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特許7174996パルスレーザーを用いた成膜方法及び成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】パルスレーザーを用いた成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/203 20060101AFI20221111BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20221111BHJP
   C30B 30/00 20060101ALI20221111BHJP
   C30B 25/06 20060101ALI20221111BHJP
   C23C 14/28 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01L21/203 Z
C30B29/38 D
C30B30/00
C30B25/06
C23C14/28
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018207377
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020072231
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス/GaNに関する拠点型共通基盤技術開発/GaN縦型パワーデバイスの基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】上田 大助
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和樹
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-234165(JP,A)
【文献】特開2007-288141(JP,A)
【文献】特開2008-266113(JP,A)
【文献】特表2005-537644(JP,A)
【文献】特表2013-506757(JP,A)
【文献】特開2002-241930(JP,A)
【文献】特開2010-037615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203
C30B 29/38
C30B 30/00
C30B 25/06
C23C 14/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを収容するターゲットホルダと、
被成膜物である基板を保持するサセプタと、
パルスレーザーを発生させるレーザー発生装置と、
レーザー走査装置と、
シャッターと、
前記シャッターを駆動するシャッター駆動装置と、
前記ターゲットホルダを回転させるターゲットホルダ回転装置と
を備え、
前記サセプタと前記ターゲットホルダとは対向し、
前記シャッターは、前記シャッター駆動装置により前記サセプタと前記ターゲット間の位置に挿脱可能であり、
前記シャッターが、前記サセプタと前記ターゲット間の位置に挿入された状態で、
前記ターゲットホルダ回転装置によって前記ターゲットホルダを回転させながら、
前記レーザー走査装置が、前記ターゲットホルダに収容されたターゲット表面において、前記レーザー発生装置により発生されたパルスレーザーの各スポットが重なり線状に連なったレーザースポット線を構成するとともに、前記レーザースポット線を前記ターゲット表面において走査することを特徴とするPLD装置。
【請求項2】
前記レーザー発生装置から発生されるパルスレーザーのパルス幅は、ピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーであることを特徴とする
請求項1記載のPLD装置。
【請求項3】
ガス供給機構とラジカル発生器をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載のPLD装置。
【請求項4】
クヌーセンセルをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のPLD装置。
【請求項5】
前記レーザー発生装置は、パルスレーザー発生期間とブランキング期間とを交互に繰り返す周期的なパルスレーザーを発生することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のPLD装置。
【請求項6】
前記ターゲットホルダと前記サセプタとの距離を変化させる移動装置と、
前記ターゲットホルダに収容されるターゲット表面の位置の変化を検出する変位検出装置とを備え、
前記変位検出装置の検出結果に基づいて、前記移動装置によって前記ターゲットホルダの位置を調整する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のPLD装置。。
【請求項7】
前記ターゲットホルダの少なくとも底部には、濡れ性改善層が設置されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のPLD装置。
【請求項8】
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーの各スポットが重なり線状に連なったレーザースポット線を構成し、前記レーザースポット線を前記ターゲット表面において走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備えることを特徴とするPLD成膜方法。
【請求項9】
前記パルスレーザーのパルス幅が、ピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーであることを特徴とする
請求項記載のPLD成膜方法。
【請求項10】
前記第6の工程において、窒素ラジカル又は窒素ラジカルと10[%]以下の酸素ラジカルの混合を供給することを特徴とする
請求項8又は9記載のPLD成膜方法。
【請求項11】
ターゲットが、II族金属又はIII族金属とII族元素若しくはIV族元素を含む合金からなることを特徴とする
請求項8乃至10のいずれか1項記載のPLD成膜方法。
【請求項12】
前記第6の工程において、クヌーセンセルからドーピング材料を供給することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項記載のPLD成膜方法。
【請求項13】
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーを所定の周期で走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備え、
前記第6の工程において、窒素ラジカル又は窒素ラジカルと10[%]以下の酸素ラジカルの混合を供給するとともに、
前記パルスレーザーが前記ターゲットに照射されるパルスレーザー発生期間と、
前記パルスレーザーの照射が停止されるブランキング期間と交互に繰り返し、
前記パルスレーザー発生期間と前記ブランキング期間の時間配分により、前記基板に形成された膜の窒化率を調整する
ことを特徴とするPLD成膜方法。
【請求項14】
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーを所定の周期で走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備え、
前記第6の工程において、クヌーセンセルからドーピング材料を供給するとともに、前記パルスレーザーが前記ターゲットに照射されるパルスレーザー発生期間と、前記パルスレーザーの照射が停止されるブランキング期間と交互に繰り返し、
前記パルスレーザー発生期間と前記ブランキング期間の時間配分により、前記基板に形成された膜における前記ドーピング材料の濃度を調整する
ことを特徴とするPLD成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルスレーザーを用いた成膜方法及び成膜装置に関するものであり、特に窒化ガリウム半導体のエピ膜成長法と成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザーを用いた成膜方法、パルスレーザーデポジション(PLD法: Pulse-Laser-Deposition法)は、レーザーをターゲット材料に照射することで材料が瞬間的に蒸発するアブレーションと呼ばれる現象を用いて、ターゲット材料を被成膜物である基板上に堆積する成膜方法である。
パルスレーザーを用いたPLD法により、結晶欠陥の発生を防止しながら高品質な化合物半導体等を成長させる方法が、例えば特許文献1、2に開示されている。
レーザーによるアブレーションでは、蒸発する材料成分はプルームと呼ばれる一種のプラズマ中を、高いエネルギーを持った状態で基板側へ輸送される。このため、成長される薄膜は緻密化され、高品質のエピ成長も可能となる。
PLD法で使用するレーザーのパルス幅(パルス長)がナノ秒オーダー以上の場合は、ターゲットの加熱を伴うことになる。しかし、特許文献1に記載されているように、パルス幅がピコ秒オーダー以下の短パルスレーザーを使用した場合、ターゲットが加熱されることなく、レーザーが照射された箇所のターゲット材料を瞬間的に蒸発することができ、さらに安定した成膜が可能となる。
なお、本明細書において、簡単のためレーザー光を単にレーザーと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-157694号公報
