(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】取り外し可能な歯列矯正装置
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
A61C7/08
(21)【出願番号】P 2021080825
(22)【出願日】2021-05-12
(62)【分割の表示】P 2019114316の分割
【原出願日】2019-06-20
【審査請求日】2021-05-12
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516089577
【氏名又は名称】洪 澄祥
(74)【代理人】
【識別番号】100105946
【氏名又は名称】磯野 富彦
(72)【発明者】
【氏名】洪 澄祥
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0126115(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0311937(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0460320(KR,Y1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0096326(KR,A)
【文献】特開2003-235871(JP,A)
【文献】特開昭60-114249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯列弓の一側における複数の第1の歯に着脱可能に装着されるように構成された固定キャップセグメントと、
前記歯列弓の前記一側における第2の歯に着脱可能に装着されるように構成された移動キャップセグメントと、
U字形部、2つのロッド部、および前記U字形部の両端と前記2つのロッド部との間に配置された2つのループばね部を備えるワイヤー構造であって、前記U字形部は、前記移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および頬側側壁と舌側側壁との間の隣接間(interproximal)側壁に
、前記第2の歯を取り囲むように埋設され
て配置されており、前記2つのロッド部は、前記固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁に埋設されており、かつ前記2つのループばね部は、前記移動キャップセグメントと前記固定キャップセグメントとの間にて、弾性復元力を生じて前記移動キャップセグメントを前記固定キャップセグメントに対して移動させるように構成されている、ワイヤー構造と、
を含む取り外し可能な歯列矯正装置。
【請求項2】
前記移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および隣接間側壁の各々が、前記ワイヤー構造の前記U字形部を収容する厚さを有し、かつ前記固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁の各々が前記ワイヤー構造の前記2つのロッド部のうちの1つを収容する厚さを有する、請求項1に記載の取り外し可能な歯列矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年6月21日に出願された米国仮特許出願第62/688048号および2018年9月28日に出願された米国仮特許出願第62/738187号の利益を主張し、それらの全体が参照することにより本明細書に援用される。
【0002】
本出願は歯列矯正技術に関し、より詳細には、叢生、空隙歯列および/または捻転の問題を矯正することができ、かつ矯正時における歯の移動の安定性を改善できる取り外し可能な歯列矯正装置に関する。
【背景技術】
【0003】
歯並びが悪いと、個人の歯の審美性、機能性および健康に悪影響を及ぼし得る。歯列矯正の目的は、機械的な力で歯科機能性が改善される位置または向きに歯を移動させる器具を使用することにより、歯を正しく配列させることである。
【0004】
従来の歯列矯正器(braces)は、アーチワイヤおよびブラケットを用いて歯に対し矯正力を生じさせている。アーチワイヤは予め成形されたものであり、歯の表面に固定されたブラケットを介して歯を互いに連結させる。取り付け初期において、アーチワイヤは弾性的に変形して歯並びの悪い歯を収容する。アーチワイヤは弾性力を有し、ブラケットを介して歯に力を加え、アーチワイヤの予め成形された形状に歯を位置合わせさせるよう動かす。アーチワイヤは歯に継続的な力を加え、それらを所望の位置まで推し動かす。
【0005】
