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特許7174869表面処理銅箔および銅クリッドラミネート
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  • 特許-表面処理銅箔および銅クリッドラミネート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】表面処理銅箔および銅クリッドラミネート
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20221110BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20221110BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20221110BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20221110BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/10
C25D5/16
C25D1/04 311
H05K1/03 630H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022003154
(22)【出願日】2022-01-12
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】110126405
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 庭君
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 耀生
(72)【発明者】
【氏名】周 瑞昌
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/193246(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/105289(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理表面を有する表面処理銅箔であって、
前記処理表面の極点高さ(peak extreme height)(Sxp)は、0.4から2.5μmの範囲であり、
当該表面処理銅箔のヒステリシスループは、該ヒステリシスループの磁場強度がゼロの場合、第1の磁化および第2の磁化を有し、前記第1の磁化の値と前記第2の磁化の値の間の絶対差は、20から1200emu/m3の範囲である、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記処理表面の極点高さ(Sxp)は、0.4から1.8μmの範囲であり、
前記第1の磁化の値と前記第2の磁化の値の間の絶対差は、20~800emu/m3の範囲である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記第1の磁化の値と前記第2の磁化の値の間の絶対差は、20~500emu/m3の範囲である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
さらに、
バルク銅箔と、
該バルク銅箔の少なくとも1つの表面に設置された、表面処理層であって、前記表面処理層の最外表面は、前記処理表面である、表面処理層と、
を有する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
Ni、Cu、Zn、Co、Cr、Si、C、N、O、PおよびSを対象原子として用い、前記処理表面においてX線光電子分光(XPS)分析を実施した際、前記表面処理層中のSiの濃度は、前記対象原子の全数に対して、2から15原子%の範囲である、請求項4に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記表面処理層中のSiの濃度は、2.5から11.5原子%の範囲である、請求項5に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記表面処理層中のSiの濃度は、2.5から8.0原子%の範囲である、請求項5に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
前記表面処理層は、少なくとも2つのサブ層を有し、前記少なくとも2つのサブ層の1つは、粗面化層、バリア層、および防錆層からなる群から選択される、請求項4に記載の表面処理銅箔。
【請求項9】
前記少なくとも2つのサブ層の他方の1つは、シリコン含有カップリング層である、請求項8に記載の表面処理銅箔。
【請求項10】
前記粗面化層、前記バリア層、および前記防錆層の少なくとも1つの組成は、強磁性金属を有する、請求項8に記載の表面処理銅箔。
【請求項11】
前記強磁性金属は、ニッケル、コバルトまたは鉄を含む、請求項10に記載の表面処理銅箔。
【請求項12】
銅クラッドラミネートであって、
基板と、
請求項1に記載の表面処理銅箔と、
を有し、