【文献】特開2007-288141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、成膜材料であるターゲットの最表面にターゲット材料の不要な酸化物や有機物等の変性層が存在していると、最表面から蒸発したこれらの物質が基板上に形成されてしまい、形成された膜の純度の低下や結晶性が低下する原因となる。
また、PLD装置の真空チャンバー内に浮遊するデブリがターゲットに付着している状態で成膜を開始すると、形成した膜中にデブリの成分を含むことになり、薄膜の純度が低下する。
【0005】
さらに、PLD法を窒素や酸素などの反応性ガス雰囲気で行う場合、レーザー照射を受けるターゲット表面は真空チャンバー内に存在する酸素や窒素などと反応して表面に変性層を形成し易くなる。そのような変性層がターゲット表面に存在する状態でレーザーを照射すれば、成膜開始直後の蒸発成分には変性層に起因する不純物が含まれ、所望の組成の膜を得ることが困難になる。
特に基板に形成する膜中に窒素を添加するために窒素源として窒素ガス(N)をプラズマ化した窒素ラジカルを用いた場合、発生したラジカルの反応性が高いために、ターゲット表面には窒化膜が形成されやすくなる。同様に酸素ラジカルを用いて膜中に添加する場合は、酸素ラジカルによってターゲット表面が急速に酸化される。
【0006】
また、III族半導体ターゲット又はIII族半導体を含む合金ターゲットを用いてIII-N半導体薄膜をエピ成膜する場合は、Ga金属ターゲットとドーピング材ターゲット又はGa金属ターゲットにMgやSi、Ge、Alなどの不純物を意図的に溶かし込んだ合金ターゲットを用いる場合がある。その場合、Ga金属ターゲットの表面、又は合金ターゲットでは不純物は液体Ga金属内において原子レベルで分散しているため、不純物が合金表面で酸化され易くなり、Ga合金の表面に徐々に変性層が生じ曇りが生じてくる場合が多い。
【0007】
このように、ターゲット表面の状態が、特に成膜初期の膜質に影響を与え、得られた膜の純度や結晶性を劣化させるという問題が発生することがある。
しかしながら、現在のPLD成膜装置では、このようなターゲット表面の初期化、又は清浄化(クリーニング)を行う方法がない。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、ターゲット表面を清浄化し、高品質な膜の形成を可能にするPLD法による成膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るPLD装置は、
ターゲットを収容するターゲットホルダと、
被成膜物である基板を保持するサセプタと、
パルスレーザーを発生させるレーザー発生装置と、
レーザー走査装置と、
シャッターと、
前記シャッターを駆動するシャッター駆動装置と、
前記ターゲットホルダを回転させるターゲットホルダ回転装置と
を備え、
前記サセプタと前記ターゲットホルダとは対向し、
前記シャッターは、前記シャッター駆動装置により前記サセプタと前記ターゲット間の位置に挿脱可能であり、
前記シャッターが、前記サセプタと前記ターゲット間の位置に挿入された状態で、
前記ターゲットホルダ回転装置によって前記ターゲットホルダを回転させながら、
前記レーザー走査装置が、前記ターゲットホルダに収容されたターゲット表面において、前記レーザー発生装置により発生されたパルスレーザーの各スポットが重なり線状に連なったレーザースポット線を構成するとともに、前記レーザースポット線を前記ターゲット表面において走査することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るPLD装置は、
前記ターゲットホルダを回転させるターゲットホルダ回転装置をさらに備え、
前記ターゲットホルダ回転装置によって前記ターゲットホルダを回転させながら、前記レーザー走査装置が、前記ターゲットホルダに収容されたターゲット表面を前記レーザー発生装置により発生されたパルスレーザーで走査することが可能であることを特徴とする。
【0011】
このようなPLD装置とすることにより、シャッターで基板を覆った状態でターゲット表面の変性層を蒸発させることで、ターゲット表面の清浄化(初期化)をすることができ、清浄なターゲット表面から基板への成膜を行うことで、高純度な膜を基板に形成することが可能となる。
また、成膜に使用するパルスレーザーをそのままターゲットの清浄化に用いることもできるため、清浄化のための別途のエネルギー源(レーザー発生装置)が不要であり、そのため走査手段としてレーザーの光路内にガルバノミラー、回転プリズム、電気光学素子等を設置するだけですみ、低コストに良質な膜形成が可能である。
【0012】
また、本発明に係るPLD装置は、
前記レーザー発生装置から発生されるパルスレーザーのパルス幅は、ピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーであることを特徴とする。
【0013】
このようなパルス幅とすることで、ターゲットを加熱することなくターゲット材料を蒸発させることができる。加熱過程を伴わないため、脱ガスによる不純物の混入の少ない良質な膜の形成が可能である。
【0014】
本発明に係るPLD装置は、
ガス供給機構とラジカル発生器をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るPLD装置は、
クヌーセンセルをさらに備えることを特徴とする。
【0016】
反応性ガスの活性なラジカル、例えば窒素ラジカルとターゲット材料とを反応させることにより、基板上への反応生成物、例えば窒化物の形成が可能であるとともに、ラジカルとターゲット表面とが反応する。反応によりターゲット表面に形成された反応生成物は清浄化し初期化できるため、窒化物等の反応物の成膜特性が安定する。特に複数の基板への成膜処理を連続的に行う場合、その効果が顕著である。
また、クヌーセンセルからドーピング材料を供給することが可能である。
【0017】
本発明に係るPLD装置は、
前記レーザー発生装置は、パルスレーザー発生期間とブランキング期間とを交互に繰り返す周期的なパルスレーザーを発生することを特徴とする。
【0018】
基板に膜を形成するパルスレーザー発生期間の後に、パルスレーザーを照射しないブランキング期間を設けることにより、例えば基板上に形成されたターゲット材料と、窒素ラジカル等の活性な反応性ガスとの反応を進め、化学量論的な組成の化合物を形成することができる。また、活性な材料を供給しない場合においても、基板表面に到達したターゲット材料が、ブランキング期間にターゲット表面をマイグレーションし、エネルギー的に安定な結晶を形成することができ、結晶性の良い膜を形成することができる。
【0019】
本発明に係るPLD装置は、
前記ターゲットホルダと前記サセプタとの距離を変化させる移動装置と、
前記ターゲットホルダに収容されるターゲット表面の位置の変化を検出する変位検出装置とを備え、
前記変位検出装置の検出結果に基づいて、前記移動装置によって前記ターゲットホルダの位置を調整することを特徴とする。
【0020】
ターゲット材料の消費に伴い、ターゲット表面の位置が変化すると、ターゲット表面がレーザーの焦点から外れることになる。その結果、ターゲット表面でのレーザーのエネルギー密度が変化し、成膜特性に影響を与えることになる。特に、ターゲット表面の変位量がレーザーの光学系の焦点深度以上になると、その影響が顕著となる。ターゲット表面の変位量を検知し、その変位量に相当する量だけターゲットを移動させることで、ターゲット表面をレーザーの光学系の焦点(焦点深度内)に維持することが可能となり、安定した成膜特性を確保できる。また、本構成は、ターゲット材料を補充した場合にも効果を奏する。
【0021】
本発明に係るPLD装置は、
前記ターゲットホルダの少なくとも底部には、濡れ性改善層が設置されていることを特徴とする。
【0022】
融点の低いターゲット材料を使用した場合、ターゲットの表面は、表面張力によって、曲面形状(球面状)となる。この傾向は表面を清浄化されたターゲットにおいて特に顕著になる。その結果、レーザーが照射されたターゲット表面からの材料の放出角度分布が変わり、膜厚等の均一性が損なわれることになる。
ターゲットホルダの内壁面の少なくとも底面、好ましくは底面及び側面に、ターゲット材料と濡れ性のよい膜(濡れ性改善層)を設けることにより、ターゲット表面の平坦性(特にターゲットの周辺領域以外における平坦性)が向上し、レーザーアブレーションによる成膜分布が良好に維持することができる。
【0023】
本発明に係るPLD成膜方法は、
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーの各スポットが重なり線状に連なったレーザースポット線を構成し、前記レーザースポット線を前記ターゲット表面において走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備えることを特徴とする。
【0024】
シャッターを挿入し(閉じ)、基板への成膜を防止する状態で、パルスレーザーによりターゲット表面の変性層を除去した後に、シャッターを脱し(又は開放し)清浄化されたターゲット表面領域にのみパルスレーザーを照射することで純度の高い膜を基板上に形成することができる。そのため、未清浄領域がターゲット表面上に存在している場合でも、純度の高い膜を、低コストで(複雑な装置構成を用いず)形成することができる。
