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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/54 20060101AFI20221110BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20221110BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20221110BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01T13/54
H01T13/32
F02P13/00 301J
F02B23/08 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019147709
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028892
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】青木 文明
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
(72)【発明者】
【氏名】寺田 金千代
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲也
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉田 俊
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214492(JP,A)
【文献】特開2012-199236(JP,A)
【文献】特開2019-021489(JP,A)
【文献】実開平06-026192(JP,U)
【文献】特開2013-073709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
F02B 23/08
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(3)と、
前記中心電極を内側に配した筒状の絶縁碍子(4)と、
前記絶縁碍子を保持するとともに、前記放電ギャップが配される副燃焼室(6)を囲むハウジング構造体(5)と、を備え、
前記ハウジング構造体には、外部部材(11)の雌ネジ穴(13)に螺合するための取付ネジ部(511)が形成されており、
前記接地電極の複数箇所は、前記取付ネジ部に支持されており
前記接地電極は、その延在方向に平行な回転軸(A)の回りに自転させることにより、少なくとも2つの姿勢(101、102、103、104)の間で姿勢を変化させることができ、
少なくとも2つの前記姿勢は、互いに前記放電ギャップの長さ(L1、L2、L3、L4)が異なる姿勢である、スパークプラグ(1)。
【請求項2】
前記接地電極は、前記接地電極の延在方向に直交する断面の面積が2.26mm2以下となる部位を有する、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記接地電極は、前記接地電極の延在方向に直交する断面の面積が0.64mm2以上、2.26mm2以下となる部位を有する、請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記接地電極は、前記ハウジング構造体に対して、脱着可能に支持されている、請求項1~のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、車両用エンジン、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いられる。特許文献1には、放電ギャップをプラグカバーで覆い、プラグカバーの内側に副燃焼室を形成したスパークプラグが開示されている。
【0003】
かかるスパークプラグにおいては、プラグカバーに形成した噴孔を介して内燃機関の燃焼室内の混合気を副燃焼室に導入すると共に、放電ギャップにおいて火花放電を行うことにより混合気に着火し、副燃焼室において火炎を発生させる。そして、噴孔から副燃焼室外の燃焼室に火炎ジェットを噴出させ、燃焼室全体に火炎を広げる。これにより、燃焼速度の大きい内燃機関を得ることができる。
【0004】