前記処理表面は、前記基板に取り付けられる、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、銅箔の分野、特に表面処理銅箔およびその銅クラッドラミネートに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を伝送できる小型で薄型の電子製品に対する需要が高まる中、銅箔および銅クラッドラミネートに対する需要も増加している。一般に、銅クラッドラミネートの回路は、絶縁基板により担持され、電気信号は、回路のレイアウト内の所定の経路に沿って、所定の領域に伝送され得る。また、高周波(例えば10GHz超)の電気信号を伝送する際に使用される銅クラッドラミネートについては、スキン効果による信号の伝送ロスを低減するため、銅クラッドラミネートの回路をさらに最適化する必要がある。いわゆるスキン効果とは、電気信号の周波数の上昇に伴い、電流の伝送経路が導電線の表面により集中すること、特に基板に近い導電線の表面に集中することを意味する。スキン効果によって生じる信号の伝送ロスを低減するため、従来の技術では、銅クラッドラミネートにおける導電線の表面を平坦化して、できるだけ基板に近づける方法が用いられている。しかしながら、前述の技術により、銅クラッドラミネートにより生じる信号の伝送ロスを効果的に低減できたとしても、克服すべき技術的問題が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、従来技術の問題を解決するため、依然、表面処理銅箔および銅クラッドラミネートを提供するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記に鑑み、本開示では、従来技術に存在する問題を解決する、改善された表面処理銅箔および銅クラッドラミネートが提供される。
【0005】
本開示の一実施形態では、表面処理銅箔が提供され、これは、処理表面を有し、該処理表面の極点高さ(Sxp)は、0.4から2.5μmの範囲であり、表面処理銅箔のヒステリシスループは、ヒステリシスループの磁場強度がゼロの場合、第1の磁化および第2の磁化を含み、第1の磁化の値と第2の磁化の値の間の絶対差は、20~1200emu/m3である。
【0006】
本開示の別の実施形態では、銅クラッドラミネートが提供される。当該銅クラッドラミネートは、基板と、前述の表面処理銅箔とを有し、前記表面処理銅箔の処理表面は、基板に取り付けられる。
【0007】
本開示の一実施形態では、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲に制御され、ヒステリシスループの磁場強度がゼロの場合、特定の間隔における第1の磁化の値と第2の磁化の値の間の絶対差が、例えば20から1200emu/m3の範囲に制御されることにより、銅クラッドラミネートの信号の伝送ロスおよび接着強度を改善することができる。
【0008】
本発明のこれらおよび他の目的は、各種図面に示されている好適実施形態の以下の詳細な説明を読むことにより、当業者には明らかとなる。
【0009】
本開示は、添付図面を参照した、一実施形態の以下の説明からより良く理解される。本開示の特定の実施形態およびその作動原理は、本開示の特定の実施形態および対応する図面を参照することにより、詳細に説明される。また、明確化のため、図面内の特徴物には、スケールは示されておらず、従って、図面中の特徴物の一部のサイズは、意図的に拡大または縮小され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態による表面処理銅箔の極点高さ(Sxp)と材料比(mr)との関係を示すプロットである。
図2】本開示の一実施形態による表面処理銅箔の概略的な断面図である。
図3】本開示の一実施形態によるストリップラインの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
当業者に本開示のより良い理解を提供するため、以下、表面処理銅箔および銅クラッドラミネートに関する本開示のいくつかの例示的実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。図面には、符号付き素子が使用され、達成されるべき内容および効果が詳細に説明される。添付図面は、実施形態のさらなる理解を提供するために提供され、本願に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施することができるよう、十分に詳細に記載されている。他の実施形態を利用してもよく、本開示の思想および範囲から逸脱することなく、構造的、論理的および電気的変更が行われてもよい。
【0012】
本開示における「上」、「上方」および「上部」の意味は、最も広範に解釈される必要があり、例えば、「上」は、何かの「直上」にあることに加えて、中間特徴物または間の層を介して、何かの上にあることを意味することを含み、「上方」または「上部」は、何かの「上方」または「上部」の意味に加えて、それがそれらの間に中間特徴物または層を介さずに、何かの「上方」または「上部」(すなわち、何かの直上)にあるという意味を含むことは、容易に理解される。
【0013】
本開示では、第1、第2、第3のような用語を使用して、各種素子、部材、領域、層、および/またはブロックを説明するが、これらの素子、部材、領域、層、および/またはブロックは、これらの用語に限定される必要はないことが理解される必要がある。これらの用語は、単に、1つの素子、部材、領域、層、および/またはブロックを別のものから区別するために使用され、前述の任意の素子の順番、または1つの素子と別の素子の配置順、または製造方法の順序を示したり、表現したりするものではない。従って、以下に記載の第1の素子、部材、領域、層またはブロックは、本開示の実施形態の範囲から逸脱することなく、第2の素子、部材、領域、層またはブロックと称されてもよい。
【0014】
少なくとも各数値パラメータは、少なくとも、記録された有効桁数に照らして、および通常の丸め法を適用することにより、解される必要がある。範囲は、1つの終点から別の終点まで、または2つの終点の間で表されてもよい。本開示の全ての範囲は、特に記載のない限り、終点を含む。
【0015】
以降に記載の異なる実施形態における技術的特徴は、本開示の思想および範囲から逸脱することなく、相互に置換され、再結合され、または混合され、別の実施形態を構成してもよいことに留意する必要がある。
【0016】
本開示の表面処理銅箔は、処理表面を有する。表面処理銅箔のバルク銅箔は、電析(または電解、電着、電気めっき)により形成されてもよい。バルク銅箔は、ドラム側と、該ドラム側とは反対の成膜側とを有してもよい。
