(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】オイルスラッジの処理装置及びその処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20221111BHJP
C10G 1/00 20060101ALI20221111BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20221111BHJP
F26B 5/04 20060101ALI20221111BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20221111BHJP
【FI】
C02F11/02
C10G1/00 B
C02F11/00 B
C02F11/00 K
F26B5/04
C12N1/00 S
(21)【出願番号】P 2019102774
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】517306640
【氏名又は名称】株式会社下瀬微生物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】下瀬 眞一
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075248(JP,A)
【文献】特開2009-007563(JP,A)
【文献】特開2016-095068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00- 11/20
F26B 1/00- 25/22
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルスラッジを密閉容器に収容し、減圧下において所定の温度範囲に加熱しながら撹拌するとともに、微生物を利用してオイルスラッジの有機物を分解させ、水分を蒸発させて減容した乾燥物を得る減圧発酵乾燥機を備えたオイルスラッジの処理装置であって、
前記乾燥物からオイルを濾過する濾過機と、
前記オイルが濾過された乾燥物を蒸気で洗浄する洗浄機と、
を備えたことを特徴とするオイルスラッジの処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルスラッジの処理装置において、
前記濾過機は、本体の上部に投入口と、前方の出口を投入口の開口部をより絞り込んだ排出口と、底部に穿設した無数のスリットと、投入口から排出口に向けて回転自在なスクリューと、前記底部下方にオイルを貯留し、その排油口を設けたオイル集合部と、
を備えたことを特徴とするオイルスラッジの処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のオイルスラッジの処理装置において、
前記洗浄機は、乾燥物を搬送するコンベア本体の上部に複数本の蒸気吐出ノズルと、コンベア本体の底部に多数設けたスリットと、底部下方に洗浄廃液を貯留し、その排液口を設けた廃液集合部と、
を備えたことを特徴とするオイルスラッジの処理装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のオイルスラッジの処理装置において、
前記濾過機の下部に貯留されたオイルは、排油口に接続された送油管を介して、ボイラーの燃料供給部に投入され、前記ボイラーで発生した蒸気はそれぞれ配管を介して前記減圧発酵乾燥機の加熱ジャケット及び前記洗浄機の蒸気吐出ノズルに供給されることを特徴とするオイルスラッジの処理装置。
【請求項5】
請求項3に記載のオイルスラッジの処理装置において、
前記洗浄機の下方に貯留した洗浄廃液を、集合部の廃液口に接続された廃液管を介して減圧発酵乾燥機に投入することを特徴とするオイルスラッジの処理装置。
【請求項6】
オイルスラッジを密閉容器に収容し、減圧下において所定の温度範囲に加熱しながら撹拌するとともに、微生物を利用してオイルスラッジの有機成分を分解させ、水分を蒸発させて減容した乾燥物を得る減圧発酵乾燥工程と、
前記乾燥物からオイルを濾過する濾過工程と、
前記オイルが濾過された乾燥物を蒸気で洗浄する洗浄工程と、
を備えたことを特徴とするオイルスラッジの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルスラッジの処理装置及びその処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、採油場や油運搬船の船底等において堆積されたオイルスラッジから油と無機化したスラグを得るようにしたオイルスラッジの処理方法及びその装置が記載されている。
