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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】作業爪の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01B 33/10 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
A01B33/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019009619
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020022430
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2018146592
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公紀
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】海田 健児
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特許第6298573(JP,B2)
【文献】特開2017-201915(JP,A)
【文献】特開2000-001788(JP,A)
【文献】特開2018-088889(JP,A)
【文献】特開2002-235162(JP,A)
【文献】登録実用新案第3117466(JP,U)
【文献】特開2016-155155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪本体部の第1面に対してレーザークラッディング法を用いて第1コーティング層を形成し、
前記爪本体部の前記第1面とは反対側の第2面に対し、前記第1コーティング層と向かい合うように、レーザー照射以外の手段によりコーティング材料を溶融させる方法を用いて第2コーティング層を形成すること、
を含み、
前記第2コーティング層の形成を、前記爪本体部が平板状の状態にあるときに行い、
前記第2コーティング層を形成した後、前記爪本体部を、前記第1面又は前記第2面を内側にして湾曲させ、
前記第1コーティング層の形成を、前記爪本体部が湾曲した状態にあるときに行い、
前記第2コーティング層の硬度を、前記爪本体部の硬度よりも高く、前記第1コーティング層の硬度よりも低いものとする、作業爪の製造方法。
【請求項2】
前記第1面は、刃付け面を有し、
前記第1コーティング層を前記刃付け面に重ねて形成する、請求項に記載の作業爪の製造方法。
【請求項3】
前記第2面は、刃付け面を有し、
前記第2コーティング層を前記刃付け面に重ねて形成する、請求項に記載の作業爪の製造方法。
【請求項4】
前記第1面及び前記第2面は、それぞれ刃付け面を有し、
前記第1コーティング層を前記第1面の刃付け面に重ねて形成し、
前記第2コーティング層を前記第2面の刃付け面に重ねて形成する、請求項に記載の作業爪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土塊を掘り起こす作業のための作業爪に関する。特に、本発明は、耐摩耗性を有するコーティング層が表面に設けられた作業爪に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作業用の耕耘作業機などに装備する作業爪の耐摩耗性を向上させるため、作業爪に耐摩耗性を有するコーティング層(硬質層)を形成する技術が知られている。耐摩耗性を有するコーティング層としては、一般的に、作業爪の母材よりも硬度の高いクロム炭化物を含む合金層が用いられる。このようなコーティング層を設けることにより、作業爪の耐久性を向上させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、耕耘作業機のカバーに付着した土塊と作業爪との摩擦による作業爪の摩耗を防ぐために、作業爪の側面に対してプラズマ粉末肉盛溶接(PPW)等により耐摩耗性のコーティング層を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3117466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された作業爪は、使用当初は、耐摩耗性のコーティング層によって刃縁部が保護され、作業爪の摩耗の進行が抑制される。しかしながら、耕耘作業を長時間継続するうちに、刃縁部のコーティング層は、徐々に摩耗により消失し、やがて作業爪の母材が露出する。露出した母材は、コーティング層に比べて柔らかいため、母材の摩耗が優先的に進行してしまう。その結果、刃縁部の形状が鋭利なものではなくなり、耕耘抵抗の増加に伴う所要動力の増加を招くという問題がある。また、残存したコーティング層は、わずかな衝撃で欠けてしまうため、本来の耐摩耗性能を発揮することができないという問題がある。
