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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】リン吸着材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20221111BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221111BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B01J20/02 B
B01J20/30
C02F1/28 P
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021546586
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033172
(87)【国際公開番号】W WO2021054116
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019170334
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「フライアッシュをリサイクルした浄化槽用リン高性能吸着材の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390021348
【氏名又は名称】フジクリーン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】川上 弘平
(72)【発明者】
【氏名】市成 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一
(72)【発明者】
【氏名】野原 秀彰
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113885(JP,A)
【文献】特表2006-514600(JP,A)
【文献】特開2001-340756(JP,A)
【文献】特開平03-101834(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101560110(CN,A)
【文献】特開2012-223733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
C02F1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰、セメント、及びランタンを含むリン吸着材であって、
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントが5~150質量部含まれ、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンが0.1~15質量部含まれる、リン吸着材
【請求項2】
前記焼却灰が石炭灰である、請求項1に記載のリン吸着材。
【請求項3】
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントが5~150質量部含まれ、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンが0.5~4質量部含まれる、請求項1又は2に記載のリン吸着材。
【請求項4】
多孔質である、請求項1~のいずれか一項に記載のリン吸着材。
【請求項5】
汚水に含まれるリンを除去するために用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載のリン吸着材。
【請求項6】
焼却灰、セメント、及びランタンを、溶媒を用いて造粒する、リン吸着材の製造方法であって、
前記焼却灰、前記セメント、及び前記ランタンを、前記焼却灰100質量部に対して前記セメントを5~150質量部配合し、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンを0.1~15質量部配合する、リン吸着材の製造方法
【請求項7】
前記焼却灰が石炭灰である、請求項に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記焼却灰、前記セメント、及び前記ランタンを、前記焼却灰100質量部に対して前記セメントを5~150質量部配合し、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンを0.5~4質量部配合する、請求項6又は7に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項9】
造粒した後、造粒物を養生し、その後に焼成する、請求項のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項10】
前記焼成温度が600~1000℃である、請求項に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載のリン吸着材を、リンを含む液体に接触させる、リンの吸着方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載のリン吸着材を用いて、汚水中のリンを吸着除去する、リンの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃水、生活排水、農業排水等の汚水には、窒素、リン等の富栄養化をもたらす栄養塩類が含まれており、これが河川、湖沼、海等に流入することによって、赤潮、アオコ等が大量に発生することが知られている。これらの汚水は、都市部では下水処理場で浄化されている。日本の人口当たりの下水道普及率は78.8%(平成29年度)であり、郊外、過疎地域等の下水道未整備地域には、排水処理システムとして浄化槽が設置されている。一般的な浄化槽は、窒素及びリンの除去機能を有していない。そのため、全窒素及び全リンの環境基準達成率(平成27年度)は、湖沼において51.2%と低迷している。よって、下水道未整備地域に設置される浄化槽においても、窒素及びリンの除去を目的とした高度処理を施す必要がある。
【0003】
さらに、リン資源枯渇の観点からも、排水からリンを回収する必要がある。従来、水中のリンを除去する方法として、凝集剤として金属塩又は石灰を用いる凝集沈殿法、微生物の代謝を利用する生物学的脱リン法(活性汚泥法)、吸着法等が知られている。凝集沈殿法は、多くの高価な凝集剤の添加を必要とし、多量の処理しにくい汚泥を排出することから、イニシャルコスト及びランニングコストパフォーマンスが高い。生物学的脱リン法(活性汚泥法)は、細かな溶存酸素濃度の管理、及び最終沈殿池における汚泥管理を必要とすることに加え、高リン含有率の汚泥の処理及び処分が必要となる。よって、浄化槽等の分散型排水処理装置でこれらの方法を適用する場合には、設備の増加に加え、常時、専門家による運転管理を行う必要がある。
【0004】
上記の課題を解決する方法として、近年、吸着法が提案されている。本発明者らは以前、石炭灰100重量部に対しセメント10~15重量部を配合して造粒した石炭灰造粒物を用いて、水中の硫化水素を吸着、酸化し、硫化水素濃度を低減する、水質環境改善方法を提案した(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1には、石炭灰造粒物が水中の硫化水素を吸着することしか記載されていない。
【0005】
また、特許文献2には、原水中に含有するリン酸イオンの除去剤として、鉄イオン含有水溶液でイオン交換及び/又は担持させた鉄イオン処理材であるリン酸イオンの除去剤が記載されている。しかしながら、このリン酸イオン除去剤は効率が悪く、十分にリン酸イオンを除去することはできないと考えられる。また、市販されているリン吸着材は高価であるため、浄化槽等の分散型排水処理装置に適用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-223733号公報
【文献】特開平10-192845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高いリン吸着性能を発揮することができ、安価なリン吸着材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが高いリン吸着性能を発揮することができ、安価なリン吸着材を開発すべく鋭意検討した結果、焼却灰、セメント、及びランタンを造粒することで、リン吸着量が高く、リン吸着速度が速いリン吸着材が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
焼却灰、セメント、及びランタンを含むリン吸着材。
項2.
