IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 原田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アンテナ構造体 図1
  • 特許-アンテナ構造体 図2
  • 特許-アンテナ構造体 図3
  • 特許-アンテナ構造体 図4
  • 特許-アンテナ構造体 図5
  • 特許-アンテナ構造体 図6
  • 特許-アンテナ構造体 図7
  • 特許-アンテナ構造体 図8
  • 特許-アンテナ構造体 図9
  • 特許-アンテナ構造体 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】アンテナ構造体
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/16 20060101AFI20221110BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01Q15/16
H01Q1/22 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020060448
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021158648
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田代 有吾
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 祥一
(72)【発明者】
【氏名】飯野 慎治
【審査官】佐々木 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0190138(US,A1)
【文献】特開2020-195006(JP,A)
【文献】特開2018-129768(JP,A)
【文献】特開2004-179790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/16
H01Q 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられるアンテナ構造体であって、
対象波を送受信するために前記車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、
前記ルーフパネルよりも前記車両の後方側に設けられ、前記対象波の1波長未満の距離だけ前記アンテナ装置から離間して配置された絶縁性の外装部品と、
前記外装部品に設けられ、前記ルーフパネルに対して容量結合により高周波的に結合するように前記ルーフパネルに近接して配置された面状の導体と、
を備える、アンテナ構造体。
【請求項2】
前記導体が、金属製の薄膜である、請求項1に記載のアンテナ構造体。
【請求項3】
前記導体が、前記外装部品の内部に設けられている、請求項1又は2に記載のアンテナ構造体。
【請求項4】
前記導体が、前記外装部品の内面又は外面に沿って設けられている、請求項1又は2に記載のアンテナ構造体。
【請求項5】
前記導体が、主部と、前記主部から折り返された折り返し部とを有し、前記折り返し部は、前記ルーフパネルに少なくとも部分的に対面している、請求項1~4の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項6】
前記導体と前記ルーフパネルとの間の距離が、5mm以下である、請求項1~5の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項7】
前記導体が前記ルーフパネルに対して接触している、請求項1~6の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項8】
前記アンテナ装置が、前記対象波の半波長のアンテナ長を有するアンテナエレメントを含む、請求項1~7の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項9】
前記アンテナ装置が、前記ルーフパネル上に取り付けられたアンテナベースを含み、
前記車両の車幅方向において、前記導体の幅が、前記アンテナベースの幅よりも広く、前記外装部品の幅よりも狭い、請求項1~8の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【請求項10】