【0017】
必要な場合、表面処理層は、バルク銅箔のドラム側および成膜側の少なくとも1つに配置されてもよい。表面処理層は、単層構造であっても、多層積層構造であってもよい。例えば、表面処理層は、多層積層構造であり、複数のサブ層を有し、これに限られるものではないが、表面処理層の各々は、バルク銅箔のドラム側および成膜側に、それぞれ配置されてもよい。表面処理層の各々のサブ層は、これに限られるものではないが、粗面化層、バリア層、防錆層およびカップリング層からなる群から選択されてもよい。
【0018】
本開示の一実施形態では、表面処理銅箔が提供され、当該表面処理銅箔が基板に取り付けられ、銅クラッドラミネートが形成されてもよい。本開示の一実施形態では、表面処理銅箔の処理表面は、後続のプロセスで基板に取り付けられるため、処理表面の極点高さ(Sxp)は、表面処理銅箔とポリマー基板との間の接着強度に影響を及ぼし得る。本開示の一実施形態では、処理表面の極点高さ(Sxp)は、0.4~2.5μmであってもよく、例えば、0.4~2.2μm、0.4~2.0μm、または0.4~1.8μmであってもよい。特に、極点高さ(Sxp)は、ISO 25178-2:2012の規定に準拠する。図1には、一例として、その測定結果を示す。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態による表面処理銅箔の極点高さ(Sxp)と材料比(mr)の間の関係を示すプロットである。特に、極点高さ(Sxp)は、第1データ点P1の対応する高さH1と、第2データ点P2の対応する高さH2との間の絶対差である。ISO 25178-2:2012の規定によれば、第1データ点P1の対応する材料比M1は、2.5%であり、第2データ点P1の対応する材料比M2は、50%である。極点高さ(Sxp)は、材料比が2.5%未満での高いピークを除外するため、少数の高いピークにより生じる表面粗さの影響は、排除され得る。極点高さ(Sxp)の値がより高い場合、これは、表面処理銅箔と基板との間の接着強度を高める(例えば、通常の剥離強度または赤外線加熱リフロー後の剥離強度を高めることができる)点で有益であるが、極点高さ(Sxp)の値が極端に高くなると、信号ロスの度合いが高まる可能性がある。
【0020】
また、本開示の実施形態による表面処理銅箔のいくつかの層は、電析により形成されてもよい。例えば、バルク銅箔、粗面化層、バリア層、および/または防錆層は、電析により形成されてもよい。電析プロセスの間、電解質溶液は、銅イオンの他、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、または他の金属イオンのような、微量の強磁性金属イオンを含んでもよい。これらの金属イオンは、添加剤として使用される塩に由来してもよい。これに限られるものではないが、塩は、各電析層の表面特性または粗さの調整に使用され、あるいは各電析層の結晶度または機械的強度を調整するために使用されてもよい。従って、バルク銅箔および表面処理層のいくつかの層(粗面化層、バリア層および/または防錆層等)が電析により形成される場合、これらの層には、微量の強磁性金属が含まれてもよい。強磁性金属の磁化率は、101~106であり、外部磁場の影響下では、残留磁気が生じる可能性があるため、前述の表面処理銅箔で作製された導電線により高周波信号が伝送される場合、信号の伝送ロスは、より深刻になる可能性がある。
【0021】
より詳しくは、表面処理銅箔に印加された外部磁場に応答して生じたヒステリシスループに関し、外部磁場がゼロの場合、ヒステリシスループにおける対応する磁化は、それぞれ、第1の磁化および第2の磁化であってもよい。本開示の一実施形態では、ヒステリシスループにおける第1の磁化の値は、第2の磁化の値よりも大きく、第1の磁化および第2の磁化の値は、いずれも正であってもよく、あるいは第1の磁化の値は、正であり、第2の磁化の値は、負であってもよい。本開示の一実施形態では、磁気飽和を達成するヒステリシスループ(すなわち、飽和ヒステリシスループ)に関し、第1の磁化の値と第2の磁化の値との間の絶対差は、20~1200emu/m3、例えば、20~1000emu/m3、20~800emu/m3、20~600emu/m3、または20~500emu/m3である。
【0022】
本開示の一実施形態では、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4~2.5μmの範囲であり、第1の磁化の値と第2の磁化の値の絶対差が20~1200emu/m3である場合、対応する銅クラッドラミネートおよび印刷回路基板において、表面処理銅箔および該表面処理銅箔と接触するポリマー基板は、信号の比較的低い伝送ロス、比較的高い通常の剥離強度、および赤外線加熱リフロー後の比較的高い剥離強度の要求仕様を満たしてもよい。
【0023】
本開示の一実施形態では、処理表面の極点高さ(Sxp)が、0.4から1.8μmの範囲にさらに制御され、第1の磁化の値と第2の磁化の値との絶対差が20~800emu/m3である場合、信号の伝送ロスの度合いは、さらに低減されてもよい。
【0024】
本開示の一実施形態では、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲にあり、第1の磁化の値と第2の磁化の値との絶対差が20~500emu/m3にさらに制御される場合、信号の伝送ロスの度合いは、さらに低減され得る。
【0025】
また、表面処理層の最外表面が表面処理銅箔の処理表面である場合、表面処理層のシリコン含有量は、通常の剥離強度、および赤外線加熱リフロー後の剥離強度に影響を及ぼし得る。本開示の実施形態では、Ni、Cu、Zn、Co、Cr、Si、C、N、O、PおよびSを対象原子として用い、処理表面上でX線光電子分光法(XPS)分析を実施した場合、表面処理層におけるSiの濃度は、対象原子の総数に基づき、2から15原子%、例えば、2.5から11.5原子%の範囲、または2.5から8.0原子%の範囲に制御されてもよい。