また、ターゲット表面の清浄化(クリーニング)用のパルスレーザーを別途用いても良いが、成膜に使用するパルスレーザーをそのまま用いることで、クリーニング後、時間をおかずに成膜開始することができる。
さらに、成膜の開始前に基板を設置するための所要時間(基板の移動、サセプタへの装着、基板温度設定のための待ち時間)に、ターゲット表面の清浄化(クリーニング)を行うことで生産のスループットを低下させことがなく、効率的な成膜が行える。
【0025】
本発明に係るPLD成膜方法は、
前記パルスレーザーのパルス幅が、ピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーであることを特徴とする。
【0026】
ターゲットの加熱過程を伴わずにターゲット材料を蒸発し、基板に堆積するため、膜厚均一性や表面モフォロジー等の良好な、良質な膜形成が可能となる。
【0027】
また、本発明に係るPLD成膜方法は、
前記第6の工程において、窒素ラジカル又は窒素ラジカルと10[%]以下の酸素ラジカルの混合を供給することを特徴とする。
【0028】
清浄なターゲット表面から蒸発するターゲット材料とラジカルとの反応膜を基板上に堆積することができ、純度の高い膜を安定して、再現性よく基板上に形成することができる。
【0029】
本発明に係るPLD成膜方法は、
ターゲットが、III族金属又はIII族金属とII族元素若しくはIV族元素を含む合金からなることを特徴とする。
【0030】
また、本発明に係るPLD成膜方法は、
クヌーセンセルからドーピング材料を供給することを特徴とする。
【0031】
良質なIII-N化合物半導体を基板上に容易に再現性よく形成することができ、光デバイスや高耐圧デバイス等の製造に適用することができる。その結果、これらの製品の性能向上や低コスト化に貢献することも可能である。
また、クヌーセンセルによりドーピングが可能である。
【0032】
本発明に係るPLD成膜方法は、
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーを所定の周期で走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備え、
前記第6の工程において、窒素ラジカル又は窒素ラジカルと10[%]以下の酸素ラジカルの混合を供給するとともに、
前記パルスレーザーが前記ターゲットに照射されるパルスレーザー発生期間と、
前記パルスレーザーの照射が停止されるブランキング期間と交互に繰り返し、
前記パルスレーザー発生期間と前記ブランキング期間の時間配分により、前記基板に形成された膜の窒化率を調整する
ことを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係るPLD成膜方法は、
成膜材料からなるターゲットに対向して基板を設置する第1の工程と、
前記基板と前記ターゲットとの間にシャッターを挿入する第2の工程と、
パルスレーザーを所定の周期で走査しながら前記ターゲットの表面を照射し、前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させる第3の工程と、
前記パルスレーザーの走査を停止するか又は走査範囲を縮小させる第4の工程と、
前記シャッターを前記基板と前記ターゲットとの間の位置から外す第5の工程と、
前記パルスレーザーの照射箇所における前記ターゲットの表面を蒸発させ、前記基板に成膜する第6の工程と、
を備え、
前記第6の工程において、クヌーセンセルからドーピング材料を供給するとともに、前記パルスレーザーが前記ターゲットに照射されるパルスレーザー発生期間と、前記パルスレーザーの照射が停止されるブランキング期間と交互に繰り返し、
前記パルスレーザー発生期間と前記ブランキング期間の時間配分により、前記基板に形成された膜における前記ドーピング材料の濃度を調整する
ことを特徴とする。
【0034】
ターゲットにレーザーを照射して基板上に膜形成を行う期間(パルスレーザー発生期間)の後にパルスレーザーの照射を停止して膜形成を行わない期間(ブランキング期間)を設けることで、基板上に形成された膜の膜質(組成や結晶性)を向上させることができる。
また、ブランキング期間を周期的に設けることで、所望の膜質の膜を所望の膜厚の膜を基板上に形成することができる。
特にクヌーセンセルによるドーピングを用いる場合には、ブランキング期間中 にもドーピングは継続されるので、高濃度のドーピングが行える。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、成膜に使用するパルスレーザー、特に短パルスレーザーを基板表面に照射して、成膜前にターゲット表面を清浄化するため、良質な膜を形成することができるPLD装置及びPLD成膜方法を得ることができる。
【0036】
なお、短パルスとは、ピコ秒オーダー以下のパルスを意味し、具体的にはパルス幅がピコ秒オーダー及びフェムト秒オーダーであることを意味し、パルス幅がフェムト秒オーダーであるとはパルス幅が1~1000[ps]、パルス幅がフェムト秒オーダーであるとはパルス幅が1~1000[fs]のパルスを言う。レーザーのパルス幅が1000[ps]に近くなると、ターゲットの加熱を伴う過程に近くなる。フェムト秒オーダーのパルス幅のレーザー(フェムト秒レーザー)も発熱を伴わない結晶成長が可能であるが、繰り返し周波数が低く、成膜速度が極めて低く、また装置が大型になる問題がある。従って、成膜速度と、膜質及び製造装置の小型化・安価を重視する場合、好適には1~200[ps]、さらに好適には1~50[ps]のピコ秒オーダーのパルス幅のレーザー(ピコ秒レーザー)を使用する。このようなパルスレーザーを用いることで、ナノ秒以上のパルス幅のレーザーと異なりターゲットの加熱を伴うことなく良好な膜を形成することができる。
また、フェムト秒レーザー(例えばArFレーザー)の繰り返し周波数は、数10[Hz]、ピコ秒レーザーの繰り返し周波数は、数10[kHz]以上を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施形態1におけるPLD装置の構成図。
図2】従来の課題を示すターゲット断面図。
図3】ターゲットクリーニングのためのパルスレーザーの照射軌跡を示す。
図4】改良されたターゲットクリーニングのためのパルスレーザーの照射軌跡を示す。
図5】ターゲットクリーニングのパルスレーザーの照射軌跡と成膜時のパルスレーザー照射箇所を示す。
図6】実施形態2におけるPLD装置の構成図。
図7】実施形態2における改良されたターゲットクリーニングのためのパルスレーザーの照射軌跡を示す。
図8】実施形態3におけるPLD装置の構成図。
図9】実施形態4におけるPLD装置の構成図。
図10】窒素ラジカルの導入タイミング並びに標準のパルスレーザーの波形及び実施形態5のパルスレーザーの波形を示す。
図11】ターゲットに関する課題を示す断面図及び上面図並びに実施形態6によるターゲットホルダの断面及び上面図を比較して示す。
図12】実施形態6におけるPLD装置の構成図。
図13】ターゲットに関する課題を示す断面図。
図14】実施形態7におけるターゲットホルダの断面図。
図15】クヌーセンセルを備えたPLD装置の構成図。
図16】ターゲットクリーニング処理前後のターゲット表面を示す写真。
図17】酸素添加によるシート抵抗低減効果を示すグラフ。
図18】ブランキング期間を設けることによるシート抵抗の低減及び均一性向上効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0039】
(実施形態1)
図1は第1の実施形態におけるPLD装置1の構成図を示したものである。
排気配管2を介して図示しない真空ポンプで排気され、内部を真空に保持可能なチャンバー(筐体)3には、ターゲット回転軸4の回りに回転可能なターゲットホルダ(ターゲット容器)5、成膜する対象(被成膜物)である基板6を保持するサセプタ(基板保持台)7が設置されている。ターゲットホルダ5は、蒸着源(成膜材料)であるターゲットTgを収容し、ターゲット回転軸4の回りに、ステッピングモータやサーボモータ等を用いたターゲットホルダ回転装置により、ターゲットホルダに収容したターゲットTgを回転させることができる。
サセプタ7は、加熱ヒータ8を備え、基板6を、例えば500~1000[℃]に加熱することが可能である。
【0040】
チャンバー3には、ビューポート(レーザー導入部)9が設けられており、ビューポート9を介してレーザー発生装置10から放射されたレーザーをチャンバー3内に導入して、レーザーでターゲットTg表面を照射することができる。
レーザー発生装置10からは、ピコ秒オーダーのパルス幅を有する短パルスレーザー(例えば波長1064[nm]、パルス幅24[ps]、繰り返し周波数50[kHz]、平均パワー5[W])が放射される。
【0041】
レーザー発生装置10から放射されたレーザーLsは、第1のレンズ(コレクタレンズ)11を経由し、第1のレーザー走査装置12、例えばガルバノミラー、電気光学素子、音響光学素子等により進行方向が変更され、第2のレンズ(フォーカスレンズ)13によってターゲットホルダ5に収容されるターゲットTg表面に集光される。
すなわち、第1のレーザー走査装置12によってレーザーの進行方向(光軸)が周期的に所定の振幅角度範囲θ内で変化するため、レーザーは、ターゲットTg表面を周期的に例えば直線的に走査(スキャン)される。
【0042】
