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特許7174984脱細胞化担体製造方法、脱細胞化担体保存方法、細胞充填方法、細胞シート作製方法、及び脱細胞化溶液キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】脱細胞化担体製造方法、脱細胞化担体保存方法、細胞充填方法、細胞シート作製方法、及び脱細胞化溶液キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221111BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
A61L27/36 410
A61L27/38
A61L27/40
A61L27/54
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018024965
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019136011
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194146
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(74)【代理人】
【識別番号】100141324
【弁理士】
【氏名又は名称】小河 卓
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 工
(72)【発明者】
【氏名】浦橋 泰然
(72)【発明者】
【氏名】笠原 尚哉
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510391(JP,A)
【文献】特表2017-522009(JP,A)
【文献】特開2015-164549(JP,A)
【文献】特表2013-507164(JP,A)
【文献】特開2006-255288(JP,A)
【文献】特表2005-531355(JP,A)
【文献】人工臓器, 2016, vol. 45, no. 1, pp. 67-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摘出された臓器又は組織を凍結保存する凍結保存工程と、
前記凍結保存工程にて凍結保存された前記臓器又は前記組織を解凍する解凍工程と、
前記解凍工程にて解凍された前記臓器又は前記組織を脱細胞化する脱細胞化工程とを含み、
前記脱細胞化工程は、
解凍された前記臓器又は前記組織を難水溶性界面活性剤含有溶液で120分以内、灌流する難水溶性界面活性剤灌流工程と、
前記難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された前記臓器又は前記組織を親水溶性界面活性剤含有溶液で180分以内、灌流し、前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤を除去する親水溶性界面活性剤灌流工程とを含み、
前記臓器又は前記組織は、胎盤を除き、
前記難水溶性界面活性剤は、親油性であり、
前記解凍工程、前記難水溶性界面活性剤灌流工程、及び前記親水溶性界面活性剤灌流工程は繰り返されず、48時間以内に完了する
ことを特徴とする脱細胞化担体製造方法。
【請求項2】
前記凍結保存工程は、
前記臓器又は前記組織を生理食塩水で灌流して脱血する凍結時脱血工程と、
前記凍結時脱血工程にて脱血された前記臓器又は前記組織を、凍結保存溶液で灌流する凍結保存溶液灌流工程とを含み、
前記凍結保存溶液は、0.01~0.3%の過酸化水素水を含む生理食塩水であり、
前記凍結時脱血工程の生理食塩水及び/又前記凍結保存溶液は、500~4000Uヘパリンを含んでいてもよい
ことを特徴とする請求項1に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項3】
前記凍結保存工程は、
前記凍結保存溶液灌流工程にて灌流された前記臓器又は前記組織を、前記凍結保存溶液で満たして膨化させ静脈側及び動脈側を閉じた状態とする膨化工程と、
膨化された前記臓器又は前記組織に付着した余剰の前記凍結保存溶液を除去する余剰溶液除去工程と、
前記余剰溶液除去工程にて余剰の前記凍結保存溶液を除去された前記臓器又は前記組織を-20℃以下で凍結する凍結工程とを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項4】
前記凍結保存工程は、
前記凍結工程後、脱細胞化工程前の前記臓器又は前記組織を特定期間保存する期間保存工程を更に含む
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項5】
前記解凍工程は、
凍結保存された前記臓器又は前記組織を低温冷蔵状態で溶液に浸さず解凍する低温冷蔵解凍工程と、
前記低温冷蔵解凍工程にて解凍された前記臓器又は前記組織を、タンパク質分解抑制剤含有の生理食塩水で灌流して脱血する解凍時脱血工程と、
前記解凍時脱血工程にて脱血された前記臓器又は前記組織の破損有無を確認する確認工程と、
前記確認工程により確認された前記臓器又は前記組織を灌流用容器に接続する接続工程とを含む
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項6】
前記解凍時脱血工程は、
前記臓器又は前記組織に含まれる微小血栓を除去する血栓除去工程を含む
ことを特徴とする請求項5に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項7】
前記脱細胞化工程は、
前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる前記難水溶性界面活性剤は、NP-40であり、
前記親水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる前記親水溶性界面活性剤は、SDSである
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項8】
前記脱細胞化工程は、
前記親水溶性界面活性剤灌流工程にて灌流された前記臓器又は前記組織を洗浄後、安定化する安定化工程を含む
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項9】
前記安定化工程は、
前記臓器又は前記組織を内腔閉塞を予防するよう0.1~3%ホルムアルデヒド溶液で灌流し、該ホルムアルデヒド溶液に前記臓器又は前記組織を満たす
ことを特徴とする請求項8に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項10】
前記臓器は、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺、小腸、及び精巣を含み、
前記組織は、皮膚、尿管、及び血管を含む
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項11】
二重鎖DNA及び糖鎖構造を消失させる
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法により製造された脱細胞化担体を、
30%ショ糖液が浸漬されて凍結保存する
ことを特徴とする脱細胞化担体保存方法。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法により製造された、又は請求項12に記載の脱細胞化担体保存方法により保存された脱細胞化担体を生理食塩水で灌流する生理食塩水灌流工程と、
前記生理食塩水灌流工程により灌流された前記脱細胞化担体を培養液で灌流して置き換える置換工程と、
前記置換工程にて前記培養液が灌流された前記脱細胞化担体の動脈から培養細胞を注入する細胞注入工程と、
前記細胞注入工程により前記培養細胞が注入された後に灌流を停止して細胞を前記脱細胞化担体に接着させる細胞接着工程と、
前記細胞接着工程により前記細胞が接着された前記脱細胞化担体に前記培養液の灌流を再開させて培養する灌流培養工程とを含む
ことを特徴とする細胞充填方法。
【請求項14】
前記臓器又は前記組織が小腸の場合、
動脈と門脈とを接続して灌流を行う
ことを特徴とする請求項13に記載の細胞充填方法。
【請求項15】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の脱細胞化担体製造方法により製造された、又は請求項12に記載の脱細胞化担体保存方法により保存された脱細胞化担体を脱細胞化組織断片に薄層切片化する薄層切片化工程と、
前記薄層切片化工程により薄層切片化された前記脱細胞化組織断片を洗浄し、培養細胞を播種する播種工程と、
前記播種工程により前記培養細胞が播種された前記脱細胞化組織断片を培養する培養工程とを含む
ことを特徴とする細胞シート作製方法。
【請求項16】
臓器又は組織から脱細胞化担体を製造するための脱細胞化溶液キットであって、
解凍された前記臓器又は前記組織を120分以内、灌流する難水溶性界面活性剤含有溶液と、
前記難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された前記臓器又は前記組織を180分以内、灌流し、前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤を除去する親水溶性界面活性剤含有溶液とを含み、
前記臓器又は前記組織は、胎盤を除き、
前記難水溶性界面活性剤は、親油性であり、
請求項1~11のいずれかに記載の方法を実施するための説明書を含む
