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特許7174737可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物が添加された食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物が添加された食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20221110BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20221110BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20221110BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D13/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020104363
(22)【出願日】2020-06-17
(62)【分割の表示】P 2016060706の分割
【原出願日】2016-03-24
(65)【公開番号】P2020146067
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2015087723
(32)【優先日】2015-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】東 杏子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-153477(JP,A)
【文献】特開2012-034687(JP,A)
【文献】特開2013-226117(JP,A)
【文献】特開2012-125236(JP,A)
【文献】特開2010-252668(JP,A)
【文献】特開2002-338992(JP,A)
【文献】特開2003-204753(JP,A)
【文献】特開2014-162734(JP,A)
【文献】日本油化学会誌,1996年,vol.45, no.1,pp.29-36
【文献】マーガリン ショートニング ラード(株式会社光琳),1979年,pp.174-183
【文献】油化学,1994年,vol.43, no.12,pp.18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A21D 2/00-17/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含む可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量が、前記可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であり、
前記可塑性油脂組成物に含まれる飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、37~52質量%であり、
前記可塑性油脂組成物に含まれる全ての前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多く、
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、前記塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.001~2.0質量%である、
可塑性油脂組成物(ただし、下記(i)及び(ii)の油中水型乳化組成物を除く。
(i)下記油脂A、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び糖を含有する焼き菓子用油中水型乳化組成物であり、当該乳化組成物中における前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含量が、0.1~4質量%である焼き菓子用油中水型乳化組成物。
油脂A:5℃における固体脂含量5~80%、15℃における固体脂含量3~50%、25℃における固体脂含量3~40%
(ii)下記油脂A’、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及び糖を含有する焼き菓子用油中水型乳化組成物であり、当該乳化組成物中における前記プロピレングリコール脂肪酸エステルの含量が、1.80質量%であり、当該乳化組成物中における前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含量が、0.05質量%であり、当該乳化組成物中における前記糖の含量が、14.25質量%である、焼き菓子用油中水型乳化組成物。
油脂A’:5℃における固体脂含量33%、15℃における固体脂含量13%、25℃における固体脂含量4%)。
【請求項2】
2飽和-1不飽和型トリグリセリドと1飽和-2不飽和型トリグリセリドとの合計含有量に対するSSU型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドとの合計含有量が、質量比で、0.30~0.60である、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
増粘多糖類を更に含有する、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを更に含有する、請求項1から3のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
製菓製パン用である、請求項1から4のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物が添加された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、焼成品等の食品に添加される様々な可塑性油脂組成物が開発されており、可塑性油脂組成物には、パン類や菓子類等の焼成品の生地に添加することで、パン類や菓子等の焼成品のシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さ等の様々な特性を焼成品に付与することが求められる。
【0003】
特許文献1には、トレハロース1%(w/w)以上を水相中に含有することを特徴とする可塑性油脂組成物が開示されており、該可塑性油脂組成物によると、パン類や菓子類がダマになりにくく、パン類の弾力性を向上させることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、所定量の食用油脂、乳化剤、及び保湿剤を含有し、食用油脂を構成する全脂肪酸残基に対して不飽和脂肪酸残基が75%以上であることを特徴とする可塑性油脂組成物が開示されており、該可塑性油脂組成物をパン生地に配合して得られたパンが、シトリの評価に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-153208号公報
【文献】特開2005-48号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の可塑性油脂組成物は、パン類に一定の弾力性、ダマになりにくさを付与することはできるものの、その弾力性には改善の余地があり、また、シトリを付与するという点においては、十分なものではない。
【0007】
また、特許文献2の可塑性油脂組成物は、パン類や菓子類に、シトリを与える点では、改善の余地があり、また、弾力性、歯切れの良さを付与するという点においては、十分なものではない。
【0008】