【0003】
ところで、前記処理方法及びその装置は、オイルスラッジに水を付加したものを電気分解槽内で撹拌してオイルスラッジの液状化を促進すると共に、分離機における分離負担を軽減して、オイルスラッジから良質の油と無機化した無害のスラグを容易に得ることができるオイルスラッジの処理方法及びその装置を提供するものであるが、複雑で、大掛かりなプラントとなり、その設置費用が高額になるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-60848号公報
【文献】特許第4153685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような実情を考慮してなされたものであって、汎用性のある装置を組み合わせたプラントで、採油場や油運搬船の船底に堆積したオイルスラッジから良質な油を得ることにある。また、本発明により生成された夾雑物(土壌)を採油場に戻すことにより、採油場の環境、特に大気汚染を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オイルスラッジを密閉容器に収容し、減圧下において所定の温度範囲に加熱しながら撹拌するとともに、微生物を利用してオイルスラッジの有機物を分解させ、水分を蒸発させて減容した乾燥物を得る減圧発酵乾燥機を備えたオイルスラッジの処理装置であって、前記乾燥物からオイルを濾過する濾過機と、前記オイルが濾過された乾燥物を蒸気で洗浄する洗浄機と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、減圧発酵乾燥機によってオイルスラッジから水分を除去し、またこの乾燥物から濾過機でオイルを濾過し、さらにこの乾燥物を洗浄機で洗浄し、排出された夾雑物は、無害化され、クリーンな状態で得ることができるので、この夾雑物を元の所に戻すことにより、採油場などの環境、特に大気汚染を改善することができる。
【0008】
本発明おいて、前記濾過機は本体の上部に投入口と、前方の出口を投入口の開口部をより絞り込んだ排出口と、底部に設けた無数のスリットと、投入口から排出口に向けて回転自在なスクリューと、前記底部下方にオイルを貯留し、その排油口を設けたオイル集合部と、を備えることが好ましい。この構成によれば、濾過機をコンパクトな構成とし、前記乾燥物からオイルを容易に濾過することができる。
【0009】
本発明において、前記洗浄機は、オイルが除去された乾燥物を搬送するコンベア本体の上部に複数本の蒸気吐出ノズルと、コンベア本体の底部に設けた無数のスリットと、底部下方に洗浄廃液を貯留し、その排水口を設けた廃液集合部と、を備えることが好ましい。この構成によれば、洗浄機をコンパクトな構成とし、オイルを除去した乾燥物を容易に洗浄することができる。
【0010】
本発明において、前記濾過機の下部に貯留されたオイルは、排油口に接続された送油管を介して、ボイラーの燃料供給部に投入され、前記ボイラーで発生した蒸気はそれぞれ蒸気管を介して前記減圧発酵乾燥機の加熱ジャケット及び前記洗浄機の蒸気吐出ノズルに供給される構成になっていることが好ましい。この構成によれば、濾過されたオイルをボイラーの燃料と利用することにより、ボイラーの燃料費を削減することができる。
【0011】
また、本発明において、前記洗浄機の下方に貯留した洗浄廃液を、集合部の排水口に接続された廃液管を介して減圧発酵乾燥機に投入することが好ましい。この構成によれば、前記洗浄液の洗浄廃液を排水処理することなく、オイルスラッジを処理することができる。
【0012】
さらに、本発明のオイルスラッジの処理方法であって、オイルスラッジを密閉容器に収容し、減圧下において所定の温度範囲に加熱しながら撹拌するとともに、微生物を利用してオイルスラッジの有機成分を分解させ、水分を蒸発させて減容した乾燥物を得る減圧発酵乾燥工程と、前記乾燥物からオイルを濾過する濾過工程と、前記オイルが濾過された乾燥物を蒸気で洗浄する洗浄工程と、を備えていることを特徴とする。