ことを特徴とする脱細胞化溶液キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に脱細胞化担体製造方法、脱細胞化担体、細胞充填方法、細胞シート作製方法、及び脱細胞化溶液キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、臓器や組織から細胞を取り除き、細胞外マトリクスからなる脱細胞化担体を製造するための脱細胞化に関する技術が開発されてきた。このような脱細胞化担体は、細胞が増殖するための足場(スキャフォールド、scaffold)として生体への移植用に用いられたり、研究用の生体材料として用いられたりしている。
【0003】
ここで、特許文献1を参照すると、従来の脱細胞化担体として、細胞外マトリックスが外表面を含み、血管樹を含む該細胞外マトリックスが、脱細胞化前の該細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、かつ該外表面が、実質的にインタクトである脱細胞化された哺乳類臓器が記載されている。
特許文献1の脱細胞化担体は、1か所もしくは複数の腔、血管、および/または管において、カニューレを該臓器に挿入することで、カニューレが挿入された臓器を作製する段階;ならびに、カニューレが挿入された該臓器に第1の細胞破壊媒体を、1か所もしくは複数のカニューレ挿入を介して灌流する段階を含む。この細胞破壊媒体は、少なくとも1種類の界面活性剤を含む。また、界面活性剤が、SDS、PEG、またはTriton Xからなる群より選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-164549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る従来の脱細胞化担体は、細胞骨格及び細胞外マトリクスが脆弱になっており、筋肉による動きや腹圧等の生体内環境の影響により、脱細胞化担体は萎縮や破損していた。したがって、実際の医療への応用化が非常に困難であった。また、従来の脱細胞化担体は、臓器または組織内に走行している各脈管系、特に毛細血管など微小血管の構造が破綻しており、細胞充填後の臓器又は組織復元が困難であった。つまり、従来の脱細胞化担体は、性能が低かった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、硬度や柔軟性を保っている、高性能の脱細胞化担体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脱細胞化担体製造方法は、摘出された臓器又は組織を凍結保存する凍結保存工程と、前記凍結保存工程にて凍結保存された前記臓器又は前記組織を解凍する解凍工程と、前記解凍工程にて解凍された前記臓器又は前記組織を脱細胞化する脱細胞化工程とを含み、前記脱細胞化工程は、解凍された前記臓器又は前記組織を難水溶性界面活性剤含有溶液で120分以内、灌流する難水溶性界面活性剤灌流工程と、前記難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された前記臓器又は前記組織を親水溶性界面活性剤含有溶液で180分以内、灌流し、前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤を除去する親水溶性界面活性剤灌流工程とを含み、前記臓器又は前記組織は、胎盤を除き、前記難水溶性界面活性剤は、親油性であり、前記解凍工程、前記難水溶性界面活性剤灌流工程、及び前記親水溶性界面活性剤灌流工程は繰り返されず、48時間以内に完了することを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記凍結保存工程は、前記臓器又は前記組織を生理食塩水で灌流して脱血する凍結時脱血工程と、前記凍結時脱血工程にて脱血された前記臓器又は前記組織を、凍結保存溶液で灌流する凍結保存溶液灌流工程とを含み、前記凍結保存溶液は、0.01~0.3%の過酸化水素水を含む生理食塩水であり、前記凍結時脱血工程の生理食塩水及び/又前記凍結保存溶液は、500~4000Uヘパリンを含んでいてもよいことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記凍結保存工程は、前記凍結保存溶液灌流工程にて灌流された前記臓器又は前記組織を、前記凍結保存溶液で満たして膨化させる膨化工程と、膨化された前記臓器又は前記組織に付着した余剰の前記凍結保存溶液を除去する余剰溶液除去工程と、前記余剰溶液除去工程にて余剰の前記凍結保存溶液を除去された前記臓器又は前記組織を-20℃以下で凍結する凍結工程とを含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記凍結保存工程は、前記凍結工程後、脱細胞化工程前の前記臓器又は前記組織を特定期間保存する期間保存工程を更に含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記解凍工程は、凍結保存された前記臓器又は前記組織を低温冷蔵状態で解凍する低温冷蔵解凍工程と、前記低温冷蔵解凍工程にて解凍された前記臓器又は前記組織を、タンパク質分解抑制剤含有の生理食塩水で灌流して脱血する解凍時脱血工程と、前記解凍時脱血工程にて脱血された前記臓器又は前記組織の破損有無を確認する確認工程と、前記確認工程により確認された前記臓器又は前記組織を灌流用容器に接続する接続工程とを含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記解凍時脱血工程は、前記臓器又は前記組織に含まれる微小血栓を除去する血栓除去工程を含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記脱細胞化工程は、前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤は、NP-40であり、前記親水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる親水溶性界面活性剤は、SDSであることを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記脱細胞化工程は、前記親水溶性界面活性剤灌流工程にて灌流された前記臓器又は前記組織を洗浄後、安定化する安定化工程を含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記安定化工程は、前記臓器又は前記組織を0.1~3%ホルムアルデヒド溶液で灌流し、該ホルムアルデヒド溶液に前記臓器又は前記組織を満たすことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、前記臓器は、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺、小腸、及び精巣を含み、前記組織は、皮膚、尿管、及び血管を含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体製造方法は、二重鎖DNA及び糖鎖構造を消失させることを特徴とする。
本発明の脱細胞化担体保存方法は、前記脱細胞化担体製造方法により製造された脱細胞化担体を、30%ショ糖液が浸漬されて凍結保存することを特徴とする。
本発明の細胞充填方法は、前記脱細胞化担体製造方法により製造された、又は前記脱細胞化担体保存方法により保存された脱細胞化担体を生理食塩水で灌流する生理食塩水灌流工程と、前記生理食塩水灌流工程により灌流された前記脱細胞化担体を培養液で灌流して置き換える置換工程と、前記置換工程にて前記培養液が灌流された前記脱細胞化担体の動脈から培養細胞を注入する細胞注入工程と、前記細胞注入工程により前記培養細胞が注入された後に灌流を停止して細胞を前記脱細胞化担体に接着させる細胞接着工程と、前記細胞接着工程により前記細胞が接着された前記脱細胞化担体に前記培養液の灌流を再開させて培養する灌流培養工程とを含むことを特徴とする。
本発明の細胞充填方法は、前記臓器又は前記組織が小腸の場合、動脈と門脈とを接続して灌流を行うことを特徴とする。
本発明の細胞シート作製方法は、前記脱細胞化担体製造方法により製造された、又は前記脱細胞化担体保存方法により保存された脱細胞化担体を脱細胞化組織断片に薄層切片化する薄層切片化工程と、前記薄層切片化工程により薄層切片化された前記脱細胞化組織断片を洗浄し、培養細胞を播種する播種工程と、前記播種工程により前記培養細胞が播種された前記脱細胞化組織断片を培養する培養工程とを含むことを特徴とする。
本発明の脱細胞化溶液キットは、臓器又は組織から脱細胞化担体を製造するための脱細胞化溶液キットであって、解凍された前記臓器又は前記組織を120分以内、灌流する難水溶性界面活性剤含有溶液と、前記難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された前記臓器又は前記組織を180分以内、灌流し、前記難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤を除去する親水溶性界面活性剤含有溶液とを含み、前記臓器又は前記組織は、胎盤を除き、前記難水溶性界面活性剤は、親油性であり、前記記載の方法を実施するための説明書を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摘出された臓器又は組織を凍結保存し、凍結保存された臓器又は組織を解凍し、解凍された臓器又は組織を難水溶性界面活性剤含有溶液で灌流し、その後、親水溶性界面活性剤含有溶液で灌流することで、細胞骨格及び細胞外マトリクスの硬度や柔軟性を保つことが可能な、高性能の脱細胞化担体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る肝臓の難水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図2】本発明の実施例に係る肝臓の親水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図3】本発明の実施例に係る腎臓の親水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図4】本発明の実施例に係る脾臓の解凍時脱血工程及び親水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図5】本発明の実施例に係る心臓の親水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図6】本発明の実施例に係る肺の親水溶性界面活性剤灌流工程の写真である。
