(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】抽出用シート材および抽出用バッグ
(51)【国際特許分類】
A47J 31/06 20060101AFI20221111BHJP
B65D 77/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A47J31/06 120
B65D77/00 B
(21)【出願番号】P 2020078746
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396015057
【氏名又は名称】大紀商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100076244
【氏名又は名称】藤野 清規
(72)【発明者】
【氏名】村岡 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 充範
(72)【発明者】
【氏名】山口 南生子
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147119(WO,A1)
【文献】特開2018-161354(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0057109(KR,A)
【文献】特表2020-509254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/00-31/60
D04H 1/00-18/04
B65D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布または合成樹脂製長繊維からなる織物もしくは編物である第1層と、メルトブロー不織布である第2層とを備える抽出用シート材であって、
該抽出用シート材には親水剤が均一に付着し
、該親水剤の付着量は0.0001~1.0wt%であり、上記抽出用シート材の通気性は
153~
2953cc/cm
2・secであり、さらに、上記抽出用シート材の表裏両面の表面抵抗値はいずれも
9.51×10
12
Ω
以下であることを特徴とする抽出用シート材。
【請求項2】
請求項1に記載の抽出用シート材を用いて形成した袋体に、抽出材料を封入してなること特徴とする抽出用バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉、ハーブ又は粉末コーヒーなどの抽出材料から飲料を抽出することができる抽出用シート材と、その抽出用シート材に対して裁断・溶着などの加工を施して製造する抽出用バッグに関し、特に、水や湯を短時間で透過可能とする瞬時透水性に優れた抽出用シート材、および短時間で飲料抽出が可能な抽出用バッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紅茶、緑茶、ハーブティー、コーヒー、スープなどの飲料の抽出に用いる抽出用シート材として、紙や短繊維不織布からなるものが使用されてきたが、近年は、コスト低減や外観の美しさなどの観点から、PETやポリ乳酸等の合成樹脂製の不織布や織布からなる抽出用シート材が多く使用されるようになった。
しかし、PETやポリ乳酸等の合成樹脂は、その多くが疎水性であることから、このような疎水性の合成樹脂製の抽出用シート材については、そのままの状態では、水や湯が、抽出用シート材の表面で弾かれてしまって、抽出用シート材の一面側から他面側に透過するのに時間がかかるという問題、即ち、瞬時透水性が低いという問題があった。
特に、疎水性の合成樹脂製の抽出用シートを用いて形成した袋体に、抽出材料を封入して作成した抽出用バッグは、飲料を抽出するために水や湯に投入した際に、しばらく水や湯の表面に浮いた状態となり、水や湯の中に沈むのに数秒間もかかってしまい、飲料を短時間で抽出することが困難な場合があった。
【0003】
そこで、このような疎水性の合成樹脂製の抽出用シート材の瞬時透水性を高めるために、界面活性作用のある親水剤を抽出用シート材に付着させる処理、いわゆる透水化処理が行われている。
例えば、下記の特許文献1(特許第3939326号公報)には、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、またはポリ乳酸等の生分解性繊維の不織布からなる長繊維不織布に、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、又はショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤の水溶液を付着させることで、長繊維不織布の透水性を高めることができる旨が記載されている。
【0004】
