(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】速度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01P 7/00 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G01P7/00
(21)【出願番号】P 2021134089
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大生
(72)【発明者】
【氏名】レ ティエンチエン
(72)【発明者】
【氏名】國岡 昭吾
(72)【発明者】
【氏名】眞保 友彰
(72)【発明者】
【氏名】津久井 洋
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-2901(JP,A)
【文献】特開2018-132304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0093129(US,A1)
【文献】特開平8-285621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01P 7/00-21/02
B66C13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の走行速度を測定する速度測定装置であって、
前記作業機械に取り付けられた加速度センサが出力する前記作業機械の走行加速度を取得する加速度取得部、
前記走行加速度を積分することにより前記作業機械の走行速度を計算する速度算出部、
前記走行速度の履歴から前記作業機械の最高走行速度を特定する最高走行速度解析部、
前記最高走行速度を出力する出力部、
を備え、
前記最高走行速度解析部は、
前記走行加速度の履歴のうち前記作業機械が加速中状態から安定走行状態へ移行した変化点を検出し、
前記変化点よりも後の期間における前記走行速度の履歴から前記最高走行速度を特定する
ことを特徴とする速度測定装置。
【請求項2】
前記速度測定装置はさらに、前記加速度センサが有する検出軸と水平面との間の角度を表す情報を提示して前記加速度センサを前記水平面に対して平行に設置するように促す表示部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記水平面を表す第1図形と、前記検出軸を包含する平面を表す第2図形とが重なり合うように前記加速度センサを設置することを促す画面によって構成されている
ことを特徴とする請求項2記載の速度測定装置。
【請求項4】
前記速度測定装置はさらに、前記走行加速度の履歴を、前記作業機械が停止しているときにおける前記走行加速度が0となるように補正する、補正部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記加速度センサが前記走行加速度を測定開始してから所定時間が経過するまでの期間における前記走行加速度の平均値が0となるように前記走行加速度の履歴をシフトさせることにより、前記走行加速度の履歴を補正する
ことを特徴とする請求項4記載の速度測定装置。
【請求項6】
前記最高走行速度解析部は、前記走行加速度の履歴を、前記作業機械が走行開始した時刻よりも後の第1時刻から遡って前記走行加速度の絶対値が閾値以下に達した第2時刻を特定することにより、前記作業機械が走行している走行期間における前記走行加速度を抽出し、
前記最高走行速度解析部は、前記走行期間における前記走行速度の履歴から前記最高走行速度を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項7】
前記最高走行速度解析部は、
前記走行加速度の計測点ごとに、前記計測点の前後少なくともいずれかの別計測点を用いて、前記計測点の標準偏差を計算し、
前記作業機械が走行開始した後において前記標準偏差が第1閾値以上となる最初の前記計測点を、前記第1時刻として特定し、
前記第1時刻から遡って前記走行加速度が第2閾値以上に達する最初の前記計測点を、前記第2時刻として特定する
ことを特徴とする請求項6記載の速度測定装置。
【請求項8】
前記速度測定装置はさらに、前記走行加速度の誤差をフィルタリングするフィルタ部を備え、
前記最高走行速度解析部は、前記フィルタリングした前記走行加速度の履歴から前記最高走行速度を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項9】
前記フィルタ部は、前記走行加速度に対してカルマンフィルタを適用することにより、前記誤差をフィルタリングし、
