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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】チタン製器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20221111BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20221111BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20221111BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/12
C22C14/00 Z
C22C21/00 N
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018204869
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070466
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】511029578
【氏名又は名称】橋本エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036070(JP,A)
【文献】特開昭64-042539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/28
C23C 2/12
C22C 14/00
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを溶融させた溶湯にチタン基材を浸漬することにより、当該チタン基材の表面に固体のTiAlから成る中間化合物層とアルミニウム-鉄合金層とを形成するアルミナイズ処理と、
前記アルミナイズ処理された前記チタン基材に対してアルミニウムの融点を上回る高温で加熱することにより、前記アルミニウム-鉄合金層を球状のTiAlから成る表面金属間化合物層に変化させつつ前記中間化合物層を前記チタン基材上に結合された固体状のTiAl から成る中間金属間化合物層とするとともに、前記チタン基材における前記中間金属間化合物層が形成された面側にアルミニウムの拡散層を形成する球状化処理と、
を有し、前記アルミナイズ処理における前記溶湯は、純アルミニウムに鉄(Fe)を1~6%添加した組成とされることを特徴とするチタン製器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン基材の表面に化合物層が形成されたチタン製器具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の鋳造において、重力鋳造法、低圧鋳造法及び高圧鋳造法を問わず、溶解炉や保持炉周辺の鋳造用の器具は、アルミニウム溶湯に浸漬すると、その材質によって溶損が生じてしまう。セラミック製の器具は、耐溶損性は高いが、機械的、熱的衝撃に弱く、使用中に破損した場合の安全性に大きな課題を有している。一方、鋼板、鋼管製の器具や鋳鉄製の器具は、比較的容易に作製でき、アルミニウム溶湯に浸漬する部分に、セラミックコーティングを施して用いられることが多い。なお、かかる先行技術は、文献公知発明に係るものでないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば高圧鋳造におけるラドルなどの鋳造用の器具の場合、鋳造過程で頻繁に高温の溶湯に曝されることから、セラミックラコーティング層の剥離やひび割れなどが生じてしまい、長期の使用に耐えることができない。そこで、本出願人は、チタン基材の表面に化合物層を形成させた器具を鋭意検討し、耐溶損性が高く高寿命なチタン製器具を提案するに至った。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐溶損性が高く高寿命なチタン製器具の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項記載の発明は、アルミニウムを溶融させた溶湯にチタン基材を浸漬することにより、当該チタン基材の表面に固体のTiAlから成る中間化合物層とアルミニウム-鉄合金層とを形成するアルミナイズ処理と、前記アルミナイズ処理された前記チタン基材に対してアルミニウムの融点を上回る高温で加熱することにより、前記アルミニウム-鉄合金層を球状のTiAlから成る表面金属間化合物層に変化させつつ前記中間化合物層を前記チタン基材上に結合された固体状のTiAl から成る中間金属間化合物層とするとともに、前記チタン基材における前記中間金属間化合物層が形成された面側にアルミニウムの拡散層を形成する球状化処理とを有し、前記アルミナイズ処理における前記溶湯は、純アルミニウムに鉄(Fe)を1~6%添加した組成とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項の発明によれば、アルミニウムを溶融させた溶湯にチタン基材を浸漬することにより、当該チタン基材の表面に固体のTiAlから成る中間化合物層とアルミニウム-鉄合金層とを形成するアルミナイズ処理と、アルミナイズ処理されたチタン基材に対してアルミニウムの融点を上回る高温で加熱することにより、アルミニウム-鉄合金層を球状のTiAlから成る表面金属間化合物層に変化させつつ中間化合物層をチタン基材上に結合された固体状のTiAl から成る中間金属間化合物層とするとともに、チタン基材における中間金属間化合物層が形成された面側にアルミニウムの拡散層を形成する球状化処理とを有するので、耐溶損性が高く高寿命なチタン製器具を確実且つ容易に製造することができる。
