(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】レーザ光照射装置及びレーザ光照射方法
(51)【国際特許分類】
F41G 3/26 20060101AFI20221111BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20221111BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20221111BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20221111BHJP
F41H 13/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
F41G3/26 A
G01W1/00 Z
H01S3/00 G
H01S3/10 Z
F41H13/00
(21)【出願番号】P 2018138536
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591114803
【氏名又は名称】公益財団法人レーザー技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】岩清水 優
(72)【発明者】
【氏名】醍醐 浩之
(72)【発明者】
【氏名】西方 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】益川 一範
(72)【発明者】
【氏名】落合 敦司
(72)【発明者】
【氏名】戎崎 俊一
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 慶之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真幸
(72)【発明者】
【氏名】本越 伸二
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0069927(US,A1)
【文献】米国特許第8218589(US,B1)
【文献】特開2016-042550(JP,A)
【文献】特開2017-157737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41G 3/26
G01W 1/00
H01S 3/00
H01S 3/10
F41H 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を観測して観測情報を取得する対象観測装置と、
将来の或る時刻について、前記或る時刻において対象が移動することが予測される
複数の移動予測位置を算出する制御装置と、
伝送レーザ光を生成する伝送レーザ光源と、
前記伝送レーザ光を前記対象に向けて出射し、前記移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射するように構成された照射光学系と、
波面補正光学系
とを具備
し、
前記制御装置は、
前記探索レーザ光が前記複数の移動予測位置のそれぞれに向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて前記複数の移動予測位置のそれぞれについて波面補正データを算出し、
前記観測情報に基づいて前記或る時刻における前記対象の位置を特定し、
前記特定された前記対象の位置と前記複数の移動予測位置のそれぞれについて算出された波面補正データとから、前記或る時刻における前記伝送レーザ光の波面の補正に実際に用いられる波面補正データを決定し、
前記波面補正光学系は、前記或る時刻において、決定された前記波面補正データに基づいて前記伝送レーザ光の波面を補正する
レーザ光照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ光照射装置であって、
更に、前記伝送レーザ光源と別に設けられた、前記探索レーザ光を生成する探索レーザ光源を備えている
レーザ光照射装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ光照射装置であって、
前記探索レーザ光が、前記伝送レーザ光と異なる波長を有している
レーザ光照射装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のレーザ光照射装置であって、
前記伝送レーザ光源によって生成された前記伝送レーザ光が前記対象に向けて出射されているときに、前記探索レーザ光源によって生成された前記探索レーザ光が前記移動予測位置に向けて出射される
レーザ光照射装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザ光照射装置であって、
前記
或る時刻における前記伝送レーザ光の波面の補正に用いられる前記観測光を生じさせる前記探索レーザ光が、前記
或る時刻より前に前記移動予測位置に向けて照射される
レーザ光照射装置。
【請求項6】
将来の特定時刻において対象が移動することが予測される少なくとも一の移動予測位置を算出する制御装置と、
