(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】紡糸原液、フィブロイン繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 4/02 20060101AFI20221111BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20221111BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
D01F4/02
D01F1/10
D01D5/04
(21)【出願番号】P 2018015374
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亮二
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀人
(72)【発明者】
【氏名】工藤 久弘
(72)【発明者】
【氏名】シャファ-ト オリバ- セイエッド
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-196001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0081457(US,A1)
【文献】特表2011-530491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0047532(US,A1)
【文献】国際公開第2017/188430(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188434(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0194025(US,A1)
【文献】特開2010-150712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロインと、界面活性剤と、有機溶媒と、を含む、紡糸原液であって、
前記フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含み、
前記フィブロインの濃度が、紡糸原液全量を基準として5~40重量%であり、
前記界面活性剤の濃度が、紡糸原液全量を基準として0.1~10重量%であり、
前記界面活性剤が、非イオン界面活性剤である、
乾式紡糸法用紡糸原液。
[式1及び式2中、(A)
n
モチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合が40%以上である。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)
n
モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
前記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、請求項1に記載の紡糸原液。
【請求項3】
前記有機溶媒が、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びギ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1又は2に記載の紡糸原液。
【請求項4】
前記フィブロインが、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号17、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、又は配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号17、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の紡糸原液。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の紡糸原液。
【請求項6】
フィブロイン繊維の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の紡糸原液を用意する工程と、
前記紡糸原液を紡糸口金から空気中に吐出した後、加熱して前記有機溶媒を気化させてフィブロイン繊維を形成する工程と、
を備える、フィブロイン繊維の製造方法。
【請求項7】
フィブロイン繊維の製造方法であって、
フィブロインと、界面活性剤と、有機溶媒と、を含む、紡糸原液であって、
前記フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含み、
前記フィブロインの濃度が、紡糸原液全量を基準として5~40重量%であり、
前記界面活性剤の濃度が、紡糸原液全量を基準として0.1~10重量%である、紡糸原液の紡糸原液を用意する工程と、
前記紡糸原液を紡糸口金から空気中に吐出した後、加熱して前記有機溶媒を気化させてフィブロイン繊維を形成する工程と、を備え、
前記フィブロイン繊維を乾熱延伸する工程を更に備える、フィブロイン繊維の製造方法。
[式1及び式2中、(A)
n
モチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合が40%以上である。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)
n
モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項8】
前記乾熱延伸する工程における延伸倍率が2~30倍である、請求項
7に記載のフィブロイン繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸原液、フィブロイン繊維及びその製造方法に関する。本発明はまた、上記フィブロイン繊維を含む製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業分野において、利用価値の高い新素材としてフィブロイン繊維に関心が寄せられている。フィブロイン繊維として、従来から再生絹フィブロイン繊維及びクモ糸フィブロイン繊維が知られている。これらのフィブロイン繊維の製造方法として、湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法が多数報告されている。しかしながら、上記の製造方法においては、凝固浴及び水洗浴において液体を多量に用いる必要があり、生産性の向上には限度がある。
【0003】
乾式紡糸法としては、例えば、塩化カルシウムとギ酸の混合有機溶媒に精錬後の蚕絹フィブロインを溶解させたドープをシリンジから気中に吐出させて繊維を形成させる方法が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Xiaoxiao Yue et al,Materials Letters,128,2014年,pp.175-178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示されるような製造方法では、所定の強度を得るために、繊維を形成させた後、水や低級アルコール等の液体中への含浸工程、繊維に付着した液体の乾燥工程等の煩雑な後工程が必要であった。それ故、不可避的に工程数が増加するとともに、コストが重み、生産性が低く工業的に不利であった。
【0006】
本発明は、所定の強度を有するフィブロイン繊維を優れた生産性で製造するのに有用な紡糸原液を提供することを目的とする。本発明はまた、優れた生産性と所定の強度を有するフィブロイン繊維、及び当該フィブロイン繊維を優れた生産性で製造できる製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、フィブロインと界面活性剤と有機溶媒とを含む紡糸原液を、乾式紡糸法によって紡糸することで、繊維の液体中への含浸工程及びそれに付属する工程を経ずに、所定の強度を有するフィブロイン繊維が得られることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づく。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
フィブロインと、界面活性剤と、有機溶媒と、を含む、紡糸原液であって、
上記フィブロインの濃度が、紡糸原液全量を基準として5~40重量%であり、
上記界面活性剤の濃度が、紡糸原液全量を基準として0.1~10重量%である、紡糸原液。
[2]
上記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[1]に記載の紡糸原液。
[3]
上記有機溶媒が、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びギ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、[1]又は[2]に記載の紡糸原液。
[4]
上記界面活性剤が、非イオン界面活性剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の紡糸原液。
[5]