固定される歯列矯正器に比べ、 取り外し可能な器具は、見えにくい、および容易に口腔衛生を保つという点で改善されている。クリアアライナー(clear aligner)による動作原理も、器具自体の弾性を利用するものである。 先行技術で用いられているクリアアライナーの本体または外殻は可撓性があり、器具が装着されると変形して、その元の形状に戻ろうとするときに弾性矯正力を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在ある取り外し可能な歯列矯正装置は、それらの意図する目的、例えば叢生、空隙歯列および/または捻転の問題を矯正するためには十分であったが、あらゆる点において満足させるというものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態によれば、固定キャップセグメント、移動キャップセグメント、一対のばね要素、および誘導ワイヤーを含む取り外し可能な歯列矯正装置が提供される。固定キャップセグメントは、患者の歯列弓の前方歯に着脱可能に装着されるよう構成されている。移動キャップセグメントは、歯列弓の一側における少なくとも1つの臼歯に着脱可能に装着されるよう構成されている。一対のばね要素は、歯列弓の一側の頬側および舌側における固定キャップセグメントと移動キャップセグメントとの間に配置され、弾性復元力を生じて移動キャップセグメントを固定キャップセグメントに対して移動させる。誘導ワイヤーは、U字形部、およびU字形部の両端から延伸している2つのロッド部を有する。U字形部は、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および遠心側側壁に埋設されていると共にこれらを取り囲むよう配置されており、移動キャップセグメントの移動をガイドするよう固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁中に誘導通路が形成されて2つのロッド部を収納する。
【0008】
いくつかの実施形態において、誘導通路の各々は、近心側から遠心側に(mesial-distally)延伸する。
【0009】
いくつかの実施形態において、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および遠心側側壁の各々が、誘導ワイヤーのU字形部を収容する厚さを有し、かつ固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁の各々が、誘導ワイヤーの2つのロッド部のうちの1つを収納するための管状誘導通路を収容する厚さを有する。
【0010】
いくつかの実施形態において、一対のばね要素の各々は誘導ワイヤーに巻回されている。
【0011】
いくつかの実施形態において、一対のばね要素の各々は圧縮コイルばねである。
【0012】
いくつかの実施形態において、一対のばね要素の各々は引張コイルばねである。
【0013】
いくつかの実施形態において、固定キャップセグメントに連結した誘導ワイヤーと移動キャップセグメントに連結した誘導ワイヤーとの間に垂直方向の高さの差が形成される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によれば、固定キャップセグメント、移動キャップセグメント、一対のばね要素、および誘導ワイヤーを含む取り外し可能な歯列矯正装置も提供される。固定キャップセグメントは、患者の歯列弓の一側における臼歯に着脱可能に装着されるように構成されている。移動キャップセグメントは、歯列弓の同一の側における少なくとも1つの前方歯に着脱可能に装着されるように構成されている。一対のばね要素は、歯列弓の一側の頬側および舌側における固定キャップセグメントと移動キャップセグメントとの間に配置され、弾性復元力を生じて移動キャップセグメントを固定キャップセグメントに対して移動させる。誘導ワイヤーは、U字形部、およびU字形部の両端から延伸している2つのロッド部を有する。U字形部は、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および近心側側壁に埋設されていると共にこれらを取り囲むよう配置されており、かつ2つのロッド部が、固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁中に形成された誘導通路内に移動可能に収納され、移動キャップセグメントの移動をガイドする。
【0015】
いくつかの実施形態において、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および近心側側壁の各々は、誘導ワイヤーのU字形部を収容する厚さを有し、かつ固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁の各々は、誘導ワイヤーの2つのロッド部のうちの1つを収納するための管状誘導通路を収容する厚さを有する。
【0016】
いくつかの実施形態において、一対のばね要素の各々は、誘導ワイヤーに連結せずに、固定キャップセグメントおよび移動キャップセグメントに直接つながっている。
【0017】