ここで、特許文献1に記載のスパークプラグにおいて、接地電極は、その一端のみがハウジングに接続された、いわゆる片持ち状態にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-159778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグにおいては、接地電極が片持ち状態であるため、接地電極の強度が低い。それゆえ、接地電極の強度を確保すべく、接地電極を太く形成する必要があるが、そうなると、副燃焼室内に生じた火炎の熱を接地電極が奪いやすく、副燃焼室内における火炎の成長が阻害され、着火性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、着火性を向上しやすいスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、中心電極(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(3)と、
前記中心電極を内側に配した筒状の絶縁碍子(4)と、
前記絶縁碍子を保持するとともに、前記放電ギャップが配される副燃焼室(6)を囲むハウジング構造体(5)と、を備え、
前記ハウジング構造体には、外部部材(11)の雌ネジ穴(13)に螺合するための取付ネジ部(511)が形成されており、
前記接地電極の複数箇所は、前記取付ネジ部に支持されており
前記接地電極は、その延在方向に平行な回転軸(A)の回りに自転させることにより、少なくとも2つの姿勢(101、102、103、104)の間で姿勢を変化させることができ、
少なくとも2つの前記姿勢は、互いに前記放電ギャップの長さ(L1、L2、L3、L4)が異なる姿勢である、スパークプラグ(1)にある。
【発明の効果】
【0009】
前記態様のスパークプラグにおいて、接地電極の複数箇所は、ハウジング構造体における取付ネジ部に支持されている。取付ネジ部は、外部部材の雌ネジ穴に螺合される部位である。ここで、取付ネジ部は、スパークプラグが外部部材に取り付けられた状態において、外部部材によって補強され、強度が高くなる部位である。そのため、かかる取付ネジ部に接地電極の複数箇所を支持させることで、接地電極の強度を高めやすい。それゆえ、接地電極の強度が過度に低下することなく、接地電極の断面積を小さくすることができる。これにより、接地電極の熱容量を小さくしやすく、副燃焼室内において火炎が成長する際に、接地電極が火炎から熱を奪い、火炎の成長を阻害することを抑制することができる。そのため、燃焼室内の混合気に対するスパークプラグの着火性を向上させることができる。
【0010】
以上のごとく、前記態様によれば着火性を向上しやすいスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1参考形態1における、スパークプラグ及びこれを取り付けた内燃機関の断面図。
図2図1の、II-II線矢視断面図。
図3参考形態1における、スパークプラグの側面図。
図4参考形態1における、接地電極を取り外したスパークプラグの断面図。
図5参考形態1における、接地電極の正面図。
図6参考形態1における、ハウジング構造体に対する接地電極の組付方法を説明するための図であって、接地電極がハウジングの外側に位置した状態を示す一部断面図。
図7参考形態1における、ハウジング構造体に対する接地電極の組付方法を説明するための図であって、接地電極の雄ネジ部がハウジング構造体の貫通孔の第二部位に当接した状態を示す一部断面図。
図8参考形態1における、ハウジング構造体に接地電極が組み付いた状態を示す一部断面図。
図9実施形態1における、スパークプラグの断面図。
図10図9の、Y-Y線矢視断面図。
図11実施形態1における、スパークプラグの側面図。
図12図9の、XII-XII線矢視断面図。
図13実施形態1における、ハウジング構造体に対する接地電極の組付方法を説明するための図であって、接地電極の回転姿勢を調整する様子を示す一部断面図。
図14実施形態1における、(a)第一姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(b)第二姿勢の接地電極と中心電極との断面図。
図15実施形態2における、(a)第一姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(b)第二姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(c)第三姿勢の接地電極と中心電極との断面図。
図16実施形態3における、接地電極の正面図。
図17図16の、XVII-XVII線矢視断面図。
図18実施形態3における、スパークプラグの側面図。
図19実施形態3における、(a)第一姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(b)第二姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(c)第三姿勢の接地電極と中心電極との断面図、(d)第四姿勢の接地電極と中心電極との断面図。
