(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ナノカーボン分散体及びそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20221110BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221110BHJP
C08L 61/18 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01M4/587
C08K3/04
C08L61/18
(21)【出願番号】P 2021159943
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2021-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】中川 直紀
(72)【発明者】
【氏名】石田 久征
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 恭輝
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026458(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188540(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136428(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195334(WO,A1)
【文献】特開平10-287836(JP,A)
【文献】特開2019-114396(JP,A)
【文献】特開2007-238859(JP,A)
【文献】特開2005-263608(JP,A)
【文献】特開2013-073724(JP,A)
【文献】特開2013-082610(JP,A)
【文献】特開2018-190621(JP,A)
【文献】服部 健一, 谷野 幸雄,β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩の水溶液中の性質と分散性,工業化学雑誌,1964年,第67巻, 第10号,第1576頁-第1582頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01M 4/00-4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カーボンナノチューブ、
(B)アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、数平均分子量が470~3000であるナフタレンスルホン酸系縮合物、
(C)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、
(D)有機概念図における無機性値に対する有機性値の比であるO/Iが1.00未満である有機溶媒、及び、
(E)水、
を含む、
電池の電極用塗料であるナノカーボン分散体。
【請求項2】
前記有機溶媒が、含窒素有機溶媒である、請求項1に記載のナノカーボン分散体。
【請求項3】
前記有機溶媒の含有量が、水100質量部に対して0.1~50質量部である、請求項1又は2に記載のナノカーボン分散体。
【請求項4】
前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の2質量%水溶液粘度が1~5000mPa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
【請求項5】
前記ナフタレンスルホン酸系縮合物が、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のモル比が50モル%以上であるアルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体を用いて作製した電極を備える電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ナノカーボン分散体及びそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブなどのナノカーボンは、優れた導電性を有する一方、ファンデルワールス力による凝集が強く、水に均一に分散させることが難しいという問題がある。
【0003】
ナノカーボンの分散性を向上するために、例えば、特許文献1には、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキレンマレイン酸共重合体塩からなるアニオン性界面活性剤のA群と、水溶性キシラン、キサンタンガム類、グアーガム類、ジェランガム類、カルボキシメチルセルロースからなる多糖類のB群とからそれぞれ一種以上を分散剤として用いて、カーボンナノチューブ水分散液を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、ナノカーボンの分散性に優れるナノカーボン分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] (A)ナノカーボン、(B)アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、数平均分子量が470~3000であるナフタレンスルホン酸系縮合物、(C)アニオン性水溶性高分子(但し、前記ナフタレンスルホン酸系縮合物は除く。)、(D)有機概念図における無機性値に対する有機性値の比であるO/Iが1.00未満である有機溶媒、及び、(E)水、を含む、ナノカーボン分散体。
[2] 前記有機溶媒が、含窒素有機溶媒である、[1]に記載のナノカーボン分散体。
[3] 前記有機溶媒の含有量が、水100質量部に対して0.1~50質量部である、[1]又は[2]に記載のナノカーボン分散体。
