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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】帯電防止シート
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/44 20060101AFI20221110BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221110BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221110BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20221110BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20221110BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20221110BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C09C1/44
C09D17/00
C09D5/02
C09D5/24
C09D201/00
C01B32/159
B32B27/18 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021094533
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2021195546
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020100414
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311010475
【氏名又は名称】KJ特殊紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】古川 朋史
(72)【発明者】
【氏名】寺島 良幸
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 篤
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 昌彦
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172137(WO,A1)
【文献】特開2016-084423(JP,A)
【文献】特許第6578618(JP,B1)
【文献】特開2010-254546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C09D 1/00-201/10
C01B 32/159
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電防止層を有するシート状の基材であって、
前記帯電防止層が、
バインダー樹脂と、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定した体積基準の頻度分布曲線において、0.1μm以上1μm未満の第1粒子径区間に少なくとも1つのピークトップを有し、且つ1μm以上10μm未満の第2粒子径区間にも少なくとも1つのピークトップを有する単層カーボンナノチューブ分散液とを含有した単層カーボンナノチューブ塗料によって形成され、表面抵抗率が3.0×10 Ω/□以下であってかつ波長550nmの透過率が90%以上であることを特徴とする帯電防止シート。
【請求項2】
前記帯電防止層が、
前記単層カーボンナノチューブ分散液と、フッ素変性アクリル樹脂を含んだバインダー樹脂とを含有した単層カーボンナノチューブ塗料によって形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の帯電防止シート。
【請求項3】
JIS B7751(2007)に規定される耐光性試験機を用いて96時間紫外線カーボンアーク灯光に暴露し、暴露前の表面抵抗率に対する暴露後の表面抵抗率の比率が1.5以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の帯電防止シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブが分散した単層カーボンナノチューブ分散液を含有した単層カーボンナノチューブ塗料を用いた帯電防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単層カーボンナノチューブを水等の溶媒に分散させ、得られた分散液にバインダー樹脂等を混合して塗料化し、各種基材にその塗料を用いて帯電防止層を形成した帯電防止シートが普及してきている。
【0003】
一般に、帯電防止シートには帯電防止に必要な導電性が求められる。加えて、基材自体の色調を活かしたり、あるいは基材が透明な場合にはその透明性を活かすため、帯電防止層は高い透明性であることが望まれる場合がある。また、光学機器に使用される帯電防止シートでは、高い透過性が要求され、この場合にも、帯電防止層は高い透明性であることが望まれる。さらには、帯電防止層の基材への付着性および耐光性等も要求される。
【0004】
単層カーボンナノチューブは高い導電性を有するため、理論上は、少量の添加で帯電防止に必要な導電性を得られ、添加量が少なくてすむことから、帯電防止層の透明性を高くすることが期待される。また、化学的に安定であり耐光性に優れていることから、帯電防止材料として好適であると言われている。
【0005】
しかしながら、単層カーボンナノチューブを用いた従来の帯電防止シートでは、帯電防止に必要な導電性と帯電防止層の高透明性の両立の点で改善の余地が残っているのが実情である。改善の余地が残る理由として、単層カーボンナノチューブの分散度合いを制御することの困難さがあげられる。分散状態が不十分でも分散し過ぎでも単層カーボンナノチューブの本来有する導電性は充分に発揮されず、帯電防止に必要な導電性と高い透明性を両立することはできない。
【0006】
例えば、特許文献1記載の単層カーボンナノチューブ塗料を塗工したシートについて、表面抵抗率は最も低い例で1.3×1 Ω/□だが、このときの全光線透過率は71%であり、高い透明性を有しているとは言い難い。これは、単層カーボンナノチューブ塗料の原料である単層カーボンナノチューブ分散液中において単層カーボンナノチューブの分散状態が不十分または分散し過ぎであり、分散液としての導電性が低いため、上記表面抵抗率を得るために帯電防止層中に単層カーボンナノチューブが多く必要となり、結果として透明性が損なわれていることが一つの要因と考えられる。ただし、単層カーボンナノチューブの量を減らしさえすれば帯電防止層の高透明性が得られるとは限らず、バインダー樹脂の種類や、帯電防止層の厚さも透明性に影響してくる。このため、帯電防止層の高透明性は、単層カーボンナノチューブの添加量だけで解決することができる問題ではなく、単層カーボンナノチューブの添加量をできる限り抑えながらも高い導電性を得ることができるようにすることが重要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6578618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、単層カーボンナノチューブの添加量をできる限り抑えながらも高い導電性を有する単層カーボンナノチューブ分散液を含有した単層カーボンナノチューブ塗料を用いた帯電防止シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決する本発明の帯電防止シートは、
帯電防止層を有するシート状の基材であって、
前記帯電防止層が、
バインダー樹脂と、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定した体積基準の頻度分布曲線において、0.1μm以上1μm未満の第1粒子径区間に少なくとも1つのピークトップを有し、且つ1μm以上10μm未満の第2粒子径区間にも少なくとも1つのピークトップを有する単層カーボンナノチューブ分散液とを含有した単層カーボンナノチューブ塗料によって形成され、表面抵抗率が3.0×10 Ω/□以下であってかつ波長550nmの透過率が90%以上であることを特徴とする。
また、
前記帯電防止層が、
前記単層カーボンナノチューブ分散液と、フッ素変性アクリル樹脂を含んだバインダー樹脂とを含有した単層カーボンナノチューブ塗料によって形成されたものであることを特徴としてもよい。
また、