前記外装部品が、リアスポイラである、請求項1~9の何れか一項に記載のアンテナ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を受信するために車両のルーフパネル上に取り付けられるアンテナ装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、車両のルーフパネル上に設けられたアンテナベースと、アンテナベース上に設けられた複数のアンテナと、複数のアンテナを収容するアンテナケースとを備え、同軸ケーブルを介して複数のアンテナで受信された信号を車内に設けられた電子機器へ出力するアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2008-22430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなアンテナ装置は、車両デザインによって定められた位置に配置される。ここで、アンテナ装置の性能は、車両上の配置位置によって影響を受ける場合がある。例えば、リアスポイラ等の外装部品を有する車両にアンテナ装置が搭載される場合には、当該アンテナ装置を外装部品に近接する位置に配置すると、外装部品によって当該アンテナ装置の放射パターンに乱れが生じ、その結果、アンテナ装置の性能が劣化することがある。
【0005】
したがって、外装部品に起因するアンテナ装置の性能の劣化を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、車両に取り付けられるアンテナ構造体が提供される。このアンテナ構造体は、対象波を送受信するために車両のルーフパネル上に設けられたアンテナ装置と、ルーフパネルよりも車両の後方側に設けられ、対象波の1波長未満の距離だけアンテナ装置から離間して配置された絶縁性の外装部品と、外装部品に設けられ、ルーフパネルに対して容量結合するようにルーフパネルに近接して配置された面状の導体と、を備える。
【0007】
上記のように、アンテナ装置と外装部品との間の距離が短くなるとアンテナ装置の性能が劣化することがある。本発明者は、特に、アンテナ装置と外装部品との間の距離が対象波の1波長未満であるときに、アンテナ装置の性能が顕著に劣化することを見出した。このような性能の劣化は、アンテナ装置と外装部品との距離が短くなるにつれて、アンテナ装置後方のアース面が小さくなることに起因していると推定される。上記態様に係るアンテナ構造体では、外装部品に設けられた面状の導体がルーフパネルに対して容量結合するようにルーフパネルに近接して配置されているので、当該導体は、ルーフパネルを介して高周波的に接地されることになる。したがって、当該導体によってアンテナ装置後方のアース面を実質的に拡大することができるので、アンテナ装置の性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0008】
一実施形態では、導体が、金属製の薄膜であってもよい。金属製の薄膜を用いることによって、コストの増加を抑えつつ、アンテナ装置の性能の劣化を抑制することができる。
【0009】
一実施形態では、導体が、外装部品の内部に設けられていてもよい。導体が外装部品の内部に設けられることで、車両デザインに影響を与えることなく、アンテナ装置の性能の劣化を抑制することができる。
【0010】
一実施形態では、導体が、外装部品の内面又は外面に沿って設けられていてもよい。導体が、外装部品の内面又は外面に沿って設けることにより、アンテナ装置の性能の劣化を効果的に抑制することができる。
【0011】
一実施形態では、導体が、主部と、主部から折り返された折り返し部とを有し、折り返し部は、ルーフパネルに少なくとも部分的に対面していてもよい。折り返し部をルーフパネルに少なくとも部分的に対面させることによって、導体とルーフパネルとをより確実に容量結合させることができる。
【0012】
一実施形態では、導体とルーフパネルとの間の距離が、5mm以下であってもよい。導体とルーフパネルとの間の距離を短くすることによって、導体とルーフパネルとの間の静電容量を増加させることができるので、導体とルーフパネルとをより確実に容量結合させることができる。
【0013】
一実施形態では、導体がルーフパネルに対して接触していてもよい。導体をルーフパネルに対して接触させることで、導体とルーフパネルとを電気的に結合することができるので、アンテナ装置の性能の劣化を効果的に抑制することができる。
【0014】
一実施形態では、アンテナ装置が、対象波の半波長のアンテナ長を有するアンテナエレメントを含んでいてもよい。対象波の半波長のアンテナ長を有するアンテナエレメントは、1/4波長のアンテナ長を有するアンテナエレメントよりもアースの影響を受けにくい性質を有しているので、アンテナ装置と外装部品との距離が短い場合であっても、アンテナ装置の性能の劣化を抑制することができる。
【0015】
一実施形態では、アンテナ装置が、ルーフパネル上に取り付けられたアンテナベースを含み、車両の車幅方向において、導体の幅が、アンテナベースの幅よりも広く、外装部品の幅よりも狭くてもよい。このような幅を有する導体を用いることにより、導体の面積の増加を抑えつつ、アンテナ装置の性能の劣化を抑制することができる。
【0016】
