(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】外骨格を動かすための方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20221110BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20221110BHJP
A61F 2/70 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61H3/00 B
B25J11/00 Z
A61F2/70
(21)【出願番号】P 2019537310
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 FR2018050057
(87)【国際公開番号】W WO2018130784
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-10-29
(32)【優先日】2017-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516282835
【氏名又は名称】ワンダークラフト
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】マッセリン,マテュー
(72)【発明者】
【氏名】グェン,キエン クオン
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-066669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0196403(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
B25J 11/00
A61F 2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間のオペレータを受け入れる外骨格(1)を動かすための方法であって、前記外骨格(1)は、データ処理手段(11)により制御されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの
作動関節
とアクチュエータによって作動されない少なくとも1つの
非作動関節とを含む複数の関節を有しており、当該方法は、前記データ処理手段(11)によって、
(a)開始要求が受信されると、前記外骨格(1)を傾斜状態にするように、前記アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発するステップと、
(b) ・前記作
動関節に関する1組の仮想的制約であって、位相変数によってパラメータ化されている1組の仮想的制約、
・
前記位相変数
及び前記非作動関節についての可能な
状態の全てのnタプル(n-tuples)によって形成される位相多様体(topological
manifold)における少なくとも1つの誘引性安定化軌道を実現することによって前記仮想的制約を満たすように、前記アクチュエータのコマンドを生成することができる前記外骨格(1)のためのコントローラ、及び
・前記位相変数の所与の値に対して前記多様体の超平面の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこから前記コントローラの実行によって前記外骨格(1)の軌道の前記誘引性安定化軌道への収束が可能になる、安定性プール、
の3つ組から構成される
、データ記憶手段(12)に記憶されているデータベースにおいて、
1組の仮想的制約を識別するステップであって、前記傾斜状態が
前記識別した1組の仮想的制約に関連する前記安定性プールに含まれる
、ステップと、
(c)前記外骨格(1)が歩くよう
に前記
識別した1組の仮想的制約に関連する前記コントローラを実行するステップと、の実施を含む、
方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)は、前記アクチュエータのうちの少なくとも1つに対する前記コマンドが生成される機能として、歩行速度及び/又は方向設定値を決定するステップを含み、前記ステップ(c)は、現在の歩行によって前記歩行速度及び/又は前記方向設定値が満たされることを前記データベースで確認するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記現在の歩行によって前記歩行速度及び/又は前記方向設定値が満たされていない場合に、前記データベースにおいて、
新しい1組の仮想的制約を識別するステップ(d)であって、該識別した1組の仮想的制約に関連する前記安定性プールに
前記外骨格(1)の前記現在の状態が含まれる
、ステッ