[4] 前記アニオン性水溶性高分子の2質量%水溶液粘度が1~5000mPa・sである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
[5] 前記ナフタレンスルホン酸系縮合物が、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のモル比が50モル%以上であるアルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
[6] 前記アニオン性水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
[7] 電池の電極用塗料である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のナノカーボン分散体。
[8] [7]に記載のナノカーボン分散体を用いて作製した電極を備える電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、ナノカーボンの分散性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係るナノカーボン分散体は、(A)ナノカーボン、(B)ナフタレンスルホン酸系縮合物、(C)アニオン性水溶性高分子、(D)有機溶媒、及び(E)水、を含む。
【0009】
[(A)ナノカーボン]
(A)成分のナノカーボンは、少なくとも一つの寸法がナノサイズ(1μm未満)の大きさを持つカーボンであり、例えば、粒子状の場合には粒径(例えば導電性カーボンブラックの場合は一次粒子径)が1μm未満であり、円筒状ないし円柱状の場合には直径が1μm未満であり、繊維状の場合には繊維径が1μm未満であり、シート状の場合には厚みが1μm未満であるものをいう。これらの粒径、直径、繊維径、及び厚みはそれぞれ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは1~100nmであり、1~50nmでもよい。
【0010】
ナノカーボンの具体例としては、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、グラファイト、カーボンナノファイバー、導電性カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック)などが挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの中でも、ナノカーボンとしては、カーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0011】
カーボンナノチューブは、炭素によって構成される六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層または多層の同軸管状になった物質である。カーボンナノチューブとしては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWCNT)、多層のマルチウォールナノチューブ(MWCNT)があり、多層のうち特に2層のものをダブルウォールナノチューブ(DWCNT)といい、これらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
カーボンナノチューブの平均直径は0.5~100nmであることが好ましく、より好ましくは1~50nmである。カーボンナノチューブの平均長さは、特に限定されず、例えば50nm~10mmでもよく、500nm~100μmでもよい。カーボンナノチューブのアスペクト比(即ち、平均直径に対する平均長さの比)は、特に限定されず、例えば10以上でもよく、100以上でもよい。
【0013】
ここで、カーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、原子間力顕微鏡画像において、無作為に選択された50個のカーボンナノチューブの寸法を測定し、その相加平均をとることにより求めることができる。原子間力顕微鏡により測定できないmmオーダーの長さについてはマイクロスコープによる画像を用いて測定すればよい。その他のナノカーボンの寸法についても同様に測定することができる。
【0014】
[(B)ナフタレンスルホン酸系縮合物]
(B)成分のナフタレンスルホン酸系縮合物は、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である。かかるナフタレンスルホン酸系縮合物は、ナノカーボンとの親和性がよく、ナノカーボンの分散剤として機能する。
【0015】
上記の塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩などの有機塩が挙げられる。これらの塩はいずれか1種のみ含まれてもよく、2種以上の塩が含まれてもよい。これらの中でもアルカリ金属塩が好ましい。
【0016】
(B)成分の一例である、(B1)アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及び/又はその塩は、アルキルナフタレンスルホン酸をホルムアルデヒド縮合して得られる縮合物、又はその塩、又は該縮合物とその塩との混合物である。アルキルナフタレンスルホン酸としては、例えば、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。置換基としてのアルキル基の炭素数は1~6であることが好ましく、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1(即ち、アルキル基はメチル基)である。
【0017】
(B)成分の一例である、(B2)ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及び/又はその塩は、ナフタレンスルホン酸をホルムアルデヒド縮合して得られる縮合物、又はその塩、又は該縮合物とその塩との混合物である。
【0018】