ターゲットTgとしては、Al、Ga、InなどのIII族金属又はIII族金属のみからなる合金を用い、またドーピング元素としてSi、Ge、MgなどをIII族元素に予め加えた合金ターゲットを用いることができる。また、Al、Ga、InなどのIII族元素のターゲットを用い基板6上に成膜するとともに、図15に示すように、標準的なクヌーセン・セル25をチャンバーに装着し、電源26により上記ドーピング元素からなる材料(ドーピング材料と称す)を加熱し供給する方法がある。いずれの蒸着源の形態も本発明のすべての実施形態に適用可能である。(なお、図15においては、簡単のためレーザー照射の光学系統は省略している。)
図2は、ターゲットホルダ5に収容されたターゲットTgの断面を示すが、このようなターゲットTgの表面は多くの場合、大気中で酸化された自然酸化膜で覆われる。すなわち、図2に示すように、ターゲットTgの表面は自然酸化膜等の表面層S(変質層)が形成されているため、目視でも曇った表面を確認することもできる。
このようなターゲットTgに対してレーザー照射を行い基板6に成膜した場合、成膜の初期段階では、酸素を多く含む表面層からのアブレーションが生じ、形成された膜の膜質(例えば組成、純度)はターゲットTgと同一にならない。レーザー照射時間とともに、ターゲット表面の自然酸化物層(変質層)が蒸発し除去されていくため、基板6に形成される膜は、ターゲットTgの組成に近い膜質に近づき、膜厚方向に均一な膜質の膜を基板6上に形成されない。
【0043】
そこで、PLD装置1は、ターゲットホルダ5(ターゲットTg)とサセプタ7(基板6)との間にシャッター(遮蔽板)14を備える。シャッター14は、開閉軸15の回りに回転可能に設置されている。ステッピングモータやサーボモータ等を用いたシャッター駆動装置(シャッター開閉装置)により、シャッター14を開閉軸15の回りに回転させることで、ターゲットホルダ5とサセプタ7との間に挿入し(介在させ)たり(閉じた状態)、ターゲットホルダ5とサセプタ7との間の位置から脱し(外し)たり(開いた状態)することができる。すなわち、シャッター14はシャッター駆動装置によって、ターゲットホルダ5とサセプタ7との間に挿脱可能に設置されている。
【0044】
シャッター14を閉じると、ターゲットTgから蒸発したターゲット材料は、シャッター14により遮られ基板6に到達しない。すなわち、シャッター14上に膜が形成され、基板6上には形成されない。
シャッター14を開くと、シャッター14はターゲットホルダ5(ターゲットTg)とサセプタ7(基板6)との間から離れ、ターゲットから蒸発したターゲット材料は基板6に到達し、基板6上にターゲット材料を堆積できるようになる。
なお、図1はシャッター14の移動は、開閉軸15回りにモータにより回転することで可能とする構成を示すが、例えば、ターゲットホルダ5の表面に平行に並進させて移動してもよい。
なお、シャッター14の形状は円板形状であっても、矩形形状であっても他の形状でもよい。クリーニング工程において基板6を覆い、基板6上にターゲット材料が堆積されなければよい。
【0045】
本PLD装置1を用いて成膜する場合、まずは、シャッター14を閉じた状態でターゲットTg表面にレーザーを照射し、表面の変質層から放出されるターゲット材料が基板6上へ堆積されることを防止する。そして、ターゲットTg表面の変質層が蒸発し、除去(清浄化)された後に、シャッター14を開き、ターゲットTg表面から蒸発するターゲット材料を基板6上に堆積する。その結果、基板6上に形成された膜は、ターゲットTgの組成に近い膜質(例えば組成、純度)を実現できる。
【0046】
また、PLD装置1は、ターゲット材料と反応し化合物を形成する元素(例えば酸素、窒素)を気体の状態で供給するガス供給ポート16が設けることができる。即ち、ガスボンベ等のガス供給源から供給された反応性のガスをマスフローコントローラ17により所定の流量に制御し、ガス供給ポート16からチャンバー3内に供給するガス供給機構を備える構成とすることができる。従って、ターゲットTg表面から蒸発するターゲット材料とガス供給ポート16から供給されるガスとが反応して得られる化合物を基板6上に成膜する構成とすることができる。
このような構成においては、ターゲット表面と反応性ガスとの反応物が形成されるため、シャッター14を使用したターゲット表面の清浄化処理が安定な膜形成に効果的である。
【0047】
また、ターゲット材料とガス供給ポート16から供給される元素との化合物(反応物)からなる膜と、ターゲット材料からなる膜との積層膜を、制御良く形成することも可能である。例えば、ガス供給ポート16からガスを供給しながらターゲットTg表面にレーザーを照射し、ターゲット材料と供給される元素との化合物を基板6上に形成した後、シャッター14を閉じた状態でレーザーを照射し、ターゲットTg表面に形成された供給された元素との化合物を除去し、ターゲットTg表面を初期化した後、シャッター14を開いた状態でレーザーを照射することでターゲット材料からなる膜を形成し、組成制御性良く積層膜の形成が可能となる。
【0048】
なお、シャッター14は定期的に取り外し交換するか、酸等の薬品で堆積物を除去し再使用することができる。また、シャッター14の表面は、サンドブラスト処理等により細かな凹凸を設け、清浄化(クリーニング)工程中に堆積した膜の剥離を防止してもよい。
【0049】
さらに、この清浄化工程を行うことにより、ガス供給ポート16から供給されるガスを変え、異なる種類の化合物の積層膜を形成することも可能である。
即ち、ガス供給ポート16から第1のガスを供給し、ターゲット材料との第1の化合物を基板6上に形成後、シャッター14を閉じた状態でレーザー照射しターゲットTgの表面に形成された第1の化合物を除去し初期化した後、シャッター14を開いた状態でガス供給ポート16から第2のガスを供給して、ターゲット材料との第2の化合物を基板6上に形成することができる。そのため、基板6上に積層する膜の組成制御性が向上し、所望の膜質の積層膜を容易に得ることができる。
【0050】
なお、サセプタ(基板保持台)7は加熱ヒータ8を内蔵しているため、基板6の昇温が可能である。例えば、成膜時の基板6温度を800[℃]とし、基板ヒータへの急激な温度変化を抑制するために10[℃/min]程度の昇温速度で行うと昇温に約80分の時間を要する。シャッター14を閉じて、ターゲットTg表面を清浄化する工程は、基板6の昇温時間を利用することで、装置の処理能力(スループット)を低下させることもない。
【0051】
図3は、ターゲットTg表面にレーザーを走査し、清浄化する一例を示す。
短パルスレーザーは、ターゲットを加熱しないため、ターゲット表面の変性層を瞬時に気化することができる。1000[ps]よりも長パルスのレーザーでは、ターゲット材料が熱エネルギーを吸収し、変質物を含む塊状液滴の突出に伴い、ターゲット表面に形成された酸化物等の変質物の移動や再付着のリスクがある。そのため、(加熱過程を伴わないピコ秒オーダー以下の)短パルスレーザーをターゲット表面上で走査することにより、ターゲット表面をくまなく清浄化することができる。
【0052】
レーザーは、第1のレーザー走査装置12によって、ターゲットTg表面を直線的に、図3中矢印Aの方向に移動する様に制御するとともに、ターゲットホルダ5及びターゲットTgは、一定の回転角速度αで回転する。その結果、図3の点線で示すように、レーザーは、渦巻き状にターゲットTg表面を走査し、ターゲットTg表面を清浄化することができる。
なお、シャッター14は、レーザーのターゲットTg表面への照射を遮らない位置に配置されている。
【0053】
なお、ターゲットTg表面の全面を清浄化する必要はなく、レーザーによりターゲット材料を蒸発させる領域のみを清浄化すれば良い。なぜなら、本発明のような短パルスレーザーを用いたPLD法においては、レーザーの照射によりターゲットTgの加熱を行うことなく、レーザーが照射された限られた領域でのみターゲット材料を蒸発させる。そのため、ターゲット材料を蒸発させるために、少なくとも成膜処理工程において、ターゲットTgを回転させながらレーザーが照射される領域(簡単のため蒸発領域と称す)を含むような領域を清浄化すれば十分である。以下、このような領域を簡単のためクリーニング領域と称することがある。従って、蒸発領域は、クリーニング領域内に含まれ、さらにクリーニング領域はターゲットの全表面領域内に含まれる。
但し、蒸発領域を含むクリーニング領域内においては、くまなく清浄化する必要がある。
【0054】
しかし、図3で示されるレーザーの走査によりターゲットTg表面の清浄化を行う場合、レーザーは一定周期でパルス状に照射されるため、ターゲットTg表面を照射するレーザースポット18(例えばスポット径50~100[μm]であり、ターゲットTgの回転速度はあまり高くできないことと、レーザーの照射パルス時間は高々1000[ps]であるためスポットの様に見える。)の間隔は、ターゲットTgの中心部分ではスポットとスポットの間隔は密であるが、ターゲットTgの中心から遠ざかるに従って拡がる傾向にある。これは、円周方向の移動速度が、レーザースポット18の中心からの距離Rと角速度αの積となるためである。
従って、ターゲットTg表面のクリーニング領域をくまなくレーザーで清浄化するには、距離Rに依存して、ターゲットTgの回転角速度αとパルスレーザーの繰り返し周波数を変化させるように制御する必要がある。例えば、距離Rに従って繰り返し周波数を高くするか、回転角速度を小さくするように制御することで、クリーニング領域全体を清浄化することができる。
【0055】
但し、特にレーザーの繰り返し周波数の制御は、ターゲット材料の蒸発特性に大きく影響を与えるため、制御範囲が限られており、回転角速度を距離Rに依存して低減する制御では、ターゲットTg表面の清浄化工程に要する時間が極端に増大することになる。また、ターゲットTgの回転制御であるモータ制御が複雑になる。
