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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20221111BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01L21/31 B
C23C16/44 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018231958
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020096055
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岡 達司
(72)【発明者】
【氏名】川井 文彰
(72)【発明者】
【氏名】西中 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉本 昌広
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070248(JP,A)
【文献】特開平08-186103(JP,A)
【文献】特開昭62-085425(JP,A)
【文献】特開2017-168524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に溶液のミストを供給することによって前記基体の前記表面に膜を成長させる成膜装置を用いて前記膜を成長させる成膜方法であって、
前記成膜装置が、
前記基体を収容して加熱する加熱炉と、
前記加熱炉に前記溶液の前記ミストを供給するミスト供給装置と、
を有しており、
前記成膜装置のうちの前記ミストに曝される部分の少なくとも一部が、窒化ホウ素を含む材料により構成されており、
前記成膜方法が、
前記加熱炉内に前記基体が配置されていない状態で、窒化ホウ素を含む前記材料に、前記溶液に含まれる成分を含む液体または前記液体のミストを供給することによって、窒化ホウ素を含む前記材料の表面をコーティングする工程と、
コーティングする前記工程の後に、前記加熱炉内に前記基体を配置した状態で前記ミスト供給装置から前記加熱炉に前記溶液の前記ミストを供給することによって前記基体の前記表面に前記膜を成長させる工程、
を有する成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【0002】
特許文献1には、基体の表面に溶液のミストを供給して、基体の表面に膜を成長させる成膜装置が開示されている。この成膜装置は、基体を収容して加熱する加熱炉と、加熱炉に溶液のミストを供給するミスト供給装置を有している。加熱炉内でミストが基体の表面に付着することで、基体の表面に膜が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-070248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の成膜装置のうちのミストに曝される部分は、通常、耐熱性及び化学的安定性に優れる石英により構成される。しかしながら、この種の成膜装置で成長させた膜を分析した結果、膜中にシリコンが含まれることが判明した。成膜装置の石英からミストにシリコンが溶け出し、膜中に混入したものと考えられる。このように、成膜時に、成膜装置を構成する材料に起因する意図しない不純物(シリコン等)が膜中に取り込まれ、膜の特性を正確に制御できない場合がある。本明細書では、膜への意図しない不純物の混入を抑制することが可能な成膜装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する成膜装置は、基体の表面に溶液のミストを供給することによって前記基体の前記表面に膜を成長させる。この成膜装置は、前記基体を収容して加熱する加熱炉と、前記加熱炉に前記溶液の前記ミストを供給するミスト供給装置を有している。前記成膜装置のうちの前記ミストに曝される部分の少なくとも一部が、窒化ホウ素を含む材料により構成されている。
【0006】