JIS B7751(2007)に規定される耐光性試験機を用いて96時間紫外線カーボンアーク灯光に暴露し、暴露前の表面抵抗率に対する暴露後の表面抵抗率の比率が1.5以下であることを特徴としてもよい。
なお、単層カーボンナノチューブ分散液は、
レーザー回折式粒度分布測定法によって測定した体積基準の頻度分布曲線において、0.1μm以上1μm未満の第1粒子径区間に少なくとも1つのピークトップを有し、且つ1μm以上10μm未満の第2粒子径区間にも少なくとも1つのピークトップを有することを特徴とする。
【0010】
ここにいうレーザー回折式粒度分布測定法とは、レーザー回折散乱法を測定原理とする測定方法のことをいう。
【0011】
上記第1粒子径区間に複数のピークがあってもよいし、上記第2粒子径区間に複数のピークがあってもよい。ただし、いずれの粒子径区間においても、3つ以上のピークがあると分散の均質性が損なわれ導電性が低下するため、1つ以上2つ以下であることが好ましい。
【0012】
前記第1粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークは、良く分散されているが比較的短い単層カーボンナノチューブに由来し、単層カーボンナノチューブの本数で導電性に寄与する。前記第2粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークは、中程度に分散された比較的長い単層カーボンナノチューブに由来し、単層カーボンナノチューブの長さで導電性に寄与する。これら2種類のピークが存在することによって分散液としての導電性が高くなる。なお、10μm以上の粒子径区間にピークトップが含まれるピークは、単層カーボンナノチューブが充分に分散されておらず導電性にはほとんど寄与しない。
【0013】
また、上記単層カーボンナノチューブ分散液において、
前記第1粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークと前記第2粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークの合計頻度が、前記頻度分布曲線全体が表す全体頻度の値の50%以上であることが好ましい。
【0014】
上記合計頻度は導電性に寄与する値であり、該合計頻度が高いほど分散液としての導電性は高くなる。
【0015】
また、上記単層カーボンナノチューブ分散液において、
前記第1粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークにおける合計頻度に対する前記第2粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークにおける合計頻度の比率が0.2以上3以下であることが好ましい。
【0016】
すなわち、前記第1粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークにおける合計頻度を第1合計頻度、前記第2粒子径区間にピークトップが含まれる1又は複数のピークにおける合計頻度を第2合計頻度とした場合に、0.2≦第2合計頻度/第1合計頻度≦3であることが好ましく、1≦第2合計頻度/第1合計頻度≦2であることがより好ましい。上記第1合計頻度と上記第2合計頻度はそれぞれ異なる分散状態の単層カーボンナノチューブに由来するが、その比率(第2合計頻度/第1合計頻度)が上記範囲内にあるとき、導電性がより高くなる。上記第1合計頻度が極端に大きく上記比率が0.2未満のときは、短い単層カーボンナノチューブ主体になり、導電パスを形成する際の接点が多くなる結果、接触抵抗が増すため、より高い導電性を得ることができなくなる。逆に、上記第2合計頻度が極端に大きく上記比率が3より大きいときは、長い単層カーボンナノチューブ主体となり、本数が少ないので導電パスが形成されにくくなる結果、上記比率が3より大きいときでも、より高い導電性を得ることができなくなる。
【0017】
また、単層カーボンナノチューブ塗料は、
上記単層カーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂とを含有したことを特徴とする。
【0018】
この単層カーボンナノチューブ塗料において、
前記バインダー樹脂が、ウレタン樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル・アクリル複合樹脂の群から選ばれた少なくとも一種を含んだものであることが好ましい。
【0019】
上記群におけるいずれのバインダー樹脂も、上記単層カーボンナノチューブ分散液の導電性を損ないにくいことに加えて高い透明性を有する樹脂である。これらの樹脂の中でも、フッ素変性アクリル樹脂とポリエステル・アクリル複合樹脂は特に好ましい。フッ素変性アクリル樹脂とは、フッ素樹脂とアクリル樹脂を重合させたものであり、フッ素系ポリマーとアクリル系ポリマーが含まれている完全水系のフッ素アクリルエマルジョンである。ポリエステル・アクリル複合樹脂は、加熱乾燥時にアクリル成分が自己架橋する熱硬化型完全水系の樹脂である。
【0020】
また、帯電防止シートは、
帯電防止層を有するシート状の基材であって、
前記帯電防止層が、上記単層カーボンナノチューブ塗料によって形成されたものであることを特徴とする。
【0021】
この帯電防止シートは、上記単層カーボンナノチューブ塗料をシート状基材に塗工または含浸する第1工程と、前記第1工程を実施した後に前記単層カーボンナノチューブ塗料を乾燥させる第2工程とを有することを特徴とする帯電防止シートの製造方法によって製造されたものである。
【0022】
この帯電防止シートにおいて、
JIS B7751(2007)に規定される耐光性試験機を用いて96時間紫外線カーボンアーク灯光に暴露し、暴露前の表面抵抗率に対する暴露後の表面抵抗率の比率が1.5以下であることを特徴としてもよい。
【0023】
帯電防止シートの暴露後の表面抵抗率の上昇が小さいことは、耐光性に優れていることになり、上記比率1.5以下であれば、高い耐光性を有するといえる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、単層カーボンナノチューブの添加量をできる限り抑えながらも高い導電性を有する単層カーボンナノチューブ分散液を含有した単層カーボンナノチューブ塗料を用いた帯電防止シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】単層カーボンナノチューブの3つの分散状態それぞれを示す粒度分布のグラフを概念的に表した図である。
図2】(a)は本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフであり、(b)は本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液に用いた分散方法とは異なる分散方法で分散した単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフである。
図3】マイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EXIIを用いて単層カーボンナノチューブ分散液の粒度分布を測定したときの各種条件をまとめた表である。
図4】(a)は比較例1で用いた単層カーボンナノチューブ分散液9を光学顕微鏡で500倍まで拡大したときの画像であり、(b)は実施例1で用いた単層カーボンナノチューブ分散液1を光学顕微鏡で500倍まで拡大したときの画像である。
図5】(a)はフッ素変性アクリルバインダーを用いた実施例2の帯電防止シートにおける帯電防止層を走査電子顕微鏡(SEM)で20kVの加速電圧を用いて5000倍まで拡大した二次電子画像であり、(b)はウレタン樹脂バインダーを用いた実施例1の帯電防止シートにおける帯電防止層を走査電子顕微鏡(SEM)で20kVの加速電圧を用いて5000倍まで拡大した二次電子画像である。
図6】表4をグラフ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明は、単層カーボンナノチューブを含有する分散液、塗料および帯電防止シートであり、単層カーボンナノチューブが分散液中及び塗料中において導電性の高くなる分散状態にあることによって高い導電性を発揮する。帯電防止シートに単層カーボンナノチューブ塗料を用いて形成される帯電防止層は、単層カーボンナノチューブの添加量が多くなるほど透明性が低下する傾向にある。本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液および単層カーボンナノチューブ塗料は、単層カーボンナノチューブの添加量をできる限り抑えながらも高い導電性を獲得することができることから、高透明性の帯電防止層の実現に大きく寄与し、本実施形態の帯電防止シートでは、帯電防止に必要な導電性と高い透明性が両立される。