(B)成分の一例である、(B3)アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物及び/又はその塩は、アルキルナフタレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸をホルムアルデヒド縮合して得られる縮合物、又はその塩、又は該縮合物とその塩との混合物である。アルキルナフタレンスルホン酸としては、上記のように炭素数1~6のアルキル基を持つものが好ましく、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基を持つものであり、さらに好ましくはメチル基を持つものである。
【0019】
一実施形態において、(B)成分は、上記(B1)のアルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及び/又はその塩、並びに、上記(B3)のうちアルキルナフタレンスルホン酸のモル比が50モル%以上であるもの(B31)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これによりナノカーボンの分散性をさらに向上することができる。
【0020】
上記(B31)は、上記(B3)のアルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物及び/又はその塩のうち、アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸との合計量に対するアルキルナフタレンスルホン酸の量がモル比で50%以上のものである。該モル比は60%以上であることがより好ましい。モル比の上限は特に限定されず、例えば90モル%以下でもよいが、100モル%の場合は(B3)ではなく(B1)である。
【0021】
上記の好ましい実施形態において、(B)成分が(B1)及び/又は(B31)を含む場合、(B1)及び/又は(B31)の含有量は特に限定されないが、(B)成分100質量%中、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0022】
(B)成分のナフタレンスルホン酸系縮合物としては、数平均分子量(Mn)が470~3000であるものが用いられる。ナフタレンスルホン酸系縮合物の数平均分子量が3000以下であることにより、ナノカーボンの分散性を向上し、粘度を低減することができる。ナフタレンスルホン酸系縮合物の数平均分子量は、500以上であることが好ましく、より好ましくは700以上であり、また、2500以下であることが好ましく、より好ましくは2000以下であり、さらに好ましくは1600以下である。
【0023】
ここで、ナフタレンスルホン酸系縮合物の数平均分子量は、GPC(GelPermeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定される。後述する実施例における数平均分子量は以下の方法により測定した値である。
<ナフタレンスルホン酸系縮合物の数平均分子量(Mn)の測定方法>
GPC(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)法
・装置
検出器:紫外検出器UV-8000、東ソー製
ポンプ:CCPD型、東ソー製
カラム:TSKgel G3000SW+G4000SW+ガードカラム、東ソー製
インテグレーター:SC-8010型、東ソー製
・測定方法
40/60[体積%]アセトニトリル/0.005mol酢酸ソーダ水溶液を移動相溶媒として、有効成分約66mgを移動相溶媒10mLで溶解し、フィルター濾過後、10μL注入した。分析条件は、流速[mL/min]=0.85、カラム温度=40℃、測定波長[nm]=254、測定圧力[kg/cm2]=40~60、測定時間[min]=60として、標準物質は分子量既知のポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた。
【0024】
[(C)アニオン性水溶性高分子]
本実施形態では上記(B)成分とともに、(C)成分のアニオン性水溶性高分子を用いる。(B)成分と(C)成分を併用することにより、ナノカーボンの分散性を向上することができるとともに、分散安定性を向上することができる。ここで、(C)成分のアニオン性水溶性高分子には、(B)成分のナフタレンスルホン酸系縮合物は除かれる。
【0025】
アニオン性水溶性高分子とは、アニオン性官能基を持つ水溶性高分子をいう。アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でもカルボキシ基が好ましい。
【0026】
アニオン性水溶性高分子の具体例としては、(C1)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩(以下、CMCということがある。)、(C2)ポリカルボン酸及び/又はその塩等が挙げられる。これらの中でもCMCを用いることが好ましい。
【0027】
CMCは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つものであり、カルボキシ基を有するものでもよく、カルボン酸塩の形態を持つでもよく、両者を併用してもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩などの有機塩が挙げられる。これらの塩はいずれか1種のみ含まれてもよく、2種以上の塩が含まれてもよい。これらの中でもアルカリ金属塩が好ましい。
【0028】
CMCのエーテル化度は、特に限定されないが、例えば0.4~1.3であることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0であり、さらに好ましくは0.6~0.8である。ここで、CMCのエーテル化度は下記方法により測定される。
【0029】
(エーテル化度)
CMC0.6gを105℃で4時間乾燥する。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mLおよび0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸する。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定する(指示薬としてフェノールフタレイン使用)。下記式よりエーテル化度を算出する。