このようなオイルスラッジの処理方法によれば、上述したオイルスラッジの処理装置と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るオイルスラッジの処理装置及びその処理方法によれば、減圧発酵乾燥機によってオイルスラッジから大量に水分を除去することができ、濾過機によって、減圧発酵乾燥機により得られた乾燥物からオイルを濾過することができ、また洗浄機でオイルを除去した乾燥物を蒸気洗浄し、排出された洗浄廃液を減圧発酵乾燥機に再投入することで、洗浄廃液の排水処理が不要となり、しかも前記乾燥物からクリーンな夾雑物が生成されるので、この夾雑物を採油場に戻したりして採油場の環境、特に大気汚染を改善し、またクリーンな建築用資材としても再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るオイルスラッジの処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のオイルスラッジの処理装置の投入機及び減圧発酵乾燥機を示す正面図である。
【
図3】
図1のオイルスラッジの処理装置に備える減圧発酵乾燥機の概念構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図1のオイルスラッジの処理装置に備える濾過機の概略構成を示す断面図である。
【
図5】
図1のオイルスラッジの処理装置に備える洗浄機の概略構成を示す斜視図である。
【
図6】
図1のオイルスラッジの処理装置に備えるボイラーの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るオイルスラッジの処理装置の概略構成を示すブロック図、
図2は、オイルスラッジの投入機及び減圧発酵乾燥機を示す正面図である。
図3は、オイルスラッジを減圧発酵乾燥させる減圧発酵乾燥機の概念構成を示す模式図、
図4は、オイルスラッジを減圧乾燥発酵処理後の乾燥物を濾過させる濾過機の概略構成を示す断面図、
図5は、前記乾燥物を洗浄させる洗浄機の概略構成を示す斜視図、
図6は、減圧発酵乾燥機及び洗浄機に蒸気を供給させるボイラーの概略構成を示す断面図である。
【0016】
図1~
図6に示すように、オイルスラッジの処理装置(以下、「処理装置」とも言う。)1は、投入機2、減圧発酵乾燥機3、濾過機4、洗浄機5、ボイラー6などを備えている。処理装置1においては、例えば採油場や油運搬船の船底に堆積したオイルスラッジを回収し、このオイルスラッジを収容した投入機2によって減圧発酵乾燥機3に投入され、投入されたオイルスラッジに対して減圧発酵乾燥機3によって減圧発酵乾燥処理が実行される。減圧発酵乾燥機3の減圧発酵乾燥処理により得られた乾燥物が濾過機4へ送られ、この濾過機4によって乾燥物に混入しているオイルが除去される。オイルが除去された乾燥物は、洗浄機5へ送られ、この洗浄機5によってオイルが除去された乾燥物は洗浄され、乾燥物はクリーンな夾雑物として排出される。この夾雑物には、オイルなどの不純物はなく、元の採油地に戻すと、採油前の環境状態となり、自然環境が保てることができる。
【0017】
以下、処理装置1に備えられる各機器について詳細に説明する。
【0018】
-投入機-
投入機2は、後述のホッパー23に収容されたオイルスラッジを減圧発酵乾燥機3の投入口30aに投入するものである。
【0019】
投入機2は、
図2の右上がりに傾斜した搬送コンベアの筒体20と、筒体20内に設けられたスクリュー21と、筒体20先端下部に設けられた電動モータ22と、筒体20基端上部に設けられ、オイルスラッジを収容するホッパー23と、筒体20先端下部に設けられ、後述するタンク30の投入口30aに接続する接続部24とで構成されている。なお、ホッパー23はオイルスラッジの重量で転倒しないように、枠体25で支持されている。
【0020】
前記電動モータ22を駆動すると、スクリュー21が回転し、ホッパー23底部のオイルスラッジは、搬送コンベアの筒体20、接続部24を介して、安定的にタンク30内に投入させることができる。
【0021】
加えて、前記ホッパー23には、後述する洗浄機5からの洗浄廃液も収容されるので、この処理装置1では、排水処理装置が必要でなくなり、有害な物質も排水されない。
【0022】
-減圧発酵乾燥機-
減圧発酵乾燥機3は、例えば特許文献2などに記載されているように公知のものであり、処理対象の有機物を減圧下において所定の温度範囲に加熱しながら撹拌するとともに、微生物を利用して有機物の有機成分を分解させ、水分を蒸発させて減容した乾燥物を得るものである。
【0023】
具体的には、オイルスラッジのオイルに含まれている水分は、たんぱく質などの有機成分によってオイルに閉じ込められており、容易に蒸発しないが、微生物によって有機成分を分解すると、水分はオイルと分離して浮遊水分となり、この水分を蒸発させて減容した乾燥物を得ることができる。