図7A】本発明の実施例に係る心臓の脱細胞化組織断片の細胞生着性を確認した写真である。
図7B】本発明の実施例に係る腎臓の脱細胞化組織断片の細胞生着性を確認した写真である。
図7C】本発明の実施例に係る肺の脱細胞化組織断片の細胞生着性を確認した写真である。
図7D】本発明の実施例に係る肝臓の脱細胞化組織断片について細胞生着性を確認した写真である。
図8A】本発明の実施例に係る腎臓及び脾臓の脱細胞化担体についての電子顕微鏡写真である。
図8B】本発明の実施例に係る心臓及び肺の脱細胞化担体についての電子顕微鏡写真である。
図8C】本発明の実施例に係る肝臓及び小腸の脱細胞化担体についての電子顕微鏡写真である。
図9】本発明の実施例に係る細胞外基質に関した解析(免疫染色)の写真である。
図10】本発明の実施例に係る脱細胞化担体(肝臓)の移植実験の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態>
近年、脱細胞化担体に関する技術報開発が行われており、国内外で様々な技術が開発されている。しかしながら、従来の脱細胞化担体製造方法は、脱細胞化完了までの時間が、例えばラットで24~72時間かかっていた。また、洗浄工程を含めると更に3日から7日間の日数を必要としていた。このため、脱細胞化の期間内に細胞外マトリクスの破綻や腐敗等が進行する可能性が高かった。つまり、従来の脱細胞化担体の製造方法では、細胞骨格及び細胞外マトリクスが脆弱になっていた。よって、移植時に行う血管吻合の工程が非常に困難になっていた。
これに対して、本発明者らは鋭意実験と試験を行い、摘出された臓器又は組織を凍結保存することで、高品質の脱細胞化担体を製造しやすくなることを見いだした。更に、試行錯誤を繰り返したところ、この凍結保存された臓器又は組織を解凍し、解凍された臓器又は組織を難水溶性界面活性剤含有溶液で灌流し、その後、親水溶性界面活性剤含有溶液で灌流するようすると良いことを見いだし、発明を完成するに至った。本実施形態の脱細胞化担体製造方法により、細胞骨格及び細胞外マトリクスの硬度や柔軟性を高度に保ちつつ、血管吻合が容易となる、高性能な脱細胞化担体を製造できる。
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法の構成及び効果について、具体的且つ詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、摘出された臓器又は組織を凍結保存する凍結保存工程と、凍結保存工程にて凍結保存された臓器又は組織を解凍する解凍工程と、解凍工程にて解凍された臓器又は組織を脱細胞化する脱細胞化工程とを含むことを特徴とする。
このように構成することで、脱細胞化担体を従来技術より短時間で製造することが可能となる。また、脱細胞化担体の細胞骨格及び細胞外マトリクスの硬度や柔軟性を高度に保つことが可能となる。よって、高品質の脱細胞化担体を製造することができる。製造された脱細胞化担体は、臓器構造を用いた高度な実験用に用いることが可能となる。また、製造された脱細胞化担体は、血管吻合が容易となり、皮膚、小腸、血管及び心臓弁等の医療用部材として、臨床応用することが可能となる。また、製造された脱細胞化担体が再生医療用材料、足場材料(scaffold)として用いることが可能となる。
さらに、本実施形態の脱細胞化担体の製造方法で製造された脱細胞化担体は、後述するように、iPS細胞、ES細胞等から分化誘導した機能細胞の生着及び機能発現した臓器作製を可能とすることができる。このため、再生医療分野での応用が期待できる。
【0013】
また、本実施形態の脱細胞化担体製造方法にて製造された脱細胞化担体は細胞外マトリックスの消失が最小限となる。これにより、後述する実施例の免疫染色及び電子顕微鏡画像にて示すように、細部の構造を高度に維持した脱細胞化担体となる。
また、本発明で作製された脱細胞化担体は、Double stranded DNA(以下、「dsDNA」という。)及び糖鎖構造が消失するため、抗原性がほとんどなくなる。このため、生体応用が容易となる。
【0014】
また、従来の脱細胞化担体製造方法は「臓器特異的」であるため、脱細胞化を行う臓器や組織にプロトコル及び脱細胞化溶液を合わせる必要があった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、臓器は、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺、小腸、及び精巣を含み、組織は、皮膚、尿管、及び血管を含むことを特徴とする。
つまり、本実施形態の脱細胞化担体製造方法においては、掃出した臓器である肝臓、腎臓、牌臓、心臓、肺、小腸、並びに精巣、及び組織である皮膚、尿管、並びに血管等を同一組成液及び同一プロトコルにて脱細胞化が可能であり、且つ、短時間に処理可能となる。
【0015】
また、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法において、凍結保存工程は、臓器又は組織を生理食塩水で灌流して脱血する凍結時脱血工程と、凍結時脱血工程にて脱血された臓器又は組織を、凍結保存溶液で灌流する凍結保存溶液灌流工程と、凍結保存溶液灌流工程にて灌流された臓器又は組織を、凍結保存溶液で満たして膨化させる膨化工程と、膨化された臓器又は組織に付着した余剰の凍結保存溶液を除去する余剰溶液除去工程と、余剰溶液除去工程にて余剰の凍結保存溶液を除去された臓器又は組織を-20℃以下で凍結する凍結工程とを含むことを特徴とする。
このように構成し、凍結保存溶液で灌流する凍結保存溶液灌流工程で、脱血し、凍結保存溶液で灌流し、膨化させた後に臓器又は組織の凍結を行い、後の解凍工程で融解を行うことで、臓器又は組織を構成している細胞膜に微細な穴を開口させることができる。このため、細胞質内への脱細胞化液の浸透性が高まり、脱細胞化の時間短縮が可能となる。
具体的には、本実施形態の脱細胞化担体製造方法では、特許文献1に記載の従来技術と比べて脱細胞化に必要な時間が約20%にまで短縮される。また、上述したように、対象臓器に依存せず、同一組成液で処理可能となる。
【0016】
また、従来の脱細胞化担体製造方法では、臓器を摘出直後に脱細胞化を行っていた。つまり、摘出された臓器の保存期間に限界があった。
これに対して、本実施形態の脱細胞化担体製造方法では、凍結保存工程において、凍結工程後、脱細胞化工程前の臓器又は組織を特定期間保存する期間保存工程を更に含むことを特徴とする。
このように、脱細胞化用臓器を一旦凍結することから、臓器又は組織のストックが可能となる。この特定期間としては、数時間~数年単位で任意に設定可能であり、霜取り加熱を行わない業務用医療用のフリーザーでは、ほぼ劣化させずに保存しておくことが可能である。つまり、脱細胞化用臓器を必要に応じて解凍し、脱細胞化担体を製造可能となる。
【0017】
また、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法において、凍結保存溶液は、0.01~0.3重量%の過酸化水素水、500~4000Uヘパリンを含む生理食塩水であることを特徴とする。
このように構成し、凍結保存溶液として、0.01~0.3重量%の過酸化水素水、500~4000Uヘパリンを含む生理食塩水を用いることで、細胞骨格及び細胞外マトリクスに与えるダメージを最小限にしつつ、界面活性剤の浸透性を高め、細胞質除去に最適な微細穴を開口させることが可能になる。つまり、過酸化水素水を含む生理食塩水を脱細胞化工程で用い、細胞膜に微小な穴を開けることにより、各界面活性剤の流入性が向上し、核や各種構造物等の細胞質内物質の除去性が向上する。このため、上述のように、後の脱細胞化工程で、細胞骨格及び細胞外マトリクスが脱細胞化溶液に触れる時間が短くなる。よって、脱細胞化担体の製造時間の短縮が可能となる。また、アミノ酸の劣化や変性を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、解凍工程は、凍結保存された臓器又は組織を低温冷蔵状態で解凍する低温冷蔵解凍工程と、低温冷蔵解凍工程にて解凍された臓器又は組織を、タンパク質分解抑制剤含有の生理食塩水で灌流して脱血する解凍時脱血工程と、解凍時脱血工程にて脱血された臓器又は組織の破損有無を確認する確認工程と、確認工程により確認された臓器又は組織を灌流用容器に接続する接続工程とを含むことを特徴とする。
ここで、低温冷蔵状態としては、2℃~10℃程度であってもよい。
このような凍結保存工程後の解凍工程により、臓器又は組織を構成している細胞膜に微細な穴から、適宜、「ドリップ」を生じさせて、細胞質を容易に除去可能となる。これにより、細胞質内に脱細胞化液の浸透性が高まり、脱細胞化の時間短縮が可能となる。よって、上述のように、脱細胞化の時間短縮ができ、細胞骨格や細胞外マトリックスのアミノ酸の劣化や変性等の抑制を可能とすることができる。
【0019】
また、従来の脱細胞化担体製造方法では、血栓除去をする手段がなかった。このため、血流がある拍動下の状態で臓器を摘出する必要があった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、解凍時脱血工程において、臓器又は組織に含まれる微小血栓を除去する血栓除去工程を含むことを特徴とする。