他方、パン類、菓子類等の焼成品はソフトな食感が求められる一方で、焼成品がソフトであると流通上潰れやすいため、この観点からも弾力性が求められている。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、パン類や菓子類等の焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる可塑性油脂組成物及びこのような可塑性油脂組成物が添加された食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、可塑性油脂組成物中の、トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量と、飽和脂肪酸との量を所定量に調整することで、パン類や菓子類等の焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 可塑性油脂組成物であって、
該可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量が、前記可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であり、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%である、可塑性油脂組成物。
【0012】
(2) 2飽和-1不飽和型トリグリセリドと1飽和-2不飽和型トリグリセリドとの合計含有量に対するSSU型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドとの合計含有量が、質量比で、0.30~0.60である、(1)に記載の可塑性油脂組成物。
【0013】
(3) ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを更に含み、
前記可塑性油脂組成物に含まれる全ての前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多い、(1)又は(2)に記載の可塑性油脂組成物。
【0014】
(4) 増粘多糖類を更に含有する、(1)から(3)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
【0015】
(5) グリセリン有機酸脂肪酸エステルを更に含有する、(1)から(4)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
【0016】
(6) 製菓製パン用である、(1)から(5)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
【0017】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された食品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、パン類や菓子類等の焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる可塑性油脂組成物及びこのような可塑性油脂組成物が添加された食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
<可塑性油脂組成物>
本発明の可塑性油脂組成物は、該可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であり、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%である。本発明の可塑性油脂組成物は、これにより、焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる。なお、本明細書において、「ダマ」とは、可塑性油脂組成物が添加された焼成品を喫食した場合に焼成品が口中で団子のように結着することをいう。
【0021】
トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸は、分子構造上歪を形成しており、回転運動する際に、分子構造の障害となりやすい。そのため、油脂中の各トリグリセリドの分子同士が近付きにくくなるため、結晶化しにくい状態となる。その結果徐冷時において結晶化部分(固)と非結晶部分(液)とが混在(固液分離)した状態となりやすい。本発明の可塑性油脂組成物は、これにより、パン類、菓子類等の焼成品のシトリを向上させるものと推測される。他方、トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の質量が多すぎると、上述したように、分子構造による結晶化が阻害されることと、相対的に油脂中のオレイン酸量が多くなることに起因し、非結晶部分が多くなり、パン類、菓子類等の焼成品の弾力性が低下し、ダマになりやすくなり、歯切れが悪くなる。一方トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の質量が少なすぎると、分子構造による結晶化の阻害による影響が少ないこと、相対的に油脂中のオレイン酸量が少なくなることに起因し、結晶化部分が多くなり、パン類、菓子類等の焼成品のシトリが低下する。また、可塑性油脂組成物中の油脂の、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、多すぎたり、あるいは少なすぎると、パン類や菓子類等の焼成品のシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さが低下してしまう。本発明の可塑性油脂組成物が、パン類や菓子類等の焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができるのは、上記で述べた性質を有する、トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸と飽和脂肪酸の量のバランスが良いためであると推測される。
【0022】
(油脂)
本発明の可塑性油脂組成物において、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であれば、特に限定されないが、パン類や菓子類等の焼成品は、焼成時に油脂が融解状態となり、その後、室温におかれた際に油脂は、結晶化し、その結晶状態に焼成品の食感は大きく左右される。つまり全体が結晶化した状態の油脂は、焼成品にシトリを付与することができない。他方、融解後、油脂が固液分離の状態であれば焼成品にシトリを付与可能である。そして、上述のとおり、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドは、結晶化がしにくいため、固液分離状態となり焼成品にシトリを付与可能である。このように、トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の量が多いと、それを含有した可塑性油脂組成が添加された焼成品のシトリが向上することから、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、45質量%以上であることがより一層好ましく、50質量%以上であることが最も好ましい。他方、トリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の量が多すぎると、非結晶状態の油脂が多くなりすぎ、得られる焼成品の弾力性、歯切れが低下し、ダマになりやすくなる。このように、可塑性油脂組成が添加された焼成品の弾力性、ダマになりやすさ、歯切れがより向上することから、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、43質量%以下であることが更に好ましく、38質量%以下であることがより一層好ましく、32質量%以下であることが最も好ましい。