この成膜装置のミストに曝される部分の少なくとも一部は窒化ホウ素を含む材料により構成されている。窒化ホウ素は、高い耐熱性を有するとともに、優れた化学的安定性を有する。したがって、ミストに曝される部分の少なくとも一部を窒化ホウ素を含む材料により構成することで、成長させる膜への意図しない不純物の混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の成膜装置の構成図。
図2】実施例2の成膜装置の構成図。
図3】実施例3の成膜装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1に示す成膜装置10は、基板70の表面に膜をエピタキシャル成長させる装置である。成膜装置10は、基板70が配置される加熱炉12と、加熱炉12を加熱するヒータ14と、加熱炉12に接続されたミスト供給装置20と、加熱炉12に接続された排出管80を備えている。
【0009】
加熱炉12の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、図1に示す加熱炉12は、上流端12aから下流端12bまで延びる管状炉である。加熱炉12の長手方向に垂直な断面は、円形である。但し、加熱炉12の断面は円形に限定されない。加熱炉12の内面は、コーティング層90によりコーティングされている。実施例1では、コーティング層90は、窒化ホウ素(PBN:Pyrolytic Boron Nitride)である。すなわち、加熱炉12のうちのミストに曝される部分が窒化ホウ素により構成されている。
【0010】
ミスト供給装置20は、加熱炉12の上流端12aに接続されている。加熱炉12の下流端12bには、排出管80が接続されている。ミスト供給装置20は、加熱炉12内にミスト62を供給する。ミスト供給装置20によって加熱炉12内に供給されたミスト62は、加熱炉12内を下流端12bまで流れた後に、排出管80を介して加熱炉12の外部に排出される。
【0011】
加熱炉12内には、基板70を支持するための基板ステージ13が設けられている。基板ステージ13は、加熱炉12の長手方向に対して基板70が傾くように構成されている。基板ステージ13に支持された基板70は、加熱炉12内を上流端12aから下流端12bに向かって流れるミスト62が基板70の表面にあたる向きで支持される。基板ステージ13の表面は、コーティング層90(窒化ホウ素)によりコーティングされている。すなわち、基板ステージ13のうちのミスト62に曝される部分が窒化ホウ素により構成されている。
【0012】
ヒータ14は、前述したように、加熱炉12を加熱する。ヒータ14の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、図1に示すヒータ14は、電気式のヒータであって、加熱炉12の外周壁に沿って配置されている。ヒータ14は加熱炉12の外周壁を加熱し、それによって加熱炉12内の基板70が加熱される。
【0013】
ミスト供給装置20は、ミスト発生槽22を有している。ミスト発生槽22は、水槽24、溶液貯留槽26、及び、超音波振動子28を有している。水槽24は、上部が解放された容器であり、内部に水58を貯留している。超音波振動子28は、水槽24の底面に設置されている。超音波振動子28は、水槽24内の水58に超音波振動を加える。溶液貯留槽26は、密閉型の容器である。溶液貯留槽26は、基板70の表面にエピタキシャル成長させる膜の原料を含む溶液60を貯留している。例えば、酸化ガリウム(Ga)の膜をエピタキシャル成長させる場合には、溶液60としてガリウムが溶解した溶液を用いることができる。また、溶液60中に、酸化ガリウム膜にn型またはp型のドーパントを付与するための原料(例えば、フッ化アンモニウム等)がさらに溶解していてもよい。また、溶液60中に、塩酸が含まれていてもよい。溶液貯留槽26の底部は、水槽24内の水58に浸漬されている。溶液貯留槽26の底面は、フィルムにより構成されている。これによって、水槽24内の水58から溶液貯留槽26内の溶液60に超音波振動が伝わり易くなっている。超音波振動子28が水槽24内の水58に超音波振動を加えると、水58を介して溶液60に超音波振動が伝わる。すると、溶液60の表面が振動して、溶液60の上部の空間(すなわち、溶液貯留槽26内の空間)に溶液60のミスト62が発生する。溶液貯留槽26の内面には、コーティング層90が設けられていない。