【0006】
本発明の課題の一つは、所要動力を維持したまま、作業爪の耐摩耗性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態における作業爪は、爪本体部と、前記爪本体部の第1面に対して設けられた第1コーティング層と、前記爪本体部の前記第1面とは反対側の第2面に対し、前記第1コーティング層と向かい合うように設けられた第2コーティング層と、を含み、前記第2コーティング層の硬度は、前記爪本体部の硬度よりも高く、前記第1コーティング層の硬度よりも低い。
【0008】
前記第1面は、刃付け面を有し、前記第1コーティング層は、前記刃付け面に重ねて設けられていてもよい。その際、前記爪本体部は、前記第2面を内側にして湾曲する刃部を有していてもよい。
【0009】
前記第2面は、刃付け面を有し、前記第2コーティング層は、前記刃付け面に重ねて設けられていてもよい。その際、前記爪本体部は、前記第1面を内側にして湾曲する刃部を有していてもよい。
【0010】
前記第1コーティング層と前記第2コーティング層とは、互いに異なる材料で構成されていてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態における作業爪の製造方法は、爪本体部の第1面に対して第1コーティング層を形成し、前記爪本体部の前記第1面とは反対側の第2面に対し、前記第1コーティング層と向かい合うように第2コーティング層を形成すること、を含み、前記第2コーティング層の硬度を、前記爪本体部の硬度よりも高く、前記第1コーティング層の硬度よりも低いものとする。
【0012】
前記第1面は、刃付け面を有し、前記第1コーティング層を前記刃付け面に重ねて形成してもよい。その際、前記第1コーティング層は、レーザークラッディング法を用いて形成され、前記第2コーティング層は、レーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法を用いて形成されてもよい。さらに、前記第2コーティング層の形成を、前記爪本体部が平板状の状態にあるときに行い、前記第2コーティング層を形成した後、前記爪本体部を、前記第1面を内側にして湾曲させ、前記第1コーティング層の形成を、前記爪本体部が湾曲した状態にあるときに行ってもよい。
【0013】
前記第2面は、刃付け面を有し、前記第2コーティング層を前記刃付け面に重ねて形成してもよい。その際、前記第1コーティング層は、レーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法を用いて形成され、前記第2コーティング層は、レーザークラッディング法を用いて形成されてもよい。さらに、前記第1コーティング層の形成を、前記爪本体部が平板状の状態にあるときに行い、前記第1コーティング層を形成した後、前記爪本体部を、前記第1面を内側にして湾曲させ、前記第2コーティング層の形成を、前記爪本体部が湾曲した状態にあるときに行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、所要動力を維持したまま、作業爪の耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る作業爪を第1面の側から見た構成を示す図である。
図2】第1実施形態に係る作業爪を第2面の側から見た構成を示す図である。
図3】第1実施形態に係る作業爪の断面の構成を示す図である。
図4】第1実施形態に係る作業爪の摩耗が進行した場合の例について説明するための図である。
図5】爪本体部に対し、レーザークラッディング法を用いて第2コーティング層を形成する様子を示す図である。
図6】第2実施形態に係る作業爪の断面の構成を示す図である。
図7】第3実施形態に係る作業爪の断面の構成を示す図である。
図8】第3実施形態に係る作業爪の摩耗が進行した場合の例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の作業爪の実施形態について説明する。但し、本発明の作業爪は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