上記フィブロインが、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号17、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、又は配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号17、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の紡糸原液。
[6]
上記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の紡糸原液。
[7]
フィブロインと、界面活性剤と、を含むフィブロイン繊維であって、
上記界面活性剤の含有量が、上記フィブロインの含有量を基準として、0.001~50重量%である、フィブロイン繊維。
[8]
上記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[7]に記載のフィブロイン繊維。
[9]
[7]又は[8]に記載のフィブロイン繊維を含む製品であって、
長繊維、短繊維、糸、紡績糸、フィラメント、綿、紙、織物、編物、組み物、及び不織布、並びにそれらの等価物からなる群から選択される、製品。
[10]
フィブロイン繊維の製造方法であって、
[1]~[6]のいずれかに記載の紡糸原液を用意する工程と、
上記紡糸原液を紡糸口金から空気中に吐出した後、加熱して上記有機溶媒を気化させてフィブロイン繊維を形成する工程と、
を備える、フィブロイン繊維の製造方法。
[11]
上記フィブロイン繊維を乾熱延伸する工程を更に備える、[10]に記載のフィブロイン繊維の製造方法。
[12]
上記乾熱延伸する工程における延伸倍率が2~30倍である、[11]に記載のフィブロイン繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定の強度を有するフィブロイン繊維を優れた生産性で製造するのに有用な紡糸原液を提供することが可能となる。また、本発明によれば、所定の強度を有するフィブロイン繊維をより優れた生産性をもって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図2】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図3】フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
〔紡糸原液〕
本実施形態に係る紡糸原液は、界面活性剤を含むことを必須の構成とし、さらにフィブロインと、有機溶媒と、を含む。本実施形態に係る紡糸原液は、フィブロインと界面活性剤を有機溶媒に溶解させた紡糸原液ということもできる。
【0013】
紡糸原液に含まれる有機溶媒は、フィブロインを溶解し得るものであればよい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びギ酸等が挙げられる。これらの有機溶媒は、水を含んでいてもよい。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。有機溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)及びギ酸から選ばれる1種、又は2種以上の混合溶媒であることが好ましい。
【0014】
紡糸原液に含まれる界面活性剤は、イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。イオン性界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。紡糸原液に含まれる界面活性剤は、フィブロインの種類及び有機溶媒の特性等によって適宜選択すればよい。紡糸原液に界面活性剤が含まれることで、より機械物性に優れたフィブロイン繊維を得ることができる。
【0015】
カチオン界面活性剤としては、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム及び塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等の塩化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム及び臭化ステアリルトリメチルアンモニウム等の臭化アルキルトリメチルアンモニウム、及び塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルエチルアンモニウム及び塩化ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム等のテトラアルキル第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、及びステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン等の第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、並びに塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム及び塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩型カチオン界面活性剤が挙げられる。
【0016】
アニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム等のカルボン酸型アニオン界面活性剤、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム及びオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型アニオン界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸アンモニウム、等の硫酸エステル型アニオン界面活性剤、並びにラウリルリン酸及びラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型アニオン界面活性剤が挙げられる。
【0017】
両性界面活性剤としては、例えば、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等のアルキルベタイン型両性界面活性剤、2-ヘプタデシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルイミダゾール型両性界面活性剤、並びにラウリルジメチルアミンN-オキシド及びオレイルジメチルアミンN-オキシド等のアミンオキシド型両性界面活性剤が挙げられる。
【0018】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル及びポリオキシエチレンヒマシ油等のエーテル型非イオン界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルホウ酸エステル及びショ糖脂肪酸エステル等のエステル型非イオン界面活性剤、並びにポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレングリコールロジン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート及びポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等)等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルホウ酸エステル等のエステル・エーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアミノエーテル型非イオン界面活性剤、脂肪酸モノエタノールアミド及び脂肪酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型非イオン界面活性剤が挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸アルキルエステル分子、モノ不飽和脂肪酸アルキルエステル分子、ジ不飽和脂肪酸アルキルエステル分子、及びポリ不飽和脂肪酸アルキルエステル分子(すなわち、3つ以上の炭素-炭素二重結合を有する脂肪酸アルキルエステル分子)であってよい。
【0019】
界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤としては、市販のものを用いることができる。
【0020】
有機溶媒がギ酸である場合は、界面活性剤としては、非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)を含むことが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むことがより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルエステルを含むことが更に好ましい。
【0021】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、式:R1-O(CH2CH2O)m-R2(R1=CnH2n+1、R2=H)で表される。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-4-ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノドデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、及びポリオキシエチレンドコシルエーテル等が挙げられる。