前記カルマンフィルタは、微小時間が経過した時点における前記走行速度と前記微小時間が経過した時点における前記走行加速度を用いて状態方程式を記述するとともに、前記走行加速度の実測値と前記走行速度を用いて観測方程式を記述することによって構成されており、
前記速度算出部は、前記フィルタ部が前記カルマンフィルタを用いて前記誤差をフィルタリングする過程において得られる前記走行速度を、前記作業機械の走行速度として用いる
ことを特徴とする請求項8記載の速度測定装置。
【請求項10】
前記最高走行速度解析部は、
前記作業機械が走行開始した後の第3時刻から第4時刻に至るまでの期間における前記走行加速度の平均と分散を計算し、
前記第3時刻から遡って、前記走行加速度と前記平均との間の絶対差分が閾値以上となる最初の計測点を、前記変化点として特定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項11】
前記最高走行速度解析部は、前記第3時刻から遡って、前記走行加速度と前記平均との間の絶対差分が前記分散の3倍以上となる最初の計測点を、前記変化点として特定する
ことを特徴とする請求項10記載の速度測定装置。
【請求項12】
前記速度測定装置はさらに、前記走行加速度の履歴を保存する記憶部を備え、
前記最高走行速度解析部は、前記記憶部が格納している前記走行速度の履歴から前記最高走行速度を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項13】
前記最高走行速度解析部は、
前記走行加速度の経時変化を時間間隔ごとに繰り返し取得し、
前記時間間隔ごとに、直近の前記走行加速度の計測点を所定個数取得し、
前記時間間隔ごとに、前記所定個数の前記計測点の標準偏差を計算し、
前記標準偏差が閾値以上であるか否かにしたがって、前記作業機械が走行している走行期間に到達しているか否かを、前記時間間隔ごとに判定し、
前記走行期間における前記走行速度の履歴から前記最高走行速度を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項14】
前記最高走行速度解析部は、
前記走行加速度の経時変化を時間間隔ごとに繰り返し取得し、
前記走行加速度を取得するごとに、直近の前記走行加速度の計測点を所定個数取得し、
前記所定個数の前記計測点の平均値の経時変化が閾値未満となったか否かを前記時間間隔ごとに判定することにより、前記作業機械が前記変化点に至っているか否かを前記時間間隔ごとに判定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【請求項15】
前記速度測定装置は、前記最高走行速度の前後の所定範囲内以上の速度で走行することができない前記作業機械の前記走行速度を測定する
ことを特徴とする請求項1記載の速度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の走行速度を測定する速度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械(例えば油圧ショベルなどの建設機械)の性能測定は、作業機械のメンテナンス工程の1つであり、機械の各部の機能がどのような水準にあるのかを定量的に把握するために実施される。例えば走行性能測定は、作業機械が所定距離を最高走行速度で実際に走行し、規定時間内にゴール地点へ到着できるか否かによって、走行性能が基準値を満たしているか否かを検査する。
【0003】
作業機械は、一般車両のように速度計を備えてない場合があるので、走行速度はこれまでマニュアル作業によって測定されている。また作業機械は、所定の最高走行速度(およびその前後の誤差範囲)以上の速度が出せないように構成されているのが一般的である。すなわち最高走行速度は、作業機械の走行性能が基準値を満たすか否かの指標となる。したがって走行性能測定においては、作業機械の最高走行速度をマニュアル測定によって測定するのが一般的である。
【0004】
走行性能測定は、典型的には測定者がストップウォッチを用いて走行時間を測定することにより実施する。1例として、作業機械が10mの区間を最高走行速度で走行したとき、高速走行モードであれば6±0.6秒、低速走行モードであれば10±1.0秒で走行完了することができれば、走行機能は正常であるとみなされる。この例においては、正常な走行時間の範囲は規定値前後の10%以内である。したがって、走行時間の測定精度が高くなければ、誤った検査結果をもたらすことになる。マニュアル測定は測定誤差が大きいので、機械的な測定手段が望まれる。
【0005】