また、レーザースポット18の位置とターゲットTgの中心との距離を正確に測定することは困難であるのでターゲットTgの中心部を正確にクリーニングすることは難しい。また、スポットが形成する渦巻きの間隔を狭めるための制御は難しく、結局、ターゲットTgの均一なクリーニングは困難である。
さらに、レーザースポット18により点状にターゲットTg表面を走査するため、ターゲットTg表面を清浄化する時間は非常に長くなり、PLD装置の処理能力を低下させる場合もある。
【0056】
そこで、ターゲットTgのクリーニング領域における清浄化工程の時間を短縮させ、簡単に均一なクリーニングを行うため、クリーニング領域をレーザースポットの点ではなく、レーザースポットが連続する“線”で走査することにより、ターゲットTg表面のクリーニング領域を清浄化する。この場合、レーザーパルスの繰り返し周波数とターゲットTg(ターゲットホルダ5)の回転角速度を同期することも、距離Rに依存して回転数を変化させることもない。
【0057】
以下、効率的にターゲット表面をクリーニングすることができるレーザー走査装置12によるレーザーの制御方法について説明する。
図4は、ターゲットTgを回転させながら、第1のレーザー走査装置12(ガルバノミラー)を用いて短パルスレーザーを走査した場合のターゲットTg上でのレーザースポット18の軌跡を示したものである。
図4(a)に、1周期(1往復)の走査によるレーザーの軌跡を示し、図4(b)は領域Bの拡大図、すなわちレーザーの軌跡における折り返し地点近傍の拡大図を示し、図4(c)は、レーザーの走査によりターゲットTg表面の清浄化工程の途中段階を示す。
なお、ターゲットTgの表面の清浄化に用いるためにレーザー発生装置10から発生させる短パルスレーザーは、PLD成膜に使用するものをそのまま使用した。
本クリーニング方法では、レーザースポット13においてターゲットTgの中心からの距離に従って繰り返し周波数を変化させることもなく、一定の繰り返し周波数のパルスレーザーを使用する。
【0058】
このようなクリーニングに必要な条件は、ターゲットTg表面のクリーニング領域をくまなくアブレーションさせる条件、即ちクリーニング領域を完全にレーザースポットで埋め尽くす条件とする必要がある。すなわち、図4(a)で示すように、レーザースポット18は、“線”状に連続して連なるようにターゲットTg上を走査する。
【0059】
連続するレーザースポットの線でターゲットを清浄化するための条件は下記のようになる。
・パルスレーザーの繰り返し周波数: f
・レーザー走査装置(ガルバノミラー)の繰り返し周波数: f
・ターゲットの回転数:f
(ターゲットの回転角速度:α=2πf
・ターゲット表面での走査幅:d[mm]
・レーザースポットサイズ(直径):Ls[mm]
とする。
レーザーは、第1のレーザー走査装置12における1周期の時間1/fの間に走査幅dを往復するため、走査速度は2dfである。パルスレーザーの時間間隔は1/fであるから、レーザーのパルスとパルスとの間にレーザースポットが移動する距離(隣り合うレーザースポットの間隔Δ図4(b)参照))は2df/fとなる。
レーザースポットの間隔が、レーザースポットサイズ以下であれば、隣り合うレーザースポットが重なり合う(互いに接する場合を含む、以下同様)から、レーザースポット18が走査時に重なり合う条件は、
2df/f≦Ls (式1)
である。
従って、第1のレーザー走査装置12の繰り返し周波数は下記条件となる。
≦[Ls/(2d)]f (式2)
このような条件とすることで、レーザースポット18は互いに重なり合い、見かけ上図4(a)に模式的に示すように線状に連なる。
【0060】
また、第1のレーザー走査装置12における1周期の時間1/ fの間にターゲットの回転により移動する距離をΔ図4(b)参照)とすると、レーザースポット18の“線”が重なり合う条件は、
Δ≦Ls (式3)
となる。
距離Δは、ターゲット中心からの距離rと回転角速度αからrα(1/f)に等しくなる。第1のレーザー走査装置12による走査幅はdであり、ターゲット中心からの距離rはd/2であるから、レーザースポット18が重なり合う条件は、式3より、
πdf/f≦Ls (式4)
となる。従って、ターゲット回転数fは下記条件になる。
≦[Ls/(πd)]f (式5)
図4(c)で模式的に示すように、線状に連なったレーザースポット18の集合をターゲットTg上で走査することになり、見かけ上は線でターゲットTg表面を走査し、清浄化する。このようにして、ターゲットTgのクリーニング領域全面を走査し、清浄化することができ、その結果、清浄化に要する時間を大きく低減することができる。
なお、図4(c)は、レーザーの走査の途中段階を表示しているが、レーザーの走査を繰り返し、クリーニング領域の全面を走査し、清浄化できる。
【0061】
このように、シャッター14を閉じた状態で、レーザースポット径及び繰り返し周波数に応じて、レーザーの走査周期及びターゲット回転数を制御して、ターゲット表面の照射を行うことで、効率的及び迅速に、ターゲットのクリーニングを実行することができる。
なお、レーザーの走査周期とターゲット回転数は、上記のように簡単な計算式で求められ、さらにレーザー走査装置とターゲット回転装置を同期して稼働する必要もないため、安価なマイコン等によって、両装置に周期情報を送信して、制御することは容易である。
また、手動操作によって、両装置の周期を設定し、制御してもよい。
【0062】
例えば、典型的な条件として、短パルスレーザーを平均パワー5[W]で、繰り返し周波数fを50[kHz]、有効なレーザースポットサイズLsを50[μm]、走査幅dを5[mm]とした場合、式2から第1のレーザー走査装置12の繰り返し周波数fは250[Hz]以下、例えば200[Hz]にすればよい。また、式4からターゲットの回転数fは0.8[回転/秒]以下、例えば0.5[回転/秒]で行えばよい。
このようにターゲットの回転数と比較してレーザー走査周波数が十分に大きいため、レーザースポット18ほぼ直線的に連なり、実質的に“直線”でターゲット表面を走査するため、図3で示すような“点”でターゲット表面を走査する場合と比較して、ターゲットのクリーニング領域の清浄化に要する時間が大きく短縮される。
【0063】
上記のように、このレーザーによるターゲット表面の清浄化処理は、シャッター14を閉じた状態で、基板6が成膜温度800[℃]に到達するまでの待ち時間、約80[min]の間に行うため、清浄化工程に要する追加の処理時間の必要がなく、スループットを犠牲にすることがない。また、この80[min]間に、ターゲット表面は2400回以上レーザーパルスで重ね打ちされており、ターゲットのクリーニング領域の表面酸化物層は完全に除去され、目視によっても、ターゲット表面の光沢を確認することができる。
【0064】
なお、レーザーの走査線がターゲットの回転中心と重ならない場合には、図5(a)の領域Cで示すように、レーザースポット18が照射されない領域(未クリーニング領域)が生じる。第1のレーザー走査装置12(第1のガルバノミラー)の走査線をターゲットの回転中心を通るように調整すれば、未クリーニング領域の発生を解消できるものの、レーザースポット径が小さいため、このような調整は極めて困難である。
そのため、新たに軸の異なる、例えば走査方向が互いに直交する追加的な第2のガルバノミラー(第2のレーザー走査装置)を、図1の第1のレーザー走査装置12と第1のレンズ(コレクタレンズ)11との間、又は第1のレーザー走査装置12と第2のレンズ(フォーカスレンズ)13との間に設置し、2台のレーザー走査装置によって、2次元的にレーザーを走査し、未クリーニング領域の発生を解消することができる。
また、第1のレーザー走査装置12として2次元のMEMSミラー(DMD:Digital Micromirror Device)を使用してもよい。
また、ターゲット回転軸を緩やかに振動させることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0065】
しかし、上述のように、成膜工程でレーザーを照射する蒸発領域を、クリーニング領域内に設けることにより、レーザー走査装置を新たに追加することなく未クリーニング領域の影響を回避することができる。
具体的には、ターゲットホルダ5を回転しながら、ターゲット表面の清浄化工程における第1のレーザー走査装置12の振幅角度範囲θより小さい振幅角度範囲θ’でレーザーを走査してターゲット材料を蒸発して成膜すればよい。即ち、レーザーの走査範囲をクリーニング工程よりも縮小して成膜することで、清浄化されたターゲット表面上から材料を蒸発し、純度の高い膜を形成することができる。
第1のレーザー走査装置12として、ガルバノミラー、電気光学素子、音響光学素子、MEMSミラーを用いることで、振幅角度範囲の変更は可能である。
レーザーを走査しないと、ターゲットTgの同一箇所のみが消費され、その部分の表面形状が凹形状となり、成膜分布の経時変化が生じることがある。しかし、レーザーを走査し、ターゲットTgの蒸発領域を均一に消費することで、成膜分布の経時変化を抑制することができ、ターゲット使用効率を向上させることができる。
【0066】
このように、ターゲット表面を照射するパルスレーザーの走査範囲を縮小又はレーザーの走査を停止後、シャッター14を開放し、そして基板6とターゲットとの間から外した後、基板6上にレーザーによりターゲット材料を蒸発させ成膜する。その結果、追加的なレーザー走査装置は不要であり、また走査線をターゲット回転中心に合わせる必要もなく、低コストで高純度な膜の形成が可能となる。
【0067】