いくつかの実施形態において、取り外し可能な歯列矯正装置は、複数の固定キャップセグメント、複数の移動キャップセグメント、複数の一対のばね要素、および複数の誘導ワイヤーをさらに含む。固定キャップセグメントは、歯列弓の両側における臼歯にそれぞれ着脱可能に装着されるように構成されている。移動キャップセグメントは、歯列弓の両側における少なくとも1つの前方歯にそれぞれ着脱可能に装着されるように構成されている。各一対のばね要素は、歯列弓の一側の頬側および舌側における固定キャップセグメントと移動キャップセグメントとの間にそれぞれ配置されて弾性復元力生じ、移動キャップセグメントを固定キャップセグメントに対して移動させる。誘導ワイヤーは、U字形部、およびU字形部の両端から延伸している2つのロッド部をそれぞれ有する。U字形部は、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および近心側側壁に埋設されていると共にこれらを取り囲むように配置されており、移動キャップセグメントの移動をガイドするよう固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁中に誘導通路が形成されて2つのロッド部を収納する。
【0018】
いくつかの実施形態において、取り外し可能な歯列矯正装置は、固定キャップセグメントをつなぎ、かつ患者の口蓋または口腔底に合った形状を有する横棒をさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、固定キャップセグメントは、固定キャップセグメントの頬側壁から延伸した垂直延伸部と、垂直延伸部に形成された第1の連結具とをさらに備える。移動キャップセグメントは、移動キャップセグメントの頬側側壁に形成された第2の連結具をさらに備える。取り外し可能な歯列矯正装置は、第2の連結具を第1の連結具につないで、水平成分および垂直成分を有する弾性牽引力を移動キャップセグメントに加える弾性部材をさらに含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、固定キャップセグメント、移動キャップセグメント、およびワイヤー構造を含む取り外し可能な歯列矯正装置も提供される。固定キャップセグメントは、患者の歯列弓の一側における複数の第1の歯に着脱可能に装着されるように構成されている。移動キャップセグメントは、歯列弓の同一の側における第2の歯に着脱可能に装着されるように構成されている。ワイヤー構造は、U字形部、2つのロッド部、およびU字形部の両端と2つのロッド部との間に配置された2つのループばね部を備える。U字形部は、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁、および頬側側壁と舌側側壁との間の隣接間(interproximal)側壁に埋設されていると共に、これらを取り囲むように配置されている。2つのロッド部は、固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁に埋設されている。2つのループばね部は、移動キャップセグメントと固定キャップセグメントとの間にて、弾性復元力を生じて移動キャップセグメントを固定キャップセグメントに対して移動させるように構成されている。
【0021】
いくつかの実施形態において、移動キャップセグメントの頬側側壁、舌側側壁および隣接間側壁の各々は、ワイヤー構造のU字形部を収容する厚さを有し、かつ固定キャップセグメントの頬側側壁および舌側側壁の各々は、ワイヤー構造の2つのロッド部のうちの1つを収容する厚さを有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面を参照にしながら、以下の詳細な説明および実施例を読むことにより、本発明をより十分に理解することができる。
【
図1】装置の咬合面から見たときに、いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
【
図2】
図1における取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【
図5】いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【
図6】いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【
図7】装置の咬合面から見たときに、いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
【
図8】
図7における取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【
図9】いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【
図10】装置の咬合面から見たときに、いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
【
図11】
図10における取り外し可能な歯列矯正装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的、特徴および長所を説明するため、本発明の好ましい実施形態および図を以下に詳細に示す。