【0023】
本明細書において、「S」は、油脂を構成する飽和脂肪酸を意味し、「U」は、油脂を構成する不飽和脂肪酸を意味する。また、トリグリセリドの1、2、3位とは、構成脂肪酸が結合された位置を意味する。
【0024】
本発明の油脂中の構成脂肪酸である飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記数値表記は、各脂肪酸の炭素数である。本発明の油脂中の構成脂肪酸である飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
【0025】
本発明の油脂中の構成脂肪酸である不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。本発明の油脂中の構成脂肪酸である不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
【0026】
2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位がオレイン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド、UOU型トリグリセリド等が挙げられるが、特に限定されない。なお、「O」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸を意味する。焼成品に、優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができることから、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸である場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合、炭素数18の不飽和脂肪酸(オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)等)、炭素数20の不飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4~24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数18の不飽和脂肪酸(オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)等)、炭素数20の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0027】
本発明の可塑性油脂組成物において、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量は、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%であれば特に限定されないが、上記のとおり、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドは、結晶になりにくいが、この2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの量とのバランスで、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量を調整することで、油脂結晶をコントロールすることができ、可塑性油脂組成物が添加された焼成品のシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを向上させることができる。この観点から、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量は、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、30~52質量%であることが好ましく、33~50質量%であることがより好ましく、37~48質量%であることが更に好ましく、40~46質量%であることが最も好ましい。
【0028】
本発明の可塑性油脂組成物において、油脂全体における、2飽和-1不飽和型トリグリセリドと1飽和-2不飽和型トリグリセリドとの合計含有量に対するSSU型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドとの合計含有量は、特に限定されないが、より一層、得られる焼成品のシトリと弾力が向上することから、質量比で、0.30~0.60であることが好ましく、0.35~0.55であることがより好ましく、0.40~0.50であることが更に好ましく、0.42~0.48であることが最も好ましい。
【0029】
本発明の可塑性油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸としてトランス酸を含んでいてもよく、含まなくてもよいが、トランス酸の摂取量が多くなると、人体に摂取された際のLDLコレステロールが増加しうる。よって、これを抑制しやすい観点で、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
【0030】
本発明において、トリグリセリドの構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)により行う。なお、「可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量」は、この方法により測定されるものであるが、その量は、実質的に「油脂全体の質量に対する、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの合計含有量」と同様である。つまり、本発明において、「可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量」は、「油脂全体の質量に対する、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの合計含有量」に置き換えてもよい。
【0031】
(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)
本発明の可塑性油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを更に含んでもよく、含まなくても良いが、焼成品のシトリがより一層良好となることから、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを更に含むことが好ましい。