なお、ターゲットが、上面から見て扇状に複数に分割され、複数のターゲット材料が搭載されている場合、例えば、120度ずつ3つの領域に分割されている場合、その分割領域を決定する角度の範囲内で往復するようにターゲットを回転(回動)させてもよい。
【0068】
なお、成膜時に必ずしもレーザーの走査を行う必要はない。図5(b)に示すように、第1のレーザー走査装置12における1周期の中で最大振幅角から位相π/4の位置Pでレーザーを照射するように、第1のレーザー走査装置12によるレーザーの反射角度を固定してもよい。
この場合、クリーニング領域の中央付近にレーザースポット18を照射して、ターゲットTg表面からターゲット材料をアブレーションさせて、基板6上に成膜することになる。
なお、図5(b)に示される直線は、クリーニング工程での第1のレーザー走査装置12によるレーザーの走査範囲を示す。
【0069】
上記実施形態では、第1のレーザー走査装置12によるレーザーの走査を三角波駆動させる場合について説明したが、正弦波駆動させることも可能であることは言うまでもない。
正弦波駆動の場合、レーザースポットの位置は、時間tに対してd*sin(2πft)となるように走査するため、走査速度が最大(2πdf)となる場合においても、各レーザースポットが重なり合う条件に設定すればよく、上記において走査速度“2df”を“2πdf”とすればよい。
【0070】
(実施形態2)
図6は実施形態2のPLD装置1の構成を示す。実施形態1では、シャッター14を閉じた状態でターゲットTg表面のクリーニングを行う際に、第1のレーザー走査装置12によって、レーザーは直線的に(線分上を)往復する走査を行った。
本実施形態では、シャッター14を閉じた状態でターゲットTg表面のクリーニングを行う際に、第2のレーザー走査装置19によって、レーザーが円軌道上を走査されるように制御する点で、実施形態1と異なる。
第2のレーザー走査装置19として、回転するプリズムを用いる。第2のレーザー走査装置19は、例えば、中空モーターの回転部にプリズムを装着し、モーターとしてサーボモータやステッピングモータを使用し、モータの回転数を制御可能に構成する。
プリズムを通過した短パルスレーザー(例えば、パルス幅10[ps]以下、繰り返し周波数50[kHz]、平均パワー5[W])の光軸は、入射レーザーの光軸に対して微小角が付与される。さらにプリズムを回転させるため、レーザーはターゲットTg表面において円軌道を描く。
【0071】
図7は、本実施形態におけるレーザースポットの軌跡を模式的に示したものである。実際には、レーザーのターゲットへの入射角が垂直ではないため、レーザーの軌跡は円ではなく楕円になるが、図7においては、この照射軌跡を円で近似して示している。
図7(a)は、レーザーの円軌道の走査を約1回転行った状態であり、図7(b)はさらに複数回レーザーの円軌道走査を行った状態であり、クリーニング工程の途中段階を示す。
クリーニングを完全なものにするためには、ターゲット表面をくまなくアブレーションさせる条件、即ちターゲット表面を完全にレーザースポットで埋め尽くす条件とする必要がある。そのために、実施形態1と同様に、隣り合うレーザースポット同士を重ね合わせ、連なったレーザーの線(この場合“直線”ではなく“円(弧)”)により、ターゲットTg表面を照射し、清浄化を行う。このような清浄化を行うためのレーザーの走査条件及びターゲットの回転条件は、下記のようになる。
・パルスレーザーの繰り返し周波数:f
・プリズムの回転数:f
・ターゲットの回転数:f
・レーザーを走査する(近似)円軌道の直径:d[mm]
・レーザースポットサイズ:L[mm]
とする。
プリズムの角速度は2πfであるからレーザースポットの回転速度は(d/2)*(2πf)となる。パルスレーザーの時間間隔は1/f であるから、レーザーのパルスとパルスとの間にレーザースポットが移動する距離はπd /f となる。
レーザースポット18が走査時に重なり合う条件は、
πd /f≦L (式6)
従って、第2のレーザー走査装置19におけるプリズムの回転数は下記条件となる。
≦[L/(πd)]f (式7)
また、第2のレーザー走査装置19における1周期の時間1/fの間にターゲットの回転により、ターゲット中心からの距離d/2において、円周方向に移動する距離はπd/fであるから、レーザースポット18が重なり合う条件は、
πd/f≦L (式8)
となる。従って、ターゲット回転数には上限があり、下記条件になる。
≦[L/(πd)]f (式9)
具体的には、パルスレーザーを平均パワー5[W]で、繰り返し周波数を50[kHz]、有効なレーザースポットを50[μm]、円軌道の直径dを5[mm]とすると、式7からプリズム回転数を159[回転/秒]以下とし、また式9からターゲットの回転数は、例えば0.5[回転/秒]とすることができる。
クリーニング工程は基板6の昇降温の間に行うことが可能なのも実施形態1と同様であり、得られたクリーニングの効果は実施形態1と同様である。
【0072】
なお、実際のレーザーは、ターゲット表面に対して垂直(π/2)ではなく有限の入射角ψ(0<ψ<π/2)の傾きを有するが、傾き方向に対して円軌道とレーザースポットとが1/sinψ倍となることを考慮して、上記と同様にプリズムの回転数(第2のレーザー走査装置19の周期)を算出できる。
【0073】
なお、上記の例ではプリズムを用いてレーザーの進行方向を変更(屈折)したが、レーザーを透過しその進行方向を変更する透過型の光屈折素子であればよい。例えば、透過型光屈折素子として、レーザーに対する入射角の異なる2枚の反射鏡を対向させ、レーザーを2回反射させることにより、レーザーを透過させながらもその進行方向を変更してもよい。
この場合、反射鏡の角度を変えることで、容易に屈折角度を変更することができる。
【0074】
このように、シャッター14を閉じた状態で、レーザースポット径及び繰り返し周波数に応じて、レーザーの走査周期(プリズム回転数)及びターゲット回転数を制御して、ターゲット表面の照射を行うことで、効率的及び迅速に、ターゲットのクリーニングを実行することができる。
なお、レーザーの走査周期とターゲット回転数は、上記のように簡単な計算式で求められ、さらに第2のレーザー走査装置19とターゲットホルダ5の回転装置を同期して稼働する必要もないため、安価なマイコン等によって、両装置に周期情報のみを送信して、制御することは容易である。
また、手動操作によって、両装置の周期を設定し、制御してもよい。
【0075】
また、図7(b)から明らかなように、円軌跡がターゲット回転軸4を通らない場合は中心部に未クリーニング領域Cが生じるが、レーザー走査装置として第2のレーザー走査装置19と第1のレンズ(コレクタレンズ)11又は第2のレンズ(フォーカスレンズ)13との間に、さらに、例えばガルバノミラーのように線分上を走査する第1のレーザー走査装置12を追加することで、未クリーニング領域Cの発生を解消することができる。
あるいは、ターゲット回転軸4を緩やかに振動させることで、同様の効果を得ることができる。いずれかの方法で中心部の未クリーニング領域Cの発生を解消することができる。
あるいは、プリズムの代わりに電気光学素子や音響光学素子を回転させ、スリップリングを介して電気的に屈折角度を変更してもよい。
【0076】
クリーニング工程が完了後、成膜プロセス時のレーザー照射は、上述のクリーニング領域の内側に照射する。
これはクリーニングを終了したときに停止させる回転プリズムの角度を、ターゲットTg上に照射されるレーザーがクリーニング領域の中央付近になるような角度に調整することで実現できる。
また、この角度を中心に、ターゲットTg上に照射されるレーザーがクリーニング領域内に収まる範囲で、回転プリズムの角度を増減して(すなわちプリズムを所定の角度範囲で回転(回動)して)、円弧上を往復するようにレーザーを走査しても良い。サーボモーターや回転角センサと組み合わせたステッピングモータを用いることで、容易に実現できる。この場合においても、ターゲットホルダ5に回転角と同期して制御する必要はなく、独立してプリズムを回転。
この結果、レーザースポットをクリーニング済の領域に照射し、純度の高い成膜を行うことができる。
【0077】
このように、本実施形態においても、ターゲット表面を照射するパルスレーザーの走査範囲を縮小又はレーザーの走査を停止後、シャッター14を開放し、そして基板6とターゲットとの間から外した後、基板6上にレーザーによりターゲット材料を蒸発させ成膜する。その結果、追加的なレーザー走査装置は不要であり、また走査線をターゲット回転中心に合わせる必要もなく、低コストで高純度な膜の形成が可能となる。
なお、上記に記載の実施形態では、ターゲットTgを回転させる場合を説明しているが、ターゲットTgを静止させて、ガルバノミラーを複数個組み合わせて構成するか、2次元MEMSミラーを利用して、実施形態に示すレーザースポット軌跡を実現することも可能である。
【0078】
(実施形態3)
本実施形態においては、図8に示すように、上記実施形態1又は実施形態2に開示されているPLD装置1に対して、ガス供給機構から供給される反応性気体のラジカルを発生し、PLD装置1内に供給できるように、具体的にはガス供給ポート16部にラジカルガン(ラジカル発生器)20を備え、III-N化合物半導体の結晶成長を可能にする。
ターゲットTgとして、例えばIII族金属(III族金属の合金を含む)又はIII族金属とII族若しくはIV族元素を含む合金が使用される。より具体的には、Ga、Al、InのIII族単体、又はそれらの合金に、モル比10[%]以下のGe、Si、Mgなどを加えたものが使用される。ターゲットTgは、例えばアルミナ製のターゲットホルダ5に収納し、その表面に短パルスレーザーを照射して、真空チャンバー内へターゲット材料(III族材料)を放出する構成である。