式: (エーテル化度)=162×A/(10000-80A)
A=(af-bf1)/乾燥物の質量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)
a:0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)
f:0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)
f1:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0030】
ポリカルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、メタクリル酸とマレイン酸の共重合体、及びこれらの塩が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。ポリカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ホウ素、アルミニウム塩などの土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩などの有機塩が挙げられる。これらの塩はいずれか1種のみ含まれてもよく、2種以上の塩が含まれてもよい。これらの中でもアルカリ金属、アルカリ土類金属塩が好ましい。
【0031】
(C)成分のアニオン性水溶性高分子としては、2質量%水溶液粘度(25℃)が1~5000mPa・sであるものが好ましく用いられる。粘度が1mPa・s以上であることにより、分散体の安定性が向上する。粘度が5000mPa・s以下であることにより、分散時の攪拌効率が向上する。粘度は2~500MPa・sであることがより好ましい。ここで、2質量%水溶液粘度は下記方法により測定される。
【0032】
(2質量%水溶液粘度)
三角フラスコにアニオン性高分子を加えて、濃度が2質量%になるように水を加えて30秒間振とうする。12時間静置後、5分間混合して、2質量%水溶液を調製する。得られた水溶液をトールビーカーに移して25℃に調整し、JIS Z8803に準じてBM型粘度計(単一円筒型回転粘度計)を用いて粘度を測定する。その際、ロータ回転数を60rpmとして測定し、測定上限に達する場合は、順次30rpm、12rpmと変更して測定する。
【0033】
[(D)有機溶媒]
本実施形態では、上記の(B)成分及び(C)成分とともに、(D)成分として有機概念図における無機性値に対する有機性値の比であるO/Iが1.00未満である有機溶媒が用いられる。これにより、ナノカーボンの分散性を向上することができ、分散安定性に優れるとともに、低粘度のナノカーボン分散体を得ることができる。その理由は、これにより限定されるものではないが、次のように考えられる。すなわち、ナフタレンスルホン酸系縮合物によりナノカーボンを分散させる際に、有機溶媒はファンデルワールス力により引きつけ合うナノカーボン間に入り込んで凝集力を弱めることができ、それにより分散粒子を小さくした上で、アニオン性水溶性高分子によりその分散状態を維持することができるためと考えられる。
【0034】
ここで、有機概念図については、例えば「有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生著、三共出版、1984)等に記載されている。「有機概念図」とは、すべての有機化合物に対し、その炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と、置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子とを、所定の規定により数値化し、その有機性値(O)をX軸、無機性値(I)をY軸にとった図上にプロットしていくものである。有機概念図におけるO/Iとは、無機性値(I)に対する有機性値(O)の比である。
【0035】
O/Iは、より好ましくは0.90以下であり、さらに好ましくは0.80以下であり、さらに好ましくは0.70以下である。O/Iの下限は特に限定されず、0以上でもよいが、0.10以上であることが好ましく、より好ましくは0.20以上であり、さらに好ましくは0.40以上であり、さらに好ましくは0.50以上である。
【0036】
O/Iが1.00未満である有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、O/I=0.69)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、O/I=0.44)、メタノール(O/I=0.20)、エタノール、(O/I=0.40)、プロパノール(O/I=0.60)、アセトン(O/I=0.92)、酢酸(O/I=0.27)、ジメチルスルホキシド(O/I=0.57)、ピロリジン(O/I=0)、2-ピロリドン(O/I=0.55)、ジメチルアセトアミド(DMA、O/I=0.59)などの水と混和する有機溶媒が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0037】
これらの中でも(D)成分の有機溶媒としては、NMP、DMF、ピロリジン、2-ピロリドン、DMAなどの、O/Iが1.00未満の含窒素有機溶媒(窒素原子を含む有機溶媒)を用いることが好ましい。
【0038】
[ナノカーボン分散体]
本実施形態に係るナノカーボン分散体は、(A)~(D)成分とともに、(E)成分として水を含むものであり、有機溶媒を含む水中にナノカーボンが分散した分散液である。
【0039】
ナノカーボン分散体の調製方法は特に限定されない。例えば、上記(A)~(C)成分を(D)成分の有機溶媒及び(E)成分の水とともに混合し、ホモディスパー、ホモジナイザー等の分散装置を用いて分散処理することによりナノカーボン分散体を調製することができる。
【0040】