走行速度を機械的に測定する手段として、車速センサやGPS(Global Positioning System)が考えられる。しかし車速センサは必ずしも全ての作業機械が備えているものではないので、新たに取り付ける必要が生じ、そのためのコストが必要となる。GPSは、例えば電波受信できない環境においては使用できないので、環境依存性が高いセンサであるといえる。以上に鑑みると、環境依存性が低く、かつ作業機械に対して容易に取り付ける(または作業機械上に搭載する)ことができる外付けセンサを用いることが望ましいと考えられる。加速度センサは、上記に鑑みた望ましいセンサの1例である。
【0006】
下記特許文献1は、加速度センサを用いてエレベータの速度を測定する技術を記載している。同文献は、『精度良い速度データを得ることができ、保守員の労力を大幅に軽減することができる移送体の速度測定方法及び走行特性測定装置を提供すること。』を課題として、『エレベータの速度を測定する場合、走行特性測定装置9は保守員Aが携行し、測定時には乗りかご1の床に載置される。走行特性測定装置9は、加速度センサ、その出力を演算処理する演算制御部、誤差の補正を行う補正手段、及び処理された結果を表示する表示部で構成されている。乗りかご1が走行すると、これに応じて加速度センサから加速度値が出力される。演算制御部はこの加速度値の積分、誤差成分の推定、誤差を取り除く修正手段を行うことにより精度の良い速度データを得ることができる。この結果に基づいてエレベータの走行曲線を得ることができる。』という技術を記載している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
作業機械の走行性能測定においては、上述の通り、最高走行速度における走行時間を測定するのが一般的である。特許文献1の技術において最高走行速度を取得する場合、加速度を積分した結果が最大値となる時点で最高走行速度に達したと判断することになる。そうすると、最高走行速度に達した時点においては測定誤差や積分誤差なども大きくなっていると考えられるので、最高走行速度を誤って特定する可能性がある。誤差をキャンセルする処理を導入したとしても、完全に誤差を除去することは困難である。
【0009】
最高走行速度を特定するその他の手法としては、作業機械が最高走行速度に達していると想定される時刻を経験的にあらかじめ把握しておき、その時刻における測定値を最高走行速度として採用することが考えられる。しかし作業機械の走行速度の経時変化は、機械ごとあるいは作業者ごとに異なるので、ある程度の時間幅をあらかじめ確保しておき、その時間幅の範囲内における最高走行速度を特定する必要がある。時間幅が大きいほど、最高走行速度の誤差も大きくなるので、結果としてこの手法も最高走行速度を誤って特定する可能性がある。
【0010】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、加速度センサによる測定結果を用いて作業機械の最高走行速度を正確に特定することができる速度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る速度測定装置は、作業機械の走行加速度の履歴のうち前記作業機械が加速中状態から安定走行状態へ移行した変化点を検出し、前記変化点よりも後の期間における前記走行速度の履歴から最高走行速度を特定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る速度測定装置によれば、加速度センサによる測定結果を用いて作業機械の最高走行速度を正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る速度測定装置100の構成図である。
【
図2】演算部120が作業機械の最高走行速度を特定するための判断基準を説明するグラフである。
【
図3】演算部120が作業機械の最高走行速度を計算する手順を説明するフローチャートである。
【
図6A】S104において特定する走行期間の例である。
【
図6B】S104における具体的な処理手順を説明する図である。
【
図7A】S105においてフィルタ部124が用いるカルマンフィルタの方程式の例である。
【
図7B】フィルタリングの結果を例示するグラフである。
【
図9】実施形態2において演算部120が作業機械の最高走行速度を計算する手順を説明するフローチャートである。
【
図10】表示部140が表示するユーザインターフェースの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る速度測定装置100の構成図である。速度測定装置100は、作業機械の走行速度を測定する装置である。速度測定装置100は、例えば作業機械が備える棚などの適当な場所に載置可能な携帯端末などによって構成することができる。速度測定装置100は、加速度センサ110、演算部120、記憶部130、表示部140を備える。
【0015】