【0024】
以下の詳細な記載において、空間的に相対的な用語、例えば「下方に」、「下に」、「下の」、「上方に」、「上の」などが、図に示されるある構成要素または特徴の、別の構成要素または特徴との関係を簡単に説明するために本明細書で使用されることがある。それら空間的に相対的な用語は、図に示される向きに加えて、使用中または動作中にある装置の異なる向きを包含することが意図されている。装置は、他の向きに(例えば、90度回転させるかまたは他の向きに)置かれてもよく、かつ本明細書で用いられる空間的に相対的な記述子(spatially relative descriptors)がそれに応じて解釈されてもよい。
【0025】
加えて、本開示では、各種実施例において参照番号および/または文字を繰り返すことがある。この繰り返しは、簡潔および明確とするのが目的であって、それ自体が、記載された各実施形態および/または構成間の関係を示すものではない。簡潔および明確にする目的のため、各種特徴は異なる縮尺で任意に描かれ得る。
【0026】
本開示は、各種の歯の問題、例えば叢生、空隙歯列および/または捻転の問題を矯正し、かつ矯正期間中における歯の移動の安定性を改善することのできる取り外し可能な歯列矯正装置に関する例示的実施形態を提供する。実施形態のいくつかのバリエーションが記載される。各図面および例示的実施形態全体を通し、共通の構成要素には同じ参照番号を用いる。
【0027】
図1は、装置の咬合面から見たときに、いくつかの実施形態による取り外し可能な歯列矯正装置10が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
図2は、
図1における取り外し可能な歯列矯正装置10の概略側面図である。いくつかの実施形態において、
図1および
図2に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置10は第1の歯キャップユニット11および第2の歯キャップユニット12を含む。第2の歯キャップユニット12は、遠心方向に(distally)(つまり後方に)移動することとなる歯列弓Mのいくつかの臼歯(例えば、点線で示された第1大臼歯)に着脱可能に装着されるように構成されている。第1の歯キャップユニット11は、同じ歯列弓Mのいくつかの前方歯(例えば、点線で示された中切歯、側切歯、犬歯、ならびに第1小臼歯および第2小臼歯に着脱可能に装着されると共に、複数のばね要素の固定具として機能して、第2の歯キャップユニット12に係合した臼歯に弾性矯正力を加える(後述においてさらに説明する)ように構成されている。取り外し可能な歯列矯正装置10が装着される前に、臼歯の遠心移動(distalization)のためのスペースを作るように第2大臼歯は抜歯される。
【0028】
図1に示されるように、第1の歯キャップユニット11は、前方歯を取り囲むと共に覆うように形成されている固定キャップセグメント111を含む。固定キャップセグメント111の構造は主に、底壁111Aと、底壁111Aから延伸して、固定キャップセグメント111の内側面に前方歯を収納するための複数の歯収納キャビティR(
図3も参照)を形成している2つの対向する側壁111B、111Cと、を含む。固定キャップセグメント111はまた、外側面に形成されると共に、内側の歯収納キャビティRに対向している咬合面OS(
図1から3参照)も含む。
図1に示されるように、第2の歯キャップユニット12は、各々が歯列弓Mの左側または右側の臼歯(以下、左臼歯または右臼歯とも呼ぶ)を取り囲むと共に覆うように形成されている2つの移動キャップセグメント121を含む。同様に、移動キャップセグメント121の構造は主に、底壁121Aと、底壁121Aから延伸して、移動キャップセグメント121の内側面に左臼歯または右臼歯を収納するための歯収納キャビティR(
図4も参照)を形成している2つの対向する側壁121B、121Cと、を含む。移動キャップセグメント121はまた、外表面に形成されると共に、内側の歯収納キャビティRに対向している咬合面OS(
図1、2および4参照)も含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、固定キャップセグメント111および移動キャップセグメント121の各々は、装着時に変形したり、または歯もしくは複数の歯に弾性矯正力を加えることのない剛性殻体である。いくつかの実施形態において、固定キャップセグメント111および移動キャップセグメント121は、歯列矯正樹脂または当該技術分野では周知である口腔用途への使用に適したその他の材料で作られたものであってよい。
【0030】
