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特許7174873デッキスラブ、デッキスラブの施工方法、及びデッキスラブの設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】デッキスラブ、デッキスラブの施工方法、及びデッキスラブの設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
E04B5/40 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022027905
(22)【出願日】2022-02-25
【審査請求日】2022-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】郡 泰明
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248564(JP,A)
【文献】特開2017-078258(JP,A)
【文献】特開2003-278306(JP,A)
【文献】特開平04-293862(JP,A)
【文献】伊藤善三,複数開口を有するデッキプレート合成床スラブの耐力と破壊性状について,コンクリート工学年次論文報告集,1993年06月03日,15巻,2号,347-352頁
【文献】蓼原真一,デッキプレート合成床スラブの開口部補強に関する実験的研究,コンクリート工学年次論文報告集,1992年05月20日,14巻,2号,769-774頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00 - 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブであって、
開口幅が110mmより大きい開口を有し、
長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有し、
引張側断面係数の値は、50cm/m以上、550cm/m以下に設定され、
圧縮側断面係数の値は、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定され、
断面二次モーメントの値は、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定される、デッキスラブ。
【請求項2】
前記開口の開口幅が300mm以下である、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項3】
前記デッキプレートの高さは、50mm以上、120mm以下に設定される、請求項1又は2に記載のデッキスラブ。
【請求項4】
前記デッキプレートの板厚は、1.0mm以上、1.6mm以下に設定される、請求項1~3の何れか一項に記載のデッキスラブ。
【請求項5】
前記デッキプレート上のコンクリート山上厚は、50mm以上、100mm以下に設定される、請求項1~4の何れか一項に記載のデッキスラブ。
【請求項6】
2つ以上の複数開口を有し、各開口の内法距離を330mm以上とする、請求項1~5の何れか一項に記載のデッキスラブ。
【請求項7】
D13未満の線径の開口補強筋を有する、請求項1~6の何れか一項に記載のデッキスラブ。
【請求項8】
開口補強筋を有しない、請求項1~6の何れか一項に記載のデッキスラブ。
【請求項9】
デッキプレートを設置し、前記デッキプレート上にコンクリートを打設するデッキスラブの施工方法であって、
110mmより大きい開口幅を有する開口を形成し、長期許容荷重に対し、実耐力の安全率を2.0より大きくし、
引張側断面係数の値、50cm/m以上、550cm/m以下に設定
圧縮側断面係数の値、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定
断面二次モーメントの値、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定する、デッキスラブの施工方法。
【請求項10】
請求項1~8の何れか一項に記載のデッキスラブを設計するデッキスラブの設計方法であって、デッキプレートの降伏点を235N/mmより大きい値に設定する、デッキスラブの設計方法。
【請求項11】
欠損範囲による発生荷重の低減を考慮する、請求項10に記載のデッキスラブの設計方法。
【請求項12】
剛性低下の影響を実験及び解析により確認した低減係数を用いて設計する、請求項10又は11に記載のデッキスラブの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキスラブ、デッキスラブの施工方法、及びデッキスラブの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデッキスラブとして、特許文献1に記載されたものが知られている。このデッキスラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-41348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、デッキスラブには、開口が形成される場合がある。このような開口周辺にはひび割れ防止及び耐力補強のための追加配筋が必要になる。しかしながら、ひび割れ防止や耐力補強のための設計を行い、複数種類の鉄筋を手配・施工・監理する必要があり、設計者・施工者にとって大きな手間となるという問題がある。