プを含み、そしてステップ(c)を繰り返す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記歩行速度及び/又は前記方向設定値は、前記人間のオペレータの姿勢の関数として決定される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記オペレータの胸部には複数の姿勢センサが備え付けられ、前記歩行速度及び/又は前記方向設定値は、前記複数のセンサによって測定された前記オペレータの胸部の前記姿勢の関数として決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記傾斜状態は、ゼロモーメント点(ZMP)が前記外骨格(1)の支持面の内側にない状態である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)は、許容可能な1組の仮想的制約が識別されない場合に、前記外骨格(1)を停止させるステップを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
データ処理手段(11)を含む人間のオペレータを受け入れるための外骨格(1)であって、当該外骨格は、前記データ処理手段(11)により制御されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの
作動関節
とアクチュエータによって作動されない少なくとも1つの
非作動関節とを含む複数の関節を有しており、当該外骨格(1)は、
・前記作
動関節に関する1組の仮想的制約であって、位相変数によってパラメータ化されている1組の仮想的制約、
・
前記位相変数
及び前記非作動関節についての可能な
状態の全てのnタプルによって形成される位相多様体における少なくとも1つの誘引性安定化軌道を実現することによって前記仮想的制約を満たすように、前記アクチュエータのコマンドを生成することができる前記外骨格(1)のためのコントローラ、及び
・前記位相変数の所与の値によって前記多様体の超平面の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこから前記コントローラの実行によって前記外骨格(1)の軌道の前記誘引性安定化軌道への収束が可能になる、安定性プール、
の3つ組から構成されるデータベースを記憶するデータ記憶手段(12)を含んでおり、
前記データ処理手段(11)は、
・開始要求が受信されると、前記外骨格(1)を傾斜状態にするように、前記アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発するためのモジュール、
・前記データ記憶手段(12)
の前記データベースにおいて、
1組の仮想的制約を識別するためのモジュールであって、前記傾斜状態が
前記識別した1組の仮想的制約に関連する前記安定性プールに含まれる
、モジュール、及び
・前記外骨格(1)が歩くよう
に前記
識別した1組の仮想的制約に関連する前記コントローラ
を実行するための実行モジュール、を実施するように構成される、
外骨格(1)。
【請求項9】
プログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の外骨格(1)を動かすための方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータプログラムが、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の外骨格(1)を動かすための方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータ機器可読記憶手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外骨格型ロボットの分野に関する。
より正確には、本発明は、外骨格(exoskeleton)を動かすための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、対麻痺患者等の移動性に重大な問題がある人々のために、外骨格(エクソスケルトン)と呼ばれる歩行支援装置が登場し、これら装置は、外骨格運動を自身の動きに結び付ける固定システムのおかげでオペレータ(人間のユーザ)が「装着する」外付けロボット装置である。下肢の外骨格は、歩行運動を再現するために、一般に膝及び腰にいくつかの関節を有する。アクチュエータによってこれらの関節を動かすことができ、これは次にオペレータを動かすであろう。インターフェイスシステムによって、オペレータが外骨格に命令を与えることが可能になり、そして制御システムはこれらの命令をアクチュエータのためのコマンドに変換する。一般的にセンサによって装置が完成される。
【0003】
これらの外骨格は、それら外骨格によってオペレータが再び立ち上がって歩くことを可能にするので、車椅子に対する進歩である。外骨格は、もはや車輪によって制限されず、理論的には殆どの非平坦な環境で機能することができる:車輪は、脚とは異なり、高過ぎる段差、階段、障害物等の大きな障害物を越えることができない。
【0004】
