IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 大分大学の特許一覧 ▶ 学校法人加計学園の特許一覧

<>
  • 特許-窒化処理装置 図1
  • 特許-窒化処理装置 図2
  • 特許-窒化処理装置 図3
  • 特許-窒化処理装置 図4
  • 特許-窒化処理装置 図5
  • 特許-窒化処理装置 図6
  • 特許-窒化処理装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】窒化処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/24 20060101AFI20221111BHJP
   C23C 8/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C23C8/24
C23C8/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017087536
(22)【出願日】2017-04-26
(65)【公開番号】P2018184644
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-04-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市來 龍大
(72)【発明者】
【氏名】金澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】永島 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】崔 源煥
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111821(JP,A)
【文献】特開2007-80676(JP,A)
【文献】特開昭60-211061(JP,A)
【文献】特開2013-23769(JP,A)
【文献】特開平7-53298(JP,A)
【文献】特開2015-71811(JP,A)
【文献】特開2014-1414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-12/02
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマを発生させて先端ノズルから噴出させるプラズマジェット発生部と、
前記プラズマジェット発生部の先端部に取り付けられた局所密閉カバーと、
前記局所密閉カバー内を減圧する真空排気部とを備え、
前記局所密閉カバーは、前記先端ノズルが貫通する天板と、前記先端ノズルを囲む側壁と、前記天板と反対側の開口端とを有する筒状であり、被処理物又は前記被処理物を裁置した板体に前記開口端を当接させることにより、内部を10Pa以下に減圧可能な密閉空間を形成し、
前記被処理物の被処理位置における温度を400℃以上、550℃以下の状態に制御して処理を行う、鋼材を窒化処理する窒化処理装置。
【請求項2】
前記局所密閉カバーは、前記被処理物又は前記板体の表面と接する部分に設けられたシール部材を有している、請求項1に記載の窒化処理装置。
【請求項3】
前記局所密閉カバーの開口部は、前記被処理物の表面によって閉じられている、請求項1又は2に記載の窒化処理装置。
【請求項4】
前記局所密閉カバーを冷却する冷却機構をさらに備えている、請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化処理装置。
【請求項5】
前記被処理物の被処理位置における温度は、プラズマジェットの照射により所定の範囲に制御する、請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化処理装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化処理装置を用い、
前記密閉空間を10Pa以下に減圧する工程と、
前記減圧する工程よりも後に、前記プラズマジェット発生部により窒素の大気圧プラズマを発生させて、前記被処理物の前記局所密閉カバーに覆われた部分に窒素原子を導入する工程とを備えている、鋼材の窒化処理方法。
【請求項7】
前記減圧する工程と、前記窒素原子を導入する工程との間に、前記プラズマジェット発生部に不活性ガスを供給し、前記密閉空間を減圧した状態でプラズマを発生させ、前記被処理物の表面をクリーニングする工程をさらに備えている、請求項6に記載の窒化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は窒化処理装置及び窒化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物に窒素原子を固溶させることにより鋼材等を硬化する窒化処理は、被処理物の耐摩耗性、疲労強度及び耐食性等を向上させる。このため、金型、エンジンの摺動部及び切削工具等の分野において重要な技術となっている。
【0003】