【0032】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの種類は、特に限定されず、例えば、グリセリンの重合度が2~10であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが挙げられる。また、市販品としては、阪本薬品工業社製のSY グリスターCR-ED(ポリタイプ)、SY グリスターCR-310(テトラグリセリン 重合度4)、SY グリスターCR-500(ヘキサグリセリン 重合度 6)、太陽化学社製のサンソフト 818DG(テトラグリセリン 重合度4)、サンソフト 818R(ペンタグリセリン 重合度5)、サンソフト 818SK(ヘキサグリセリン 重合度6)等が挙げられる。これらのうち、得られる焼成品がダマになりにくいことから、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる全てのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多いことが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸とのエステル化物であり、エステル化反応は公知の方法で製造される。ポリグリセリンは、通常グリセリンもしくはグリシドールやエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。そのため市販品においては、異なる重合度のグリセリンのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの混合物であり、上述の市販品のグリセリンの重合度は、最も多いグリセリンの重合度を示している。特に、焼成品の弾力を得るという観点では、グリセリンの重合度が高いポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(より具体的には、グリセリンの重合度6のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)を用いることが好ましい。また、焼成品にシトリを付与するという観点では、グリセリンの重合度が低いポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(より具体的には、グリセリンの重合度4のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)が好ましい。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのリシノレイン酸の重合度は、特に限定されず、例えば、2~10であるものを使用することができる。
【0033】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、特に限定されないが、得られる焼成品のシトリがより一層良好となること、焼成品に異味が生じにくいことから、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.001~2.0質量%であることが好ましく、0.005~1.5質量%であることがより好ましく、0.01~1.0質量%であることが更に好ましい。0.02~0.6質量%であることが最も好ましい。特に、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる全てのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多い場合は、得られる焼成品に異味が生じにくく、焼成品がダマになりにくいことから、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.01~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.1~1.0質量%であることが更に好ましい。
【0034】
(増粘多糖類)
本発明の可塑性油脂組成物は、更に増粘多糖類を含有してもよく、含有しなくてもよいが、得られる焼成品のシトリ及びダマになりにくさがより一層良好となることから、増粘多糖類を更に含有することが好ましい。
【0035】
増粘多糖類の種類は、特に限定されないが、ジェランガム、カラヤガム、タマリンド種子ガム、タラガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、プルラン、グアガム、イオタカラギナン、ペクチン、トラガントガム、結晶性セルロース、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、SSHC(水溶性大豆多糖類)、ガティガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、サイリウムシード、カシヤガム等が挙げられる。これらのうち、より焼成品のシトリが向上できることから、キサンタンガム、ペクチン、グアガムを用いることが好ましい。別の観点で、特に高い保水力を有し、かつ焼成品のソフトさとシトリが更に向上することから、キサンタンガムを用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
増粘多糖類の含有量は、特に限定されないが、得られる焼成品のシトリ及びダマになりにくさがより一層良好となることから、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.01~7.0質量%であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましく、1.0~3.5質量%であることが更に好ましい。
【0037】
(グリセリン有機酸脂肪酸エステル)
本発明の可塑性油脂組成物は、更にグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有してもよく、含有しなくてもよいが、得られる焼成品の歯切れがより一層良好となることから、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを更に含有することが好ましい。
【0038】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルの種類は、特に限定されないが、例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が挙げられる。これらのうち、得られる焼成品の歯切れがより一層良好となることから、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを用いることが好ましい。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の可塑性油脂組成物中のグリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量は、特に限定されないが、得られる焼成品の歯切れがより一層良好となることから、可塑性油脂組成物全体の質量に対して0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.01~1.5質量であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることが更に好ましく、0.1~1.0質量%であることが最も好ましい。
【0040】
本発明において、グリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量の分析は、HPLC-MS/MSにより行う。
【0041】
(その他)
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態のいずれの形態であってもよい。水相を含有する形態の場合、本発明の可塑性油脂組成物は、特に限定されないが、例えば、マーガリン類であってもよい。また、水相を含有する乳化形態は、特に限定されないが、例えば、油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型等が挙げられる。この場合の油相の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは55~99.95質量%であり、より好ましくは60~99.4質量%であり、更に好ましくは65~98質量%である。また、水相の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは0.5~45質量%であり、より好ましくは、0.6~40質量%であり、更に好ましくは、2~35質量%である。乳化形態は、特に焼成品に優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる点で、油中水型であることが好ましい。