図20参考形態2における、スパークプラグの断面図。
図21】実験例における、両持ち接地電極及び壁部の断面図。
図22】実験例における、片持ち接地電極及び壁部の断面図。
図23図22の、XXIII-XXIII線矢視断面図。
図24】実験例における、一般的な片持ちの接地電極を備えるスパークプラグの模式的な断面図。
図25】実験例における、両持ち接地電極の強度及び暖まりやすさを示すためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
参考形態1
スパークプラグの参考形態につき、図1図8を用いて説明する。
図1図2に示すごとく、本形態のスパークプラグ1は、中心電極2と接地電極3と絶縁碍子4とハウジング構造体5とを備える。
【0013】
接地電極3は、中心電極2との間に放電ギャップGを形成する。絶縁碍子4は、筒状を呈しており、中心電極2を内側に配している。ハウジング構造体5は、絶縁碍子4を保持している。また、ハウジング構造体5は、放電ギャップGが配される副燃焼室6を囲んでいる。
【0014】
図1に示すごとく、ハウジング構造体5には、スパークプラグ1を取り付けるシリンダヘッド11の雌ネジ穴13に螺合するための取付ネジ部511が形成されている。接地電極3の複数箇所は、取付ネジ部511に支持されている。
以後、本形態につき詳説する。
【0015】
以後、スパークプラグ1の中心軸を、プラグ中心軸という。また、プラグ中心軸が延びる方向を、プラグ軸方向Xという。プラグ軸方向Xにおけるスパークプラグ1の副燃焼室6が位置する側(例えば、図1図3の上側)を先端側、その反対側(例えば、図1図3の下側)を基端側という。また、スパークプラグ1の径方向をプラグ径方向といい、スパークプラグ1の周方向をプラグ周方向という。
【0016】
スパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。スパークプラグ1の基端部は、図示しない点火コイルと接続され、スパークプラグ1の先端部は内燃機関の燃焼室100内に配される。
【0017】
ハウジング構造体5は、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金、ステンレス等の耐熱性金属材料からなる。図1図2に示すごとく、ハウジング構造体5は、先端部が閉塞された有底筒状に形成されている。ハウジング構造体5は、筒状の筒状部51と、筒状部51の先端の開口を覆う被覆部52とを備える。
【0018】
筒状部51は、円筒状に形成されている。筒状部51は、その内側に配された絶縁碍子4を保持している。図示は省略するが、筒状部51は、例えばパッキンを介して絶縁碍子4を保持することで、絶縁碍子4との間の気密性を確保している。
【0019】
図1に示すごとく、筒状部51の先端部には、スパークプラグ1を内燃機関のシリンダヘッド11のプラグホール12の雌ネジ穴13に螺合するための取付ネジ部511が形成されている。取付ネジ部511は、外周面にネジ山を備えるハウジング構造体5の壁部であり、プラグ径方向における、副燃焼室6に面する部位からハウジング構造体5の外周面までの領域を指す。スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられた状態において、スパークプラグ1における取付ネジ部511より先端側の部位は、燃焼室100に曝される。そして、筒状部51の先端部から被覆部52が形成されている。
【0020】
被覆部52は、被覆部52を貫通し、副燃焼室6をスパークプラグ1の外部の空間に連通する噴孔521が複数形成されている。図1に示すごとく、噴孔521は、スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられた状態において、燃焼室100内に突出するよう形成される。複数の噴孔521は、プラグ中心軸よりもプラグ径方向の外周側に配されている。複数の噴孔521は、プラグ周方向に等間隔に形成されている。各噴孔521は、プラグ軸方向Xの先端側へ向かうにつれてプラグ径方向の外周側に向かうよう傾斜して形成されている。なお、噴孔521の数、形状、配置箇所等は、要請に応じて適宜決定される。
【0021】
例えば、ハウジング構造体5は、絶縁碍子4を保持する筒状のハウジング本体部と、ハウジング本体部の先端に取り付けられ、本体部の先端側の開口を覆うカバー部とによって構成することが可能である。
【0022】
図1図4に示すごとく、ハウジング構造体5には、接地電極3を内側に挿入する貫通孔512及び凹部513が形成されている。貫通孔512は、ハウジング構造体5の筒状部51を構成する壁部を貫通するよう形成されている。本形態において、貫通孔512は、筒状部51の取付ネジ部511を構成する壁部をプラグ径方向に貫通するよう形成されている。貫通孔512は、後述の第一部位512aと第二部位512bとを備える。
