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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】油脂組成物及び飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20221110BHJP
   A23L 27/26 20160101ALI20221110BHJP
【FI】
A23D9/007
A23L27/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021165551
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】魚住 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】富田 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴美子
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】志田 政憲
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102551021(CN,A)
【文献】特開2005-143465(JP,A)
【文献】食品科学,2016年,Vol.37, No.2,pp.92-98
【文献】Flavour Fragrance Cosmetics,2010年,No.5,pp.43-47
【文献】食品工業,2010年,Vol.31, No.4,pp.89-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/007
A23L 27/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂組成物であって、
前記油脂組成物が、スルフロール、2,6-ジメトキシフェノール、及び4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールを含
前記スルフロールの含有量に対する、前記4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比が0.0050以上5.0以下であり、
前記油脂組成物が、風味油である、
油脂組成物。
【請求項2】
油脂組成物であって、
前記油脂組成物が、スルフロール、2,6-ジメトキシフェノール、及び4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールを含み、
前記2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する、前記4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比が0.0030以上3.0以下であり、
前記油脂組成物が、風味油である、
油脂組成物。
【請求項3】
3-メチルブタナールをさらに含む、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
オイゲノールをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項5】
2-メトキシ-4-ビニルフェノールをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項6】
δ-オクタラクトン、及び/又はδ-デカラクトンをさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の油脂組成物を含有する、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種飲食品の嗜好性を高めるための調味料として、風味油が知られる。風味油とは香味油とも呼ばれ、油脂に所望の風味(ネギ、ガーリック等)を付与したものがよく知られている。また、畜肉感等を付与した風味油も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ミート系フレーバーが付与された加熱調理油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-15683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、より良好な風味が付与された風味油に対するニーズがある。
【0006】
本発明者らは、畜肉感を油脂に付与する場合、炙り感をも高めることで、より嗜好性の高い風味油が得られることを見出した。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、良好な畜肉感、及び炙り感を有する油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、油脂に対して所定の成分を配合することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールを含む、油脂組成物。
【0010】
(2) 3-メチルブタナールをさらに含む、(1)に記載の油脂組成物。
【0011】
(3) 4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールをさらに含む、(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
【0012】
(4) オイゲノールをさらに含む、(1)から(3)のいずれかに記載の油脂組成物。
【0013】
(5) 2-メトキシ-4-ビニルフェノールをさらに含む、(1)から(4)のいずれかに記載の油脂組成物。
【0014】
(6) δ-オクタラクトン、及び/又はδ-デカラクトンをさらに含む、(1)から(5)のいずれかに記載の油脂組成物。
【0015】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の油脂組成物を含有する、飲食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な畜肉感、及び炙り感を有する油脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールを少なくとも含む。
【0019】
本発明者らは、種々の香気成分について検討した結果、油脂にスルフロールを配合することで畜肉感を奏することを見出した。しかし、本発明者らは、畜肉感のみを高めても、畜肉特有のおいしさを感じにくいことも併せて見出した。
【0020】
そこで、本発明者らがさらに検討した結果、種々の官能性のうち、畜肉感とともに、炙り感を奏することで、畜肉特有のおいしさを再現しやすいことを特定した。
そして、スルフロールとともに、2,6-ジメトキシフェノールを油脂に配合することで、スルフロールが奏する畜肉感を損なわずに炙り感を高められることがわかった。
【0021】
したがって、本発明によれば、動物性原料(畜肉、畜肉由来成分、動物油脂、乳成分、卵等)が全く配合されていなくとも、良好な畜肉感、及び炙り感を奏することができる。
