(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2018013533
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-40459(JP,A)
【文献】特開2017-223246(JP,A)
【文献】実開平2-91238(JP,U)
【文献】実開平6-14594(JP,U)
【文献】特開平2-275147(JP,A)
【文献】特開2014-74487(JP,A)
【文献】特公昭63-63771(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体を有する起振体軸と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車
の第1外歯部と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車
の第2外歯部と噛み合う第2内歯歯車と、前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記起振体と前記第1外歯部との間に配置される第1起振体軸受と、前記起振体と前記第2外歯部との間に配置される第2起振体軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸は、前記起振体と一体的に回転する軸部を有し、
当該撓み噛合い式歯車装置はさらに、
前記軸部と前記第1内歯部材との間に配置される第1入力軸受と、
前記軸部と前記第2内歯部材との間に配置される第2入力軸受と、を備え、
前記第1入力軸受および前記第2入力軸受の外径は、前記起振体の外径よりも小さ
く、
前記第1入力軸受と前記第1起振体軸受は、径方向から見たときに重なり、
前記第2入力軸受と前記第2起振体軸受は、径方向から見たときに重なることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記第1内歯部材は前記起振体の径方向内側に延在する第1延在部を有し、
前記軸部と前記第1延在部との間に前記第1入力軸受が配置され
、
前記第2内歯部材は前記起振体の径方向内側に延在する第2延在部を有し、
前記軸部と前記第2延在部との間に前記第2入力軸受が配置されることを特徴とする請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記第1入力軸受の転動体と前記第1起振体軸受の転動体は、径方向から見たときに重なり、
前記第2入力軸受の転動体と前記第2起振体軸受の転動体は、径方向から見たときに重なることを特徴とする請求項1または2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記起振体軸は、前記軸部と前記起振体とを接続する接続部を有し、
前記接続部は、軸方向に貫通する軸方向潤滑通路と、軸方向潤滑通路と前記起振体外周とを連通する径方向潤滑通路と、を有
し、
前記径方向潤滑通路は、前記第1起振体軸受の転動体と前記第2起振体軸受の転動体との間において、前記起振体外周に連通することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記軸部は、第1内歯部材を貫通して外部に突出するとともに、中空部を有し、
前記中空部の突出側端部は閉塞され、前記中空部の反突出側端部は開口していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記第2内歯部材は、当該撓み噛合い式歯車装置の反入力側開口を閉塞し、
前記軸部は、第2内歯部材を貫通しないことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ軽量で高減速比が得られる歯車装置として、撓み噛合い式歯車装置が知られている。従来では、起振体を有する起振体軸と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、を備える、いわゆるフラット型の撓み噛合い式歯車装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撓み噛合い式歯車装置を駆動するための駆動装置の消費電力には、撓み噛合い式歯車装置の摩擦損失だけでなく、撓み噛合い式歯車装置の慣性モーメントも影響する。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、慣性モーメントを低減できる撓み噛合い式歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体を有する起振体軸と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、起振体軸は、起振体と一体的に回転する軸部を有する。当該撓み噛合い式歯車装置はさらに、軸部と第1内歯部材との間に配置される第1入力軸受と、軸部と第2内歯部材との間に配置される第2入力軸受と、を備える。第1入力軸受および第2入力軸受の外径は、起振体の外径よりも小さい。