加速度センサ110は、速度測定装置100に対して加えられる加速度を測定する。速度測定装置100を作業機械上に設置することにより、加速度センサ110は作業機械に対して加えられる加速度を間接的に測定できる。
【0016】
演算部120は、加速度取得部121、補正部122、速度算出部123、フィルタ部124、最高走行速度解析部125、出力部126を備える。演算部120および演算部120が備える各機能部は、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、これらの機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。演算部120の動作については後述する。
【0017】
記憶部130は、演算部120が用いるデータを格納する記憶装置によって構成することができる。データの例については後述する。表示部140は、演算部120による処理結果や後述するユーザインターフェースを画面表示する。
【0018】
図2は、演算部120が作業機械の最高走行速度を特定するための判断基準を説明するグラフである。縦軸は作業機械の走行速度を表し、横軸は作業機械が走行開始(または加速度センサ110が測定開始)してからの経過時間を表す。演算部120は、作業機械が最高走行速度に達した以後は等速で走行すると仮定し、作業機械が加速中の状態から等速走行状態へ遷移した変化点を検出する。この変化点を検出することにより、作業機械や作業者の特性に依拠することなく、作業機械が最高走行速度に達したことを正確に検出できると考えられる。
【0019】
図3は、演算部120が作業機械の最高走行速度を計算する手順を説明するフローチャートである。以下
図3の各ステップについて説明する。
【0020】
(
図3:ステップS101)
ユーザは、速度測定装置100を作業機械上の適当な場所に載置する。ユーザは、加速度センサ110の検出軸のうちいずれかが、作業機械の走行方向と一致しているか否かを確認する。さらに、加速度センサ110の別の検出軸が水平面に対して平行であるか否かを確認してもよい。本ステップの具体例は後述する。
【0021】
(
図3:ステップS102)
ユーザは、作業機械を走行開始させる。加速度取得部121は、作業機械が走行開始する少し前の時点からの加速度センサ110による測定結果を取得し、その履歴を記憶部130へ格納する。
【0022】
(
図3:ステップS103)
補正部122は、加速度データの初期値が加速度0となるように、加速度データを補正する。本ステップの具体例は後述する。
【0023】
(
図3:ステップS104)
最高走行速度解析部125は、加速度データの履歴のなかから、作業機械が走行している走行期間を特定し、その走行期間内の加速度データを抽出する。本ステップの具体例は後述する。
【0024】
(
図3:ステップS105)
速度算出部123は、走行期間内の加速度データを用いて、作業機械の走行速度を計算する。加速度データはノイズ成分を多く含んでいるので、フィルタ部124によってフィルタリングを実施してもよい。後述するカルマンフィルタを用いる場合は、フィルタリング処理の過程において走行速度が算出されるので、フィルタリング処理と走行速度算出処理は一体化することができる。その他のフィルタを用いる場合は、これらを個別に実施してもよい。
【0025】
(
図3:ステップS106)
最高走行速度解析部125は、作業機械が加速中状態から等速走行状態に移行した変化点を検出する。本ステップの具体例は後述する。
【0026】
(
図3:ステップS107)
最高走行速度解析部125は、変化点から所定時間範囲内における走行速度の時間平均を、最高走行速度として計算する。例えば変化点から1秒間の範囲内における時間平均を最高走行速度とすることができる。出力部126はその最高走行速度を出力する。
【0027】
図4は、S101の具体例を説明する図である。表示部140は、
図4に示す設置確認画面141を画面表示する。ユーザは画面上で作業機械の機種や測定する動作(すなわち走行)を画面上で選択する。演算部120はさらに、加速度センサ110による測定結果に基づき、加速度センサ110(すなわち速度測定装置100)と水平面との間の傾きを取得し、その傾きを示唆する画像を設置確認画面141上に表示する。
【0028】
図4においては、水平面を表す図形として点線の丸を表示し、加速度センサ110の2つの検出軸を包含する平面(例えば
図4右に示すXY平面)として実線の丸を表示する例を示した。ユーザが加速度センサ110の設置角度を変更すると、画面上で実線の丸がその設置角度にしたがって移動する。演算部120は、XY平面が水平面と一致したとき、2つの丸が重なるように、画面上の各図形を表示する。これによりユーザは、速度測定装置100を適切に設置することができる。図形は1例であり、たとえば携帯端末の形状にしたがった長方形など、その他の図形であってもよい。