ただし、本発明において、油脂組成物に動物性原料が配合される態様は排除されない。
【0022】
本発明において「畜肉」とは、食用に供される家畜の肉全般を包含する。具体的には、牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、綿羊肉、山羊肉等が挙げられる。各肉の部位としては限定されず、筋肉だけではなく、脂身も包含する。
【0023】
本発明において「畜肉感」とは、肉類(特に、加熱された肉)を彷彿させる風味を意味する。
このような風味の有無や程度は、実施例に示した方法で特定される。
【0024】
本発明において「炙り感」とは、肉類を炭火で炙ったものを彷彿させる風味を意味する。
このような風味の有無や程度は、実施例に示した方法で特定される。
【0025】
本発明によれば、畜肉感、及び炙り感に加え、畜肉特有の「甘味」をも奏し得る。
本発明において「甘味」とは、「サシ」(赤身部分の間の脂肪)の入った牛肉(特に、和牛)の脂身部分を彷彿させる風味を意味する。
このような風味の有無や程度は、実施例に示した方法で特定される。
【0026】
本発明によれば、牛肉(特に、脂身を包含する牛肉を加熱調理したもの)に類似した風味を奏しやすい。
【0027】
以下、本発明の油脂組成物の詳細について説明する。
【0028】
(スルフロール)
本発明の油脂組成物は、スルフロール(化学式:CNOS、CAS番号:137-00-8)を含む。スルフロールは、4-メチル-5-チアゾールエタノール等とも称される。
【0029】
本発明において、スルフロールは、畜肉感の向上に主に寄与する。
【0030】
本発明の油脂組成物中のスルフロールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中のスルフロールの含有量の下限値は、充分な畜肉感を奏しやすいという観点から、好ましくは10ppm以上、より好ましくは50ppm以上である。
本発明の油脂組成物中のスルフロールの含有量の上限値は、不快臭を生じにくいという観点から、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは7000ppm以下である。
【0031】
本発明におけるスルフロールは、合成品でもよく、スルフロールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0032】
油脂組成物中のスルフロールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、スルフロールの濃度が2.0ppm、200ppm、2000ppm、20000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量112(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量112(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のスルフロールの含量を特定する。
【0033】
(2,6-ジメトキシフェノール)
本発明の油脂組成物は、2,6-ジメトキシフェノール(化学式:(CHO)OH、CAS番号:91-10-1)を含む。2,6-ジメトキシフェノールは、ピロガロール1,3-ジメチルエーテル等とも称される。
【0034】
本発明において、2,6-ジメトキシフェノールは、スルフロールによって奏される畜肉感を損なわずに、炙り感をも高められる成分である。
【0035】
本発明の油脂組成物中の2,6-ジメトキシフェノールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中の2,6-ジメトキシフェノールの含有量の下限値は、充分な炙り感を奏しやすいという観点から、好ましくは20ppm以上、より好ましくは100ppm以上である。
本発明の油脂組成物中の2,6-ジメトキシフェノールの含有量の上限値は、不快臭を生じにくいという観点から、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは7000ppm以下である。
【0036】
本発明における2,6-ジメトキシフェノールは、合成品でもよく、2,6-ジメトキシフェノールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0037】
油脂組成物中の2,6-ジメトキシフェノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、2,6-ジメトキシフェノールの濃度が5.0ppm、500ppm、5000ppm、50000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量154(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量154(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中の2,6-ジメトキシフェノールの含量を特定する。
【0038】
(3-メチルブタナール)
本発明の油脂組成物には、さらに、3-メチルブタナール(化学式:C10O、CAS番号:590-86-3)が含まれていてもよい。3-メチルブタナールは、イソバレルアルデヒド等とも称される。
【0039】
油脂組成物に3-メチルブタナールを配合することで、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールによって奏される畜肉感を損なわずに、さらに炙り感、及び甘味を向上させることができる。
【0040】
本発明の油脂組成物中の3-メチルブタナールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中の3-メチルブタナールの含有量の下限値は、畜肉感、炙り感、及び甘味を向上させやすいという観点から、好ましくは0.50ppm以上、より好ましくは3.0ppm以上である。
本発明の油脂組成物中の3-メチルブタナールの含有量の上限値は、畜肉感、及び甘味を損ないにくいという観点から、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
【0041】
本発明における3-メチルブタナールは、合成品でもよく、3-メチルブタナールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0042】
油脂組成物中の3-メチルブタナールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、3-メチルブタナールの濃度が0.20ppm、20ppm、200ppm、2000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量44(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量44(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中の3-メチルブタナールの含量を特定する。