【0023】
第一部位512aは、取付ネジ部511の外周面が内周側に向かって凹むよう形成されている。図3に示すごとく、第一部位512aは、外周側から見た形状が、円形である。
【0024】
図1図4に示すごとく、第二部位512bは、第一部位512aにおける外周側を向く面の略中央から副燃焼室6側に向かって形成されており、副燃焼室6に向かって開口するよう形成されている。第二部位512bは、第一部位512aよりも小径に形成されており、その内周面にネジが切られた雌ネジである。
【0025】
凹部513は、貫通孔512にプラグ径方向に対向する位置に形成されている。凹部513は、ハウジング構造体5の筒状部51の内周面が外周側に向かって凹むよう形成されている。凹部513には、ネジが切られていない。そして、接地電極3の一端が貫通孔512の第一部位512a及び第二部位512bに挿入されており、接地電極3の他端が凹部513に挿入されている。これにより、接地電極3は、両持ちの状態でハウジング構造体5に支持されている。なお、凹部513に雌ネジを設け、接地電極3の後述の雄ネジ部33を凹部513に螺合してもよい。
【0026】
接地電極3は、プラグ径方向に延在するよう形成されている。図1図5に示すごとく、接地電極3は、その延在方向の一方側から、突出部31、延在部32、及び雄ネジ部33を有する。
【0027】
突出部31は、接地電極3の端部に形成されており、延在部32よりも接地電極3の延在方向に直交する方向に突出するよう形成されている。図3に示すごとく、突出部31の外周面は、接地電極3の延在方向に直交する断面形状が、正六角形状を呈している。例えば、突出部31は、接地電極3の雄ネジ部33をハウジング構造体5の貫通孔512の第二部位512bに螺合する際の工具が係合される。なお、本形態は、工具を用いて接地電極3をハウジング構造体5に組み付けるものに限られない。また、以後、接地電極3に関して、単に断面といったときは、特に断らない限り、接地電極3の延在方向に直交する断面を意味するものとする。
【0028】
図1に示すごとく、延在部32は、プラグ径方向に延在するよう形成されている。図2に示すごとく、延在部32は、その断面形状が円形となるよう形成されている。延在部32は、その延在方向の各位置において、直径が0.9mm以上、1.7mm以下である。すなわち。延在部32は、その断面の面積が、0.64mm2以上、2.26mm2以下を満たす。プラグ中心軸を含むとともに接地電極3の延在方向に平行な断面(すなわち図1の断面)において、延在部32の幅(すなわちプラグ軸方向Zの長さ)は、取付ネジ部511の厚み(すなわち、取付ネジ部511の壁部の内周面から外周端までのプラグ径方向の長さ)よりも小さい。すなわち、接地電極3は、当該断面において、ハウジング構造体5における接地電極3を支持する部位(すなわち取付ネジ部511)の厚みよりも幅が小さい部分を有する。
【0029】
図1図5に示すごとく、雄ネジ部33は、外周面にネジが切られている。雄ネジ部33の外径は、延在部32よりも若干大きく、突出部31の外接円の外径よりも小さい。
【0030】
図1に示すごとく、接地電極3は、凹部513に雄ネジ部33を配し、貫通孔512の第一部位512aに突出部31、第二部位512bに延在部32の突出部31側の端部を配している。これにより、接地電極3の両端は、ハウジング構造体5における取付ネジ部511に支持されている。すなわち、接地電極3は、ハウジング構造体5から脱落しないようハウジング構造体5に配されていればよく、ハウジング構造体5に溶接等により固定されている必要はない。本形態において、接地電極3は、ハウジング構造体5に固着されてはおらず、ハウジング構造体5に脱着可能に取り付けられている。
【0031】
突出部31は、プラグ径方向において、貫通孔512の第一部位512aよりも小さい長さに形成されており、貫通孔512から外周側に突出しないよう第一部位512a内に収まっている。また、突出部31は、取付ネジ部511のネジ谷よりもスパークプラグ1の内周側に収まるよう配されている。延在部32は、第二部位512bよりも若干小さい径を有する。また、雄ネジ部33は、凹部513よりも若干小さい径を有し、凹部513内に挿入されている。雄ネジ部33は、一部が凹部513に当接しているが、凹部513に螺合や固着はされてはいない。なお、雄ネジ部33は、凹部513に螺合又は固着されていてもよい。
【0032】
図1図2に示すごとく、延在部32は、中心電極2の先端面21とプラグ軸方向Xに対向しており、中心電極2との間に放電ギャップGを形成している。
【0033】
中心電極2は、プラグ軸方向Xに延在する略円柱状に形成されている。中心電極2は、その中心軸をプラグ中心軸に一致させるよう形成されている。中心電極2は、絶縁碍子4の内側に挿入されて絶縁碍子4に保持されており、中心電極2の先端部を絶縁碍子4から突出させている。