【0042】
マーガリン類とは、マーガリン又はファットスプレッドのことを指す。マーガリンは、油脂を80質量%以上含み、ファットスプレッドは、油脂を80質量%未満含むものである。
【0043】
水相を実質的に含有しない形態としては、ショートニングが挙げられる。本発明において、「実質的に含有しない」とは、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下であることである。
【0044】
本発明の可塑性油脂組成物は、上記のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤を含んでもよく、含まなくてもよいが、そのような乳化剤としては、例えば、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明の可塑性油脂組成物は、上記のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤として、焼成品の保存時におけるシトリを向上できることから、モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。モノグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は、特に限定されないが、0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.05~3.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.0質量%であることが更に好ましく、0.5~1.5質量%であることが最も好ましい。
【0045】
モノグリセリンモノ脂肪酸エステルの種類は、特に限定されず、例えば、モノグリセリンモノステアリン酸エステル、モノグリセリンモノオレイン酸エステル、モノグリセリンモノリノール酸エステル、モノグリセリンモノラウリン酸エステル、モノグリセリンモノミリスチン酸エステル、モノグリセリンモノパルミチン酸エステル、モノグリセリンモノアラキジン酸エステル、モノグリセリンモノベヘン酸エステル、モノグリセリンモノリグノセリン酸エステル、モノグリセリンモノミリストレイン酸エステル、モノグリセリンモノパルミトレイン酸エステル、モノグリセリンモノリノレン酸エステル、モノグリセリンモノエルカ酸エステル、モノグリセリンモノカプリン酸エステル、モノグリセリンモノカプリル酸エステル、モノグリセリンモノカプロン酸エステル、モノグリセリンモノ酪酸エステル、モノグリセリンモノデカン酸エステル、モノグリセリンモノノナン酸エステル、モノグリセリンモノオクタン酸エステル、モノグリセリンモノヘプタン酸エステル、モノグリセリンモノヘキサン酸エステル、モノグリセリンモノペンタン酸エステル、モノグリセリンモノブタン酸エステル等が挙げられる。これらのうち、焼成品の保存時におけるシトリを向上できることから、モノグリセリンモノステアリン酸エステルを用いることが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の可塑性油脂組成物は、上記以外の成分として、糖質分解酵素、リン脂質分解酵素等の酵素を含んでもよく、含まなくてもよい。本発明の可塑性油脂組成物は、酵素のうち、糖質分解酵素又はリン脂質分解酵素の少なくとも一方を含むことで、焼成品のシトリを向上することができる。通常、糖質分解酵素、リン脂質分解酵素を用いると、焼成品が弾力性を失いやすいが、本発明の可塑性油脂組成物は、糖質分解酵素、リン脂質分解酵素を含んだ場合においても、焼成品が弾力性を失わず、焼成品にソフトさを付与することができる。このように、焼成品の弾力性を維持しつつ、焼成品のシトリを向上できることから、糖質分解酵素、リン脂質分解酵素を含むことが好ましい。
【0047】
本発明における糖質分解酵素は、特に限定されないが、例えば、αアミラーゼ、βアミラーゼ、イソアミラーゼ、グルコアミラーゼ、キシラナーゼ、ガラクタナーゼ、セルラーゼ等が挙げられる。これらのうち、αアミラーゼを用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明におけるリン脂質分解酵素は、特に限定されないが、例えば、ホスホリパーゼA、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼD等が挙がられる。これらのうち、ホスホリパーゼAを用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の可塑性油脂組成物における糖質分解酵素又はリン脂質分解酵素の、可塑性油脂組成物中における合計含有量は、特に限定されず、例えば、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.0001~0.01質量%であってもよいが、0.001~0.01質量%であることが好ましい。なお、上記糖質分解酵素又はリン脂質分解酵素の可塑性油脂組成物中の含有量は、いずれも可塑性油脂組成物に含まれる場合は、糖質分解酵素及びリン脂質分解酵素の合計含有量であってもよく、各々の含有量であってもよい。
【0050】
本発明の可塑性油脂組成物は、上記成分以外に、従来の公知の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。そのような公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、乳、乳製品、酵素以外の蛋白質、増粘多糖類以外の糖質、塩類、卵加工品、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、調味料、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、ウイスキー・ウォッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、乳製品を酵素処理した呈味剤、香辛料、着色成分、香料等の食品素材や食品添加物が挙げられる。乳としては、例えば、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。酵素以外の蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。増粘多糖類以外の糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール等が挙げられる、抗酸化剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン、アナトー等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。
【0051】
本発明の可塑性油脂組成物の用途は特に限定されず、製菓又は製パン用、バタークリーム用、スプレッド用に用いることができる。特に、本発明の可塑性油脂組成物は、製菓又は製パン用として用いた場合に、焼成品に優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる。このことから、本発明の可塑性油脂組成物は、製菓又は製パン用として用いることが好ましい。製菓又は製パン用としては、ロールイン用、練り込み用等が挙げられる。
【0052】