窒化処理には幾つかの方法が知られているが、プラズマを用いたプラズマ窒化法は、短時間で窒化処理をすることができるという利点を有している。しかし、一般的なプラズマ窒化は低圧プラズマを用いているため、真空容器を必要とする。このため大きな対象物を窒化処理するためには大きな真空容器を有する大がかりな装置が必要となる。また、被処理物の一部分を局所的に処理するような用途には不向きである。真空容器を用いずに、プラズマ窒化を行う方法として、大気圧プラズマを用いる方法が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-111821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法においては、雰囲気中の酸素等の影響を非常に大きく受け、安定した窒化処理ができない。プラズマジェットの周りにカバーを設け、陽圧状態とする方法も検討されているが、このような方法を用いたとしても、窒化処理を安定させることは困難である。
【0006】
本開示の課題は、大気圧プラズマにより安定した窒化処理をできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の窒化処理装置の一態様は、大気圧プラズマを発生させるプラズマジェット発生部と、プラズマジェット発生部の先端部に取り付けられた局所密閉カバーとを備え、局所密閉カバーは、被処理物又は被処理物を裁置した板体と共に、内部を減圧可能な密閉空間を形成する。
【0008】
窒化処理装置の一態様において、局所密閉カバーは、被処理物又は板体の表面と接する部分に設けられたシール部材を有していてもよい。
【0009】
窒化処理装置の一態様において、局所密閉カバーの開口部は、被処理物の表面によって閉じられていてもよい。
【0010】
本開示の窒化処理方法は、本開示の窒化処理装置を用い、密閉空間を減圧する工程と、減圧する工程よりも後に、プラズマジェット発生部により窒素の大気圧プラズマを発生させて、被処理物の局所密閉カバーに覆われた部分に窒素原子を導入する工程とを備えている。
【0011】
窒化処理方法の一態様は、減圧する工程と、窒素原子を導入する工程との間に、プラズマジェット発生部に不活性ガスを供給し、密閉空間を減圧した状態でプラズマを発生させ、被処理物の表面をクリーニングする工程をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の、窒化処理装置によれば、大気圧プラズマにより安定した窒化処理をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る窒化処理装置を示す断面図である。
図2】局所密閉カバーの変形例を示す断面図である。
図3】局所密閉カバーの変形例を示す断面図である。
図4】冷却機構の一例を示す断面図である。
図5】遮熱板の一例を示す断面図である。
図6】酸素の深さ方向の分布を示すグラフである。
図7】硬度の深さ方向の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本実施形態の窒化処理装置は、大気圧プラズマを発生させるプラズマジェット発生部101と、プラズマジェット発生部101の先端部に取り付けられ、被処理物150の少なくとも一部を覆うことができる局所密閉カバー102とを備えている。局所密閉カバー102は、プラズマジェット発生部101と反対側に開口部を有し、開口部は被処理物150の表面によって閉じられており、局所密閉カバー102と被処理物とにより密閉された空間170が形成されている。空間170には、バルブ133及び真空ポンプ132を有する真空排気部131が接続されており、空間170の内部を減圧することができる。
【0015】
プラズマジェット発生部101は、パルスアーク型プラズマジェット装置であり、円筒状の外部電極111と、外部電極111内に設けられた略円錐状の内部電極112とを有している。外部電極111と内部電極112との間には、高周波電力を供給するパルス電源113が接続されている。外部電極111と内部電極112との間は放電領域115となる。
【0016】
ガス供給部135から、放電領域115に原料ガスを供給し、パルス電源113から高周波電力を供給することにより、パルスアークプラズマが発生する。発生したパルスアークプラズマは、外部電極111の先端に設けられたノズル117からプラズマジェット160として噴射される。ガス供給部135は、例えばガスボンベ136とバルブ137とを有している。
【0017】
原料ガスを窒素を含むガスとすることにより、高密度の窒素原子を含む窒素プラズマのジェットを生成することができる。ノズル117の先に被処理物150を配置することにより、プラズマジェット160中の窒素原子を、窒素分子に再結合する前に被処理物150の表面に到達させる。大気圧プラズマの自己加熱により、被処理物150の表面温度を窒化処理に適した温度にすることができ、被処理物150に窒素原子を固溶、拡散させることができる。なお、窒化処理に適した温度は、被処理物の材質により異なるが、例えば鋼材の場合は400℃~600℃程度であり、チタンの場合は800℃~1000℃程度である。