【0034】
絶縁碍子4は、アルミナ等を筒状に形成してなる。絶縁碍子4は、ハウジング構造体5の筒状部51の内側に保持されている。
【0035】
次に、図6図8を用いて、ハウジング構造体5に接地電極3を組み付ける方法の一例につき説明する。
【0036】
まず、図6図7に示すごとく、ハウジング構造体5の貫通孔512に接地電極3を雄ネジ部33側から挿入し、雄ネジ部33を貫通孔512の第二部位512bに当接させる。そして、雄ネジ部33を、第二部位512bを貫通するまでねじ込む。そして、接地電極3を凹部513側に向かって移動させ、図8に示すごとく、雄ネジ部33側の端部を凹部513内に配置する。ここで、接地電極3は、雄ネジ部33の外径が貫通孔512の第二部位512bの最小内径よりも大きいため、貫通孔512から抜け落ちないようになっている。
以上のように、接地電極3がハウジング構造体5に組み付けられる。
【0037】
また、接地電極3からハウジング構造体5を取り外すときは、接地電極3をハウジング構造体5へ組み付ける工程を反対に行えばよい。
【0038】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態のスパークプラグ1において、接地電極3の複数箇所は、ハウジング構造体5における取付ネジ部511に支持されている。取付ネジ部511は、シリンダヘッド11のプラグホール12の雌ネジ穴13に螺合される部位である。ここで、取付ネジ部511は、スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられた状態において、シリンダヘッド11によって補強され、強度が高くなる部位である。そのため、かかる取付ネジ部511に接地電極3の複数箇所を支持させることで、接地電極3の強度を高めやすい。それゆえ、接地電極3の強度が過度に低下することなく、接地電極3の断面積を小さくすることができる。これにより、接地電極3の熱容量を小さくしやすく、副燃焼室6内において火炎が成長する際に、接地電極3が火炎から熱を奪い、火炎の成長を阻害することを抑制することができる。そのため、燃焼室内の混合気に対するスパークプラグ1の着火性を向上させることができる。さらに、接地電極3を細くすることにより、スパークプラグ1の軽量化を図りやすい。また、ハウジング構造体5における接地電極3を支持する部位の厚みを厚くする等しなくても接地電極3を強固に支持しやすく、全体としてスパークプラグ1の大型化を防止しやすい。
【0039】
また、接地電極3は、断面積が2.26mm2以下となる部位を有する。これにより、接地電極3の熱容量を小さくしやすく、副燃焼室6内において火炎が成長する際に、接地電極3が火炎から熱を奪い、火炎の成長を阻害することを抑制することができる。これにより、燃焼室100内の混合気に対するスパークプラグ1の着火性を向上させることができる。なお、この数値に関しては、後述する実験例にて裏付けられる。
【0040】
さらに、接地電極3は、断面の面積が0.64mm2以上、2.26mm2以下となる部位を有する。ここで、接地電極3は、細ければ細い程(すなわち断面積が小さい程)、熱容量が小さくなり、副燃焼室6内に形成される火炎の熱を奪いにくくなって着火性が向上する一方で、強度が低くなりやすい。反対に、接地電極3は、太ければ太い程(すなわち断面積が大きい程)、熱容量が大きくなり、副燃焼室6内に形成される火花の熱を奪いやすくなって着火性が低下する一方で、強度が高くなりやすい。そこで、接地電極3が、0.64mm2以上、2.26mm2以下の断面積となる部位を有することにより、強度を確保しながら着火性も向上させることができる。なお、この数値に関しては、後述する実験例にて裏付けられる。
【0041】
また、接地電極3は、ハウジング構造体5に対して、脱着可能に支持されている。それゆえ、スパークプラグ1において、接地電極3のみを交換することが可能となる。
【0042】
以上のごとく、本形態によれば着火性を向上しやすいスパークプラグを提供することができる。
【0043】
実施形態1
本形態は、図9図14に示すごとく、参考形態1に対して、接地電極3の形状及びハウジング構造体5の貫通孔512の第一部位512aの形状を変更した形態である。
【0044】
図10に示すごとく、接地電極3の延在部32は、その断面形状が多角形となるよう形成されている。本形態において、延在部32の断面形状は、正方形である。
【0045】
図11図12に示すごとく、突出部31の外周面は、その断面形状が正八角形状を呈している。
【0046】