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、慣性モーメントを低減できる撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図2】第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速して出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、いわゆるフラット型の撓み噛合い式歯車装置であり、波動発生器2と、波動発生器2により撓み変形される外歯歯車4と、外歯歯車4と噛み合う第1内歯歯車6と、第1内歯歯車6と一体的に回転する第1内歯部材7と、第1内歯歯車6と軸方向(すなわち回転軸Rと平行な方向)に並んで(隣接して)配置され、外歯歯車4と噛み合う第2内歯歯車8と、第2内歯歯車8と一体的に回転する第2内歯部材9と、第1内歯部材7と第2内歯部材9との間に配置される主軸受16と、を備える。噛合い式歯車装置100には、潤滑剤(例えばグリース)が封入されており、外歯歯車4と第1内歯歯車6および第2内歯歯車8との噛合い部(以下、単に「噛合い部」と呼ぶ)や各軸受等を潤滑する。
【0012】
波動発生器2は、起振体軸22と、起振体軸22と外歯歯車4の第1外歯部4a(後述)との間に配置される第1起振体軸受21aと、起振体軸22と外歯歯車4の第2外歯部4b(後述)との間に配置される第2起振体軸受21bと、を有する。
【0013】
起振体軸22は、軸部221と、軸部221と一体的に回転する起振体222と、軸部221と起振体222とを接続する接続部223と、を有する。
【0014】
軸部221は、入力軸であり、例えばモータ等の駆動装置(不図示)に接続され、回転軸Rを中心に回転する。軸部221の一方側(
図1では右側)は第1内歯部材7を貫通して外部に突出している。以下、第1内歯部材7から外部に突出している軸部221の端部(
図1では右側の端部)を突出側端部221aといい、突出側端部221aとは反対側の軸部221の端部(
図1では左側の端部)を反突出側端部221bという。駆動装置は、突出側端部221aよりも軸方向の一方側に配置される。
【0015】
軸部221は中空部221cを有する。中空部221cは、反突出側端部221bが開口しており、この開口を介して噛合い部や各軸受等と連通している。したがって中空部221cを、噛合い部や各軸受等に供給されるべき潤滑剤を溜める潤滑剤溜まりとして機能させることができる。中空部221cの突出側端部221aは、外部に潤滑剤が漏れないように閉塞されている。中空部221cは、図示のように突出側端部221aが開口しつつシールキャップ48で塞がれてもよいし、突出側端部221aが開口していない、すなわち有底の中空部であってもよい。
【0016】
軸部221は、当該軸部221を径方向に貫通する径方向潤滑通路221dを有する。径方向潤滑通路221dは、第1入力軸受30が配置される第1延在部58と軸部221との隙間に開口する。したがって、径方向潤滑通路221dにより、中空部221cと、第1延在部58と軸部221との隙間とがバイパスされる。径方向潤滑通路221dの数は特に限定されず、例えば複数の径方向潤滑通路221dが周方向に等間隔に設けられてもよい。
【0017】
起振体222は、第1起振体222aと、第2起振体222bと、を含む。第1起振体222a、第2起振体222bはそれぞれ、第1延在部58、第2延在部68(いずれも後述)を環囲し、回転軸Rに直交する断面の外周形状が略楕円状をなす。本明細書での「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0018】
接続部223は、略円板状をなし、軸部221と第1起振体222aおよび第2起振体222bとを接続する。接続部223は、第1入力軸受30および第2入力軸受32と同じ径方向位置に、当該接続部223を軸方向に貫通する軸方向潤滑通路223aを有する。したがって、軸方向潤滑通路223aにより、第1入力軸受30が配置される第1延在部58と軸部221との隙間と、第2入力軸受32が配置される第2延在部68と軸部221との隙間とがバイパスされる。
【0019】
また、接続部223は、軸方向潤滑通路223aから当該接続部223の外周端まで径方向に延びる径方向潤滑通路223bを有する。径方向潤滑通路223bにより、軸方向潤滑通路223aと、第1起振体222aの外周面222cおよび第2起振体の外周面222dとが連通する。なお、径方向潤滑通路223bは、径方向内側にさらに延在し、中空部221cと通じてもよい。
【0020】
軸方向潤滑通路223aおよび径方向潤滑通路223bの数は特に限定されず、例えば複数の軸方向潤滑通路223aおよび径方向潤滑通路223bが周方向に等間隔に設けられてもよい。
【0021】
第1起振体軸受21aは、複数の第1転動体24aと、複数の第1転動体24aを保持する第1保持器26aと、外歯歯車4に内嵌される第1外輪部材28aと、を含む。第2起振体軸受21bは、複数の第2転動体24bと、複数の第2転動体24bを保持する第2保持器26bと、外歯歯車4に内嵌される第2外輪部材28bとを含む。
【0022】