【0028】
本実施形態において、単層カーボンナノチューブの種類に特に制限はなく、金属型、半導体型、複合型いずれも用いることができる。単層カーボンナノチューブの製法には、触媒化学気相合成法(CCVD法)、レーザー蒸発法、アーク放電法等があるが、本実施形態においては、いずれの製法で製造された単層カーボンナノチューブも使用できる。単層カーボンナノチューブの直径にも特に制限はないが、直径の細い単層カーボンナノチューブの方が、本数を多く稼げるため、平均直径が3nm以下の単層カーボンナノチューブを用いることにより、導電性はより優れたものになる。単層カーボンナノチューブの長さにも特に制限はないが、短いと導電パスを形成し難くなる可能性があるので、分散性を損なわない範囲で可能な限り長いことが好ましい。
【0029】
本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液の分散は、超音波ホモジナイザー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、高圧噴射式分散機、ロールミル等を用いて行うことができる。必要に応じて分散剤を添加して分散を行うこともできる。
【0030】
本実施形態において、単層カーボンナノチューブ分散液中における単層カーボンナノチューブの分散状態は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定した体積基準の頻度分布で表示される粒度分布を用いて特定することができる。
【0031】
図1は、単層カーボンナノチューブの3つの分散状態それぞれを示す粒度分布のグラフである。
【0032】
各グラフは、横軸が粒子径を表し、縦軸が頻度を表す。このグラフは概念的なグラフであって、粒子径の値や頻度の値は具体的な値を示すものではない。
【0033】
バルク状の単層カーボンナノチューブを分散する場合、分散の進行に伴い粒度分布は粒子径の小さい方にシフトしていく。図1(a)に示す分散不十分な状態では、バルク状であった単層カーボンナノチューブが十分に解繊されていないことから粒子径が相対的に大きな方にピークが生じている。この状態では、導電パスを形成するのに必要な単層カーボンナノチューブの本数を確保し難いため、分散液としての導電性は低くなる。一方、図1(c)に示す分散し過ぎの状態では、バルク状であった単層カーボンナノチューブは充分に解繊されていることから粒子径が相対的に小さな方にピークが生じている。この状態では、分散時に加わる剪断力等のエネルギーによって単層カーボンナノチューブが切断され短くなっているため、導電パスを形成する際の接触抵抗が大きくなり、これも分散液としての導電性は低くなる。図1(b)では、バルク状であった単層カーボンナノチューブが適度に解繊されており、粒子径が中間部分に2つのピークが生じている。
【0034】
図2(a)は、本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフである。横軸が粒子径を対数スケールで表し、縦軸が頻度を線形スケールで表したものである。
【0035】
図2(a)に示す粒度分布のグラフは、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定した体積基準の頻度分布曲線になる。このグラフには、ピーク1~ピーク3の3つのピークが表れている。
【0036】
ピーク1は、0.1μm以上1μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークであって、図2(a)に示す頻度分布曲線では、この粒子径区間にピークトップを有するピークはこのピーク1だけである。ピーク1の合計頻度は、左下がりのハッチングを施した領域の面積で表され、35%である。ピーク1は、良く分散されているが比較的短い単層カーボンナノチューブに由来し、単層カーボンナノチューブの本数で導電性に寄与する。
【0037】
ピーク2は、1μm以上10μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークであって、図2(a)に示す頻度分布曲線では、この粒子径区間にピークトップを有するピークはこのピーク2だけである。ピーク2の合計頻度は、右下がりのハッチングを施した領域の面積で表され、41%である。したがって、ピーク1の合計頻度とピーク2の合計頻度の合算値は76%になる。また、ピーク1の合計頻度に対するピーク2の合計頻度の比率(41/35)は1.2になる。ピーク2は、中程度に分散された比較的長い単層カーボンナノチューブに由来し、単層カーボンナノチューブの長さで導電性に寄与する。ピーク1とピーク2といった2種類のピークが存在することによって分散液としての導電性が高くなる。
【0038】
ピーク3は、10μm以上100μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークになる。10μm以上の位置にピークトップを有するピークによって表される分散状態の単層カーボンナノチューブは、充分に分散されておらず導電性にはほとんど寄与しない。
【0039】
図2(a)に示す頻度分布曲線では、50%粒子径は1.1μmになる。
【0040】
図2(b)は、本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液に用いた分散方法とは異なる分散方法で分散した単層カーボンナノチューブ分散液における単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフである。このグラフでも、横軸が粒子径を対数スケールで表し、縦軸が頻度を線形スケールで表す。
【0041】
図2(b)に示す粒度分布のグラフは、図2(a)に示す粒度分布のグラフを出力したレーザー回折式粒度分布測定装置と同じ装置を用い、同じ測定条件で測定した結果である。このグラフには、ピーク1~ピーク4の4つのピークが表れている。
【0042】
ピーク1は、0.1μm以上1μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークである。図2(b)に示す頻度分布曲線でも、この粒子径区間にピークトップを有するピークはこのピーク1だけである。ピーク1の合計頻度は、左下がりのハッチングを施した領域の面積で表され、43%である。
【0043】
ピーク2は、1μm以上10μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークであって、図2に示す頻度分布曲線では、この粒子径区間にピークトップを有するピークはこのピーク2とピーク3になる。ピーク2の合計頻度は19%であり、ピーク3の合計頻度は13%である。ピーク2の合計頻度とピーク3の合計頻度を合わせた合算頻度は、右下がりのハッチングを施した領域の面積で表され、32%である。したがって、これら3つのピーク1~3の合計頻度の合算値は75%になる。また、ピーク1の合計頻度に対するピーク2の合計頻度とピーク3の合計頻度を合わせた合算頻度の比率(32/43)は0.74になる。
【0044】
ピーク4は、10μm以上100μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピークになる。
【0045】
以上説明した図2(a)及び同図(b)それぞれに示す頻度分布曲線をまとめると、0.1μm以上1μm未満の粒子径区間に1つ以上のピークトップを有し、且つ1μm以上10μm未満の粒子径区間に1つ以上のピークトップを有することが好ましい。ピーク2は、0.1μm以上1μm未満の粒子径区間と1μm以上10μm未満の粒子径区間にまたがったピークである。また、図2(b)におけるピーク3は、1μm以上10μm未満の粒子径区間と10μm以上100μm未満の粒子径区間にまたがったピークである。2つの粒子径区間にまたがったピークは、ここではピークトップの位置で、どちらの粒子径区間に属するピークであるかを判断したが、合計頻度が多く含まれる方の粒子径区間に属するようにしてもよい。
【0046】
0.1μm以上1μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピーク(以下、第1ピークと称する)の個数に特に制限はないが、3つ以上であると分散の均質性が損なわれ導電性が低下するため、第1ピークの個数は、1つ以上2つ以下であることが好ましい。1μm以上10μm未満の粒子径区間にピークトップを有するピーク(以下、第2ピークと称する)でも同じく、第2ピークの個数に特に制限はないが、3つ以上であると分散の均質性が損なわれ導電性が低下するため、第2ピークの個数は、1つ以上2つ以下であることが好ましい。
【0047】