しかし、親水剤を抽出用シート材に付着させる透水化処理においては、親水剤を繊維の表面に均一に付着させることが難しく、親水剤が付着している部分と付着していない部分とがまだら状に生じる、いわゆる「付着ムラ」が発生する場合あった。
このような親水剤の付着ムラが生じた抽出用シート材については、それを用いて形成した袋体に抽出材料を封入した抽出用バッグを製造した場合に、その抽出用バッグを使用して飲料を抽出するために、抽出用バッグの袋体を水や湯に漬ける際、袋体の最初に水や湯に接触する部分に親水剤が付着していなかった場合には、透水化処理をしていない場合と同様に、抽出用バッグの袋体がしばらく水や湯の表面に浮いた状態となり、飲料を短時間で抽出できないことがあるという問題があった。
【0005】
なお、抽出用シート材が紙製であれば、紙を構成する木材パルプが水となじみやすいために瞬時透水性が高く、抽出用バッグが水や湯に沈み難いという問題は生じない。しかしながら、飲料抽出の際に、木材パルプから水溶性成分が溶出して飲料の味に悪影響を与える場合があった。
【0006】
また、抽出用シート材が短繊維不織布製であれば、短繊維不織布を構成する短繊維の製造の際に、静電気の発生を抑制する目的で、短繊維の表面の略全体に界面活性作用のある帯電防止剤を付着させるため、結果として、抽出用シート材の瞬時透水性が高くなることから、抽出用バッグが水や湯に沈み難いという問題は生じない。しかしながら、一般に、短繊維不織布は長繊維不織布に比べて製造コストが高いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、親水剤が均一に付着していることで瞬時透水性が高く、飲料の味に影響を与えず、かつ製造コストが低い抽出用シート材を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、速やかに湯中に沈み、短時間で飲料を抽出できる抽出用バッグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の手段により解決された。
【0010】
〔1〕 スパンボンド不織布または合成樹脂製長繊維からなる織物もしくは編物である第1層と、メルトブロー不織布である第2層とを備える抽出用シート材であって、
該抽出用シート材には親水剤が均一に付着し、該親水剤の付着量は0.0001~1.0wt%であり、上記抽出用シート材の通気性は153~2953cc/cm2・secであり、さらに、上記抽出用シート材の表裏両面の表面抵抗値はいずれも9.51×10
12
Ω以下であることを特徴とする抽出用シート材。
【0011】
〔2〕 上記〔1〕に記載の抽出用シート材を用いて形成した袋体に、抽出材料を封入してなること特徴とする抽出用バッグ。
【発明の効果】
【0012】
上記〔1〕に記載の抽出用シート材は、メルトブロー不織布からなる第2層を備えるため、上記抽出用シート材を製造する際に、親水剤を付着させる透水化処理工程において、上記第1層と上記第2層とを備える多層シート材であって親水剤が付着していない状態のもの(以下、単に「多層シート材」ともいう。)に対して、親水剤を、その多層シート材の全体に均一に付着させることができるものである。
【0013】
不織布等に親水剤を付着させるには、一般に、親水剤を水に分散させた親水剤分散液の状態にして、不織布等に噴霧または塗布等を行った後に乾燥させる。その際、上記第1層のスパンボンド不織布と織物と編物は、これらを構成する複数の繊維同士が融着している箇所が無いか、または少ないため、繊維同士の間隔が比較的大きく、親水剤分散液を噴霧等した場合に、複数の繊維を繋ぐいわゆるシャボン膜状の親水剤分散液の膜は生じ難い。そのため、親水剤分散液が不織布等に均一に付着せず、乾燥後に親水剤の付着ムラが発生する場合がある。
【0014】
これに対して、上記第2層のメルトブロー不織布は、これを構成する複数の繊維同士がそれらの接点でお互いに融着して一体化しているので、繊維同士の間隔が狭く、親水剤分散液を噴霧等した場合に、複数の繊維を繋ぐような親水剤分散液の膜が生じ易い。そのため、メルトブロー不織布に均一に親水剤分散液が付着して、乾燥後に親水剤の付着ムラが発生し難いものである。
【0015】
したがって、上記抽出用シート材は、メルトブロー不織布からなる第2層を備えるため、製造の際の透水化処理工程において、親水剤を上記多層シート材に均一に付着させることにより、その抽出用シート材に対して、瞬時透水性を付与することができるものである。
【0016】
また、上記〔1〕に記載の抽出用シート材は、その通気性が153~2953cc/cm2・secであることで適度な繊維密度になるため、上記抽出用シート材を製造する際の透水化処理工程において、親水剤を上記多層シート材の全体に均一に付着させることができ、上記抽出用シート材に対して、瞬時透水性を付与することができるものである。
