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特許7174952スペクトル測定装置およびスペクトル測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】スペクトル測定装置およびスペクトル測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/14 20060101AFI20221111BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20221111BHJP
   G02B 26/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/34
G02B26/02 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019031782
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020136608
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成30年9月5日 刊行物 第79回応用物理学会秋季学術講演会予稿集 〔刊行物等〕 開催日 平成30年10月11日 集会名、開催場所 電子情報通信学会光ファイバ応用技術研究会、東北大学電気通信研究所 〔刊行物等〕 発行日 平成31年1月12日 刊行物 レーザー学会第39回学術講演会予稿集
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】松浦 祐司
(72)【発明者】
【氏名】柴田 尚登
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0052058(US,A1)
【文献】国際公開第2018/105082(WO,A1)
【文献】特開2019-036577(JP,A)
【文献】特開2007-220864(JP,A)
【文献】特開2017-135315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
G02B 26/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体と、前記光増幅媒体で発生した光を共振させる共振器と、前記広帯域のうちから前記共振器における共振波長を選択する波長選択部と、を含む外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する装置であって、
前記波長選択部により選択される共振波長の掃引を繰り返し指示する波長掃引信号を生成して出力するとともに、前記波長掃引信号の指示に基づく波長掃引の各期間において前記光増幅媒体の励起のオン/オフを繰り返し指示する励起指示信号を生成して出力し、前記波長掃引の期間毎に前記励起指示信号の位相の調整が可能である信号生成部と、
前記外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光を受光して、そのレーザ光の強度を表す検出信号を出力する検出器と、
前記波長掃引の各期間において、前記励起指示信号の指示に基づく前記光増幅媒体の励起のオン/オフの繰り返し頻度より高い頻度で、前記検出器から出力される検出信号の値を繰り返しデジタル値に変換して該デジタル値を出力するADコンバータと、
前記波長掃引の各期間において前記ADコンバータから出力されたデジタル値に基づいて発振スペクトルを求め、前記波長掃引の期間毎に前記信号生成部により前記励起指示信号の位相を変化させて求めた前記発振スペクトルを積算することで、前記外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを求める演算部と、
を備え
前記信号生成部は、一定周期の基準クロックに基づいて前記波長掃引信号を生成し、前記波長掃引信号の周期の整数分の1である周期を有する前記励起指示信号を生成し、前記励起指示信号の周期の整数分の1である時間に相当する位相を単位として前記励起指示信号の位相を調整する、
スペクトル測定装置。
【請求項2】
前記ADコンバータの入力端に終端抵抗が設けられていない、
請求項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記発振スペクトルの積算を、その積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より小さくなるまで行う、
請求項1または2に記載のスペクトル測定装置。
【請求項4】
前記光増幅媒体は量子カスケードレーザである、
請求項1~の何れか1項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項5】
前記波長選択部は、前記共振器の一端に設けられ傾斜角が可変である反射型の回折格子であり、その回折格子の傾斜角に応じた共振波長を選択する、
請求項1~の何れか1項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項6】
前記回折格子はMEMSデバイスである、
請求項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項7】
