると共に、この参照センサ時系列Crと推定時刻などの規定タイミングを同じくする実センサ時系列Ctとを比較することで、誤差列Ceを算出するなどして、各候補経路Rsの確からしさを評価する。そして、この評価値Vが最も高い候補経路Rsに含まれる最新の位置を現在位置とするなどして、現在位置を特定(推定)する。
【0043】
換言すれば、航走体7の現在位置Pcを、実際に測定等により検出された複数の規定タイミングの到来時における実センサ情報Stを期待値として、現在位置の推定時の参照センサ情報Srの一致度のみならず、さらに1回以上遡った規定タイミングの到来時おける参照センサ情報Srとの一致度を考慮して、実センサ情報Stの時系列と一致度の高い候補経路Rsに基づいて航走体7の現在位置Pcを推定する。このように、慣性航法に基づいて生成した複数の候補経路の各位置に対応した実センサ情報Stと参照センサ情報Srとの比較を通して、候補経路Rsの全体と地図情報Mとのマッチングを行うことで、GPSを用いることなく、航走体7の現在位置Pcを適切に推定することができる。
【0044】
また、慣性航法による位置算出結果(INS位置Pb)をマップマッチング技術により補正する場合には、地図情報M(参照センサ情報Sr)とセンサ7sによる検出情報とを照合して自己位置を推定するが、参照センサ情報Srの変化が乏しい(平坦な地形等)領域を航走する場合、その照合による位置の絞り込みは困難であるが、上述したように候補経路Rsの生成を通して推定を行うことで、平坦な地形等の領域に途中から航走体7が進入したとしても、わずかな起伏を検出可能な高精度の計測器を用いることなく、より高い精度で現在位置を推定することができる。
【0045】
次に、上述した候補経路生成部3による複数の候補経路Rsの生成手法に関する幾つかの実施形態について、
図3~
図5を用いて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る候補経路生成部3の機能を示すブロック図であり、候補位置Psに基づいて候補経路を生成する。
図4は、本発明の一実施形態に係る候補経路生成部3の機能を示すブロック図であり、候補経路Rsに基づいて新たな候補経路Rsを生成する。また、
図5は、本発明の一実施形態に係る候補経路生成部3の機能を示すブロック図であり、推定位置Peの総当たりにより新たな候補経路Rsを生成する。
【0046】
幾つかの実施形態では、
図3に示すように、候補経路生成部3は、現在位置Pcの候補となる複数の候補位置Psを取得する候補位置取得部31と、複数の候補位置Psの各々から、規定回数N前までの規定タイミングの到来時の各々における推定位置Peをそれぞれ算出することにより、複数の候補経路Rsを算出する候補経路算出部32と、を有しても良い。既に説明したように、慣性航法装置8による位置算出結果から、INS位置Pbを中心とした誤差範囲Aeに航走体7が存在する可能性が見いだせる。よって、候補位置取得部31は、現在位置Pcの推定時における慣性航法装置8の位置算出結果の誤差範囲Ae内に含まれる少なくとも一部の位置座標をそれぞれ候補位置Psとする。すなわち、候補位置Psは、慣性航法装置8から出力されたINS位置Pbと、記憶装置mなどに記憶された誤差の仕様に基づく誤差半径と、地図情報Mとを重ね合わせことにより得られる全ての位置座標のうちから抽出される。
【0047】
また、候補経路算出部32は、候補位置取得部31によって取得された複数の候補位置Psの各々を終点とする1以上の候補経路Rsを算出する。
より具体的には、幾つかの実施形態では、候補経路Rsの生成にあたって、任意の推定位置Peから1つ前の規定タイミングの到来時における推定位置Peを算出可能な状態遷移行列Mtを用いても良い。この場合、任意の候補位置Psを初期位置として、この初期位置から状態遷移行列Mtにより規定タイミングの到来時における位置(推定位置Pe)を過去に順番に遡るようにして算出することで、候補経路Rsを生成しても良い。これによって、初期位置である候補位置Psを終点とする候補経路Rsを生成することが可能である。