【0017】
さらに、上記〔1〕に記載の抽出用シート材は、その表裏両面の表面抵抗値はいずれも9.51×10
12
Ω以下であって電気を通す状態、すなわち、親水剤がネットワーク的に繋がった状態で抽出用シート材の全体に均一に付着しているので、十分な瞬時透水性を付与することができるものである。
【0018】
また、上記〔1〕に記載の抽出用シート材は、その第1層と第2層の不織布等を形成する繊維は、全て合成樹脂製の長繊維である。そのため、本発明の抽出用シート材は、抽出用シート材が紙製である場合のような、木材パルプから水溶性成分が溶出して飲料の味に悪影響を与えるという問題は生じないものであり、また、本発明の抽出用シート材は、抽出用シート材を短繊維不織布によって製造する場合よりも、安価に製造することができるものである。
【0019】
次に、上記〔2〕に記載の抽出用バッグは、上記〔1〕に記載の抽出用シート材を用いて形成した袋体に、抽出材料を封入してなるものである。
上記〔1〕に記載の抽出用シート材は、親水剤が均一に付着しているので、その抽出用シート材を用いて形成した抽出用バッグの袋体には、親水剤が付着していない部分は略存在しない。そのため、かかる抽出用バッグを使用して飲料を抽出するために、その抽出用バッグの袋体を水や湯に漬けた際には、その袋体のどの部分が最初に水や湯に接触しても、袋体は速やかに水や湯の中に沈む。したがって、上記抽出用バッグは、水や湯がその袋体内に素早く浸入して、上記抽出材料から飲料を短時間で抽出することができるものである。
【0020】
また、上記〔2〕に記載の抽出用バッグは、その袋体を、合成樹脂製の長繊維からなるスパンボンド不織布、織物または編物と、同じく合成樹脂製の長繊維からなるメルトブロー不織布とによって形成された上記抽出用シート材を用いて形成してあるので、抽出した飲料の味に悪影響を与えることなく、また、安価に製造することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[A.抽出用シート材]
本発明の抽出用シート材は、スパンボンド不織布または合成樹脂製長繊維からなる織物もしくは編物である第1層と、メルトブロー不織布である第2層とを備えるものである。
上記第1層を構成するスパンボンド不織布、合成樹脂製長繊維からなる織物・編物、および上記第2層を構成するメルトブロー不織布は、いずれも公知の方法によって作成することができる。
【0023】
上記第1層のスパンボンド不織布の作成方法としては、例えば、熱可塑性の合成樹脂を加熱溶融して紡糸ノズルから押し出し、これに高速の空気を吹き付けることで牽引し延伸させつつ冷却して繊維を形成した後、コンベアなどのコレクター上に集積してウェブを形成し、次いで得られたウェブに対し、必要に応じて、加熱した、あるいは加熱していないフラットロールまたはエンボスロールなどを用いて、ウェブの厚さを調整したり部分熱圧着処理したりする作成方法を挙げることができる。
【0024】
また、上記第1層の合成樹脂製長繊維からなる織物もしくは編物の作成方法としては、例えば、熱可塑性の合成樹脂を加熱溶融して紡糸ノズルから押し出して延伸させつつ冷却することで単糸(モノフィラメント糸)を得て、その単糸をそのままか、あるいは、複数本の単糸を撚り合わせて一本の糸(マルチフィラメント糸)とし、これらの糸を用いて、公知の織機や編機によって織物や編物を作成する方法を挙げることができる。
【0025】
上記第2層のメルトブロー不織布の作成方法としては、例えば、熱可塑性の合成樹脂を加熱溶融して紡糸ノズルから押し出し、これに高温かつ高速の空気を吹きつけることで牽引し延伸させて繊維状にして、スパンボンド不織布や織物や編物の表面に付着させつつ積層する作成方法を挙げることができる。
【0026】
上記第1層のスパンボンド不織布、合成樹脂製長繊維からなる織物と編物、および上記第2層のメルトブロー不織布を形成する繊維の形態としては、上記のとおりモノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸のいずれでもよく、また、2種類の合成樹脂を組み合わせた芯鞘構造の複合繊維などを使用することができる。さらに、これらの繊維の断面形状は、必ずしも丸形である必要はなく、楕丸形、三角形その他多角形などの異形状や、さらに中空状であってもよい。
【0027】
また、上記第1層のスパンボンド不織布、合成樹脂製長繊維からなる織物と編物、および上記第2層のメルトブロー不織布を形成する繊維の原料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性の合成樹脂などを用いることができる。
【0028】