図1に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置10は、歯列弓Mの左側の頬側および舌側における固定キャップセグメント111と左臼歯に装着された移動キャップセグメント121との間に配置された一対のばね要素13、13をさらに含む。また、取り外し可能な歯列矯正装置10は、歯列弓Mの右側の頬側および舌側における固定キャップセグメント111と右臼歯に装着された移動キャップセグメント121との間に配置された別の一対のばね要素14、14をさらに含む。各ばね要素13/14の一端は固定キャップセグメント111に連結(例えば埋設)されてよく、かつ他端は、それぞれ対応する移動キャップセグメント121に連結(例えば埋設)されてよい。この実施例では、各ばね要素13/14は圧縮コイルばねである。したがって、ばね要素13およびばね要素14は、元の変形していない形状に戻ろうとするときに、弾性復元力を生じて移動キャップセグメント121を固定キャップセグメント111から離れる方向(
図1および
図2中の矢印で示される)に移動させるかまたは押動し、これにより臼歯の遠心移動(distalization)を達成する。
【0031】
図1に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置10は、左臼歯に装着された移動キャップセグメント121の固定キャップセグメント111に対する移動をガイドするための誘導ワイヤー15と、右臼歯に装着された移動キャップセグメント121の固定キャップセグメント111に対する移動をガイドするための別の誘導ワイヤー16をさらに含む。各誘導ワイヤー15/16は、金属または形状記憶合金(SMA)で作られていてよく、かつU字形部151/161と、U字形部151/161の両端から延伸する2つのロッド部152、152/162、162とを備え得る。
【0032】
図1に示されるように、U字形部151/161は、移動キャップセグメント121の頬側側壁121B、舌側側壁121C、および遠心端(distal)側壁121D(頬側側壁121Bと舌側側壁121Cとの間でこれらと連結すると共に、歯列弓Mの後方側付近に位置している)に埋設されていると共に、これらを取り囲むように配置されていてよい。より詳細には、移動キャップセグメント121の側壁はそれぞれ、誘導ワイヤー15/16のU字形部151/161を収納するための管状通路Cを収容する厚さTを有している(
図4参照)。この実施例では、移動キャップセグメント121は、頬側側壁121B、舌側側壁121C、および遠心端側壁121Dを通過する連続的な内管状通路Cを形成している。また、管状通路Cの断面寸法(つまり直径)は誘導ワイヤー15/16の断面寸法(つまり直径)とマッチしているため、U字形部151/161は移動キャップセグメント121に固定して埋設される。別の実施形態では、誘導ワイヤー15/16のU字形部151/161が移動キャップセグメント121の側壁中に一体的に形成されていてよい。
【0033】
図1に示されるように、2つのロッド部152、152/162、162は、固定キャップセグメント111の頬側側壁111Bおよび舌側側壁111C中に形成された誘導通路C’内に移動可能に収納され得る。より詳細には、固定キャップセグメント111の側壁はそれぞれ、誘導ワイヤー15/16の2つのロッド部152、152/162、162のうちの1つを収納するための管状誘導通路C’を収容するための厚さTを有する(
図3参照)。また、管状誘導通路C’の断面寸法(つまり直径)は誘導ワイヤー15/16の断面寸法(つまり直径)よりもわずかに大きくなっており、移動キャップセグメント121がばね要素13および14により移動または押動されたときに、ロッド部152/162が管状誘導通路(近心側(mesial)-遠心側(distally)に延伸)C’中で移動できるようになる。いくつかの実施形態では、
図1および
図2に示されるように、各ばね要素13および14は誘導ワイヤー15/16に巻回されている。
【0034】
上述の構成により、誘導ワイヤー15および16は、移動キャップセグメント121の移動時において安定性およびガイドを提供し、これにより矯正期間中の歯の移動の安定性が改善される。詳細には、複数の歯と係合している固定キャップセグメント111が、より大きな表面積にわたって歯と接触し、強力な定着を提供する。3つの側壁にて移動キャップセグメント121と強力な連結を形成している誘導ワイヤー15/16とに、誘導通路C’は誘導ワイヤー15/16に作用して、臼歯の移動に対してより良好な制御を提供する。
【0035】
図5は、いくつかの実施形態による別の取り外し可能な歯列矯正装置10’の概略側面図であり、各ばね要素13/14として、圧縮コイルばねの代わりに、引張コイルばねを用いている。この実施例(前方歯と臼歯との間のスペースを閉じる)では、ばね要素13および14は、その元の変形していない形状に戻ろうとするときに、弾性復元力を生じて移動キャップセグメント121を固定キャップセグメント111へ向かう方向(
図5中の矢印で示される)に移動させるかまたは引く。取り外し可能な歯列矯正装置10’の誘導ワイヤー15および16は、上述した取り外し可能な歯列矯正装置10と類似する構成を有していてよく、これにより移動キャップセグメント121およびその中の歯の移動時において安定性および誘導が提供される。