ナノカーボン分散体において、上記各成分の含有量は特に限定されない。例えば、(A)成分のナノカーボンの含有量は、ナノカーボン分散体100質量%に対して0.01~5質量%でもよく、0.01~3質量%でもよい。
【0041】
(B)成分のナフタレンスルホン酸系縮合物の含有量は、(A)成分のナノカーボン100質量部に対して、例えば、5~140質量部でもよく、9~50質量部でもよい。(B)成分の含有量は、また、(B)成分と(C)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、例えば、0.4~25.0質量部でもよく、0.4~2.5質量部でもよい。
【0042】
(C)成分のアニオン性水溶性高分子の含有量は、(A)成分のナノカーボン100質量部に対して、例えば、5~150質量部でもよく、100~140質量部でもよい。(C)成分の含有量は、また、(B)成分と(C)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、例えば、0.4~50.0質量部でもよく、4.5~6.5質量部でもよい。
【0043】
(D)成分の有機溶媒の含有量は、本実施形態の効果を高める観点から、(E)成分の水100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは1.0~40質量部であり、さらに好ましくは5.0~30質量部である。(D)成分の含有量は、また、(B)成分と(C)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、例えば、25~96質量部でもよく、90~93質量部でもよい。
【0044】
(E)成分の水の含有量は、ナノカーボン分散体100質量%に対して50~98質量%でもよく、65~90質量%でもよい。
【0045】
本実施形態に係るナノカーボン分散体は、上記成分の他に、種々の添加剤を含有してもよい。
【0046】
一実施形態において、該ナノカーボン分散体は、リチウムイオン電池などの電池の電極用塗料として用いられる。その場合、電極用塗料として用いられるナノカーボン分散体には、例えば、上記(B)成分及び(C)成分以外の分散剤、結着剤、消泡剤、レベリング剤などの種々の添加剤が必要に応じて配合されてもよい。ここで、結着剤としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)エマルション、ポリウレタンエマルション、ポリ酢酸ビニルエマルション、アクリル樹脂エマルションなどの各種樹脂エマルションが挙げられる。
【0047】
[電池]
一実施形態に係る電池は、上記ナノカーボン分散体を用いて作製した電極を備えるものである。電極としては、正極でも負極でもよい。電池としては、リチウムイオン電池(即ち、リチウムイオン二次電池)などの非水電解質二次電池であることが好ましい。
【0048】
電極は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備えたものでもよく、該活物質層を上記ナノカーボン分散体により形成してもよい。すなわち、上記ナノカーボン分散体を電極用塗料として用いて、該電極用塗料を集電体に塗工し、乾燥させることにより、電極を作製することができる。
【0049】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば特に限定されない。例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。これらの集電体は表面を酸化処理したものであってもよい。集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体も用いられる。
【0050】
一実施形態において非水電解質二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に配置されたセパレータと、電解質とを備え、該負極及び/又は正極に、上記のナノカーボン分散体を用いて作製した電極が用いられる。一実施形態として、非水電解質二次電池は、セパレータを介して負極と正極を交互に積層した積層体と、該積層体を収容する容器と、容器内に注入された非水電解液などの電解質とを備えてなるものでもよい。非水電解質としては、例えば、支持電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができ、リチウムイオン二次電池を構成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0052】
実施例及び比較例において使用する各成分の詳細を以下に示す。
【0053】
[(A)成分]
・CNT-1:シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)。炭素純度>99%、平均直径=1.6nm、平均繊維長=5μm。OCSiAL社製「TUBALL BATT」
・CNT-2:マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)。炭素純度>99%、平均直径=12nm、平均繊維長=10μm。CNano社製「Flotube9110」
【0054】
[(B)成分]
・NSF-1:メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。数平均分子量=1000。下記合成例1により合成したもの。
(合成例1)
(1)メチルナフタレン1モル(142.2g)に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.4モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で32.5g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-1)の粉末を得た。
【0055】
・NSF-2:メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。数平均分子量=2500。第一工業製薬株式会社製「ラベリンAN-40」