なお、上記の各樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。例えば、各種エラストマー類等の衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、艶消し剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、耐候剤、着色剤又は顔料などを適宜に添加することができる。
【0029】
本発明の抽出用シート材は、上記第1層と上記第2層とが接合して一体になっているが、その接合方法は公知の方法によることができる。例えば、上記第1層と上記第2層とを個別に作成した後に、これらを重ね合わせて部分熱圧着処理等によって接合することができる。また、上記第1層の表面に、加熱溶融した合成樹脂を繊維状にして吹き付けることで、メルトブロー不織布である上記第2層を作成しつつ接合してもよい。
【0030】
本発明の抽出用シート材には親水剤が付着している。したがって、かかる抽出用シート材は、疎水性の合成樹脂製の繊維からなる不織布、織物または編物で形成されているにもかかわらず、水や湯が速やかに透過できる瞬時透水性を有している。
【0031】
上記親水剤としては、例えば、食品用として用いられる界面活性剤のソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどを使用することができる。
これらの親水剤を抽出用シート材に付着させるには、例えば、親水剤を水やエチルアルコールやこれらの混合液などに分散させて親水剤分散液とし、この親水剤分散液を、上記第1層と上記第2層を備える多層シート材に、グラビアロール方式、キスロール方式、浸漬方式、またはスプレー方式などの公知の方法によって付着させて乾燥させればよい。
【0032】
上記抽出用シート材に付着している親水剤の量は、親水剤分散液の乾燥後において、0.0001~1.0 wt%であることが好ましい。
上記抽出用シート材に付着している親水剤の量が0.0001wt%以上であれば、親水剤を抽出用シート材の全体に均一に付着させることができるため、抽出用シート材に十分な瞬時透水性を付与することができる。
【0033】
また、上記抽出用シート材に付着している親水剤の量が1.0wt%以下であれば、この抽出用シート材を使用して飲料を抽出する際に、親水剤が飲料に溶出して飲料の風味に影響を与えることはなく、美味しい飲料を抽出することができる。
さらに、上記抽出用シート材に付着している親水剤の量が1.0wt%以下であれば、この抽出用シート材を用いて抽出用バッグを製造する工程で超音波シールを行う場合に、上記抽出用シート材に付着した親水剤が溶着の妨げになることはなく、十分なシール強度を得ることができる。
【0034】
本発明の抽出用シート材の第2層は、上記のとおりメルトブロー不織布からなる。メルトブロー不織布は、これを構成する複数の繊維同士がそれらの接点でお互いに融着して一体化しているので、繊維同士の間隔が狭く、親水剤分散液を噴霧等した場合に、複数の繊維を繋ぐいわゆるシャボン膜状の親水剤分散液の膜が生じ易い。そのため、上記第2層の全体に均一に親水剤分散液が付着して、乾燥後に親水剤の付着ムラが発生し難いものである。
【0035】
したがって、上記抽出用シート材は、メルトブロー不織布からなる第2層を備えるため、製造の際に親水剤を付着させる透水化処理工程において、親水剤を上記多層シート材の全体に均一に付着させることにより、その抽出用シート材に対して、瞬時透水性を付与することができるものである。
【0036】
また、上記第2層のメルトブロー不織布の目付は、1.0g/m2以上であることが好ましい。そうすると、メルトブロー不織布の単位面積当たりの繊維本数を多くすることができるので、複数の繊維同士の融着箇所を増やして繊維間隔を狭め、上記抽出用シート材の透水化処理工程において、親水剤の付着状態の均一性を向上させることができる。
【0037】
さらに、上記第2層のメルトブロー不織布を構成する繊維の繊維径は、0.5~15.0 μmであることが好ましい。メルトブロー不織布の繊維径を0.5μm以上にすれば、繊維間隙が狭くなり過ぎないようにでき、また、繊維径を15.0μm以下にすれば、不織布の単位面積当たりの繊維本数を多くして、複数の繊維同士の融着箇所を増やし繊維間隙を適度に狭めることができる。
【0038】
なお、「繊維径」とは、不織布・織物および編物を構成する繊維の太さであって、繊維の断面形状が丸形の場合はその直径であり、繊維の断面形状が丸形以外の場合は、断面形状を仮想的に同面積の丸形に変換した場合に得られる直径である。
【0039】
本発明の抽出用シート材は、その抽出用シート材の通気性が153~2953cc/cm2・secである。抽出用シート材の通気性が153cc/cm2・sec未満だと、上記多層シート材の繊維密度が高いために繊維の表面張力の影響が大きく現れる傾向がある。そのため、親水剤分散液を上記多層シート材に噴霧等した際に、上記多層シート材の表面で親水剤分散液の多くが弾かれてしまって、親水剤を均一に付着させることができない場合がある。