図11図12に示すごとく、貫通孔512の第一部位512aは、突出部31の外周面に近接して沿うよう形成されている。すなわち、第一部位512aは、プラグ径方向に直交する断面形状が正八角形状を呈している。これにより、接地電極3は、ハウジング構造体5に取り付けられた状態において、プラグ径方向に延びる接地電極3の中心軸を中心に自転することが制限される。
【0047】
次に、図13図14を用いて、ハウジング構造体5に接地電極3を組み付ける方法の一例につき説明する。
【0048】
参考形態1と同様、接地電極3の雄ネジ部33を、第二部位512bを貫通するまでねじ込む。雄ネジ部33が第二部位512bを通過し、突出部31が第一部位512aの外側に配されている状態において、図13に示すごとく、接地電極3は、貫通孔512に対して自由に自転できる。
【0049】
かかる状態において、貫通孔512の第一部位512aに対する接地電極3の回転位置を、接地電極3をその延在方向に平行な回転軸(図14の符号A)の回りに自転させることで、適宜調整する。本形態において、図12に示すごとく、接地電極3の突出部31の外周面及び貫通孔512の第一部位512aは、その断面形状が正八角形状に形成されているため、第一部位512aに対する接地電極3の突出部31の回転姿勢を、360[°]÷8=45[°]置きに変更できる。これにより、ハウジング構造体5に対する接地電極3の回転姿勢を、45°置きに調整できる。
【0050】
これにより、図14に示すごとく、接地電極3は、互いに放電ギャップGの長さ(プラグ径方向における接地電極3の自転の回転軸Aの位置における、プラグ軸方向Xの接地電極3と中心電極2との間の距離)が異なる2つの姿勢を取り得る。
【0051】
まず、図14(a)に示すごとく、接地電極3は、延在部32の断面形状が、プラグ軸方向Xに対角線を有する正方形状となる第一姿勢101を取り得る。この姿勢においては、延在部32の角部32eが中心電極2の先端面21側を向くように配され、このように、周囲の電界強度が高い延在部32の角部32eを中心電極2側に向けることで、放電ギャップGに火花放電を生じさせるための要求電圧を小さくすることができる。
【0052】
また、図14(b)に示すごとく、接地電極3は、延在部32の断面形状が、プラグ軸方向Xに平行な正方形状となる第二姿勢102を取り得る。第二姿勢102において、延在部32は、基端側の面が中心電極2の先端面21にプラグ軸方向Xに対向する。
【0053】
第一姿勢101における延在部32と中心電極2の先端面21との間のプラグ軸方向Xの長さL1(すなわち放電ギャップGの長さ)は、第二姿勢102における延在部32と中心電極2の先端面21との間のプラグ軸方向Xの長さL2(すなわち放電ギャップGの長さ)よりも短い。
【0054】
そして、所望の放電ギャップGの長さを得るべく、図13に示すごとく、貫通孔512の第一部位512aに対する接地電極3の回転位置を、接地電極3をその延在方向に平行な回転軸Aの回りに自転させ、適切な姿勢で突出部31を第一部に挿入することで、所望の長さの放電ギャップGを確保できる。
【0055】
その他は、参考形態1と同様である。
なお、実施形態1以降において用いた符号のうち、既出の参考形態及び実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の参考形態及び実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0056】
本形態において、接地電極3は、その延在方向に平行な回転軸Aの回りに自転させることにより、少なくとも2つの姿勢の間で姿勢を変化させることができる。そして、この少なくとも2つの姿勢は、互いに放電ギャップGの長さが異なる姿勢である。それゆえ、スパークプラグ1に接地電極3を取り付ける際、接地電極3を自転させることで、中心電極2との間の長さ、すなわち放電ギャップGの長さを変更できるため、放電ギャップGの長さを調整しやすい。放電ギャップGの長さは、放電ギャップGに火花放電を生じさせるために要求される要求電圧に影響を及ぼすため、放電ギャップGの長さは調整しやすいことが好ましい。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0057】
実施形態2
本形態は、図15に示すごとく、実施形態1と基本構造を同じくしつつ、延在部32の形状を変更した実施形態である。
【0058】
本形態において、延在部32は、その延在方向に直交する断面形状が楕円形状となるよう形成されている。
【0059】
本形態において、接地電極3は、互いに放電ギャップGの長さが異なる3つの姿勢(第一姿勢101、第二姿勢102、第三姿勢103)を取り得る。第一姿勢101は、延在部32の断面形状が、プラグ径方向に長軸を有する楕円状となる接地電極3の姿勢である。第二姿勢102は、延在部32の断面形状が、プラグ軸方向X及びプラグ径方向の双方に対して45°ずれた方向に長軸を有する楕円状となる姿勢である。第三姿勢103は、延在部32の断面形状が、プラグ軸方向Xに長尺を有する楕円状となる接地電極3の姿勢である。