焼却灰、セメント、及びランタンから得られるリン吸着材。
項3.
焼却灰、セメント、及びランタンを反応させて製造されるリン吸着材。
項4.
前記焼却灰が石炭灰である、上記項1~3のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項5.
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントが5~150質量部含まれる、上記項1~4のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項6.
前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンが0.1~15質量部含まれる、上記項1~4のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項7.
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントが5~150質量部含まれ、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンが0.1~15質量部含まれる、上記項1~4のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項8.
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントが5~150質量部含まれ、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンが0.5~4質量部含まれる、上記項1~4のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項9.
多孔質である、上記項1~8のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項10.
分散型排水処理装置に含まれるリンを除去するために用いられる、上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項11.
汚水に含まれるリンを除去するために用いられる、上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材。
項12.
上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材を備えた分散型排水処理装置。
項13.
上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材を備えた浄化槽。
項14.
焼却灰、セメント、及びランタンから、リン吸着材を得る、リン吸着材の製造方法。
項15.
焼却灰、セメント、及びランタンを、溶媒を用いて造粒する工程を備える、リン吸着材の製造方法。
項16.
さらに、得られた造粒物を養生する工程を備える、上記項14に記載のリン吸着材の製造方法。
項17.
前記焼却灰が石炭灰である、上記項14~16のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項18.
前記焼却灰100質量部に対して前記セメントを5~150質量部配合する、上記項14~17のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項19.
前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンを0.1~15質量部配合する、上記項14~17のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項20.
前記焼却灰、前記セメント、及び前記ランタンを、前記焼却灰100質量部に対して前記セメントを5~150質量部配合し、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンを0.1~15質量部配合する、上記項14~17のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項21.
前記焼却灰、前記セメント、及び前記ランタンを、前記焼却灰100質量部に対して前記セメントを5~150質量部配合し、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対して前記ランタンを0.5~4質量部配合する、上記項14~17のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項22.
造粒した後、造粒物を養生し、その後に焼成する、上記項14~21のいずれか一項に記載のリン吸着材の製造方法。
項23.
前記焼成温度が600~1000℃である、上記項22に記載のリン吸着材の製造方法。
項24.
上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材を、リンを含む液体に接触させる、リンの吸着方法。
項25.