伝送レーザ光を生成する伝送レーザ光源と、
前記伝送レーザ光を前記対象に向けて出射し、前記移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射するように構成された照射光学系と、
前記探索レーザ光が前記移動予測位置に向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて、前記特定時刻において前記伝送レーザ光の波面を補正するように構成された波面補正光学系と、
気象を示す気象情報を取得する気象計
とを備え、
前記伝送レーザ光の波面が、前記気象情報に基づいて補正される
レーザ光照射装置。
【請求項7】
将来の或る時刻について、前記或る時刻において対象が移動することが予測される
複数の移動予測位置を算出することと、
前記
複数の移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射することと、
伝送レーザ光を前記対象に向けて出射することと、
前記
或る時刻において前記伝送レーザ光の波面を補正すること
とを具備
し、
前記伝送レーザ光の波面を補正することは、
前記探索レーザ光が前記複数の移動予測位置のそれぞれに向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて前記複数の移動予測位置のそれぞれについて波面補正データを算出することと、
前記対象を観測して前記或る時刻における前記対象の位置を特定することと、
前記特定された前記対象の位置と前記複数の移動予測位置のそれぞれについて算出された波面補正データとから、前記或る時刻における前記伝送レーザ光の波面の補正に実際に用いられる波面補正データを決定することと、
前記或る時刻において、決定された前記波面補正データに基づいて前記伝送レーザ光の波面を補正すること
とを含む
レーザ光照射方法。
【請求項8】
請求項
7に記載のレーザ光照射方法であって、
前記伝送レーザ光が前記対象に向けて出射されているときに、前記探索レーザ光が前記移動予測位置に向けて出射される
レーザ光照射方法。
【請求項9】
将来の特定時刻において対象が移動することが予測される少なくとも一の移動予測位置を算出することと、
前記移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射することと、
伝送レーザ光を前記対象に向けて出射することと、
気象を示す気象情報を取得することと、
前記探索レーザ光が前記移動予測位置に向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて、前記特定時刻において前記伝送レーザ光の波面を補正すること
とを具備し、
前記伝送レーザ光の波面が、前記気象情報に基づいて補正される
レーザ光照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光照射装置及びレーザ光照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光照射装置によって遠くに存在する対象(target)にレーザ光を照射する場合、レーザ光は、大気の揺らぎの影響を受ける。例えば、大気の揺らぎによってレーザ光の波面が乱されると、レーザ光は、光路が曲がったり拡散したりすることがある。
【0003】
レーザ光の波面を補正することは、大気の揺らぎの影響を低減するために有効である(特開2011-185567号公報参照)。このような技術は、補償光学と呼ばれることがある。補償光学については、下記のウェブサイトにも開示されている。
https://www.subarutelescope.org/Introduction/instrument/AO.html
【0004】
レーザ光を照射すべき対象は、高速に移動することがある。高速に移動する対象に対しても確実にレーザ光を照射することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】https://www.subarutelescope.org/Introduction/instrument/AO.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、高速に移動する対象に対して確実にレーザ光を照射するための技術を提供することにある。本発明の他の目的及び新規な特徴は、以下の開示から当業者には理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、「発明を実施するための形態」で使用される符号を付しながら、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、「特許請求の範囲」の記載と「発明を実施するための形態」との対応関係の一例を示すために付加されたものである。
【0009】