【0036】
図6は、いくつかの実施形態による別の取り外し可能な歯列矯正装置10’’の概略側面図であり、固定キャップセグメント111に連結している誘導ワイヤー15/16と移動キャップセグメント121に連結している誘導ワイヤー15/16との間に垂直方向の高さの差Dが形成されている。この実施例では、取り外し可能な歯列矯正装置10’’は、取り外し可能な歯列矯正装置10または10’に類似する方式で移動キャップセグメント121およびその中の歯を水平方向(例えば、固定キャップセグメント111から離れるか、またはこれに向かう)に移動させるのみならず、垂直段差(vertical step)を有する誘導ワイヤー15/16により垂直力を生じて、移動キャップセグメント121内部の歯の圧下(intrusion)(
図6における矢印で示される)をも達成する (つまり、過度に萌出した臼歯を矯正する)。
【0037】
図7は、装置の咬合面から見たときの、いくつかの実施形態による別の取り外し可能な歯列矯正装置20が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
図8は、
図7における取り外し可能な歯列矯正装置20の概略側面図である。いくつかの実施形態において、
図7および8に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置20は第1の歯キャップユニット21および第2の歯キャップユニット22を含む。第2の歯キャップユニット22は、後退することとなる(つまり後方へ)歯列弓Mの数本の前方歯(例えば、点線で示された第1小臼歯)に着脱可能に装着されるように構成されている。第1の歯キャップユニット21は、同じ歯列弓Mの数本の臼歯(例えば、点線で示された第1大臼歯および第2大臼歯)に着脱可能に装着されると共に、複数のばね要素のための固定具として機能して、第2の歯キャップユニット22(後述により詳細に説明する)と係合した前方歯に弾性矯正力を加えるように構成されている。取り外し可能な歯列矯正装置20が装着される前に、前方歯の後退のためのスペースを作り出すように第2小臼歯は抜歯される。この実施例では、取り外し可能な歯列矯正装置20は歯列弓Mの中切歯、側切歯および犬歯には装着されない。
【0038】
図7に示されるように、第1の歯キャップユニット21は、各々が歯列弓Mの左側または右側における臼歯(以下、左臼歯または右臼歯とも称する)を包囲すると共に覆うように形成された2つの固定キャップセグメント211を含み、第2の歯キャップユニット22は、各々が歯列弓Mの左側または右側における前方歯(以下、左前方歯または右前方歯とも称する)を包囲すると共に覆うように形成された2つの移動キャップセグメント221を含む。固定キャップセグメント211および移動キャップセグメント221の構造および材料は、上述した固定キャップセグメント111および移動キャップセグメント121と類似するものであってよいため、ここで繰り返し説明しない。
【0039】
図7に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置20は、歯列弓Mの左側の頬側および舌側における左臼歯に装着された固定キャップセグメント211と左前方歯に装着された移動キャップセグメント221との間に配置された一対のばね要素23、23をさらに含む。また、取り外し可能な歯列矯正装置20は、歯列弓Mの右側の頬側および舌側における右臼歯に装着された固定キャップセグメント211と右前方歯に装着された移動キャップセグメント221との間に配置された別の一対のばね要素24、24をさらに含む。各ばね要素23/24の一端は、それぞれ対応する固定キャップセグメント211に連結(例えば埋設)されてよく、他端はそれぞれ対応する移動キャップセグメント221に連結(例えば埋設)されてよい。この実施例では、各ばね要素23/24は引張コイルばねであり、かつ誘導ワイヤー25/26(
図8参照)に連結することなく、固定キャップセグメント211と移動キャップセグメント221とを直接つなぐことができる。したがって、ばね要素23および24は、その元の変形していない形状に戻ろうとするときに、弾性復元力を生じて移動キャップセグメント221を固定キャップセグメント211へ向かう方向(
図7、8中の矢印で示される)に移動させるかまたは引き、これにより前方歯の後退を達成する(つまり前方歯と臼歯との間のスペースを閉じる)。
【0040】
いくつかの実施形態では、各ばね要素23/24は引張コイルばねの代わりに圧縮コイルばねを用いてもよく、これにより弾性復元力を生じて移動キャップセグメント221を固定キャップセグメント211から離れる方向に移動または押動することができる(例えば、前方歯と臼歯との間のスペースを広げる必要がある場合)、ということが理解されなければならない。
【0041】