上記項1~9のいずれか一項に記載のリン吸着材を用いて、汚水中のリンを吸着除去する、リンの除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリン吸着材は、リン吸着量が高く、リン吸着速度が速いことから、高いリン吸着性能を発揮することができる。本発明のリン吸着材は、原料として、焼却灰、セメント、及びランタンを使用するため、安価であり、浄化槽等の分散型排水処理装置に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における試料1~3とリン酸水溶液との反応時間と、リン酸吸着量との関係を示すグラフである。
図2】試料3及び試料4とリン酸水溶液との反応時間と、リン酸濃度との関係を示すグラフである。
図3】実施例2における試料5~9とリン酸水溶液との反応時間と、リン酸濃度との関係を示すグラフである。
図4】実施例2における試料5~9とリン酸水溶液との反応時間と、リン酸吸着量との関係を示すグラフである。
図5】実施例2における試料5~9(焼成温度600~1000℃)とリン吸着量との関係を示すグラフである。
図6】実施例2における試料5~7(焼成温度600~800℃)、及び焼成を行わない以外は実施例2と同様にして作製した試料A(焼成なし)について、下記試験例に沿って試験を行った後、各溶液が入った三角フラスコを、三角フラスコの上から底に向かって撮影した写真である。
図7】実施例3における試料10~14とリン酸水溶液との反応時間と、リン酸濃度との関係を示すグラフである。
図8】実施例3における試料10~14とリン酸水溶液との反応時間と、溶液のpHとの関係を示すグラフである。
図9】実施例4における試料15~19のランタン担持率とリン酸吸着量及び表面のpHとの関係を示すグラフである。
図10】実施例4における試料15~19のランタン担持率と強度との関係を示すグラフである。
図11】実施例4における試料15~19のランタン担持率とBET比表面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.リン吸着材
リン吸着材は、焼却灰、セメント、及びランタンを含む。焼却灰とセメントとが混合されることにより、得られる混合物の組織が緻密化し、強度が向上するとともに、ランタンがリンを吸着することから、本発明のリン吸着材は、リン吸着量が高く、リン吸着速度が速い。
【0013】
焼却灰は、成分中にシリカ(SiO)及びアルミナ(Al)が含まれているものであれば、特に限定されない。焼却灰として、例えば、都市ゴミ、木材チップ、タイヤチップ、製紙スラッジ、下水汚泥、バイオマス等の廃棄物焼却灰;石炭、ゴミ固形化燃料、紙又はプラスチック固形化燃料等の焼却灰等が挙げられる。これらはいずれか単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
これらの中で、ヒ素等の不純物が少ないことから、電力会社で発生する石炭の焼却灰(石炭灰)が好ましく用いられる。石炭灰としては、石炭を燃料として火力発電所から排出される、いわゆるフライアッシュを使用することができる。フライアッシュは、全体の70~90%を占めるシリカ(SiO)及びアルミナ(Al)を主成分とし、その他の成分として、Fe、CaO、MgO、SO、NaO、KO、MnO等の酸化物を含有する。フライアッシュは、石炭の燃焼時に大量に生成されるものであり、再利用が望まれていることから、本発明のリン吸着材の原料として有用である。
【0015】
セメントの種類については特に限定されず、例えば、ポルトライドセメント、アルミナセメント等のコンクリート製造用の一般的なセメントが挙げられる。環境維持の観点から、海洋、湖沼等の水中に有毒な成分が溶出しないセメントが好ましい。有毒成分の溶出が低いセメントの一例として、高炉セメント(特に、B種高炉セメント)等が挙げられる。なお、普通セメントと呼ばれるポルトライドセメントで、有毒な六価クロム等の溶出量が多いものは使用しないことが好ましい。
【0016】
ランタンの原料として、水溶性のランタン化合物を使用することができる。水溶性のランタン化合物として、例えば、塩化ランタン(LaCl)、硝酸ランタン(La(NO)、硫酸ランタン(La(SO)、酢酸ランタン(La(CHCO);又はそれらの水和物等が挙げられる。リン吸着材中のランタンの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定することができる。
【0017】
なお、本発明のリン吸着材は、上述したとおり、焼却灰、セメント、及びランタンを含むものであるが、原料として、焼却灰、セメント、及びランタンを含むものであればよく、例えば、原料である、これら「焼却灰、セメント、及びランタンから得られるリン吸着材」、「焼却灰、セメント、及びランタンを反応させて製造されるリン吸着材」等も含んでいてもよい。ここでいう「焼却灰、セメント、及びランタンから得られるリン吸着材」は、現時点でどのような成分までが含まれているのか、その全て特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによってリン吸着材を記載している。
【0018】