【0014】
ミスト供給装置20は、ミスト供給路40と、搬送ガス供給路42と、希釈ガス供給路44をさらに備えている。
【0015】
ミスト供給路40の上流端は、溶液貯留槽26の上面に接続されている。ミスト供給路40の下流端は、加熱炉12の上流端12aに接続されている。ミスト供給路40は、溶液貯留槽26から加熱炉12へミスト62を供給する。ミスト供給路40のうちの下流側の部分(加熱炉12近傍の部分)の内面は、コーティング層90(窒化ホウ素)によりコーティングされている。ミスト供給路40のうちの上流側の部分(溶液貯留槽26近傍の部分)の内面には、コーティング層90が設けられていない。
【0016】
搬送ガス供給路42の下流端は、溶液貯留槽26の側面の上部に接続されている。搬送ガス供給路42の上流端は、図示しない搬送ガス供給源に接続されている。搬送ガス供給路42は、搬送ガス供給源から溶液貯留槽26に搬送ガス64を供給する。搬送ガス64は、窒素ガスまたは他の不活性ガスである。溶液貯留槽26内に流入した搬送ガス64は、溶液貯留槽26からミスト供給路40へ流れる。このとき、溶液貯留槽26内のミスト62が、搬送ガス64とともにミスト供給路40へ流れる。搬送ガス供給路42の内面には、コーティング層90が設けられていない。
【0017】
希釈ガス供給路44の下流端は、ミスト供給路40の途中に接続されている。希釈ガス供給路44の上流端は、図示しない希釈ガス供給源に接続されている。希釈ガス供給路44は、希釈ガス供給源からミスト供給路40へ希釈ガス66を供給する。希釈ガス66は、窒素ガスまたは他の不活性ガスである。ミスト供給路40に流入した希釈ガス66は、ミスト62及び搬送ガス64とともに加熱炉12へ流れる。希釈ガス66によって、ミスト供給路40内のミスト62が希釈される。希釈ガス供給路44の内面には、コーティング層90が設けられていない。
【0018】
次に、成膜装置10を用いた成膜方法について説明する。ここでは、基板70として、β型酸化ガリウム(β-Ga)の単結晶によって構成された基板を用いる。また、溶液60として、塩化ガリウム(GaCl、GaCl)とフッ化アンモニウム(NHF)が溶解した水溶液を用いる。また、搬送ガス64として窒素ガスを用い、希釈ガス66として窒素ガスを用いる。
【0019】
まず、加熱炉12内の基板ステージ13上に基板70を設置する。次に、ヒータ14によって、基板70を加熱する。ここでは、基板70の温度を、約750℃に制御する。基板70の温度が安定したら、ミスト供給装置20を作動させる。すなわち、超音波振動子28を動作させることによって、溶液貯留槽26内に溶液60のミスト62を発生させる。同時に、搬送ガス供給路42から溶液貯留槽26に搬送ガス64を導入し、希釈ガス供給路44からミスト供給路40に希釈ガス66を導入する。搬送ガス64は、溶液貯留槽26を通って、矢印50に示すようにミスト供給路40内に流入する。このとき、溶液貯留槽26内のミスト62が、搬送ガス64と共にミスト供給路40内に流入する。また、希釈ガス66は、ミスト供給路40内でミスト62と混合される。これによって、ミスト62が希釈化される。ミスト62は、窒素ガス(すなわち、搬送ガス64と希釈ガス66)とともにミスト供給路40内を下流側に流れ、矢印52に示すようにミスト供給路40から加熱炉12内に流入する。加熱炉12内では、ミスト62は、窒素ガスとともに下流端12b側へ流れ、排出管80へ排出される。
【0020】
加熱炉12内を流れるミスト62の一部は、加熱された基板70の表面に付着する。すると、ミスト62(すなわち、溶液60)が、基板70上で化学反応を起こす。その結果、基板70上に、β型酸化ガリウム(β-Ga)が生成される。基板70の表面に継続的にミスト62が供給されるので、基板70の表面に酸化ガリウム膜が成長する。基板70の表面に単結晶の酸化ガリウム膜が成長する。溶液60がドーパントの原料を含む場合には、酸化ガリウム膜には、ドーパントが取り込まれる。例えば、溶液60がフッ化アンモニウムを含む場合には、フッ素がドープされた酸化ガリウム膜が形成される。
【0021】