以下の実施形態では、作業爪として耕耘作業機に装着される作業爪について例示するが、この構成に限定されない。例えば、以下の実施形態に示す作業爪は、耕耘作業機以外に、代かき機、砕土機、畦塗り機などに用いられる作業爪であってもよい。また、以下の実施形態では、回転軸に対してフランジを用いて装着するタイプの作業爪について例示するが、ホルダを用いて装着するタイプの作業爪であってもよい。
【0018】
〈第1実施形態〉
(作業爪の構成)
図1図2及び図3は、それぞれ本発明の第1実施形態に係る作業爪10の構成を示す図である。具体的には、図1は、作業爪10を第1面の側から見た図を示し、図2は、作業爪10を第1面とは反対側の第2面の側から見た図を示している。また、図3は、図1及び図2に示したA-A線で切った断面の刃縁側の一部を示している。なお、本実施形態に示す作業爪の形状は一例に過ぎず、この形状に限定されるものではない。
【0019】
図1及び図2に示されるように、作業爪10の爪本体部10aは、取付基部12及び刃部14を有する。ここで、爪本体部10aとは、作業爪10の母材であり、作業爪10のうち、後述する第1コーティング層26及び第2コーティング層28を除いた部分に相当する。例えば、作業爪10の母材の材料としては、公知のSUP材を用いることができる。なお、実際には、作業爪10は、さらに爪本体部10a、第1コーティング層26及び第2コーティング層28を覆うように、塗装により形成した保護層を有する。しかし、説明の便宜上、図1図3においては、保護層の図示を省略している。
【0020】
取付基部12は、作業ロータの回転軸に装着する際、フランジに取り付けられる部分である。具体的には、取付基部12には、ボルト等の締結部材を挿入する取付孔16a及び16bが長手方向に2箇所設けられている。作業爪10は、これらの取付孔16a及び16bを用いて作業ロータの回転軸に固定されたフランジに装着される。勿論、フランジに代えて、ホルダを用いて装着するタイプの作業爪の場合は、ホルダを介して作業爪10を回転軸に装着することも可能である。
【0021】
刃部14は、作業爪10のうち、取付基部12以外の部分を指している。ただし、取付基部12と刃部14との間に厳密な境界があるわけではなく、説明の便宜上、両者を区別しているにすぎない。なお、刃部14は、さらに縦刃部及び横刃部に区別される場合もあるが、本実施形態では、縦刃部及び横刃部をまとめて刃部14と呼ぶ。
【0022】
図1及び図2に示されるように、刃部14は、爪先に向けて略一定の曲率半径で緩やかに湾曲した形状となっている。具体的には、刃部14は、爪本体部10aの第1面10aa(図1に示される面)を内側にして湾曲している。この湾曲した内側の面(第1面10aa)は、土壌に対してすくい面として機能する。本実施形態の作業爪10は、このすくい面によって、土を耕耘・放擲するとともに土寄せも行うことが可能となっている。ただし、これに限られるものではなく、作業爪10の用途に応じて、爪本体部10aの第2面10ab(図2に示される面)を内側にして湾曲させることも可能である。
【0023】
また、刃部14は、曲線形状である刃縁部18と、刃縁部18に対して略等間隔を維持しながら延びる峰縁部20と、刃縁部18と峰縁部20とを連続的に結ぶ頭縁部22を有している。刃縁部18は、作業爪10の刃付け面24が設けられる側の縁を指す。本実施形態では、図2に示されるように、爪本体部10aの第2面10abに刃付け面24が設けられる。刃付け面24は、刃縁部18に向かうにつれて爪本体部10aの厚さが徐々に薄くなる部分(傾斜面を有する部分)である。
【0024】
上述の構成を有した作業爪10は、耕耘作業時において、作業ロータの回転に伴い、図中の矢印Aの方向に回転する。したがって、作業爪10は、刃部14の刃縁部18の側から圃場へと打ち付けられる。そのため、耕耘作業を継続すると、刃縁部18から徐々に爪本体部10aが摩耗する。
【0025】
そこで、本実施形態の作業爪10においては、刃部14(特に、刃部14の刃縁部18の側)に対し、母材である爪本体部10aよりも硬いコーティング層(耐摩耗性コーティング層)を設けている。これにより、本実施形態の作業爪10は、爪本体部10aの摩耗を抑制することができるため、土壌に対して耐摩耗性を有することができる。
【0026】