本発明の一の観点では、レーザ光照射装置(100、100A)が、将来の特定時刻において対象(10)が移動することが予測される少なくとも一の移動予測位置を算出する制御装置(6)と、伝送レーザ光を生成する伝送レーザ光源(11)と、伝送レーザ光を対象(10)に向けて出射し、該移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射するように構成された照射光学系(5)と、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて、特定時刻において伝送レーザ光の波面を補正するように構成された波面補正光学系(12)とを具備している。
【0010】
一実施形態では、当該レーザ光照射装置(100)が、更に、伝送レーザ光源(11)と別に設けられた、探索レーザ光を生成する探索レーザ光源(13)を備えていてもよい。このような構成では、伝送レーザ光源(11)によって生成された伝送レーザ光が対象(10)にむけて出射されているときに、探索レーザ光源(13)によって生成された探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射可能である。このような動作では、探索レーザ光は、伝送レーザ光と異なる波長を有していることが好ましい。
【0011】
一実施形態では、特定時刻における伝送レーザ光の波面の補正に用いられる観測光を生じさせる探索レーザ光が、特定時刻より前に移動予測位置に向けて照射される。
【0012】
一実施形態では、複数の移動予測位置が予測される。この場合、一実施形態では、制御装置(6)は、探索レーザ光が複数の移動予測位置のそれぞれに向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて複数の移動予測位置のそれぞれについて波面補正データを算出し、対象(10)を観測する対象観測装置によって得られた観測情報に基づいて特定時刻における対象(10)の位置を特定し、特定された対象(10)の位置と複数の移動予測位置のそれぞれについて算出された波面補正データとから、該特定時刻における伝送レーザ光の波面の補正に実際に用いられる波面補正データを決定する。この場合、波面補正光学系(12)は、該特定時刻において、決定された波面補正データに基づいて伝送レーザ光の波面を補正する。
【0013】
一実施形態では、当該レーザ光照射装置(100、100A)が、更に、気象を示す気象情報を取得する気象計(2)を備えている。この場合、伝送レーザ光の波面が、気象情報に基づいて補正されてもよい。
【0014】
本発明の他の観点では、レーザ光照射方法が、将来の特定時刻において対象(10)が移動することが予測される少なくとも一の移動予測位置を算出することと、移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射することと、伝送レーザ光を対象(10)に向けて出射することと、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて、特定時刻において伝送レーザ光の波面を補正することとを具備する。
【0015】
一実施形態では、伝送レーザ光が対象(10)にむけて出射されているときに、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射される。
【0016】
一実施形態では、複数の移動予測位置が予測される。この場合、伝送レーザ光の波面を補正することは、探索レーザ光が複数の移動予測位置のそれぞれに向けて出射されているときに返ってくる観測光に応じて複数の移動予測位置のそれぞれについて波面補正データを算出することと、対象(10)を観測して特定時刻における対象(10)の位置を特定することと、特定された対象(10)の位置と複数の移動予測位置のそれぞれについて算出された波面補正データとから、特定時刻における伝送レーザ光の波面の補正に実際に用いられる波面補正データを決定することと、特定時刻において、決定された波面補正データに基づいて伝送レーザ光の波面を補正することとを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速に移動する対象に対して確実にレーザ光を照射するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態におけるレーザ光照射装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態におけるレーザ光照射装置の動作の手順を示すフローチャートである。
【
図3】複数の移動予測位置が算出される動作を説明する図である。
【
図4】他の実施形態におけるレーザ光照射装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、一実施形態におけるレーザ光照射装置100の構成を示すブロック図である。レーザ光照射装置100は、伝送レーザ光を対象10に照射するように構成されている。レーザ光照射装置100が対象10の破壊に用いられる場合には、高出力の伝送レーザ光が対象10に照射されてもよい。また、レーザ光照射装置100が対象10との光通信に用いられる場合、通信データに応じて変調された伝送レーザ光が対象10に照射されてもよい。
【0020】