励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体と、前記光増幅媒体で発生した光を共振させる共振器と、前記広帯域のうちから前記共振器における共振波長を選択する波長選択部と、を含む外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する方法であって、
前記波長選択部により選択される共振波長の掃引を繰り返し指示する波長掃引信号を生成して出力するとともに、前記波長掃引信号の指示に基づく波長掃引の各期間において前記光増幅媒体の励起のオン/オフを繰り返し指示する励起指示信号を生成して出力し、前記波長掃引の期間毎に前記励起指示信号の位相の調整が可能である信号生成部と、
前記外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光を受光して、そのレーザ光の強度を表す検出信号を出力する検出器と、
前記波長掃引の各期間において、前記励起指示信号の指示に基づく前記光増幅媒体の励起のオン/オフの繰り返し頻度より高い頻度で、前記検出器から出力される検出信号の値を繰り返しデジタル値に変換して該デジタル値を出力するADコンバータと、
を用いて、
前記信号生成部により、一定周期の基準クロックに基づいて前記波長掃引信号を生成し、前記波長掃引信号の周期の整数分の1である周期を有する前記励起指示信号を生成し、前記励起指示信号の周期の整数分の1である時間に相当する位相を単位として前記励起指示信号の位相を調整し、
前記波長掃引の各期間において前記ADコンバータから出力されたデジタル値に基づいて発振スペクトルを求め、前記波長掃引の期間毎に前記信号生成部により前記励起指示信号の位相を変化させて求めた前記発振スペクトルを積算することで、前記外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを求める、
スペクトル測定方法。
【請求項8】
前記ADコンバータの入力端に終端抵抗が設けられていない、
請求項に記載のスペクトル測定方法。
【請求項9】
前記発振スペクトルの積算を、その積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より小さくなるまで行う、
請求項7または8に記載のスペクトル測定方法。
【請求項10】
前記光増幅媒体は量子カスケードレーザである、
請求項7~9の何れか1項に記載のスペクトル測定方法。
【請求項11】
前記波長選択部は、前記共振器の一端に設けられ傾斜角が可変である反射型の回折格子であり、その回折格子の傾斜角に応じた共振波長を選択する、
請求項7~10の何れか1項に記載のスペクトル測定方法。
【請求項12】
前記回折格子はMEMSデバイスである、
請求項11に記載のスペクトル測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを測定する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源の発明が開示されている。この文献に記載された外部共振型レーザ光源は、励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体としての量子カスケードレーザと、この量子カスケードレーザで発生した光を共振させる共振器と、前記広帯域のうちから共振器における共振波長を選択する反射型の回折格子と、を備える。回折格子は、共振器の一端に設けられており、傾斜角が可変である。外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光の波長(共振波長)は、回折格子の傾斜角に応じたものとなる。
【0003】
このような波長掃引可能な外部共振型レーザ光源において、回折格子の傾斜角を変化させることで出力レーザ光の波長を掃引するとともに、その波長掃引期間において光増幅媒体の励起のオン/オフを繰り返すと、励起オン時に光パルスが出力され、その出力波長は離散的に掃引される。図1は、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源において1回の波長掃引で得られる発振スペクトルを示す図である。この図の横軸は、波長または波数に相当し、また、時刻または回折格子の傾斜角に相当するものでもある。波長掃引可能な外部共振型レーザ光源を用いることで、フーリエ変換赤外分光法(FTIR: Fourier Transform Infrared Spectroscopy)と同等の分析が可能である。
【0004】
一般に、レーザ光源を用いて各種の対象物について分析を行う場合、そのレーザ光源から出力されて分析対象物に照射される前のレーザ光のスペクトルと、そのレーザ光が照射された分析対象物で反射、透過または散乱などして出力されるレーザ光のスペクトルとを、対比する必要がある。したがって、レーザ光源から出力されるレーザ光(分析対象物照射前のレーザ光、および、分析対象物で反射、透過または散乱などして出力されるレーザ光)のスペクトルを測定することが重要である。
【0005】
波長掃引可能な外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを得る為に、図1の発振スペクトルに示される複数のピーク位置を波長順に線で結ぶことが考えられる。また、複数の波長掃引期間の間で光増幅媒体の励起のオン/オフの位相を異ならせて複数の発振スペクトルを取得することで、より多くのピーク位置を求め、これらのピーク位置を波長順に線で結んで、より滑らかなスペクトルを得ることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7903704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発振スペクトルに示される複数のピーク位置を波長順に線で結ぶことでスペクトルを得る上記の方法は、次のような問題を有している。励起オン時に出力される光パルスのパルス幅が例えばナノ秒オーダと狭いことから、光パルスのピーク位置を正しく検出する為には、光パルスを受光する検出器から出力される信号を高速にAD変換する必要がある。しかし、それは困難であり、或いは、測定装置のコストが高くなる。