【0024】
減圧発酵乾燥機3は、
図3に模式的に示すように、投入機2によって投入されるオイルスラッジを収容する密閉容器として、内部を大気圧以下に保持するように気密に形成された略円筒状のタンク(耐圧タンク)30を備えている。このタンク30の周壁部には、加熱ジャケット31が設けられ、ボイラー6から加熱用蒸気が加熱ジャケット31に供給されるようになっている。なお、ボイラー6から供給される蒸気の温度は、例えば140℃程度が好ましい。
【0025】
また、加熱ジャケット31に取り囲まれるようにして、タンク30の内部にはその長手方向(
図3の左右方向)に延びる撹拌シャフト32が設けられている。撹拌シャフト32は、電動モータ32aによって所定の回転速度で回転される。撹拌シャフト32には、その軸方向に離間して複数の撹拌板32bが設けられており、これら撹拌板32bによって、オイルスラッジが撹拌されるとともに、発酵乾燥終了後にはオイルスラッジがタンク30の長手方向に送られるようになっている。
【0026】
タンク30の長手方向中央の上部には、投入機2から供給されるオイルスラッジの投入口30aが設けられており、この投入口30aから投入されたオイルスラッジが、加熱ジャケット31によって加熱されながら、撹拌シャフト32の回転によって撹拌される。そして、所定時間経過した後、処理後の乾燥物がタンク30の下部に設けられた排出部30bから排出される。なお、電動モータ32aの代わりに、油圧モータを用いてもよい。
【0027】
タンク30の上部には、加熱されたオイルスラッジから発生する蒸気を凝縮部33へ案内する案内部30cが突設されている。本実施形態では、案内部30cが2つ設けられており、各案内部30cは、投入口30aを挟んでタンク30の長手方向の両側に1つずつ配置されている。凝縮部33は、1対のヘッド33aによって支持された複数の冷却管33bを備えており、これら複数の冷却管33bと、クーリングタワー38との間には、冷却水経路38aが設けられている。本実施形態では、凝縮部33は、タンク30の長手方向に沿って平行に延びており、投入口30a及び案内部30cの後方側に凝縮部33が配置されている。
【0028】
そして、凝縮部33において冷却管33b内を流通し、高温の蒸気との熱交換によって温度が上昇した冷却水は、
図3に模式的に矢印で示すように冷却水経路38aを流通してクーリングタワー38の受水槽38bに流入する。クーリングタワー38には、その受水槽38bから冷却水を汲み上げる汲み上げポンプ38cと、汲み上げた冷却水を噴射するノズル38dとが設けられている。このノズル38dから噴射された冷却水は、流下部38eを流下する間にファン38fからの送風を受けて温度が低下し、再び受水槽38bに流入するようになっている。
【0029】
クーリングタワー38で冷却された冷却水は、冷却水ポンプ38gによって送水され、冷却水経路38aによって凝縮部33に送られて、再び複数の冷却管33b内を流通する。そして、上述のようにタンク30の内部で発生した蒸気との熱交換によって温度が上昇した後に、再び冷却水経路38aを流通して、クーリングタワー38の受水槽38bに流入する。つまり、冷却水は凝縮部33とクーリングタワー38との間の冷却水経路38aを循環する。また、本実施形態では、後述するように、クーリングタワー38で冷却された冷却水が凝縮部33へ供給されるようになっており、冷却水が凝縮部33とクーリングタワー38との間で循環するようになっている。
【0030】
上述のように循環する冷却水の他に、クーリングタワー38では、加熱されたオイルスラッジから発生する蒸気が凝縮部33において凝縮した凝縮水も注水される。なお、図示しないが凝縮部33の下方に、高温の蒸気と熱交換することによって生成した凝縮水が集められるようになっている。また、凝縮部33には連通路35を介して真空ポンプ36が接続され、タンク30内を減圧するようになっている。
【0031】
すなわち、真空ポンプ36の作動によって、連通路35を介して凝縮部33から空気及び凝縮水が吸い出され、さらに連通路34及び案内部30cを介してタンク30内の空気及び蒸気が吸い出される。こうして、凝縮部33からは凝縮水が真空ポンプ36に吸い出され、この真空ポンプ36から導水管によって、クーリングタワー38の受水槽38bに導かれる。
【0032】