【0026】
本開示の一実施形態では、さらに、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲にあり、第1の磁化の値と第2の磁化の値の絶対差が20~1200emu/m3であり、表面処理層におけるSi濃度が2から15原子%の範囲に制御される場合、対応する銅クラッドラミネートおよび印刷回路基板に関し、赤外線加熱リフロー後の剥離強度があるレベルに維持され、赤外線加熱リフローで処理された後の剥離強度試験において、銅クラッドラミネートおよび印刷回路基板のブリスター、クラックおよび/または剥離が回避されてもよい。また、表面処理層におけるSi濃度が2.5から11.5原子%、または2.5から8原子%に制御された場合、赤外線加熱リフロー後の剥離強度は、さらに維持されてもよい(すなわち、剥離強度の維持率が比較的高い)。
【0027】
前述の表面処理銅箔に関し、図2には、その構造を一例として示す。図2は、本開示の一実施形態による表面処理銅箔の概略的な断面図である。図2に示すように、表面処理銅箔100の厚さは、通常、6μm以上であり、例えば、7μmから250μmの範囲、9μmから210μmの範囲、またはそれらの間の範囲、例えば、12μm、18μm、35μm、70μm、105μm、140μm、175μm、および210μmである。前述の厚さは、重量平均厚さを採用している。すなわち、重量平均厚さは、表面処理銅箔の単位面積当たりの重量(g/m2)を銅箔密度(g/m3)で割除算することにより得られる。特に、表面処理銅箔の表面処理層が極めて薄い場合、銅箔密度には、理論銅密度の8.96(g/cm3)を採用してもよい。表面処理銅箔100は、処理表面100Aを有し、表面処理銅箔100は、少なくともバルク銅箔110を有する。バルク銅箔110中の銅含有量は、99%以上である。バルク銅箔110の成膜側およびドラム側の一方は、第1の表面110Aに対応し、他方は、第2の表面110Bに対応する。本開示の一実施形態では、成膜側は、第1の表面110Aに対応し、ドラム側は、第2の表面110Bに対応する。本開示の一実施形態では、バルク銅箔110は、主に銅で構成されるが、鉄、ニッケルおよびコバルトのような強磁性金属を微量有し、従って、表面処理銅箔のヒステリシスループの磁化は、これらの強磁性金属により影響される。
【0028】
表面処理銅箔100は、バルク銅箔110に加えて、第1の表面処理層112aおよび第2の表面処理層112bのような、任意の表面処理層を有し、これらは、それぞれ、第1の表面110Aおよび第2の表面110Bに配置される。第1の表面処理層112aの最外表面は、表面処理銅箔100の処理表面100Aとみなすことができ、処理表面100Aは、表面処理銅箔100を基板にラミネートする後続のプロセスの間、基板と接触する。
【0029】
第1の表面処理層112aおよび第2の表面処理層112bの各々は、単層構造であっても、多層積層構造であってもよい。第1の表面処理層112aが複数のサブ層を含む多層積層構造である場合、各サブ層は、粗面化層114、第1のバリア層116a、第1の防錆層118a、およびカップリング層120からなる群から選択されてもよい。第2の表面処理層112bが、複数のサブ層を含む多層積層構造である場合、各サブ層は、第2のバリア層116bおよび第2の防錆層118bからなる群から選択されてもよい。第1のバリア層116aおよび第2のバリア層116bの組成は、相互に等しくても、異なっていてもよく、第1の防錆層118aおよび第2の防錆層118bの組成は、相互に等しくても、異なっていてもよい。
【0030】
前述の粗面化層114は、ノジュール(nodules)を含む。ノジュールを用いて、バルク銅箔110の表面粗さが改善されてもよく、これは、銅ノジュールまたは銅合金ノジュールであってもよい。バルク銅箔110からノジュールが剥離することを防止するため、粗面化層114は、さらに、ノジュール上に配置されノジュールを覆う、被覆層を有してもよい。表面処理銅箔100の極点高さ(Sxp)は、粗面化層114におけるノジュールの数およびサイズを調整することにより、調整されてもよい。例えば、電析により形成されるノジュールおよび被覆層の場合、ノジュールの数およびサイズは、これに限られるものではないが、電解質溶液中の添加剤の種類もしくは濃度、および/または電流密度を調整することにより、調整されてもよい。
【0031】
本開示の一実施形態では、バリア層は、ニッケルのような強磁性金属を含んでもよく、従って、表面処理銅箔のヒステリシスループの磁化に影響を与えてもよい。バリア層は、例えば、金属層または金属合金層であってもよい。金属層は、これに限られるものではないが、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉄、スズ、バナジウム、タングステンおよびチタンから選択されてもよい。また、金属層および金属合金層は、単層構造であっても、相互に積層された亜鉛含有単層およびニッケル含有単層のような多層構造であってもよい。
【0032】
防錆層は、金属に設置された被覆層であり、腐食等により生じる劣化から金属を保護するために用いられてもよい。防錆層は、金属または有機化合物を含有する。防錆層が金属を含む場合、金属は、クロムまたはクロム合金であってもよく、クロム合金は、さらに、ニッケル、亜鉛、コバルト、モリブデン、バナジウム、およびそれらの組み合わせから選択される1つの元素を含んでもよい。防錆層が有機化合物を含む場合、有機防錆層を形成するために使用され得る有機分子の非限定的な例には、ポルフィリン基、ベンゾトリアゾール、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせが含まれる。ポルフィリン基は、ポルフィリン、ポルフィリンマクロ環、拡張ポルフィリン、収縮ポルフィリン、線状ポルフィリンポリマー、ポルフィリンサンドイッチ配位複合体、ポルフィリンアレイ、5,10,15,20-テトラキス-(4-アミノフェニル)-ポルフィリン-Zn(II)、および/またはそれらの組み合わせを含む。