上記III族材料は低融点であり、ドーパントとしてGeやMgを用いた場合、ターゲット表面は大気で酸化されている場合が多く、この場合、ターゲット表面は曇った灰色となる。
【0079】
本実施形態は、短パルスレーザー(波長1064[nm]、パルス幅24[ps]、繰り返し周波数50[kHz]、平均パワー5[W])を使用した。マスフローコントローラ17により流量2[sccm]に制御された窒素をラジカルガン19(周波数13.53[MHz]、電力200[W])によりラジカル化して、窒素ラジカルをチャンバー3へ導入し、短パルスレーザーにより蒸発させたターゲット材料を窒化した。
基板6としてサファイヤ基板を使用し、基板6の温度が800[℃]となるように、加熱ヒータ8によって昇温レート10[℃/min]の条件で昇温した。
【0080】
基板6の加熱工程中に、シャッター14を閉じた状態で実施形態1又は2の走査方法により、曇りが見られたターゲットTg表面(図16(a)参照)が銀色の金属色が得られる(図16(b)参照)までクリーニングを行った。
その後、シャッター14を開放し、基板6上にGaNのエピ成膜を行った。
形成されたGaNのエピ膜は、Geドープしたもので、n型伝導性を示し、高いキャリア濃度は1×1020[cm-3]が得られた。
【0081】
なお、ターゲットとしてその他の金属(Ti等)を使用し、金属窒化膜と金属との積層膜を形成してもよい。金属窒化膜形成後、表面が窒化されたターゲットの表面をクリーニングした後に、金属を形成することで、制御性よく積層膜の形成が可能となる。
【0082】
(実施形態4)
実施形態4に係るPLD装置1は、図9に示すように、窒素に、さらに酸素やヘリウム(He)などを添加してラジカルガン20へ導入するガス供給系を付加した構成である。
図9に示すように、導入するガスの種類に合わせて、複数のマスフローコントローラ17a、17bを備えている。
ガス供給系以外は実施形態1、2,3で用いたものと同じである。
窒素ラジカルに酸素ラジカルを微量(10[%]以下)付加してIII族材料を成膜するとn型半導体となる特性があり、III族にドーパントとしてGeやSiを加えた場合に得られるドナー濃度を高める効果が得られた。例えば図17に示すように、窒素流量20[sccm]に対して、微量の酸素流量0.02[sccm]を添加することでシート抵抗の低下、すなわちドナー濃度向上効果を確認することができた。
なお、酸素を加えた場合、III族ターゲットの表面は成膜終了後に著しく酸化している場合が多い。
続けて異なる基板6上に成膜する場合には実施形態1、2に示す表面クリーニングは格別な効果を奏し、エピ成膜の再現性を高めることができた。
【0083】
(実施形態5)
図10は、PLD法における、窒素ラジカルのタイミング並びに通常の(標準の)パルスレーザーの波形及び本実施形態のパルスレーザーの波形を模式的に示し、横軸は時間経過を示し、縦軸はON、OFFの状態を示す。図10(a)は、成膜時の窒素ラジカルの導入タイミングを示し、図10(b)は、標準のPLD法によるレーザーパルス波形を示し、図10(c)は、本実施形態におけるレーザーパルス波形を示す。
なお、本実施形態は、他の実施形態と組み合わせることができる。
【0084】
図10(a)に示すように、成膜工程が開始されると、窒素ラジカルがチャンバー3に導入(ON)される。
その後、パルスレーザー(好適にはパルス幅1~200[ps]、さらに好適には1~50[ps])がターゲットに照射されるが、通常のPLD法においては、図10(b)に示すように、一定の周期でレーザーの照射(ON)及び停止(OFF)が繰り返され、ターゲット材料を基板6上に堆積しながら窒化させる。
一方、本実施形態においては、図10(c)に示すように、パルスレーザーの周期を変調して、レーザーの照射を停止(OFF)するブランキング期間(Bt)が設けられている。
すなわち、レーザーパルス波形には、レーザーを周期的に照射する堆積期間(又はパルスレーザー発生期間)(Dt)とレーザーを照射しないブランキング期間とが交互に設けられている。
【0085】
堆積期間においては、ターゲット表面にレーザーが照射されるため、基板6上にターゲット材料(例えばIII族材料としてMgを0.5[mol%]含有するGa)が堆積され、膜の形成と窒化反応が同時に進行する。
堆積期間に続くブランキング期間においては、ターゲット表面にレーザーが照射されないため、基板6にはターゲット材料が堆積されることはなく、高温(例えば800[℃])に保持された基板6の表面に窒素ラジカルのみが供給される。その結果、堆積期間に形成された膜の窒化反応のみが進行する。
【0086】
堆積期間においては、窒化反応に対して堆積速度が速く、図10(b)に示すように継続的に膜を堆積すると、窒化反応が十分に進行(又は完結)する前に、新しいターゲット材料が基板6の表面に供給される。その結果、未反応なターゲット材料が、膜中に含まれ化学量論的な窒化物を形成することが困難となる。
しかし、ブランキング期間を設け、堆積期間に形成された膜を窒素ラジカルによって窒化させることにより、窒化反応を成膜工程と独立して制御でき、化学量論的な窒化物を基板6上に形成することができる。また、堆積期間とブランキング期間との比率を変えることで、所望の窒化率の膜を基板6上に形成することができる。
なお、堆積期間が長いと形成される膜厚が大きくなり、ブランキング期間において十分に窒化させるには長い反応時間が必要になるため、堆積期間とブランキング期間の時間配分は、形成される膜の膜質(組成や結晶性)とPLD装置1のスループットを考慮して決定すればよい。
【0087】
成膜工程は、所望の膜厚が得られるまで、堆積期間とブランキング期間とが交互に繰り返され、所望の膜厚の窒化物が基板6上に形成された後に窒素ラジカルの供給が停止される。最後のブランキング期間の終了と同時又はブランキング期間が終了した後に、窒素ラジカルの供給が停止される。
【0088】
なお、PLD法においては、繰り返し周波数により堆積速度を制御することも可能であるが、堆積速度は、必ずしも繰り返し周波数に比例せず、特定のしきい値を下回ると急激に堆積速度が低下する傾向もある。そのため、堆積速度と窒化反応速度の制御を繰り返し周波数で調整し最適条件を決定することは、容易ではない。
しかし、堆積期間とブランキング期間とを独立して設けることにより、堆積処理と窒化処理を時間で制御でき、容易に所望の膜を得ることができる。
【0089】
一方、ターゲットにおいては、III族材料の添加物であるMgが窒素ラジカルと反応し、ターゲット表面に白色の窒化マグネシウムが生成される。
ブランキング期間を設けることにより、基板6上に形成される膜の窒化を制御できるが、ターゲットTg表面が窒素ラジカル雰囲気に曝される期間が長くなるため、添加物の窒化層、窒化マグネシウム層の形成が増大する。
【0090】
成膜工程が終了し、所望の膜が基板6上に形成された後に、窒化したターゲットTg表面に対して、シャッター14を閉じて実施形態1、2に開示するクリーニング工程を実施することにより、成膜工程毎にターゲットTg表面が清浄化され従って初期化され、再現性よくエピ膜を形成することができる。
図18は、ターゲット材料としてGa‐Ge(2[mol%])を使用してPLD法により基板6上に形成された膜のシート抵抗のブランキング期間有無依存性を示す。
ブランキング期間を設けることにより、シート抵抗が低減(すなわちキャリ濃度が増大)するとともに、基板6面内のシート抵抗の均一性が向上することが理解できる。
ここで、図18に示すPLD成膜条件は、レーザー繰り返し周波数を50[kHz]、レーザーパルスを10[ps]、堆積期間(Dt)を15[s]、ブランキング期間(Bt)を5秒とした。
【0091】
なお、ブランキング期間を設けることは、窒素ラジカルを供給せずに成膜を行う場合にも基板6に形成した膜の結晶性を改善する効果がある。基板6の表面に到達したターゲット材料が、ブランキング期間にターゲット表面をマイグレーションし、エネルギー的に安定な結晶を形成することができる。
【0092】
また、クヌーセンセルからドーピングを行いながらPLD法により成膜を行う場合、ブランキング期間を設けると、ターゲットTgからの膜の供給(成膜)が止まった状態でドーパントだけが供給されるため、ドーパントの高濃度化を実現できるという効果もある。ドーパントの濃度が、堆積期間とブランキング期間の時間設定により調整ができるため、ドーパント濃度の制御性も向上する。
【0093】
なお、成膜処理を行う際に、ブランキング期間と堆積期間との割合を適宜変更してもよい。この割合を変更することで、例えば、形成された膜の窒化率やドーパント濃度分布を変えることも可能である。
【0094】
(実施形態6)
PLD法による成膜技術においては、ターゲット材料が消費されるに従い、ターゲットTgの表面の位置が下降し、レーザーの光学系で決定される焦点位置からずれるという問題がある。光学系によって異なるが、例えばレーザーの焦点深度が約1[mm]であれば、ターゲット材料の消費によって容易に焦点位置からターゲット表面がずれる。その結果、ターゲット表面でのレーザースポット径が変化し、照射されるレーザーのエネルギー密度が変化(低下)し、その結果成膜特性が変化することになる。
本実施形態は、上記問題点の解決を図るものである。
【0095】
本実施形態において、PLD装置の構成は他の実施形態と同じであるが、ターゲットホルダ(ターゲット容器)5に、移動装置(昇降装置)21を設けた点で他の実施形態と異なる。