こうしてクーリングタワー38の受水槽38bに導かれた凝縮水は、冷却水と混ざり合って上述のように汲み上げポンプ38cに汲み上げられ、ノズル38dから噴射された後に、流下部38eを流下しながら冷却される。なお、凝縮水には、タンク30内のオイルスラッジに添加されたものと同じ微生物が含まれており、この凝縮水に含まれる臭気成分等が分解されているので、臭気はタンク外部へ発散しないようになっている。
【0033】
-減圧発酵乾燥機の動作-
上記構成の減圧発酵乾燥機3の作動について説明すると、タンク30内に収容されたオイルスラッジは、加熱ジャケット31に供給される加熱用蒸気によって加熱されながら、撹拌シャフト32の回転に伴い撹拌される。そして、タンク30内を取り囲む加熱ジャケット31による外側からの加熱と、撹拌シャフト32などによる内側からの加熱とを受けて、タンク30内に収容された有機物が効果的に昇温されるとともに、撹拌シャフト32によって有機物が撹拌される。加えて、真空ポンプ36の作動によって減圧されているため、タンク30内では沸点が低下し、微生物によってオイルスラッジの有機成分の分解が促進される温度領域で水分が蒸発する。
【0034】
なお、減圧発酵乾燥機3による減圧発酵乾燥工程では1工程(1サイクル)が、例えば2時間であることが好ましく、まず30分かけて有機物の有機成分を分解させる発酵工程となる。タンク30内を-0.06~-0.07MPa(ゲージ圧;以下、ゲージ圧は省略する)に減圧すると、タンク30内の水分温度は76~69℃(飽和蒸気温度)に維持される。その結果、有機物は、後述する微生物によって、発酵、分解が促進される。
【0035】
次に、1.5時間かけて発酵中の有機物を乾燥させることになる。そのために、タンク30内を-0.09~-0.10MPaにさらに減圧すると、タンク内の水分温度は46~42℃(飽和蒸気温度)に維持され、オイルスラッジの乾燥が十分に促進される乾燥工程となる。そして、そのような乾燥処理を行う際に、タンク30内のオイルスラッジに添加する微生物としては、例えば特許文献2に記載されているように、複数種類の土着菌をベースとし、これを予め培養した複合有効微生物群が好ましく、通称、SHIMOSE 1/2/3群がコロニーの中心になる。
【0036】
なお、SHIMOSE 1は、FERM BP-7504(経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1-3)に、2003年3月14日に国際寄託されたもの)である。また、SHIMOSE 2は、FERM BP-7505(SHIMOSE 1と同様に国際寄託されたもの)、塩に耐性を有するピチアファリノサ(Pichiafarinosa)に属する微生物であり、SHIMOSE 3は、FERM BP-7506(SHIMOSE 1と同様に国際寄託されたもの)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)に属する微生物である。
【0037】
ここで、減圧発酵乾燥機3による有機物の減圧発酵乾燥処理の手順について説明する。まず、有機物を含むオイルスラッジを減圧発酵乾燥機3に投入する。この際、減圧発酵乾燥機3のタンク30の投入口30aの蓋を開いて、投入機2によってホッパー23に収容されたオイルスラッジを投入口30aから投入する。そして、投入口30aの蓋を閉じて、タンク30内を大気圧状態で密閉する。
【0038】
その次に、タンク30内のオイルスラッジに所定の微生物を添加した後に、大気開放バルブを閉じてタンク30内を密閉する。そして、タンク30内を減圧下で加熱して、その内部に収容したオイルスラッジの有機成分の発酵、乾燥を促進する。すなわち、ボイラー6から加熱用蒸気を供給し、タンク30内を加熱する。
【0039】
そうして加熱用蒸気によってタンク30内を加熱するとともに、撹拌シャフト32を所定の回転速度(例えば、8rpm程度)で回転させ、さらに、真空ポンプ36の作動によってタンク30内を減圧し、これにより、タンク30内の温度が微生物の活動至適環境となり、微生物によるオイルスラッジの有機成分の分解が好適に促進される。なお、撹拌シャフト32の回転速度(8rpm)は一例であって、オイルスラッジの有機成分の分解が可能であれば他の値であってもよい。
【0040】
このようにしてタンク30内の温度及び圧力を維持しつつ、所定の時間(例えば2時間くらい)が経過した場合、真空ポンプ36及びボイラー6の運転を停止し、大気圧状態とする。一方、撹拌シャフト32を逆回転させ、タンク30の排出部30bの蓋を開いて、タンク30から乾燥物を排出する。このとき、タンク30から排出される乾燥物は減容されている。