【0033】
カップリング層は、シランから構成されてもよい。本開示の一実施形態では、第1の表面処理層112aにおけるシリコン濃度は、主に、カップリング層120による寄与である。シランから構成されるカップリング層120は、スプレープロセスにより形成されてもよい。カップリング層120を形成するプロセスの間、シラン中のアルコキシ基は、ヒドロキシ基に加水分解されてもよく、アルコキシ基は、付着した金属層と結合するだけではなく、隣接するシラン分子中のヒドロキシ基と重縮合し、従って、シランと金属層との間の接着強度が変化してもよい。また、シランは、アミノ基、エポキシ基、および/またはアルキレン基を有してもよく、これにより、これらの官能基は、表面処理銅箔を基板に取り付ける後続のプロセスにおいて、基板におけるポリマーと結合し、従って、表面処理銅箔と基板との間の接着強度が改善されてもよい。
【0034】
本開示の一実施形態では、カップリング層120内のシリコン濃度は、隣接する防錆層118aの全有機炭素(TOC)含有量に関連するだけでなく、第1のバリア層116aおよび/もしくはバルク銅箔110の表面形態または組成にも関連する。いかなる理論にも限定されないが、カップリング層120を形成するプロセスの間、防錆層118a上に吸着されるシランの量は、全有機炭素含有量の変動、および表面形態の変動、および付着した層の組成に影響されることが予想され、これは、カップリング層120内のシリコン濃度にさらに影響を及ぼす。
【0035】
前述のシランは、これに限られるものではないが、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、8-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、および8-メタクリロキシオクチル、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルプロピルトリメトキシシラン、3-(メタクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン、またはビニルトリエトキシシランから選択されてもよく、これらは、表面処理銅箔と他の材料(基板など)の間の接着強度を改善するために使用される。
【0036】
前述の表面処理銅箔100は、さらに処理され、銅クラッドラミネート(CCL)が製造されてもよい。銅クラッドラミネートは、少なくとも基板および表面処理銅箔を有し、該表面処理銅箔は、基板の少なくとも1つの表面に配置される。特に、表面処理銅箔の処理表面は、基板と直接接触し、基板と対面してもよい。
【0037】
基板は、これに限られるものではないが、ベークライト基板、ポリマー基板またはファイバーガラス基板で構成されてもよい。ポリマー基板のポリマー成分は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、ビスマレイミデトリアジン樹脂、シアネートエステル樹脂(BT樹脂としても知られている)、フッ素化フッ素ポリマー、ポリエーテルスルホン、セルロース熱可塑性プラスチック、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリスルフィド、ポリウレタン、ポリイミド、液晶ポリマー(LCP)、およびポリフェニレンオキシド(PPO)であってもよい。前述のガラス繊維基板は、前述のポリマー(例えば、エポキシ樹脂)にガラス繊維不織布を浸漬することにより形成された、プリプレグであってもよい。
【0038】
銅クラッドラミネートは、さらに処理され、印刷回路基板が製造されてもよく、ステップは、表面処理銅箔をパターン化して、導電線を製造するステップと、2つの隣接する基板を相互に接合するステップと、を有してもよい。
【0039】
さらに、表面処理銅箔および銅クラッドラミネートを製造する方法について、一例として記載する。製造方法における各ステップは、以下の通りである:
(1)ステップA
ステップAでは、ろ過手順またはイオン交換技術を用いて、電析プロセスに使用される電解質溶液を前処理し、電解質溶液中の強磁性金属イオンが除去され、または電解質溶液中の強磁性金属イオンと他の金属イオンとの間の比が低減される。例えば、イオン交換技術を用いることにより、イオン交換ポリマーで充填されたカラムを介して電解質溶液を流すことにより、電解質溶液中の鉄イオン、ニッケルイオン、およびコバルトイオンのような強磁性金属イオンは、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのような非強磁性金属イオンに置換され、または水素イオンに置換される。特に、イオン交換ポリマーは、キレート樹脂(Purolite社製)であってもよく、電解質溶液の流速は、2~7体積流量/樹脂体積(BV/分)の範囲である。電解質溶液は、イオン交換樹脂により1回または複数回処理されてもよく、従って電解質溶液中の鉄イオン、ニッケルイオンおよびコバルトイオンのような強磁性金属イオンの濃度は、所定のレベルに達し得る。
【0040】
(2)ステップB
ステップBでは、前処理された電解質溶液を用いて電析が行われ、バルク銅箔が形成される。例えば、電析機器を用い電析プロセスにより、バルク銅箔(またはバルク銅箔と称される)が形成されてもよい。電析機器は、少なくともカソードとしてのドラムと、一組の不溶性金属アノード板と、および電解質溶液用の入口マニホルドと、を有してもよい。特に、ドラムは、回転可能な金属ドラムであり、その表面は、鏡面研磨面である。金属アノード板は、ドラムの下半分から分離され、ドラムの下半分を囲むようにドラムの下半分に固定して配置されてもよい。入口マニホルドは、ドラムの下側、および2つの金属アノード板の間に、固定して配置されてもよい。