【0043】
(4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール)
本発明の油脂組成物には、さらに、4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール(化学式:HC=CHCH(OCH)2OH、CAS番号:6627-88-9)が含まれていてもよい。4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールは、メトキシオイゲノール等とも称される。
【0044】
油脂組成物に4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールを配合することで、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールによって奏される畜肉感を向上させつつ、さらに甘味を向上させることができる。
【0045】
本発明の油脂組成物中の4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中の4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の下限値は、畜肉感、及び甘味を向上させやすいという観点から、好ましくは5.0ppm以上、より好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは30ppm以上である。
本発明の油脂組成物中の4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の上限値は、炙り感、及び甘味を損なわない観点から、好ましくは15000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下である。
【0046】
本発明における4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールは、合成品でもよく、4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0047】
油脂組成物中の4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの濃度が3.0ppm、300ppm、3000ppm、30000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量194(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量194(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中の4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含量を特定する。
【0048】
(オイゲノール)
本発明の油脂組成物には、さらに、オイゲノール(化学式:C1012、CAS番号:97-53-0)が含まれていてもよい。オイゲノールは、4-アリル-2-メトキシフェノール等とも称される。
【0049】
油脂組成物にオイゲノールを配合することで、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールによって奏される炙り感を損なわずに、さらに畜肉感を向上させることができる。
【0050】
本発明の油脂組成物中のオイゲノールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中のオイゲノールの含有量の下限値は、畜肉感を向上させやすいという観点から、好ましくは1.0ppm以上、より好ましくは5.0ppm以上、さらに好ましくは15ppm以上である。
本発明の油脂組成物中のオイゲノールの含有量の上限値は、畜肉感、及び甘味を損なわない観点から、好ましくは6000ppm以下、より好ましくは5000ppm以下である。
【0051】
本発明におけるオイゲノールは、合成品でもよく、オイゲノールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0052】
油脂組成物中のオイゲノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、オイゲノールの濃度が2.0ppm、200ppm、2000ppm、20000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量164(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量164(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のオイゲノールの含量を特定する。
【0053】
(2-メトキシ-4-ビニルフェノール)
本発明の油脂組成物には、さらに、2-メトキシ-4-ビニルフェノール(化学式:C10O、CAS番号:7786-61-0)が含まれていてもよい。2-メトキシ-4-ビニルフェノールは、4-ビニルグアイアコール等とも称される。
【0054】
油脂組成物に2-メトキシ-4-ビニルフェノールを配合することで、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールによって奏される畜肉感、及び炙り感をさらに高めることができる。
【0055】
本発明の油脂組成物中の2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中の2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の下限値は、畜肉感、及び炙り感を向上させやすいという観点から、好ましくは10ppm以上、より好ましくは30ppm以上、さらに好ましくは50ppmである。
本発明の油脂組成物中の2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の上限値は、畜肉感、及び甘味を損なわない観点から、好ましくは20000ppm以下、より好ましくは18000ppm以下である。
【0056】
本発明における2-メトキシ-4-ビニルフェノールは、合成品でもよく、2-メトキシ-4-ビニルフェノールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0057】
油脂組成物中の2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、2-メトキシ-4-ビニルフェノールの濃度が5.0ppm、500ppm、5000ppm、50000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量150(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量150(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中の2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含量を特定する。