また、第1ピークの合計頻度と第2ピークの合計頻度の合算値は、図2(a)に示す頻度分布曲線では76%であり、同図(b)に示す頻度分布曲線では75%であったが、この合計値は50%以上を占めることが好ましい。第1ピークと第2ピークに含まれる単層カーボンナノチューブが主として分散液の導電性に寄与するため、上記合算値が50%未満だと導電性が低下してしまう。したがって上記合算値は50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。
【0048】
さらに、第2ピークの合計頻度/第1ピークの合計頻度といった比率は、図2(a)に示す頻度分布曲線では1.2であり、同図(b)に示す頻度分布曲線では0.74であったが、この比率は、0.2以上3以下であることが好ましい。第1ピークと第2ピークはそれぞれ異なる分散状態の単層カーボンナノチューブに由来するが、この比率が上記範囲内にあるとき、より高い導電性が得られる。第1ピークが極端に大きく上記比率が0.2未満のときは、短い単層カーボンナノチューブが主体となり、導電パスを形成する際の接点が多くなる結果、接触抵抗が増すのでより高い導電性は得られず好ましくない。逆に、第2ピークが極端に大きく上記比率が3より大きいときは、長い単層カーボンナノチューブが主体となり、単層カーボンナノチューブの本数が少ないので導電パスが形成されにくくなる結果、より高い導電性は得られず好ましくない。さらに、この比率は、1以上2以下であることがより好ましい。
【0049】
続いて、本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料について説明する。本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料は、上述した本実施形態の単層カーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂とを含有したものである。この単層カーボンナノチューブ塗料は、単層カーボンナノチューブ分散液にバインダー樹脂を添加し撹拌することによって得られる。必要に応じてレベリング剤や増粘剤を添加しても良い。
【0050】
バインダー樹脂の種類に特に制限はなく、アクリル樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル・アクリル複合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン・酢ビ共重合樹脂、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン等を用いることができるが、単層カーボンナノチューブの導電性を低下させにくく高い透明性を有する、ウレタン樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル・アクリル複合樹脂の群から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。また、これらの樹脂の中でも、フッ素変性アクリル樹脂とポリエステル・アクリル複合樹脂は特に好ましい。フッ素変性アクリル樹脂とは、フッ素樹脂とアクリル樹脂を乳化重合させたものであり、疎水ユニットとしてフッ素系ポリマーが含まれるとともに親水ユニットとしてアクリル系ポリマーが含まれている完全水系のフッ素アクリルエマルジョンである。ポリエステル・アクリル複合樹脂は、加熱乾燥時にアクリル成分が自己架橋する熱硬化型完全水系の樹脂である。
【0051】
本実施形態において、単層カーボンナノチューブ塗料中におけるバインダー樹脂の濃度に特に制限はなく、求められる諸特性に応じた濃度にすることができる。
【0052】
また、バインダー樹脂濃度/単層カーボンナノチューブ濃度の比にも特に制限はなく、求められる諸特性に応じた比にすることができる。ただし、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が高くなればなるほど、同じ塗工量で比較した場合の導電性は良好になる一方で透明性は低下する。
【0053】
次に、本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料を用いた帯電防止シートについて説明する。本実施形態の帯電防止シートは、シート状の基材に本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料を塗工または含浸した後、乾燥することによって、基材に帯電防止層を構築して得られたものである。シート状の基材は、塗料成分を担持できるものであれば特に制限はない。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルペンテン等からなる一軸延伸シート、二軸延伸シート等の合成樹脂シート、セルロース繊維、合成樹脂繊維もしくはレーヨン繊維等からなる乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法もしくはスチームジェット法等の製造方法により製造された不織布または上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗布紙、クラフト紙もしくは含浸紙等の紙類、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセル、アセテート等の再生繊維、綿、絹等の天然繊維から成る糸を製織して得られた布類を挙げることができる。なお、シート状とはフィルム状を含む。
【0054】
本実施形態の帯電防止シートは、本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料をシート状基材に塗工または含浸する第1工程と、その第1工程を実施した後に本実施形態の単層カーボンナノチューブ塗料を乾燥させる第2工程とを有する製造方法によって製造される。第1工程では、単層カーボンナノチューブ塗料をワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、コンマコーター等を用いてシート状基材に塗布する。あるいは、単層カーボンナノチューブ塗料で満たされた含浸パンにシート状基材を浸漬した後、ニップローラー間に通して余分な塗料を落とす。
【実施例
【0055】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に明示しない限り質量部及び質量%を示す。
【0056】
<<単層カーボンナノチューブ分散液の調製>>
(単層カーボンナノチューブ分散液1の調製)
単層カーボンナノチューブ(商品名TUBALL、OCSiAl社製、CNT外径1.6±0.5nm、長さ>5μm)を2部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースを固形分で4部用意した。次に、溶媒として994部の蒸留水にカルボキシメチルセルロースを添加して、攪拌機で1~2分攪拌した。さらに、この水溶液に単層カーボンナノチューブを添加し、超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所製 US-600fcat)を用いて200Wで4時間の分散処理を行い、単層カーボンナノチューブ水分散液である単層カーボンナノチューブ分散液1を得た。
【0057】
(単層カーボンナノチューブ分散液2の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を400部採取し、これに3500rpmで1時間の遠心分離処理を施し、この上澄み100部を単層カーボンナノチューブ分散液2とした。
【0058】
(単層カーボンナノチューブ分散液3の調製)
4時間であった分散時間を2時間に短縮した他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行い単層カーボンナノチューブ分散液3を得た。
【0059】
(単層カーボンナノチューブ分散液4の調製)
分散時間を1.5時間に短縮した他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行い単層カーボンナノチューブ分散液4を得た。
【0060】
(単層カーボンナノチューブ分散液5の調製)
200Wであった分散時の超音波ホモジナイザーの出力を100Wに低下し、4時間であった分散時間を6時間に延ばした他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行い単層カーボンナノチューブ分散液5を得た。
【0061】
(単層カーボンナノチューブ分散液6の調製)
分散時の超音波ホモジナイザーの出力を100Wに低下し、分散時間を5時間に延ばした他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行い単層カーボンナノチューブ分散液5を得た。
【0062】
(単層カーボンナノチューブ分散液7の調製)