【0005】
すなわち、従来では、デッキスラブに開口を設ける場合には、「デッキプレート床構造設計・施工規準」に準拠し、φ110mm超の開口となる場合には鉄筋径D13以上の補強筋などを配し、耐力を補強する必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らにより、「有開口デッキプレート合成床スラブの補強に関する実験的研究」等では実際にデッキスラブに開口が生じた場合の実験的研究が行われている。本発明者らは、鋭意研究の結果、φ110mm超の開口となる場合でも、所定の耐力補強筋を配することで、必要な耐力が保持できることを確認している。
【0008】
本発明に係るデッキスラブは、デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブであって、開口幅が110mmより大きい開口を有し、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。なお、長期許容荷重とは、前述の「デッキプレート床構造設計・施工規準」に基づいて、許容応力度設計により算出した長期の許容荷重である。
【0009】
本発明に係るデッキスラブは、デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有する。ここで、デッキスラブは、開口幅が110mmより大きい開口を有する。デッキスラブが、このように大きいサイズの開口を有する場合、従来、開口の近傍にD13以上の追加配筋等を設けて補強を行っていた。これに対し、本発明に係るデッキスラブは、開口幅が110mmより大きい開口を有していても、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。このようにデッキスラブの安全率を高めることで、大きな開口が形成されていても、必要な耐力等を確保することができる。従って、追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができる。これにより、鋼材使用量、及び設計、施工の手間を低減できる。
【0010】
開口の開口幅が300mm以下であってよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0011】
デッキプレートの高さは、50mm以上、120mm以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0012】
デッキプレートの板厚は、1.0mm以上、1.6mm以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0013】
デッキプレート上のコンクリート山上厚は、50mm以上、100mm以下に設定されてよい。またコンクリート山上厚が大きいことでせん断付着破壊が先行し、破壊モードが変わる可能性があることから、50mm以上、85mm以下に設定するとなおよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0014】
引張側断面係数の値は、50cm/m以上、550cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0015】
圧縮側断面係数の値は、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0016】
断面二次モーメントの値は、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本発明の構造を採用することで、開口の補強を不要または低減することができる。
【0017】
デッキスラブは、2つ以上の複数開口を有し、各開口の内法距離を330mm以上としてよい。図15に示すように内法距離tは、ある開口から次の開口までの距離である。
【0018】
デッキスラブは、D13未満の線径の開口補強筋を有してよい。
【0019】
デッキスラブは、開口補強筋を有しなくてよい。
【0020】
本発明に係るデッキスラブの施工方法は、デッキプレートを設置し、デッキプレート上にコンクリートを打設するデッキスラブの施工方法であって、開口幅が110mmより大きい開口を形成し、長期許容荷重に対し、実耐力の安全率を2.0より大きくする。
【0021】
このデッキスラブの施工方法によれば、上述のデッキスラブと同様の作用・効果を得ることができる。
【0022】
本発明に係るデッキスラブの施工方法は、上述のデッキスラブを設計するデッキスラブの設計方法であって、デッキプレートの降伏点を235N/mmより大きい値に設定してよい。デッキスラブに開口が形成されることで、断面係数が低下する。これに対し、デッキプレートの降伏点を高い値に設定することで、デッキスラブの断面係数の低下率をカバーすることができる。これにより、追加配筋などによる補強を不要とした状態で開口を設けることが可能となる。