【0058】
(δ-オクタラクトン及びδ-デカラクトン)
本発明の油脂組成物には、さらに、δ-オクタラクトン(化学式:C14、CAS番号:698-76-0)、及びδ-デカラクトン(化学式:C1018、CAS番号:705-86-2)のいずれか又は両方が含まれていてもよい。
δ-オクタラクトンは、6-プロピルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン等とも称される。
δ-デカラクトンは、6-ペンチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン等とも称される。
【0059】
油脂組成物にδ-オクタラクトン、及び/又はδ-デカラクトンを配合することで、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールによって奏される畜肉感、及び甘味をさらに高めることができる。
【0060】
本発明の油脂組成物中のδ-オクタラクトンの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中のδ-オクタラクトンの含有量の下限値は、畜肉感、及び甘味を向上させやすいという観点から、好ましくは0.050ppm以上、より好ましくは0.10ppm以上、さらに好ましくは0.50ppm以上である。
本発明の油脂組成物中のδ-オクタラクトンの含有量の上限値は、畜肉感、及び炙り感を損ないにくいという観点から、好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。
【0061】
本発明の油脂組成物中のδ-デカラクトンの含有量は、得ようとする風味の程度等に応じて調整できる。
本発明の油脂組成物中のδ-デカラクトンの含有量の下限値は、畜肉感、炙り感、及び甘味を向上させやすいという観点から、好ましくは0.10ppm以上、より好ましくは0.50ppm以上、さらに好ましくは2.0ppm以上である。
本発明の油脂組成物中のδ-デカラクトンの含有量の上限値は、畜肉感、及び炙り感を損なわない観点から、好ましくは600ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは60ppm以下である。
【0062】
本発明におけるδ-オクタラクトンやδ-デカラクトンは、合成品でもよく、これらのいずれか又は両方をその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0063】
油脂組成物中のδ-オクタラクトンの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、δ-オクタラクトンの濃度が0.050ppm、5.0ppm、50ppm、500ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量99(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量99(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のδ-オクタラクトンの含量を特定する。
【0064】
油脂組成物中のδ-デカラクトンの含有量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、δ-デカラクトンの濃度が0.10ppm、10ppm、100ppm、1000ppmである4点の標準試料を、MCT(中鎖脂肪酸)で希釈することにより作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量99(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量99(分子イオン)のピーク面積をカウントする。上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のδ-デカラクトンの含量を特定する。
【0065】
(各香気成分の比率)
本発明の油脂組成物は、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールが含まれていれば特に限定されない。
本発明の油脂組成物は、上記にくわえ、本発明の効果をより奏しやすいという観点から、3-メチルブタナール、4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール、オイゲノール、2-メトキシ-4-ビニルフェノール、δ-オクタラクトン、及びδ-デカラクトンからなる群から選択される成分のうち、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、より好ましくは5以上、最も好ましくは全てを含んでいてもよい。
【0066】
本発明の油脂組成物における各成分の比率は、下記のうちのいずれか又は全てを満たしていてもよい。
【0067】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(2,6-ジメトキシフェノール/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(2,6-ジメトキシフェノール/スルフロール)の上限値は、好ましくは10以下、より好ましくは8.0以下である。
【0068】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する3-メチルブタナールの含有量の質量比(3-メチルブタナール/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.00050以上、より好ましくは0.0050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する3-メチルブタナールの含有量の質量比(3-メチルブタナール/スルフロール)の上限値は、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下である。
【0069】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.0050以上、より好ましくは0.050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール/スルフロール)の上限値は、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下である。
【0070】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するオイゲノールの含有量の質量比(オイゲノール/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.0030以上、より好ましくは0.030以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するオイゲノールの含有量の質量比(オイゲノール/スルフロール)の上限値は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下である。