【0029】
加速度センサ110がジャイロセンサによって構成されている場合、加速度センサ110の設置角度によらず、任意方向の加速度ベクトルを合成演算によって取得することができる。したがってこの場合は、S101を省略してもよい。さらには、設置確認画面141において、設置角度を表す図形に代えて、速度測定装置100を作業機械上の適当な場所(水平でなくともよい)に載置するように促すメッセージを表示してもよい。
【0030】
図5は、S103の具体例を説明する図である。作業機械が停止しているときは、加速度は0となっているはずである。そこで補正部122は、加速度データの初期値が加速度0となるように、加速度データを補正する。例えば加速度センサ110が加速度を測定開始してから所定時間内(例:2秒間)の加速度の平均値が0となるように、計測値全体をオフセットさせる。
【0031】
図6Aは、S104において特定する走行期間の例である。作業機械が走行していないときであっても、加速度が瞬時的に大きく変動する場合がある。
図6Aにおける2秒近辺の変動はその例である。作業機械の最高走行速度は、走行期間内において特定すれば十分であり、それ以外の期間における加速度データは必要ではなく、2秒時点のような瞬時変動が含まれていると却って判定精度を落としてしまう。そこでS104において、走行期間を特定することとした。
【0032】
図6Bは、S104における具体的な処理手順を説明する図である。走行期間においては加速度の変動が大きいので、走行期間における各計測点前後の加速度の標準偏差は十分大きいと考えられる。そこで最高走行速度解析部125は、加速度データの計測点ごとに、前後複数の計測点の標準偏差を計算する。
図6B上段はその標準偏差の例である。最高走行速度解析部125は、加速度データの計測開始時から開始して、標準偏差が閾値(例:0.06)以上に達した最初の時点を、第1時刻(
図6Bにおける時刻(1))として特定する。第1時刻以降は、作業機械が少なくとも走行開始しているであろうと想定することができる。
【0033】
後述するカルマンフィルタを用いるためには、加速度の正確な初期値をフィルタに対して与えることが望ましい。初期値が正確でないと、フィルタ処理の精度が低下するからである。そこで最高走行速度解析部125は、走行期間の正確な開始時点を、以下の手順によって特定する。
【0034】
最高走行速度解析部125は、第1時刻から遡って、加速度の絶対値が十分小さい(例:閾値0.0001以下)最初の時点を、第2時刻(
図6Bにおける時刻(2))として特定する。時刻を遡ったとき、加速度の絶対値が十分小さい最初の時点は、作業機械が走行開始した時点であると想定される。そこで最高走行速度解析部125は、第2時刻を走行期間の開始時点として特定する。この第2時刻をカルマンフィルタの初期値として(さらには走行期間の正確な開始時点として)用いることができる。
【0035】
図7Aは、S105においてフィルタ部124が用いるカルマンフィルタの方程式の例である。状態方程式は、前回時刻から微小時間が経過した時点における作業機械の走行速度と、微小時間が経過した時点における加速度とを用いて記述することができる。実測するのは加速度のみであることに鑑みると、観測方程式は、加速度(の実測値)を用いて記述することができる。したがってカルマンフィルタの方程式は、
図7Aのように記述することができる。
【0036】
図7Bは、フィルタリングの結果を例示するグラフである。フィルタ部124は、
図7Aの方程式にしたがってフィルタリングステップを実行する。これにより
図7B上段に示すように、加速度データに含まれるノイズを軽減することができる。カルマンフィルタの方程式は作業機械の走行速度vを含んでいるので、フィルタリング処理の過程において、作業機械の走行速度も算出されることになる。したがって速度算出部123は、フィルタ部124による処理結果を用いて、走行速度を算出することができる。
図7B下段は走行速度の例である。
【0037】
フィルタ部124は、カルマンフィルタ以外のフィルタを用いてもよい。例えば、平滑化フィルタ、パーティカルフィルタ、拡張カルマンフィルタなどが考えられる。フィルタリング過程において走行速度が得られない場合、速度算出部123は、例えば加速度を積分することによって速度を算出することができる。
【0038】
図8は、S106の具体例を説明する図である。作業機械が加速中状態から等速走行状態へ移行する変化点の前後において、加速度の時間変化率は大きく異なると考えられる。具体的には、等速走行状態における加速度の分散と、加速中状態における加速度の分散とを比較すると、後者のほうが顕著に大きいと考えられる。そこで最高走行速度解析部125は、以下の手順によって変化点を検出する。