このように構成することで、微小血栓が形成されていても脱細胞化が可能となる。つまり、本実施形態の脱細胞化担体製造方法では、凍結工程後に解凍工程を行う凍結融解の際に、十分な灌流による脱血を行うことで、微小血栓の存在下でも脱細胞が可能となる。より具体的には、本実施形態の脱細胞化担体製造方法は、対象臓器や組織が腐敗さえしていなければ、脱細胞化担体の製造が可能となる。
【0020】
また、本実施形態の脱細胞化担体製造方法は、脱細胞化工程は、難水溶性界面活性剤含有溶液で解凍された臓器又は組織を灌流する難水溶性界面活性剤灌流工程と、難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された臓器又は組織を親水溶性界面活性剤含有用液で灌流する親水溶性界面活性剤灌流工程とを含む。
ここで、本実施形態の難水溶性界面活性剤含有溶液に含まれる難水溶性界面活性剤としては、水に溶けたときイオン化しない親水基を備える界面活性剤で、水の硬度や電解質の影響を受けにくい非イオン界面活性剤を用いることが好適である。この非イオン界面活性剤としては、トリトンX-100、NP-40等のポリオキシエチレンフェニルエーテル系の界面活性剤、DDM、ジギトニン、ツイン20、ツイン80等を用いることが可能である。本実施形態においては、特にNP-40を用いることが好適である。また、この際、NP-40は、必ずしもNP-40(octyl-phenoxy-polyethoxy-ethanol)そのものではなく、各種NP-40代替品、ノニデット(TM)P-40等を用いることが可能である。
このように構成することで、脱細胞化工程において、細胞質内の物質による濃度変化が起こりにくくなり、細胞外マトリクス等を残存させた上で、最初に細胞質内の物質を除去することが可能となる。
【0021】
また、本実施形態の親水溶性界面活性剤含有用液に含まれる親水溶性界面活性剤としては、水に溶けたときに、疎水基のついている部分がマイナス(陰)イオンに電離するアニオン界面活性剤(陰イオン界面活性剤)を好適に用いることが可能である。本実施形態においては、アルキル硫酸エステル塩類を用いてもよい。このアルキル硫酸エステル塩としては、特に、SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)を用いることが好適である。
このように構成することで、脱細胞化工程において、難水性界面活性剤(NP-40)含有溶液での処理後、これを親水性界面活性剤(SDS)含有溶液で除去することで、その後の水洗浄時聞を従来の半分に短縮することができる。つまり、特許文献1に記載の従来技術等では界面活性剤の除去に水のみを使用しているが、本実施形態のように界面括性剤を除去するために、別の界面活性剤を用いることで、洗浄時間を少なくとも50%短縮することが可能となる。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る脱細胞化溶液キットは、臓器又は組織から脱細胞化担体を製造するための脱細胞化溶液であって、解凍された臓器又は組織を灌流する難水溶性界面活性剤含有溶液と、難水溶性界面活性剤含有溶液により灌流された臓器又は組織を灌流する親水溶性界面活性剤含有溶液とを含むことを特徴とする。
このように構成し、難水溶性界面活性剤と親水溶性界面活性剤含有溶液とは、脱細胞化溶液キットとして用意しておいてもよい。また、難水溶性界面活性剤と親水溶性界面活性剤含有溶液とは、用時調製してもよい。
【0023】
本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、脱細胞化工程は、親水溶性界面活性剤灌流工程にて灌流された臓器又は組織を洗浄後、安定化する安定化工程を含むことを特徴とする。
また、この安定化工程は、親水溶性界面活性剤灌流工程にて灌流された臓器又は組織を0.1~3%ホルムアルデヒド溶液で灌流することを特徴とする。この際、本実施形態の安定化工程で用いるホルムアルデヒド溶液は、0.5~1%であることが特に好適である。
このように構成し、親水溶性界面活性剤灌流工程の灌流後に0.1~3%ホルムアルデヒド溶液を、0.5~2時間灌流することにより、細胞骨格及び細胞外マトリクスの性質を維持しつつ、製造された脱細胞化担体の硬度を担保することができる。これにより、移植時における血管吻合の作業が容易になる。結果として、下記で説明するように、脱細胞化担体を細胞充填する足場材料として用いたり、再生医療用材料として用いたりするスキャフォールド治療への適用がしやすくなる。
なお、過酸化水素水を含む生理食塩水を、脱細胞化工程で用いてもよい。この場合も、細胞膜に微小な穴を開けることにより、各界面活性剤の流入性や細胞質内物の除去性が向上し、脱細胞化担体作製時間の短縮が可能となる。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る細胞充填方法は、脱細胞化担体を生理食塩水で灌流後に培養液で灌流する生理食塩水灌流工程と、灌流工程により灌流された脱細胞化担体を置き換える置換工程と、置換工程にて培養液が灌流された脱細胞化担体の動脈から培養細胞を注入する細胞注入工程と、細胞注入工程により培養細胞が注入された後に灌流を停止して細胞を脱細胞化担体に接着させる細胞接着工程と、細胞接着工程により細胞が接着された脱細胞化担体に培養液の灌流を再開させて培養する灌流培養工程とを含むことを特徴とする。
このように構成することで、iPS細胞、ES細胞、又はその他の幹細胞(以下、「iPS細胞等」という。)から分化誘導された機能細胞、初代継体細胞等の培養細胞を脱細胞化担体に充填することができる。また、後述する実施例で示すように、細胞を充填した脱細胞化担体は、充填された培養細胞が移植後も生着可能となる。これは、上述したように、本実施形態の脱細胞化担体は抗原性が限りなく「0」であり、且つ、細胞外マトリックスの消失が少ないためであると考えられる。このため、本実施形態の細胞を充填した脱細胞化担体を、慢性的に問題視されている移植用臓器の不足を解決するために用いることが機体できる。
また、上述の安定化工程により脱細胞化担体の硬度が担保されることで、充填された培養細胞が生着した臓器としてより機能しやすくなる。
【0025】
また、本発明の実施の形態に係る細胞充填方法は、主に脊椎動物を対象としている。この脊椎動物は特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物を含む。ここで、本実施形態の細胞充填方法は、実験的に、少なくともブタ、ラット、マウスの各臓器の脱細胞化に成功している。このため、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、ヒトの治療の他に、動物の治療、家畜の治療、異種間移植等の対象とすることができる。また、ペット産業においても適用可能となる。
【0026】
また、本発明の実施の形態に係る細胞充填方法は、臓器又は組織が小腸の場合、動脈と門脈とを接続して灌流を行うことを特徴とする。
このように構成することで、細胞を充填した脱細胞化担体を機能する小腸として使用し、移植する可能性を高めることができる。これは、本実施形態の脱細胞化担体は、後述する実施例で示すように、小腸の絨毛部分及び筋層部分の構造を高度に残しているため、小腸の構造に合わせた配置で培養細胞が充填されるためである。
このため、iPS細胞等から分化誘導して各種器官を再生する技術により、絨毛部分及び筋層部分に分化された細胞の混合物を灌流して、絨毛部分及び筋層部分で別々に定着させることが期待できる。
【0027】
また、本発明の実施の形態に係る細胞シート作製方法は、脱細胞化担体を脱細胞化組織断片に薄層切片化する薄層切片化工程と、薄層切片化工程により薄層切片化された脱細胞化組織断片を洗浄し、培養細胞を播種する播種工程と、播種工程により培養細胞が播種された脱細胞化組織断片を培養する培養工程とを含むことを特徴とする。
ここで、この薄層切片の厚みは0.1~5mm程度であることが好適である。また、培養細胞は、0.5~10×105個程度の細胞を、複数回繰り返して播種してもよい。
このように構成し、本実施形態で製造された脱細胞化担体の1mm厚の薄層切片に細胞を播種した結果、従来技術より非常に短く、培養開始30分~1時間に細胞接着していることを、予備実験で確認している。これは、脱細胞化の処理時間の短縮によって細胞骨格や細胞外マトリックスのアミノ酸の劣化や変性等の抑制を可能とした結果、得られた脱細胞化担体シートに播種した細胞が従来よりも短時間で細胞接着したものと考えられる。
この細胞接着した脱細胞化担体を細胞シートとして用いることが可能となる。つまり、iPS細胞やES細胞から分化誘導した機能細胞の正着及び機能発現した臓器の作成が可能となる。
なお、これらの細胞シートは、培養細胞を播種した後、一晩(オーバーナイト)程度インキュベートしてから用いてもよい。
【0028】
また、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体は、脱細胞化担体製造方法により製造されることを特徴とする。
このように構成した脱細胞化担体は、上述のように、細胞接着に優れ、又、細胞を充填した脱細胞化臓器は移植後も充填細胞が生着可能となる。すなわち、脱細胞化担体として高品質である。
【0029】
また、本実施形態の脱細胞化担体は、30%ショ糖液が浸漬されて凍結保存されることを特徴とする。
このように構成することで、本実施形態の脱細胞化担体は容易に凍結保存することが可能となる。また、本実施形態の脱細胞化担体の品質を保ちつつ、特殊な方法を用いずに使用可能状態とすることができる。このため、脱細胞化担体の応用が容易となる。
【0030】
なお、上述した各工程は、同時並行的に実行可能な工程を含んでいてもよく、工程の前後が一部変更されてもよく、当業者により本発明の趣旨を逸脱しない範囲での最適化が行われてもよい。