【0023】
欠損範囲による発生荷重の低減を考慮してよい。デッキスラブに開口が形成されている場合、当該開口には荷重が作用しない。そのため、欠損範囲による発生荷重の低減を考慮することで、詳細な条件を考慮してデッキスラブを設計することができる。
【0024】
剛性低下の影響を実験及び解析により確認した低減係数を用いて設計してよい。この場合、剛性低下の影響について、実験及び解析を確認することで、詳細な条件を考慮してデッキスラブを設計することができる。
【0025】
剛性低下の影響を考慮する低減係数については、開口がない場合に対する、開口がある場合の剛性の比率で出してもよいし、要求剛性に対する、開口がある場合の剛性の比率で出してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの施工方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係るデッキスラブの平面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】試験結果を示すグラフである。
図6】試験結果を示す表である。
図7】耐力低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」のイメージを示す表である。
図8】耐力低下率を考慮する場合の「詳細評価方法」のイメージを示す表である。
図9】剛性低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」のイメージを示す表である。
図10】剛性低下率を考慮する場合の「詳細評価方法」のイメージを示す表である。
図11】「簡易評価方法」の実施例を示す表である。
図12】「簡易評価方法」の実施例を示す表である。
図13】変形例に係るデッキスラブを示す平面図である。
図14】変形例に係るデッキスラブを示す断面図である。
図15】変形例に係るデッキスラブを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係るデッキスラブ100の平面図である。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。図4は、図2のIV-IV線に沿った断面図である。図1に示すように、デッキスラブ100は、建物の構造床として提供される。デッキスラブ100は、水平方向に広がるように建物に設けられる。なお、各図には、「スパン方向D1」及び「幅方向D2」が設定されている。スパン方向D1は、後述のデッキプレート3が延びる方向であり、幅方向D2は、デッキプレート3の山部3aが並ぶ方向である。
【0030】
図2に示すように、デッキスラブ100は、デッキプレート3と、コンクリート4と、を備える。デッキスラブ100は、一対の梁材2によって支持される。
【0031】
図3に示すように、デッキプレート3は、幅方向D2に山部3aと谷部3bとを交互に有している。山部3aは、谷部3bの底面から上方へ向かって突出するように設けられる。複数の山部3aは、互いに幅方向D2に離間した状態で、スパン方向D1に互いに平行をなすように延びている。山部3aは、谷部3bの両側壁を構成する。
【0032】
コンクリート4は、デッキプレート3上に打設される。コンクリート4は、デッキプレート3の谷部3bの内部に充填された状態で、山部3aの上面よりも高い位置まで充填される。これにより、コンクリート4は、デッキプレート3の上方にて、スパン方向D1及び幅方向D2に広がる上面を有する。当該上面がデッキスラブ100の上面100aとなる。
【0033】
コンクリート4の内部には、ひび割れ拡大防止筋7が配置されている。ひび割れ拡大防止筋7は、スパン方向D1、及び幅方向D2に平行に広がる網部材である。ひび割れ拡大防止筋7は、山部3aと上面100aとの間に配置される。
【0034】
図2及び図4に示すように、デッキスラブ100には、厚さ方向に貫通する開口101が形成されている。開口101は、デッキスラブ100の上面100aからデッキプレート3の下面3cに至るまで上下方向に延びている。開口101においては、デッキプレート3、コンクリート4、及びひび割れ拡大防止筋7の全ての部材に対し、厚み方向に貫通する貫通孔が形成される。
【0035】
本実施形態では、開口101は、上下方向から見て長方形状(正方形状を含む)の形状を有している。開口101の大きさは特に限定されないが、110mm(ここでは一辺あたりの寸法)より大きい寸法を有して良く、150mm以上の寸法を有してよく、更に300mm以上の寸法を有してよい。また、開口101は大きさの上限は特に限定されないが、600mm以下であってよい。開口101は、四角柱状に形成された四つの内面101aを有する。各内面101aでは、コンクリート4の切断面、デッキプレート3の切断面が露出するような構成となっている。
【0036】
ここで、本実施形態に係るデッキスラブ100は、追加配筋などのような断面欠損による耐力不足を補うための部材を不要とするために、そもそもの長期許容荷重に対する実耐力の安全率を引き上げることで、追加配筋を不要としている。具体的に、デッキスラブ100は、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。耐力安全率は、「実耐力/長期許容荷重」で求められる。なお、長期許容荷重とは、前述の「デッキプレート床構造設計・施工規準」に基づいて、許容応力度設計により算出した長期の許容荷重である。