【0015】
また、アルミナイズ処理における溶湯は、純アルミニウムに鉄(Fe)を添加した組成とされたので、表面金属間化合物層の球状粒子を良好に形成させることができる。
【0016】
さらに、鉄(Fe)を1~6%添加するので、表面金属間化合物層の球状粒子をより確実に形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るチタン製器具の製造方法を示すフローチャート
図2】同チタン製器具の製造過程におけるアルミナイズ処理を経た状態を示す顕微鏡写真
図3】同チタン製器具の製造工程である球状化処理を経て得られたチタン製器具を示す顕微鏡写真
図4】同チタン製器具の球状化処理を経た状態におけるアルミニウム、チタン及び鉄等の含有濃度を示すグラフ
図5】同チタン製器具において鉄の添加量による表面金属間化合物層の球状の程度の相違を示す顕微鏡写真(右半分は左半分の拡大図)であって、(a)鉄を5%添加(b)鉄を3%添加(c)鉄を1%添加(d)鉄の添加なしを示す図
図6】同チタン製器具の組成物の一つであるTiAlの溶融温度を説明するための状態図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るチタン製器具は、高圧鋳造におけるラドル(保持炉から一定量の溶湯を鋳造機に供給するための搬送容器)やノロ掬いから成るもので、図3に示すように、拡散層1aが形成されたチタン基材1と、チタン基材1の表面上に形成された中間金属間化合物層2と、中間金属間化合物層2上に形成された表面金属間化合物層3とを有して構成されている。このうち中間金属間化合物層2と表面金属間化合物層3は、チタン基材1の表面に形成された化合物層を構成している。
【0019】
チタン基材1は、純チタン(JIS規格 チタン1種~4種)又はアルミニウムや銅など他の元素を添加した純チタンに準じたチタン合金(例えば、Ti-1.0%Cu合金など)から成るもので、板状又は管状の形状とされて所望のチタン製器具に成形が容易とされている。かかるチタン基材1の表面に化合物層(中間金属間化合物層2及び表面金属間化合物層3)が形成されるとともに、チタン基材1における中間金属間化合物層が形成された面側にはアルミニウムの拡散層1aが形成されている。
【0020】
中間金属間化合物層2は、チタン基材1上に結合された固体状のTiAlから成る層であり、本実施形態においては、アルミナイズ処理及び球状化処理を経ることにより形成される。この中間金属間化合物層2を構成するTiAlは、図6の状態図から分かるように、融点が1412℃であり、アルミニウム鋳造において用いる溶湯温度(約680~730℃)よりはるかに高く、耐溶損性を図ることができる。
【0021】
表面金属間化合物層3は、中間金属間化合物層2上に球状粒子が結合して形成されたTiAlから成る層であり、本実施形態においては、球状化処理を経ることによりアルミナイズ処理で得られたアルミニウム-鉄合金層3’(図2参照)が変化して形成される。この表面金属間化合物層3は、所定の粒径の丸みを帯びた球状粒子を有するとともに、それぞれの球状粒子が結合したポーラス状の金属間化合物層を構成している。
【0022】
拡散層1aは、中間金属間化合物層2が形成された表層部に形成された層であり、図4に示すように、アルミニウムの含有濃度が中間金属間化合物層2に向かって漸次(ほぼ連続的に)増加して成る。このように、アルミニウムの含有濃度が中間金属間化合物層2に向かって漸次(ほぼ連続的に)増加することにより、熱膨張係数が同様に漸次増加することとなり、熱衝撃やヒートサイクルに対して強い特性を図ることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係るチタン製器具の製造方法について、図1のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、チタン基材1を所望のチタン製器部の形状に成形した後、その表面をアセトン等の洗浄剤を用いて払拭し、油などの汚れを取り除くことにより前処理S1が行われる。本実施形態に係る前処理S1においては、チタン基材1の酸化皮膜を除去して活性な表面とするためのフラックス処理が不要であり、アセトン等による払拭作業で十分とされている。
【0024】
前処理S1の後、アルミナイズ処理S2が行われる。アルミナイズ処理S2は、アルミニウムを溶融させた溶湯に前処理S1を経たチタン基材1を浸漬することにより、図2に示すように、当該チタン基材1の表面に固体のTiAlから成る中間化合物層2’とアルミニウム-鉄合金層3’とを形成する工程である。具体的には、アルミニウムを溶融させた溶湯は、融点660℃の純アルミニウムに鉄(Fe)を1~6%添加した組成とされており、粘性がある程度の温度(例えば680~750℃の温度が好ましい)とされている。
【0025】