本実施形態のレーザ光照射装置100は、対象10の移動に応じて伝送レーザ光の波面を適切に補正できるように構成されている。具体的には、レーザ光照射装置100は、対象10が将来の時刻tkにおいて移動すると予測される位置である移動予測位置を予測し、該移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射する。レーザ光照射装置100は、探索レーザ光を出射しているときにレーザ光照射装置100に返ってくる観測光から、レーザ光照射装置100と移動予測位置との間の光路における大気の揺らぎの情報を取得する。移動予測位置に向けて探索レーザ光を出射すると、大気における光散乱によって後方散乱光が生成されるので、その後方散乱光が観測光として使用可能である。また、対象10の大きさが十分に大きく、探索レーザ光が対象10によって反射される場合には、反射光が観測光として使用可能である。レーザ光照射装置100は、当該時刻tkにおいて、観測光に含まれる大気の揺らぎの情報に応じて波面を補正した伝送レーザ光を、対象10に向けて出射する。このような動作によれば、対象10が高速に移動している場合でも、伝送レーザ光の波面を適切に補正し、対象10に伝送レーザ光を照射する確実性を向上することができる。以下、レーザ光照射装置100の構成と動作について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態では、レーザ光照射装置100が、対象観測装置1と、気象計2と、伝送レーザ光生成部3と、大気揺らぎ観測部4と、照射光学系5と、制御装置6とを備えている。
【0022】
対象観測装置1は、大気中を移動する対象10を観測して、対象10の動きを示す観測情報を取得する。観測情報は、例えば、対象10の現在位置、移動速度、移動方向を含んでいてもよい。対象観測装置1は、レーダやカメラなどを備えていてもよい。
【0023】
気象計2は、気象を示す気象情報を取得する。気象情報は、例えば、風速、風向、気温、湿度を示す情報を含んでいてもよい。
【0024】
伝送レーザ光生成部3は、対象10に照射する伝送レーザ光を生成する。伝送レーザ光を対象10に照射する目的が対象10の破壊にある場合には、伝送レーザ光生成部3は、高出力の伝送ビームを生成可能に構成される。
【0025】
本実施形態では、伝送レーザ光生成部3が、伝送レーザ光源11と波面補正光学系12とを備えている。伝送レーザ光源11は、レーザ発振器を備えており、伝送レーザ光を生成する。波面補正光学系12は、伝送レーザ光源11から受け取った伝送レーザ光の波面を補正する。波面補正光学系12は、制御装置6から受け取った波面補正データに応じて伝送レーザ光の波面を補正するように構成されている。ここで、波面補正データは、伝送レーザ光の波面をどのように補正すべきかを示すデータである。波面補正光学系12は、例えば、反射面の形状が可変である形状可変ミラーを備えていてもよい。この場合、形状可変ミラーの反射面の形状が、波面補正データに応じて制御される。波面補正光学系12によって波面が補正された伝送レーザ光が、照射光学系5に供給される。
【0026】
大気揺らぎ観測部4は、大気の揺らぎの観測に用いられる探索レーザ光を生成すると共に、探索レーザ光を照射光学系5から出射したときに大気から得られる観測光に基づいて大気の揺らぎを観測するように構成されている。本実施形態では、大気揺らぎ観測部4が、探索レーザ光源13と、ハーフミラー14、波面センサ15とを備えている。探索レーザ光源13は、探索レーザ光を生成する。ハーフミラー14は、生成された探索レーザ光を反射して照射光学系5に供給すると共に、照射光学系5から受け取った観測光を通過させて波面センサ15に供給する。波面センサ15は、観測光の波面を検出し、観測光の波面の状態を示す波面センサ出力を生成する。
【0027】
照射光学系5は、伝送レーザ光生成部3によって生成された伝送レーザ光を対象10に向けて出射する。照射光学系5は、更に、大気揺らぎ観測部4によって生成された探索レーザ光を出射すると共に、探索レーザ光を出射している間に大気から得られる観測光を大気揺らぎ観測部4に出射する。
【0028】
本実施形態では、照射光学系5は、ハーフミラー16と、鏡筒部17とを備えている。ハーフミラー16は、伝送レーザ光生成部3から入射された伝送レーザ光を通過させて鏡筒部17に入射するように構成されている。加えて、ハーフミラー16は、大気揺らぎ観測部4から入射された探索レーザ光を反射して鏡筒部17に入射すると共に、鏡筒部17から出射された観測光を反射して大気揺らぎ観測部4に供給する。鏡筒部17は、伝送レーザ光と探索レーザ光とを所望の方向に出射し、更に、所望の方向の観測光を受光することができるように構成されている。
【0029】
制御装置6は、伝送レーザ光を対象10に照射する上で必要となるデータ処理を行うと共に、レーザ光照射装置100全体の制御を行う。一実施形態では、制御装置6は、以下のように動作する。まず、制御装置6は、対象観測装置1によって得られた観測情報に基づいて対象10の将来の時刻における移動予測位置を算出する。また、制御装置6は、探索レーザ光を移動予測位置に向けて出射するように探索レーザ光源13と照射光学系5を制御する。更に、制御装置6は、観測光に応じて波面センサ15が出力する波面センサ出力に基づいて、波面補正光学系12に供給すべき波面補正データを生成する。波面補正データは、波面センサ出力に加え、気象計2によって得られた気象情報に基づいて生成されてもよい。更に制御装置6は、所望の方向に伝送レーザ光を出射するように伝送レーザ光源11と照射光学系5とを制御する。