【0037】
ここで、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有するデッキスラブ100の性能について試験を行い確認を行った。開口を有さない通常のデッキスラブ(No.1 開口なし)と開口幅300mmの開口を設けた場合のデッキスラブ(No.2 □300mm開口あり)に対して、載荷試験を行って性能比較を行った。このとき、「No.2 □300mm開口」のデッキスラブの安全率は2.0に設定した。当該載荷試験では、支持スパン3000mmのデッキスラブを準備し、両端を下側から支持し、両端から1000mmの位置でそれぞれ上面に接触するように、デッキスラブの上面に荷重を載置した。このときの中央変位を測定した。試験体の幅は1200mmとし、端から開口までの寸法を450mmとした。このときの結果を図5に示す。また、設計値と得られた実験値との比較を行った結果を図6に示す。
【0038】
図5(a)に示すように、「No.2 □300mm開口」の仕様は、「No.1 開口なし」の仕様に対し、載荷初期から剛性が低い。しかし、図5(b)に示すように、長期許容荷重に至るまで、設計上のたわみ量(有効等価断面剛性)より、実験上のたわみ量が小さい結果となっている。このことから、300mmの開口を設けたデッキスラブでも、従来通りの設計が可能であると判断できる。
【0039】
図6に示すように、「No.1 開口なし」の仕様と比較して、「No.2 □300mm開口あり」の仕様では、実験値の最大荷重が低下している。具体的に、「No.1 開口なし」の最大荷重に対する「No.2 □300mm開口あり」の最大荷重の割合が0.91倍となっている。しかし、もともとの安全率が高い耐力を有しているため、「No.2 □300mm開口あり」の仕様においても、実験値が長期許容荷重の要求値を上まわっている。具体的に、安全率が2.0であるところ、「No.2 □300mm開口あり」の安全率(実験値/設計値)は、3.76となっている。
【0040】
以上より、デッキスラブ100の施工方法において、耐力低下率、及び剛性低下率を考慮した上で、耐力と剛性双方を許容値に対し満足させることで、開口による断面欠損が生じた場合でも、追加配筋などによる補強を不要とすることが可能となる。
【0041】
[耐力低下率(許容応力度設計)]
耐力低下率の考え方について、「簡易評価方法:開口上の積載荷重・固定荷重(床スラブの自重)を含む方法」、「詳細評価方法:開口上の積載荷重・固定荷重を含まない方法」の二通りの方法が挙げられる。
【0042】
耐力低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」について説明する。当該「簡易評価方法」では、デッキプレート3の降伏点を従来の設計上限値である235N/mmより大きい値に設定することで、断面係数Zの低下率をカバーし、追加配筋などによる補強を不要とした状態で開口を設けることが可能となる。「簡易評価方法」のイメージを図7に示す。図7に示すように、「開口あり」のモデルでは、「開口なし」の断面係数Zに開口率を掛け合わせた断面係数Z`を採用している。開口率は「(単位幅-開口幅)/単位幅」で定義される。「開口あり」のモデルでは、デッキプレート3の降伏点を235N/mmより大きい値に設定する。これにより、許容モーメントの算定式では、開口があることによる断面係数Z`の低下が、235N/mmより大きい降伏点の上昇によって補われる。
【0043】
耐力低下率を考慮する場合の「詳細評価方法」について説明する。床に開口を設けた場合、物理的にその開口エリアに荷重がかかることはなく、また欠損しているため固定荷重も小さくなる。ここで、開口欠損による発生荷重の低下率(有利側)及び断面係数の低下率(不利側)は、開口率に依存するため、トレードオフの関係となる。従って、「詳細評価方法」においてはデッキプレート3の降伏点を上昇させることなく、補強なしで開口を設けることができる。「詳細評価方法」のイメージを図8に示す。図8に示すように、断面係数Z`が開口の存在によって低下することで許容モーメントも低下するが、発生荷重も開口率がかけ合わせれられることで低下する。そのため、要否判断では、デッキプレート3の降伏点を上昇させなくとも、開口による断面係数の低下の影響を抑制できる。
【0044】
[剛性低下率]
剛性低下率の考え方について、「簡易評価方法:開口上の積載荷重を含む方法」、「詳細評価方法:開口上の積載荷重を含まない方法」の二通りの方法が挙げられる。
【0045】
剛性低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」について説明する。剛性低下率については、開口の位置・寸法により、FEM解析においてたわみ増大係数α(「開口なし」の場合に対する「開口あり」のたわみ量の上昇率)を算出し、その係数αを乗じた発生たわみ量δ´を求めて、許容値と対比する手順とする。「簡易評価方法」のイメージを図9に示す。上述のように、たわみ増大係数αを乗じた発生たわみ量δ´を許容たわみ量と比較している。