【0031】
また、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法は、他の組成物を用いた工程等と併用することも可能である。
【0032】
また、本発明の実施の形態において、脱細胞化担体を治療用に用いた場合、疾患が改善又は軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善又は軽減であってもよいし、一定期間の改善又は軽減であってもよい。
【実施例
【0033】
以下で、本発明の実施の形態に係る脱細胞化担体製造方法について、実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【0034】
〔試薬〕
本実施例で使用した試薬及び製造元を以下に記載する:
NP-40 Substitute(和光純薬工業株式会社製)、10%SDS溶液(和光純薬工業株式会社製)、生理食塩液(大塚製薬工場株式会社製、以下、「生食」という。)、ヘパリンナトリウム(ニプロ株式会社製)、過酸化水素(和光純薬工業株式会社製)、注射用水(大塚製薬工場株式会社製)、抗生物質-抗真菌剤混合溶液(Antibiotic-Antimycotic,100X、Gibco社製)、MEMalpha(Gibco社製)、FBS(Fetal Bovine Serum、Gibco社製)、PBS(TaKaRaBio社製)、タンパク質分解抑制剤(ProteoGuard EDTA-Free Protease Inhibitor Coctail、Clontech社製)、セファメジンナトリウム注射液(アステラス製薬株式会社社製)、スクロース(和光純薬工業株式会社社製)、10%中性緩衝ホルマリン又はホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)。
【0035】
〔器具〕
ガーゼ、ステンレス製クリップ、モスキート鉗子、鑷子、及び剪刀を手術器具等として用いた。これらの手術器具等は、使用前にオートクレーブで121℃15分処理の滅菌処理した。
タッパ(処置用)及び密閉式パックの器具等は、使用前にEOG滅菌した。
【0036】
以下の器具等は、滅菌済みの購入品を用いた:汎用吸入用カテーテル、アスピレーター、コネクティングチューブ、ポリプロピレン製ディスポーザブルシリンジ、注射針(26G)、6ウェルプレート。
【0037】
〔試薬の調製〕
本実施例では、脱細胞化工程における難水溶性界面活性剤灌流工程にて、難水溶性界面活性剤として、NP-40を用いた。本実施例において、このNP-40を用いた難水溶性界面活性剤含有溶液を、以下「A液」という。具体的には、本実施例では、注射用水又は精製水1980mLにNP-40 Substituteを20mL加え、泡立たないように溶解することで、A液として用いた。
また、脱細胞化工程における親水溶性界面活性剤灌流工程にて、親水溶性界面活性剤として、SDSを用いた。本実施例において、このSDSを用いた親水溶性界面活性剤含有溶液を、以下、「B液」という。具体的には、本実施例では、注射用水又は精製水1800mLに10%SDS溶液を200mL加え、1%SDS溶液となるよう泡立たないように溶解して、B液として用いた。
また、その他の溶液については、試薬のマニュアルに記載の容量に従って調製した。
【0038】
<脱細胞化担体製造の処理例>
以下、本実施例に係る脱細胞化担体製造方法の各工程における処理の詳細について説明する。
【0039】
〔凍結保存工程〕
まず、本実施例における、摘出された臓器又は組織を凍結保存する凍結保存工程について説明する。
本実施例の凍結保存工程では、以下の例で示すように、凍結時脱血工程、凍結保存溶液灌流工程、膨化工程、余剰溶液除去工程、及び凍結工程を実行した。
【0040】
(凍結時脱血工程)
本実施例の凍結時脱血工程では、灌流固定用カテーテルを留置し、臓器又は組織をヘパリン加生理食塩液(2000Unit(U)/500mL、以下、「ヘパリン生食」という。)で灌流して脱血した。
【0041】
このため、まず、臓器又は組織に灌流固定用カテーテルを留置した。具体的には、臓器又は組織の血管を露出剥離し、メジャーで当該血管外径を測定した。次に、血管の外径に適したカテーテルを選択した。このカテーテルとしては、血管外形に対応して、輸血用延長チューブ若しくはIVHカテーテルを選択した。この血管外径と、使用したカテーテルと、縫合糸とは、下記のように選択した:

血管外径 カテーテル 縫合糸
>4.0mm、左心耳 輸血用延長チューブ 3-0絹糸
3.0~4.0mm 輸血用延長チューブ 3-0絹糸
2.0~2.9mm 14GIVHカテーテル 4-0ナイロン糸
1.5~2.0mm 16GIVHカテーテル 4-0ナイロン糸
1.0~1.4mm 18GIVHカテーテル 5-0ナイロン糸
【0042】
次に、選択したカテーテルに三方活栓と20mLシリンジ(テルモ株式会社)を取り付け、ヘパリン生食で満たし、臓器又は組織のエア抜きをした。次に、カテーテルを、三方活栓連結部から40cmの位置で切断した。次に、血管中枢側を結紮縫合した。次に、血管中枢側にメッツェンで切り込みを入れ、カテーテルを挿入した。次に、ブルドッグ鉗子で、血管とカテーテルを簡易固定した。そして、カテーテル挿入部位の2ヵ所及びカテーテルの1箇所で、結紮固定した。
【0043】
次に、実際に、臓器又は組織への脱血のための灌流を行った。
具体的には、各臓器又は組織の動脈及び静脈にカテーテルを約1cm挿入、留置した。この上で、ヘパリン生食を動脈側カテーテルから200mL以上ポンピング注入し、静脈側カテーテルから血液が排出されることを確認した。白く色が抜けてきていることを確認した。
【0044】
(凍結保存溶液灌流工程)
次に、凍結保存溶液灌流工程では、上述の凍結時脱血工程にて脱血された臓器又は組織を、凍結保存溶液で灌流した。
本実施例の凍結保存溶液は、生理食塩水に0.1%過酸化水素に調整した液を用いた。また、静脈側の三方活栓を閉にし、凍結保存溶液を動脈側より注入した。
【0045】
(膨化工程)
膨化工程では、凍結保存溶液で灌流した凍結保存溶液灌流工程にて灌流された臓器又は組織を、凍結保存溶液で満たして膨化させた。
具体的には、凍結保存溶液が注入されて臓器又は組織内が膨化(全体的に張った状態)になったことを確認し、動脈側の三方活栓を閉にした。
【0046】
(余剰溶液除去工程)
余剰溶液除去工程では、膨化された臓器又は組織に付着した余剰の凍結保存溶液を除去した。
具体的には、臓器又は組織の表面に付着した余剰水分をペーパータオルで除去した。
【0047】
(凍結工程)
凍結工程では、余剰溶液除去工程にて余剰の凍結保存溶液を除去された臓器又は組織を-20℃以下で凍結した。
具体的には、ジップロック等の容器内に臓器又は組織を移し、-20℃又は-80℃にて凍結保管した。
【0048】
〔解凍工程及び脱細胞化工程〕
ここで、体重10kg前後の実験用豚から摘出された肝臓、腎臓、心臓、脾臓、肺のそれぞれについて、上述の凍結保存工程を経て、解凍工程及び脱細胞化工程を実行した例について下記で説明する。
なお、下記の臓器の各灌流時間は目安であり、目視による確認を優先した。
【0049】
[肝臓]
(低温冷蔵解凍工程)
凍結保存された臓器を低温冷蔵状態で解凍した。具体的には、凍結された臓器を24±1時間、4℃で解凍した。臓器が完全に解凍していることを確認した。
【0050】
(解凍時脱血工程、確認工程、接続工程)
次に、低温冷蔵解凍工程にて解凍された臓器を、タンパク質分解抑制剤含有の生理食塩水で灌流して脱血した。
具体的には、まず、肝臓に生食をかけて、付着、残存している血餅等を洗い落とした。
次に、門脈カテーテル及び肝動脈カテーテルから、ディスポーザブルシリンジを用いて、生食(各50mL×5)を注入し、抵抗や漏れがなく、肝静脈から排出されることを確認した。最初のポンピングでは抵抗を感じたものの、この時点で無理に押し込むと血管や皮膜が破裂する可能性があるので注意した。次第に抵抗がなくなり、スムーズに生食をポンピング注入できることを確認した。
次に、門脈カテーテルの三方活栓に自動灌流装置の注入チューブを接続し、更に門脈カテーテルの三方活栓と肝動脈カテーテルの三方活栓を、コネクターで結合した。
タンパク質分解抑制剤をマニュアル記載容量含有させた生食(以下、「含タンパク質分解抑制剤生食」という。)を調製し、滅菌パックに2000mLを入れ、滅菌ガーゼを上部に取り付けた。肝臓が1cm程生食に浸かるようにガーゼに乗せた。この際、臓器が液面に浸りすぎると、浮遊して灌流液中で動いてしまうので注意した。また、臓器全体がガーゼに乗っているよう注意した。また、肝動脈、門脈共に血管が肝門部から出て、折れ曲がっていないことを確認した。
次に、肝臓を10℃の冷蔵庫又は10℃の環境下に移動した。ここで、4℃に設定した場合、後の工程で灌流液が析出してくる可能性があるので注意した。また、室温だと自己融解によるタンパク分解酵素産生により、脱細胞化担体の構築傷害が起こる可能性があるので避けた。
次に、肝動脈の三方活栓を閉鎖し、門脈のみ三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を60~80mL/分で15分灌流した。
次に、門脈の三方活栓を閉鎖し、肝動脈のみ三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を60~80mL/分で15分灌流した。
次に、門脈及び肝動脈の三方活栓を両方開放にし、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を80mL/分で30分×2回灌流した。生食が赤く濁った場合、再度15分灌流した。
つまり、このように生食が赤く濁らなくなるまで灌流することで、解凍時脱血工程における血栓除去工程として、臓器又は組織から微小血栓を除去することが可能であった。これは以下の他の臓器でも同様である。
【0051】