【0056】
・NSF-3:ブチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。数平均分子量=1000。下記合成例2により合成したもの。
(合成例2)
(1)ナフタレン1モル(128.2g)に対して、1-ブタノール1モル(74.1g)及び濃硫酸3モル(300.0g)を加えて90℃で3時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.6モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で48.7g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム5モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で416.7g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、ブチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでブチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-3)の粉末を得た。
【0057】
・NSF-4:メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。数平均分子量=4000。下記合成例3により合成したもの。
(合成例3)
(1)メチルナフタレン1モル(142.2g)に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド1.2モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で97.4g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-4)の粉末を得た。
【0058】
・NSF-5:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物。数平均分子量=1000。下記合成例4により合成したもの。
(合成例4)
(1)ナフタレン1モル(128.2g)に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.33モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で26.8g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-5)の粉末を得た。
【0059】
・NSF-6:メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=1:1(モル比)。数平均分子量=1000。下記合成例5により合成したもの。
(合成例5)
(1)メチルナフタレン0.5モル(71.1g)とナフタレン0.5モル(64.1g)の混合物に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.4モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で26.8g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-6)の粉末を得た(メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=1:1)。
【0060】
・NSF-7:メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=3:7(モル比)。数平均分子量=1000。下記合成例6により合成したもの。
(合成例6)
(1)メチルナフタレン0.3モル(42.6g)とナフタレン0.7モル(89.7g)の混合物に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.4モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で26.8g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-7)の粉末を得た(メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=3:7)。
【0061】
・NSF-8:メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩。メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=7:3(モル比)。数平均分子量=1000。下記合成例7により合成したもの。
(合成例7)
(1)メチルナフタレン0.7モル(99.5g)とナフタレン0.3モル(38.5g)の混合物に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水10モル(180.2g)を加えて希釈した後、ホルムアルデヒド0.4モル(37%ホルムアルデヒド水溶液で26.8g)を100℃にて2時間かけて滴下し、更に100℃にて5時間反応させた。
(3)上記(2)で得られた反応溶液に水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(4)上記(3)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩の水溶液を得た。
(5)上記(4)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(NSF-8)の粉末を得た(メチルナフタレンスルホン酸:ナフタレンスルホン酸=7:3)。
【0062】
・MNS-9:メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩。分子量=245。下記合成例8により合成したもの。