【0071】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の質量比(2-メトキシ-4-ビニルフェノール/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.0050以上、より好ましくは0.050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対する2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の質量比(2-メトキシ-4-ビニルフェノール/スルフロール)の上限値は、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下である。
【0072】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-オクタラクトンの含有量の質量比(δ-オクタラクトン/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.00010以上、より好ましくは0.00050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-オクタラクトンの含有量の質量比(δ-オクタラクトン/スルフロール)の上限値は、好ましくは0.080以下、より好ましくは0.070以下である。
【0073】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-デカラクトンの含有量の質量比(δ-デカラクトン/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.00030以上、より好ましくは0.0030以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-デカラクトンの含有量の質量比(δ-デカラクトン/スルフロール)の上限値は、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.20以下である。
【0074】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-デカラクトン及びδ-オクタラクトンの合計含有量の質量比((δ-デカラクトン+δ-オクタラクトン)/スルフロール)の下限値は、好ましくは0.00050以上、より好ましくは0.0050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、スルフロールの含有量に対するδ-デカラクトン及びδ-オクタラクトンの合計含有量の質量比((δ-デカラクトン+δ-オクタラクトン)/スルフロール)の上限値は、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.050以下である。
【0075】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する3-メチルブタナールの含有量の質量比(3-メチルブタナール/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.00030以上、より好ましくは0.0030以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する3-メチルブタナールの含有量の質量比(3-メチルブタナール/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.20以下である。
【0076】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.0030以上、より好ましくは0.030以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量の質量比(4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下である。
【0077】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するオイゲノールの含有量の質量比(オイゲノール/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.0010以上、より好ましくは0.010以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するオイゲノールの含有量の質量比(オイゲノール/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。
【0078】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の質量比(2-メトキシ-4-ビニルフェノール/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.0050以上、より好ましくは0.050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対する2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量の質量比(2-メトキシ-4-ビニルフェノール/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下である。
【0079】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-オクタラクトンの含有量の質量比(δ-オクタラクトン/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.000050以上、より好ましくは0.00050以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-オクタラクトンの含有量の質量比(δ-オクタラクトン/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは0.040以下、より好ましくは0.030以下である。
【0080】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-デカラクトンの含有量の質量比(δ-デカラクトン/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.00010以上、より好ましくは0.0010以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-デカラクトンの含有量の質量比(δ-デカラクトン/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下である。