上述したように、溶液貯留槽26内で発生したミスト62は、ミスト供給路40を介して加熱炉12へ流れる。したがって、溶液貯留槽26の内面、ミスト供給路40の内面、加熱炉12の内面、及び、基板ステージ13の表面は、ミスト62に曝される。ミストに曝される部分を構成する材料からミストへ意図しない不純物が溶出する場合がある。例えば、ミストに曝される部分が石英により構成されていると、石英からミストにシリコンが溶出する。シリコン等の意図しない不純物を含むミストが基板70の表面に供給されると、基板70の表面に意図しない不純物を含む酸化ガリウム膜が成長する。これに対し、実施例1では、ミスト供給路40の下流部の内面と、加熱炉12の内面と、基板ステージ13の表面がコーティング層90(窒化ホウ素)によってコーティングされている。窒化ホウ素は化学的に極めて安定である。コーティング層90によって、ミスト供給路40の下流部の内面、加熱炉12の内面、及び、基板ステージ13の表面からミスト62へ不純物が溶出することが抑制される。これによって、基板70の表面に成長する酸化ガリウム膜に不純物が意図せず混入することが抑制される。したがって、実施例1の成膜装置10によれば、純度の高い酸化ガリウム膜を形成することができる。特に、ヒータ14によって加熱される加熱炉12及び基板ステージ13と、加熱炉12に接続されているミスト供給路40の下流部は、成膜工程中に高温となる。したがって、加熱炉12、基板ステージ13、及び、ミスト供給路40の下流部からミスト62へ不純物が溶出し易い。実施例1では、これらの高温になる部分がコーティング層90によってコーティングされているので、ミスト62への不純物の溶出を効果的に抑制することができ、酸化ガリウム膜への意図しない不純物の混入を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、ミスト62は加熱炉12の内面にも付着するので、酸化ガリウム膜は加熱炉12の内面にも成長する。加熱炉12の内面がコーティング層90によってコーティングされておらず、かつ、加熱炉12の外壁が透明である場合(例えば、加熱炉12の外壁が石英である場合)には、以下の問題が生じる。この場合、加熱炉12の外壁が透明であるので、ヒータ14から生じる赤外線が加熱炉12内の基板70に照射され、基板70が熱輻射によっても加熱される。この場合、加熱炉12の内面に酸化ガリウム膜が成長するほど、加熱炉12の外壁の透明度が低下する。このため、加熱炉12の内面に酸化ガリウム膜が成長するほど、基板70の加熱効率が低下する。これに対し、加熱炉12の内面が不透明なコーティング層90(窒化ホウ素)によってコーティングされていると、加熱炉12の外壁は赤外線を遮断する。したがって、加熱炉12の内面に酸化ガリウム膜が成長しても、基板70の加熱効率がほとんど変化しない。このように、加熱炉12の内面をコーティング層90によってコーティングすることで、基板70の加熱効率の変化が抑制され、より安定して酸化ガリウム膜を成長させることが可能となる。
【実施例2】
【0023】
図2に示す実施例2の成膜装置は、加熱炉12の外部にヒータ14を有さない成膜装置(いわゆる、コールドウォール型の成膜装置)である。実施例2では、基板ステージ13がヒータを内蔵している。したがって、基板70は、基板ステージ13側から加熱される。
【0024】
実施例2の成膜装置でも、ミスト供給路40の下流部の内面と、加熱炉12の内面と、基板ステージ13の表面がコーティング層90(窒化ホウ素)によってコーティングされている。したがって、実施例1と同様にして、酸化ガリウム膜への不純物の意図しない混入を抑制することができる。
【0025】
また、コールドウォール型の成膜装置でも、酸化ガリウム膜は加熱炉12の内面に成長する。加熱炉12の内面がコーティング層90によってコーティングされておらず、かつ、加熱炉12の外壁が透明である場合には、以下の問題が生じる。コールドウォール型の成膜装置において、加熱炉12の外壁が透明であると、ヒータにより加熱された基板ステージ13から生じる赤外線が、加熱炉12の外部に放射される。しかし、加熱炉12の内面に酸化ガリウム膜が成長すると、加熱炉12の外壁の透明度が低下するので、基板ステージ13から生じる赤外線が加熱炉12の外部に放射され難くなる。すると、基板70の加熱効率が上昇する。このように、コールドウォール型の成膜装置でも、加熱炉12の外壁が透明であると、その透明度の低下によって基板70の加熱効率が変化するという問題が生じる。これに対し、実施例2のように加熱炉12の内面を不透明なコーティング層90(窒化ホウ素)によってコーティングすることで、基板70の加熱効率の変化が抑制され、より安定して酸化ガリウム膜を成長させることが可能となる。