パン類として、食材を配合するようなもの(例えば、サンドイッチのような食材を挟むもの等)は、食材の重みでパンが潰れ、外観を損ねやすい。またパンが潰れると、食材と一緒に喫食してもパンの存在感がなく、食材とのバランスが悪くなる。特に、サンドイッチのような薄くスライスするものは、ソフトであると断面が潰れやすく、四角の形状を保つことが難しく、カットの際にパン屑が発生しやすく、加工耐性あるものが求められる。このような問題に対し、本発明の可塑性油脂組成物によると、焼成品に優れた弾力性を与えることができるため、食材を配合するパンの製造用に用いることにより、食材の重みでパンが潰れることを抑制でき、また、加工耐性を付与することができる。そのため、本発明の可塑性油脂組成物によると、焼成品の外観を損ねることや、食材とのバランスが悪くなることを抑制でき、また、カットの際にパン屑を防止しやすい。このことから、本発明の可塑性油脂組成物は、食材が配合されたパン(以下、本明細書において、「食材配合パン」という。)の製造用として用いることが好ましい。食材配合パンとしては、例えば、サンドイッチ、ドックパン、バターロール等が挙げられる。食材配合パンは、薄いにもかかわらず、形状を保ちやすく、また、カットの際にパン屑を防止しやすく、加工耐性を付与することができることから、サンドイッチとして用いることが好ましい。
【0053】
<可塑性油脂組成物の製造方法>
本発明の可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態のもの(マーガリン類等)は、本発明の油脂組成物を含む油相と水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のもの(ショートニング)は、本発明の油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じて熟成(テンパリング)して、得ることができる。
【0054】
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を含有する場合は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、水相、油相いずれにも添加できるが、油相に添加し溶解することが好ましい。
【0055】
増粘多糖類は、あらかじめ水相、又は油相に添加してもよく、あるいは、可塑性油脂組成物を製造した後添加することもできるが、油相に添加し分散することが、生地への分散性が向上し、焼成品のシトリ及びダマになりにくさが一層向上するので好ましい。
【0056】
本発明の可塑性油脂組成物の製造に用いられる油脂としては、特に限定されないが、パーム系油脂、ラウリン系油脂、豚脂(ラード)、牛脂、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、乳脂、それらの分別油又はそれらの加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。油脂中の2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの合計含有量と飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量を適宜調整するために、これらの油脂としては、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。
【0057】
以下に、本発明の可塑性油脂組成物の製造に用いる油脂について、より具体的な例示を示す。本発明の油脂は、例えば、以下のA油脂、B油脂及びC油脂を組み合わせることで調製することができる。
【0058】
(A油脂)
本明細書において、「A油脂」とは、3飽和量が20~65質量%(例えば、20~50)でありヨウ素価が20~40である油脂のことを指す。このようなA油脂としては、特に限定されないが、例えば、上記で述べたパーム系油脂、パーム系油脂のエステル交換油脂等を挙げることができ、1種以上組合せて使用することもできる。中でも、パーム分別硬質油、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を用いることで結晶核となり、その結果、他油脂の結晶を誘発し結晶量が確保され、焼成品に弾力性を付与できる。なお、本明細書において、油脂の「3飽和量」とは、その油脂全体の質量に対する、その油脂に含まれる3飽和型トリグリセリドの質量を指し、例えば、上記A油脂の「3飽和量」は、A油脂全体の質量に対する、A油脂に含まれる3飽和型トリグリセリドの質量を意味する。
【0059】
(B油脂)
本明細書において、「B油脂」とは、3飽和量が2~20質量%未満である油脂のことを指す。(但し「B油脂」としては、前述の「A油脂」及び後述の「C油脂」は包含しない。)このようなB油脂としては、特に限定されないが、例えば、A油脂、C油脂以外の植物油脂、動物油脂(豚脂(ラード)、牛脂等)、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂が挙げられる。中でも、A油脂との相溶性を考慮すると、パーム系油脂であるパーム油、パーム分別軟質部、パーム分別軟質部のエステル交換油脂、豚脂等を組わせて用いることが好ましい。
【0060】
(C油脂)
本明細書において、「C油脂」とは、3飽和量が2%未満である油脂、又は3飽和量が50質量%超である油脂(但し「C油脂」としては、前述の「A油脂」及び「B油脂」は包含しない。)のことを指す。
【0061】
3飽和量が2%未満である油脂としては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
3飽和量が50質量%超である油脂としては、特に限定されないが、植物油脂又は動物油脂の硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)や分別油の硬質油、これらを含む油脂を原料とするエステル交換油脂等が挙げられる。これらの中でも、植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂を用いることが好ましい。植物油脂の極度硬化油としては、例えば、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられる。動物油脂の極度硬化油としては、例えば、豚脂極度硬化油、牛脂極度硬化油等が挙げられる。焼成品の口溶けが良好となる観点からは、融点が50℃以上の極度硬化油を用いる場合は、油脂全量に対し、5質量%以下とすることが好ましい。
【0063】
以上で述べたA油脂、B油脂の配合割合は、A油脂は、全油脂に対して3~30質量%で配合することが好ましく、B油脂は、全油脂に対して45~95質量%で配合することが好ましく、C油脂は、全油脂に対して0~52質量%で配合することが好ましい。
【0064】
<可塑性油脂組成物が添加された食品>
本発明は、上記可塑性油脂組成物が添加された食品を包含する。
【0065】
食品は、特に限定されないが、焼成品であることが好ましい。焼成品は、特に限定されないが、例えば、菓子類(例えば、パイ、ケーキ(パウンドケーキ等)、クッキー、ビスケット、クラッカー、ワッフル、スコーン、シュー、ドーナツ等)、パン類(食パン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、ベーグル、ロールパン、コッペパン等)等が挙げられる。これらのうち、本発明の食品がパン類、菓子類である場合、特にパン類、菓子類に優れたシトリ、弾力性、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与することができる。このことから、本発明の食品は、パン類又は菓子類であることが好ましい。特に、本発明の食品は、食材の重みでパンが潰れることを抑制でき、また、加工耐性を付与することができることから、食材配合パンであることが好ましい。食材配合パンとしては、例えば、サンドイッチ、ドックパン、バターロール等が挙げられる。食材配合パンは、薄いにもかかわらず、形状を保ちやすく、また、カットの際にパン屑を防止しやすく、加工耐性を付与することができることから、サンドイッチとして用いることが好ましい。