【0018】
本実施形態の窒化処理装置において、被処理物150のプラズマジェット160が到達する部分は、局所密閉カバー102に覆われ、被処理物150と局所密閉カバー102とにより密閉された空間170が形成されている。空間170の内部を一旦減圧することにより、空間170内の酸素や水蒸気等を排気することができる。酸素等が存在する雰囲気において被処理物150にプラズマジェット160を作用させると、被処理物150の表面に酸化膜が形成されるおそれがある。被処理物150の表面に酸化膜が形成されると、プラズマジェット160により供給された窒素原子の拡散が阻害され、十分な窒化処理を行うことができない。しかし、本実施形態の窒化処理装置は、雰囲気の酸素等を大幅に低減できるため、酸化膜の形成を抑えることができ、大気圧プラズマにより安定した窒化処理を行うことができる。一方、被処理物150を真空チャンバ内に収容しないため、大きな物にも窒化処理を行うことができる。
【0019】
本実施形態の窒化処理装置において、局所密閉カバー102は、被処理物150の表面に密着し、被処理物150と共に密閉された空間170を形成できるように構成されている。図1には、局所密閉カバー102が、プラズマジェット発生部101と反対側に開口を有する円筒形状である例を示している。開口の周縁にフランジ125が設けられており、フランジ125にはOリングからなるシール部材126が取り付けられている。このため、平板状の被処理物150の表面と局所密閉カバー102とにより密閉された空間170が形成され、真空排気部131により空間170内を減圧することができる。
【0020】
局所密閉カバー102は、円筒形状に限らず、角筒形状としたり、ドーム形状としたりすることもできる。また、フランジ125は必要に応じて設ければよく、フランジ125が設けられていない構成とすることもできる。図1には、被処理物150が平板であり、開口部が平面状となった局所密閉カバー102を用いる例を示している。しかし、図2に示すように、表面に凹凸を有する被処理物150の場合には、開口部が被処理物150の表面の凹凸に沿った形状となった局所密閉カバー102用いることができる。
【0021】
図3に示すように、被処理物150を板体155の上に裁置し、板体155と局所密閉カバー102とにより、密閉された空間170を形成するようにしてもよい。このようにすれば、小さな被処理物150等についても容易に窒化処理を行うことができる。
【0022】
局所密閉カバー102の大きさは、被処理物150の大きさ及び形状等に応じて適宜設定すればよい。局所密閉カバー102の材質によっては、プラズマジェット160との間隔を、数cm~数十cm程度取れるようなサイズとすることが好ましい。このようにすれば、プラズマジェット160により局所密閉カバー102が熱変形したり、熱分解したりすることを避けることができる。
【0023】
局所密閉カバー102は、百度程度以上の耐熱性を有する材料により形成することが好ましく、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム及びアルミニウム合金等の金属や、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド樹脂及びポリイミド樹脂等の耐熱性樹脂により形成することができる。また、局所密閉カバー102に冷却ジャケット等の冷却機構を設けることにより、さらに耐熱性の低い材料を用いることも可能となる。
【0024】
図1においては、局所密閉カバーと被処理物150との密着性を向上するために、局所密閉カバー102の被処理物150と接する部分にOリングからなるシール部材126を設けている。Oリングの材質は、百度程度以上の耐熱性を有しているものが好ましく、フッ素ゴム、フッ素樹脂により被覆されたフッ素ゴム又はシリコンゴム及びメタルOリング等を用いることができる。局所密閉カバー102を大きくすることにより、耐熱性が低い材料を用いることも可能となる。また、シール部材126は、局所密閉カバー102を減圧できるように密着させることができればよく、Oリングに限らず他の構成とすることもできる。
【0025】
局所密閉カバー102を押圧して被処理物150に押し付けることにより、シール部材126を被処理物150に密着させる。局所密閉カバー102に加重を加えて押圧する機構は、どのようなものであってもよいが、例えばクランプ等を用いて行うことができる。
【0026】
図4に示すように、局所密閉カバー102及びシール部材126の温度上昇を抑える、冷却機構を設けることができる。図4には、冷却機構が局所密閉カバー102全体を覆う冷却ジャケット127である例を示した。冷却ジャケット127に循環水を流すことにより、局所密閉カバー102及びシール部材126の温度上昇を抑えることができる。冷却ジャケット127は、特に熱に弱い部分又は温度上昇が生じる部分に局所的に設けることもできる。例えば、Oリング付近だけを冷却するような構成とすることもできる。冷却機構は水冷式に限らず、空冷式とすることも可能である。このような冷却機構を設けた場合には、局所密閉カバー102及びシール部材126として耐熱温度が低い材料を用いることもできる。