【0040】
また、上記抽出用シート材の通気性が2953cc/cm2・secを超えると、上記多層シート材の繊維密度が低いため、親水剤分散液を上記多層シート材に噴霧等した際に、親水剤分散液の多くが上記多層シート材の繊維間を通り抜けてしまって、親水剤を均一に付着させることができない場合がある。
【0041】
したがって、上記抽出用シート材は、その通気性が153~2953cc/cm2・secであることで適度な繊維密度になるため、上記抽出用シート材に親水剤を付着させる透水化処理工程において、親水剤を上記多層シート材の全体に均一に付着させることにより、その抽出用シート材に対して、瞬時透水性を付与することができるものである。
【0042】
さらに、通気性が153~2953cc/cm2・secである上記抽出用シート材は、飲料抽出用の繊維シート材として適度な繊維間隙を有するため、上記抽出用シート材を用いて製造した抽出用バッグは、飲料の抽出性に優れるとともに、バッグからの粉漏れが生じ難いものである。
【0043】
上記抽出用シート材の通気性は、その抽出用シート材の上記第1層と上記第2層を形成する不織布・織物または編物の目付や平均繊維径などを変更することによって、適宜に調節することができる。例えば、目付を小さくし、あるいは同目付の場合に平均繊維径を大きくすれば、不織布などの単位面積当たりに含まれる繊維の長さが短くなり繊維間隙が拡大するため、通気性を高めることができる。
【0044】
本発明の抽出用シート材の目付は10~30g/m2であることが好ましい。目付がかかる範囲であると、飲料抽出用の繊維シート材として必要な強度を付与できるとともに、目付の変更による通気性の調節を行い易いものとすることができる。
【0045】
本発明の抽出用シート材は、その表裏両面の表面抵抗値は、いずれも9.51×10
12
Ω以下である。
上記抽出用シート材を形成する第1層のスパンボンド不織布、合成樹脂製長繊維からなる織物と編物、および第2層のメルトブロー不織布は、いずれも合成樹脂製であり絶縁体であるため、電気を通さず、また通すとしても僅かである。しかし、抽出用シート材に親水剤を付着させると電気を通すようになり、特に、親水剤を抽出用シート材の全体に均一に付着させた場合には、親水剤がネットワーク的に繋がった状態となり、抽出用シート材の表裏両面の表面抵抗値が、いずれも9.51×10
12
Ω以下となって電気を通し易くなる。
【0046】
本発明の抽出用シート材は、薄い繊維シート材なので、例えば、親水剤分散液を抽出用シート材の表面側または裏面側のいずれか一方から噴霧して付着させることで、表裏両面が同程度の表面抵抗値を示す。上記抽出用シート材は、その表裏両面の表面抵抗値はいずれも9.51×10
12
Ω以下なので、親水剤が表裏両面の全体に均一に付着しており、抽出用シート材の瞬時透水性が十分に高い状態であるといえる。
【0047】
[B.抽出用バッグ]
本発明の抽出用バッグは、上記抽出用シート材を用いて形成した袋体に抽出材料を封入してなるものであり、例えば、袋体に乾燥茶葉を封入したティーバッグなどが相当する。抽出材料としては、例えば、茶葉、レギュラーコーヒー粉末、ハーブ、煮干し、鰹節などが代表例である
かかる抽出用バックを使用する場合は、例えば、カップに注いだ熱湯に抽出用バッグの袋体を数秒から数分間浸漬し、袋体内の抽出材料を湯戻しして飲料成分を溶出させるようにする。
【0048】
上記抽出用バッグの製造方法としては、例えば、連続した長尺状の上記抽出用シート材を原反とし、公知の成形充填機を用いて所定箇所を切断したり溶着したりして、袋体を形成しつつ抽出材料を充填密封する方法などがある。
上記抽出用シート材は、その表裏両面の全体に均一に親水剤が付着しているので、上記抽出用シート材を用いて抽出用バッグを製造する場合には、上記抽出用シート材の上記第1層側と第2層側のいずれの面を抽出用バッグの外側または内側に配置することも可能である。但し、第1層側を外側に、第2層側を内側に配置すると、袋体を作成する際の溶着が容易であり、また、繊維が細く弱い第2層を保護できるため望ましい。
【0049】
また、上記抽出用シート材は、その全体に均一に親水剤が付着しているので、その抽出用シート材を用いて形成した抽出用バッグの袋体には、親水剤が付着していない部分は略存在しない。そのため、かかる抽出用バッグを使用して飲料を抽出するために、その抽出用バッグの袋体を水や湯に漬けた際には、その袋体のどの部分が最初に水や湯に接触しても、袋体は速やかに水や湯の中に沈む。したがって、上記抽出用バッグは、水や湯がその袋体内に素早く浸入して、上記抽出材料から飲料を短時間で抽出することができるものである。
【0050】