複数の第1転動体24aはそれぞれ、略円柱形状を有し、中心軸が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。第1転動体24aは、第1保持器26aにより転動自在に保持され、第1起振体222aの外周面222cを転走する。つまり、第1起振体軸受21aの内輪は、第1起振体222aの外周面222cと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体222とは別体の専用の内輪を備えてもよい。第2転動体24bは、第1転動体24aと同様に構成される。複数の第2転動体24bは、第1保持器26aと軸方向に並ぶように配置された第2保持器26bにより転動自在に保持され、第2起振体222bの外周面222dを転走する。つまり、第2起振体軸受21bの内輪は、第2起振体222bの外周面222dと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体222とは別体の専用の内輪を備えてもよい。以降では、第1転動体24aと第2転動体24bとをまとめて「転動体24」とも呼ぶ。また、第1保持器26aと第2保持器26bとをまとめて「保持器26」とも呼ぶ
【0023】
第1外輪部材28aは、複数の第1転動体24aを環囲する。第1外輪部材28aは、可撓性を有し、複数の第1転動体24aを介して起振体222により楕円状に撓められる。第1外輪部材28aは、起振体222(すなわち起振体軸22)が回転すると、起振体222の形状に合わせて連続的に撓み変形する。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと同様に構成される。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと一体に形成されてもよい。以降では、第1外輪部材28aと第2外輪部材28bとをまとめて「外輪部材28」とも呼ぶ。
【0024】
外歯歯車4は、可撓性を有する環状の部材であり、その内側には起振体222、転動体24および外輪部材28が嵌まる。外歯歯車4は、起振体222、転動体24および外輪部材28が嵌まることによって楕円状に撓められる。外歯歯車4は、起振体222が回転すると、起振体222の形状に合わせて連続的に撓み変形する。外歯歯車4は、第1外輪部材28aの外側に位置する第1外歯部4aと、第2外輪部材28bの外側に位置する第2外歯部4bと、基材4cと、を含む。第1外歯部4aと第2外歯部4bとは単一の基材である基材4cに形成されており、同歯数である。
【0025】
第1内歯歯車6は、剛性を有する環状の部材であり、その内周に第1内歯部6aが形成されている。第1内歯部6aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第1外歯部4aを環囲し、起振体222の長軸近傍の所定領域(2領域)で第1外歯部4aと噛み合う。第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも多くの歯を有する。
【0026】
第2内歯歯車8は、第1内歯歯車6と軸方向に並んで(隣接して)配置される。第2内歯歯車8は、剛性を有する円筒状の部材であり、その内周に第2内歯部8aが形成されている。第2内歯部8aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第2外歯部4bを環囲し、起振体222の長軸方向の所定領域(2領域)で第2外歯部4bと噛み合う。第2内歯部8aは、第2外歯部4bと同数の歯を有する。したがって、第2内歯歯車8は、第2外歯部4bひいては外歯歯車4の自転と同期して回転する。
【0027】
第1内歯部材7は、第1本体部52と、環囲部54と、第1規制部56と、第1延在部58と、を含む。本実施の形態では、第1本体部52、第1規制部56および第1延在部58は一体的に形成されるが、複数の部材が連結されて構成されてもよい。第1本体部52は、環状の部材であり、その内周側に第1内歯歯車6が設けられている。本実施の形態では、第1内歯歯車6と第1本体部52とは、一体的に形成される。したがって、第1本体部52ひいては第1内歯部材7は、第1内歯歯車6と一体的に回転する。なお、第1内歯歯車6と第1本体部52とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0028】
環囲部54は、略円筒状の部材である。環囲部54には、第1本体部52がインロー嵌合されボルト(不図示)により一体化される。環囲部54は、第1本体部52から第2内歯歯車8の径方向外側まで延び、第2内歯歯車8および第2内歯部材9を環囲する。
【0029】
第1規制部56は、第1本体部52の反第2内歯部材9側から、径方向内側に延在する。第1規制部56は、その軸方向内側(第1規制部56に対して第1外歯部4aと第2外歯部4bとの間と同じ側)に、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26と軸方向で対向する対向面56aを有する。第1規制部56は、後述の第2規制部66とともに、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0030】
第1延在部58は、第1規制部56の径方向内側から軸方向に延在する。第1延在部58は特に、第1起振体222aの径方向内側まで延在する。つまり、第1延在部58と第1起振体222aは径方向から見て重なる。
【0031】