図7に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置20は、左臼歯に装着された固定キャップセグメント211に対する左前方歯に装着された移動キャップセグメント221の移動を誘導するのに用いられる誘導ワイヤー25と、右臼歯に装着された固定キャップセグメント211に対する右前方歯に装着された移動キャップセグメント221の移動を誘導するのに用いられる別の誘導ワイヤー26とをさらに含む。各誘導ワイヤー25/26は金属または形状記憶合金 (SMA)で作られていてよく、かつU字形部251/261と、U字形部251/261の両端から延伸する2つのロッド部252、252/262、262とを有していてよい。
【0042】
図7に示されるように、U字形部251/261は、移動キャップセグメント221の頬側側壁221B、舌側側壁221C、および近心側側壁221D(頬側側壁221Bと舌側側壁221Cとの間にてこれらとつながっていると共に、歯列弓Mの前側付近に位置している)中に固定して埋設されると共に、これらを取り巻くように配置され得る。U字形部251/261が移動キャップセグメント221と一体化される方式は、上述した移動キャップセグメント121のそれと類似しており、よってここで繰り返し説明しない。また、2つのロッド部252、252/262、262は、2つの固定キャップセグメント211の頬側側壁211Bおよび舌側側壁211C内に形成された誘導通路C’中にそれぞれ移動可能に収納され得る。2つのロッド部252、252/262、262を収納するための固定キャップセグメント211の構成(例えば、側壁中に形成された管状誘導通路)は、上述した固定キャップセグメン111のそれ(
図3参照)と類似しており、よってここで繰り返し説明しない。上記構成によれば、誘導ワイヤー25および26は移動キャップセグメント221の移動時において安定性および誘導を提供し、これにより矯正期間中の歯の移動の安定性が改善する。
【0043】
いくつかの実施形態において、第1の歯キャップユニット21は、固定キャップセグメント211をつなぐと共に、患者の口蓋または口腔底(図示せず)に合った形状を有する横棒212をさらに含む。故に、装着時の第1の歯キャップユニット21の安定性および保持力が改善される。
【0044】
図9は、いくつかの実施形態による別の取り外し可能な歯列矯正装置20’の概略側面図である。取り外し可能な歯列矯正装置20と比較して、取り外し可能な歯列矯正装置20’の各固定キャップセグメント211は、その頬側側壁から延伸した垂直延伸部211D(例えば、
図9に示される点線より下の固定キャップセグメント211の部分)、および垂直延伸部211D上に形成された少なくとも1つの連結具2110(例えばフックまたはボタン)をさらに備え、かつ各移動キャップセグメント221は、その頬側側壁に形成された連結具2210をさらに備える。また、取り外し可能な歯列矯正装置20’は、第1の歯キャップユニット21上の連結具2110を第2の歯キャップユニット22の連結具2220に連結する複数の弾性部材27(例えば、弾性糸または輪ゴム)をさらに含む。連結具2110と連結具2220との間には垂直方向の高さの差があるため(
図9に示されるとおり)、弾性部材27は、水平成分および垂直成分を有する弾性牽引力(
図9における水平の矢印および垂直の矢印で示される)を移動キャップセグメント221に加えて、移動キャップセグメント221と前方歯を水平方向または垂直(もしくは根尖)方向に引くことができる。その結果、後退の過程において生じるボーイングエフェクト(つまり、移動している前方歯が遠心方向に傾く傾向にある)を防ぐことができる。
【0045】
図10は、装置の咬合面から見たときの、いくつかの実施形態による別の取り外し可能な歯列矯正装置30が患者の歯列弓に装着されているところを示す概略図である。
図11は、
図10における取り外し可能な歯列矯正装置30の概略側面図である。いくつかの実施形態において、
図10および
図11に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置30は固定キャップセグメント31および移動キャップセグメント32を含む。移動キャップセグメント32は、近心方向(mesial direction)に傾いた(または回転した)歯列弓Mの一側における歯(点線で示される)に着脱可能に装着されるように構成されている。移動キャップセグメント32は、傾いた歯(説明のために、第2の歯とも称する)を包囲すると共に覆うように形成されていてよい。固定キャップセグメント31は、傾いた(または第2の)歯に隣接し、かつ歯列弓Mの同じ側に位置する複数の歯(点線により示される)(説明のために、第1の歯とも称する)に着脱可能に装着されると共に、歯列矯正ワイヤー構造の固定具として機能して移動キャップセグメント32(後述においてより詳細に説明する)内の傾いた歯に弾性矯正力を加えるように構成されている。固定キャップセグメント31は、第1の歯を包囲すると共に覆うように形成されていてよい。固定キャップセグメント31および移動キャップセグメント32の構造および材料は、上述した固定キャップセグメント111および移動キャップセグメント121と類似しているため、ここでは繰り返し説明しない。