ここで、本実施形態の作業爪10は、爪本体部10aの第1面10aaに対し、第1コーティング層26が設けられ、爪本体部10aの第2面10abに対し、第2コーティング層28が設けられている。第1コーティング層26及び第2コーティング層28は、いずれも土壌に対して耐摩耗性を有する硬質層であり、爪本体部10aよりも硬い材料で構成される。
【0027】
図1に示されるように、第1コーティング層26は、爪本体部10aの第1面10aaに対し、刃縁部18に沿って刃部14のほぼ全体に亘って設けられている。同様に、第2コーティング層28は、図2に示されるように、爪本体部10aの第2面10abに対し、刃縁部18に沿って刃部14のほぼ全体に亘って、刃付け面24に重ねて設けられている。つまり、図3に示されるように、第1コーティング層26と第2コーティング層28は、刃付け面24を挟み込むようにして、互いに向かい合って配置される部分を有する。
【0028】
ここで、第1コーティング層26及び第2コーティング層28としては、作業爪10の爪本体部10aを構成する材料(例えば、SUP6などのバネ鋼)よりも硬度の高い合金材料、例えばクロム炭化物又はニオブ炭化物等を含む合金材料、タングステンを含む合金材料(例えば、タングステンカーバイドを含む材料)、又は、自溶性合金材料(例えばコルモノイ合金を含む合金材料)を用いることができる。勿論、ここで例示した合金材料は一例に過ぎず、爪本体部10aよりも硬度の高い合金材料であれば如何なるものを用いてもよい。なお、硬度は、爪本体部10aと第1コーティング層26又は第2コーティング層28との間の相対的な硬さの指標であればよく、例えば、ロックウェル硬度、ビッカース硬度、ブリネル硬度等を用いることができる。特に、材料の平均的な硬さを評価する上では、測定範囲が比較的広いロックウェル硬度又はブリネル硬度を用いることが好ましい。さらに、例えば、複数点の測定結果の平均値(例えば、5点平均、10点平均など)を用いて硬度を算出することにより、測定位置に依存しない平均的な測定結果を用いて第相対的な硬さを評価することが好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態では、爪本体部10aの硬度、第1コーティング層26の硬度、及び第2コーティング層28の硬度の間に、特定の関係が成り立つ。具体的には、本実施形態の作業爪10は、第2コーティング層28の硬度が、爪本体部10aの硬度よりも高く、第1コーティング層26の硬度よりも低いという構成を有している。このように、本実施形態では、爪本体部10aの刃付け面24を挟み込むように第1コーティング層26及び第2コーティング層28を設け、かつ、刃付け面24が設けられている面(第2面10ab)に対し、相対的に硬度の低い方のコーティング層(ここでは第2コーティング層28)を設けている。
【0030】
ここで、図4は、第1実施形態に係る作業爪10の摩耗が進行した場合の例について説明するための図である。具体的には、図4(A)は、本実施形態の作業爪10において摩耗が進行した場合の例であり、図4(B)は、作業爪の両方の側面に対し、同じ硬度の耐摩耗性コーティング層を設けた場合の比較例である。
【0031】
図4(A)に示されるように、本実施形態の作業爪10は、第1コーティング層26に比べて第2コーティング層28の摩耗の進行が速い。この場合、最も硬度の低い爪本体部10aは、第1コーティング層26及び第2コーティング層28で保護されつつ摩耗するため、図4(A)に示されるように、傾斜した露出面10acを形成しつつ摩耗する。その結果、作業爪10の刃縁部18は、刃付け面のようなテーパー形状を維持したまま摩耗が進行する。したがって、本実施形態の作業爪10は、耕耘作業を継続しても耕耘抵抗の増加が抑制され、所要動力(耕耘作業に必要なトルク)の増加を抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、所要動力を維持したまま、作業爪10の耐摩耗性を向上させることができる。
【0032】
他方、図4(B)に示されるように、爪本体部40aの第1面40aa及び第2面40abに対し、同一材料で構成される第1コーティング層42及び第2コーティング層44を設けた場合、第1コーティング層42及び第2コーティング層44は、略同一の速さで摩耗する。この場合、最も硬度の低い爪本体部40aが優先的に摩耗するため、図4(B)に示されるように、第1コーティング層42及び第2コーティング層44に比べて爪本体部40aがへこんだ形状の刃縁部が形成されてしまう。したがって、比較例の作業爪40は、耕耘作業を継続すると耕耘抵抗が増加し、所要動力も増加してしまう。