一実施形態では、上記外装部品が、リアスポイラであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、外装部品に起因するアンテナ装置の性能の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態のアンテナ構造体が搭載された車両の側面図である。
図2】一実施形態のアンテナ構造体が搭載された車両の平面図である。
図3】アンテナ装置の一部を破断して示す斜視図である。
図4】リアスポイラ付近を拡大して示す側面図である。
図5】アンテナ装置の平均利得を示すグラフである。
図6】アンテナ装置の水平方向の放射パターンを示す図である。
図7】実験例1、実験例2及び比較実験例1に係るアンテナ装置の平均利得を示すグラフである。
図8】実験例3及び比較実験例2に係るアンテナ装置の車両後方側の利得を示す図である。
図9】アンテナ構造体の変形例を示す図である。
図10】アンテナ構造体の別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する部分には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、一実施形態のアンテナ構造体10が搭載された車両1の側面図であり、図2は、車両1の平面図である。図1及び図2に示すように、アンテナ構造体10は、車両1に搭載されており、アンテナ装置12、リアスポイラ(外装部品)14及び導体16を備えている。
【0021】
アンテナ装置12は、対象波を送受信するための通信用アンテナであり、車両1のルーフパネル2上に設けられている。図3は、アンテナ装置12の一部を破断して示す斜視図である。図3に示すように、アンテナ装置12は、アンテナベース21、複数のアンテナ素子22a,22b,22c及びカバー23を備えている。
【0022】
アンテナベース21は、例えば金属製、合金製又は樹脂製の架台であり、ルーフパネル2上に固定されている。アンテナベース21は、複数のアンテナ素子22a,22b,22cを支持している。アンテナベース21には、複数のアンテナ素子22a,22b,22cに接続されたケーブル類を挿通させる開口部が形成されている。
【0023】
複数のアンテナ素子22a,22b,22cは、アンテナベース21上に設けられている。アンテナ素子22aは、例えば車車間通信又は路車間通信用のDSRC(Dedicated Short Range Communications)アンテナであり、例えば5.8GHzの帯域の電波を用いて双方向の無線通信を行う。このアンテナ素子22aは、上下方向に延在する長尺状のアンテナエレメントであり、送受信する電波(対象波)の半波長のアンテナ長を有している。アンテナ素子22bは、例えば衛星デジタルラジオ用のSXM(Sirius XM)アンテナである。アンテナ素子22cは、例えば測位情報を受信するGNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナである。以下では、アンテナ素子22aによって送受信される5.8GHzの帯域の電波を対象波として説明する。
【0024】
複数のアンテナ素子22a,22b,22cは、アンテナベース21上に設けられた回路基板24a,24b,24cに対してそれぞれ電気的に接続されている。回路基板24a,24b,24cは、例えば電子回路を備えており、回路基板24a,24b,24cによって調整された信号は、アンテナベース21の開口部に挿通されたケーブル類を介して車両1内に設けられた機器に出力される。
【0025】
カバー23は、例えば樹脂によって構成され、アンテナベース21、複数のアンテナ素子22a,22b,22c及び回路基板24a,24b,24cを覆っている。カバー23は、例えば複数のねじによってアンテナベース21に固定されている。カバー23の縁は、パッド25に接することでカバー23の内部を密封する。
【0026】
リアスポイラ14は、ルーフパネル2の後方に設けられ、車両1の走行時に当該車両1の周囲の空気流を整流する外装部品である。リアスポイラ14は、主に樹脂によって構成されており、その内部に導線等の導電性の金属部材を含んでいる。リアスポイラ14は、送受信する電波(対象波)の1波長未満の距離だけアンテナ装置12の後方に離間して配置されている。例えば、アンテナ装置12によって送受信される対象波が、5.8GHzの周波数帯である場合には、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離Dは51.7mmよりも小さく設定される(図2参照)。
【0027】
また、リアスポイラ14は、ルーフパネル2の後端面2aに対して離間して設けられている(図4参照)。ルーフパネル2の後端面2aとリアスポイラ14との間の離間距離は、例えば5mmに設定されている。ルーフパネル2の後端面2aとリアスポイラ14とが離間していることによって、車両1のバックドア3の開閉が許容される。
【0028】