【実施例
【0066】
<可塑性油脂組成物及び食パンの製造>
(エステル交換油脂の製造)(A油脂)
[エステル交換油脂A1]
パーム核極度硬化油24質量%、パーム油49質量%、パーム極度硬化油27質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下で、エステル交換反応した。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色しエステル交換油脂A1を得た。エステル交換油脂A1のヨウ素価は27、3飽和量は43.3質量%であった。
【0067】
[エステル交換油脂A2]
パーム核極度硬化油12.5質量%、パーム油67.5質量%、パーム極度硬化油5質量%、パーム核油15質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下で、エステル交換反応した。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色しエステル交換油脂A2を得た。エステル交換油脂A2のヨウ素価は39、3飽和量は63.3質量%であった。
【0068】
(エステル交換油脂の製造)(B油脂)
[パーム分別軟質エステル交換油脂B1]
パーム分別軟質油(パームオレイン)(ヨウ素価56)に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭しエステル交換油脂を得た。パーム分別軟質部エステル交換油脂のヨウ素価は56、3飽和量は9.1質量%であった。
【0069】
[パームエステル交換油脂B2]
パーム油(ヨウ素価53)に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭しエステル交換油脂B2を得た。パーム油交換油脂B2のヨウ素価は53、3飽和量は13.7質量%であった。
【0070】
(マーガリンの製造)
後述する表1に示す油脂配合で75℃の調温し、表1に示す乳化剤を添加し、溶解後、表1に示す増粘多糖類を分散させ、油相を作製した。一方、水16部に対して脱脂粉乳1.5部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、上記で得た油相82.5部に水相17.5部を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、可塑性油脂組成物である、実施例1~19、比較例1~5に係るマーガリンを製造した。
尚、パーム分別硬質油は、ヨウ素価32であり、3飽和トリグリセリド含量が25.8質量%の油脂を用い、パーム分別軟質油はヨウ素価56の油脂を用いた。
【0071】
(乳化剤)
上記実施例、比較例の油脂組成物の作製に用いた乳化剤を以下に示す。配合割合は、後述する表1に記載されたとおりである。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(CRED、ポリタイプ、阪本薬品工業社製)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(CR500、重合度6、阪本薬品工業社製)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(CR310、重合度4、阪本薬品工業社製)
モノグリセリンモノステアリン酸エステル(エマルジーMS、理研ビタミン社製)
クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステル(ポエムK-37V、理研ビタミン社製)
コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル(ポエムB-10、理研ビタミン社製)
尚、上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの重合度は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのグリセリンの重合度における最も多い重合度を示した。
【0072】
(増粘多糖類)
上記実施例、比較例の油脂組成物の作製に用いた増粘多糖類を以下に示す。配合割合は、後述する表1に記載されたとおりである。
キサンタンガム(ビストップD-3000S、三栄源エフ・エフ・アイ社製)
グアガム(RG100、三菱化学フーズ社製)
【0073】
(食パンの製造)
上記で得たそれぞれのマーガリンを用いて、下記配合で食パンを製造した。まず、イーストを分散させた水、イーストフード、及び強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用し、低速4分、中低速1分でミキシングを行った。捏上げ温度は24℃であった。その後、27℃、湿度75%の条件で4時間発酵を行った。発酵の終点温度は29℃であり、発酵後、中種生地を得た。その後、上記で製造したマーガリン以外の材料及び中種生地を、低速3分、中高速3分でミキシングした後、上記で製造したマーガリンをそれぞれ投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングし、パン生地を得た。この際の捏上温度は28℃であった。その後、室温で20分フロアタイムをとった後、パン生地を成型して、38℃、湿度80%のホイロで45分発酵させた後、200℃で40分間焼成して、実施例1~19、比較例1~5に係る食パンを製造した。焼成した食パンは、室温で放冷させた後、20℃の恒温槽に保存した。以上で述べた食パンの配合を下記に示す。
【0074】
[食パン配合]
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
マーガリン 5質量部
水 25質量部
【0075】
<評価>
製造したマーガリン及びそれぞれ添加された食パンに関して、それぞれ、パンの弾力性、パンのシトリ(1日又は3日保存後)、口中でのダマ(喫食した場合にパンが団子のように結着すること)、歯切れについて、評価を行った。
【0076】
(弾力性の評価)
20℃で2日保存した食パンを30mmの厚さにスライスし、その後、食パンの中央部が中心となるように25mm×20mmにカットした小片を測定サンプルとした。株式会社山電製クリープメーターを用いて、スライス面が上部となるように配置して80%凝集性(圧縮率:80% プランジャー直径4cm円柱状、進入速度1mm/秒)により以下の基準で弾力性を評価した。なお、「凝集性」は、サンプルの高さの80%まで圧縮後、元の高さに戻る回復率を示すものである。
◎:60%超
○:55超~60%
△:50超~55%
×:50%以下
【0077】
(パンのシトリの評価)
20℃で1日、又は3日保存した後、パネルによりパンのシトリの官能評価を以下の基準で評価した。なお、評価を行ったパネルに関して、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20~40代の男性5名、女性7名をパネルとして選抜した。なお、表1中の「パンのシトリ」の欄の「D+1」は、20℃で1日保存した後についての評価であり、「D+3」は、20℃で3日保存した後についての評価を示す。
◎+:12名中10~12人が良好であると評価した。
◎:12名中8~9人が良好であると評価した。
○:12名中6~7人が良好であると評価した。
△:12名中4~5人が良好であると評価した。
×:12名中3人以下が良好であると評価した。
【0078】
(口中でのダマの評価)
20℃で1日保存した後の食パンを喫食し、口中でダマの有無を上記と同様のパネルにて以下の基準で評価した。