【0041】
-濾過機-
濾過機4には、前記減圧発酵乾燥機3の排出口30bから排出された乾燥物が投入される。濾過機4は、
図4に概略を示すように、入口ノズル41から投入された上記乾燥物が、例えば電動モータ42aによって回転駆動されるウォームスクリュー42によって出口シュート43側へ搬送されるように構成されている。この乾燥物の搬送過程において、ウォームスクリュー42と円筒状の壁部44との間隔が徐々に狭くなっているため、乾燥物が出口側へ送られるにつれて濾過されていく。つまり、ウォームスクリュー42の外周側に設けられた壁部44には、無数のスリット(開口部)45が穿設されており、このスリット45からオイルが濾過されるようになっている。スリット45から濾過されたオイルは、集合部46で集められた後、排出口47から外部へ排出される。また、ウォームスクリュー42の端部まで送られた乾燥物は、ウォームスクリュー42と、出口側プレート48との間で挟まれることによっても圧搾される。この出口側プレート48の位置を油圧シリンダー49で調整することによって、所定の脱油率の乾燥物が、出口シュート43から排出されるようになっている。
【0042】
このようにして、濾過機4によってオイルが除去された乾燥物は、出口シュート43から洗浄機5へ送られる。また、濾過機4によって濾過されたオイルは、送油管40を介してボイラー6の燃料供給部61aへ送られる。そして、このオイルを利用してボイラー6を燃焼し、蒸気を発生させ、この蒸気を蒸気管71から蒸気制御装置92、さらに蒸気管70を介して、前記減圧発酵乾燥機3の加熱ジャケット31に供給し、タンク30を加熱、オイルスラッジの有機成分を適温状態で発酵乾燥させることができる。
【0043】
加えて、ボイラー6で余剰となったオイルは、送油管40の途中に設けたバルブ40aを適宜開閉することにより、オイルタンク40bに貯留され、このタンク40bに貯留されたこれらオイルを販売することもできる。また、前記オイルを販売することによって得た資金は、運転に必要な資金として利用できる。
【0044】
-洗浄機-
洗浄機5は、濾過機4から搬送された乾燥物を蒸気洗浄により、乾燥物に含まれている不純物を除去し、クリーンな夾雑物50 (土壌)を得るものであり、この夾雑物を採油場に戻すことにより、採油場の環境を元の状態に戻すものである。
【0045】
洗浄機5は、底部に無数のスリット(1~5mm)51aが穿設されたコンベア本体51と、コンベア本体51を振動させる振動モータ52とを備えている。また、洗浄機5は、複数(例えば4つ)のコイルばね53によって下台54に支持されている。一方、コンベア本体51は斜め下方に向けて傾斜した状態で、上部が開口しており、その上部には、複数本の蒸気吐出ノズル55が設けられている。
【0046】
なお、前記蒸気吐出ノズル55には、蒸気管72介して蒸気制御装置92に接続されており、ボイラー6で発生した蒸気は、蒸気制御装置92で適宜吐出圧に制御されながら送られてくる。
【0047】
このように、洗浄機5は、コイルばね53によって下台54に対しフローティング支持されているので、振動モータ52の駆動により、コンベア本体51が振動することにより、コンベア本体51内部に収容された乾燥物も振動、転がりながら前方に移動する。その途中において、上方の蒸気吐出ノズル55から蒸気が乾燥物に吹きかけられ、乾燥物に含まれている不純物は水滴とともに無数のスリット51aで濾されて下部の廃液集合部56に貯留され、その排液口57から廃液管58を介して洗浄廃液は投入機2のホッパー23に収容される。したがって、オイルスラッジを処理する洗浄工程においても、汚染物質が含まれる廃液を排水することなく、処理できる。
【0048】
また、油運搬船の船底に堆積したオイルスラッジについても、同様に処理すれば、油運搬船の船底からオイルスラッジを取り除くことができ、さらに洗浄汚染物質を排出することもなく、これらオイルスラッジからオイルを生成することができる。
【0049】
-ボイラー6-
ボイラー6は、燃焼炉60と、この燃焼炉60の
図6の右側方に配置したバーナー61と、この燃焼炉60内に配置された熱交換器62とを備える。
【0050】
先ず、前記燃焼炉60の構成を説明すると、燃焼炉60は、前壁60aと、後壁60bと、底壁60cとの3つの厚い壁部を有し、これらの壁部と、左右の側壁60d、60eと、屋根壁60fとにより、側方から見て四角形状の大容積の内部空間を構成している。前記後壁60bの高さは前壁60aの高さの半分程度に設定され、その後方側(