図1に示すように、リアスポイラ14は、車両1の後方側から前方側に向かうにしたがって肉厚が薄くなるような流線形状をなしている。また、図2に示すように、リアスポイラ14は、上面視において略台形状をなしており、車両1の前後方向において長さLsを有し、車両1の車幅方向において幅Wsを有している。
【0029】
リアスポイラ14には、導体16が設けられている。この導体16は、アンテナ装置12の放射パターンの乱れを抑制する機能を有している。導体16は、銅箔、アルミ箔といった金属製の薄膜であり、平面状又は曲面状といった面状をなしている。なお、導体16は、金属製の薄膜に限定されるものではなく、導電性を有する面状体であればよい。例えば、導体16は、平面状又は曲面状の金属プレートであってもよいし、導電性を有する塗料、プライマー及びゴム等であってもよい。また、導体16は、面状と等価であれば網状や縞状であってもよい。
【0030】
図4に示すように、導体16は、リアスポイラ14の表面(外面)の少なくとも一部に沿って設けられている。導体16は、ルーフパネル2に対して容量結合する程度にルーフパネル2に近接して設けられている。ルーフパネル2と導体16とが容量結合されることによって、導体16は、ルーフパネル2に対して高周波的に結合される。その結果、導体16は、接地電位を有することになる。一実施形態では、導体16は、車両1のルーフパネル2に対して離間して設けられていてもよい。なお、図4に示すように、導体16は、リアスポイラ14の上面の一部を覆う主部16aと、主部16aから折り返されてリアスポイラ14の先端側の表面(ルーフパネル2側の表面)を覆う折り返し部16bとを有していてもよい。この折り返し部16bは、ルーフパネル2の後端面2aに近接して配置されており、少なくとも部分的に後端面2aと対面している。このように、後端面2aと折り返し部16bとが、互いに近接し、且つ、対面するように配置されることにより、ルーフパネル2と導体16とをより確実に容量結合することができる。
【0031】
なお、ルーフパネル2と導体16との間の距離は、ルーフパネル2と導体16とが容量結合する限り任意の距離に設定することができるが、例えばルーフパネル2と導体16との間の距離が、5mm以下に設定されていてもよい。また、ルーフパネル2と導体16とを容量結合させるために、アンテナ構造体10は、ルーフパネル2と導体16との間に0.025pF以上の静電容量を有していてもよい。
【0032】
図2に示すように、導体16は、上方からの平面視において略台形状又は略矩形状をなしている。導体16は、車両1の前後方向において長さLcを有しおり、車両1の車幅方向において幅Wcを有している。一実施形態では、導体16の幅Wcは、車両1の車幅方向において、アンテナ装置12のアンテナベース21の幅Waよりも広く、リアスポイラ14の幅Wsよりも狭くてもよい。例えば、導体16の幅Wcは、50mm~150mmに設定される。
【0033】
ここで、従来のアンテナ構造体の問題点について説明する。従来のアンテナ構造体は、リアスポイラ14に導体16が設けられていない点で、図1に示すアンテナ構造体10と異なっている。
【0034】
まず、従来のアンテナ構造体を用いて、アンテナ装置12の設置位置とアンテナ装置12の性能との関係について実験により評価した。図5に示すグラフは、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離D(図2参照)を95mmに設定したときのアンテナ装置12のアンテナ素子22aの平均利得と、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離Dを45mmに設定したときのアンテナ装置12のアンテナ素子22aの平均利得を表している。図5に示すように、距離Dを45mmに設定した場合には、距離Dを95mmに設定した場合と比較して、アンテナ素子22aの平均利得が減少することが確認された。言い換えれば、アンテナ装置12を車両1の後方側に配置した場合には、アンテナ装置12を車両1の前方側に配置した場合よりもアンテナ装置12の性能が劣化した。このような性能の劣化は、アンテナ装置12の後方のアース面が小さくなり、アンテナ装置12の放射パターンに乱れが生じたことに起因していると推定される。
【0035】
次いで、従来のアンテナ構造体を用いて、リアスポイラ14の有無によるアンテナ装置12の性能への影響について実験により評価した。図6(a)は、リアスポイラ14が取り外された車両1のルーフパネル2上にアンテナ装置12を配置したときのアンテナ素子22aの水平方向の放射パターンを示している。図6(b)は、リアスポイラ14を有する車両1のルーフパネル2上にアンテナ装置12を配置したときのアンテナ素子22aの水平方向の放射パターンを示している。なお、これらの実験では、アンテナ装置12をルーフパネル2上の同じ位置に配置した。
【0036】