リン吸着材に含まれる焼却灰、セメント、及びランタンの含有量は、焼却灰100質量部に対して、セメントが好ましくは5~150質量部、より好ましくは15~70質量部、さらに好ましくは30~50質量部含まれ、かつ、焼却灰及びセメントの合計量100質量部に対してランタンが好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部含まれる。各成分の含有量の上記範囲にすることで、より高いリン吸着性能を発揮することができる造粒物を得ることができる。
高い吸着性能、リン吸着材の強度等の観点から、ランタンの含有量は、焼却灰及びセメントの合計量100質量部に対して0.5~4質量部が好ましく、0.7~2質量部がより好ましく、0.9~1.1質量部が特に好ましい。
【0019】
リン吸着材は、焼却灰、セメント、及びランタンを含む造粒物であることが好ましい。焼却灰にはシリカ(SiO)及びアルミナ(Al)が含まれているので、セメントと混合すると、セメントの水和の際に生成される水酸化カルシウムと反応(ポラゾン反応)して、ケイ酸カルシウム水和物及びアルミン酸カルシウム水和物等が生成され、得られる混合物の組織が細密化し、強度が向上する。さらに、造粒物の表面及び内部に存在するランタンが、リンを吸着する作用を有する。よって、本発明のリン吸着材は、多孔質であることが好ましい。
【0020】
吸着の対象となるリンは、リン元素を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン元素を含むイオン(リン酸イオン)が挙げられる。リン酸イオンには、オルトリン酸(HPO)が解離する段階で生じる、オルトリン酸イオン(PO 3-)、リン酸二水素イオン(HPO )及びリン酸水素イオン(HPO 2-)、及び、亜リン酸イオン、ポリリン酸イオン等が含まれる。
【0021】
リン吸着材のBET比表面積は、1m/g以上が好ましく、10m/g以上がより好ましく、20m/g以上がさらに好ましい。リン吸着材のBET比表面積が1m/g以上であることで、高いリン吸着性能を発揮することができる。なお、BET比表面積の上限は、特に限定されないが、100m/g程度である。
【0022】
リン吸着材は粒子状であることが好ましい。その粒径は限定的でなく、その用途、使用条件(リン吸着条件)等に応じて適宜設定することができる。例えば、平均粒径を1~30mm程度とすればよい。浄化槽で使用する場合には、取り扱いの観点から、5mm以上が好ましく、5~20mmがより好ましく、5~10mmがさらに好ましい。これらの粒度調整は、例えば、分級、粉砕塔の公知の方法を用いることによって実施することができる。また、リン吸着材の粒子形状も限定的でなく、例えば、球状、フレーク状、不定形状等のいずれの形態であってもよい。特に、固定床(カラム等)への充填性、液体の流通性等の見地より、球状であることが好ましい。
【0023】
実験条件により変化するが、例えば、本発明のリン吸着材のリン吸着量は5mg/g以上であり、好ましくは10~24mg/g程度である。本発明のリン吸着材のリン吸着速度は、0.8~1mg/L/時程度である(実施例参照)。このように、本発明のリン吸着材は、リン吸着性能が高い(リン吸着量が高く、リン吸着速度が速い)ことから、水中のリンを除去するために用いることができる。特に、本発明のリン吸着材は、安価で、リン吸着性能が高いことから、分散型排水処理装置、特に浄化槽に適用することができる。本発明のリン吸着材を浄化槽に適用した場合、後述の実施例で示すが、1年程度の期間、メンテナンスを行わなくても持続してリンを吸着除去することが可能となる。
【0024】
2.リン吸着材の製造方法
本発明のリン吸着材は、焼却灰、セメント、及びランタンを、溶媒を用いて造粒することにより得られる。焼却灰、セメント、及びランタンを含む造粒物が得られる限り、その製造方法は、特に限定されない。造粒に用いる溶媒は、造粒物を形成することができれば、特に限定されない。溶媒には、水が含まれることが好ましく、水(水道水、蒸留水、イオン交換水等)、海水、汽水、地下水、河川水、塩化ナトリウム水溶液、亜硝酸リチウム水溶液等を使用することができる。溶媒の使用量は、各原料の配合量に応じて、造粒物が形成されるように適宜調整することができる。
【0025】
製造方法として、例えば、(1)焼却灰とセメントとランタンと溶媒(例えば、水)とを同時に混合して造粒する方法、(2)焼却灰とセメントと溶媒(例えば、水)とを混合して造粒し、得られた造粒物にランタンを担持させる方法、(3)焼却灰とランタンとを混合しておき、その混合物とセメントと溶媒(例えば、水)とを混合して造粒する方法、(4)セメントとランタンとを混合しておき、その混合物と焼却灰と溶媒(例えば、水)とを混合して造粒する方法等が挙げられる。上記製造方法の中で、ランタンの配合量を制御し易いことから、(2)焼却灰とセメントと溶媒(例えば、水)とを混合して造粒し、得られた造粒物にランタンを担持させる方法が好ましい。
【0026】