そして、アルミニウム基材1を溶湯に約1分間以上浸漬すると、瞬時に1~2μmの厚さの中間化合物層2’が形成される。この中間化合物層2’は、浸漬する溶湯の温度や浸漬時間に関わらず、それ以上は成長しないため脆化層とはならないことが判明した。また、中間化合物層2’は、チタン基材1と強固に結合しており、分析の結果、TiAlであることが確認されており、後工程の球状化処理S3で高温とされても、成長しないことが確認されている。
【0026】
また、溶湯に対する鉄の添加は、後工程の球状化処理S3における球状化に重要な影響を与える。すなわち、図5に示すように、アルミナイズ処理S2においてアルミニウムを溶融させた溶湯に鉄を5%添加して球状化処理S3を行ったもの(同図(a))、同溶湯に鉄を3%添加して球状化処理S3を行ったもの(同図(b))、同溶湯に鉄を1%添加して球状化処理S3を行ったもの(同図(c))、同溶湯に鉄を添加しないで球状化処理S3を行ったもの(同図(d))を比較することにより鉄の添加による球状化の影響が分かる。
【0027】
このように、図5に基づく観察によれば、鉄の添加がないと表面金属間化合物層3の粒形が角張っていて径も小さいが、鉄の添加を増加させると、表面金属間化合物層3の粒形が次第に丸みを帯びてきて次第に大きな粒径となっている。したがって、アルミナイズ処理S2において、チタン基材1を浸漬する溶湯に対して鉄の添加を種々調整することにより、表面金属間化合物層3の球状を任意のものとすることができるので、製造するチタン製器具の種類や使用用途等に応じた任意の表面金属間化合物層3を得ることができる。
【0028】
球状化処理S3は、アルミナイズ処理S2されたチタン基材1に対してアルミニウムの融点を上回る高温で加熱することにより、アルミニウム-鉄合金層3’を球状のTiAlから成る表面金属間化合物層3に変化させるとともに、チタン基材1における中間金属間化合物層2が形成された面側にアルミニウムの拡散層1aを形成する工程である。また、球状化処理S3を経ることにより得られた表面金属間化合物層3は、球状粒子が結合してポーラス状となっている。
【0029】
具体的には、球状化処理S3は、アルミナイズ処理S2されたチタン基材1に対して、アルミニウムの融点(660℃)を約100~250℃上回る高温(すなわち、760~910℃)に加熱してその状態を1~3時間程度保持することにより、図3に示すように、中間金属間化合物層2及び表面金属間化合物層3が形成されるとともに、チタン基材1の中間金属間化合物層2側に拡散層1aが形成される。これは、アルミニウム-鉄合金層3’が高温で融体になると瞬時に、中間化合物層2’のTiAlのチタン原子が融体に拡散してTiAlを形成し、中間化合物層2’に対しては、チタン基材1からチタン原子が補給されていることを示している。
【0030】
なお、実験の結果、球状化処理S3の条件として、750~900℃に加熱しつつ1~3時間保持するのが最も好ましいことが分かった。この温度においては、アルミニウム合金層が溶融し、球状化しつつ瞬時に拡散してきたチタンと結合しTiAlに変化し、球状化した粒子が結合してポーラス状となると推定される。このTiAlは、既述の通り、融点が1412℃であり、一般的なアルミニウム鋳造における溶湯温度(約680~730℃)に十分耐えることができ、耐溶損性が高く長寿命化の最大要因とされる。
【0031】
さらに、表面金属間化合物層3の球状な化合物間に空隙が存在するポーラス状の構成を得ることにより、酸化皮膜やノロ剥離性を高める効果を有する。すなわち、固体状態の表面と比較し、ポーラス状の表面状態は、空隙に存在する空気が潤滑の役割を果たすため、剥離性を高めることができるのである。また、表面金属間化合物層3がポーラス状であることによって、常温から700℃近くまで急激に加熱する時、熱衝撃やヒートサイクルに耐える構造とされているとともに、ポーラス状でない固体状態の場合、厚さ寸法によってはクラックを生じる原因となってしまうのに対し、本実施形態においてはそのようなクラックを抑制することができる。
【0032】
上記実施形態によれば、化合物層は、チタン基材1上に結合された固体状のTiAlから成る中間金属間化合物層2と、中間金属間化合物層2上に球状粒子が結合して形成されたTiAlから成る表面金属間化合物層3とを有し、チタン基材1における中間金属間化合物層2が形成された面側にアルミニウムの拡散層1aを有して成るので、耐溶損性が高く高寿命なチタン製器具を提供することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る表面金属間化合物層2は、ポーラス状に形成されたので、ポーラス状による空隙が存在することとなり、チタン製器具の表面に付着した酸化皮膜やノロの剥離性を高めることができる。特に、本実施形態に係る拡散層1aは、アルミニウムの含有濃度が中間金属間化合物層2に向かって漸次増加して成るので、熱衝撃やヒートサイクルに対して強い特性を有することができる。
【0034】
さらに、アルミニウムを溶融させた溶湯にチタン基材1を浸漬することにより、当該チタン基材1の表面に固体のTiAlから成る中間化合物層2’とアルミニウム-鉄合金層3’とを形成するアルミナイズ処理S2と、アルミナイズ処理S2されたチタン基材1に対してアルミニウムの融点を上回る高温で加熱することにより、アルミニウム-鉄合金層3’を球状のTiAlから成る表面金属間化合物層3に変化させるとともに、チタン基材1における中間金属間化合物層2が形成された面側にアルミニウムの拡散層1aを形成する球状化処理S3とを有するので、耐溶損性が高く高寿命なチタン製器具を確実且つ容易に製造することができる。