しかしながら、それら外骨格の使用において、これらの外骨格のどれも、広く擬人化され、非支援状態で多様な地形上を自律的に、すなわち安定して実行可能な人間の歩行をすることはない。
【0005】
殆どの場合に、これらの制限は、装置がそれ自体でバランス又は歩く方向を管理することが不可能である場合に現れる。それによってこれらのタスクは両方とも一般にオペレータに転送され、オペレータは、例えばRewalkの特許文献1又はEkso-Bionicsの特許文献2に提案されているように松葉杖を使ってそれらタスクを行う。
【0006】
Rex-Bionicsの特許文献3は、外部から手助けなしに、自身の安定性を確保することができない人が使用可能な唯一の外骨格を記載している。段落[0122]に記載されている制御原理は、支持多角形(support polygon)(地面との接触点の凸状包絡線)の一部の圧力の中心(地面によってシステムに及ぼされる反力の合力に対応する物理的な点)を支持多角形の別の部分に伝達する必要性を明確に説明している。
【0007】
この制限により、常に足を地面に平坦な状態で踏み込んで接触させている間に、短い歩幅(30センチメートル(cm)未満)で非常にゆっくりとした歩行(1分あたり数メートル)が課される。不均一な地形が事実上除外されるため、アクセス可能な環境のタイプはこうして制限される。同様に、小石、小さな物体等の極小さな障害物は、ユーザが自分の足を所与の瞬間にその障害物上に置くと、システムのバランスを崩すリスクを生じさせ、最終的にはユーザを転倒させる。
【0008】
従って、硬くて予想できない地形の場合であっても、転倒又はバランスを失ったりするリスクなしに素早い自然な歩行を提供するために、現在の要件を省いた外骨格のための新しい歩行パラダイムを有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第7,153,242号
【文献】米国出願公開第2016/0038371号明細書
【文献】欧州特許第2 231 096号
【発明の概要】
【0010】
こうして、本発明は、第1の態様によれば、人間のオペレータを受け入れる外骨格を動かすための方法に関し、外骨格は、データ処理手段により制御されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの自由度と少なくとも1つの非作動自由度とを含む複数の自由度を有しており、この方法は、データ処理手段によって、
(a)開始要求が受信されると、外骨格を傾斜状態にするように、アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発するステップと、
(b) ・作動される自由度に関する1組の仮想要件であって、位相変数によってパラメータ化されている1組の仮想要件、
・非作動自由度及び位相変数についての可能な値の全てのnタプル(n-tuples)によって形成される位相的集まり(topological variety)における少なくとも1つの引き付ける安定軌道を実施することによって仮想要件を満たすように、アクチュエータのコマンドを生成することができる外骨格のコントローラ、及び
・位相パラメータの所与の値に対して集まりの超平面の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこからコントローラの実行によって引き付ける安定軌道への収束が可能になる、安定性プール、
の3つ組から構成されるデータ記憶手段に記憶されているデータベースにおいて、傾斜状態がこの組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれるように1組の仮想要件を識別するステップと、
(c)外骨格が歩くように識別された1組の仮想要件に関連するコントローラを実行するステップと、の実施を含む。
【0011】
他の有利で非限定的な特徴によれば、
・ステップ(a)は、アクチュエータのうちの少なくとも1つに対するコマンドが生成される関数として、歩行速度及び/又は方向設定値を決定するステップを含み、ステップ(c)は、歩行速度及び/又は方向設定値が現在の歩行によってデータベースで満たされることを確認するステップを含む。
・歩行速度及び/又は方向設定値が現在の歩行によって満たされていない場合に、この方法は、データベースにおいて、外骨格の現在の状態がこの組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれるように新しい1組の仮想要件を識別するステップ(d)を含み、そしてステップ(c)を繰り返す。
・歩行速度及び/又は方向設定値は、人間のオペレータの姿勢の関数として決定される。
・オペレータの胸部には複数の姿勢センサが備え付けられ、歩行速度及び/又は方向設定値は、複数のセンサによって測定されたオペレータの胸部の姿勢の関数として決定される。
・傾斜状態は、ゼロモーメント点(ZMP)が外骨格のリフト面(lift surface)の内側にない状態である。