図6(a)及び(b)に示すように、リアスポイラ14を有する車両1にアンテナ装置12を設置した場合には、リアスポイラ14を備えない車両にアンテナ装置12を設置した場合に比べて、アンテナ装置12の放射パターンに乱れが生じることが確認された。特に、車両1にリアスポイラ14が設けられている場合には、車両後方側(180°方向)においてアンテナ装置12の利得が大幅に低下することが確認された(図6(b)参照)。利得の低下は、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離Dが小さいほど顕著であった。
【0037】
このような放射パターンの乱れが生じる原因としては、リアスポイラ14の樹脂を透過して波長短縮が生じた電波とリアスポイラ14を透過していない電波との間に干渉が生じて位相が乱れることが考えられる。
【0038】
上述のように、図5及び図6に示す実験結果から、従来のアンテナ構造体では、アンテナ装置12をリアスポイラ14を有する車両1に搭載し、且つ、アンテナ装置12とリアスポイラ14との距離Dを小さく設定した場合に、アンテナ装置12の性能が劣化することが確認された。
【0039】
次いで、上記実施形態に係るアンテナ構造体10の作用効果について説明する。上述のように、アンテナ構造体10では、ルーフパネル2に容量結合する導体16がリアスポイラ14に設けられている。この導体16は、ルーフパネル2との容量結合によってルーフパネル2を介して高周波的に接地されるので、接地電位を有するアース面として機能する。よって、導体16によってアンテナ装置12の後方のアース面を実質的に拡大することができ、その結果、アンテナ装置12の性能が劣化することを抑制することができる。
【0040】
また、上記実施形態では、導体16の折り返し部16bがルーフパネル2の後端面2aに部分的に対面するように設けられているので、導体16とルーフパネル2とをより確実に容量結合させることができる。さらに、導体16の幅Wcが、アンテナベース21の幅よりも大きいので、導体16によって提供されるアース面を広くすることができ、その結果、アンテナ装置12の特性の劣化を効果的に抑制することができる。なお、車両1のデザイン面の理由等から、一般的に導体16を配置する位置には制限が課されるが、導体16の幅Wcがリアスポイラ14の幅Wsよりも小さいので、導体16の面積の増加を抑えることができ、その結果、導体16をリアスポイラ14に設置し易くすることができる。
【0041】
以下、実験例に基づいて本発明の作用効果についてより具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0042】
実験例1及び実験例2では、図1に示す車両1に上述したアンテナ構造体10を搭載して、アンテナ装置12のアンテナ素子22aの平均利得を測定した。実験例1及び実験例2では、アンテナ装置12とリアスポイラ14との間の距離Dを45mmとした。また、実験例1では、導体16の長さLcを50mmとし、実験例2では、導体16の長さLcを100mmとした。また、実験例1及び実験例2では、導体16の幅Wcをリアスポイラ14の幅Wsと同じ幅にした。一方、比較実験例1では、リアスポイラ14に導体16を設けなかった以外は、実験例1及び実験例2と同じ条件でアンテナ素子22aの平均利得を測定した。
【0043】
図7は、実験例1、実験例2及び比較実験例1によって測定されたアンテナ素子22aの平均利得を示すグラフである。図7に示すように、5700MHz~6000MHzの全周波数帯において、実験例2によって測定された平均利得は実験例1によって測定された平均利得よりも大きく、実験例1によって測定された平均利得は比較実験例1によって測定された平均利得よりも大きかった。これらの実験結果から、リアスポイラ14に導体16を設けることによってアンテナ装置12の特性を改善することができ、且つ、導体16の幅Wcを大きくすることでアンテナ装置12の特性をより改善できることが確認された。
【0044】
次に、ルーフパネル2と導体16との容量結合の効果について評価した。実験例3では、ルーフパネル2と導体16とが容量結合するようにルーフパネル2と導体16とを近接させて配置した。具体的に、実験例3では、ルーフパネル2と導体16との間の距離を5mmに設定した。一方、比較実験例2では、ルーフパネル2と導体16とが容量結合しないように、ルーフパネル2と導体16とを5mm離間させて配置した。
【0045】
図8に示すグラフは、実験例3及び比較実験例2によって得られたアンテナ素子22aの車両後方側の利得と導体16の長さLcとの関係を表している。図8に示すように、比較実験例2では、導体16の長さLcが大きくなるにつれてアンテナ装置12の利得が低下した。一方、実験例3では、導体16の長さLcが大きくなっても利得は低下しなかった。これらの結果から、ルーフパネル2に対して容量結合されていない導体16がリアスポイラ14に設けられているとアンテナ素子22aの利得が低下することが確認された。特に、導体16の長さLcが大きくなるほど、アンテナ素子22aの利得が大きく低下することが確認された。一方、ルーフパネル2に対して導体16が容量結合している場合には、導体16の長さLcに関わらず、アンテナ素子22aの利得の低下を抑制することができることが確認された。