【0008】
また、信号処理により、光パルスのピーク位置を検出することが必要になり、非常に多くの量のデータを扱うことになる。このことから、信号処理に時間を要し、この点でも測定装置のコストが高くなる。
【0009】
さらに、光パルスのピーク値はパルス毎および波長掃引毎に変動する場合があることから、その変動がスペクトルにノイズとして現れる場合がある。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを高精度かつ安価に測定することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のスペクトル測定装置は、励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体と、光増幅媒体で発生した光を共振させる共振器と、広帯域のうちから共振器における共振波長を選択する波長選択部と、を含む外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する装置であって、(1) 波長選択部により選択される共振波長の掃引を繰り返し指示する波長掃引信号を生成して出力するとともに、波長掃引信号の指示に基づく波長掃引の各期間において光増幅媒体の励起のオン/オフを繰り返し指示する励起指示信号を生成して出力し、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相の調整が可能である信号生成部と、(2) 外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光を受光して、そのレーザ光の強度を表す検出信号を出力する検出器と、(3) 波長掃引の各期間において、励起指示信号の指示に基づく光増幅媒体の励起のオン/オフの繰り返し頻度より高い頻度で、検出器から出力される検出信号の値を繰り返しデジタル値に変換して該デジタル値を出力するADコンバータと、(4)波長掃引の各期間においてADコンバータから出力されたデジタル値に基づいて発振スペクトルを求め、波長掃引の期間毎に信号生成部により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算することで、外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを求める演算部と、を備える。
【0012】
本発明のスペクトル測定方法は、上記のような外部共振型レーザ光源から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する方法であって、上記の信号生成部、検出器およびADコンバータを用いて、波長掃引の各期間においてADコンバータから出力されたデジタル値に基づいて発振スペクトルを求め、波長掃引の期間毎に信号生成部により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算することで、外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを求める。
【0013】
本発明において、信号生成部は、一定周期の基準クロックに基づいて波長掃引信号を生成し、波長掃引信号の周期の整数分の1である周期を有する励起指示信号を生成し、励起指示信号の周期の整数分の1である時間に相当する位相を単位として励起指示信号の位相を調整するのが好適である。検出器には、MCT(HgCdTe)素子、InGaSb素子等の高速応答検出器と応答の遅いアンプとを組合せたもので、例えば立上り及び立下りが50ns以上の応答速度の遅いものが望ましく、(立上り時間+立下り時間)が励起指示信号の周期に一致していることが好適である。または、ADコンバータの入力端に終端抵抗が設けられていないのが好適である。また、演算部は、発振スペクトルの積算を、その積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より小さくなるまで行うのが好適である。
【0014】
外部共振型レーザ光源において、光増幅媒体は量子カスケードレーザであってもよい。波長選択部は、共振器の一端に設けられ傾斜角が可変である反射型の回折格子であり、その回折格子の傾斜角に応じた共振波長を選択するものであってもよい。また、回折格子はMEMSデバイスであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源から出力されるレーザ光のスペクトルを高精度かつ安価に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、波長掃引可能な外部共振型レーザ光源において1回の波長掃引で得られる発振スペクトルを示す図である。
図2図2は、スペクトル測定装置1の構成を示す図である。
図3図3は、外部共振型レーザ光源10の構成を示す図である。
図4図4は、図1の発振スペクトルの一部を拡大して示す図である。