・ステップ(c)は、許容可能な1組の仮想要件が識別されない場合に、外骨格を停止させるステップを含む。
【0012】
第2の態様によれば、本発明は、データ処理手段を含む外骨格に関し、外骨格は、データ処理手段により制御されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの自由度と少なくとも1つの非作動自由度とを含む複数の自由度を有しており、外骨格は、
・作動される自由度に関する1組の仮想要件であって、位相変数によってパラメータ化されている1組の仮想要件、
・非作動自由度及び位相変数につての可能な値の全てのnタプルによって形成される位相的集まりにおける少なくとも1つの引き付ける安定軌道を実施することによって仮想要件を満たすように、アクチュエータのコマンドを生成することができる外骨格のコントローラ、及び
・位相パラメータの所与の値によって集まりの超平面の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこからコントローラの実行によって引き付ける安定軌道への収束が可能になる、安定性プール、
の3つ組から構成されるデータベースを記憶するデータ記憶手段を有しており、
データ処理手段は、
・開始要求が受信されると、外骨格を傾斜状態にするように、アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発するためのモジュール、
・データベース記憶手段において、傾斜状態がこの組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれるように1組の仮想要件を識別するためのモジュール、及び
・外骨格が歩くように識別された1組の仮想要件に関連するコントローラの実行モジュール、を実施するように構成される。
【0013】
第3及び第4の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様による外骨格を動かすための方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム製品に関し、そしてコンピュータプログラム製品が本発明の第1の態様による外骨格を動かすための方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータ機器可読記憶手段に関する。
【0014】
本発明の更なる特徴及び利点は、好ましい実施形態の以下の説明を読めば明らかになるであろう。この説明は、添付の図面を参照して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による方法を実施するための(外骨格タイプの)外骨格の概略図である。
【
図2】位相変数の変化、及びこの位相変数の関数としての作動される自由度の変化の例を表す。
【
図3】周期軌道のハイブリッドゼロダイナミクス及び引力プールの集まりを概略的に表す図である。
【
図4】本発明による方法の好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
足が地面に平坦な状態で歩く
「自然な」人間の歩行は、足を地面につき、空中にして、又は地面をなめらかに動くことができる一連の段階を特徴としている。足を開くこの能力は、歩幅を大きくすることを可能にし、より多様な地形上での安定性を可能にするので、歩行にとって不可欠である。
【0017】
しかし、先程説明したいわゆる第一世代の外骨格は作動する足を有していないか、或いは足を地面に踏み続けたままである。
【0018】
この足を開くことを行うことは、2足歩行の人間型ロボット又はロボット装置にとって実際には複雑である。圧力の中心が支持多角形の限界に達すると、システムはこの点を中心に回転し始め、こうしてもはや静的なバランスを取れなくなる。
【0019】
歩行の場合に、足を開くと、以下のいくつかの結果によって足を踏むときに地面との慣性接触が失われる。
・支持多角形(リフト面)が潜在的に一点に減少し、圧力の中心を支持多角形の内側に維持することが困難又は不可能にさえなる。
・システムは劣作動(underactuation)状況にある。つまり、そのシステムはもはや全ての自由度に関して作動することはできない。それによって全ての動きはもはや可能でなくなる。
【0020】
そのような状況下では、文書Kajita S., K. F.(2003)に記載されるように、歩行の古典的な形式は足を地面に平らにしている。Zero-Moment Point ICRA(pp. 1620 - 1626)のプレビュー制御、又はRex-Bionicsの特許文献3に記載されている原理を使用することによる二足歩行パターンの生成は、もはや動作することができない。
【0021】
振り上げた足を前方に動かし、2番目の足を床上に置いて支持多角形を戻してバランスを取ることは自然な考えであるが、システムは、(振り上げた足を)振り下ろしている際に、踏み込んでいる(pressing)足を中心に自由に回転する。それにより、身体は一連の不安定な姿勢を経るが、一時的な姿勢しか経ない(その人が飛行中(振り下ろす降ろしている間)に「停止」した場合に、その人は転倒する)ので、これは動的歩行と呼ばれる。