【0022】
ポリオキシエチレンアルキルエステルは、式:R3-OCO(CH2CH2O)m-R4(R3=CnH2n+1、R4=H)で表される。ポリオキシエチレンアルキルエステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、及びポリオキシエチレンジステアレート等が挙げられる。
【0023】
フィブロインが、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(Met-PRT410、Met-PRT468、Met-PRT799、PRT410、PRT468及びPRT799)、又は配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号42、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号43で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(Met-PRT888、Met-PRT965、Met-PRT889、Met-PRT916、Met-PRT918、Met-PRT699、Met-PRT698、Met-PRT699、PRT888、PRT965、PRT889、PRT916、PRT918、PRT699、PRT698及びPRT699)である場合は、界面活性剤としては、非イオン界面活性剤を含むことが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルエステルを含むことがより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むことが更に好ましい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、式:R1-O(CH2CH2O)m-R2(R1=CnH2n+1、R2=H)中のアルキル基R1のnは4~22であることが好ましく、12~22であることがより好ましく、18~20であることがさらに好ましい。式中のmは4~50であることが好ましく、10~40であることがより好ましく、10~25であることがさらに好ましい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、及びポリオキシエチレンドコシルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエステルとしては、式:R3-OCO(CH2CH2O)m-R4(R3=CnH2n+1、R4=H)中のアルキル基R3のnは4~22であることが好ましく、12~22であることがより好ましく、18~20であることがさらに好ましい。式中のmは4~50であることが好ましく、10~40であることがより好ましく、10~25であることがさらに好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート及びポリエチレングリコールモノステアレート等が挙げられる。
【0024】
紡糸原液に含まれる界面活性剤の濃度は、特に限定されず、フィブロインの種類、フィブロインの濃度、有機溶媒の種類等に応じて適宜選択すればよい。例えば、紡糸原液全量を100重量%としたとき、界面活性剤の濃度は、0.1重量%~10重量%であってよく、0.1重量%~5.0重量%であってよく、0.2重量%~5.0重量%であってよく、0.3重量%~5.0重量%であってよく、0.4重量%~5.0重量%であってよく、0.5重量%~5.0重量%が好ましく、0.8重量%~3.0重量%がより好ましく、1.0重量%~3.0重量%がさらに好ましく、1.0重量%~2.0重量%が特に好ましい。界面活性剤の濃度が0.1重量%より少ない場合は、フィブロイン繊維の強度及び伸度向上効果を十分に得ることができない。界面活性剤の濃度が10重量%であれば十分な効果があり、10重量%を超えて濃度を高めた場合は製造コストが高くなるため好ましくない。
【0025】
紡糸原液におけるフィブロインの濃度は、紡糸原液全量を100重量%としたとき、5~40重量%であることが好ましく、10~35重量%であることがより好ましく、12~30重量%であることがさらに好ましく、15~25重量%であることが特に好ましい。フィブロインの濃度が5重量%未満である場合は、上記の界面活性剤を添加しても、フィブロイン繊維の応力、及び伸度を十分に向上させることが困難となる。フィブロインの濃度が40重量%を超えると、紡糸原液の粘度が著しく増大、又は溶解不良が発生し、紡糸口金から吐出した際に口金の孔が閉塞しやすく、生産性が低下する。
【0026】
紡糸原液の粘度は、乾式紡糸可能な粘度であれば特に限定する必要はないが、生産性の観点から、25℃において10,000~100,000mPa・secが好ましく、20,000~100,000mPa・secがより好ましく、20,000~80,000mPa・secが更に好ましく、30,000~50,000mPa・secが特に好ましい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0027】
紡糸原液は、乾式紡糸を行う観点から、金属元素を含まないことが好ましい。これにより、最終的に得られるフィブロイン繊維の品質が安定する他、繊維を後加工する際に油剤等を付与した場合でも、静電気の発生がより抑制される等、工程通過性が良好になる。
【0028】
紡糸原液の調製法は、特に限定されるものではなく、フィブロインと界面活性剤と有機溶媒とをそれぞれ任意の順序で混合してよい。界面活性剤と有機溶媒とを混合した後にフィブロインを溶解させてもよく、フィブロインを有機溶媒に溶解させた後に界面活性剤を混合してもよい。
【0029】
紡糸原液は、溶解を促進するために、ある程度の時間撹拌又は振とうしてもよい。その際、紡糸原液は必要により、使用するフィブロイン及び有機溶媒に応じて溶解可能な温度に加熱してもよい。紡糸原液は、例えば、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、又は、90℃以上に加熱してもよい。加熱温度の上限は、例えば、有機溶媒の沸点以下である。
【0030】
〔フィブロイン〕
本発明に係るフィブロインは、天然由来のフィブロインと改変フィブロインとを含む。本明細書において「天然由来のフィブロイン」とは、天然由来のフィブロインと同一のアミノ酸配列を有するフィブロインを意味し、「改変フィブロイン」とは、天然由来のフィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するフィブロインを意味する。
【0031】
本実施形態に係るフィブロインは、クモ糸フィブロインであることが好ましい。クモ糸フィブロインには、天然クモ糸フィブロイン、及び天然クモ糸フィブロインに由来する改変フィブロインが含まれる。天然クモ糸フィブロインとしては、例えば、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係るフィブロインは、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態に係るフィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0033】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、nは2~27である。nは、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0034】
天然由来のフィブロインとしては、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質を挙げることができる。天然由来のフィブロインの具体例としては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0035】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0036】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0037】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0038】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0039】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0040】
(改変フィブロイン)
改変フィブロインは、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0041】
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0042】
改変フィブロインは、例えば、カイコが産生する絹タンパク質に由来する改変フィブロインであってもよく、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質に由来する改変フィブロインであってもよい。
【0043】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0044】