【0033】
以上のように、本実施形態では、作業爪の刃縁部の近傍を保護するコーティング層として、互いに異なる硬度を有する2種類のコーティング層を用い、刃付け面が設けられた側のコーティング層の硬度を、爪本体部の硬度より高く、他方のコーティング層の硬度よりも低いものとする。これにより、刃付け面を介して向かい合う2つのコーティング層の摩耗速度を、硬度の差を利用してコントロールすることができ、摩耗が進行しても刃縁部のテーパー形状を維持することができる。
【0034】
(作業爪の製造方法)
上述のとおり、本実施形態では、第1コーティング層26と第2コーティング層28とを互いに硬度が異なる材料で構成しているが、各コーティング層の製造方法には、特に制限はない。したがって、各コーティング層の製造に当たり、レーザー照射を用いてコーティング材料を溶融させる方法(例えばレーザークラッディング法)やレーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法(例えば、溶着法、溶接法、溶射法、又はPPW(プラズマパウダウェルディング)法など)のいずれを用いてもよい。
【0035】
そこで本実施形態では、作業爪の製造コスト、刃付け面24への施工性、製造後の美観等を総合的に考慮し、第1コーティング層26を前述の溶着法、溶接法、溶射法、又はPPW(プラズマパウダウェルディング)法など、レーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法で形成し、第2コーティング層28をレーザークラッディング法で形成する。
【0036】
具体的には、まず、平板状の爪本体部10a(すなわち、湾曲加工前の爪本体部10a)を用意し、刃縁部18に沿って第1コーティング層26の原材料となる合金材料を爪本体部10aの第1面10aaに導入した後、高周波加熱により爪本体部10aを加熱し、これを冷却することにより、図1に示す第1コーティング層26が形成される。第1コーティング層26の硬度は、爪本体部10aの硬度よりも高い。原材料となる合金材料としては、例えば、鉄、クロム及びニッケル等をベースとした材料を用いることができる。いずれにしても、爪本体部10の母材(例えば、SUP材)よりも硬度の高い合金材料を用いればよい。
【0037】
次に、第1コーティング層26を形成した後、爪本体部10aを、第1面10aaを内側にして湾曲させ、図1及び図2に示すようなすくい面を形成する。
【0038】
次に、爪本体部10aを湾曲させた状態でレーザークラッディング法により第2コーティング層28を形成する。具体的には、湾曲した爪本体部10aの第2面10abにおける刃付け面24を覆うように第2コーティング層28を形成する。前述のとおり、第2コーティング層28の硬度は、爪本体部10aの硬度よりも高く、第1コーティング層26の硬度よりも低い。
【0039】
ここで、レーザークラッディング法とは、微細な合金粉末をレーザー光の照射領域に吹き付け、レーザー光のエネルギーを利用してワーク(処理対象)と合金粉末とを溶解し、ワークの表面に合金層を形成する技術である。レーザークラッディング法に使用する合金粉末に特に制限はないが、前述のように、爪本体部10aの硬度よりも高く、第1コーティング層26の硬度よりも低い硬度が得られるように合金粉末の種類や成分比を選定すればよい。合金粉末としては、例えば、ニッケル系やコバルト系の基合金にクロム炭化物、ニオブ炭化物、タングステン炭化物などを含有させたものを用いることができる。ただし、コーティング層として、単一の金属元素からなる純金属層を用いることも可能である。
【0040】
レーザークラッディング法は、爪本体部10aへの入熱が少ないため、第1面10aaの側に第1コーティング層26を形成した後に第2面10abの側に第2コーティング層28を形成する際、第1コーティング層26への熱的影響を抑制することができる。また、レーザークラッディング法は、刃付け面24のように傾斜面を有する部分に対しても密着性よくコーティング層を形成することができるという利点を有する。
【0041】
さらに、レーザークラッディング法は、レーザー光のエネルギーで瞬間的に合金粉末を溶融することができるため、原材料として使用可能な合金粉末の選択の幅が広い。したがって、爪本体部10aの硬度と第1コーティング層26の硬度とを勘案して、所望の硬度の第2コーティング層28を形成することができる。本実施形態の場合、第1コーティング層26の形成に用いた合金材料とは異なる合金材料を用いることにより、第1コーティング層26と第2コーティング層28の硬度を異ならせることができる。