【0030】
図2は、レーザ光照射装置100の動作の手順を示すフローチャートである。
【0031】
ステップS01では、対象観測装置1によって取得された観測情報に基づいて、将来の時刻tkにおいて対象10が移動することが予測される位置、即ち、時刻tkにおける移動予測位置が制御装置6によって算出される。対象観測装置1がレーダを含んでいる場合、レーダによって得られた対象10の現在位置、移動速度及び移動方向に基づいて時刻tkにおける移動予測位置が算出されてもよい。また、対象観測装置1がカメラを含んでいる場合、カメラによって得られた撮像画像から対象10の現在位置、移動速度及び移動方向が算出され、更に、時刻tkにおける移動予測位置が算出されてもよい。
【0032】
続いて、ステップS02では、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射される。制御装置6による制御の下、探索レーザ光源13によって探索レーザ光が生成され、更に、鏡筒部17が、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射されるように操作される。
【0033】
ステップS03では、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射されている間に鏡筒部17に返ってくる観測光が波面センサ15によって受光される。観測光の波面形状に応じた波面センサ出力が、波面センサ15から出力される。観測光の波面は、レーザ光照射装置100と移動予測位置との間の大気の揺らぎの情報を含んでいるので、波面センサ出力は、大気の揺らぎの情報を含んでいる。
【0034】
ステップS04では、波面センサ15から出力される波面センサ出力に基づいて、時刻tkにおいて波面の補正に用いられる波面補正データが算出される。波面センサ出力を参照することにより、レーザ光照射装置100と移動予測位置との間の大気の揺らぎに応じた波面補正データが算出可能である。波面補正データの算出においては、気象計2によって得られた気象情報を参照してもよい。一実施形態では、気象情報は、大気の状態を示す情報、例えば、風速、風向、気温及び湿度を示す情報として取得される。取得された気象情報に基づいて大気の揺らぎの時間変化が制御装置6によって予想され、その予測に応じて波面補正データが算出されてもよい。気象情報に基づいて波面補正データを算出することで、波面の補正の精度を向上できる。
【0035】
ステップS05では、時刻tkにおいて、ステップS04で算出された波面補正データに応じて伝送レーザ光の波面を補正しながら伝送レーザ光が対象10に向けて出射される。対象10への伝送レーザ光の照射を開始する時刻は、時刻tkであってもよいし、時刻tkよりも前であってもよい。対象10への伝送レーザ光の照射を開始する時刻が時刻tkよりも前である場合、対象10を追尾しながら伝送レーザ光が対象10に照射される。この場合にも、少なくとも時刻tkにおいてはステップS04で算出された波面補正データに応じて伝送レーザ光の波面が補正される。
【0036】
時刻tkよりも後の時刻tk+1、tk+2・・・における伝送レーザ光の波面の補正も同様にして行われる。ここで、時刻tk+1における伝送レーザ光の波面の補正のための探索レーザ光の出射は、それよりも前の時刻tkにおける伝送レーザ光の出射と並行して行われてもよい。具体的には、時刻tkにおいて、伝送レーザ光は、時刻tkにおける移動予測位置に向けて出射され、探索レーザ光は、時刻tk+1における移動予測位置に向けて出射されてもよい。本実施形態では、伝送レーザ光と探索レーザ光とが、それぞれ、伝送レーザ光源11、探索レーザ光源13によって別々に生成されるので、伝送レーザ光の出射と並行して探索レーザ光を出射可能である。
【0037】
一実施形態では、探索レーザ光は、伝送レーザ光の波長と異なる波長を有していてもよい。探索レーザ光が伝送レーザ光の波長と異なる波長を有していることで、探索レーザ光と伝送レーザ光の分離が容易になる。例えば、鏡筒部17は、波長の差を利用して、探索レーザ光を伝送レーザ光と異なる方向に出射可能であるように構成されてもよく、ハーフミラー16は、波長の差を利用して、観測光を選択的に大気揺らぎ観測部4に供給するように構成されてもよい。
【0038】
本実施形態のレーザ光照射装置100は、高速に移動する対象10について伝送レーザ光の波面を適正に補正できるという利点がある。従来の補償光学による手法をそのまま適用する場合、伝送レーザ光が対象10によって反射されて生成される反射光から大気の揺らぎの情報を取得し、その大気の揺らぎの情報に基づいて伝送レーザ光の波面が補正される。しかしながら、このような手法では、大気の揺らぎの情報を取得した時刻から波面の補正を実際に行う時刻までにタイムラグが不可避的に存在するので、対象10が移動することにより、大気の揺らぎの情報を得た光路と、波面が補正された伝送レーザ光が出射される光路とが相違することになる。これは、波面の補正の精度を低下させる。一方、本実施形態のレーザ光照射装置100では、大気の揺らぎの情報を得た光路と、波面が補正された伝送レーザ光が出射される光路とを一致させることができるので、対象10が高速に移動する場合でも、伝送レーザ光の波面を適正に補正することができる。