【0035】
またさらに、アルミナイズ処理S3における溶湯は、純アルミニウムに鉄(Fe)を添加した組成とされたので、表面金属間化合物層3の球状粒子を良好に形成させることができる。特に、本実施形態においては、鉄(Fe)を1~6%添加するので、表面金属間化合物層3の球状粒子をより確実に形成させることができる。
【0036】
また、他の効果として、以下の事項が挙げられる。
(1)使用寿命の飛躍的向上
現場実証試験を行ったところ、鋼板製ノロ掬いについて、その表面にセラミックコーティングを行いつつ使用した場合、3か月程度で鋼板がアルミニウム溶湯(JIS規格 AC4CH)により溶損し、皿部分の一部が溶損し欠けてしまった。一方、本実施形態に係るチタン製器具としてのノロ掬いは、1年半以上、そのままで使用することができた。
【0037】
また、鋳鉄製ラドルの表面にセラミックコーティングを施し、昼夜兼行のダイカスト操業を行った場合(アルミニウム溶湯は、JIS規格 ADC12)、5日程度過ぎると、週末1時間かけて取り外し、ショットピーニングをかけてコーティング層を剥離し、再度コーティングを施し、乾燥後焼付作業を行うこととなった。この間、代わりのラドルを用意し、交互に用いる必要があった。さらに、鋳鉄製ラドルは、溶損によって半年と持たなかった。一方、本実施形態に係るチタン製器具としてのラドルは、交換を行わず連続で1年間程度使用することができ、長寿命であった。
【0038】
(2)酸化皮膜やノロ剥離性に優れる
アルミニウム鋳造の溶解・保持作業において、作業者は、器具にこびりついた酸化皮膜やノロを、鋳型内に入らないよう、注意深く取り除く必要がある。本実施形態に係るチタン製器具としてのノロ掬いを用いることにより、酸化皮膜やノロが自重で落下又は器具に弱い衝撃を加えることにより容易に落下するので、作業者の負荷を大きく軽減することができた。これは、実施形態に係るチタン製器具の表層にある表面金属間化合物層3がポーラスで、空隙に空気を含んでいるため、酸化皮膜やノロと当該器具が濡れ難く剥離性が向上したためと考えられる。
【0039】
(3)注湯量の安定化による鋳造不良率の低減
アルミニウム鋳造特に高圧鋳造では、精度のよい鋳造品を製造するうえで射出スリーブ内に注湯する溶湯量が重要である。高圧鋳造では、ロボットによりラドルをアルミニウム浴中に浸漬し、その角度を制御することによって注湯量を決めるのであるが、鋳鉄製ラドルは、砂型で製造されており、内容積が毎回ばらついて調整が必要な場合が生じる。これに対し、実施形態に係るチタン製器具は、チタンの板をプレス成型で作製することができるので、内容積は常に一定であり、品質の安定に大きく寄与することができる。
【0040】
(4)軽量化による作業負荷の軽減
実施形態に係るチタン製器具は、鉄製器具と比較して、同一構造とした場合に約40%以上の軽量化が可能である。したがって、ノロ掬いのように人力に頼る場合、腕首にかかる負担や酸化皮膜やノロを落とすために器具を強く叩いて落とす作業などが大きく軽減された。ラドルの場合は、肉厚10mm程度の鋳鉄製から4mm程度のチタン製器具に代えると、約70%以上の軽量化が期待できる。これは、ロボットアームにかかかる負荷を軽減し、かつ作動速度の向上に寄与することができる。
【0041】
(5)耐熱衝撃性、耐熱強度が高く、安全性が高い
実施形態に係るチタン製器具によれば、セラミック製の器具のように、使用中に破損することはなく、安全性が高い。また、実施形態に係るチタン製器具によれば、鋳鉄や鋼板のように、鉄分がアルミニウム溶湯に混入してしまうのを回避することができ、耐食性や延性の低下を嫌うアルミニウム製ホイール材料(JIS規格 AC4CH)などを鋳造する場合、極めて有効である。
【0042】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば拡散層1aのアルミニウムの含有濃度が中間金属間化合物層に向かって略均等であるものであってもよく、或いはアルミナイズ処理における溶湯に鉄(Fe)を添加しないもの(鉄に代わる他の添加物を添加するものを含む)であってもよい。また、本実施形態においては、チタン基材1の拡散層1a、中間金属間化合物層2及び表面金属間化合物層3といった層が形成されているが、他の機能や性質を有した層が付加されたものであってもよい。なお、本実施形態においては、ラドルやノロ掬いに適用されているが、他のチタン製器具に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
化合物層は、チタン基材上に結合された固体状のTiAlから成る中間金属間化合物層と、中間金属間化合物層上に球状粒子が結合して形成されたTiAlから成る表面金属間化合物層とを有し、チタン基材における中間金属間化合物層が形成された面側にアルミニウムの拡散層を有して成るチタン製器具の製造方法であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 チタン基材
1a 拡散層
2 中間金属間化合物層
2’ 中間化合物層
3 表面金属間化合物層
3’ アルミニウム-鉄合金層
図1
図2
図3
図4
図5
図6