【0042】
ここで、レーザークラッディング法を用いて、ワークである爪本体部10aに合金層を形成する様子について説明する。図5は、爪本体部10aに対し、レーザークラッディング法を用いて第2コーティング層28を形成する様子を示す図である。
【0043】
図5において、ワークである爪本体部10a(前述の湾曲した状態にある爪本体部10a)は、作業台としての2軸ポジショナー(図示せず)の上に載置され、水平面内で自由に移動可能となっている。また、レーザークラッディング法は、ワークの形状に依らず合金層を形成することができるため、2軸ポジショナーは、その作業台上に様々な形状のワークを固定可能な治具を備えている。
【0044】
爪本体部10aの第2面10abには、第2コーティング層28が形成される。本実施形態では、合金粉末としてクロム炭化物を含む合金粉末を用いるため、第2コーティング層28として、クロム炭化物を含む合金層が形成される。勿論、クロム炭化物に代えて、他の金属炭化物を含む合金粉末を用いることも可能である。
【0045】
レーザー装置60は、筐体62の内部にレーザー光路64と、材料供給路66a、66bとを有する。レーザー光路64は、その内側に光学レンズ68を備え、レーザー光70を爪本体部10aの第2面10abへと誘導する経路である。材料供給路66a及び66bは、内部がノズル状になっており、第2コーティング層28の原材料としての合金粉末72を爪本体部10aの第2面10abへと噴射可能になっている。
【0046】
レーザー光70としては、例えば、HPDDL(高出力ダイレクトダイオードレーザー)、Nd:YAGレーザー、CO2レーザーなどを用いることができる。レーザー光70の断面形状は、光学レンズ68によって円形状にすることもできるし、矩形状にすることもできる。
【0047】
なお、レーザー光路64の内側は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで構成されるシールドガス74で充填されている。このシールドガス74は、レーザー光70の出射口から爪本体部10aの第2面10abに吹き付けられ、被処理部53を不活性雰囲気とすることにより外気から保護する役割を有する。これにより、第2コーティング層28に不純物として不要な酸化物が混入されることを防ぐことができる。
【0048】
以上説明したレーザー装置60を用いて爪本体部10aの第2面10abに対してレーザー光70を照射しつつ合金粉末72を供給すると、爪本体部10aの被処理部53には、溶融層(メルティングプール)53aが形成される。そして、レーザー装置60を3次元的に移動させることにより、爪本体部10aの第2面10abに沿って溶融層53aを移動させ、爪本体部10aの第2面10abの所望の位置に第2コーティング層28を形成することができる。
【0049】
また、溶融層53aの形成は瞬間的に行われ、ただちに冷却されて第2コーティング層28を形成するため、爪本体部10aに対する入熱が少なく、さらに爪本体部10aへの合金の溶け込みも少ない。したがって、レーザークラッディング法を作業爪のコーティングに適用した場合においても、母材が熱歪みや熱的影響を受けることなく、作業爪の強度や靭性の低下を抑えることができる。
【0050】
さらに、レーザー光70による瞬間的な高温加熱により爪本体部10aと合金粉末72とが強固に結合するため、薄い膜厚であっても密着性の高い第2コーティング層28を形成することができる。つまり、従来よりも少ないコーティング量で従来と同等の密着性を確保できるため、製造コストの低減が可能である。
【0051】
〈第2実施形態〉
第1実施形態では、第1コーティング層26の硬度と第2コーティング層28の硬度とを異ならせることにより、両者の摩耗速度を異なるものとする例を示したが、本実施形態では、第1コーティング層26と第2コーティング層28の膜厚を異ならせることにより両者の摩耗速度を異なるものとする例を示す。なお、図面上、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号及び記号を用いることにより、詳細な説明を省略する。
【0052】
図6は、第2実施形態に係る作業爪80の断面の構成を示す図である。図6に示されるように、本実施形態では、爪本体部10aの第1面10aaに対し、第1コーティング層26aが設けられ、爪本体部10aの第2面10abに対し、第2コーティング層28aが設けられている。このとき、第1コーティング層26aの膜厚t1が、第2コーティング層28aの膜厚t2に比べて厚くなっている。なお、本実施形態において、第1コーティング層26aと第2コーティング層28aとは、同一材料で構成されている。