【0060】
第一姿勢101、第二姿勢102、第三姿勢103のそれぞれの放電ギャップGは、第一姿勢101における放電ギャップGのプラグ軸方向Xの長さL1が最も大きく、第三姿勢103における放電ギャップGのプラグ軸方向Xの長さL3がもっとも小さい。
その他は、実施形態1と同様である。
【0061】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0062】
実施形態3
本形態は、図16図19に示すごとく、実施形態1と基本構造を同様にしつつ、接地電極3の形状及びハウジング構造体5の貫通孔512の第一部位512aの形状を変更した形態である。
【0063】
本形態において、図18に示すごとく、接地電極3の延在方向に直交する、突出部31の断面形状、及び、貫通孔512の第一部位512aの断面形状が、いずれも、プラグ軸方向Xに平行な辺を有する正方形状となる。これにより、第一部位512aに対する接地電極3の突出部31の回転姿勢を、360[°]÷4=90[°]置きに変更できる。これにより、ハウジング構造体5に対する接地電極3の回転姿勢を、90°置きに調整できる。
【0064】
図17に示すごとく、延在部32は、突出部31の外周面と平行な辺を有する長方形状に形成されている。図16図17に示すごとく、延在部32は、その断面形状(長方形状)における2つの対角線の交点である中心32cが、突出部31の断面形状における2つの対角線の交点である中心31cと異なる位置に形成されている。すなわち、接地電極3の延在方向に直交する方向において、延在部32は、突出部31に対して偏心して配されている。これにより、図17において両向き矢印で示しているように、延在部32の断面において、突出部31の中心31cから延在部32の各辺までの最短長さが、互いに異なる。
【0065】
このように延在部32が突出部31に対して偏心していることにより、図19に示すごとく、接地電極3は、互いに突出部31の中心31cを回転軸Aとした回転方向の姿勢が異なり、かつ、互いに放電ギャップGの長さが異なる4つの姿勢(第一姿勢101、第二姿勢102、第三姿勢103、第四姿勢104)を取り得る。なお、図19において、第一姿勢101の放電ギャップGの長さをL1、第二姿勢102の放電ギャップGの長さをL2、第三姿勢103の放電ギャップGの長さをL3、第四姿勢104の放電ギャップGの長さをL4にて表している。第一姿勢101、第二姿勢102、第三姿勢103、第四姿勢104のいずれにおいても、接地電極3の延在部32は、中心電極2の先端面21に対して面で対向している。
その他は、実施形態1と同様である。
【0066】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0067】
参考形態2
本形態は、図20に示すごとく、参考形態1に対して、接地電極3をプラグ径方向に傾斜する斜め方向に形成した形態である。
【0068】
本形態において、接地電極3は、プラグ径方向に対して傾斜する方向に延在する円柱状に形成されている。接地電極3は、その両端部において、ハウジング構造体5の取付ネジ部511における互いに対向する位置に形成された一対の穴50に挿入されているとともに溶接されている。
その他は、参考形態1と同様である。
【0069】
本形態においては、接地電極3は、プラグ径方向に傾斜する斜め方向に形成されている。それゆえ、放電ギャップGに形成された放電火花の接地電極3側の起点は、副燃焼室6内の気流により、接地電極3に沿って斜め先端側に移動する。そのため、放電火花の両起点間の直線距離を確保することができる。これにより、放電火花の部位同士が早期に短絡することで放電火花の伸長が阻害されることを防止でき、着火性を向上させることができる。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0070】
(実験例)
本例は、図22に示すような片持ちの接地電極93に対する、図21に示すような両持ちの接地電極3の強度及び暖まりやすさにつき評価した実験例である。
【0071】
図21に示すごとく、両持ちの接地電極3は、その延在方向の両端が壁部7に接続されている。そして、両持ちの接地電極3は、その断面形状が円形である。両持ちの接地電極3の延在方向の長さは、8mmとした。
【0072】
図22に示すごとく、片持ちの接地電極93は、その延在方向の一端が壁部7に接続されている。図23に示すごとく、片持ちの接地電極93は、その断面形状が長方形状である。片持ちの接地電極93の断面は、その長手方向の寸法が2.6mmであり、短手方向の寸法が1.3mmである。また、図22に示すごとく、片持ちの接地電極93の長さは、10.5mmとした。