(合成例8)
(1)メチルナフタレン1モル(142.2g)に対して、濃硫酸1.4モル(140.0g)を加えて160℃で2時間反応させた。
(2)上記(1)で得られた反応溶液に蒸留水30モル(540.6g)を加えて希釈した後、水酸化ナトリウム1.8モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で150g)を滴下して中和した。
(3)上記(2)で得られた中和後の水溶液を、5℃に冷却して芒硝を析出させ、2500rpm、30分間の遠心分離により芒硝を取り除いて、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩の水溶液を得た。
(4)上記(3)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでメチルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩(MNS-9)の粉末を得た。
【0063】
[(C)成分]
・CMC-1:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.75。2質量%水溶液粘度=3mPa・s。第一工業製薬株式会社製「セロゲン5A」。
・CMC-2:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.65。2質量%水溶液粘度=100mPa・s。第一工業製薬株式会社製「セロゲンPR」。
・CMC-3:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.65。2質量%水溶液粘度=3300mPa・s。第一工業製薬株式会社製「セロゲンWS-C」。
【0064】
・ポリカルボン酸塩:ポリアクリル酸ナトリウム塩。2質量%水溶液粘度=13mPa・s。下記合成例9により合成したもの。
(合成例9)
(1)アクリル酸モノマー1モル(72.06g)に対して、蒸留水4モル(72g)を加えて窒素バブリング(500mL/min)を1時間行った。
(2)βチオプロピオン酸を0.1モル(10.6g)加えて40℃まで加温した。
(3)2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド0.001モル(0.27g)を加えて、1時間かけて60℃まで徐々に昇温し、60℃にて1時間反応させた。
(4)温度を40℃に調整し、再び2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド0.001モル(0.27g)を加えて、1時間かけて60℃まで徐々に昇温し、60℃にて1時間反応させた。
(5)温度を50℃に調整し、水酸化ナトリウム1モル(48%水酸化ナトリウム水溶液で83g)を加えて中和し、ポリアクリル酸ナトリウム塩の水溶液を得た。
(6)上記(5)で得られた水溶液から、ロータリーエバポレーターにより水を留去し、得られた固体を真空乾燥機により乾燥させ、粉砕することでポリアクリル酸ナトリウム塩の粉末を得た。
【0065】
[(D)成分]
・NMP:有機概念図のO/I=0.69。三菱ケミカル株式会社製「N-メチル-2-ピロリドン」
・DMF:有機概念図のO/I=0.44。ナカライテスク株式会社製「N,N-ジメチルホルムアミド」
・MeOH:有機概念図のO/I=0.20。ナカライテスク株式会社製「メタノール」
・アセトン:有機概念図のO/I=0.92。ナカライテスク株式会社製「アセトン」
・酢酸エチル:有機概念図のO/I=1.30。関東化学株式会社製「酢酸エチル」
・トルエン:有機概念図のO/I=9.30。ヤマキ商事株式会社製「トルエン(メチルベンゼン)」
【0066】
[実施例1~21及び比較例1~7]
実施例1~21及び比較例1~7のナノカーボン分散体の配合(質量部)は下記表1~3に示すとおりとし、分散性、粘度、分散安定性、及び導電性を評価した。各評価方法は以下のとおりである。
【0067】
[分散性]
実施例1では、300mLのビーカーに、NSF-1を0.54g、ナノカーボンとしてCNT-1を1.1g、CMC-1を1.1g計量し、NMP21.5gと水75.8gを加え、スターラー(1000rpm)で12時間攪拌してナノカーボン分散体を得た。実施例2~21及び比較例1~7では、各成分の種類及び使用量を、表1~3のとおり変更し、その他は実施例1と同様にしてナノカーボン分散体を得た。
【0068】
得られたナノカーボン分散体を用いてプレパラートを作製し、光学顕微鏡(倍率35倍)で観察することにより、ナノカーボンの分散性を以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。なお、この分散性評価では、ナノカーボンの解砕のしやすさを評価するために、低せん断条件にて分散液を作製した。
5:最大0.6mm未満の凝集物が見られる
4:最大0.6mm以上0.8mm未満の凝集物が見られる
3:最大0.8mm以上1mm未満の凝集物が見られる
2:最大1mm以上2mm未満の凝集物が見られる
1:最大2mm以上の凝集物が見られる
【0069】
[粘度]
分散性評価にて調製したナノカーボン分散体を100mLビーカーに採取し、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製「US-600T」、循環ユニット付き)にチューブポンプを接続した装置を用いて、ナノカーボン分散体を循環させながら100μAの出力で10分間分散させた。得られた分散液についてB型粘度計(東機産業株式会社製「TVB-10」)にて粘度を測定した。測定時の条件は6rpm(3分)とした。各粘度評価結果は以下の5段階で表記した。
5:1Pa・s未満
4:1Pa・s以上3Pa・s未満
3:3Pa・s以上5Pa・s未満
2:5Pa・s以上7Pa・s未満
1:7Pa・s以上
【0070】
[分散安定性]