第2内歯部材9は、第2本体部62と、カバー部64と、第2規制部66と、第2延在部68と、を含む。本実施の形態では、第2本体部62、カバー部64、第2規制部66および第2延在部68は一体的に形成されるが、複数の部材が連結されて構成されてもよい。第2本体部62は、環状の部材であり、その内周側に第2内歯歯車8が設けられている。本実施の形態では、第2内歯歯車8と第2本体部62とは、一体的に形成される。したがって、第2本体部62ひいては第2内歯部材9は、第2内歯歯車8と一体的に回転する。なお、第2内歯歯車8と第2本体部62とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0032】
カバー部64は、略円板状の部材であり、第2本体部62の反第1本体部側(
図1では左側)の開口を閉塞するように、ひいては、軸方向で駆動装置が設けられている側とは反対側(すなわち反入力側)の撓み噛合い式歯車装置100の開口を閉塞するように、第2本体部62の径方向内側に第2本体部62と一体的に形成される。軸部221は、カバー部64(すなわち第2内歯部材9)を貫通していない。
【0033】
第2規制部66は、第2本体部62の径方向内側、かつ、カバー部64の軸方向内側(カバー部64に対して第1外歯部4aと第2外歯部4bとの間と同じ側)に設けられる環状の部材ある。第2規制部66は、その軸方向内側(第2規制部66に対して第1外歯部4aと第2外歯部4bとの間と同じ側)に外歯歯車4、外輪部材28および保持器26と軸方向で対向する対向面66aを有する。第2規制部66は、上述したように第1規制部56とともに、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0034】
第2延在部68は、カバー部64から軸方向に延在する。第2延在部68は特に、第2起振体222bの径方向内側まで延在する。つまり、第2延在部68と第2起振体222bは径方向から見て重なる。
【0035】
第1入力軸受30は、軸部221と第1内歯部材7との間に配置され、第2入力軸受32は、軸部221と第2内歯部材9との間に配置される。第1入力軸受30と第2入力軸受32はいずれも、起振体222の最小外径(すなわち短軸径)よりも小さい外径を有する。第1内歯部材7および第2内歯部材9は、第1入力軸受30および第2入力軸受32を介して、軸部221を回転自在に支持する。
【0036】
好ましくは、第1入力軸受30は、軸部221と第1内歯部材7の第1延在部58との間に配置され、第2入力軸受32は、軸部221と第2内歯部材9の第2延在部68との間に配置される。そして第1入力軸受30および第2入力軸受32の少なくとも一方は、その少なくとも一部が起振体222の径方向内側に位置するように(すなわち径方向から見て少なくとも一部が起振体222と重なるように)配置される。さらに好ましくは、第1入力軸受30および第2入力軸受32は、図示のようにその全体が起振体222の径方向内側に位置するように(すなわち径方向から見て全体が起振体222と重なるように)配置される。
【0037】
主軸受16は、その軸方向が回転軸Rと一致するように、第1内歯部材7の環囲部54と第2内歯部材9の第2本体部62との間に配置される。第1内歯部材7は、主軸受16を介して、第2内歯部材9を相対回転自在に支持する。
【0038】
起振体軸22の軸部221と第1内歯部材7の第1延在部58との間にはオイルシール40が配置され、第1内歯部材7の第1本体部52と環囲部54との間にはOリング36が配置され、第1内歯部材7の環囲部54と第2内歯部材9の第2本体部62との間にはオイルシール42が配置され。これにより、撓み噛合い式歯車装置100内の潤滑剤が漏れるのを抑止できる。
【0039】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、第1外歯部4aの歯数が100、第2外歯部4bの歯数が100、第1内歯部6aの歯数が102、第2内歯部8aの歯数が100の場合を例に説明する。また、第2内歯歯車8が被駆動部材に連結される場合を例に説明する。
【0040】
第1外歯部4aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯部6aと噛み合っている状態で、起振体軸22が回転すると、これに伴って第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛み合い位置も周方向に移動する。第1外歯部4aと第1内歯部6aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯部6aに対して第1外歯部4aが相対的に回転する。第1内歯歯車6が固定状態にあるため、第1外歯部4aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体軸22の回転が大幅に減速されて第1外歯部4aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1外歯部4aの歯数-第1内歯部6aの歯数)/第1外歯部4aの歯数
=(100-102)/100
=-1/50
【0041】