図5図5は、比較例による外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルの求め方を説明する図である。
図6図6は、比較例による外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルの求め方を説明する図である。
図7図7は、光パルスを受光した検出器30から出力されてADコンバータ40に入力される検出信号の波形例を示す図である。
図8図8は、光パルスを受光した検出器30から出力されてADコンバータ40に入力される検出信号の波形例(終端抵抗なし/ありの各場合)を示す図である。
図9図9は、積算スペクトルの例を示す図である。
図10図10は、積算スペクトルの例を示す図である。
図11図11は、積算スペクトルの例を示す図である。
図12図12は、実施例および比較例それぞれで得られた積算スペクトルを示す図である。
図13図13は、積算部50による発振スペクトルの積算について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図2は、スペクトル測定装置1の構成を示す図である。スペクトル測定装置1は、外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する装置であって、信号生成部20、検出器30、ADコンバータ40および演算部50を備える。図3は、外部共振型レーザ光源10の構成を示す図である。この図には、信号生成部20も示されている。以下、図2および図3を用いて、外部共振型レーザ光源10およびスペクトル測定装置1それぞれの構成について説明する。
【0019】
図3に示されるように、外部共振型レーザ光源10は、量子カスケードレーザ11、回折格子12、レンズ13およびレンズ14を含む。量子カスケードレーザ11は、励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体である。量子カスケードレーザ11は、井戸層と障壁層とが交互に形成された構造を有し、各層の厚みを適切に設計することで所望の発光帯域(例えば中赤外域)を実現することができる。
【0020】
量子カスケードレーザ11の対向する二つの端面のうちレンズ13側の端面11aは、反射低減膜が設けられており、高い透過率で光を入出射することができる。レンズ13は、量子カスケードレーザ11の端面11aから外部へ発散して出力された光をコリメートして回折格子12へ入射させる。また、レンズ13は、回折格子12から到達した光を収斂させて量子カスケードレーザ11の端面11aへ入射させる。
【0021】
回折格子12は、傾斜角が可変の反射型のものであり、量子カスケードレーザ11の端面11aから出力された光のうち特定波長の光を量子カスケードレーザ11の端面11aへ帰還させる。回折格子12は、その傾斜角に応じた波長の光を帰還させることができる。回折格子12はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスであるのが好適であり、これにより高速な波長掃引が可能となる。
【0022】
量子カスケードレーザ11の対向する二つの端面のうちレンズ14側の端面11bは、光の一部を反射させ、残部を透過させる。この端面11bと回折格子12とは外部共振器を構成している。回折格子12は、この共振器の一端に設けられている。回折格子12は、量子カスケードレーザ11で発生した光のうち共振器における共振波長を選択する波長選択部である。共振器は、量子カスケードレーザ11で発生した光のうち回折格子12の傾斜角に応じた波長の光を共振させる。その共振波長の光は、レーザ光として端面11bから出力されレンズ14によりコリメートされる。
【0023】
信号生成部20は、回折格子12により選択される共振波長の掃引を繰り返し指示する波長掃引信号を生成して出力する。信号生成部20は、波長掃引信号の指示に基づく波長掃引の各期間において量子カスケードレーザ11の励起のオン/オフを繰り返し指示する励起指示信号を生成して出力する。信号生成部20は、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相の調整が可能である。
【0024】
信号生成部20は、信号生成の容易化の為に、一定周期Tの基準クロックを分周することで一定周期T(=T/m)の波長掃引信号を生成するのが好適であり、また、基準クロックまたは波長掃引信号を分周することで一定周期T(=T/n)の励起指示信号を生成するのが好適である。m,nは2以上の整数である。例えば、n=100であり、波長掃引信号は周波数1.8kHzの正弦波であり、励起指示信号は周波数180kHzの矩形波である。励起指示信号が低レベル(例えば0V)である期間では励起オフであり、励起指示信号が高レベル(例えば4V)である期間では励起オンである。励起指示信号のデューティは数%である。
【0025】
図2に示されるように、信号生成部20は、基準クロック生成部21、波長掃引信号生成部22および励起指示信号生成部23を含む。基準クロック生成部21は、基準クロックを生成し出力する。波長掃引信号生成部22は、基準クロックを分周することで波長掃引信号を生成し回折格子12へ出力する。励起指示信号生成部23は、基準クロックまたは波長掃引信号を分周することで励起指示信号を生成し量子カスケードレーザ11へ出力する。
【0026】
検出器30は、外部共振型レーザ光源10のレンズ14からコリメートされて出力された光を受光して、そのレーザ光の強度を表す検出信号をADコンバータ40へ出力する。レーザ光が中赤外域である場合、検出器30としてMCT(HgCdTe)検出器またはInAsSb検出器が好適に用いられる。