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)としては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0045】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、ポリペプチドであってもよい。
【0046】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0047】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0048】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0049】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0050】
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0051】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0052】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0053】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0054】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0055】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0056】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0057】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0058】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0059】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0060】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0061】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
【0062】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0063】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0064】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0065】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0066】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0067】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0068】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0069】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0070】
タグ配列を含む第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0071】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0072】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0073】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0074】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0075】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0076】
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0077】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0078】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0079】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0080】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0081】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0082】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)
nモチーフという配列を有する。
【0083】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0084】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0085】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0086】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0087】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0088】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0089】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0090】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0091】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0092】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号18で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0093】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号10、配列番号18、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0094】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0095】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0096】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0097】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0098】
タグ配列を含む第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0099】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0100】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0101】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0102】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0103】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0104】
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)と、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0105】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、(4-ii)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0106】
タグ配列を含む第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0107】
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0108】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0109】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0110】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0111】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0112】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0113】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0114】
【0115】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0116】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図2の場合28/170=16.47%となる。
【0117】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0118】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0119】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0120】
第5の改変フィブロインの具体的な例として、(5-i)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0121】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0122】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0123】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0124】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0125】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0126】
タグ配列を含む第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0127】
配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0128】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0129】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0130】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0131】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0132】
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)は、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0133】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0134】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0135】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0136】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0137】
図3は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図3に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0138】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0139】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0140】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0141】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0142】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0143】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0144】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0145】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0146】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0147】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0148】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。
【0149】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met-PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0150】
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0151】
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0152】
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0153】
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0154】
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0155】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met-PRT410(配列番号7)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met-PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0156】
配列番号32で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0157】
配列番号33で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0158】
配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT966)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(N末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0159】
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0160】
【0161】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0162】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0163】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0164】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0165】
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0166】
配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号43で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号43で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0167】
【0168】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号43で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0169】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0170】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0171】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0172】
本実施形態に係る改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0173】
(フィブロインの製造方法)
フィブロイン(タンパク質)は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0174】
フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、必要に応じて遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるフィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0175】
調節配列は、宿主におけるフィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0176】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0177】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0178】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0179】
原核生物を宿主とする場合、フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0180】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0181】
真核生物を宿主とする場合、フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0182】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0183】
フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0184】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0185】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0186】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0187】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0188】
発現させたフィブロインの単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0189】
また、フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてフィブロインの不溶体を回収する。回収したフィブロインの不溶体は、タンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりフィブロインの精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0190】
〔フィブロイン繊維の製造方法〕
本発明に係るフィブロイン繊維の製造方法は、上述した本発明に係る紡糸原液を用いて乾式紡糸法によりフィブロイン繊維を紡糸するものである。すなわち、本発明に係るフィブロイン繊維の製造方法は、上述した本発明に係る紡糸原液を用意する工程と、当該紡糸原液を紡糸口金から空気中に吐出した後、加熱して有機溶媒を気化させてフィブロイン繊維を形成する工程(紡糸工程)とを少なくとも備える。当該各工程により得られたフィブロイン繊維は、そのまま任意の用途に用いてもよい。また、フィブロイン繊維を乾熱延伸する工程(乾熱延伸工程)を更に行い、任意の延伸倍率に延伸したフィブロイン繊維を得て、得られたフィブロイン繊維を任意の用途に用いてもよい。
【0191】
本実施形態に係る製造方法は、吐出前に紡糸原液を濾過する工程(濾過工程)、及び/又は吐出前に紡糸原液を脱泡する工程(脱泡工程)を更に備えるものであってもよい。
【0192】
紡糸工程は、例えば、紡糸原液として本発明に係る紡糸原液を使用する他は、公知の乾式紡糸法により実施することができる。また、紡糸工程は、エレクトロスピニング法(静電紡糸法)により実施することもできるが、製造工程の簡易化という観点から、エレクトロスピニング法以外の方法で実施することが好ましい。
【0193】
紡糸工程において、紡糸口金の口金形状、ホール形状、ホール数などは特に限定されるものではなく、所望の繊維径及び単糸本数等に応じて適宜選択できる。
【0194】
紡糸口金のホール形状が円形である場合は、0.1mm以上0.6mm以下の孔径を例示できる。孔径が0.1mm以上であると、圧力損失を低減することができ設備費用を抑えられるので好ましい。また孔径が0.6mm以下であると、繊維径を細くするための延伸操作の必要性が低減され、吐出から引き取りまでの間で延伸切れを起こす可能性を低減できるので好ましい。
【0195】
紡糸口金から紡糸原液を吐出する方法に特に制限はないが、例えば、紡糸原液の送液手段として定量ポンプを用いる方法を使用することができる。吐出量は生産速度に応じて適宜調整することができる。
【0196】
紡糸口金を通過する際の紡糸原液の温度、及び紡糸口金の温度は、特に限定されるものではなく、用いる紡糸原液の濃度及び粘度、有機溶媒の種類等により適宜調整すればよい。当該温度は、フィブロインの劣化等を防止するという観点から、30℃~100℃が好ましい。また、当該温度は、有機溶媒の揮発による圧力上昇、紡糸原液の固形化による配管内の閉塞が発生する可能性を低減するという観点から、用いる有機溶媒の沸点に満たない温度を上限とすることが好ましい。これにより工程安定性が向上する。
【0197】
紡糸工程で得られた未延伸糸(又は前延伸糸)は、延伸工程を経て延伸糸とすることができる。延伸方法としては、例えば、乾熱延伸が挙げられる。
【0198】
乾熱延伸の前又は後、或いは、乾熱延伸の前及び後に、必要に応じて、未延伸糸(若しくは前延伸糸)又は延伸糸に対して、帯電抑制及び潤滑性等を付与する目的で油剤を付与してもよい。付与する油剤の種類及び付与する量等は、特に限定されるものではなく、フィブロイン繊維を使用する用途、フィブロイン繊維の取扱い性等を考慮し適宜調整することができる。
【0199】
乾熱延伸では、乾燥後の未延伸糸(又は前延伸糸)を熱延伸する。このときの加熱温度は十分な延伸及び強度が発現する条件であれば特に限定されるものではないが、例えば、100℃~270℃であってよく、140℃~230℃であってよく、140℃~200℃であってよく、160℃~200℃であってよく、160℃~180℃であってよい。また、乾熱延伸工程は、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。なお、乾熱延伸する際に用いる装置としては、接触型の熱板、及び非接触型の炉などがあるが、特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であればよい。
【0200】
乾熱延伸工程における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、2~30倍であってよく、2~20倍であってよく、3~15倍であってよく、3~10倍であることが好ましく、4~8倍であることがより好ましいが、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
【0201】
乾熱延伸後のフィブロイン繊維はワインダーで巻取ってもよい。ワインダーでの巻取り方法については、公知のワインダーを用い、適宜張力及び接圧等の巻取り条件を調整して巻き取ることができる。
【0202】
以上の方法により得られる本発明のフィブロイン繊維は、線形の形状を有する。
【0203】
本発明に係るフィブロイン繊維は、さらに湿熱延伸処理を行った後、ワインダーで巻取ってもよい。湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、40~200℃であってよく、50~180℃であってよく、50~150℃であってよく、75~90℃が好ましい。湿熱延伸では、フィブロイン繊維を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましく、2~4倍延伸することがさらに好ましい。さらに湿熱延伸処理を行うことにより、フィブロイン繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。また、この湿熱延伸工程は、必要に応じて多段階に分けて行ってもよい。
【0204】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【0205】
〔フィブロイン繊維〕
本発明に係るフィブロイン繊維は、フィブロインと、界面活性剤とを含有する。界面活性剤の含有量の下限値は、フィブロインの含有量を基準として、0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1重量%以上、又は1.2重量%以上であってよく、界面活性剤の含有量の上限値は、フィブロインの含有量を基準として、1.5重量%以下、2.0重量%以下、2.0重量%以下、2.5重量%以下、3.0重量%以下、4.0重量%以下、5.0重量%以下、6.0重量%以下、7.0重量%以下、8.0重量%以下、9.0重量%以下、10重量%以下、10重量%以下、15重量%以下、20重量%以下、25重量%以下、30重量%以下、35重量%以下、40重量%以下、45重量%以下、又は50重量%以下であってよい。
【0206】