【実施例3】
【0026】
図3に示す実施例3の成膜装置は、実施例1と同様のホットウォール型の成膜装置である。すなわち、加熱炉12がヒータ14によって加熱される。実施例3では、実施例1と同様に、加熱炉12の内面と基板ステージ13の表面がコーティング層90によりコーティングされている。また、実施例3では、ミスト供給路40の内面全体がコーティング層90によりコーティングされている。また、実施例3では、溶液貯留槽26の底面を除く内面全体がコーティング層90によりコーティングされている。このように、ミスト62に曝される部分全体を窒化ホウ素により構成することで、ミスト62への不純物の溶出をより確実に抑制することができる。また、実施例3では、搬送ガス供給路42の内面と希釈ガス供給路44の内面もコーティング層90によってコーティングされている。これによって、ミスト62への不純物の溶出をより抑制することができる。したがって、実施例3の構成によれば、成長させる膜への不純物の意図しない混入をより低減することができる。
【0027】
なお、窒化ホウ素は、機械的強度が比較的低く、剥離し易い。したがって、基板70の表面への成膜処理の前に、以下に説明する事前処理を行ってもよい。
【0028】
事前処理では、加熱炉12内に基板70を設置せずに、加熱炉12を加熱しながら、溶液貯留槽26から加熱炉12にミストを供給する。ここでは、成膜処理で用いる溶液60と同じ液体のミストを使用してもよいし、溶液60の成分の一部を含む液体のミストを使用してもよい。事前処理でミストを供給すると、コーティング層90の表面に薄い膜が成長する。すなわち、コーティング層90の表面をさらにコーティングすることができる。これによって、コーティング層90の強度を増して、コーティング層90の剥離を防止することができる。また、他の実施例では、当該液体のミストではなく、当該液体自体をコーティング層90に塗布してもよい。事前処理の終了後に、加熱炉12内に基板70を設置して、成膜処理を行うことができる。コーティング層90の表面をさらにコーティングする膜の成分は、成膜処理で用いられるミスト62(すなわち、溶液60)と同じ成分を含むので、成膜処理中に不具合が生じ難い。したがって、成膜処理では、適切に酸化ガリウム膜を成長させることができる。
【0029】
なお、実施例3で説明した事前処理を、コールドウォール型の成膜装置で実施してもよい。
【0030】
なお、上述した実施例1~3では、コーティング層90が窒化ホウ素であったが、コーティング層90が窒化ホウ素を含む他の材料であってもよい。例えば、コーティング層90が、窒化ホウ素とアルミナ(Al)との複合材により構成されていてもよい。また、コーティング層90が、窒化ホウ素と窒化シリコン(Si)との複合材により構成されていてもよい。このように、コーティング層90として窒化ホウ素と他の材料との複合材を用いることで、窒化ホウ素の化学的安定性を利用しながら、コーティング層90の機械的強度を高めることができる。また、コーティング層90の材料を、位置によって変更してもよい。例えば、基板ステージ13の表面をコーティングするコーティング層90を窒化ホウ素とアルミナとの複合材により構成し、加熱炉12の内面をコーティングするコーティング層90を窒化ホウ素と窒化シリコンの複合材により構成してもよい。
【0031】
窒化ホウ素を含む材料の利点を、他の材料と比較して説明する。
【0032】
炭素系材料は、耐熱性が高いが、ミストに曝されるとミスト中のHOによって酸化して劣化する。例えば、炭化シリコン(SiC)がミストに曝されて酸化すると、酸化シリコン(SiO)が形成されて劣化する。また、ミストがHClを含んでいると、HClが酸化シリコンを腐食して、ミスト中にシリコンが溶出する。このため、酸化ガリウム膜に意図せずシリコンが混入する。
【0033】
石英は耐熱性が高いが、石英がミストに曝されると石英からミストにシリコンが溶出する。したがって、酸化ガリウム膜に意図せずシリコンが混入する。
【0034】