【0039】
図8においてKalmanFilterと表記しているものは、上記フィルタリングによって得られた加速度を示す。
図8の5秒の時点において走行期間が開始したものと仮定し、ここから4秒経過時点(
図8における9秒、after4sと表記)と6秒経過時点(
図8における11秒、after6sと表記)について、以下の手順を実施する。μ±σについては以下の通りである。
【0040】
最高走行速度解析部125は、走行期間の開始時刻よりも後の第3時刻(
図8においては9秒)から、さらにその後の第4時刻(
図8においては11秒)までの期間において、フィルタリングによって得られた加速度(
図8においてKalmanFilterと表記しているもの)の平均μと分散σを計算する。具体的には、まず
図8の9秒~11秒までの期間中の各サンプリング時刻における加速度を時間平均することによって、平均μを計算する。次に、同じ期間中の各サンプリング時刻における加速度と平均μとの間の差分を用いて、分散σを計算する。第3時刻は、作業機械が等速走行状態に達すると想定される経験値にしたがって定めればよい。
図8の例においては、作業機械が走行開始してから少なくとも4秒経過した時点においては、等速走行状態に達していると仮定し、これを第3時刻として採用した。
【0041】
最高走行速度解析部125は、第3時刻(時刻9秒)から遡って、加速度がμ±3σを逸脱する最初の計測点を探索する。
図8においては、時刻9秒における加速度は平均μの近傍にある。この時刻から加速度の時間変動を遡り、加速度が平均μから大きく逸脱した時点(すなわちμ±3σの範囲外に達した時点)を特定する。この最初の逸脱点を変化点とみなすことができる。3σは、変化点を検出するための閾値としての役割を有する。閾値は必ずしも3σに限るものではなく、その他適当な値でもよい。
【0042】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る速度測定装置100は、作業機械が加速中状態から等速走行状態へ移行した変化点を検出し、その変化点よりも後の走行速度の履歴を用いて最高走行速度を特定する。変化点を検出することにより、作業機械や運転者の特性に依拠することなく、作業機械が等速走行状態に移行した時点を正確に特定できる。したがって速度測定装置100は、走行期間を識別するために余分な時間幅を確保する必要がないので、誤差の蓄積を抑制することができる。
【0043】
本実施形態1に係る速度測定装置100は、作業機械が走行する過程において得られる加速度データを記憶部130へいったん格納しておき、その格納した加速度データを用いて、作業機械の最高走行速度を測定する。これにより、測定者は任意のタイミングで検査結果を確認することができる。例えば測定環境が細かな作業に向いていないような場合はこの構成が便宜である。
【0044】
<実施の形態2>
実施形態1においては、加速度センサ110による測定結果を記憶部130へ格納しておき、その加速度データを用いて作業機械の最高走行速度を特定する構成例を説明した。本発明の実施形態2では、加速度センサ110から時間間隔ごとに繰り返し測定結果を取得し、作業機械が最高走行速度に達しているか否かをその取得毎に判定する構成例を説明する。速度測定装置100の構成は実施形態1と同様である。
【0045】
図9は、本実施形態2において演算部120が作業機械の最高走行速度を計算する手順を説明するフローチャートである。演算部120は、所定時間間隔毎に本フローチャートを実施する。S101に相当する処理はあらかじめ実施済であるものとする。以下
図9の各ステップについて説明する。
【0046】
(
図9:ステップS902~S903)
これらのステップはS102~S103と同様である。ただし所定時間間隔毎に本フローチャートを実施するので、S902において取得するのは1回分の測定結果(1つの計測点)である。
【0047】
(
図9:ステップS904)
最高走行速度解析部125は、最新の複数個(例えば50個)の計測点の標準偏差を計算する。標準偏差が閾値(例:0.06)以上に達していれば、作業機械が走行期間に達しているとみなす。これはS104における第1時刻を特定することに相当する。本実施形態2においては最高走行速度に達しているか否かを計測結果取得するごとに判定することとしたので、S104における第2時刻を特定する処理は省略することとした。これは精度と処理時間のトレードオフに鑑みて処理時間を優先したものである。走行期間に達していない場合、または必要な個数の計測点を未だ得られていない場合は、本フローチャートを終了する。
【0048】
(
図9:ステップS905)
本ステップはS105と同様である。ただし計測結果を取得するごとに本フローチャートを実施するので、本ステップにおける処理は、加速度データの1つ前の時刻に対してフィルタリングを実施する。