【0027】
ADコンバータ40は、検出器30から出力された検出信号の値をデジタル値に変換(AD変換)して、そのデジタル値を演算部50へ出力する。ADコンバータ40におけるAD変換は、波長掃引の各期間において、励起指示信号の指示に基づく量子カスケードレーザ11の励起のオン/オフの繰り返し頻度より高い頻度で繰り返し行われる。ADコンバータ40におけるAD変換は、信号生成部20の基準クロック生成部21から出力される基準クロック(または、これを分周して生成されるクロック)が指示するタイミングで繰り返し行われる。ADコンバータ40は例えばオシロスコープであってもよい。
【0028】
演算部50は、ADコンバータ40から出力されるデジタル値を入力して、波長掃引の各期間において発振スペクトル(図1)を求める。演算部50は、波長掃引の期間毎に信号生成部20により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算することで、外部共振型レーザ光源10から出力されるレーザ光のスペクトルを求める。演算部50は例えばコンピュータである。
【0029】
好適には、ADコンバータ40は、回折格子12の傾斜角の測定値を入力し、この測定値をデジタル値に変換して、そのデジタル値を演算部50へ出力する。このデジタル値は、より正確な波長情報を表すものであるので、演算部50は、このデジタル値が表す波長情報を用いて、より正確な発振スペクトルを得ることができる。また、このデジタル値が表す波長情報を用いることで、波長掃引のドリフトをフィードバックで逐次補正することもできる。
【0030】
図4は、図1の発振スペクトルの一部を拡大して示す図である。この図は、励起指示信号が高レベルで励起オンの二つの期間を示している。この図に示されるように、励起オンの各期間に外部共振型レーザ光源10から光パルスが出力される。
【0031】
図5および図6は、比較例による外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルの求め方を説明する図である。これらの図も、発振スペクトルの一部を拡大して示す。比較例では、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相を0,δ,2δ,3δ,・・・と変化させて、それぞれについて発振スペクトルを得る(図5)。そして、これらの複数の発振スペクトルの全てのピーク位置を求め、これらのピーク位置を波長順に線で結ぶことにより、外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルを得る(図6)。ここで、波長掃引の期間毎の励起指示信号の位相変化ステップ(位相変化の単位)δは、励起指示信号の周期Tの整数分の1である時間に相当するものとしてよい。
【0032】
これらの図において、励起指示信号の位相を0(基準位相)とした第1掃引期間の発振スペクトルが実線で示されている。励起指示信号の位相をδとした第2掃引期間の発振スペクトルが一点鎖線で示されている。励起指示信号の位相を2δとした第3掃引期間の発振スペクトルが破線で示されている。また、励起指示信号の位相を3δとした第4掃引期間の発振スペクトルが二点鎖線で示されている。
【0033】
しかし、この比較例の方法は、前述した問題点を有している。これに対して、以下に説明する本実施形態による外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルの求め方は、比較例の方法が有する問題点を解消し得るものである。本実施形態では、演算部50は、波長掃引の期間毎に信号生成部20により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトル(図5)を積算することで、外部共振型レーザ光源10から出力されるレーザ光のスペクトルを求める。以下、このようにして求められるスペクトルを「積算スペクトル」という。
【0034】
図7は、光パルスを受光した検出器30から出力されてADコンバータ40に入力される検出信号の波形例を示す図である。検出器30から出力されてADコンバータ40に入力される検出信号の値は、実際には、この図に示されるように、或る時刻から急激に増加してピークに達し、その後は漸減していき裾をひく。したがって、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相を変化させて発振スペクトルを取得すると、これら複数の発振スペクトルのうち或る発振スペクトルの或るパルスと他の発振スペクトルの或るパルスとを、少なくとも一部が互いに重なるようにすることができる。この図では、波長掃引の期間毎の励起指示信号の位相変化ステップδを20deg(386ns)ずつ変化させて得られた3つの発振スペクトルが示されており、各々の発振スペクトルのパルスの少なくとも一部が互いに重なっている。本実施形態では、このことを利用して、波長掃引の期間毎に信号生成部20により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算することで、積算スペクトルを求める。
【0035】