4時間であった分散時間を倍の8時間とした他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行った。得られた分散液400部に対して3500rpmで1時間の遠心分離処理を施し、この上澄み100部を単層カーボンナノチューブ分散液7とした。
【0063】
(単層カーボンナノチューブ分散液8の調製)
分散時間をさらに延ばし12時間とした他は、単層カーボンナノチューブ分散液7と同様に分散処理と遠心分離処理を行い、単層カーボンナノチューブ分散液8を得た。
【0064】
(単層カーボンナノチューブ分散液9の調製)
分散時の超音波ホモジナイザーの出力を100Wに低下し、分散時間を0.5時間に短縮した他は、単層カーボンナノチューブ分散液1と同様に分散処理を行い単層カーボンナノチューブ分散液9を得た。
【0065】
<<単層カーボンナノチューブ塗料の調製>>
(単層カーボンナノチューブ塗料1の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料1を得た。ここにいう有効成分濃度とは、水性エマルジョン全体を100%にした場合のバインダー樹脂(ここではウレタン樹脂)の濃度になる(以下においても同様)。単層カーボンナノチューブ分散液1では単層カーボンナノチューブが2部であったことから、単層カーボンナノチューブ塗料1における単層カーボンナノチューブの濃度は0.15%になる。また、単層カーボンナノチューブ塗料1における、バインダー樹脂であるウレタン樹脂の濃度は6%になる。
【0066】
(単層カーボンナノチューブ塗料2の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてフッ素変性アクリル樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度48%)を13部添加し、蒸留水を12部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料2を得た。単層カーボンナノチューブ分散液1では単層カーボンナノチューブが2部であったことから、単層カーボンナノチューブ塗料2における単層カーボンナノチューブの濃度も0.15%になる。また、単層カーボンナノチューブ塗料2における、バインダー樹脂であるフッ素変性アクリル樹脂の濃度も6%になる。
【0067】
(単層カーボンナノチューブ塗料3の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてポリエステル樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度25%)を24部添加し、蒸留水を1部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料3を得た。単層カーボンナノチューブ分散液1では単層カーボンナノチューブが2部であったことから、単層カーボンナノチューブ塗料3における単層カーボンナノチューブの濃度も0.15%になる。また、単層カーボンナノチューブ塗料3における、バインダー樹脂であるポリエステル樹脂の濃度も6%になる。
【0068】
(単層カーボンナノチューブ塗料4の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてポリエステル・アクリル樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度30%)を20部添加し、蒸留水を5部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料4を得た。単層カーボンナノチューブ分散液1では単層カーボンナノチューブが2部であったことから、単層カーボンナノチューブ塗料4における単層カーボンナノチューブの濃度も0.15%になる。また、単層カーボンナノチューブ塗料4における、バインダー樹脂であるポリエステル・アクリル樹脂の濃度も6%になる。
【0069】
(単層カーボンナノチューブ塗料5の調製)
遠心分離処理を施した単層カーボンナノチューブ分散液2を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料5を得た。単層カーボンナノチューブ分散液2でも単層カーボンナノチューブが2部であったことから、単層カーボンナノチューブ塗料5における単層カーボンナノチューブの濃度も0.15%になる。また、単層カーボンナノチューブ塗料5における、バインダー樹脂であるウレタン樹脂の濃度も6%になる。以降の各塗料においても、各塗料における単層カーボンナノチューブの濃度は0.15%であり、各塗料におけるバインダー樹脂(ウレタン樹脂)の濃度も6%である。
【0070】
(単層カーボンナノチューブ塗料6の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1よりも分散時間が短い単層カーボンナノチューブ分散液3を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料6を得た。
【0071】
(単層カーボンナノチューブ塗料7の調製)
分散時間がさらに短い単層カーボンナノチューブ分散液4を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料7を得た。
【0072】
(単層カーボンナノチューブ塗料8の調製)
分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間を長くした単層カーボンナノチューブ分散液5を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料8を得た。
【0073】
(単層カーボンナノチューブ塗料9の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液5よりも分散時間を短くした単層カーボンナノチューブ分散液6を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料9を得た。
【0074】
(単層カーボンナノチューブ塗料10の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1に比べて倍の分散時間にした上に遠心分離処理も施した単層カーボンナノチューブ分散液7を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料10を得た。
【0075】
(単層カーボンナノチューブ塗料11の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液7よりも分散時間をさらに長くした単層カーボンナノチューブ分散液8を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料11を得た。
【0076】
(単層カーボンナノチューブ塗料12の調製)
分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間もかなり短くした単層カーボンナノチューブ分散液9を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を6部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料12を得た。
【0077】
(単層カーボンナノチューブ塗料13の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を、単層カーボンナノチューブ塗料1よりも少ない9.5部添加し、蒸留水を15.5部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料13を得た。
【0078】
(単層カーボンナノチューブ塗料14の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を、単層カーボンナノチューブ塗料1よりも多い25部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料14を得た。
【0079】
(単層カーボンナノチューブ塗料15の調製)
単層カーボンナノチューブ分散液1を75部採取し、これにバインダー樹脂としてフッ素変性アクリル樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度48%)を、単層カーボンナノチューブ塗料2よりも少ない6.3部添加し、蒸留水を18.7部添加してから撹拌を行い、単層カーボンナノチューブ塗料15を得た。
【0080】
(PEDOT/PSS塗料の調製)
ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)分散液(分散液全体を100%にした場合のPEDOT/PSSの濃度(有効成分濃度)が0.8%)を19部採取し、これにバインダー樹脂としてウレタン樹脂の水性エマルジョン(有効成分濃度31%)を19部添加し、蒸留水を62部添加してから撹拌を行い、PEDOT/PSS塗料を得た。
【0081】
<<帯電防止シートの作製>>
以上説明した各種塗料を用いてシート状基材に帯電防止層を形成し、実施例および比較例の帯電防止シートを得た。以下、実施例および比較例について説明する。なお、以下の説明では、単層カーボンナノチューブ分散液のことを単に分散液と称する場合がある。
【0082】
(実施例1)
シート状基材としてポリエステルフィルム(商品名コスモシャインA4300、東洋紡製)を用意した。これに単層カーボンナノチューブ塗料1を卓上自動バーコーターを用いて塗工し、120℃の乾燥機中で2分間乾燥することで帯電防止層を形成し、帯電防止シートを得た。塗工にあたっては、帯電防止層の厚さが1μm未満になるように塗工した。実施例1における各種条件を基本条件にし、実施例1の帯電防止シートを基準の帯電防止シートにする。
【0083】
(実施例2)
バインダー樹脂としてフッ素変性アクリル樹脂を用いた単層カーボンナノチューブ塗料2を用いた他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0084】
(実施例3)
バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を用いた単層カーボンナノチューブ塗料3を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0085】
(実施例4)
バインダー樹脂としてポリエステル・アクリル樹脂を用いた単層カーボンナノチューブ塗料4を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0086】
(実施例5)
遠心分離処理を施した分散液2を用いた単層カーボンナノチューブ塗料5を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0087】
(実施例6)
分散時間が短い分散液3を用いた単層カーボンナノチューブ塗料6を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0088】
(実施例7)
分散時間がさらに短い分散液4を用いた単層カーボンナノチューブ塗料7を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0089】
(実施例8)
分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間を長くした分散液5を用いた単層カーボンナノチューブ塗料8を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0090】
(実施例9)
分散液5よりも分散時間を短くした分散液6を用いた単層カーボンナノチューブ塗料9を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0091】
(実施例10)
分散液1に比べて倍の分散時間にした上に遠心分離処理も施した分散液7を用いた単層カーボンナノチューブ塗料10を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0092】
(実施例11)
分散液7よりも分散時間をさらに長くした分散液8を用いた単層カーボンナノチューブ塗料11を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0093】
(実施例12)
バインダー樹脂であるウレタン樹脂の添加量を単層カーボンナノチューブ塗料1よりも少なくした単層カーボンナノチューブ塗料13を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0094】
(実施例13)
バインダー樹脂であるウレタン樹脂の添加量を単層カーボンナノチューブ塗料1よりも多くした単層カーボンナノチューブ塗料14を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0095】
(実施例14)
バインダー樹脂であるフッ素変性アクリル樹脂の添加量を単層カーボンナノチューブ塗料2よりも多くした単層カーボンナノチューブ塗料15を使用した他は、実施例2と同様にして帯電防止シートを得た。
【0096】
(比較例1)
分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間もかなり短くした分散液9を用いた単層カーボンナノチューブ塗料12を使用した他は、実施例1と同様にして帯電防止シートを得た。
【0097】
(比較例2)
上記PEDOT/PSS塗料を卓上自動バーコーターを用いて塗工し、乾燥することで帯電防止層を形成し、帯電防止シートを得た。塗工にあたっては、帯電防止層の厚さが1μm未満になるように塗工した。
【0098】
(評価方法)
(1)単層カーボンナノチューブ分散液の粒度分布
レーザー回折散乱法を測定原理とするレーザー回折式粒度分布測定装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EXIIを用いた。この装置におけるモード名や設定値を含めて測定条件を図3に示す。
【0099】
図3は、マイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EXIIを用いて単層カーボンナノチューブ分散液の粒度分布を測定したときの各種条件をまとめた表である。
【0100】
測定は、1種類の分散液について3回測定し、3回の算術平均値を取って測定結果とした。測定結果としては、0.1μm以上1μm未満の粒子径区間にピークトップを有する1又は複数のピーク(以下、総称して第1ピークP1と称する)の個数と第1ピークP1の合計頻度(%)、および1μm以上10μm未満の粒子径区間にピークトップを有する1又は複数のピーク(以下、総称して第2ピークP2と称する)の個数と第2ピークP2の合計頻度(%)を求めた。また、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率(第2ピークP2の合計頻度/第1ピークP1の合計頻度)を算出した。
【0101】
図2(a)に示す粒度分布のグラフは、単層カーボンナノチューブ分散液1における粒度分布のグラフになる。
【0102】
(2)帯電防止シートの表面抵抗率
株式会社三菱化学アナリテック製ロレスタAX MCP-T370 簡易型低抵抗率計を用いてJIS K 7194-1994に準拠して帯電防止シートの表面抵抗率を測定した。測定は1試験片あたり9箇所測定しその算術平均値を取って当該試験片の表面抵抗率とした。
【0103】
(3)帯電防止シートの透過率
株式会社日立ハイテクサイエンス製分光光度計U-3900Hを用いて、参照セルに未塗工のシート状基材、測定セルに帯電防止シートを設置し、波長550nmの透過率を測定し、これを帯電防止シートにおける帯電防止層(塗工層)の透過率とした。
【0104】
(4)帯電防止シートの耐光性試験
JIS B7751(2007)に規定される耐光性試験機としてスガ試験機株式会社製促進耐光性試験機U48を用いて、帯電防止シートを96時間紫外線カーボンアーク灯光に暴露し、暴露前後の表面抵抗率を測定した。
【0105】
(5)帯電防止シートにおける帯電防止層の基材への付着性
JIS K5600-5-6(クロスカット法)に準拠して帯電防止層のシート状基材への付着性を評価した。
【0106】
各実施例および各比較例で得られた評価結果を、各実施例及び各比較例における諸条件とともに表1~表3に示す。各表において、CNTは単層カーボンナノチューブを表す。P1+P2は、第1ピークP1の合計頻度と第2ピークP2の合計頻度の合算値(第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度)(%)を表し、P2/P1は、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率(第2ピークP2の合計頻度/第1ピークP1の合計頻度)を表す。また、Aは、耐光性試験前の帯電防止シートの表面抵抗率(Ω/□)を表し、Bは、耐光性試験後の帯電防止シートの表面抵抗率(Ω/□)を表す。さらに、帯電防止シートにおける帯電防止層のシート状基材への付着性の結果を表す「クロスカット」の欄には、カットの縁が滑らかでなかったり、剥がれがあった格子の目の数を示し、「0」は、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがなく、最も良好な結果であることを表す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1は、塗料のバインダー条件を統一した上で、単層カーボンナノチューブの分散条件を種々に変更して比較したものである。すなわち、バインダー樹脂としてウレタン樹脂を用い、塗料中のその濃度を6%に統一してある。また、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度は0.15%に統一してある。