【0022】
動的歩行のこのアプローチでは、少なくとも一時的にバランスを回復させる位置に足を素早く振り上げることは複雑である。実際に、この足が予め計算された時間にパラメータ化された軌道を辿らなければならない場合に、この足は、僅かな外乱を受けても劣作動システムの制御不能な挙動のせいで地面に衝突するのが早過ぎたり遅過ぎたりするリスクがある(計画された軌道から僅かに逸脱する軌道は修正することができない。)。これはオペレータに不快感を与え、オペレータのバランスを崩し、或いは単純な地形を含む箇所でオペレータを転倒させることさえある。
【0023】
だからこそ、全ての第一世代の外骨格(及び、多くの人間型ロボット)は、歩行速度、歩幅、許容可能な地形のタイプ、及び一般的な歩行安定性に関する上述した制限の結果として、足を地面に平坦な状態に保つことによってこの類の状況を回避しようとする。
【0024】
構造
図1を参照すると、本方法は、外骨格1、すなわち2本の脚を備え、より正確に自分の下肢を有する人間のオペレータを収容する作動及び制御式二足歩行ロボット装置の関節式機械システムの歩く方法であり、各下肢は(特にストラップによって)外骨格1の脚部と一体化される。こうして、多少なりとも人間型ロボットになり得る。「歩く」とは、ここではロボット装置1の動きを意味し、これは実際には、変位を生じさせるように、立位での脚部への交互の圧力によって反映される。
【0025】
外骨格1は、複数の自由度、すなわち互いに対して移動可能な(一般には回転を介して)変形可能な関節の複数の自由度を有し、それら自由度はそれぞれ「作動」又は「非作動」のいずれかである。
【0026】
作動される自由度は、データ処理手段11により制御されるアクチュエータが設けられた関節を示し、すなわちその自由度が制御され、その制御に従って作動することができる。反対に、非作動自由度はアクチュエータのない関節を示し、すなわちこの自由度はそれ自体のダイナミクスに従うものであり、データ処理手段11はその非作動自由度に対して直接的な制御を行わない(しかし、先験的に他の作動される自由度を介した間接制御によって動かされる)。
図1の例では、踵と地面との接触は点接触であり、こうして外骨格1はこの接触点に対して自由に回転する。それにより、踵-腰軸線と垂直線との間の角度は、非作動自由度である。
【0027】
本発明の外骨格は、当然ながら、少なくとも1つの作動される自由度、優先的には複数の自由度、及び少なくとも1つの非作動自由度(すなわち、前述のような「劣作動」である)を含む。劣作動度とは、非作動自由度の数を意味する。
【0028】
データ処理手段11は、指令を処理し、異なるアクチュエータへのコマンドを生成するように適合されたコンピュータ機器(典型的には、プロセッサであり、外骨格1が「遠隔制御」される場合は外付けであるが、優先的には外骨格1に搭載される)を示す。異なるアクチュエータは電気式、油圧式等である。
【0029】
本願は、外骨格1のいかなるアーキテクチャにも限定されず、WO2015/140352及びWO2015/140353の出願に記載されているような例を取るであろう。
【0030】
こうして、好ましくは及びこれらの用途に従って、外骨格1は、足が平坦な状態であるときに外骨格を装着している人の脚の足が押し付けることができる支持面を含む足構造を各脚に含む。
【0031】
支持面は前部プラットホーム及び後部プラットホームを含み、それによって、足の旋回(pivot)ピンは非作動自由度を形成することによって前部プラットホームを後部プラットホームに接続する。
【0032】
しかしながら、当業者であれば、本方法を他の任意の機械的構造に適合させることが可能であろう。
【0033】
ハイブリッドゼロダイナミクス
従来、各自由度における軌跡(軌道)/変化は時間の関数として表現される。システムの「ダイナミクス」は、関数
【数1】
及び
【数2】
開始点によって規定され、関数fは、外骨格1の状態空間
【数3】
及び
制御空間
【数4】
として記述される。
【0034】
対照的に、いわゆる「仮想
的制約」の方法では、原理は、作動される自由度の選択について、変化のあるパラメータによってパラメータ化された軌道を時間的にではなく形状(configuration)の一
次関数として規定することであり、このパラメータは位相変数と呼ばれる。位相変数の一例が
図1に表されており、その位相変数は踵-腰軸線と垂直線との間の角度であり、それによって上述した非作動自由度がもたらされる。
【0035】
位相変数によって、足取り(step)の「進行」を規定することが可能になる。より正確には、各足取りにおいて、初期値がそれに再割り当てされる前に、位相変数は初期値から最終値まで連続的に移行する。その最終値は次のステップの始まりである。作業を簡単にするために、位相パラメータの値は0~1の間で正規化できる。