アルミナやジルコニア(ZrO)等は、耐熱性が高いものの、温度変化によって劣化し易い。ミストを用いた成膜装置では、ミストの導入時に比較的大きい温度変化が生じる。この温度変化によって、アルミナやジルコニアは劣化し易い。劣化した部分からミストへ不純物が溶出したり、ミストから劣化した部分に成分が吸着されるので、酸化ガリウム膜の成分を意図した通りに制御することが困難となる。
【0035】
これに対し、窒化ホウ素または窒化ホウ素を含む材料では、上述した炭素系材料、石英、アルミナ、ジルコニアでの問題が生じず、酸化ガリウム膜を好適に成長させることができる。
【0036】
以上に説明したように、基板70よりも上流側でミスト62に曝される部分を窒化ホウ素を含む材料により構成することで、成長させる膜への意図しない不純物の混入を抑制することができる。
【0037】
なお、上述した実施例1~3では、酸化ガリウム膜を成長させる場合を例として説明した。しかしながら、成長させる膜は、任意に選択することができる。また、溶液60と基板70の材料は、成長させる膜に合わせて任意に選択することができる。
【0038】
また、上述した実施例1~3では、基板の表面に膜を成長させる場合を例として説明した。しかしながら、板状以外の形状の基体の表面に膜を成長させてもよい。
【0039】
また、上述した実施例1~3では、基板の表面に単結晶の膜をエピタキシャル成長させる場合を例として説明した。しかしながら、成長させる膜は、単結晶に限られず、多結晶やアモルファス等であってもよい。
【0040】
また、上述した実施例1~3とは、コーティング層90の位置を変更してもよい。例えば、加熱炉12の内面の一部だけにコーティング層90を設けてもよい。コーティング層90は、基板70よりも上流側でミスト62に曝される部分の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0041】
本明細書が開示する技術要素について、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0042】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、加熱炉の内面の少なくとも一部が窒化ホウ素を含む材料により構成されていてもよい。
【0043】
加熱炉の外壁が透明だと、ヒータから生じる赤外線が外壁を通過する。加熱炉の内面にはミストが付着するので、加熱炉の内面には基体の表面に成長する膜と略同じ膜が成長する。加熱炉が透明だと、加熱炉の内面に膜が成長すると、加熱炉の透明度が低下する。その結果、加熱炉の赤外線透過率が低下し、基体の加熱効率が変化する。これに対し、加熱炉の内面の少なくとも一部が窒化ホウ素を含む材料により構成されていると、窒化ホウ素を含む材料が不透明であるので、窒化ホウ素を含む材料によって赤外線が遮断される。加熱炉の内面に膜が成長しても、窒化ホウ素を含む材料が初めから不透明であるので、加熱炉の赤外線の透過率はほとんど変わらず、基体の加熱効率が変化し難い。したがって、この成膜装置によれば、より安定して膜を形成することができる。
【0044】
本明細書が開示する成膜装置を用いて膜をエピタキシャル成長させる成膜方法を提案する。この成膜方法は、コーティング工程と成長工程を有する。コーティング工程では、窒化ホウ素を含む材料に、溶液に含まれる成分を含む液体または前記液体のミストを供給することによって、窒化ホウ素を含む材料の表面をコーティングする。成長工程では、コーティングする前記工程の後に、加熱炉内に基体を配置した状態でミスト供給装置から加熱炉に溶液のミストを供給することによって基体の表面に膜をエピタキシャル成長させる。
【0045】
この構成によれば、成長工程の前に窒化ホウ素を含む材料の表面をコーティングできるので、成長工程中に窒化ホウ素を含む材料の剥離を抑制することができる。
【0046】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
10 :成膜装置
12 :加熱炉
13 :基板ステージ
14 :ヒータ
20 :ミスト供給装置
22 :ミスト発生槽
24 :水槽
26 :溶液貯留槽
28 :超音波振動子
40 :ミスト供給路
42 :搬送ガス供給路
44 :希釈ガス供給路
58 :水
60 :溶液
62 :ミスト
64 :搬送ガス
66 :希釈ガス
70 :基板
80 :排出管
90 :コーティング層
図1
図2
図3