【0109】
比較例1では、帯電防止シートの表面抵抗率が1 Ω/□以上で測定不能であった。これは、分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間もかなり短くした分散液9を用いた単層カーボンナノチューブ塗料12を使用したことにより、単層カーボンナノチューブの分散が不十分であったためと考えられる。すなわち、単層カーボンナノチューブ分散液9における単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフでは、第1ピークP1と第2ピークP2が出現せず、図1(a)に示すようなグラフであった。このため、導電性に寄与する、第1ピークP1によって表される分散状態の単層カーボンナノチューブおよび第2ピークP2によって表される分散状態の単層カーボンナノチューブが、分散液中に存在せず、分散液の導電性が低かったと考えられる。
【0110】
図4(a)は、比較例1で用いた単層カーボンナノチューブ分散液9を光学顕微鏡で500倍まで拡大したときの画像である。
【0111】
黒い部分は、分散の程度があまり進んでいない単層カーボンナノチューブCNT1であり、灰色の部分は、黒い部分よりは分散の程度が進んだ単層カーボンナノチューブCNT2である。
【0112】
一方、表1に示す各実施例で用いた、単層カーボンナノチューブ分散液1~8それぞれにおける単層カーボンナノチューブの分散状態を示す粒度分布のグラフでは、いずれも第1ピークP1と第2ピークP2が出現したグラフであった。このことにより、導電性に寄与する、第1ピークP1によって表される分散状態の単層カーボンナノチューブおよび第2ピークP2によって表される分散状態の単層カーボンナノチューブが、分散液中に存在することを確認できた。表1に示す各実施例は、表面抵抗率が比較例1よりも低く、導電性が比較例1よりも優れていることがわかる。
【0113】
図4(b)は、実施例1で用いた単層カーボンナノチューブ分散液1を光学顕微鏡で500倍まで拡大したときの画像である。
【0114】
短い糸状のものは単層カーボンナノチューブCNT3である。黒い粒状ものも単層カーボンナノチューブCNT4と思われる。ただし、複数ある黒い粒状ものの中には、単層カーボンナノチューブを製造する際に使用する金属触媒の残留物が混じっている可能性もある。図4(a)に示す画像と同図(b)に示す画像を比較すると、単層カーボンナノチューブの分散が、同図(b)の方が大きく進んでいることがわかる。
【0115】
遠心分離処理を施した単層カーボンナノチューブ分散液2を用いた実施例5では、導電性に寄与する第1ピークP1と第2ピークP2の合計累積が100%である。また、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率も1.3であって、より好ましい1以上2以下の範囲内にある。バインダーとしてウレタン樹脂を6%濃度で用いたケースにおける比較では、実施例5の帯電防止シートが、最も低い表面抵抗率を示し、導電性に優れることが分かる。これは、遠心分離処理を施すことによって上澄み液に適度に分散された単層カーボンナノチューブが抽出され、その上澄み液を分散液として用いた結果と考えられる。
【0116】
また、実施例1よりも分散時間を短くした実施例6では、導電性に寄与する第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度が、全体頻度の54%になっており、実施例1と比較して低い。このため、表面抵抗率は実施例1よりも高く導電性が低下しいる。分散時間をさらに短くした実施例7では、第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度が、全体頻度の46%になっており、実施例7の帯電防止シートの表面抵抗率は3.0×1 Ω/□を超え、導電性はさらに低下している。これらのことから、第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度は、全体頻度の50%以上であることが好ましいといえる。ただし、実施例6の帯電防止シートにしても実施例7の帯電防止シートにしても、表面抵抗率は1 Ω/□レベルには留まっており、帯電防止シートとしての利用は可能である。
【0117】
実施例1より分散処理時の剪断力を抑えつつ分散時間を長くした実施例8では、導電性に寄与する第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度が66%になっており、50%を超えてはいるが、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が2.7であり、より好ましい1以上2以下の範囲外にあるため実施例1と比較して導電性が低い。実施例8よりも分散時間を短くした実施例9では、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が3.3であり、実施例9の帯電防止シートの表面抵抗率は3.0×1 Ω/□を超え、導電性はさらに低下している。これらのことから、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が3以下であることが好ましいといえる。ただし、実施例8の帯電防止シートにしても実施例9の帯電防止シートにしても、表面抵抗率は1 Ω/□レベルには留まっており、帯電防止シートとしての利用は可能である。
【0118】
実施例10では、導電性に寄与する第1ピークP1と第2ピークP2の合計頻度が100%と最も高いが、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が0.3であり、より好ましい1以上2以下の範囲外にあるため実施例1と比較して導電性が低い。実施例11では第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が0.1であり、実施例11の帯電防止シートの表面抵抗率は3.0×1 Ω/□を超え、導電性はさらに低下している。これらのことから、第1ピークP1の合計頻度に対する第2ピークP2の合計頻度の比率が0.2以上であることが好ましいといえる。ただし、実施例10の帯電防止シートにしても実施例11の帯電防止シートにしても、表面抵抗率は1 Ω/□レベルには留まっており、帯電防止シートとしての利用は可能である。
【0119】
【表2】
【0120】
実施例2~4では、実施例1とは異なる種類のバインダーを用いているが、塗料中のバインダー樹脂の濃度は、実施例1と同じく6%に統一してある。また、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度も、実施例1と同じく0.15%に統一してある。実施例2~4それぞれの帯電防止シートの表面抵抗率はいずれも、実施例1の帯電防止シートの表面抵抗率よりも低く、導電性が優れている。また、帯電防止層の透過率も実施例1と同じ92%と高い値であり、帯電防止に必要な導電性と高い透明性を両立している。特に、フッ素変性アクリルバインダーを用いた実施例2の帯電防止シートでは、表面抵抗率が実施例の中で最も低く、導電性が最も優れている。
【0121】
図5(a)は、フッ素変性アクリルバインダーを用いた実施例2の帯電防止シートにおける帯電防止層を走査電子顕微鏡(SEM)で20kVの加速電圧を用いて5000倍まで拡大した二次電子画像である。
【0122】
単層カーボンナノチューブあるいはフッ素変性アクリル樹脂の凝集塊が中央部分に白く映り込んでしまっているが、細い白い繊維状のものが、フッ素変性アクリル樹脂をまとった単層カーボンナノチューブCNT5である。
【0123】
図5(b)は、ウレタン樹脂バインダーを用いた実施例1の帯電防止シートにおける帯電防止層を走査電子顕微鏡(SEM)で20kVの加速電圧を用いて5000倍まで拡大した二次電子画像である。
【0124】
図5(b)に示す画像では、太めの白い繊維状のものがウレタン樹脂をまとった単層カーボンナノチューブCNT6である。
【0125】