【0049】
(
図9:ステップS906)
最高走行速度解析部125は、最新の複数個(例えば50個)の計測点の平均を計算する。最高走行速度解析部125は、前回計算した平均と今回計算した平均を比較し、両者の間の差分が閾値以下に達した(加速度が収束して時間変化率が閾値以下まで十分小さくなった)時点で、変化点に達したとみなす。変化点に達していない場合は、本フローチャートを終了する。
【0050】
(
図9:ステップS907)
最高走行速度解析部125は、変化点以後の加速度データを取得する。最高走行速度解析部125は、S107と同様に最高走行速度を計算する。
【0051】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る速度測定装置100は、作業機械の加速度を時間間隔毎に取得し、作業機械が最高走行速度に達しているか否かを、その時間間隔毎に判定する。これにより作業機械が走行性能測定のために走行する距離を従来よりも短くすることができる。
【0052】
本実施形態2においては、作業機械が最高走行速度に達したことをユーザに対して通知するために、適当な報知手段を用いてもよい。例えば音声通知、別デバイスと連動した通知、振動通知、などが考えられる。これにより作業者は、試験環境が静謐ではない場合であっても試験終了を速やかに認識することができる。
【0053】
<実施の形態3>
図10は、表示部140が表示するユーザインターフェースの例である。表示部140は、
図4で説明した設置確認画面141に加えて、例えば以下のようなユーザインターフェースを提供することができる。
【0054】
速度測定装置100は、加速度センサ110の計測軸のうちいずれかが作業機械の進行方向と平行となるように設置することが望ましい。そこで作業機械の運転席に速度測定装置100を正しく設置したときの撮像画像をあらかじめ記憶部130に格納しておき、設置確認画面141(あるいはS101において提示するその他画面)において、設置例を示す撮像画像を表示してもよい。
図10左図はその例である。なお図では設置確認画面は適切な設置例のみを示すが、これに限られず、不適当な設置例を同時に表示することとしてもよい。これによって、適切な設置例を確実に把握することが可能になる。
【0055】
演算部120が特定した最高走行速度は、表示部140上で表示してもよい。このとき標準の最高走行速度を併せて表示してもよい。標準最高走行速度はあらかじめ記憶部130に格納しておけばよい。
図10中央図はその表示例である。表示内容は任意に設定されうるものであって、たとえば「測定結果」「OK」のみであってもよい。また表示順序はこの例に限られず、たとえば測定結果の次に「OK」を表示し、その下に最高走行速度もしくは標準最高走行速度を表示する構成としてもよい。なお、「NG」の場合、異常がみられるということや、走行速度の異常に関する対応マニュアルを表示する構成としてもよい。
【0056】
演算部120が
図3または
図9を実施する過程において用いる加速度、標準偏差、速度などの履歴を表示部140上に表示してもよい。併せて変化点などの特定結果を表示してもよい。
図10右図は、速度履歴において変化点と走行期間を表示したグラフ、および
図8を表示した例を示す。本表示は任意に表示されてもよく、その場合、
図10中央図の表示部に対するスワイプ操作や、あるいは、「詳細」といったタブを設けておき、それを選択することで切り替えて表示する構成としてもよい。また、表示されるグラフ、図はいずれか一方のみあっても良いし、表示部に対するピンチイン・ピンチアウト操作で任意に拡大・縮小しうるのは言うまでもない。これらの表示の設定によって、必要な情報を優先度や緊急度に応じて適切に制御することができる。
【0057】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0058】
以上の実施形態において、必ずしも速度測定装置100が加速度センサ110を備える必要はなく、作業機械に対して加えられた加速度を測定した結果を演算部120が通信などによって取得してもよい。
【符号の説明】
【0059】
100:速度測定装置
110:加速度センサ
120:演算部
130:記憶部
140:表示部
【要約】
【課題】加速度センサによる測定結果を用いて作業機械の最高走行速度を正確に特定することができる速度測定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る速度測定装置は、作業機械の走行加速度の履歴のうち前記作業機械が加速中状態から安定走行状態へ移行した変化点を検出し、前記変化点よりも後の期間における前記走行速度の履歴から最高走行速度を特定する。
【選択図】
図2