粘度評価にて調製したナノカーボン分散体を一部取り、全固形分が0.2質量%になるよう水を加え、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)で1,600rpm×15分間撹拌することによって、ナノカーボン分散体を希釈、調製した。得られた分散液を1mL程度採取し、NMRチューブに入れ、パルスNMR(Resonance systems社、spin track)(30℃に加温)を用いてRsp値の測定を実施した。その後、3日間室温で静置し、再度同じ条件にて測定した際のRsp値の変化率で、分散安定性を評価した。ナノカーボンの分散安定性を以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
5:Rsp値の変化率が10%未満
4:Rsp値の変化率が10%以上20%未満
3:Rsp値の変化率が20%以上30%未満
2:Rsp値の変化率が30%以上40%未満
1:Rsp値の変化率が40%以上
【0071】
[導電性]
粘度評価にて調整したナノカーボン分散体を一部取り、ナノカーボン:SBRエマルション=1:30(質量比)となるように樹脂成分を添加し、全固形分が0.5質量%になるよう水を加え、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)で1,600rpm×15分間撹拌することによって、ナノカーボン及び樹脂を含む分散体を調製した。得られた分散体を1cm×1cmのカバーガラス上にスピンコーター(ミサカ株式会社製「SPINNER 1H-D2」)でコートし、送風乾燥機中(ADVANTEC製「DRM620DB」)で乾燥させ、低抵抗抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製「ロレスタGP」)にて導電性測定を実施した。ナノカーボンの導電性を以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
5:評価基準品と比較して導電性向上率が50%以上
4:評価基準品と比較して導電性向上率が30%以上50%未満
3:評価基準品と比較して導電性向上率が20%以上30%未満
2:評価基準品と比較して導電性向上率が10%以上20%未満
1:評価基準品と比較して導電性向上率が10%未満
【0072】
なお、上記の評価基準品は、300mLのビーカーにシングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAL社製「TUBALL BAT」)をCNT質量部で1.1g、NMP(三菱ケミカル株式会社製「N-メチル-2-ピロリドン」)21.5gと水質量部が75.8gになるように加水し、スターラー(1000rpm)で12時間攪拌したものに、上記所定の方法で樹脂成分を添加したナノカーボン及び樹脂を含む分散体とした。
【0073】
また、上記のSBRエマルションとしては、以下の方法により調製したものを用いた。撹拌機、還流冷却器および温度計を備えたフラスコに、水51質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸塩0.2質量部を仕込み、40℃に昇温した。また、別途、アクリロニトリル5質量部、メチルメタクリレート8質量部、スチレン55質量部、1,3-ブタジエン32質量部、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩0.95質量部を、水40質量部に乳化分散させ、予備乳化液を調製した。この予備乳化液を滴下ロートより、上記フラスコに4時間かけて滴下すると共に、重合開始剤として、過硫酸ナトリウム開始剤を10質量%水溶液として0.4質量部添加し、重合を開始した。65℃の反応温度を4時間維持した後、80℃に昇温し、引き続き2時間反応を継続し、SBRエマルションを得た。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
結果は、表1~3に示すとおりである。比較例1ではナフタレンスルホン酸系縮合物が配合されておらず、比較例2ではアニオン性水溶性高分子が配合されておらず、比較例3では有機溶媒が配合されていない。これらの比較例では分散性及び分散安定性が不十分であった。比較例4では数平均分子量の大きいナフタレンスルホン酸系縮合物を用いたため、分散性が不十分であり、粘度も高かった。比較例5及び比較例6ではO/Iが大きい有機溶媒を用いたため、分散性及び分散安定性に劣っており、導電性も低下した。比較例7ではナフタレンスルホン酸系縮合物の代わりにナフタレンスルホン酸塩を用いたため、分散性及び分散安定性が不十分であった。
【0078】
これに対し、実施例1~21であると、分散性及び分散安定性に優れるとともに、粘度の低いものが得られ、導電性にも優れていた。実施例1及び実施例3との対比により、アルキルナフタレンスルホン酸縮合物のアルキル基はブチル基よりもメチル基の方が分散性の向上効果に優れることが分かる。また、実施例1及び実施例4~10の結果から、ナフタレンスルホン酸系縮合物におけるアルキルナフタレンスルホン酸の構成比が高いほど、分散性の向上効果に優れていた。また、実施例1及び実施例13~15の結果から、有機溶媒としてはNMPが最も優れていた。
【0079】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0080】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】ナノカーボンの分散性に優れるナノカーボン分散体を提供する。
【解決手段】実施形態に係るナノカーボン分散体は、(A)ナノカーボン、(B)アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸とナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、及び、それらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、数平均分子量が470~3000であるナフタレンスルホン酸系縮合物、(C)アニオン性水溶性高分子、(D)有機概念図における無機性値に対する有機性値の比であるO/Iが1.00未満である有機溶媒、及び、(E)水、を含む。
【選択図】なし