【0041】
電析プロセスの間、入口マニホルドは、ドラムと金属アノード板との間に電解質溶液を連続的に供給する。ドラムと金属アノード板との間に電流または電圧を印加することにより、ドラム上に銅が電析され、バルク銅箔が形成されてもよい。また、ドラムを連続的に回転させ、バルク銅箔をドラムから剥離することにより、連続バルク銅箔が製造されてもよい。特に、バルク銅箔のドラムと対向する表面は、ドラム側と称され、一方、ドラムから遠い側の電解銅箔の表面は、成膜側と称される。
【0042】
バルク銅箔に関し、製造パラメータは、以下のように記載される:
<1.1 電解質溶液組成とバルク銅箔の電解条件>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):320g/L
硫酸:95g/L
塩化物イオン(RCl Labscan社製の塩酸から):30mg/L(ppm)
ゼラチン(DV、Nippi社製):0.35mg/L(ppm)
強磁性金属イオン(鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン):503~4011ppm
液温:30~65℃
電流密度:40~80A/dm2
バルク銅箔の厚さ:~33μm。
【0043】
(3)ステップC
ステップCでは、バルク銅箔の表面洗浄プロセスが実施され、バルク銅箔の表面に、確実に汚染物質(油汚れおよび酸化物など)が存在しないようにされる。製造パラメータは、以下のように記載される:
<3.1 洗浄液の組成および洗浄条件>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):200g/L
硫酸:100g/L
液温:25℃
浸漬時間:5秒。
【0044】
(4)ステップD
ステップDでは、前述のバルク銅箔の任意の側に、粗面化層が形成される。例えば、電析プロセスにより、バルク銅箔のドラム側にノジュールが形成されてもよい。また、ノジュールの落下を防止するため、さらに、ノジュールの上に被覆層が形成されてもよい。粗面化層(ノジュールおよび被覆層を含む)の製造パラメータは、以下のように記載される:
<4.1 ノジュール形成のパラメータ>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):150g/L
硫酸:100g/L
液温:25℃
電流密度:40A/dm2
処理時間:10秒

<4.2 被覆層を作製するためのパラメータ>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):220g/L
硫酸:100g/L
液温:40℃
電流密度:15A/dm2
処理時間:10秒。
【0045】
(5)ステップE
ステップEでは、例えば電析プロセスにより、バルク銅箔の各側にバリア層が形成され、粗面化層を有するバルク銅箔の側に、二重層積層構造(例えば、これに限られるものではないが、ニッケル含有層/亜鉛含有層)を有するバリア層が形成される。一方、バルク銅箔の粗面化層を有しない側には、単層構造(例えば、これに限られるものではないが、亜鉛含有層)を有するバリア層が形成される。その製造パラメータは、以下のように記載される:
<5.1 ニッケル含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
硫酸ニッケル(NiSO4・7H2O):180g/L
ホウ酸(H3BO3):30g/L
次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2):3.6g/L
pH:3.5
液温:20℃
電流密度:0.2~0.5A/dm2
処理時間:10秒

<5.2 亜鉛含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O):9g/L
pH:13
液温:20℃
電流密度:0.2A/dm2
処理時間:10秒。
【0046】
(6)ステップF
ステップFでは、前述のバルク銅箔の各側のバリア層上に、クロム含有層のような防錆層が形成される。製造パラメータは、以下のように記載される:
<5.1 クロム含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
三酸化クロム(CrO3):5g/L
全有機炭素(TOC)含有量:105~1022ppm
液温:30℃
電流密度:5A/dm2
処理時間:10秒。
【0047】
(7)ステップG
ステップGでは、ノジュール、被覆層、バリア層および防錆層を有するバルク銅箔の側に、カップリング層が形成される。例えば、前述の電析プロセスの完了後、バルク銅箔は、水で洗浄され、バルク銅箔の表面は、乾燥プロセスに晒されない。その後、シランカップリング剤を含む水溶液が、ノジュールを有するバルク銅箔の側の防錆層に噴霧され、シランカップリング剤が防錆層の表面に吸着される。その後、前述の処理の後、バルク銅箔がオーブンで乾燥されてもよい。製造パラメータは、以下のように記載される:
<7.1 シランカップリング剤を製造するためのパラメータ>
シランカップリング剤(単一のまたは複数のシリコーン化合物を含んでもよい):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(S-330)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)、3-アクリルオキシポロピルトリメトキシシラン(KBM-5130)、またはビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)
シランカップリング剤の水溶液中濃度:0.25重量%
噴霧時間:10秒。
【0048】