【0053】
このように、第1コーティング層26aと第2コーティング層28aの膜厚に差を設けた場合、膜厚の厚い第1コーティング層26aの方が摩耗による消失が遅れるため、結果として、摩耗速度が異なるものとなる。したがって、第1コーティング層26aの摩耗を第2コーティング層28aの摩耗よりも遅らせることにより、図4を用いて説明したように、作業爪80の刃縁部18は、テーパー形状を維持したまま摩耗が進行する。したがって、本実施形態の作業爪80は、耕耘作業を継続しても耕耘抵抗の増加が抑制され、所要動力の増加を抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、所要動力を維持したまま、作業爪80の耐摩耗性を向上させることができる。
【0054】
〈第3実施形態〉
第1実施形態及び第2実施形態では、爪本体部10aに対して第2面10abのみに刃付け面24を設けた例を示したが、第1面10aaと第2面10abの両面に刃付け面を設けてもよい。この場合であっても第1実施形態及び第2実施形態で説明した効果を奏することができる。
【0055】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、刃付け面24をすくい面(湾曲部分の内側に位置する面)とは反対側の面(湾曲部分の外側に位置する面)に設けた例を示したが、すくい面の側(すなわち、爪本体部10aの第1面10aa)に設けてもよい。
【0056】
〈第4実施形態〉
(作業爪の構成)
第1実施形態では、第1コーティング層26よりも硬度の低い第2コーティング層28を、刃付け面24が設けられている第2面10abに設けた例を示した。本実施形態では、それとは逆に、第1コーティング層26を刃付け面24が設けられている第2面10abに設け、第2コーティング層28を第1面10aaに設けた例を示す。なお、作業爪90の基本的な構成は、図1及び図2を用いて説明したとおりであるため、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号及び記号を用いることにより、詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態の作業爪90は、爪本体部10aの第2面10abに対し、第1コーティング層26が設けられ、爪本体部10aの第1面10aaに対し、第2コーティング層28が設けられている。第1コーティング層26は、爪本体部10aの第2面10abに対し、刃縁部18に沿って刃部14のほぼ全体に亘って、刃付け面24に重ねて設けられている。同様に、第2コーティング層28は、爪本体部10aの第1面10aaに対し、刃縁部18に沿って刃部14のほぼ全体に亘って設けられている。
【0058】
図7は、第4実施形態に係る作業爪90の断面の構成を示す図である。図7に示されるように、第1コーティング層26と第2コーティング層28は、刃付け面24を挟み込むようにして、互いに向かい合って配置される部分を有する。第1実施形態と同様に、本実施形態の作業爪90は、第2コーティング層28の硬度が、爪本体部10aの硬度よりも高く、第1コーティング層26の硬度よりも低いという構成を有している。このように、本実施形態では、爪本体部10aの刃付け面24を挟み込むように第1コーティング層26及び第2コーティング層28を設け、かつ、刃付け面24が設けられている面(第2面10ab)に対し、相対的に硬度の高い方のコーティング層(ここでは第1コーティング層26)を設けている。
【0059】
ここで、図8は、第4実施形態に係る作業爪90の摩耗が進行した場合の例について説明するための図である。具体的には、図8(A)は、本実施形態の作業爪90において、刃付け面24の途中まで摩耗が進行した場合の例であり、図8(B)は、本実施形態の作業爪90において、刃付け面24が無くなるまで摩耗が進行した場合の例である。
【0060】
図8(A)に示されるように、本実施形態の作業爪90は、第1コーティング層26に比べて第2コーティング層28の摩耗の進行が速い。この場合、最も硬度の低い爪本体部10aは、第1コーティング層26及び第2コーティング層28で保護されつつ摩耗するため、図8(A)に示されるように、傾斜した露出面10acを形成しつつ摩耗する。つまり、作業爪90の刃縁部18は、第1面10aaに、あたかも刃付け面のようなテーパー形状を形成しつつ摩耗が進行する。その結果、本実施形態の作業爪90は、第1面10aaに形成されたテーパー状の露出面10acと、第2面10abに設けられていた刃付け面24とによって鋭利な刃縁部18を維持することができる。