【0039】
加えて、本実施形態のレーザ光照射装置100は、レーザ光照射装置100に含まれる各装置の応答速度の要求を緩和できるという利点がある。本実施形態のレーザ光照射装置100の動作は、探索レーザ光の出射及び観測光の受光から、伝送レーザ光の波面を実際に補正するまでの時間的猶予を確保することができる。これは、レーザ光照射装置100に含まれる各装置、具体的には、波面センサ15、制御装置6及び波面補正光学系12の応答速度に対する要求を緩和できることを意味している。
【0040】
図3に図示されているように、ステップS01において、複数の移動予測位置が算出され、そのそれぞれについて大気の揺らぎの情報が取得されてもよい。
図3には、N個の移動予測位置#1~#Nが算出される例が示されている。ここで、Nは、2以上の整数である。
【0041】
この場合、ステップS02では、探索レーザ光が、移動予測位置#1~#Nのそれぞれに向けて出射され、更に、ステップS04では、レーザ光照射装置100に返ってくる観測光に基づいて移動予測位置#1~#Nのそれぞれについて波面補正データが算出される。ここで、移動予測位置#iについて算出される波面補正データは、探索レーザ光が移動予測位置#iに向けて出射されたときに返ってくる観測光に基づいて算出される。ここで、iは、1以上N以下の整数である。
【0042】
ステップS05では、時刻tkにおける対象10の位置が対象観測装置1によって得られた観測情報に基づいて特定され、特定された対象10の位置に応じて、波面の補正に実際に用いられる波面補正データが、移動予測位置#1~#Nのそれぞれについて算出された波面補正データから決定される。一実施形態では、移動予測位置#1~#Nのうちから、時刻tkにおける対象10の位置に最も近い移動予測位置が選択され、その移動予測位置について算出された波面補正データが、時刻tkにおける波面の補正に用いられてもよい。他の実施形態では、時刻tkにおける対象10の位置に近い複数の移動予測位置が選択され、該複数の移動予測位置について算出された波面補正データの内挿によって波面の補正に実際に用いられる波面補正データが算出されてもよい。
【0043】
このようにして波面補正データを算出することにより、対象10の移動方向や速度の変化に応じて適切に伝送レーザ光の波面を補正することができる。
【0044】
図4は、他の実施形態におけるレーザ光照射装置100Aの構成を示すブロック図である。本実施形態では、探索レーザ光源13とハーフミラー14とは設けられず、伝送レーザ光源11によって同一波長の探索レーザ光と伝送レーザ光とが時分割で生成される。
【0045】
図4の構成のレーザ光照射装置100Aにおいても、探索レーザ光と伝送レーザ光とが時分割で生成されることを除き、
図2に示された手順と類似の手順で伝送レーザ光が対象10に照射される。
【0046】
ステップS01では、時刻tkにおける移動予測位置が算出され、ステップS02では、伝送レーザ光源11によって生成された探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射される。ステップS03では、探索レーザ光が移動予測位置に向けて出射されている間に鏡筒部17に返ってくる観測光が波面センサ15によって受光される。
【0047】
ステップS04では、波面センサ15から出力される波面センサ出力に基づいて、時刻tkにおいて波面の補正に用いられる波面補正データが算出される。ステップS05では、時刻tkにおいて、ステップS04で算出された波面補正データに応じて伝送レーザ光の波面を補正しながら伝送レーザ光が対象10に向けて出射される。
【0048】
図4のレーザ光照射装置100Aの構成は、探索レーザ光を生成する専用の光源が不要であり、装置の規模を小さくできる。
図4の構成は、伝送レーザ光を連続して対象10に照射することが求められない用途、例えば、光通信において有用である。
【0049】
以上には、本発明の実施形態が具体的に記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明が種々の変更と共に実施され得ることは、当業者には理解されよう。また、本明細書に開示された実施形態は、技術的な矛盾が無い限り、組み合わせて実施可能であることに留意されたい。
【符号の説明】
【0050】
100、100A:レーザ光照射装置
1 :対象観測装置
2 :気象計
3 :伝送レーザ光生成部
4 :大気揺らぎ観測部
5 :照射光学系
6 :制御装置
10 :対象
11 :伝送レーザ光源
12 :波面補正光学系
13 :探索レーザ光源
14 :ハーフミラー
15 :波面センサ
16 :ハーフミラー
17 :鏡筒部