最終的な確認工程として、解凍時脱血工程にて脱血された肝臓の破損有無を確認した。この際、亀裂又は穿孔が生じた臓器又は組織は、脱細胞化担体製造から除外した。
なお、この確認工程は、他の臓器でも同様の処理を行った。
【0052】
(難水溶性界面活性剤灌流工程)
ここで、自動灌流装置を停止し、A液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてA液を肝動脈及び門脈の順に60mL/分で15~30分灌流し、その後両方開放にし、80~120mL/分で20分×3回灌流した。この際、A液に置換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図1(a)(b)によると、灌流後しばらくしたと血管周囲が半透明状に変化してきた。ここで、図1(a)は灌流直後、図1(b)は3回目の灌流の際の写真を示す。
図1(c)によると、その後、肝臓の辺縁部も少し半透明状に変化してくることを確認した。
【0053】
(親水溶性界面活性剤灌流工程)
その後、自動灌流装置を停止し、B液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてB液を肝動脈及び門脈の順に60mL/分で15~30分灌流し、その後両方開放にし、80~120mL/分で20分×6回灌流した。この際、B液に交換した直後は難水溶性界面活性剤灌流工程と同様に20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図2(a)(b)によると、B液の初回灌流では、劇的に肝臓が透明になってくるため、灌流後、液がすぐ濁ってくる。図2(a)は初回灌流の前、図2(b)は初回灌流後の写真を示す。
図2(c)によると、この灌流完了後に、完全に肝臓が半透明状の脱細胞化組織になっていることを確認した。
【0054】
次に、灌流装置を一時的に外し、別途用意したB液で肝動脈カテーテル及び門脈から500mL×3回灌流した。3回目の灌流液の一部を回収し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、0.5ng/μL以下であることを確認した。この値を超える場合は、自動灌流装置を用いてB液を80~120mL/分で30分追加実行し、再度同様の濃度測定を行った。また、B液の総灌流時間が6時間を越える場合は、この濃度測定を除外した。
次に、B液を全て吸引し、精製水(注射用水)に置換した。具体的には、自動灌流装置を用いて精製水を肝動脈及び門脈の順に60mL/分で15~30分灌流し、その後両方開放にし、80~120mL/分で15分×8回、30分×6回、その後は(120分×4回/日)×6日間灌流した。この際、脱細胞化臓器の中心部分は微細な網目構造となっているため、洗浄灌流には回数だけでなく十分な時間をかけた。
その後、最終灌流液(精製水)を採取し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、dsDNAが0.0ng/μL(検出限界以下)であることを確認し、更にPCRによる細胞残存の有無を確認した。
【0055】
[腎臓]
(低温冷蔵解凍工程)
凍結保存された臓器を24±1時間、4℃で解凍した。臓器が完全に解凍していることを確認してから、以下の処理を行った。
【0056】
(解凍時脱血工程、確認工程、接続工程)
次に、腎臓に生食をかけて、付着、残存している血餅等を洗い落とした。
次に、腎動脈カテーテルから、ディスポーザブルシリンジを用いて、生食(50mL×3)を注入し、抵抗や漏れがなく、肝静脈から排出されることを確認した。最初のポンピングでは抵抗を感じたものの、この時点で無理に押し込むと血管や皮膜が破裂する可能性があるので注意した。次第に抵抗がなくなり、スムーズに生食をポンピング注入できることを確認した。
次に、腎動脈カテーテルの三方活栓に自動灌流装置の注入チューブを接続した。
次に、含タンパク質分解抑制剤生食2000mLを滅菌パックに入れ、滅菌ガーゼを上部に取り付けた。腎臓が1cm程生食に浸かるようにガーゼに乗せた。液面に浸りすぎると、浮遊して灌流液中で動いてしまうので注意した。臓器全体がガーゼに乗っているよう注意した。腎動静脈共に血管が腎門部から出て、折れ曲がっていないことを確認した。
次に、腎臓を10℃の冷蔵庫又は10℃の環境下に移動した。ここで、4℃に設定すると、後の工程で灌流液が析出してくる可能性があるので注意した。また、室温だと細胞化担体の構築傷害が起こる可能性があるので避けた。
次に、腎動脈の三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を40~60mL/分で15分×2回灌流した。生食が赤く濁るようなら、再度15分灌流した。
【0057】
(難水溶性界面活性剤灌流工程)
最終的な確認工程の後、自動灌流装置を停止し、A液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてA液を40~60mL/分で20分×3回灌流した。A液に置換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。灌流後しばらくしたと血管周囲が半透明状に変化してきた。その後、腎臓全体が少し半透明状に変化してくることを確認した。
【0058】
(親水溶性界面活性剤灌流工程)
次に、自動灌流装置を停止し、B液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてB液を60mL/分で20分×6回灌流した。B液に交換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図3(a)によると、B液の初回灌流では、劇的に腎臓が透明になってくるため、灌流後、液がすぐ濁ってきた。
図3(b)によると、6回灌流後に、完全に腎臓が半透明状の脱細胞化組織になっていることを確認した。
【0059】
次に、灌流装置を一時的に外し、別途用意したB液で腎動脈カテーテルから50mL×3回灌流した。3回目の灌流液の一部を回収し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、0.5ng/μL以下であることを確認した。この値を超える場合は、自動灌流装置を用いてB液を40~60mL/分で15分追加灌流し、再度同様の濃度測定を行った。また、B液の総灌流時間が6時間を越える場合は、この濃度判定は行わなかった。
次に、B液を全て吸引し、精製水(注射用水)に置換した。そして、自動灌流装置を用いて精製水を40~60mL/分で15分×8回、30分×6回、その後は(120分×4回/日)×6日間灌流した。この際、脱細胞化臓器の中心部分は微細な網目構造となっているため、洗浄灌流には回数だけでなく十分な時間をかけた。
その後、最終灌流液(精製水)を採取し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、dsDNAが0.0ng/μL(検出限界以下)であることを確認し、更にPCRによる細胞残存の有無を確認した。
【0060】
[脾臓]
(低温冷蔵解凍工程)
凍結臓器を24±1時間、4℃で解凍した。必ず臓器が完全に解凍していることを確認してから、以下の処理を行った。
【0061】
(解凍時脱血工程、確認工程、接続工程)
次に、脾臓に生食をかけて、付着、残存している血餅等を洗い落とした。
次に、脾動脈カテーテルから、ディスポーザブルシリンジを用いて、生食(50mL×6)を注入し、抵抗や漏れがなく、脾静脈から排出されることを確認した。最初のポンピングでは抵抗を感じるが、この時点で無理に押し込むと血管や皮膜が破裂する可能性があるので注意した。特に脾動脈カテーテルは他の臓器に比べ細い可能性があるので、圧でカテーテルが抜けてしまわないよう注意した。次第に抵抗がなくなり、スムーズに生食をポンピング注入できることを確認した。
次に、脾動脈カテーテルの三方活栓に自動灌流装置の注入チューブを接続した。
次に、含タンパク質分解抑制剤生食を滅菌パックに2000mL入れ、滅菌ガーゼを上部に取り付けた。脾臓が1cm程生食に浸かるようにガーゼに乗せた。液面に浸りすぎると、浮遊して灌流液中で動いてしまうので注意した。臓器全体がガーゼに乗っているよう注意した。脾動静脈共に血管が脾門部から出て、折れ曲がっていないことを確認した。
次に、脾臓を10℃の冷蔵庫又は10℃の環境下に移動した。ここで、4℃に設定すると、後の工程で灌流液が析出してくる可能性があるので注意した。また、室温だと脱細胞化担体の構築傷害が起こる可能性があるので避けた。
次に、脾動脈の三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を40~60mL/分で15分×5回灌流した。生食が赤く濁るようなら、再度15分灌流した。脾臓の辺縁には血液が残存しがちであった。抜けが悪い場合は、軽く手でもむと脱血しやすい傾向があった。脱血出来ていない状況で次の工程へ進むと灌流時間が長時間になり、微細構造が保たれない可能性があるため注意した。
図4(a)によると、脾臓全体が脱血されてピンク色になるまでしっかりと生食で灌流した。
【0062】
(難水溶性界面活性剤灌流工程)
最終的な確認工程の後、自動灌流装置を停止し、A液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてA液を40~60mL/分で20分×3回灌流した。A液に置換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。灌流後しばらくすると、脾臓全体が半透明状に変化してきた。その後、脾臓全体が少し半透明状に変化してくることを確認した。
【0063】
(親水溶性界面活性剤灌流工程)