【0027】
また、図5に示すように、プラズマジェット160の周囲に遮熱板128を設けることもできる。遮熱板128は例えばステンレス鋼やアルミニウム等により形成することができる。遮熱板128を設けることにより、プラズマジェット160からの輻射熱により局所密閉カバー102の温度が上昇することを抑えることができる。ジャケット等の冷却機構と遮熱板と両方とも設けることもできる。
【0028】
本実施形態の窒化処理装置を用いた被処理物150の窒化は、以下のように行うことができる。まず、被処理物150の形状に応じた局所密閉カバー102を準備する。次に、プラズマジェット160が、被処理物150の被処理位置に作用するように、窒化処理装置を配置する。この後、真空排気部121を作動させ、局所密閉カバー102に覆われた空間170を減圧する。空間170内の酸素等を十分に除去して、窒素原子の固溶・拡散を行う観点から、空間170内の圧力は低い方がよいが、好ましくは100Pa以下、より好ましくは10Pa以下、さらに好ましくは1Pa以下とする。また、減圧する時間は、十分に排気を行う観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上とする。生産性の観点からは好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下とする。
【0029】
空間170内を十分に減圧した後、ガス供給部104から原料ガスを供給して放電領域115及び空間170内を原料ガスにより置換し、再び大気圧とする。原料ガスは、例えば窒素ガスと水素ガスとの混合ガスとすることができる。水素ガスの添加により原料ガスに微量残存する酸素の還元ができる。また水素ガスの混合比率によりNHラジカルの生成量が変化し、窒素原子の拡散範囲や濃度を制御することができる。この場合、窒素ガスに対する水素ガスの割合は、好ましくは0.1体積%以上で、好ましくは200体積%以下、より好ましくは10体積%とする。
【0030】
空間170内が原料ガスにより置換された後、パルス電源113から外部電極111と内部電極112とに高周波電力を供給し、大気圧窒素プラズマを発生させる。原料ガスの供給量は、安定した大気圧プラズマを発生させる観点から、好ましくは1L/分~100L/分とする。被処理物150の被処理位置にプラズマジェット160を照射することにより、被処理位置に窒素原子を固溶・拡散させて窒化することができる。プラズマジェット160の照射時間は、必要とする窒化処理の程度に応じて決定すればよいが、0.1時間以上、24時間以下とすることができる。
【0031】
プラズマジェット160の照射を行う際には、被処理位置における被処理物150の温度を、窒素原子の拡散が生じる温度以上で且つ被処理物150の熱による変形等が生じない温度以下とする。被処理物150が鋼材である場合、温度は好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上で、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下とする。被処理位置の温度は、電極に供給するパルス電圧の波高値、繰り返し周波数、及びデューティ比等の設定を変更することにより、制御することができる。被処理位置の温度は、プラズマジェット160により所定の温度範囲とすることができるが、被処理物150の全体又は局所を加熱するヒータを併用することもできる。
【0032】
局所密閉カバー102内の空間170の減圧と、原料ガスによるパージは、複数回繰り返してもよい。パージを複数回繰り返すことにより、減圧時の圧力が高くても、酸素等の除去を十分に行うことができる。
【0033】
局所密閉カバー102内の空間170を減圧した後、大気圧とする際には、真空ポンプ122を停止して、原料ガスを供給すればよい。また、真空ポンプ122による排気と、原料ガスの供給とを調整することにより、空間170を僅かに負圧とすることもできる。空間170を僅かに負圧とすることにより、空間170内への外気の侵入をより低減できる。この場合、空間170の圧力が900hPa程度よりも高ければ安定してプラズマを発生させることができる。
【0034】
局所密閉カバー102内の空間170を減圧した後、大気圧プラズマを発生させる前に、放電領域115にアルゴン(Ar)ガス又はヘリウム(He)ガス等の不活性ガスを供給して、アルゴンガスプラズマを発生さることにより、被処理物150の表面をボンバードクリーニングすることができる。ボンバードクリーニングを行うことにより、被処理物150の表面に存在する不動態層等を除去することができ、窒素原子の拡散が容易となる。
【0035】
ボンバードクリーニングを行う場合、Arガス等の供給量は数CC/分~数百CC/分程度とし、空間170の圧力は、80Pa程度とすることができる。ボンバードクリーニングの時間は特に限定されないが、60分程度とすることができる。
【0036】