【0046】
剛性低下率を考慮する場合の「詳細評価方法」について説明する。「簡易評価方法」と同様に、FEM解析においてたわみ増大係数βを算出するが、「簡易評価方法」との違いは、開口上に積載荷重が発生しない点を考慮することである。これによりα>βとなり、たわみの増大量を精緻に評価することで、「詳細評価方法」は「簡易評価方法」よりも有利にたわみ量を評価可能である。「詳細評価方法」のイメージを図10に示す。上述のように、発生荷重において、開口を考慮して積載荷重を細分化している。
【0047】
次に、デッキスラブ100の好適な条件について説明する。デッキプレート3の高さは、50mm以上、120mm以下に設定される。デッキプレート3の板厚は、1.0mm以上、1.6mm以下に設定される。コンクリートの山上厚は50mm以上、100mm以下で設定される。引張側断面係数の値は、50cm/m以上、550cm/m以下に設定される。圧縮側断面係数の値は、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定される。断面二次モーメントの値は、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定される。
【0048】
次に、上述の設計方法の評価結果について説明する。耐力低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」、及び剛性低下率を考慮する場合の「簡易評価方法」によって設計を行ったデッキスラブの条件、及び評価結果を図11図12に示す。図11は、最小断面のデッキスラブを設計した実施例1及び比較例1の結果を示し、図12は、最大断面のデッキスラブを設計した実施例2及び比較例2の結果を示す。実施例1,2では、デッキプレートの降伏耐力(降伏点)を235N/mmより大きい280N/mmに設定した。実施例1,2では、当該条件にて、開口ありのデッキスラブ、及び開口なしのデッキスラブを設計した。比較例1,2では、デッキプレートの降伏耐力(降伏点)を235N/mmに設定した。比較例1,2では、当該条件にて、開口ありのデッキスラブ、及び開口なしのデッキスラブを設計した。また比較例1,2、及び実施例1,2の開口ありのデッキスラブについては、FEM解析で確認したたわみ増大係数1.17を使用して剛性を評価した。図11及び図12に示すように、実施例1,2では開口なしのデッキスラブも開口ありのデッキスラブも「OK」と判定されたが、比較例1,2では開口ありのデッキスラブが「NG」となっている。
【0049】
次に、本実施形態に係るデッキスラブ100、及びデッキスラブ100の施工方法の作用効果について説明する。
【0050】
本実施形態に係るデッキスラブ100は、デッキプレート3、及びデッキプレート3上に打設されたコンクリート4を有する。ここで、デッキスラブ100は、開口幅が110mmより大きい開口101を有する。デッキスラブ100が、このように大きいサイズの開口101を有する場合、従来、開口101の近傍にD13以上の追加配筋等を設けて補強を行っていた。これに対し、本実施形態に係るデッキスラブ100は、開口幅が110mmより大きい開口101を有していても、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。このようにデッキスラブ100の安全率を高めることで、大きな開口101が形成されていても、必要な耐力等を確保することができる。従って、追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができる。これにより、鋼材使用量、及び設計、施工の手間を低減できる。
【0051】
開口101の開口幅が300mm以下であってよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0052】
デッキプレート3の高さは、50mm以上、120mm以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0053】
デッキプレート3の板厚は、1.0mm以上、1.6mm以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0054】
デッキプレート3上のコンクリート山上厚は、50mm以上、100mm以下に設定されてよい。またコンクリート山上厚が大きいことでせん断付着破壊が先行し、破壊モードが変わる可能性があることから、50mm以上、85mm以下に設定するとなおよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0055】
引張側断面係数の値は、50cm/m以上、550cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0056】
圧縮側断面係数の値は、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0057】