本発明の抽出用バッグの袋体の形状は、特に制限はないが、例えば、テトラ形状(四面体形状)、ピラミッド形状(四角錐形状)、または球形状などの立体形状であると、外部から袋体内の抽出材料が透けて見えて、抽出材料の状態を確認できるため好ましい。また、袋体の容積が大きいと、抽出用バッグを湯に漬けた際に、抽出材料の膨潤や拡がりが良好であり、抽出が速やかに行なわれるので好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
まず、本発明における各指標の測定方法を説明する。
【0052】
(1)目付(単位:g/m2)
JIS L 1906に準拠し、試験対象の不織布から10cm四方の試験片を採取して質量を測定して算出した。
【0053】
(2) 繊維径(単位:μm)
光学顕微鏡を用いて目視により、試験対象の不織布の繊維について10箇所の直径を測定し、その平均値を求めた。
【0054】
(3)通気性(単位:cc/cm2・sec)
通気性試験機KES-F8-AP1(カトーテック株式会社製)を用いて通気抵抗値[R](kPa・秒/m)を測定し、以下の換算式(1)により求めた値を、通気度[Q](cc/cm2・sec)とした。
[Q]=12.45/[R]
【0055】
(4)付着量(単位:wt%)
抽出用シート材に付着している親水剤の量の測定は、ソックスレー抽出器を使用し、JIS L 1095 9.28に規定する測定方法において使用される測定溶剤のジエチルエーテルに代えて、石油エーテルを使用した以外は、同測定方法に準拠して行った。
【0056】
(5)表面抵抗値(単位:Ω)
抽出用シート材の表面抵抗値の測定は、高抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、Hiresta-UP MCP-HT450)を使用し、JIS K 6911 5.13に準拠して測定した。プローブは、d1(中心電極の直径)=0.59cm、d2(リング電極の内直径)=1.1cm、d3(リング電極の外直径)=1.8cmのURSプローブを使用した。測定時は気温20℃、相対湿度(RH)40%であった。
【0057】
[実施例1-1:抽出用シート材]
加熱して溶融させたポリエチレンテレフタレートを、紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂を、エジェクターを用いて紡糸速度5000m/分で延伸しつつ冷却して長繊維を形成し、その長繊維を一定速度で移動するベルトコンベア上に集積していくことでウェブを形成した。次に、得られたウェブを80℃に加熱したエンボスロールで加圧してスパンボンド不織布(第1層)を形成した。
【0058】
次いで、加熱して溶融させたポリエステル(酸成分のテレフタル酸/イソフタル酸の重合比が86/14)を、紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂に対して370℃に加熱した空気流を当てて飛散させ、一定速度で移動する上記スパンボンド不織布の表面に吹き付け集積固化させていくことで、メルトブロー不織布(第2層)を形成するとともに、上記第1層と上記第2層の両不織布を接着し、その後フラットロール間を通して長尺状の多層シート材を作成した。
得られた多層シート材は、メルトブロー不織布の繊維径が10.5μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が18/m2、通気度が415cc/cm2・secであった。
【0059】
次に、上記多層シート材に、その第2層側から噴霧装置によって親水剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)の分散液を噴霧し、その後乾燥させて抽出用シート材を製造した。
得られた抽出用シート材は、親水剤の付着量が0.1wt%であり、第2層側の表面抵抗値は4.03×1010 Ωであった。
【0060】
[実施例1-2:抽出用シート材]
加熱して溶融させた上記実施例1-1と同じポリエチレンテレフタレートを、紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂を、エジェクターを用いて紡糸速度5000m/分で延伸しつつ冷却して長繊維を形成し、その長繊維を一定速度で移動するベルトコンベア上に集積していくことでスパンボンド不織布(第1層)を形成した。
【0061】
次いで、上記の実施例1-1と同じ方法でメルトブロー不織布(第2層)を形成するとともに、上記第1層と上記第2層の両不織布を接着し、その後フラットロール間を通して長尺状の多層シート材を作成した。
得られた多層シート材は、メルトブロー不織布の繊維径が10.5μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が18/m2、通気度が432cc/cm2・secであった。