上記(2)において、焼却灰及びセメントを含む造粒物にランタンを担持させる方法として、例えば、水溶性のランタン化合物を水に溶解させたランタン水溶液に造粒物を浸漬させ、乾燥させる方法、前記造粒物に前記ランタン水溶液を噴霧する方法等が挙げられる。水溶性のランタン化合物として、例えば、塩化ランタン(LaCl)、硝酸ランタン(La(NO)、硫酸ランタン(La(SO)、酢酸ランタン(La(CHCO)、及びこれらの水和物等が挙げられる。使用するランタン水溶液の濃度は、最終生成物であるリン吸着材に含まれるリン含有量が以下の範囲となるように適宜調整すればよい。
【0027】
焼却灰100質量部に対して、セメントを好ましくは5~150質量部、より好ましくは15~70質量部、さらに好ましくは30~50質量部配合し、かつ、前記焼却灰及び前記セメントの合計量100質量部に対してランタンを好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部、特に好ましくは0.9~1.1質量部配合することができる。
また、上記(2)の方法であれば、焼却灰とセメントとを、好ましくは95~40:5~60、より好ましくは60~80:40~20、さらに好ましくは65~75:35~25の質量比で混合し、その合計量の20~30質量%の溶媒(例えば、水)を加えて混合、及び造粒を行い、得られた造粒物100質量部に対して、ランタンを好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部、特に好ましくは0.9~1.1質量部担持させることができる。
【0028】
得られた造粒物は、さらに養生し、その後に焼成することが好ましい。造粒物を養生することで多孔質化し、それを焼成することにより、焼却灰又はセメントとランタンとの結合を強め、ランタンのリン吸着性能を高めることができる。養生条件は、気温、湿度等に応じて適宜調整することができる。養生として、例えば、数日から数週間程度自然乾燥させることが挙げられる。焼成温度は、造粒物の焼成後の強度、及びリン飽和吸着量の観点から、500~1000℃が好ましく、600~1000℃がより好ましく、600~800℃がさらに好ましく、800℃が特に好ましい。
【0029】
焼成雰囲気は特に限定されず、例えば、酸化性雰囲気中(大気中)、還元性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであってもよい。焼成時間も、焼成温度等に応じて適宜調整することができる。
【0030】
得られた焼結体は、粒子状であり、そのままリン吸着用途に使用することができる。必要に応じて粉砕、分級等の処理を行った後に、リン吸着用途に使用することもできる。
【0031】
3.リンの吸着方法
本発明は、上記リン吸着材を、リンを含む液体に接触させる工程を含むリンの吸着方法も包含する。液体に含まれるリンは、リン元素を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン元素を含むイオン(リン酸イオン)が挙げられる。
【0032】
本発明の吸着方法では、上記吸着材がリンを含む液体と接触できるようにする限り、その形態は特に限定されない。例えば、バッチ式で上記液体と接触させる方法、連続式で上記液体を連続的に供給及び流動させながら接触させる方法等のいずれであってもよい。また、固定床方式プロセス又は移動床式プロセスを用いることもできる。
【0033】
リンを含む液体(特に水を媒体とする液体)は特に限定されず、例えば、産業廃水、生活排水、農業排水等の汚水;湖沼水、海水、河川水等が挙げられる。また、これらの液体のリン酸濃度も限定的でなく、例えば0.1~200mg-P/L程度に予め調整しておくことができる。なお、前記濃度の単位(mg-P/L)は、リン酸態リンの濃度であり、リン酸イオンとして存在するリンの質量濃度を示している。
リンを含む液体と接触させる際の温度(すなわち、前記液体の液温)も、液体状態が維持されている限り、特に限定されない。
【0034】
リンを含む液体に対する本発明のイオン吸着材の使用量は特に限定されず、リンの濃度等に応じて適宜決定することができる。
【0035】
上述したように、本発明のリン吸着材は、例えば、集合型の廃水(汚水)処理施設、分散型排水処理装置等に適用することができる。したがって、本発明には、上記リン吸着材を用いて、集合型の廃水(汚水)処理施設中のリン、又は分散型排水処理装置中のリンを吸着除去する工程を含む、リンの除去方法も包含される。集合型の廃水(汚水)処理施設としては、例えば、下水処理場、農業集落排水処理施設、し尿処理場等が挙げられる。分散型排水処理(個別分散型排水処理ともいう)とは、排水の発生場所で処理を行うことをいう。分散型排水処理装置とは、前記分散型排水処理で使用される装置をいい、例えば、浄化槽、セプティックタンク(腐敗槽)、小規模事業所排水処理装置、植生浄化装置等が挙げられる。本発明のリン吸着材は、安価であり、かつメンテナンス頻度が少なくすむことから、分散型排水処理装置に好ましく適用することができる。
【0036】
本発明の吸着方法で使用した後の吸着材は、物理的処理又は化学的処理を施すことで、吸着したリンを脱離させることができる。物理的処理として、例えば、超音波、加熱、加電圧、気圧又は水圧制御等を挙げることができる。化学的処理として、酸又はアルカリによるpH制御等を挙げることができる。脱離したリン成分は、リン吸着材と分離して回収することができる。リン成分を分離したリン吸着材も、再利用することができる。あるいは、リンを吸着した吸着材をそのまま肥料として使用することもできる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