本実施形態の窒化処理装置により処理する被処理物は、球状黒鉛鋳鉄若しくはネズミ鋳鉄等の銑鉄鋳物又は炭素工具鋼、合金工具鋼若しくは高速度工具鋼等の鋼材とすることができる。また、アルミニウム、チタン又はこれらの合金の窒化処理に用いることもできる。本実施形態の窒化処理装置は、被処理物を収容する真空容器を用いないため、自動車のボディを成形する大型の金型の補修部分を窒化処理して硬化する用途等に用いることができる。また、局所的に窒化することができるため、部品の一部だけを選択的に硬化させる用途等に用いることもできる。被処理物の表面の所定の領域を硬化させる場合には、本実施形態の窒化処理装置の取り付け位置をずらしながら複数回の処理を行うことができる。
【実施例
【0037】
<窒化処理装置>
図1に示した窒化処理装置により窒化処理した。局所密閉カバーは直径が15cmで高さが8cmの円筒状とした。局所密閉装置102の材質は、ステンレスとした。鍔部の幅は5cmとし、シール部材は市販のフッ素ゴムOリング(線径5mm×内径22.5cm)とした。プラズマ発生部の内部電極と、外部電極との距離は20mm、ノズルの内径は4mmとした。
【0038】
<酸素分布の測定>
得られた試料の表面から深さ方向の酸素分布をX線光電子分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、K-Alpha)により測定した。X線スポットのサイズは200μmとした。アルゴンイオンによるエッチングは、ビームエネルギーを1000eVとし、電流設定はハイレベルとし、ラスタサイズは1mmとした。
【0039】
<硬度変化の測定>
得られた試料を切断した断面について、深さ方向の硬度変化をマイクロビッカース硬度計(フューチュアテック社製、FM-300)により測定した。荷重は10gとし、保持時間は10秒とした。
【0040】
(実施例1)
厚さが5mmで、2cm角の合金工具鋼鋼材(JIS SKD61)及びねずみ鋳鉄(JIS FC250)を、以下のようにして窒化した。
【0041】
試料の周囲に空間が生じるように、厚さ2cmで、28cm角のステンレス板に試料を置き、ステンレス板上に窒化処理装置の局所密閉カバーを配置した。真空ポンプにより、空間内を1時間、1Paに減圧した。この後、真空ポンプを停止して、窒素を2L/分、水素を20L/分の流量で供給して、空間内を大気圧に戻した。続いて、窒素を19.8L/分、水素を200mL/分の流量で供給しつつ、内部電極に波高値±5kV、周波数21kHzの高電圧パルスを印加して大気圧プラズマを発生させ、120分間窒化処理を行った。
【0042】
SKD61を窒化処理して得られた試料について、深さ方向の酸素の分布を測定した。FC250を窒化処理して得られた試料について深さ方向の硬度の変化を測定した。
【0043】
(比較例1)
SKD61に対して、空間の減圧を行わなかった以外は、実施例1と同様にして窒化処理を行った。得られた試料について、深さ方向の酸素の分布を測定した。
【0044】
(比較例2)
窒化処理を行っていないSKD61について、深さ方向の酸素の分布を測定した。
【0045】
(比較例3)
商用の低圧プラズマ窒化処理を委託したFC250について、深さ方向の硬度の変化を測定した。
【0046】
(比較例4)
商用のラジカル窒化処理を委託したFC250について、深さ方向の硬度の変化を測定した。
【0047】
図6に示すように、窒化処理を行っていない比較例2の場合、最表面に酸素が存在しているが、急激に酸素量は低下している。一方、減圧処理をすることなく窒化処理をした比較例1の場合、内部の深い位置まで酸素が存在しており、プラズマ処理において比較的厚い酸化膜が形成されていることが明らかである。減圧処理を行った後窒化処理をした実施例1の場合、比較例1と比べると酸素が存在する深さが遙かに浅く、酸化膜の形成が抑えられていることが明らかである。
【0048】
図7に示すように、大気圧プラズマ窒化処理を行った実施例1は、深さ方向の硬度の変化が小さく安定した窒化処理が行われた。また、商用のラジカル窒化処理をした比較例4とほぼ同程度の硬度を達成している。一方、商用の低圧プラズマ窒化処理をした比較例3は、表面近くの硬度は大きく上昇しているが、内部まで十分に窒化処理されていない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示の、窒化処理装置は、大気圧プラズマにより安定した窒化処理をすることができ、特に真空容器等の中に入れることができない大型の部材を局所的に窒化する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0050】
101 プラズマジェット発生部
102 局所密閉カバー
104 ガス供給部
111 外部電極
112 内部電極
113 パルス電源
115 放電領域
117 ノズル
121 真空排気部
122 真空ポンプ
125 フランジ
126 シール部材
127 冷却ジャケット
128 遮熱板
150 被処理物
155 板体
160 プラズマジェット
170 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7