断面二次モーメントの値は、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定されてよい。当該範囲とすることで、本実施形態の構造を採用することで、開口101の補強を不要または低減することができる。
【0058】
デッキスラブ100は、2つ以上の複数開口を有し、各開口の内法距離tを330mm以上としてよい。各開口の内法距離tは450mm以上だとなおよい。図15に示すように内法距離tは、ある開口から次の開口までの距離である。互いに隣り合う開口101,101が形成されている場合、一方の開口101と隣の開口101との間の距離が内法距離tとなる。あるいは開口101とデッキスラブ100の端部との間の距離が内法距離tとなる。
【0059】
デッキスラブ100は、D13未満の線径の開口補強筋を有してよい。
【0060】
デッキスラブ100は、開口補強筋を有しなくてよい。
【0061】
本実施形態に係るデッキスラブ100の施工方法は、デッキプレート3を設置し、デッキプレート3上にコンクリート4を打設するデッキスラブ100の施工方法であって、開口幅が110mmより大きい開口101を形成し、長期許容荷重に対し、実耐力の安全率を2.0より大きくする。
【0062】
このデッキスラブ100の施工方法によれば、上述のデッキスラブ100と同様の作用・効果を得ることができる。
【0063】
デッキプレート3の降伏点を235N/mmより大きい値に設定してよい。デッキスラブ100に開口101が形成されることで、断面係数が低下する。これに対し、デッキプレート3の降伏点を高い値に設定することで、断面係数の低下率をカバーすることができる。これにより、追加配筋などによる補強を不要とした状態で開口を設けることが可能となる。
【0064】
欠損範囲による発生荷重の低減を考慮してよい。デッキスラブ100に開口101が形成されている場合、当該開口101には荷重が作用しない。そのため、欠損範囲による発生荷重の低減を考慮することで、詳細な条件を考慮してデッキスラブ100を設計することができる。
【0065】
剛性低下の影響を実験及び解析により確認した低減係数を用いて設計してよい。この場合、剛性低下の影響について、実験及び解析で確認することで、詳細な条件を考慮してデッキスラブ100を設計することができる。
【0066】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0067】
例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、デッキプレートの形状は適宜変更されてよい。また、コンクリート内部に配置される鉄筋も適宜変更してよい。
【0068】
また、開口の形状は特に限定されない。例えば、図13に示すようなデッキスラブ200を採用してよい。このデッキスラブ200は、上下方向から見て円形の開口201を有する。その他、開口は、他の多角形状であってよい。
【0069】
従来のデッキスラブとして、デッキ合成スラブ、デッキ複合スラブ等が知られている。デッキ合成スラブは、特許文献1に記載されたものが知られている。このデッキ合成スラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、を備え、スラブに発生する圧縮力はコンクリートが、引張力にはデッキプレートが抵抗する構造となっている。デッキ複合スラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、引張鉄筋と、を備え、スラブに発生する圧縮力はコンクリートが、引張力には引張鉄筋が抵抗する構造となっている。
【0070】
デッキプレートの種類も上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、図14に示すようなデッキプレート3を採用してもよい。図14に示すデッキプレート3は、略平面上の底壁部を有しており、当該底壁部から所定の間隔にて、上方へ突出する山部3aが形成される。
【符号の説明】
【0071】
3…デッキプレート、4…コンクリート、100,200…デッキスラブ、101,201…開口。
【要約】
【課題】追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができるデッキスラブ、デッキスラブの施工方法、及びデッキスラブの設計方法を提供する。
【解決手段】デッキスラブ100は、デッキプレート3、及びデッキプレート3上に打設されたコンクリート4を有する。ここで、デッキスラブ100は、開口幅が110mmより大きい開口101を有する。デッキスラブ100が、このように大きいサイズの開口101を有する場合、従来、開口101の近傍に追加配筋等を設けて補強を行っていた。これに対し、本実施形態に係るデッキスラブ100は、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。このようにデッキスラブ100の安全率を高めることで、大きな開口101が形成されていても、耐力等を確保することができる。従って、追加配筋等の開口の補強を不要または低減することができる。
【選択図】図4
図1
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図15