【0062】
次に、上記の実施例1-1と同じ方法で、上記多層シート材に、その第2層側から親水剤の分散液を噴霧して乾燥させて抽出用シート材を製造した。
得られた抽出用シート材は、親水剤の付着量が0.1wt%であり、第2層側の表面抵抗値は4.03×1010 Ωであった。
【0063】
[実施例2-1:抽出用バッグ]
上記実施例1-1の抽出用シート材を、製袋・充填装置(椿本興業株式会社製TWINKLE、充填能力200袋/分)にセットし、所定箇所を超音波シールにより線溶着して、テトラ形(一片50mm)の袋体を形成しつつ、緑茶の乾燥茶葉(株式会社伊藤園製おーいお茶プレミアムティーバッグ用乾燥茶葉)1.8gを封入することで、抽出用バッグを製造した。
【0064】
得られた抽出用バッグは、袋体中の乾燥茶葉が外部から透けて見えて、美しく見栄えのするものであり、乾燥茶葉の粉漏れは生じていなかった。
また、得られた抽出用バッグのタグを持って、その袋体を、カップに入った200mLの約95℃の熱湯の湯面に静かに下ろしたところ、袋体は湯中に速やかに沈降した。その後約30秒間で、袋体内の乾燥茶葉が十分に膨潤して拡がり、風味の良い緑茶を抽出することができた。
【0065】
[実施例2-2:抽出用バッグ]
上記実施例1-2の抽出用シート材を用い、上記の実施例2-1と同じ方法で抽出用バッグを製造した。
【0066】
得られた抽出用バッグは、袋体中の乾燥茶葉が外部から透けて見えて、美しく見栄えのするものであり、乾燥茶葉の粉漏れは生じていなかった。
また、得られた抽出用バッグのタグを持って、その袋体を、カップに入った200mLの約95℃の熱湯の湯面にゆっくり下ろしたところ、袋体は湯中に速やかに沈降した。その後約30秒間で、袋体内の乾燥茶葉が十分に膨潤して拡がり、風味の良い緑茶を抽出することができた。
【0067】
[試験例]
≪1. 多層シート材と長繊維シート材のサンプル作成≫
試験に用いる多層シート材として、以下に示す「多層シート材A1」~「多層シート材A13」を用意した。また、比較例のために、以下に示す「長繊維シート材a1」および「長繊維シート材a2」を用意した。
【0068】
多層シート材A1: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が5.6μm、目付が8g/m2であり、多層シート材の目付が23g/m2、通気性が79cc/cm2・secであった。
多層シート材A2: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が8.1μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が20g/m2、通気性が141cc/cm2・secであった。
【0069】
多層シート材A3: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が11.3μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が20g/m2、通気性が153cc/cm2・secであった。
多層シート材A4: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が9.7μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が19g/m2、通気性が279cc/cm2・secであった。
多層シート材A5~A9: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が10.5μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が18/m2、通気性が415cc/cm2・secであった。
多層シート材A10: 上記実施例1-1に準じた方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が10.3μm、目付が3g/m2であり、多層シート材の目付が13g/m2、通気性が720cc/cm2・secであった。
【0070】
多層シート材A11: 上記実施例1-2と同じ方法で作成し、メルトブロー不織布の繊維径が10.5μm、目付が6g/m2であり、多層シート材の目付が18g/m2、通気性が432cc/cm2・secであった。
【0071】
多層シート材A12: 織糸の材質がポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステルであり、繊度が25デニールのフィラメント糸を使用し、平織組織にて目付が11g/m2の紗を作成し、その上に、材質がポリエチレンテレフタレート、繊度が24μm、目付が2g/m2のメルトブロー不織布を積層させ、多層シート材を製造した。得られた長繊維シート材の通気性は2861cc/cm2・secであった。