◎+:12名中10~12人がダマ無く良好であると評価した。
◎:12名中8~9人がダマ無く良好であると評価した。
○:12名中6~7人がダマ無く良好であると評価した。
△:12名中4~5人がダマ無く良好であると評価した。
×:12名中3人以下がダマ無く良好であると評価した。
【0079】
(パンの歯切れの評価)
20℃で1日保存した後の食パンを喫食し、歯切れの有無を上記と同様のパネルにて以下の基準で評価した。
◎:12名中8人以上が良好であると評価した。
○:12名中6~7人が良好であると評価した。
△:12名中4~5人が良好であると評価した。
×:12名中3人以下が良好であると評価した。
【0080】
<評価結果>
実施例1~19及び比較例1~5に係るマーガリンの組成並びに実施例1~19及び比較例1~5に係る食パンについての評価結果を、下記の表1に示す。なお、表1中の「PGPR」は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを意味し、「クエン酸MG」は、クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステルを意味し、「コハク酸MG」は、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを意味する。表1中、「油脂配合」のそれぞれの欄の数値は、それぞれの配合された油脂の、油脂全体の質量に対する配合量(質量%)を意味する。表1中、「飽和脂肪酸」の欄の数値は、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対する、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量(質量%)を意味する。表1中、「2位オレイン」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量(質量%)を意味する。表1中、「SSU+USU/2飽和+2不飽和」は、2飽和-1不飽和型トリグリセリドと1飽和-2不飽和型トリグリセリドとの合計含有量に対する、SSU型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドとの合計含有量の質量比を意味する。表1中の「PGPR」、「乳化剤」、及び「増粘多糖類」の欄のそれぞれの数値は、それぞれの成分の、油脂組成物全体の質量に対する含有量(質量%)を意味する。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように、実施例1~19に係るマーガリンが添加された食パンは、パンの弾力性、パンのシトリ、口中でのダマ、歯切れの全ての評価が高かった。これに対し、比較例1~5に係るマーガリンが添加された食パンには、パンの弾力性、パンのシトリ、口中でのダマ、歯切れの全ての評価が高かったものはなかった。実施例1~19に係るマーガリンは、全て、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であり、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%である。これに対し、比較例1~5に係るマーガリンは、油脂全体の質量に対して27~57質量%であり、かつ、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%である条件を満たすものでない。この結果より、可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の合計質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して27~57質量%であり、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量が、油脂全体の構成脂肪酸の質量に対して、27~55質量%であることにより、パン類に、優れた弾力性、シトリ、ダマになりにくさ、歯切れの良さを付与できることが示された。
【0083】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有しない実施例1、2に係るマーガリンは、食パンのシトリの評価が「○」であるのに対し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを更に含有する実施例3~19に係るマーガリンは、パンのシトリの評価(少なくとも「D+1」についての評価)が、「◎」又は「◎+」であった。この結果より、本発明の可塑性油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを更に含むことにより、パン類のシトリをより一層良好とできることが示された。
【0084】
ポリタイプのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含む実施例3に係るマーガリンの口中のダマの評価が「○」であるのに対し、重合度が6又は4であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの量が最も多い実施例4~19に係るマーガリンは、口中のダマの評価が、「◎」又は「◎+」であった。この結果より、本発明の可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物に含まれる全てのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多いことにより、パン類をダマになりにくくできることが示された。
【0085】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含まない実施例1~4、7~11、13、18に係るマーガリンの歯切れの評価が「○」であるのに対し、グリセリン有機酸脂肪酸エステルであるクエン酸モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを含む実施例5、6、12及び14~17、19に係るマーガリンは、歯切れの評価が、「◎」又は「◎+」であった。この結果より、本発明の可塑性油脂組成物は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを更に含むことにより、パン類の歯切れをより一層良好にできることが示された。
【0086】
増粘多糖類を含まない実施例1~4、7~11、13、15及び18に係るマーガリンのパンのシトリの評価及び口中のダマの評価が「○」又は「◎」であるのに対し、増粘剤であるキサンタンガム又はグアガムを含む実施例6、12、17及び19に係るマーガリンは、パンのシトリの評価及び口中のダマの評価が「◎+」であった。この結果より、本発明の可塑性油脂組成物は、増粘剤を更に含むことにより、パン類のシトリ及びダマになりにくさをより一層良好にできることが示された。なお、実施例5、14及び16に係るマーガリンが、増粘多糖類を含まないにもかかわらず、口中のダマの評価が「◎+」であったのは、飽和脂肪酸である構成脂肪酸の含有量と、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの合計含有量とが、ダマになりにくさの点でバランスが良い量であり、更に、可塑性油脂組成物に含まれる全てのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのうち、グリセリンの重合度が4~6であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの質量が最も多いかったためであると推測される。