【0073】
この片持ちの接地電極93の寸法は、図24(b)に示すような一般的な片持ちの接地電極931の寸法を想定している。図24(b)に示すスパークプラグ9(プラグカバーの図示は省略している。)は、前記特許文献1(特開2014-159778号公報)に記載されたスパークプラグと同様に、接地電極931がL字状に形成されており、接地電極931の長手方向の一端部931aがハウジング構造体95に接続されている。このように、一般的な片持ちの接地電極931は、L字状に形成されるため、その長さは比較的長めに形成される。
【0074】
そして、接地電極の強度は、最大曲げ応力を算出することで行った。両持ちの接地電極3に関しては、その接地電極3の中央部においてプラグ軸方向Xの荷重Fを印加した場合の最大曲げ応力を算出した。一方、片持ちの接地電極93に関しては、接地電極93の壁部7に接続された側の反対側の端部に、プラグ軸方向Xの荷重Fを印加した場合の最大曲げ応力を算出した。片持ちの接地電極93の最大曲げ応力は、次のような最大曲げ応力を想定している。図24(b)に示すような一般的な片持ちの接地電極931を備えるスパークプラグ9を製造するにあたっては、まっすぐな柱状の接地電極基材930の一端部をハウジング構造体95に接合した後、接地電極基材930の先端部を押圧して接地電極基材930を曲げ加工する。片持ちの接地電極93の最大曲げ応力は、この曲げ加工の際に生じ得る最大曲げ応力を想定している。
【0075】
また、各接地電極における暖まりやすさは、各接地電極の表面積/体積[mm-1]に比例するため、表面積/体積に基づいて評価した。
【0076】
そして、片持ちの接地電極93の強度に対する両持ちの接地電極3の強度である比率1を、両持ちの接地電極3の直径を種々変更して算出した。同様に、片持ちの接地電極93の暖まりやすさに対する両持ちの接地電極3の暖まりやすさである比率2を、両持ちの接地電極3の直径を種々変更して算出した。その結果を図25に示す。図25において、強度に関する比率1を曲線C1にて、暖まりやすさに関する比率2を曲線C2にて表している。
【0077】
図25の曲線C1の結果から分かるように、両持ちの接地電極3の直径を0.9mmを超える値にすることにより、強さに関する比率1を、1を超える値にすることができる。すなわち、両持ちの接地電極3の直径を0.9mmを超える値にすることにより、一般的な形状を有する片持ちの接地電極93に比べて高い強度を確保できることが分かる。これを面積に換算すると、両持ち接地電極3の断面積を0.636mm2(なお、小数点第四位以降は切り捨てた。)を超える値とすることにより、両持ちの接地電極3の強度を確保しやすいこととなる。つまり、両持ちの接地電極3の断面積を、0.64mm2以上とすることにより、両持ちの接地電極3の強度を確保しやすい。
【0078】
また、図25の曲線C2の結果から分かるように、接地電極3の直径を1.7mm未満にすることにより、暖まりやすさに関する比率2を、1を超える値にすることができる。すなわち、両持ちの接地電極3の直径を1.7mm未満とすることにより、一般的な形状を有する片持ちの接地電極93に比べて高い強度を確保できることが分かる。これを面積に換算すると、両持ちの接地電極3の断面積を2.269mm2(なお、小数点第四位以降は切り捨てた。)未満にすることにより、両持ちの接地電極3の暖まりやすさを確保しやすいこととなる。つまり、接地電極3の断面積を2.26mm2以下にすることにより、接地電極3の暖まりやすさを確保しやすい。それゆえ、両持ちの接地電極3の断面積を、0.64mm2以上2.26mm2以下にすることにより、両持ちの接地電極3の強度及び暖まりやすさの双方を確保できる。
【0079】
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0080】
例えば、実施形態1~3においては、接地電極に雄ネジ部を設け、かつ、ハウジング構造体に、接地電極の雄ネジ部が螺合できる雌ネジ部(貫通孔の第二部位)を設けたが、これに限られず、接地電極の雄ネジ部及びこれに螺合されるハウジング構造体の雌ネジ部を設けなくてもよい。この場合は、接地電極は、単にハウジング構造体の穴に挿入配置される。なお、ハウジング構造体の当該穴をハウジング構造体のプラグ軸方向における取付ネジ部が形成された領域に形成することで、スパークプラグをシリンダヘッドに取り付けた状態においては、接地電極は、シリンダヘッドに囲まれるため、燃焼室内に落下することが防止される。
【符号の説明】
【0081】
1 スパークプラグ
2 中心電極
3 接地電極
4 絶縁碍子
5 ハウジング構造体
6 副燃焼室
G 放電ギャップ
図1
図2
図3
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