【0046】
以上、種々の実施形態に係るアンテナ構造体10について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、導体16がリアスポイラ14のみを覆うように設けられているが、一実施形態では、導体がリアスポイラ14及びルーフパネル2に対して接触していてもよい。図9は、変形例に係るアンテナ構造体10Aを示している。図9に示すように、アンテナ構造体10Aは、導体16Aを有しており、導体16Aは、リアスポイラ14の一部、及び、ルーフパネル2の一部を覆うように設けられている。この変形例では、導体16Aは、ルーフパネル2の表面の塗膜を介してルーフパネル2の金属板に対して容量結合する。したがって、この変形例でも、導体16Aが、ルーフパネル2を介して高周波的に接地されるので、アンテナ装置12の後方側のアース面を実質的に拡大することができる。よって、上述のアンテナ構造体10と同様にリアスポイラ14に起因するアンテナ装置12の性能の劣化を抑制することができる。
【0048】
また、一実施形態では、導体が、リアスポイラ14の内部に設けられていてもよい。図10(a)は、別の変形例に係るアンテナ構造体10Bを示している。図10(a)に示すように、アンテナ構造体10Bは導体16Bを有しており、導体16Bは、リアスポイラ14の内部に設けられ、車両1の車幅方向から見て略U字状をなしている。より詳細には、導体16Bは、リアスポイラ14の表面に沿うようにリアスポイラ14の内部に配置された主部160aと、主部160aに対して略垂直に折り返された第1の折り返し部160bと、主部160aに対面するように第1の折り返し部160bに対して略垂直に折り返された第2の折り返し部160cとを有している。第1の折り返し部160bは、ルーフパネル2の後端面2aに近接して配置されており、少なくとも部分的に後端面2aと対面している。したがって、導体16Bは、ルーフパネル2を介して高周波的に接地される。よって、上述のアンテナ構造体10と同様にリアスポイラ14に起因するアンテナ装置12の性能の劣化を抑制することができる。
【0049】
また、導体は、ルーフパネル2の後端面2aに対面していなくてもよい。図10(b)は、別の変形例に係るアンテナ構造体10Cを示している。図10(b)に示すように、アンテナ構造体10Cは導体16Cを有しており、導体16Cは、リアスポイラ14の表面に沿うようにリアスポイラ14の内部に配置された主部161aと、主部161aに対して鋭角をなすように折り返された折り返し部161bとを有している。この変形例では、折り返し部161bがルーフパネル2の後端面2aに対面していないものの、折り返し部161bを後端面2aに近接して配置することによって、ルーフパネル2と導体16とを容量結合させている。したがって、この変形例でも、導体16Cがルーフパネル2を介して高周波的に接地されるので、上述のアンテナ構造体10と同様にリアスポイラ14に起因するアンテナ装置12の性能の劣化を抑制することができる。
【0050】
なお、導体16は、リアスポイラ14の外面に沿って設けられてもよいし、リアスポイラ14の内面に沿って設けられてもよい。また、リアスポイラ14の表面に導電性の塗膜を形成し、当該塗膜をルーフパネル2に対して容量結合させてもよい。この場合には、リアスポイラ14の表面に形成された塗膜が、面状の導体16として機能するので、上述のアンテナ構造体10と同様にリアスポイラ14に起因するアンテナ装置12の性能の劣化を抑制することができる。
【0051】
さらに、上記実施形態では、リアスポイラ14に導体16を設けているが、リアスポイラ14とは異なる絶縁性の外装部品に導体16を設けてもよい。リアスポイラ以外の外装部品に導体16を設けた場合であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。また、外装部品は、例えばガラスのように樹脂とは異なる絶縁性の材料によって構成されていてもよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、上面視において、リアスポイラ14及び導体16が略台形状をなしているが、リアスポイラ14及び導体16の形状は略台形状に限定されず、矩形状、多角形状等の任意の形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…車両、2…ルーフパネル、2a…後端面、3…バックドア、10,10A,10B,10C…アンテナ構造体、12…アンテナ装置、14…リアスポイラ、16,16A,16B,16C…導体、16a…主部、16b…折り返し部、21…アンテナベース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10