【0048】
この状態遷移行列Mtは、航走体7の位置と、その位置における速度や進行方向、航走体7の重量などの航走時の条件から次はどこにいるか(状態遷移)を算出することが可能な行列である。状態遷移行列Mtはカルマンフィルタや、MHE(Moving Horizon Estimation)であっても良い。例えば、状態遷移行列Mtの逆行列と推定位置Peとを行列演算(Mt-1×Pe)することで、その推定位置Peの1つ前の規定タイミングの到来時における位置座標を求めることが可能である。
【0049】
よって、複数の候補位置Ps(初期位置)について、それぞれ、候補位置Psおよび状態遷移行列Mtを用いて、候補位置Psから1つ前の規定タイミングの到来時における推定位置Peを求める。さらに、求めた推定位置Peおよび状態遷移行列Mtを用いて、さらに1つ前の規定タイミングの到来時における推定位置Peを求める。このような状態遷移行列Mtを用いた行列演算を規定回数Nだけ繰り返すことで、規定回数Nの前までの規定タイミングの到来時の各々における推定位置Peを求めることで、任意の候補位置Psに対応する候補経路Rsを得ることが可能となる。
【0050】
この実施形態においては、最初に複数の候補位置Psを決めてから、候補位置Ps毎に状態遷移行列Mtを用いて候補経路Rsを生成しても良い。あるいは、慣性航法装置8による現在位置Pcの推定時における例えばINS位置Pbなど、1つの候補位置Psのみを決めて、この候補位置Psに対応する候補経路Rsを作成した後、次の候補位置Psを決めるということを終了条件が満たされるまで繰り返すことで、複数の候補経路Rsを生成しても良い。この終了条件が満たされる場合は、例えば、生成した候補経路Rsの誤差列Ceを算出し、誤差列Ceの評価値Vが閾値を下回った場合や、所定数Lの候補経路Rsを生成した場合であっても良い。また、次の候補位置Psを決定するにあたっては、後述するような所定のアルゴリズムを用いても良い。これによって、複数の適切な候補経路Rsを生成することができる。
【0051】
他の幾つかの実施形態では、
図4に示すように、任意の候補経路Rsを初期経路から候補経路Rsの生成を開始し、上述したような終了条件が満たされるまで、所定のアルゴリズムにより次の候補経路Rsを作成し、これを繰り返すことで複数の候補経路Rsを生成しても良い。例えば、現在位置Pcの推定時のINS位置Pb、およびそこから規定回数Nだけ前の規定タイミングの到来時の各々におけるINS位置Pbの時系列を候補経路Rsの初期経路として開始しても良い。また、上記の所定のアルゴリズムとして遺伝的アルゴリズムや内点法、ニュートン法等の最適化アルゴリズムなどを用いることにより、評価値Vが最大となるように候補経路Rsを作成することが可能となる。
【0052】
図4に示す実施形態では、候補経路生成部3は、任意の候補経路Rsを取得する候補経路取得部33と、候補経路取得部33によって取得された候補経路Rsに基づいて、新たな候補経路Rs´を算出する生成部34と、を有する。つまり、本実施形態の候補経路生成部3は、1つの候補経路Rsが入力されると、この入力された1つの候補経路Rsに対応した参照センサ時系列Crおよび実センサ時系列Ctを求めて誤差列Ceを算出すると共に、入力された1つの候補経路Rsから上記の所定のアルゴリズムを用いて、求めた誤差列Ceに基づく評価値Vが最小となるように、新たな候補経路Rs´を生成する。
【0053】
このような候補経路生成部3に対して初期値となる候補経路Rsを入力すれば新たな候補経路Rs´が生成できるので、生成された新たな候補経路Rs´を候補経路生成部3に再度入力するといったことを、上述したような終了条件が満たされるまで繰り返せば、複数の候補経路Rsが得られる。