【0036】
システムが追従するように強制される作動される自由度の値は、変化パラメータの各値に対応する:これらの関係(このように制御することが望まれる各作動される自由度に対して1つ)は仮想要件と呼ばれる。
図2は、膝の関節の仮想要件の動作を示す。
【0037】
システムが作用することができる又は作用することが望まれる自由度について、システムがこの軌道を正確に辿る場合に、つまり仮想要件がこれらの自由度について満たされる場合に、次に、システムの変化は、非作動自由度の変化によって完全に決定され、非作動自由度はそれ自体のダイナミクスに従う。
【0038】
このダイナミクスは「ハイブリッドゼロダイナミクス(HZD)」と呼ばれる。
・その非作動自由度がコマンドによって作動させることができない/作動させたくない自由度に対応する、すなわちコマンドが0であるため、それは「ゼロ」と言われる。
・地面への足の衝撃が不連続な瞬間的な段階を課し、これが連続的な段階を中断するため、「ハイブリッド」と呼ばれる。
【0039】
このハイブリッドゼロダイナミクスは、選択された仮想要件に依存し、その仮想要件を適切に選択することによって、このダイナミクスに引き付ける(attracting)周期的「軌道」、すなわちシステムが自然に引き付けられる軌道を含ませることができる。
【0040】
より視覚的には、
図3に示されるように、所与の1組の仮想要件について、「
制約」状態空間は、各点が非作動自由度の値と位相(phase)パラメータの値とから構成されるベクトル(そして、恐らくそれらの導関数)によって規定されるハイブリッドゼロダイナミクスの位相
多様体(topological
manifold)である。この集まりは、
図3の場合のように必ずしも次元3を伴うわけではなく、その
図3は現象の理解を容易にする一例に過ぎず、集まりが次元nを伴うことが規定されることが理解される。
【0041】
位相パラメータの各値は、位相パラメータのこの値についての非作動自由度の可能な値の全てのn-1タプルを含む集まりの超平面(次元n-1を伴う)を規定する。
【0042】
図3に表されるこれらの超平面の1つは、「スイッチング面」と呼ばれるアンサンブル
【数5】
であり、これは、2つのサイクル間の境界、つまり位相変数が最終値から初期値に戻る点に対応する。歩いている間(ステップ中)に、最初に
【数6】
の状態があり、ダイナミクスは、
【数7】
の点に戻るまでの軌道を形成することによって、
【数8】
として適用される。
【0043】
こうして、「次元nの連続」システムは、周期的に「次元n-1の離散」システムに切り替わる。
【0044】
開始点と終了点が同じ(「固定点」)である場合に、周期軌道は、
図3によって表されるように、様々なハイブリッドゼロダイナミクスにおいて得られる。
【0045】
周期軌道が引力(attractive)軌道と呼ばれるためには、固定点とは異なる点から始めて、次の反復で固定点がより近くなることがさらに必要である(固定点がさらに少し遠くなると直ぐにその固定点が(次の反復で)離れるような不安定な周期軌道とは反対に)。
【0046】
このようにして引力プール、すなわち(次の反復で固定点に近づくように動くような)固定点とは異なる点全てを含む
【数9】
の部分空間が規定される、すなわちこのプールにおいて開始する任意の軌道が各歩行サイクル(軌跡)
【数10】
の後に引力周期軌道に段々近づくように規定することができる。より正確には、システムは、プール内の開始点に収束し、プール外の開始点について発散(つまり、最終的に、転倒)する。
【0047】
これにより、システムが仮想要件を満たすよう強制し、且つ劣作動自由度に対するサイクルの引き付ける特性を最大化するHZDタイプのコントローラを指定することが可能である(後でそれをどのように行うべきかが分かる)。第1に、そのHZDタイプのコントローラは、外骨格1が、例えば、実際にはその足を前方に振り上げることができ、且つ劣作動特性にもかかわらず、足が早過ぎもせず遅過ぎもせずに地面に着地できることを保証するのを可能にする。さらに、外乱が存在しても、システム状態が引力プール内にある限り、劣作動自由度は周期的な軌道に自然に収束し、システムは、数歩後の予想される歩行サイクルに戻り、こうして歩行速度は保証される。
【0048】
他方で、この概念は、踏み込む足が地面と接触する間に、前足を中心に回転する段階と、足を地面に着地させる間に、足の後ろを中心に回転する段階と両方の段階を管理することを可能にする。毎回、(引き付けサイクルが存在する)他の自由度に対してハイブリッドゼロダイナミクスを生成する作動される自由度について仮想要件を見つけることが可能である。
【0049】
必要に応じて多くの組の要件を生成できるので、各組の要件が歩幅、歩行速度、及び様々な方向に対応する。
【0050】
方法