【0072】
多層シート材A13: 編糸の材質がポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステルであり、繊度が25デニールのフィラメント糸を使用し、経編にて目付が11g/m2の編物を作成し、その上に、材質がポリエチレンテレフタレート、繊度が24μm、目付が2g/m2のメルトブロー不織布を積層させ、多層シート材を製造した。得られた長繊維シート材の通気性は2953cc/cm2・secであった。
【0073】
長繊維シート材a1: 加熱して溶融させたポリエチレンテレフタレートを紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂を、エジェクターを用いて紡糸速度5000m/分で延伸しつつ冷却して長繊維を形成し、その長繊維を一定速度で移動するベルトコンベア上に集積し、その後フラットロール間を通して長尺状のスパンボンド不織布からなる長繊維シート材を製造した。得られた長繊維シート材の目付は15g/m2、通気性は482cc/cm2・secであった。
【0074】
長繊維シート材a2: 織糸の材質がポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステルであり、繊度が25デニールのフィラメント糸を使用し、平織組織にて目付が21g/m2の紗からなる長繊維シート材を製造した。得られた長繊維シート材の通気性は5215cc/cm2・secであった。
【0075】
≪2. 抽出用シート材のサンプル作成≫
上記の「多層シート材A1」~「多層シート材A13」、「長繊維シート材a1」および「長繊維シート材a2」に、噴霧装置によって親水剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)の分散液を噴霧した後に乾燥させて、それぞれ「抽出用シート材B1」~「抽出用シート材B13」、「抽出用シート材b1」および「抽出用シート材b2」を作成した。
表1に示す表面抵抗値は、各サンプルの抽出用シート材の、その製造工程において親水剤を噴霧した側の面について測定したものである。
なお、「抽出用シート材B8」は、実施例1-1の抽出用シート材と同等の物であり、また「抽出用シート材B11」は、実施例1-2の抽出用シート材と同等の物である。
【0076】
≪3. 抽出用バッグのサンプル作成≫
上記の「抽出用シート材B1」~「抽出用シート材B13」、「抽出用シート材b1」および「抽出用シート材b2」を、製袋・充填装置(椿本興業株式会社製TWINKLE、充填能力200袋/分)にセットし、所定箇所を超音波シールにより線溶着してテトラ形(一片50mm)の袋体を形成しつつ、緑茶の乾燥茶葉(株式会社伊藤園製おーいお茶プレミアムティーバッグ用乾燥茶葉)1.8gを封入することで、それぞれ「抽出用バッグC1」~「抽出用バッグC13」、「抽出用バッグc1」および「抽出用バッグc2」を作成した。
なお、「抽出用バッグC8」は、実施例2-1の抽出用バッグと同等の物であり、また「抽出用バッグC11」は、実施例2-2の抽出用バッグと同等の物である。
【0077】
≪4. 抽出用バッグの湯中への沈降性試験≫
「抽出用バッグC1」~「抽出用バッグC13」、「抽出用バッグc1」および「抽出用バッグc2」のサンプルを、各10個ずつ用意し、これらの各抽出用バッグのサンプルについて、それらのタグを持って、袋体を、カップに入った200mLの約95℃の熱湯の湯面にゆっくり下し、各抽出用バッグの袋体の湯中への沈降状態を観察した。
【0078】
本試験の評価は、下記基準に拠った。
x:10個の全てのサンプルについて、袋体を最初に湯面に下した際に、湯中に速やかに沈降した。
y:10個のサンプル中に、袋体を最初に湯面に下した際に湯中に速やかに沈降せず、数秒間湯面上に浮いた状態になり、その後ゆっくりと湯中に沈降したサンプルが1個以上存在した。
本試験の結果は、表1の「評価:沈降性」欄に示すとおりである。
【0079】
【0080】
表1から、「メルトブロー不織布(第2層)を備え、かつ通気性が153~2953cc/cm2・secである多層シートのサンプル(A3~A13)を用いて作成した抽出用シート材であって、その表面抵抗値が9.51×10
12
Ω以下である抽出用シート材のサンプル」(B3~B13)を用いて作成した抽出用バッグのサンプル(C3~C13)は、湯面に下した際に、湯中に速やかに沈降することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明にかかる抽出用シート材および抽出用バッグは、紅茶、緑茶、コーヒー、スープなどの、飲料の抽出に用いる抽出用シートおよび抽出用バッグの分野に好適に利用できる。