本実施形態に係るフィブロイン繊維は、紡糸原液に界面活性剤が含まれることから、界面活性剤が、フィブロイン繊維表面に付着している場合、フィブロイン繊維中に内包されている場合、又はフィブロイン繊維表面に付着し、かつ繊維中に内包されている場合がある。そのため、必要に応じてフィブロイン繊維表面に付着している界面活性剤、及び/又はフィブロイン繊維中に内包されている界面活性剤は、取り除いてもよい。界面活性剤を取り除く場合には、除去方法は特に限定されないが、フィブロイン繊維を水、温水、又は蒸気で洗浄してもよい。乾燥処理などが不必要であるという観点から、フィブロイン繊維を過熱水蒸気で洗浄するのが好ましい。
【0207】
本実施形態に係るフィブロイン繊維は、さらにフィブロイン繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させてもよい。架橋させることができる官能基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋できる。真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより架橋してもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤により架橋させてもよい。
【0208】
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式R1N=C=NR2(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、EDC及びDICはポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから好ましい。
【0209】
架橋処理は、フィブロイン繊維に架橋剤を付与して真空加熱乾燥で架橋するのが好ましい。架橋剤は純品をフィブロイン繊維に付与してもよいし、炭素数1~5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005~10質量%の濃度に希釈したものをフィブロイン繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20~45℃で3~42時間行うのが好ましい。架橋処理により、フィブロイン繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
【0210】
〔製品〕
本実施形態に係るフィブロイン繊維は、繊維又は糸として、織物、編物、組み物、不織布等の布帛に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。これらは、国際公開WO2013/065650号等に記載の方法に準じて製造することができる。また、本実施形態に係るフィブロイン繊維は、長繊維、短繊維、紡績糸、フィラメント、紙、綿、及びその等価物にも応用でき、これらは、特開2009-505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0211】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0212】
〔フィブロイン繊維の評価方法〕
フィブロイン繊維の各特性値は、以下の方法で評価した。
【0213】
(フィブロイン繊維の繊維径評価)
フィブロイン繊維軸に対して垂直方向にフィブロイン繊維を切断し、繊維断面をNikon社製ECLIPSE LV100NDを用いて観察し、画像処理ソフト(Nikon社製NIS-Elements D)を用いて繊維径を計測した。
【0214】
(フィブロイン繊維の機械物性評価)
JIS L1013に基づいて試験を実施した。インストロン社製3345シリーズの引張試験機を用いて、試験長300mm、試験速度30mm/分の試験条件でフィブロイン繊維の強度(引張強度)及び伸度を測定した。
【0215】
〔改変フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号15及び配列番号43で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、それぞれ「PRT799」及び「PRT966」ともいう。)を設計した。なお、配列番号15で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。配列番号43で示されるアミノ酸配列(PRT966)は、疎水度の向上を目的として、配列番号9で示されるアミノ酸配列(N末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換し、さらにN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加したものである。
【0216】
次に、PRT799及びPRT966をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、それぞれタンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0217】
(2)改変フィブロインの発現
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0218】
【0219】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0220】
【0221】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0222】
(3)改変フィブロインの精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変フィブロイン(PRT799及びPRT966)を得た。
【0223】
〔フィブロイン繊維の製造及び評価〕
(実施例1)
上記のようにして得られた改変フィブロイン(PRT966)25重量%と、有機溶媒としてギ酸73.5重量%と、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル1.5重量%とを混合して溶解させ、紡糸原液を調製した。
【0224】
調製した紡糸原液を目開き1μmの金属フィルターで濾過し、次いで脱泡させた後に、径0.2mmの紡糸口金を用いて、下方向に吐出した。次に紡糸口金から吐出した紡糸原液を100℃の円筒型加熱炉で30秒間加熱した後、ローラーで引き取り、フィブロイン繊維を得た。
【0225】
(実施例2)
紡糸原液における溶質を、上記のようにして得られた改変フィブロイン(PRT799)とし、ギ酸の濃度及び界面活性剤の濃度を表6に記載のとおり変更した他は、実施例1と同様にして紡糸原液を調製した。調製した紡糸原液を実施例1と同様に処理し、径0.2mmの紡糸口金を用いて、下方向に吐出した。次に紡糸口金から吐出した紡糸原液を100℃の円筒型加熱炉で30秒間加熱した後、ローラーで引き取り、さらに5倍に乾熱延伸してフィブロイン繊維を得た。
【0226】
(比較例1)
紡糸原液におけるギ酸の濃度を表6に記載のとおり変更し、界面活性剤を添加しなかったことの他は、実施例1と同様にして紡糸原液を調製した。調製した紡糸原液を実施例1と同様に処理し、実施例1と同様に紡糸口金から吐出させたところ、吐出後の紡糸原液を引き延ばすことができず、繊維を形成させることができなかった。
【0227】
(比較例2)
紡糸原液におけるギ酸の濃度を表6に記載のとおり変更し、界面活性剤を添加しなかったことの他は、実施例2と同様にして紡糸原液を調製した。調製した紡糸原液を実施例1と同様に処理し、実施例1と同様に紡糸口金から吐出させたところ、吐出後の紡糸原液を引き延ばすことができず、繊維を形成させることができなかった。
【0228】
【0229】
表6に示した通り、紡糸原液におけるフィブロイン濃度を25wt%とした場合、界面活性剤を添加した紡糸原液を用いた場合のみ、フィブロイン繊維を得ることができた。
【0230】
実施例2で得られたフィブロイン繊維の繊維径評価及び機械物性評価を行なった。フィブロイン繊維の繊維径、機械物性及び製造条件は表7に示されたとおりであった。
【0231】
(実施例3)
紡糸原液におけるフィブロインの濃度、ギ酸の濃度、及び界面活性剤の濃度を表7に記載のとおり変更した他は、実施例2と同様にして紡糸原液を調製し、フィブロイン繊維を得た。得られたフィブロイン繊維の繊維径、機械物性及び製造条件は表7に示された通りであった。
【0232】
(実施例4)
紡糸原液におけるフィブロインの濃度、ギ酸の濃度、及び界面活性剤の濃度を表7に記載のとおり変更し、延伸倍率を4倍に変更した他は、実施例2と同様にして紡糸原液を調製し、フィブロイン繊維を得た。得られたフィブロイン繊維の繊維径、機械物性及び製造条件は表7に示された通りであった。
【0233】
(実施例5)
紡糸原液におけるフィブロインの濃度、ギ酸の濃度、及び界面活性剤の濃度を表7に記載のとおり変更した他は、実施例2と同様にして紡糸原液を調製し、フィブロイン繊維を得た。得られたフィブロイン繊維の繊維径、機械物性及び製造条件は表7に示された通りであった。
【0234】
(比較例3)
紡糸原液におけるフィブロインの濃度、及びギ酸の濃度を表7に記載のとおり変更し、界面活性剤を添加しなかったことの他は、実施例2と同様に紡糸原液を調製した。調製した紡糸原液を実施例2と同様に処理し、実施例2と同様に紡糸口金から吐出させたところ、繊維化は可能であったものの、延伸工程における延伸倍率を高めることができず、得られたフィブロイン繊維の機械物性は低いものであった(表7)。
【0235】
【配列表】