当業者が本開示を実施できるよう、以下、銅箔および銅クラッドラミネートに関する特定の例について、さらに説明する。しかしながら、以下の実施例は、単になる一例を目的としたものであり、本開示を限定するものと解してはならないことに留意する必要がある。すなわち、各実施例における材料、材料の量および比率、ならびに処理フローは、修正が添付の特許請求の範囲により定義される本開示の範囲内にある限り、好適に修正されてもよい。
【実施例
【0049】
(例1~9)
例1~9は、表面処理銅箔であり、製造プロセスは、前述の製造プロセスにおけるステップA~Gを含む。表1には、前述の製造プロセスとは異なる製造パラメータを示す。特に、図2に、例1~9の表面処理銅箔の構造を示す。ここで、粗面化層は、ドラム側に配置され、ニッケル含有層、亜鉛含有層、クロム含有層、およびカップリング層が、順次、粗面化層上に形成される。粗面化層を有しないバルク銅箔の側には、亜鉛含有層およびクロム含有層が連続的に形成される。表面処理銅箔の厚さは、35μmである。
【0050】
(比較例1~9)
比較例1~9の製造工程は、前述の製造工程におけるステップA~ステップGに対応する。表1には、前述の製造プロセスとは異なる製造パラメータを示す。特に、比較例1~9の表面処理銅箔の構造を図2に示す。ドラム側には粗面化層が配置され、粗面化層の上には、ニッケル含有層、亜鉛含有層、クロム含有層、およびカップリング層が順次形成される。粗面化層を有しないバルク銅箔の側に、亜鉛含有層およびクロム含有層が連続的に形成される。表面処理銅箔の厚さは、35μmである。
【0051】
【表1】
さらに、<磁化>、<極点高さ(Sxp)>、<シリコン濃度>、<伝送信号ロス>、<通常の剥離強度>、<赤外線加熱リフロー後の剥離強度>、<剥離強度維持率>のような、前述の例1~9および比較例1~9の試験結果が以下に記載される。試験結果を表2および3に示す。
【0052】
<磁化>
超伝導量子干渉装置(SQUID)を用いて、表面処理銅箔を5mm×5mmに切断し、徐々に変化する外部磁場を印加し、表面処理銅箔のヒステリシスループを測定した。特に、外部磁場がゼロの場合、ヒステリシスループ内の対応する磁化は、それぞれ、第1の磁化および第2の磁化であってもよく、磁化差は、第1の磁化の値と第2の磁化の値との絶対差をサンプル体積で除した値として定められる。特に、外部磁場のベクトルの方向は、表面処理銅箔の厚さ方向と垂直である。具体的な測定条件は、以下の通りであり、表2および表3には、試験結果を示す:
機器:MPMS 3
外部磁場強度:0~10kOe
外部磁場の走査方法:0kOe→10kOe→-10kOe→10kOe
スキャン間隔:1kOe
気温:25±3℃
サンプル面積:5mm×5mm
サンプルの厚さ:表面処理銅箔の単位面積当たりの重量(g/m2)を、バルク銅箔の密度(g/m3)で除算。
【0053】
<極点高さ(Sxp)>
レーザ顕微鏡(LEXT OLS5000-SAF、オリンパス社製)の表面テクスチャ分析を用い、ISO 25178-2:2012に準拠して、表面処理銅箔の処理表面の極点高さ(Sxp)が定められる。具体的な測定条件は、以下の通りであり、表2および表3には、試験結果を示す:
光源の波長:405nm
対物レンズ倍率:100倍対物レンズ(MP/LAPON-100x/LEXT、オリンパス社製)
光学ズーム:1.0×
画像面積:129μm×129μm
解像度:1024画素×1024画素
モード:自動傾斜除去
フィルター:フィルターなし。
【0054】
<シリコン濃度>
X線光電子分光法(XPS)により、表面処理銅箔の処理表面、例えば処理表面の側の表面処理層を測定し、表面処理層内のケイ素濃度(原子%)を測定した。具体的な測定条件は、以下の通りであり、表3には試験結果を示す:
機器:VG ESCA/LAB 250、サーモフィッシャー社
アノードターゲット:アルミニウム
X線源:単色Al Kα(1486.9eV)
ビームサイズ:650μm
測定深さ:5~10nm
対象元素:Ni、Cu、Zn、Co、Cr、Si、C、N、O、P、S
検出条件:(1)通過エネルギー=100eV、(2)ステップ=1eV、(3)レート=50ms。
【0055】
<信号の伝送ロス>
図3に示すように、前述の任意の実施形態の表面処理銅箔は、ストリップ線路に形成され、対応する信号の伝送ロスが測定される。具体的には、ストリップライン400の場合、前述の実施形態の任意の表面処理銅箔が、厚さが152.4μmの市販の樹脂(S7439G、Shengyi Techno/Logy社製)に取り付けられ、その後、表面処理銅箔が導電線402に形成され、その後、複数の樹脂片(S7439G、Shengyi Techno/Logy社製)を用いて、両側の表面がそれぞれ被覆され、誘電体本体(S7439G、Shengyi Techno/Logy社製)404に導電線402が配置される。ストリップ線路400は、さらに、誘電体本体404の対向する両側のそれぞれ配置された2つの接地電極406-1および406-2を有してもよい。接地電極406-1および接地電極406-2は、導電性ビアホールを介して相互に電気的に接続され、従って、接地電極406-1および接地電極406-2は、等電位である。ストリップ線路400の各部材の仕様は、以下の通りである:
導電線402の長さ:100mm
幅w:120μm
厚さt:35μm
誘電体本体404の誘電特性:Dk=3.74、Df=0.006(IPC-TM No.2.5.5に従い10GHz信号で測定)
特性インピーダンス:50Ω
状態:被覆フィルムなし。
【0056】
標準Cisco S3法による信号の伝送ロスの測定のため、信号アナライザを用いて、接地電極406-1および406-2がいずれも接地電位にある際に、導電線402の一端から電気信号を入力し、導電線402の他端で出力値を測定し、ストリップ線路400により生じる信号の伝送ロスを評価した。具体的な測定条件は、以下の通りである:
信号分析器:PNA N5227B(Keysight Technologies社)
電気信号の周波数:10MHz~20GHz
掃引点:2000点
校正モード:E-Cal(cal kit:N4692D)。
【0057】