上述のごとく、ウレタン樹脂バインダーの濃度もフッ素変性アクリル樹脂バインダーの濃度も、6%と同じであり、単層カーボンナノチューブの濃度も0.15%と同じでありながら、両者を比較すると、ウレタン樹脂をまとった単層カーボンナノチューブCNT6の方が、バインダー樹脂(ウレタン樹脂)に厚く覆われており、単層カーボンナノチューブどうしの接触抵抗が高くなっていると考えられる。一方、フッ素変性アクリル樹脂をまとった単層カーボンナノチューブCNT6の方が、バインダー樹脂(フッ素変性アクリル樹脂)で覆われている程度が薄く、単層カーボンナノチューブどうしの接触抵抗は低く抑えられていると考えられる。この結果から、同じ濃度で見た場合に、ウレタン樹脂バインダーよりもフッ素変性アクリルバインダーの方が密に詰まり、ウレタン樹脂バインダーを用いるよりもフッ素変性アクリルバインダーを用いた方が、導電性を高くすることができると考える。
【0126】
ただし、バインター樹脂としてウレタン樹脂を用いた実施例1でも、表面抵抗率は1.5×1 Ω/□であり、導電性は十分に良好であるといえる。また、透明性は92%もあり、十分に高い透明性も有する。さらに、耐光性試験後の表面抵抗率/耐光性試験前の表面抵抗率の値は1.4であり、高い耐光性も有するといえる。加えて、基材付着性も良好である。そして、ウレタン樹脂は、フッ素変性アクリル樹脂よりも安く手に入ることから、コスト面ではフッ素変性アクリル樹脂よりも勝っている。
【0127】
【表3】
【0128】
実施例12では、実施例1との比較において塗料中のバインダー濃度を3%に下げることによって、単層カーボンナノチューブ間の接触抵抗が低減され、実施例1よりも表面抵抗率が低くなり、導電性が向上している。一方、実施例13では、実施例1との比較において塗料中のバインダー濃度を8%に上げることによって逆に実施例1よりも表面抵抗率が高くなり導電性が低下しているものの、表面抵抗率は3.0×1 Ω/□を超えることはなく、比較例1よりもはるかに良好である。
【0129】
また、実施例14では、実施例2との比較において塗料中のバインダー濃度を3%に下げることによって、単層カーボンナノチューブ間の接触抵抗が低減され、実施例中、表面抵抗率が最も低くなり、最も良好な導電性が得られている。
【0130】
全ての実施例において単層カーボンナノチューブが導電材として用いられているため、耐光性試験後の帯電防止シートの表面抵抗率の上昇は低い範囲に抑えられており、優れた耐光性を有するといえる。一方、導電材としてPEDOT/PSSを用いた比較例2では、表2に示すように、耐光性試験後の表面抵抗率が1 Ω/□以上のため測定不能であり、少なくとも試験前の4.3倍以上の値になっており、耐光性は低いといえる。
【0131】
また、帯電防止シートにおける帯電防止層のシート状基材(ポリエステルフィルム)への付着性も全ての実施例において良好であった。
【0132】
以上説明した各実施例における帯電防止シートの表面抵抗率(耐光性試験前)は、1.0×1 Ω/□未満であり、各実施例の帯電防止シートは、高い導電性を有する。なお、表面抵抗率が3.0×1 Ω/□以下であることが、より高い導電性を有するといえる。また、各実施例における透明性は90%以上であり、各実施例の帯電防止シートは高い透明性も有する。さらに、各実施例における耐光性試験後の表面抵抗率/耐光性試験前の表面抵抗率の値は1.5以下であり、各実施例の帯電防止シートは高い耐光性も有するといえる。加えて、各実施例の帯電防止シートは基材付着性も良好である。
【0133】
(バインダー樹脂の種類と塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度の関係)
上述した単層カーボンナノチューブ塗料の他に、バインダー樹脂の種類と塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度の関係を検証するために、単層カーボンナノチューブの濃度を変えた塗料をさらにいくつか用意した。すなわち、バインダー樹脂としてウレタン樹脂を用いた塗料では、塗料におけるウレタン樹脂の濃度を、実施例1(単層カーボンナノチューブ塗料1)におけるウレタン樹脂の濃度と一致させて全て6%にし、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.30%になる塗料、0.10%になる塗料、および0.05%になる塗料を用意した。なお、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.30%になる塗料は、単層カーボンナノチューブを4部含む単層カーボンナノチューブ分散液を用いて得られた塗料である。
【0134】
また、バインダー樹脂としてフッ素変性アクリル樹脂を用いた塗料では、塗料におけるウレタン樹脂の濃度を、実施例2(単層カーボンナノチューブ塗料2)におけるフッ素変性アクリル樹脂の濃度と一致させて全て6%にし、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.20%になる塗料、0.10%になる塗料、0.05%になる塗料、および0.03%になる塗料を用意した。なお、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.20%になる塗料は、単層カーボンナノチューブを4部含む単層カーボンナノチューブ分散液を用いて得られた塗料である。
【0135】
また、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を用いた塗料では、塗料におけるポリエステル樹脂の濃度を、実施例3(単層カーボンナノチューブ塗料3)におけるポリエステル樹脂の濃度と一致させて全て6%にし、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.20%になる塗料、0.10%になる塗料、および0.05%になる塗料を用意した。なお、塗料中の単層カーボンナノチューブの濃度が、0.20%になる塗料は、単層カーボンナノチューブを4部含む単層カーボンナノチューブ分散液を用いて得られた塗料である。
【0136】
各塗料を用いて、実施例1と同様にして帯電防止シートを作製し、その表面抵抗率と透過率を上述と同じようにして測定した。
【0137】
結果を表4に示す。
【0138】
【表4】
【0139】
図6は、表4をグラフ化した図である。横軸は透過率(%)を表し、縦軸は表面抵抗率(Ω/□)を表す。また、白丸のプロットを結んだグラフは、一定濃度のウレタン樹脂バインダーに対して単層カーボンナノチューブの濃度を変えていったグラフであり、灰色の四角形のプロットを結んだグラフは、一定濃度のポリエステル樹脂バインダーに対して単層カーボンナノチューブの濃度を変えていったグラフであり、黒色の三角形のプロットを結んだグラフは、一定濃度のフッ素変性アクリル樹脂バインダーに対して単層カーボンナノチューブの濃度を変えていったグラフである。
【0140】
いずれのグラフにおいても、単層カーボンナノチューブの濃度が低くなると、表面抵抗率は上昇し透過率も高くなる。反対に言えば、単層カーボンナノチューブの濃度が高くなると、表面抵抗率が低下し透過率も低くなる。
【0141】
表面抵抗率が1.0×1 Ω/□未満という高い導電性と90%以上の高い透明性を合わせもつ単層カーボンナノチューブの濃度範囲が、3つのバインダー樹脂にはそれぞれあることがわかる。上述のごとく低コストなウレタン樹脂バインダーであっても、単層カーボンナノチューブの濃度を、0.15%前後に調整することで高い導電性と高い透明性を両立させることができる。ポリエステル樹脂バインダーを用いた場合には、単層カーボンナノチューブの濃度を、0.10%前後から0.20%以下の範囲の中で調整することで高い導電性と高い透明性を両立させることができる。フッ素変性アクリル樹脂バインダーを用いた場合には、単層カーボンナノチューブの濃度を、0.03%以上0.20%以下といった最も広い範囲の中で調整することで高い導電性と高い透明性を両立させることができる。以上説明したように、図6に示すグラフに基づき単層カーボンナノチューブの濃度を調整することで、導電性と透明性が所望のレベルでバランスした帯電防止シートを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の単層カーボンナノチューブ分散液は高い導電性を有するので単層カーボンナノチューブ塗料に用いることができる。また、単層カーボンナノチューブ塗料を各種シート状基材に塗工又は含浸して得られる帯電防止シートは、帯電防止に必要な導電性と、帯電防止層における高透明性を有するので、光学機器用の帯電防止フィルムに用いることができる。また、開封することなく検品することができる、電子部品のパッケージ材料にも用いることができる。
【符号の説明】
【0143】
CNT1~CNT4 単層カーボンナノチューブ
CNT5 フッ素変性アクリル樹脂をまとった単層カーボンナノチューブ
CNT6 ウレタン樹脂をまとった単層カーボンナノチューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6