図8は、光パルスを受光した検出器30から出力されてADコンバータ40に入力される検出信号の波形例(終端抵抗なし/ありの各場合)を示す図である。ADコンバータ40の入力端に終端抵抗が設けられている場合、立上り及び立下りが例えば50ns以下の応答速度の速い検出器として機能し、発振スペクトルの各パルスの立ち上がり時間が短く且つピーク後の裾引きが短い。これに対して、ADコンバータ40の入力端に終端抵抗が設けられていない場合、立上り及び立下りが例えば50ns以上の応答速度の遅い検出器として機能し、発振スペクトルの各パルスの立ち上がり時間が長く且つピーク後の裾引きが長い。したがって、本実施形態において積算スペクトルを求める上では、ADコンバータ40の入力端に終端抵抗が設けられていないのが好ましい。このようにすることで、少ない積算回数でS/N比の良好な積算スペクトルを得ることができる。
【0036】
図9図11は、積算スペクトルの例を示す図である。図9は、終端抵抗なし且つδ=10deg(193ns)として36個の発振スペクトルから得られた積算スペクトルを示す。図10は、終端抵抗なし且つδ=20deg(386ns)として18個の発振スペクトルから得られた積算スペクトルを示す。図11は、終端抵抗あり且つδ=10deg(193ns)として36個の発振スペクトルから得られた積算スペクトルを示す。これらの図の比較から分かるように、波長掃引の期間毎の励起指示信号の位相変化ステップδが同じであれば、終端抵抗ありの場合の積算スペクトル(図11)と比べて、終端抵抗なしの場合の積算スペクトル(図9)の方が、良好なS/N比が得られた。また、終端抵抗なしの場合、位相変化ステップδが大きい場合の積算スペクトル(図10)と比べて、位相変化ステップδが小さい場合の積算スペクトル(図9)の方が、良好なS/N比が得られた。
【0037】
図12は、実施例および比較例それぞれで得られた積算スペクトルを示す図である。ここでは、ADコンバータ40の入力端に終端抵抗が設けられていない場合に得られた積算スペクトルを示す。波長掃引の期間毎の励起指示信号の位相変化ステップδを5deg(26ns)とした。この図に示されるように、比較例と比べて実施例の積算スペクトルのS/N比は良好であった。
【0038】
演算部50は、発振スペクトルの積算を一定回数だけ行ってもよい。好適には、演算部50は、発振スペクトルの積算を、その積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より小さくなるまで行う(図13参照)。例えば、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相をδ(deg)ずつ異ならせて、(360/δ)個の発振スペクトルを取得し、これらを積算する。その積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より大きければ、再度、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相をδ(deg)ずつ異ならせて、(360/δ)個の発振スペクトルを取得し、これらを前の積算結果に対して更に積算する。このような繰り返しを、積算結果のスペクトル形状における中心ラインの高さに対する変動幅の比が所定の閾値より小さくなるまで行う。このようにすることで、所望のS/N比を有する積算スペクトルを得ることができる。
【0039】
本発明の一側面は上記の本実施形態のスペクトル測定装置1であり、本発明の他の一側面はスペクトル測定方法である。本実施形態のスペクトル測定方法は、外部共振型レーザ光源10から出力されたレーザ光のスペクトルを測定する方法である。本実施形態のスペクトル測定方法は、信号生成部20、検出器30およびADコンバータ40を用いて、波長掃引の各期間においてADコンバータ40から出力されたデジタル値に基づいて発振スペクトルを求め、波長掃引の期間毎に信号生成部20により励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算することで、外部共振型レーザ光源10から出力されるレーザ光のスペクトル(積算スペクトル)を求める。
【0040】
本実施形態では、光パルスのピーク位置を検出する必要がなく、波長掃引の期間毎に励起指示信号の位相を変化させて求めた発振スペクトルを積算するだけで積算スペクトルを求めることができる。したがって、信号処理に要する時間が短くなり、検出器から出力される信号をAD変換する際の処理速度の要求が緩和され、安価な装置構成で積算スペクトルを求めることができる。また、複数の発振スペクトルを積算することにより積算スペクトルを求めることから、パルス毎または波長掃引毎に光パルスのピーク値が変動する場合であっても、高精度の積算スペクトルを求めることができる。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、外部共振型レーザ光源において、励起されることにより広帯域の光を発生し得る光増幅媒体は、量子カスケードレーザに限られるものではなく、他の任意のものであってもよい。共振器における共振波長を選択する波長選択部は、反射型の回折格子に限られるものではなく、透過型の回折格子を含む構成であってもよいし、プリズムを含む構成であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…スペクトル測定装置、10…外部共振型レーザ光源、11…量子カスケードレーザ(光増幅媒体)、12…回折格子(波長選択部)、13,14…レンズ、20…信号生成部、21…基準クロック生成部、22…波長掃引信号生成部、23…励起指示信号生成部、30…検出器、40…ADコンバータ、50…演算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13