第2外歯部4bは、第1外歯部4aと一体的に形成されているため、第1外歯部4aと一体に回転する。第2外歯部4bと第2内歯部8aは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2外歯部4bと第2内歯部8aとは一体に回転する。このため、第1外歯部4aの自転と同一の回転が第2内歯部8aに出力される。結果として、第2内歯歯車8からは起振体軸22の回転を-1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0042】
つづいて、本実施の形態が奏する効果について述べる。本実施の形態によれば、第1入力軸受30および第2入力軸受32は起振体222の最小外径よりも小さい外径を有する。これにより、起振体222の外径を比較的大きくして所望のトルクを実現しつつも、第1入力軸受30および第2入力軸受32を小さくできる。つまり、所望のトルクを実現しつつも、慣性モーメントおよび摩擦損失を低減できる。
【0043】
また、第1入力軸受30および第2入力軸受32が起振体222の最小外径よりも小さい外径を有するため、第1入力軸受30および第2入力軸受32を、その少なくとも一部が径方向で起振体222と重なるように配置して、撓み噛合い式歯車装置100を軸方向にコンパクトにすることが可能となる。軸方向にコンパクトになると、慣性モーメントが低減される。
【0044】
好ましくは、第1入力軸受30は第1延在部58と軸部221との間に配置され、第2入力軸受32は第2延在部68と軸部221との間に配置される。第1延在部58、第2延在部68は、起振体222の径方向内側に延在する。したがって、各入力軸受は、起振体222の径方向内側に、すなわち径方向から見て起振体222と重なる位置に配置される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100は軸方向にさらにコンパクトになり、慣性モーメントがさらに低減される。
【0045】
また、本実施の形態によれば、軸部221は中空部221cを有する。これにより、軸部221が軽量化され、慣性モーメントが低減される。
【0046】
また、本実施の形態によれば、接続部223が軸方向潤滑通路223aおよび径方向潤滑通路223bを有する。これにより、中空部221cから各軸受等までの経路長が短くなるため、例えば中空部221cに潤滑剤を封入させた場合に、各軸受等に潤滑剤が供給されやすくなる。その結果、撓み噛合い式歯車装置100の長寿命化を図れる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、第1内歯部材7の第1本体部52、第1規制部56および第1延在部58は一体的に形成される。また、第2内歯部材9の第2本体部62、カバー部64、第2規制部66および第2延在部68は一体的に形成される。これにより、第1内歯部材7および第2内歯部材9、ひいては撓み噛合い式歯車装置100を軸方向に比較的薄くできる。その結果、慣性モーメントが低減される。
【0048】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。
図1との違いに焦点を当てる。
【0049】
本実施の形態では、撓み噛合い式歯車装置100は、さらに第1規制部材12および第2規制部材14を備える。第1規制部材12は、平たいリング状の部材であり、軸方向内側(第1規制部材12に対して第1外歯部4aと第2外歯部4bとの間と同じ側)の面12aが外歯歯車4、第1外輪部材28aおよび第1保持器26aと対向するように配置される。第2規制部材14は、平たいリング状の部材であり、軸方向内側(第2規制部材14に対して第1外歯部4aと第2外歯部4bとの間と同じ側)の面14aが外歯歯車4、第2外輪部材28bおよび第2保持器26bと対向するように配置される。
【0050】
第1内歯部材7は、第1本体部52が第1規制部56および第1延在部58とは別体として形成され、ボルトにより一体化されている。同様に、第2内歯部材9は、第2本体部62がカバー部64、第2規制部66および第2延在部68とは別体として形成され、ボルトにより一体化されている。
【0051】
第1内歯部材7の第1規制部56は第1規制部材12の軸方向の移動を規制し、第2内歯部材9の第2規制部66は第2規制部材14の軸方向の移動を規制する。つまり、第1規制部56および第2規制部66は、第1規制部材12および第2規制部材14を介して、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0052】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、第1内歯部材7の第1本体部52と、第1規制部56および第1延在部58とが別体として形成されるため、これらを一体として形成する場合に比べ、形状が比較的単純であるため加工が容易となる。同様に、第2内歯部材9の第2本体部62と、カバー部64、第2規制部66および第2延在部68とが別体として形成されるため、これらを一体として形成する場合に比べ、形状が比較的単純であるため加工が容易となる。
【0053】
以上、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0054】
4 外歯歯車、 6 第1内歯歯車、 7 第1内歯部材、 8 第2内歯歯車、 9 第2内歯部材、 22 起振体軸、 30 第1入力軸受、 32 第2入力軸受、 100 撓み噛合い式歯車装置、 221 軸部、 222 起振体。