HZD式のコントローラの概念が既に知られており、安定した軌道を生成するのを可能にする場合に、安定した軌道は今までは周期的であり、初期速度がゼロではない。こうして、この概念は、停止状態から始まるシステム、及びなおさら(人間のオペレータがいるために)正確に再現できない方法で行われる外骨格であるシステムには適用できない。
【0051】
外骨格1を動かすための本方法は、引力プールの内側に配置される手段を提供することによってこれらの難題をスマートに解決する。
【0052】
実際には、
図4に示されるように、本方法は、外骨格1を傾斜状態にするステップ(a)から始まる。より正確には、開始要求が受信されると、データ処理手段は、意図的に外骨格1をこの傾斜状態にするように、アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発する。
【0053】
傾斜状態とは、有利には、ゼロモーメント点(ZMP)が外骨格1のリフト面の内側にない状態を意味する。ZMPは、接触力のモーメントがその3つの座標のうちゼロである2つを有する点(つまり、純粋に垂直である)をより正確に示す。
【0054】
こうして、傾斜は、開始アルゴリズムによってZMPをリフト面から「引き出す」ような、ZMPの所望の変位に優先的に対応する。したがって、その傾斜は今まで常にどんな状況でも回避されていた「転倒」状況である。この開始アルゴリズムは、上流で試験された事前に計算された時間的にパラメータ化された動き、又はセンサ基準の動き(例えば、足の地面13上の衝撃を検出するための手段及び/又は外骨格1に備え付けられた慣性測定手段14)に基づくことができる。
【0055】
この前に、ステップ(a)は、アクチュエータのうちの少なくとも1つへのコマンドが生成される関数として歩行速度及び/又は方向設定値を決定するステップを有利に含む。
【0056】
実際には、外骨格1が人間のオペレータを受け入れる外骨格である場合に、その関数は、(歩行速度及び/又は方向設定値を含む状態要求を直接的に受け取ることができる通常のロボットとは異なり)歩行速度及び/又は方向設定値を決定する人間オペレータの姿勢である。
【0057】
そのために、オペレータにはセンサ10のジャケットが提供され、センサ10はオペレータの胸部の形状(その向き)を検出することを可能にする。オペレータが自分の胸を向ける方向は、自分が歩きたい方向であり、その速度は、オペレータが自分の胸部を前方に向ける強さ(その時点での自分の傾き)によって与えられる。開始要求は、歩行するという意思を意味し、且つこうしてデータ処理手段に方向及び/又は速度設定値を決定するように命令するボタンを押すオペレータ(つまり、特定の姿勢)に対応することができる。
【0058】
主ステップ(b)において、1組の仮想要件は、傾斜状態がデータベース内のこの組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれるように識別される。
【0059】
実際には、本発明の方法は、データ記憶手段12に記憶されているデータベース(制御ライブラリと呼ばれる)の使用を提供する。(データ記憶手段12は、
・作動される自由度に関する1組の仮想要件であって、位相変数によってパラメータ化されている仮想要件(この位相変数は、劣作動自由度に対する引き付けサイクルに対応し、こうしてシステムの全軌道を規定する)、
・非作動自由度及び位相変数の可能な値の全てのnタプルによって形成される位相的集まりにおける少なくとも1つの引き付ける安定軌道を実施することによって仮想要件を満たすように、アクチュエータのコマンドを生成することができる外的骨格1のためのコントローラ(HZD)、及び
・位相パラメータの所与の値に対して集まりの超平面
【数11】
の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこからコントローラの実行によって引き付ける安定軌道への収束が可能になる(すなわち、発散がない)安定性プール、
の3つ組から構成されるデータ処理手段11に接続されるメモリである。)
【0060】
異なる組の仮想要件は、典型的に、説明したように異なる歩幅、歩行速度、及び異なる方向、様々な足取り等に対応する。当業者はそれらを生成することができる。
【0061】
各HZDコントローラについて、関連する軌道を安定させること、すなわち、外乱が存在する場合であっても、劣作動自由度であっても迅速にこの(安定)軌道に戻すことを可能にすることをシミュレーション又は実際には確認することができた。
【0062】
安定性プールはシミュレーションによっても決定できることが理解されよう(
【数12】
の各点について、システムが発散するか収束するかどうかがテストされ、そしてそのシステムが収束するような全ての点が識別される)。
【0063】
動的歩行の全体的な複雑さは上流で行われるため、この解決策は特に効率的であることが分かった。使用中に、外骨格は、システムの全軌道を規定し、現在の傾斜状態で安定している1組の要件を制御ライブラリで検索するだけでよく、HZDコントローラが、可能性のある外乱にもかかわらず、安全な歩行を行えるように保証する。
【0064】