ビーカーに石炭灰35gを入れ、そこに1.0mol/L LaCl・7HO水溶液175mLを加えて、1000rpmで24時間攪拌した後、ガラス繊維ろ紙 グレードGF/F(直径47mm、粒子保持能0.7μm)で濾過し、45℃で24時間乾燥させた。得られたランタン担持石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機を用いて造粒パンの角度が30度かつ35rpmの速度で造粒し、得られた造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。得られた造粒物のうちの、直径1mm以上3.35mm未満の造粒物を試料1とし、直径3.35mm以上4.75mm以下の造粒物を試料2とした。なお、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、Supermini200)によりランタンの含有量を測定した結果、試料1及び試料2には、石炭灰と高炉セメントとの合計質量の3.9%に相当するランタンが含まれていた。
また、LaCl・7HO水溶液を使用しないことを除き、上記と同様の方法で造粒及び養生することにより作製した直径1mm以上5mm以下の造粒物を試料3とした。
【0039】
試料1~3について、リン酸のバッチ式の吸着試験を以下のように行った。リン酸成分としてリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を用い、リン酸濃度が100mg-P/Lとなるリン酸水溶液を調製した。このリン酸水溶液100mLに、上記試料0.5gを添加し、恒温器内で25℃に保持しながら100rpmで振とうした。リン酸水溶液へ上記試料を添加する前(0時間)、上記試料の添加から3時間後、9時間後、24時間後、72時間後、及び168時間後に上澄みを1.5mLシリンジでサンプリングし、これを公称孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ液のリン酸イオンの濃度を、モリブデンブルー法により分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いて880nmの吸光度を測定し、以下の式によりリン酸吸着量を算出した。その結果を表1及び図1に示す。
<リン酸吸着量>
q = Srem(Ccon-Csam) / (1000・a)
q:リン酸吸着量(mg-P/g)
rem:溶液残量(mL)
con:コントロール濃度(mg-P/L)
sam:試料濃度(mg-P/L)
a:吸着材投与量(g)
なお、前記吸着量の単位(mg-P/g)は、リン酸態リンの量であり、リン酸イオンとして存在するリンの質量を示している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1及び図1より、石炭灰、セメント、及びランタンを含む試料1及び2は、ランタンを含まない試料3に比べてリン酸吸着量が多いことがわかった。特に、168時間後の吸着量(飽和吸着量)は、試料1が16.8mg-P/g、試料2が13.2mg-P/gであることから、試料1又は2を浄化槽で使用した場合、1年程度メンテナンスをする必要がないことがわかった。
【0042】
なお、サンプリングした各溶液のpHをpH測定器(株式会社堀場製作所製、堀場コンパクトpHメータLAQUAtwin B-711)により測定したところ、試料1及び2の溶液のpHはいずれの場合もpH7~8.2の範囲内であり、排水基準値(pH5.8~8.6)を満たすことがわかった。それに対し、試料3の溶液のpHは8.6を超える場合があった。
【0043】
石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機において造粒パンの角度が30度かつ35rpmの速度で、直径が約1~5mmの造粒物を作製した。その造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。その造粒物4.2gを0.5mol/LのLaCl・7HO水溶液に24時間浸漬した後、乾燥機内で24時間45℃にて乾燥させた。得られた造粒物を試料4とした。なお、上記蛍光X線分析装置によりランタンの含有量を測定した結果、試料4には、石炭灰と高炉セメントとの合計質量の10.7%に相当するランタンが含まれていた。
この試料4と、上記試料3について、上記と同様にして、1mg-P/Lのリン酸水溶液へ上記試料を添加する前(0時間)、上記試料の添加から0.5時間後、1時間後、2時間後、及び3時間後、及び168時間後にサンプリングを行い、溶液のリン酸の濃度を、モリブデンブルー法により測定した。その結果を表2及び図2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2及び図2より、ランタンを含む試料4は、ランタンを含まない試料3に比べてリン酸を吸着する速度が速いことがわかった。