【0061】
さらに摩耗が進行すると、図8(B)に示されるように、第2面10abに設けられていた刃付け面24が消失する。しかし、第1面10aaには、前述の傾斜した露出面10acが維持されるため、依然として鋭利な刃縁部18を維持することができる。
【0062】
以上のように、本実施形態の作業爪90は、耕耘作業を継続しても耕耘抵抗の増加が抑制され、所要動力(耕耘作業に必要なトルク)の増加を抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、所要動力を維持したまま、作業爪90の耐摩耗性を向上させることができる。
【0063】
(作業爪の製造方法)
本実施形態の作業爪90に用いられる第1コーティング層26及び第2コーティング層28の製造方法は、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。すなわち、各コーティング層の製造に当たり、レーザー照射を用いてコーティング材料を溶融させる方法(例えばレーザークラッディング法)やレーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法(例えば、溶着法、溶接法、溶射法、又はPPW(プラズマパウダウェルディング)法など)のいずれを用いてもよい。
【0064】
本実施形態では、作業爪の製造コスト、刃付け面24への施工性、製造後の美観等を総合的に考慮し、第1コーティング層26をレーザークラッディング法で形成し、第2コーティング層28を前述の溶着法、溶接法、溶射法、又はPPW(プラズマパウダウェルディング)法など、レーザー照射以外の手段を用いてコーティング材料を溶融させる方法で形成する。
【0065】
具体的には、まず、平板状の爪本体部10a(すなわち、湾曲加工前の爪本体部10a)を用意し、刃縁部18に沿って第2コーティング層28の原材料となる合金材料を爪本体部10aの第1面10aaに導入した後、高周波加熱により爪本体部10aを加熱し、これを冷却することにより、第2コーティング層28が形成される。
【0066】
次に、第2コーティング層28を形成した後、爪本体部10aを、第1面10aaを内側にして湾曲させ、図1及び図2に示すようなすくい面を形成する。ただし、これに限られるものではなく、作業爪90の用途に応じて、爪本体部10aの第2面10ab(図2に示される面)を内側にして湾曲させることも可能である。
【0067】
次に、爪本体部10aを湾曲させた状態でレーザークラッディング法により第1コーティング層26を形成する。具体的には、湾曲した爪本体部10aの第2面10abにおける刃付け面24を覆うように第1コーティング層26を形成する。前述のとおり、第1コーティング層26の硬度は、爪本体部10aの硬度よりも高く、第2コーティング層28の硬度よりも高い。
【0068】
以上のように、本実施形態では、爪本体部10aの第1面10aa及び第2面10abに対して、それぞれ異なる硬度のコーティング層を設けるに当たり、刃付け面24を有する第2面10ab側に、より硬度の高い第1コーティング層26を設ける。これにより、図8を用いて説明したように、第1面10aa及び第2面10abの両面に刃付け面を設けた構成と同等の効果を得ることができる。
【0069】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、上述した各実施形態は、特に技術的な矛盾を生じない限り、それぞれ組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
10、40、80、90…作業爪、10a…爪本体部、10aa…第1面、10ab…第2面、10ac…露出面、12…取付基部、14…刃部、16a、16b…取付孔、18…刃縁部、20…峰縁部、22…頭縁部、24…刃付け面、26、26a…第1コーティング層、28、28a…第2コーティング層、40a…爪本体部、40aa…第1面、40ab…第2面、42…第1コーティング層、44…第2コーティング層、53…被処理部、53a…溶融層、60…レーザー装置、62…筐体、64…レーザー光路、66a、66b…材料供給路、68…光学レンズ、70…レーザー光、72…合金粉末、74…シールドガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8