許容可能な1組の仮想要件が識別されない場合に(すなわち、仮想要件の各組について、傾斜状態が安定性プールの外にある場合に)、ステップ(c)において、オペレータの安全を保証するために、外骨格を停止させるように命令する。
【0065】
許容可能な1組の仮想要件が識別されると、ステップ(c)によって、外骨格1が歩く、すなわち少なくとも1サイクル(1歩)を行うように識別された1組の仮想要件に関連するコントローラの実行が確認される。
【0066】
歩行速度及び/又は方向設定値が決定されている場合に、ステップ(c)は、歩行速度及び/又は方向設定値がデータベース内の現在の歩行によって満たされていること、すなわち現在の歩行速度及び/又は方向設定値と前記(データベース内の))歩行速度及び/又は前記方向設定値と間の誤差が所定の閾値より低いことを予め確認するステップを有利に含む。
【0067】
実際には、識別された1組の要件が安定した軌道を可能にするだけでなく、その識別された1組の要件がオペレータの設定値に従っていることも必要である。
【0068】
歩行速度及び/又は方向設定値が現在の歩行によって満たされる(すなわち、誤差が閾値を下回る)場合に、その歩行は継続される。
【0069】
反対に、歩行速度及び/又は方向設定値が現在の歩行によって満たされない(すなわち、誤差が大きくなり過ぎる)場合に、方法は、有利には、データベースにおいて、外骨格1の現在の状態が、この組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれるように新しい1組の仮想要件を識別するステップ(d)を含み、そしてステップ(c)を繰り返すステップ、すなわち、新しいHZDコントローラをロードして実行するステップを含む。
【0070】
オペレータが望むならば、歩行速度及び/又は方向設定値はいつでも変更することができるので、連続するステップ(c)及び(d)をループとして繰り返すことができる。設定値が変わると、現在の設定は不適切となり得、データベース内で新しい1組の要件を識別するように要求することができる。
【0071】
ステップ(c)の各繰返しにおいて、許容可能な1組の仮想要件が識別されない場合に、外骨格1を停止させるステップを含むことができることに留意されたい。
【0072】
装置及びシステム
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法を実施するための外骨格1、特に外骨格タイプの外骨格1に関する。
【0073】
説明したように、外骨格1は、データ処理手段11及びデータ記憶手段12(場合によっては外部にある)、及び必要に応じて慣性測定手段14(慣性ユニット)及び/又は足の地面13への衝撃を検出するための手段13(接触センサ又は場合によっては圧力センサ)を含む。
【0074】
その外骨格1は、データ処理手段11により制御されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの自由度と少なくとも1つの非作動自由度とを含む複数の自由度を有する。
【0075】
データ記憶手段12は、
・作動される自由度に関する1組の仮想要件であって、位相変数によってパラメータ化されている仮想要件、
・非作動自由度度及び位相変数の可能な値の全てのnタプルによって形成される位相的集まりにおける少なくとも1つの引き付ける安定軌道を実行することによって仮想要件を満たすように、アクチュエータのコマンドを生成することができる外骨格1のためのコントローラ、及び
・位相パラメータの所与の値に対して集まりの超平面の全ての点によって形成される安定性プールであって、そこからコントローラの実行によって引き付ける安定軌道への収束が可能になる、安定性プール、
から構成される3つ組のデータベースを記憶する。
【0076】
そして、データ処理手段11は、
・開始要求が受信されると、外骨格1を傾斜状態にする(及び、オプションで速度及び/又は方向設定値を決定する)ように、アクチュエータのうちの少なくとも1つにコマンドを生成して発するモジュール、
・データベース記憶手段12において、傾斜状態がこの組の仮想要件に関連する安定性プールに含まれる(且つ、歩行速度及び/又は方向設定値が満たされる)ように、1組の仮想要件を識別するモジュール、及び
・外骨格1が歩く(又は、許容可能な1組の仮想要件が決定されない場合に、外骨格1を停止させる)ように識別された1組の仮想要件に関連するコントローラの実行モジュール、を実施するように構成される。
【0077】
コンピュータプログラム製品
第3及び第4の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様による外骨格1を動かすための方法を(処理手段11上で)実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム製品に関するだけでなく、このコンピュータプログラム製品が配置されるコンピュータ機器可読記憶手段(例えば、データ記憶手段12)にも関する。