次に、自動灌流装置を停止し、B液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてB液を60mL/分で20分×6回灌流した。B液に交換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図4(b)によると、B液の初回灌流では、劇的に腎臓が透明になってくるため、灌流後、液がすぐ濁ってきた。
図4(c)によると、6回灌流後に、完全に脾臓が半透明状の脱細胞化組織になっていることを確認した。
【0064】
次に、灌流装置を一時的に外し、別途用意したB液で脾動脈カテーテルから500mL×3回灌流した。3回目の灌流液の一部を回収し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、0.5ng/μL以下であることを確認した。この値を超える場合は、自動灌流装置を用いてB液を40~60mL/分で15分追加灌流し、再度同様の濃度測定を行った。B液の総灌流時間が6時間を越える場合は、この濃度判定は行わなかった。
次に、B液を全て吸引し、精製水(注射用水)に置換した。そして、自動灌流装置を用いて精製水を40~60mL/分で15分×8回、30分×6回、その後は(120分×4回/日)×6日間灌流した。この際、脱細胞化臓器の中心部分は微細な網目構造となっているため、洗浄灌流には回数だけでなく十分な時間をかけた。
その後、最終灌流液(精製水)を採取し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、dsDNAが0.0ng/μL(検出限界以下)であることを確認し、更にPCRによる細胞残存の有無を確認した。
【0065】
[心臓]
(低温冷蔵解凍工程)
凍結臓器を24±1時間、4℃で解凍した。必ず臓器が完全に解凍していることを確認してから、以下の処理を行った。
【0066】
(解凍時脱血工程、確認工程、接続工程)
次に、心臓に生食をかけて、付着、残存している血餅等を洗い落とした。
次に、大動脈カテーテルから、ディスポーザブルシリンジを用いて、生食(50mL×6)を注入し、抵抗や漏れがなく、肺動脈から排出されることを確認した。最初のポンピングでは抵抗を感じるが、この時点で無理に押し込むと心耳が破裂する可能性があるので注意した。左心耳、右心耳ともに、ポンピングによって膨張した。また、この時点で冠状動脈内の血液が流れて心臓全体が灌流できていることを確認した。
次に、大動脈カテーテルの三方活栓に自動灌流装置の注入チューブを接続した。
次に、含タンパク質分解抑制剤生食を滅菌パックに2000mL入れ、滅菌ガーゼを上部に取り付けた。心臓が1cm程生食に浸かるようにガーゼに乗せた。液面に浸りすぎると、浮遊して灌流液中で動いてしまうので注意した。また、臓器全体がガーゼに乗っているよう注意した。
次に、心臓を10℃の冷蔵庫又は10℃の環境下に移動した。4℃に設定すると、後の工程で灌流液が析出してくる可能性があるので注意した。また、室温だと脱細胞化担体の構築傷害の可能性があるので避けた。
次に、大動脈の三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を40~60mL/分で15分×5回灌流した。生食が赤く濁るようなら、再度15分灌流した。
【0067】
(難水溶性界面活性剤灌流工程)
最終的な確認工程の後、自動灌流装置を停止し、A液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてA液を40~60mL/分で20分×3回灌流した。A液に置換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。灌流後しばらくしたと血管周囲が半透明状に変化してきた。その後、心臓全体が少し半透明状に変化してくることを確認した。
【0068】
(親水溶性界面活性剤灌流工程)
次に、自動灌流装置を停止し、B液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてB液を60mL/分で20分×6回灌流した。B液に交換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図5(a)によると、B液の初回灌流では、劇的に心臓が透明になってくるため、灌流後、液がすぐ濁ってきた。
図5(b)によると、6回灌流後に、完全に心臓が半透明状の脱細胞化組織になっていることを確認した。
【0069】
次に、灌流装置を一時的に外し、別途用意したB液で大動脈カテーテルから50mL×3回灌流した。3回目の灌流液の一部を回収し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、0.5ng/μL以下であることを確認した。この値を超える場合は、自動灌流装置を用いてB液を40~60mL/分で15分追加灌流し、再度同様の濃度測定を行った。B液の総灌流時間が6時間を越える場合は、この濃度判定は行わなかった。
次に、B液を全て吸引し、精製水(注射用水)に置換した。そして、自動灌流装置を用いて精製水を40~60mL/分で15分×8回、30分×6回、その後は(120分×4回/日)×6日間灌流した。この際、脱細胞化臓器の中心部分は微細な網目構造となっているため、洗浄灌流には回数だけでなく十分な時間をかけた。
その後、最終灌流液(精製水)を採取し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、dsDNAが0.0ng/μL(検出限界以下)であることを確認し、更にPCRによる細胞残存の有無を確認した。
【0070】
[肺]
(低温冷蔵解凍工程)
凍結臓器を24±1時間、4℃で解凍した。必ず臓器が完全に解凍していることを確認してから、以下の処理を行った。また、気管の辺縁を鉗子で摘み、完全に閉鎖した。
【0071】
(解凍時脱血工程、確認工程、接続工程)
次に、肺に生食をかけて、付着、残存している血餅等を洗い落とした。
次に、肺動脈カテーテルから、ディスポーザブルシリンジを用いて、生食(50mL×10~20)を注入し、抵抗や漏れがなく、肺静脈から排出されることを確認した。最初のポンピングでは抵抗を感じるが、この時点で無理に押し込むと肺胞が破裂する可能性があるので注意した。また、肺全体がピンク色に脱血、灌流できていることを確認した。
次に、肺動脈カテーテルの三方活栓に自動灌流装置の注入チューブを接続した。
次に、含タンパク質分解抑制剤生食を滅菌パックに2000mL入れ、滅菌ガーゼを上部に取り付けた。肺が1cm程生食に浸かるようにガーゼに乗せた。液面に浸りすぎると、浮遊して灌流液中で動いてしまうので注意した。臓器全体がガーゼに乗っているよう注意した。
次に、肺を10℃の冷蔵庫又は10℃の環境下に移動した。4℃に設定すると、後の工程で灌流液が析出してくる可能性があるので注意した。また、室温だと脱細胞化担体の構築傷害の可能性があるので避けた。
次に、肺動脈の三方活栓を開放にして、自動灌流装置を用いて含タンパク質分解抑制剤生食を40~60mL/分で15分×5回灌流した。生食が赤く濁るようなら、再度15分灌流した。
【0072】
(難水溶性界面活性剤灌流工程)
最終的な確認工程の後、自動灌流装置を停止し、A液に置換した。そして、自動灌流装置を用いてA液を40~60mL/分で20分×3回灌流した。A液に置換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。灌流後しばらくすると、肺全体が半透明状に変化してくることを確認した。
【0073】
(親水溶性界面活性剤灌流工程)
次に、自動灌流装置を停止し、B液に置換した。自動灌流装置を用いてB液を60mL/分で20分×6回灌流した。B液に交換した直後は20mL/分で様子をみながら灌流し、灌流液がスムーズに流れることを確認し、徐々に60mL/分に上げていった。
図6(a)によると、B液の初回灌流では、劇的に肺が透明になってくるため、灌流後、液がすぐ濁ってくる。
図6(b)によると、6回灌流後に、完全に心臓が半透明状の脱細胞化組織になっていることを確認した。
【0074】
次に、灌流装置を一時的に外し、別途用意したB液で肺動脈カテーテルから500mL×3回灌流した。3回目の灌流液の一部を回収し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、0.5ng/μL以下であることを確認した。この値を超える場合は、自動灌流装置を用いてB液を40~60mL/分で15分追加灌流し、再度同様の濃度測定を行った。B液の総灌流時間が6時間を越える場合は、この濃度判定は行わなかった。
次に、B液を全て吸引し、精製水(注射用水)に置換した。そして、自動灌流装置を用いて精製水を40~60mL/分で15分×8回、30分×6回、その後は(120分×4回/日)×6日間灌流した。脱細胞化臓器の中心部分は微細な網目構造となっているため、洗浄灌流には回数だけでなく十分な時間をかけた。
その後、最終灌流液(精製水)を採取し、吸光度計を用いてdsDNAを測定し、dsDNAが0.0ng/μL(検出限界以下)であることを確認し、更にPCRによる細胞残存の有無を確認した。
【0075】
<脱細胞化担体の凍結保存方法>
ここで、脱細胞化担体化された臓器又は組織の凍結保存方法について説明する。
まず、30%ショ糖液(PBS)を調製した。
そして、上述の脱細胞化担体製造方法で製造された脱細胞化担体に接続された自動灌流装置を停止し、精製水を全て吸引し、30%ショ糖液に置換した。自動灌流装置を用いて30%ショ糖液を60~100mL/分で15分×3回灌流した。
次に、自動灌流装置を停止し、三方活栓を閉鎖した。臓器は張りすぎていない状態にした。そして、30%ショ糖液を満たした滅菌パックに、臓器を移動した。臓器が完全にショ糖液に浸かるように液面にガーゼを乗せた。
次に、保管庫(設定温度:4℃)で3時間、浸漬させた。その後、脱細胞化臓器を密閉式パックに入れ、冷凍保管庫(設定温度:-80℃)で凍結保管した。
【0076】
<凍結保存された脱細胞化担体の解凍、使用前の処理方法>