なお、移動装置21は、例えばネジ式等公知の昇降装置(リフター)を用いることができ、サセプタ7とターゲットホルダ5との距離を変化させることができる。
【0096】
図11(a)、(b)は、ターゲット材料の消費に伴い、ターゲット表面位置がサセプタ7(又は基板6)から遠ざかる方向に変化(図11において下降)する状況を示した図であり、それぞれターゲットホルダ5を基板6側から見た上面図及びターゲット回転軸4を通る面による断面図を示す。
図11(b)に示すように、例えばある時点でのターゲット表面位置がh1(例えば、サセプタ7からの距離で定義される)であり、フォーカスレンズ13からターゲット表面までの距離がfの場合、第1のレーザー走査装置12の例えばガルバノミラーの特定の角度θoによりレーザーがターゲット表面の点Q1を照射していたとする。
成膜処理によりターゲット材料が消費されるに従いターゲット表面位置がh2に変化すると、フォーカスレンズ13からターゲット表面までの距離がΔfだけ長くなるため、ガルバノミラーの上記と同一の角度θoに対して、レーザーがターゲット表面において点Q1とは異なる点Q2を照射することになる。
この場合、図11(a)に示すように、ターゲット表面上のレーザーの照射位置はQ1からQ2に変化する。従って、ターゲットホルダ5の上方から特定の角度で入射したレーザーの照射位置を確認することにより、ターゲット表面位置の変化(変位)を検知することができる。
【0097】
ターゲット表面上の照射位置がQ2に変化した場合、図11(d)に示すようにターゲットホルダ5の移動装置21により、ターゲットの位置をh1とh2との差(変位)である距離dだけ変える(上昇させる)ことにより、ターゲットの表面位置がh1に戻り、図11(c)に示すように、基板6側から見た照射位置がQ1に戻る。
従って、初期状態(又は基準状態)でのターゲット表面上のレーザーの照射位置を基準照射位置として記憶しておき、ターゲット表面を観察しながら移動装置21により、レーザー照射位置が基準照射位置に等しくなるように調整することによって、常に焦点距離は最適な位置に設定できる。
【0098】
ターゲット表面を照射するレーザーの波長は、1[μm]以上であるため、肉眼によりレーザー照射位置は確認できないが、シリコンイメージセンサ(カメラ)や位置検出素子(PSD:Posituion Sensitive Detector)等の装置によって容易に観測できる。このような焦点位置をモニターしながらレーザースポットが同一位置に維持されるように、ターゲットの高さ調整を自動化することも可能である。
例えば、レーザー波長の光を検出可能なカメラにより、基準照射位置を撮影し、撮影画像において明度の高い基準照射位置に相当する画素の配列を基準データとして記憶しておき、その後経時変化を検出するため定期的に(所定の成膜処理時間毎に、又は成膜処理若しくはクリーニング処理を行う毎に)、レーザーを照射されたターゲット表面を撮影し、撮影画像の明度の高い画素の配列を、記憶した基準データの配列と比較し、それらの配列データの乖離を最小にするように、移動装置21によりターゲットホルダ5の位置を調整すればよい。
なお、位置検出素子によって、基準状体レーザーの照射位置を検出し、基準データとして記憶しておき、照射位置の経時変化をモニターし、移動装置21によりターゲットホルダ5の位置を調整してもよい。
このように、シリコンイメージセンサ(カメラ)等をターゲット表面の位置の変化を検出する変位検出装置23として使用し、移動装置21を制御することで、ターゲット表面と基板6表面との距離を一定に維持することができる。
【0099】
例えば、図12に示すように、チャンバー3に、レーザーのターゲット表面からの反射光を検出可能とするため、観察窓22を設置し、観察窓22からターゲット表面のレーザースポットの位置を観察することができる。観察窓22にシリコンイメージセンサ等の変位検出装置23を設置することで、容易にターゲット表面の変位を検出させることができる。
なお、図12は視認性のため、開閉軸15及びレーザーを照射する光学系を省略している。
【0100】
なお、第1のレーザー走査装置12については、ガルバノミラーを例に説明したが、回転プリズムの場合も同様である。
また、第1のレーザー走査装置12の走査を固定した状態(特定の固定された角度のレーザー照射角)でのターゲットの調整について記載したが、第1のレーザー走査装置12により、レーザーを走査し、ターゲット上で確認される直線又は円の軌跡を、初期状態(基準状態)に一致させるように、ターゲットの調整を行ってもよい。
成膜工程又はクリーニング工程において、ターゲット表面位置の調整が可能である。
【0101】
また、ターゲットを継ぎ足した場合、ターゲット表面位置が変化するため、このような場合にもターゲット表面位置を調整し、照射レーザーの焦点位置にターゲット表面を合わせることが容易となる。
【0102】
また、ターゲット表面の位置を検知するために別途LED等の発光素子を設け、例えばビューポート9から光を導入し、ターゲットからの反射光を検知するセンサ(受光素子)を、観察窓22の外部に設け、ターゲットの照射位置の変化からターゲットの表面の変位を検知する変位検出装置として用いてもよい。
この場合、初期状態(又は基準状態)で、受光素子で検知するターゲット表面からの反射光が最大となるように、発光素子、受光素子光及びターゲット表面を配置し、受光素子での受光量が最大となるように、移動装置21によりターゲット表面の位置を自動で調整することができる。
ターゲット表面が清浄化されており、金属光沢を有するため、発光素子の反射光による検知も容易である。
【0103】
このようなターゲット表面位置の調整機構により、ターゲットの使用効率が増大するという効果も得られる。
【0104】
また、ターゲット表面を観察できるカメラや反射光を検知できるセンサを用いて、ターゲット表面のクリーニングの完了を検知することも可能である。クリーニングによりターゲット表面は金属光沢を示すが、ターゲット表面の明度や反射率を測定することで清浄化されたことを検知し、クリーニング工程を終了させてもよい。
【0105】
(実施形態7)
ターゲットホルダ5を構成する材質としては、一般的に高耐熱なPBN(Pyrolytic Boron Nitride)が使用される。しかしながら、PBNはIII族材料に対して濡れ性がなく、ターゲットホルダ5の表面から弾かれ、表面張力によりターゲットの表面形状は、曲面(球面状)となる。特にクリーニング工程により表面の変性層が除去されている状態では、表面張力が変化し、ターゲット表面が球面状になる傾向が強くなる。
図13(a)に示すように、ターゲット表面が平坦でなく曲面である場合、パルスレーザーが照射されたターゲット表面の法線方向(図中矢印で示す)は、レーザーの照射位置に依存して変化し、その方向は、基板6の表面に対して必ずしも垂直ではなく、また、レーザーの焦点位置からのずれ量も変化する。
そのため、レーザーの走査又はターゲットホルダ5の回転によりレーザーの照射位置が変わり、それに伴いターゲット表面のエネルギー密度が変化し、ターゲット材料の蒸発特性が変化するという問題が生じることがある。
図13(b)は、図13(a)のAで示される領域の拡大図である。ターゲット材料が蒸発する場合、放射される物質の放射角度分布(又は放射確率)は、一般的に余弦則に従うことが知られている。ターゲット表面が曲面の場合、ターゲット材料が基板6へ入射する角度は、レーザーの照射位置に依存して様々に変化することになり、形成された膜の膜厚均一性及び再現性が劣化するという問題が生じることがある。
【0106】
上記問題を解消するため、本実施形態におけるターゲットホルダ5は、少なくとも底部において図14に示すように、濡れ性改善層24(ウェッティング層)として、Gaと反応性が低く、且つ濡れ性が高い高融点金属を設置されている。その結果、ターゲット表面の形状は、少なくとも周辺以外の領域は、球面状から平坦へと改善され、ターゲット表面のレーザー照射領域において、平坦性を実現することができる。
具体的には、Gaと濡れ性が良いTaC(炭化タンタル)やWをPBN製のターゲットホルダ5の底部に成膜形成した。
その結果、安定したターゲット表面形状を得ることができ、PLD法による成膜特性(均一性、堆積速度等)について、良好な再現性を得ることができる。
なお、ターゲットホルダ5の内壁の底部だけでなく側壁面にも濡れ性改善層24を設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、PLD法による成膜において、ターゲット表面を清浄化することにより、純度が高い膜、特にIII-N半導体薄膜を再現性よく形成することが可能となり、パワーデバイスや発光デバイス等の様々な製品への適用が期待でき、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0108】
1 PLD装置
2 排気配管
3 チャンバー(筐体)
4 ターゲット回転軸
5 ターゲットホルダ(ターゲット容器)
6 基板
7 サセプタ(基板保持台)
8 加熱ヒータ
9 ビューポート(レーザー導入部)
10 レーザー発生装置
11 第1のレンズ(コレクタレンズ)
12 第1のレーザー走査装置
13 第2のレンズ(フォーカスレンズ)
14 シャッター(遮蔽板)
15 開閉軸
16 ガス供給ポート
17、17a、17b マスフローコントローラ
18 レーザースポット
19 第2のレーザー走査装置
20 ラジカル発生器(ラジカルガン)
21 移動装置(昇降装置)
22 観察窓
23 変位検出装置
24 濡れ性改善層
25 クヌーセンセル
26 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18