【0046】
実施例2
石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機において30℃及び35rpmの条件で造粒し、直径が約1~5mmの造粒物を作製した。その造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。
得られた造粒物40gを蒸発皿に入れ、ここに超純水50mLにLaCl・7HOを4.4561g溶かした水溶液を加え、常温(約25℃)で1日含浸させた。その後、蒸発皿をオーブンに入れ、105℃で8時間乾燥した。上記蛍光X線分析装置によりランタンの含有量を2回測定した。その結果、得られたリン吸着材には、石炭灰と高炉セメントとの合計質量の3.42%(1回目)又は3.95%(2回目)に相当するランタンが含まれていた。
【0047】
得られたリン吸着材について、600℃(試料5)、700℃(試料6)、800℃(試料7)、900℃(試料8)、及び1000℃(試料9)で焼成を行った。なお、焼成は、スタート後3時間で125℃、その後2時間で上記焼成温度、上記焼成温度を2時間保持、その後常温まで冷却する条件で行った。
試料5~9について、実施例1と同様にリン酸のバッチ式の吸着試験を行った。リン酸濃度が100mg-P/Lとなるリン酸水溶液50mLに、上記試料0.25gを添加し、25℃に保持しながら振とうした。リン酸水溶液へ上記試料を添加する前(0時間)、上記試料の添加から24時間後、及び168時間後にサンプリングを行い、実施例1と同様にして、溶液のリン酸の濃度を測定し、吸着量を算出した。また、リン吸着材を添加しない場合(コントロール)についても、同様にしてリン酸濃度を求めた。リン酸濃度の結果を表3及び図3に示し、リン酸吸着量の結果を表4及び図4に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】

さらに、168時間後のリン酸水溶液の外観を肉眼で観察した結果を、168時間後のリン酸吸着量とともに表5及び図5に示す。さらに、試料5~9、及び焼成を行わない以外は実施例2と同様にして作成した試料(焼成なし)について、上記試験を行った後、各溶液が入った三角フラスコを、三角フラスコの上から底に向かって撮影した写真を図6に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表3、表4、図3図4及び図5より、試料5~7のように焼成温度が低いほうが、リン酸吸着速度が速く、飽和吸着量も多いことがわかった。表5及び図6より、焼成温度が800℃以上であると、リン酸ランタンの沈殿が生成しないことがわかった。なお、リン酸ランタンの白濁が容器の底に沈んだものが沈殿であり、「沈殿なし」は「白濁なし」と同じ意味である。
リン吸着材で処理された水は、沈殿(白濁)がない方が好ましい。図6に示された、焼成なしの試料、試料5及び試料6において観察される白濁は、吸着材が一部剥がれたものと考えられる。この白濁は、公知の除去又は精製方法、例えば、フィルターにより白濁を除去する、静置後に上澄みを回収して使用する等により除去することができる。これより、リン酸吸着量が高い試料5及び試料6についても、上記方法により白濁を除去することで、白濁のない処理水が得られ、それを使用することができる。
【0052】
実施例3
石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機において30℃及び35rpmの条件で、直径が約1~5mmの造粒物を作製した。その造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。その造粒物(直径3.35mm以上4.75mm未満)5gを10mLのLaCl・7HO溶液(0.67g/10mL)に常温(約25℃)にて24時間浸漬させた。その後、オーブンで105℃にてLaCl・7HO溶液をドライアップしたものを試料10とした。なお、上記蛍光X線分析装置によりランタンの含有量を測定した結果、試料10には、石炭灰と高炉セメントとの合計質量の4.2%に相当するランタンが含まれていた。また、試料10を600℃で3時間焼成させたもの(直径3.35mm以上4.75mm未満)を試料11とした。
石炭灰50gに0.25mol/L LaCl・7HO水溶液30mLを噴霧し、得られたランタン担持石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機を用いて30℃及び35rpmの条件で造粒し、得られた造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。得られた造粒物を600℃で3時間焼成したもの(直径1mm以上3.35mm未満)を試料12とした。
【0053】
比較例
比較例として市販の2種類のリン吸着材を使用した。神畑養魚株式会社製、カミハタ リン酸塩吸着ろ材 フォスフェイト リムーバー(製品名)を試料13とし、エーハイム社製、エーハイム リン酸除去剤(製品名)を試料14とした。なお、試料13及び試料14の粒子の直径は、いずれも3.35mm以上4.75mm未満であった。