電気信号の周波数が16GHzに設定されている状態で、対応するストリップ線路の信号の伝送ロスの度合いを判定する。特に、信号の伝送ロスの絶対値が小さい場合、これは、信号ロスの程度が小さいことを意味する。判定基準は、以下の通りである:
A(信号伝送特性が最良):信号の伝送ロスの絶対値が0.75dB/in未満、
B(信号伝送特性が良好):信号の伝送ロスの絶対値が0.75から0.80dB/inの範囲、
C(信号伝送特性が最低):信号の伝送ロスの絶対値が0.80dB/in超。
【0058】
<通常の剥離強度>
表面処理銅箔と樹脂(S7439G、Shengyi Technology社製)をラミネートし、表面処理銅箔の処理面が樹脂と対向するように、銅クラッドラミネートを形成する。加圧条件は、温度200℃、圧力100psi、加圧時間120分である。その後、標準IPC-TM-650 2.4.8に従い、万能試験機(AG-I、島津製作所製)を使用して、銅クラッドラミネートから表面処理銅箔が90°の角度で剥離された。測定結果を表2に示す。
【0059】
<赤外線加熱リフロー後の剥離強度>
表面処理銅箔と樹脂(S7439G、Shengyi Technology社製)をラミネートし、表面処理銅箔の処理面が樹脂に対向するように、銅クラッドラミネートを形成する。加圧条件は、温度200℃、圧力100psi、加圧時間120分である。
【0060】
その後、赤外線加熱リフロー炉内で銅クラッドラミネートの熱処理が実施される。熱処理の条件は、温度260℃、各リフロー時間60秒、合計リフロー回数10回である。銅クラッドラミネートは、各リフロー処理の完了の際に室温に冷却され、次のリフロー処理が継続される。
【0061】
その後、標準IPC-TM-650 2.4.8に従い、万能試験機(AG-I、島津製作所製)を使用して、銅クラッドラミネートから表面処理銅箔が90°の角度で剥離された。測定結果を表2および3に示す。
【0062】
<剥離強度の維持率>
表面処理銅箔の前述の<通常の剥離強度>および<赤外線加熱リフロー後の剥離強度>に従い、<赤外線加熱リフロー後の剥離強度>を分子とし、<通常の剥離強度>を分母として(すなわち、<赤外線加熱リフロー後の剥離強度>を<通常の剥離強度>で除することにより得られる値により)、剥離強度の維持率が計算される。剥離強度の維持率が100%に近い場合、これは、対応する表面処理銅箔の接着強度が良好であることを意味する。測定結果を表3に示す。
【0063】
【表2】
表2の例1~9では、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲であり、第1の磁化の値と第2の磁化の値の間の絶対差(すなわち、磁場強度差)が20~1200emu/m3である場合、信号の対応する伝送ロスは、少なくとも、クラスB(良好なクラス)を達成し、対応する通常の剥離強度は、4.53lb/in以上であり、赤外線加熱リフロー後の対応する剥離強度は、4.15lb/in以上である。一方、比較例1~7では、極点高さ(Sxp)または磁場強度差の1つが前述の範囲に入らないと、特定の比較例(例えば、比較例3、5、7)の信号の伝送ロスがAクラス(最良のクラス)を達成する場合であっても、対応する通常の剥離強度、および赤外線加熱リフロー後の対応する剥離強度の少なくとも1つは、例1~9のいずれかに劣る。
【0064】
例1、2、5、6、9では、第1の磁化の値と第2の磁化の値との間の絶対差(すなわち、磁場強度差)が20~800emu/m3であり、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から1.8μmの範囲に制御されている場合、信号の伝送ロスの度合いは、さらに低減され得る。
【0065】
さらに、例1、2、5および6では、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲であり、第1の磁化の値と第2の磁化の値との間の絶対差(すなわち、磁場強度差)が20~800emu/m3に制御された場合、対応する信号の伝送ロスは、最良のクラスに達する。
【0066】
【表3】
表3の例1~9において、処理表面の極点高さ(Sxp)が0.4から2.5μmの範囲であり、第1の磁化の値と第2の磁化の値の間の絶対差(すなわち、磁場強度差)が20~1200emu/m3であり、さらにSiの濃度が2~15原子%の範囲に制御される場合、対応する通常の剥離強度は、4.53lb/in以上であり、赤外線加熱リフロー後の対応する剥離強度は、4.15lb/in以上となり得る。一方、比較例3、5、8および9では、極点高さ(Sxp)、磁場強度差、またはSiの濃度の1つが前述の範囲に入らない場合、対応する通常の剥離強度、および赤外線加熱リフロー後の対応する剥離強度の少なくとも一方は、例1~9のいずれかよりも低下する可能性がある。
【0067】
また、例1~4、7では、Siの濃度が2.5から11.5原子%、または2.5から8.0原子%に制御されると、剥離強度の維持率は、さらに高められる。
【0068】
本発明の示唆を保持したまま、装置および方法に多くの修正および変更を行うことができることは、当業者には容易に理解される。従って、前述の開示は、添付の特許請求の範囲のみにより限定されると解する必要がある。
【符号の説明】
【0069】
100 表面処理銅箔
100A 処理表面
110 バルク銅箔
110A 第1の表面
110B 第2の表面
112a 第1の表面処理層
112b 第2の表面処理層
【要約】
【課題】従来の問題を解決する、表面処理銅箔および銅クラッドラミネートを提供する。
【解決手段】表面処理銅箔は、処理表面を有し、該処理表面の極点高さ(Sxp)は、0.4~2.5μmの範囲にある。表面処理銅箔のヒステリシスループは、ヒステリシスループの磁場強度がゼロのとき、第1の磁化と第2の磁化とを有し、第1の磁化の値と第2の磁化の値との間の絶対差は、20~1200emu/m3の範囲にある。
【選択図】図1
図1
図2
図3