ここで、上述の脱細胞化担体の凍結保存方法で凍結保存された脱細胞化臓器又は組織を解凍して使用する際の処理について説明する。
まず、24±1時間、4℃で解凍した。臓器に凍結によるひび割れが無いことを確認した。そして、上述の自動灌流装置を再接続した。そして、ショ糖液を精製水に置換した。自動灌流装置を用いて精製水を60~100mL/分で15分×10回灌流した。次に、精製水を生食に置換した。自動灌流装置を用いて生食を60~100mL/分で15分×5回灌流した。目的に応じて、培養液等の最終置換液を1980mLに対し、抗生物質-抗真菌剤混合溶液を20mL添加し、更にセファメジン1アンプルを加えた調製液を調製した。最終的に、精製水を調製液に置換し、80mL/分で30分×2回灌流した。
【0077】
<凍結保存せずに脱細胞化担体を安定化する安定化方法>
(安定化工程)
ここで、本実施例において、脱細胞化担体化された臓器又は組織を安定化する安定化工程の具体例について説明する。本実施例では、脱細胞化担体を0.5%ホルムアルデヒド溶液により固定保存するホルムアルデヒド固定保存方法について説明する。この例では、凍結保存を行わず冷蔵保存する例について説明する。
まず、0.5%ホルムアルデヒド溶液(ホルマリン)を調製した。そして、上述の脱細胞化担体製造方法で製造された脱細胞化担体に接続された自動灌流装置を停止し、精製水を全て吸引し、0.5%ホルムアルデヒド溶液に置換した。
次に、自動灌流装置を用いて0.5%ホルムアルデヒド溶液を60~100mL/分で15分×3回灌流した。そして、自動灌流装置を停止し、三方活栓を閉鎖した。臓器は張りすぎていない状態にした。ここで、臓器が凹んでいたり張りすぎていたりする状態で処理すると、その形状のまま固定されてしまうので十分気をつけた。
次に、0.5%ホルムアルデヒド溶液を満たした滅菌パックに、臓器を移動した。臓器が完全に0.5%ホルムアルデヒド溶液に浸かるように液面にガーゼを乗せた。
次に、脱細胞化臓器を密閉式パックに入れ、冷蔵保管庫(設定温度:4℃)で保管した。
【0078】
<脱細胞化担体の細胞残留度の測定>
脱細胞化担体化された臓器又は組織の品質確認について、下記の項目について確認した。
この確認は、ヒト(自己)由来細胞(初代継代細胞)、組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関した指針に対応して実行した。dsDNA;凍結乾燥重量1gあたり、50ng以下であることを確認。DNA fragment length;200bp以下であることを確認。HE or DAP I:核染されないこと、残存細胞がないことをmicroで確認。超微細構造、電子顕微鏡:微細構造が保たれていること、細胞が残存していないことを確認。微生物学的検査(無菌試験):脱細胞化臓器の一部を採取し、無菌であることを確認した。マイコプラズマ否定試験:脱細胞化臓器の一部を採取し、マイコプラズマが存在しないことを確認した。エンドトキシン試験:脱細胞化臓器の一部を採取し、エンドトキシンが含まれていないことを確認した。
【0079】
<脱細胞化担体の細胞充填方法による細胞生着性確認の実験例1>
上述の脱細胞化担体の凍結保存方法で凍結保存、又はホルムアルデヒド固定保存方法で保存した脱細胞化担体について、生体外(in vitro)で細胞充填を行って細胞生着性確認した。この実験例1の処理について、以下で説明する。
【0080】
(薄層切片化工程)
脱細胞化担体を準備し、自動灌流装置を用いて精製水を40~60mL/分で20分×10回灌流した。
また、この時点で、充填したい細胞を準備した。本実施例では、1~5×105個のHepG2細胞を用意した。
また、脱細胞化担体を10mm×10mm×2mmのブロック片(脱細胞化組織断片)に切り出した。
【0081】
(播種工程)
薄層切片化工程により薄層切片化された脱細胞化組織断片を、精製水で再度5分×6回洗浄した。
次に、滅菌PBS180mLに抗生物質-抗真菌剤混合溶液を20mL(通常の5倍濃度)で、10分×4回洗浄した。
また、培地に脱細胞化組織断片を配置した。
また、2~5倍濃度抗生物質-抗真菌剤混合溶液+10%FBS付加MEM(以下、「付加MEM」という。)を調製した。
滅菌した鑷子で脱細胞化組織断片の隅を摘み、26Gの注射針を取り付けたディスポーザブルシリンジを用いて、1~5×105/mLの細胞を、四方からTotal 1mL注入した。
【0082】
(培養工程)
付加MEM2mLを、培養細胞が播種された脱細胞化組織断片に注入した。
その後、一晩(Overnight)、37℃インキュベーションした。
そして、実体顕微鏡下で細胞生着性を確認した。
また、1日1回培地洗浄及び交換した。
また、培養72時間後、実体顕微鏡下で細胞の生着性を確認した。
【0083】
図7Aは、心臓の脱細胞化組織断片について、実体顕微鏡下で生着性を確認した例を示す。この結果によれば、心臓の脱細胞化担体の構造に対応して、播種された細胞の膨化が認められた。
図7Bは、腎臓の脱細胞化組織断片について、実体顕微鏡下で生着性を確認した例を示す。この結果によれば、腎臓の脱細胞化担体の構造に対応して、播種された細胞はやや小型であった。
図7Cは、肺の脱細胞化組織断片について、実体顕微鏡下で生着性を確認した例を示す。この結果によれば、肺の脱細胞化担体の構造に対応して、播種された細胞が平坦な層状に定着していた。
【0084】
<脱細胞化担体の細胞充填方法による細胞生着性確認の実験例2>
また、脱細胞化担体について、臓器の種類によっては、細胞液を脱細胞化担体に滴下することで、生体外(in vitro)の細胞生着性確認した。この実験例2の処理について、以下に説明する。
【0085】
(薄層切片化工程)
まず、脱細胞化担体を20mm×20mm×1mmの脱細胞化組織断片に切り出した。
そして、脱細胞化組織断片を6ウェルプレートのウェル内に配置した。
【0086】
(播種工程)
次に、各ウェルに5×105/mLの細胞液1mLを徐々に滴下、横に漏れ出た細胞液を吸引し再度滴下×3回行った。
次に、6ウェルプレートを、15分、37度インキュベーションした。
これらの播種工程の処理を3回繰り返した。
【0087】
(培養工程)
播種工程により培養細胞が播種された脱細胞化組織断片に、付加MEM 2mLを滴下した。
その後、Overnight、37℃でインキュベーションした。
そして、実体顕微鏡下で細胞生着性を確認した。
また、1日1回培地洗浄及び交換した。
また、培養72時間後、実体顕微鏡下で細胞の生着性を確認した。
【0088】
図7Dは、肝臓の脱細胞化組織断片について、実体顕微鏡下で生着性を確認した例を示す。この結果によれば、肝臓の脱細胞化担体の構造に対応して、肝小葉のように規則的な配置で生着された細胞が散見された。
【0089】
ここで、上述の実験例2においては、その後、培養液を回収し、脱細胞化組織断片を生食で軽く洗浄した。
次に、脱細胞化組織断片を4%PFA溶液又は10%中性緩衝ホルマリン溶液に5分×2回浸漬した。
次に、脱細胞化組織断片の病理組織学的検査を実行し、HE染色及び抗HLA免疫組織化学染色によって、最終的に、細胞生着性を確認した。
【0090】
<電子顕微鏡解析>
各脱細胞化担体を受託業者に送付し、電子顕微鏡画像を得た。
図8Aは腎臓及び脾臓、図8Bは心臓及び肺、図8Cは肝臓及び小腸の電子顕微鏡画像である。各図において、腎臓、脾臓、心臓肺、及び肝臓の電子顕微鏡画像では、左図の拡大画像を右図に示す。また、小腸においては、左図は絨毛部分の電子顕微鏡画像を示し、右図は筋層部分の電子顕微鏡画像を示す。
これらの各電子顕微鏡写真は、より、細胞骨格を含む臓器構築に沿った細胞外基質が非常に高度に残存していることを示していた。
【0091】
<細胞外基質に関した解析(免疫染色)>
次に、各脱細胞化担体を薄層切片にし、市販されている各抗体及びキット(タカラバイオ社製)を用いてDAB(3,3'‐ジアミノベンジジン四塩酸塩)染色を行った。
図9によると、H&E(ヘマトキシリンとエオシンの二重染色)の画像より、細胞核が消失していることが確認できた。また、Sirius red、Collagen IV染色により、細胞質の消失と細胞膜の残存とが確認された。また、Fibronectin、Lamininの染色により、細胞膜上に残存している各細胞外基質を調べた結果、細胞外基質の構成要因に従って、DAB染色の濃淡が確認された。
【0092】
<脱細胞化担体(肝臓)の移植実験>
肝臓について本実施例の脱細胞化方法による処理を行った脱細胞化担体(細胞未充填)をブタ体内に移植し、担体内部に血液が充填されることを確認した。自治医科大学構内に併設されている先端医療技術開発センターにて実行した。
【0093】
図10(a)~(c)によると、心臓拍動下にてAPOLT法にて移植した脱細胞化肝臓に門脈から血管造影剤を投与し、C-arm(放射線画像診断装置)で造影画像を得た。図10(a)は施術の写真、図10(b)(c)は造影の写真である。結果として、細胞未充填の担体でも細部に渡り、血管構造が維持されていることが判明した。このことは、毛細血管のような脆弱な構造体であっても、本実施例の脱細胞化方法で処理された脱細胞化担体は、高度に細胞骨格等を維持していることを示していた。
図10(d)、(e)では、移植した脱細胞化肝臓を切片化して赤血球の箇所を確認した。これによると、肝臓の特徴的な構造である肝小葉構造が血液(赤血球)のみで示された。この事実も、本実施例の脱細胞化担体は、細胞骨格等を高度に維持していることを示している。
【0094】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行したことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、各種実験、先端医療に応用可能な脱細胞化担体を製造可能となるため、産業上利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9
図10