【0081】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-デカラクトン及びδ-オクタラクトンの合計含有量の質量比((δ-デカラクトン+δ-オクタラクトン)/2,6-ジメトキシフェノール)の下限値は、好ましくは0.00010以上、より好ましくは0.0010以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、2,6-ジメトキシフェノールの含有量に対するδ-デカラクトン及びδ-オクタラクトンの合計含有量の質量比((δ-デカラクトン+δ-オクタラクトン)/2,6-ジメトキシフェノール)の上限値は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下、さらに好ましくは0.050以下である。
【0082】
(油脂)
油脂としては、通常、食用油脂が用いられる。このような油脂としては、植物性油脂、動物性油脂、合成油脂、加工油脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた調合油として用いてもよい。
【0083】
本発明によれば、上述のとおり、動物性原料が全く配合されていなくとも、良好な畜肉感、及び炙り感を奏することができる。したがって、本発明によれば、油脂として動物性油脂以外のみ(好ましくは植物性油脂及び/又は植物性油脂の加工油脂のみ)を用いた場合であっても、良好な畜肉感、及び炙り感が奏される。
【0084】
植物性油脂としては、菜種油、大豆油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油及び藻類油等が挙げられる。
【0085】
動物性油脂としては、魚油(マグロ、サバ、イワシ、カツオ、ニシン等に由来する油脂)、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂等が挙げられる。
【0086】
合成油脂としては、中鎖脂肪酸油、ジアシルグリセロール等が挙げられる。
【0087】
加工油脂としては、上記の油脂に対して所望の処理を施した油脂であってもよい。このような処理としては、分別(例えば分別乳脂低融点部、パームスーパーオレイン等の分別油)、硬化、エステル交換反応等が挙げられる。油脂に対しては、1又は2以上の処理を施してもよい。
【0088】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、飲食品等に配合される公知の食品及び食品添加物を配合できる。
食品としては、例えば、糖類、茶葉、野菜、果物、香辛料、酵母、酵母エキス、香味食用油(ねぎ油、ラー油、花椒油、オニオンオイル、ガーリックオイル、しょうがオイル、マッシュルームオイル、ポルチーニ茸オイル、トリュフオイル、メンマオイル、ワサビオイル、ゆずオイル、焦がししょうゆオイル等)、ヴァージンココナッツオイル、ヴァージンオリーブオイル、ヴァージンコーンオイル、燻製油等が挙げられる。
食品添加物としては、例えば、乳化剤、酸化防止剤、シリコーン、色素、香料、ビタミン類、pH調整剤等が挙げられる。
【0089】
上記のような食品及び食品添加物の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。このような食品及び食品添加物を本発明の油脂組成物とともに配合することで、例えば、風味や色調の調整効果、酸化劣化の抑制効果、機能の向上効果等を奏し得る。
【0090】
本発明によれば、上述のとおり、動物性原料が全く配合されていなくとも、良好な畜肉感、及び炙り感を奏することができる。したがって、本発明によれば、動物性の食品(畜肉等)及び食品添加物(動物性エキス等の畜肉由来成分)を含まない場合であっても、良好な畜肉感、及び炙り感が奏される。
【0091】
本発明の効果を奏しやすいという観点から、本発明の油脂組成物は、水分を実質的に含まないか、水分を全く含まないことが好ましい。
本発明において「油脂組成物が水分を実質的に含まない」とは、水分の含有量が、油脂組成物全体に対して0.5質量%以下であることを意味する。
本発明において「油脂組成物が水分を全く含まない」とは、水分の含有量が、油脂組成物全体に対して0.0質量%であることを意味する。
本発明において「水分」とは水(HO)を意味する。
なお、本発明における油脂組成物の水分は、「基準油脂分析試験法2.1.3.4-2013 水分(カールフィッシャー法)」により測定することができる。
【0092】
本発明の効果を奏しやすいという観点から、本発明の油脂組成物は、上記2成分(スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノール)及び油脂からなり、その他の成分を含まなくともよい。
【0093】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物は、各成分を、撹拌機等を用いて適宜混合撹拌することで得られる。成分の混合順序等は特に限定されない。
【0094】
上記のとおり、上記香気成分(すなわち、スルフロール、2,6-ジメトキシフェノール、3-メチルブタナール、4-アリル-2,6-ジメトキシフェノール、オイゲノール、2-メトキシ-4-ビニルフェノール、δ-オクタラクトン、δ-デカラクトン)は、合成品や、各成分をその一部に含む飲食品や抽出物等として油脂組成物に配合し得る。合成品としては、市販の試薬や香料等が挙げられる。
【0095】
また、上記香気成分としては、該成分のうち一部、又は全て含む食品及び/又は食品添加物を使用してもよい。このような食品及び/又は食品添加物としては、例えば、畜肉類、糖類、茶葉、野菜(ネギ、タマネギ、セロリ、ニンジン等)、果物(バナナ、レモン、メロン、イチゴ、ココナッツ等)、しょうゆ、みそ、スパイス類(アニス、オールスパイス、キャラウェイ、クミン、クローブ、コリアンダー、シナモン、スターアニス、セージ、タイム、ナツメグ、バジル、パプリカ、ピメント、ピンクペッパー、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、メース、レモングラス、ローズヒップ、ローズマリー、ローレル等)、香味食用油(ねぎ油、ラー油、花椒油、オニオンオイル、ガーリックオイル、しょうがオイル、マッシュルームオイル、ポルチーニ茸オイル、トリュフオイル、メンマオイル、ワサビオイル、ゆずオイル、焦がししょうゆオイル等)、ヴァージンココナッツオイル、ヴァージンオリーブオイル、ヴァージンコーンオイル、燻液、燻製油、たん白加水分解物、ペプチド、アミノ酸、核酸、ビタミン類、ミネラル類等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
上記食品は、未加工の状態でそのまま使用してもよく、加工(加熱等)してから使用してもよい。例えば、上記食品を油脂中に浸漬後、加熱及びろ過等をすることで、本発明の油脂組成物を得ることができる。
【0096】
<油脂組成物の用途>
本発明の油脂組成物の用途は特に限定されず、従来知られる風味油の代替物等として使用したり、任意の調味料(従来知られる風味油等)と組み合わせて使用したりすることができる。