図4に示す実施形態では、初期経路となる候補経路RsはINS位置Pbの時系列であり、この初期経路を候補経路生成部3および評価値算出部4にそれぞれ入力し、その結果得られた新たな候補経路Rs´および評価値Vが記憶される。この際、終了条件を満たさない場合には、この生成された新たな候補経路Rs´が候補経路取得部33に入力されて、次の新たな候補経路Rsが生成された後、評価値算出部4による評価値Vが行われ、記憶される。これを終了条件が満たされるまで繰り返すことで、複数の候補経路Rsが生成される。これによって、複数の適切な候補経路Rsを生成することができる。
【0054】
その他の幾つかの実施形態では、
図5に示すように、候補経路生成部3は、複数回の規定タイミングの到来時の各々において、それぞれ、慣性航法装置8の位置算出結果に基づいて得られる全ての推定位置Peのうちから所定数の推定位置Peを抽出する候推定位置抽出部35と、候推定位置抽出部35によって抽出された各々の規定タイミングの到来時の所定数の推定位置Peを総当たりで組み合わせることで、複数の候補経路Rsを生成する組合せ部36と、を有しても良い。なお、複数の候補経路Rsが有する推定位置Peの全ては慣性航法装置8による推定により求められた推定位置Peであり、全ての候補経路Rsはいずれも実際に航走体7が通過した可能性のある経路である。
【0055】
つまり、現在位置Pcの推定時および、そこから規定回数Nだけ前の各々の規定タイミングの到来時におけるINS位置Pbを中心とする誤差範囲Ae内から1以上の所定数の位置座標をそれぞれ抽出する。i番目(i=1、2、・・・、N、N+1)の規定タイミングの到来時において抽出された推定位置Peの数をniで表すと、生成される候補経路Rsの総数は、n1×n2×・・・×nN+1となる。この際、例えばniを、慣性航法装置8の位置算出結果に基づいて得られる全ての推定位置Peとすれば、航走体7の位置として可能性のある全ての候補経路Rsを生成される。
【0056】
図5に示す実施形態では、候推定位置抽出部35が、複数回の規定タイミングの到来時の各々から、それぞれ所定数の推定位置Peを抽出した後、規定タイミング毎の推定位置Peのグループがどの規定タイミングでのものか判別可能なように時系列情報Tと関連付けた状態で、組合せ部36に入力するようになっている。ただし、本実施形態に本発明は限定されない。他の幾つかの実施形態では、例えば、複数の規定タイミングの各々の到来時におけるINS位置Pbの時系列で構成される候補経路Rsを初期経路とし、この初期経路の任意の推定位置Peを、慣性航法装置8による誤差範囲内において、既に生成した候補経路Rsと全体として一致することがないように任意に変えることで、新たな候補経路Rsを生成しても良い。上述したような所定のアルゴリズムを用いて新たな候補経路を生成しても良い。そして、終了条件がみたされるまで、この候補経路Rsの生成を行っても良い。
【0057】
これによって、例えば複数の規定タイミングの到来時の各々における航走体7の位置として可能性のある全ての推定位置Peを抽出ると共に、抽出した各規定タイミングの到来時毎の複数の推定位置Pe同士の総当たりにより候補経路Rsを生成することで、想定される全ての候補経路Rsを網羅的に生成することもできる。
【0058】
以下、上述した位置推定装置1に対応した位置推定方法を、
図6を用いて説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る位置推定方法を示す図である。
【0059】
位置推定方法は、航走体7の現在位置Pcを推定する方法である。
図6に示すように、位置推定方法は、第1記憶ステップ(S2)と、第2記憶ステップ(S1)と、候補経路生成ステップ(S4)と、評価値算出ステップ(S5)と、位置特定ステップ(S6)と、を備える。位置推定方法を
図6のフローに従って説明する。なお、以下で説明するステップS2~S6は、規定タイミングが到来する度に実行される。
【0060】
図6のステップS1において、第2記憶ステップを実行する。第2記憶ステップは、上述した地図情報Mを記憶するステップである。本ステップは、地図情報Mを利用可能に準備するステップであり、航走体7の航走開始前など事前に第1記憶部2aに記憶する。