【0046】
図10および
図11に示されるように、取り外し可能な歯列矯正装置30は歯列矯正ワイヤー構造33をさらに含む。歯列矯正ワイヤー構造33は、形状記憶合金(SMA)で作られていてよく、かつU字形部331、2つのロッド部332、332、およびU字形部331の両端と2つのロッド部332、332との間に配置された2つのループばね部333、333を備えていてよい。
【0047】
U字形部331は、移動キャップセグメント32の頬側側壁32B、舌側側壁32Cおよび隣接間(interproximal)側壁32D(頬側側壁32Bと舌側側壁32Cとの間にてこれらに連結しており、歯列弓Mの前側付近に位置する)に固定的に埋設されていると共に、これらを取り囲むように配置されていてよい。U字形部331が移動キャップセグメント32と一体化される方式は、上述した移動キャップセグメント121のそれと類似しており、よってここで繰り返し説明しない。2つのロッド部は、固定キャップセグメント31の頬側側壁31Bおよび舌側側壁31C中に固定的に埋設されていてよい。2つのロッド部332、322が固定キャップセグメント312と一体化される方式は、上述した固定キャップセグメント111(
図3参照)のそれと類似しているが、固定キャップセグメント31中に形成された各通路の断面寸法(つまり直径)はロッド部332の断面寸法(つまり直径)とマッチしているため、2つのロッド部332、322は固定キャップセグメント31に固定して埋設される。
図11における矢印で示されるように、2つのループばね部333、333は、移動キャップセグメント32と固定キャップセグメント31との間に形成されて、(それらが元の変形していない形状に戻ろうとするときに)弾性復元力を生じ、移動キャップセグメント32を固定キャップセグメント31に対して移動させる。したがって、傾いた(または第2の)歯を立てることができる。
【0048】
上述した取り外し可能な歯列矯正装置に多くの変化および変更を加え得るということが理解されなければならない。例えば、固定キャップセグメント、移動キャップセグメント、ばね要素、誘導ワイヤー、および/または歯列矯正ワイヤー構造の数および設置位置は、実際の要求に応じて変更することも可能であり、上記の例示の実施形態に限定されることはない。
【0049】
本開示の実施形態およびそれらの優れた点を詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲により定義された本開示の精神および範囲を逸脱することなく、様々な変化、置換および変更をここに加えることができる、という点が理解されなければならない。例えば、本明細書に記載した特徴、機能、プロセス、および材料の多くが、依然本開示の範囲内で変更可能であるということが、当業者には容易に理解されるであろう。また、本出願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、および工程の特定の実施形態に限定されることが意図されていない。本開示の開示から、当業者は、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ役目を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するかまたは後に開発されるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、もしくは工程が、本開示にしたがって利用可能であるということを容易に理解するであろう。よって、添付の特許請求の範囲は、それらの範囲内にかかるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、または工程を含むように意図されている。加えて、各請求項は、独立した実施形態を構成し、各種請求項および実施形態の組み合わせは、本開示の範囲内に入る。
【符号の説明】
【0050】
10、10’、10’’、20、20’、30…取り外し可能な歯列矯正装置
11、21…第1の歯キャップユニット
111、211、31…固定キャップセグメント
111A…底壁
111B、211B、31B…(頬側)側壁
111C、211C、31C…(舌側)側壁
212…横棒
211D…垂直延伸部;
2110…連結具
12、22…第2の歯キャップユニット
121、221、32…移動キャップセグメント
121A…底壁
121B、221B、32B…(頬側)側壁
121C、221C、32C…(舌側)側壁
32D…隣接間側壁
121D…遠心端側壁;
221D…近心端側壁;
2210…連結具
13、14、23、24…ばね要素
15、16、25、26…誘導ワイヤー
151、161、251、261…U字形部
152、162、252、262…ロッド部
27…ばね要素
33…歯列矯正ワイヤー構造
331…U字形部
332…ロッド部
333…ループばね部
C、C’…通路
D…垂直方向の高さの差
L…点線
M…歯列弓
R…歯収納キャビティ
T…厚さ
OS…咬合面