試料10~14について、実施例1と同様にリン酸のバッチ式の吸着試験を行った。リン酸濃度が10mg/Lとなるリン酸水溶液100mLに、上記試料0.5gを添加し、25℃に保持しながら100rpmで振とうした。リン酸水溶液へ上記試料を添加する前(0時間)、上記試料の添加から3時間後、9時間後、24時間後、72時間後、及び168時間後にサンプリングを行い、実施例1と同様にして、溶液のリン酸の濃度及びpHを測定した。pHの測定には、上記と同じpH測定器を用いた。また、リン吸着材を添加しない場合(コントロール)についても、同様にしてリン酸濃度及びpHを測定した。結果を表6、図7、表7及び図8に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
表6及び図7より、試料10~12(本発明のリン吸着材)は、試料13及び14(市販のリン吸着材)よりもリン酸の吸着速度が速いことがわかった。また、表7及び図8より、試料10~12(本発明のリン吸着材)の溶液のpHはいずれの場合もpH6~8の範囲内であり、別途pH調整を行わなくとも排水基準値(pH5.8~8.6)を満たすことがわかった。
【0057】
実施例4
石炭灰と高炉セメントとを70:30の質量比で混合し、得られた混合物の質量の20%に相当する水を添加し、造粒機において造粒パンの角度が30度かつ35rpmの速度で造粒し、直径が約1~5mmの造粒物を作製した。その造粒物を4週間養生させて硬化(多孔質化)させた。なお、最初の7日間は毎日造粒物に水を噴霧した。
造粒物の質量に対するランタン(La)の理論的担持率が0.1%、0.5%、1%、2%、又は4%になるように、超純水50mLにLaCl・7HOを溶解させた水溶液を調製した。具体的には、La担持率0.1%の造粒物を製造するために、超純水50mLにLaCl・7HOを0.107g溶解させた(水溶液15)。La担持率0.5%の造粒物を製造するために、超純水50mLにLaCl・7HOを0.535g溶解させた(水溶液16)。La担持率1%の造粒物を製造するために、超純水50mLにLaCl・7HOを1.07g溶解させた(水溶液17)。La担持率2%の造粒物を製造するために、超純水50mLにLaCl・7HOを2.14g溶解させた(水溶液18)。La担持率4%の造粒物を製造するために、超純水50mLにLaCl・7HOを4.28g溶解させた(水溶液19)。
【0058】
得られた造粒物40gを蒸発皿に入れ、そこに水溶液15~19を50mL加え、常温(約25℃)で1日含浸させた。その後、蒸発皿をオーブンに入れ、105℃で3時間乾燥し、ランタンを造粒物へ担持させた。さらに、ランタンを担持した造粒物を電気炉にて800℃で2時間焼成し、電気炉内で自然放冷することにより、試料15~19を得た。
なお、上記蛍光X線分析装置により試料15~19中のランタンの含有量を測定し、ランタン担持率を測定したところ、各試料のランタン担持率は、0.08%(試料15)、0.50%(試料16)、0.91%(試料17)、2.19%(試料18)、及び3.95%(試料19)であり、理論値に近いランタン担持率の造粒物が得られた。
【0059】
得られた試料15~19について、実施例1と同様の測定方法を用いて、試料添加後168時間後にリン酸吸着量を測定した。また、下記に示す方法で、試料の表面のpH、試料の強度、及びBET比表面積を測定した。pHの結果を表8及び図9に示し、強度の結果を表9及び図10に示し、BET比表面積の結果を表10及び図11に示す。
【0060】
<pH>
各試料の表面のpHは、上記と同じpH測定器(株式会社堀場製作所製 堀場コンパクトpHメータLAQUAtwin B-711)により測定した。
【0061】
<強度>
各試料について、荷重測定器(株式会社イマダ製、デジタルフォースゲージS-3)により点荷重を測定した。
【0062】
<BET比表面積>
各試料について、自動比表面積測定装置(株式会社島津製作所製、ジェミニVII2390)により窒素ガスによるBET比表面積を測定した。
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
表8及び図9より、ランタン担持率が0.1~1%のリン吸着材(試料15~17)はリン酸吸着量が高いことがわかった。また、ランタン担持率が増えるに従い、表面のpHの値が低くなることがわかった。表9及び図10より、ランタン担持率が1%以上のリン吸着材(試料17~19)は、十分な強度を有していることがわかった。また、表10及び図11より、ランタン担持率が0.1%~4%のリン吸着材(試料15~19)はいずれもBET比表面積が1m/g以上であり、高いリン酸吸着性能を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のリン吸着材は、リン吸着量が高く、リン吸着速度が速いことから、水中のリンを除去する用途に有用であり、特に、安価で、長期間リン吸着性能を発揮できることから、浄化槽等の分散型排水処理装置に適用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11