図6の左方側)に第2後壁60gが配置される。この第2後壁60gは前壁60aの上端部と同高さ位置まで延び、その下端部は第2底壁60hにより後壁60bの上端部に連結されている。従って、この第2底壁60hの上方に小容積の内部空間が形成され、この小容積の内部空間と前記大容積の内部空間とにより、燃焼炉60内において燃焼室60Fが形成されている。尚、以下の説明では、この燃焼室60Fにおいて、底壁60cの上方の内部空間を便宜上、第1燃焼室601Fと称し、第2底壁60hの上方の内部空間を便宜上、第2燃焼室602Fと称する。前記各壁部60a~60hは例えば1000℃程度の高温に耐える耐火煉瓦や断熱材等から成る。
【0051】
次に、前記バーナー61の構成を説明すると、バーナー61は、前記発酵乾燥装置3で減容乾燥された乾燥物から濾過機4でオイルを濾過し、このオイルを燃料として燃焼させる。
【0052】
バーナー61は、燃料供給部61aと、前記オイルを図示しない空気供給口から多量に供給される空気とを混合ガス化させる燃焼本体61bと、これら混合物を燃焼させる燃焼筒61cなどからなり、渦を巻くように火炎Fを第1燃焼室601Fで発生させ、引き続き第2燃焼室602Fでも燃焼し続け、排気ガスとなって排出通路60jに排出される。
【0053】
前記ボイラー6に配置された熱交換器62は第1燃焼室601F及び第2燃焼室602Fで燃料が燃焼した燃焼エネルギーによって水を加熱して、高温の蒸気を発生させる。この熱交換器62において発生した加熱用蒸気が、蒸気管71を経て蒸気制御装置92に供給され、この蒸気制御装置92から減圧発酵乾燥機3(タンク30の加熱加熱ジャケット31など)に供給される。
【0054】
具体的に、前記熱交換器62は、多数の水管62aと気水ドラム62bと水ドラム62cとを備えている。
【0055】
前記多数の水管62aは内部に水が流通し、この水が前記第1燃焼室601F及び第2燃焼室602Fでの燃料の燃焼エネルギーを受けて蒸発するものである。
【0056】
また、前記気水ドラム62bは、複数の水管62aに流通する水が蒸発した蒸気が流入する断面円形状のドラムであって、左右の側壁60d、60e間の中央部位に位置すると共に、第1燃焼室601F及び第2燃焼室602Fに跨って配置され、その下半部分が
図6に示したように第1燃焼室601F及び第2燃焼室602Fに位置し、上半部分が屋根壁61fの上方に位置している。この気水ドラム62bの前後方向の中央部位にて蒸気口62cが開口しており、この蒸気口62dから気水ドラム62b内に集合した蒸気を、蒸気管71を介して前記蒸気制御装置92に供給する構成である。なお、蒸気口62dの前後両方向には、給水口62eが設けられており、この給水口62eから気水ドラム62bや水管62aを介して水ドラム62cに水を供給することができる。
【0057】
また、前記ボイラー6において、気水ドラム62bに集合した蒸気は、蒸気口62dから蒸気管71を介して前記蒸気制御装置92に供給された後、蒸気発電機91に供給され、その蒸気を利用して蒸気発電機91で発電される。
【0058】
前記蒸気発電機91は、例えば蒸気タービン発電機により構成されており、供給された蒸気により発電し、この発電によって発生した電力の一部を減圧発酵乾燥機3に供給し、その駆動電力として利用しているので、減圧発酵乾燥機3の運転を安価に行うことが可能である。また、前記発生した電力の一部は電力会社に供給され、売電することによって得た資金は、運転に必要な資金として利用できる。
【0059】
加えて、ボイラー6は、オイルスラッジの処理装置1において濾過機4で濾過したオイルを燃焼させる構成としたが、他の物を燃焼させるボイラーに適用してもよい。
【0060】
今回、開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、前記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、減圧発酵乾燥機によるオイルスラッジの処理装置及びその処理方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 オイルスラッジの処理装置
2 投入機
3 減圧発酵乾燥機
4 濾過機
40 送油管
41 投入口
42 スクリュー
43 排出口
45 スリット
46 オイル集合部
5 洗浄機
51 コンベア本体
55 蒸気吐出ノズル
56 廃液集合部
57 廃液管
6 ボイラー
60 燃焼炉
61 バーナー
62 熱交換器