【0097】
本発明の油脂組成物は、任意の飲食品に配合でき、該組成物を配合された飲食品等に対し、良好な畜肉感、及び炙り感を付与できる。
したがって、本発明は、本発明の油脂組成物を含む飲食品(好ましくは、肉代替食品)も包含する。
【0098】
本発明の油脂組成物を配合し得る飲食品等としては、特に限定されないが、油脂を使用して作製する各種惣菜(フライ食品等)、製菓、製パン、スープ、ソース等が挙げられる。
また、本発明の油脂組成物は、そのまま飲食品に使用することもできるが、油脂組成物を各種形態の油脂(フライ油、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、食用油脂、香味食用油、水中油型乳化物(濃縮乳、ホイップクリーム、マヨネーズ等)、粉末油脂、ドレッシング等)に配合した後、飲食品の原料としても使用することができる。
【0099】
本発明によれば、上述のとおり、動物性原料が全く配合されていなくとも、良好な畜肉感、及び炙り感を奏することができる。
したがって、本発明によれば、例えば、肉代替食品に対して良好な畜肉感、及び炙り感を付与することができる。
さらに、本発明によれば、肉代替食品に対して良好な甘味を付与し得るうえ、材料由来の臭い(大豆臭等)を抑制し得る。
【0100】
本発明において「肉代替食品」とは、植物性原料(豆類(大豆、エンドウ豆、ヒヨコマメ、ソラマメ等)、米、穀物等)を主原料として用いた任意の食品を包含する。
本発明における肉代替食品は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、動物性原料(畜肉、畜肉由来成分、動物油脂、乳成分、卵等)を全く含まないものが好ましい。
【0101】
肉代替食品としては、豆腐ハンバーグ、大豆たん白加工食品(ハンバーグ様食品、シューマイ様食品、餃子様食品、中華まん様食品)、エンドウ豆たん白加工食品(ハンバーグ様食品、シューマイ様食品、餃子様食品、中華まん様食品)等が挙げられる。
【0102】
肉代替食品中の本発明の油脂組成物の含有量は、得ようとする風味等に応じて適宜調整できる。
本発明の油脂組成物の含有量の下限値は、肉代替食品の材料全体に対して、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。
本発明の油脂組成物の含有量の上限値は、肉代替食品の材料全体に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【実施例
【0103】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
<試験1:油脂組成物の作製及び評価>
以下の方法で油脂組成物を作製し、その風味を評価した。
【0105】
(油脂組成物の作製)
表1乃至5の「油脂」の項に示す油脂に対し、各成分を「油脂組成物中の含有量」の項に示す濃度(単位:ppm)となるように混合及び撹拌し、実施例及び比較例の油脂組成物を作製した。
【0106】
表1乃至5中、「スルフロールに対する質量比」とは、各組成中のスルフロール含有量に対する、スルフロール以外の各成分の含有量の質量比(各成分/スルフロール)を示す。
「2,6-ジメトキシフェノールに対する質量比」各組成中の2,6-ジメトキシフェノール含有量に対する、2,6-ジメトキシフェノール以外の各成分の含有量の質量比(各成分/2,6-ジメトキシフェノール)を示す。
【0107】
(油脂組成物の評価)
得られた油脂組成物について、畜肉感、炙り感、及び甘味のそれぞれを、以下に基づき官能評価を行った。その結果を表1乃至5中の「評価」の項に示す。
【0108】
なお、官能評価は、下記のように選抜されたパネルによって行った。
パネル候補に対し、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20名をパネルとして選抜した。
また、評価を実施するにあたり、パネル全体で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。また、官能評価におけるパネルの偏りを排除し、評価の精度を高めるために、サンプルの試験区番号や内容はパネルに知らせず、ランダムに提示した。
【0109】
[官能評価]
「対照」の油脂組成物として、神戸牛のリブロースからトリミングした脂身をフライパンで弱火で20分加熱し、融解・分離した油脂を集めたものを準備した。
各パネルに「対照」の油脂組成物を摂食させ、その各風味(畜肉感、炙り感、及び甘味)を記憶させた。
次いで、実施例及び比較例の各油脂組成物を同様のパネルに摂食させ、「対照」の油脂組成物の各風味を「10点」とした場合の各風味を10段階評価させた。なお、数値が「10点」に近いほど、畜肉感、炙り感、及び甘味のそれぞれ良好であることを意味する。本例では、各風味の点数が3点以上であれば、良好な風味を奏していると判断できる。
パネルが回答した点数の平均を求め、小数第1位を四捨五入した。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
表1乃至5に示されるとおり、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールを含む油脂組成物は、畜肉感、及び炙り感に優れていた。
【0116】
スルフロールの含有量が多いほど、畜肉感が良好になりやすい傾向にあった。
【0117】
2,6-ジメトキシフェノールの含有量が多いほど、炙り感が良好になりやすい傾向にあった。
【0118】
3-メチルブタナールの含有量が多いほど、畜肉感、及び炙り感を向上させつつ、さらに甘味が良好になりやすい傾向にあった。
【0119】
4-アリル-2,6-ジメトキシフェノールの含有量が多いほど、畜肉感を向上させつつ、さらに甘味が良好になりやすい傾向にあった。
【0120】
オイゲノールの含有量が多いほど、畜肉感をさらに向上させやすい傾向にあった。
【0121】
2-メトキシ-4-ビニルフェノールの含有量が多いほど、畜肉感、及び炙り感をさらに向上させやすい傾向にあった。
【0122】
δ-オクタラクトン、及び/又はδ-デカラクトンの含有量が多いほど、畜肉感を向上させつつ、さらに甘味が良好になりやすい傾向にあった。
【0123】
<試験2:大豆ハンバーグの作製>
上記試験1で作製した、実施例の油脂組成物を使用し、大豆ハンバーグ(肉代替食品に相当する。)を作製した。なお、該大豆ハンバーグは、乾燥粒状脱脂大豆、及び乾燥粉末状脱脂大豆を主原料とし、動物性原料を全く含まないものである。
大豆ハンバーグには、各油脂組成物を、材料全体に対して約20質量%配合した。
【0124】
その結果、実施例の油脂組成物を配合した大豆ハンバーグは、試験1の結果と同様、良好な畜肉感及び、炙り感を有し、さらには良好な甘味も有していた。
また、実施例の油脂組成物を配合した大豆ハンバーグは、大豆臭が抑制されており、嗜好性が改善されていた。
【要約】
【課題】本発明の課題は、良好な畜肉感、及び炙り感を有する油脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、スルフロール、及び2,6-ジメトキシフェノールを含む、油脂組成物を提供する。
【選択図】なし