【0061】
図6のステップS2において、第1記憶ステップを実行する。第1記憶ステップは、規定タイミングの到来時毎の上述した実センサ情報Stおよび慣性航法装置8による位置算出結果を記憶するステップである。例えば、周期的に到来する規定タイミングの到来時に検出された実センサ情報St、および慣性航法装置8により算出されたINS位置Pbを取得し、第2記憶部2bに記憶する。
【0062】
図6のステップS4において、候補経路生成ステップを実行する。候補経路生成ステップは、上述した複数の候補経路Rsを生成するステップである。この候補経路生成ステップは、既に説明した候補経路生成部3が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。なお、候補経路生成ステップは、規定タイミングが規定回数Nよりも多く到来することで、第1記憶ステップの実行により記憶された実センサ情報Stの数が規定回数Nよりも多くなった後(ステップS3でYes)に実行される。
【0063】
図6のステップS5において、評価値算出ステップを実行する。評価値算出ステップは、上述した複数の候補経路Rsを生成するステップである。この候補経路生成ステップは、複数の候補経路Rsがそれぞれ有する複数の推定位置Peの各々における、上記の地図情報Mに基づく参照センサ時系列Crおよび実センサ時系列Ctに基づいて、複数の候補経路Rsの各々の確からしさの評価値Vを算出するステップである。評価値算出ステップは、既に説明した評価値算出部4が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0064】
図6のステップS6において、位置特定ステップを実行する。位置特定ステップは、複数の候補経路Rsの各々の評価値Vに基づいて現在位置Pcを特定するステップである。この位置特定ステップは、既に説明した位置特定部5が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0065】
図6に示す実施形態では、航走体7が備える記憶装置mに地図情報Mを事前に第2記憶部2bに記憶しておく。その後、航走体7の航走が開始されると、ステップS2において、規定タイミングが到来する度に、その到来時の実センサ情報StおよびINS位置Pbを第1記憶部2aに記憶する。そして、ステップS3において、実センサ情報Stの数を確認し、その数が規定回数Nを超えた場合に、ステップS4以降を実行する。
【0066】
ステップS4では、複数の候補経路Rsを生成し、ステップS5において、複数の候補経路Rsの各々の評価値Vを、各候補経路Rsの参照センサ時系列Crおよび実センサ時系列Ctに基づいて算出する。具体的には、誤差列Ceを算出し、その誤差列Ceを構成する誤差Eの合計を評価値Vとして算出しても良い。そして、ステップS6において、ステップS5で算出された複数の候補経路Rsの各々の評価値Vに基づいて現在位置Pcを特定し、航走体7の位置推定結果とする。その後、ステップS6で得られた位置推定結果が航走制御装置9に送信される。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0068】
1 位置推定装置
2a 第1記憶部
2b 第2記憶部
3 候補経路生成部
31 候補位置取得部
32 候補経路算出部
33 候補経路取得部
34 生成部
35 候推定位置抽出部
36 組合せ部
4 評価値算出部
41 第1取得部
42 第2取得部
43 誤差列算出部
44 評価部
5 位置特定部
6 外部情報取得部
7 航走体
7s センサ
8 慣性航法装置
9 航走制御装置
Ct 実センサ時系列
Cr 参照センサ時系列
Ce 誤差列
E 誤差
V 評価値
M 地図情報
Mt 状態遷移行列
N 規定回数
Rs 候補経路
Pc 現在位置
Pe 推定位置
Ps 候補位置
Pb INS位置
Ae 誤差範囲(INS)
S センサ情報
Sr 参照センサ情報
St 実センサ情報
T 時系列情報
m 記憶装置