(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】透明導電性膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20221111BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20221111BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20221111BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221111BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20221111BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20221111BHJP
C09D 125/00 20060101ALI20221111BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20221111BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20221111BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221111BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B05D1/02 Z
B05D5/12 B
B05D7/24 302Z
C09D5/24
C09D7/40
C09D125/00
C09D181/00
C09D183/00
C09D201/00
H01B13/00 503B
(21)【出願番号】P 2018018612
(22)【出願日】2018-02-05
【審査請求日】2020-11-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲
(72)【発明者】
【氏名】光本 欣正
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 義幸
(72)【発明者】
【氏名】北畠 香織
(72)【発明者】
【氏名】西本 智久
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】佐藤 智康
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177515(JP,A)
【文献】特開2016-170914(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチオフェン系化合物/ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子とバインダ前駆体と溶媒とを含み、3質量%以下の固形分濃度を有するコーティング組成物を、0.05~0.35MPaのノズル圧で透明基材の一方の面にスプレー塗布することで塗膜を形成する工程を包含する透明導電性膜の製造方法であって、
該コーティング組成物は、キノン化合物、ニトロソアミン化合物及びフェノール系化合物から成る群から選択される少なくとも一種の酸化防止剤、及びリン
酸を更に
含み、
該リン酸は、導電性高分子の含有量を基準にして7~25質量%の量でコーティング組成物に含まれる、透明導電性膜の製造方法。
【請求項2】
前記ノズル圧は、0.05~0.35MPaの霧化圧及び0.05~0.35MPaのスワ-ル圧から成る群から選択される一方又は両方である請求項1に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項3】
前記コーティング組成物は、コーティング組成物を基準にして10~70質量%の水を含有する請求項1又は2に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化防止剤は、キノン化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸化防止剤は、導電性高分子の含有量を基準にして1~15質量%の量でコーティング組成物に含まれる請求項1~4のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項6】
前記導電性高分子は、導電性高分子及びバインダ前駆体の合計量を基準にして5~25質量%の量でコーティング組成物に含まれる請求項1~
5のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項7】
前記塗膜を乾燥及び硬化させることで成膜する工程を更に包含する請求項1~
6のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項8】
前記透明基材が1mm未満の厚さを有するガラスである請求項1~
7のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【請求項9】
前記バインダ前駆体がシラン化合物である請求項1~
8のいずれか一項に記載の透明導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材の一方の面に、透明導電性膜を形成するためのコーティング組成物を塗布乾燥して透明導電性膜を製造する方法に関し、特にスプレー塗布法を使用して透明導電性膜製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チオフェン系やアニリン系の高分子は優れた安定性及び導電性を有することから、有機導電性材料としてその活用が期待されている。その活用の一つとして、液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスに用いられる透明電極及び帯電防止膜に、上記高分子にドーパントを付加した導電性高分子とバインダを使用した透明導電性膜が用いられている。
【0003】
近年、各種デバイスに用いられる透明電極及び帯電防止膜に対する需要が高まり、導電性高分子を無機系バインダで結合した透明導電性膜に対しても、膜厚の均一性に優れた透明導電性膜を効率良く製造することが要求されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明基材の上に透明導電性膜を備え、前記透明導電性膜は、導電性高分子と、シラン化合物を含む粒子状の無機系バインダとを含み、前記導電性高分子は、前記無機系バインダの粒子の間に配置されている透明導電性シートが記載されている。特許文献1には、上記透明導電性シートを透明基材の上に形成する方法の例として、透明導電性膜形成用塗布液を使用するスプレー塗布法が記載されている。スプレー塗布法は、簡便な装置で行うことができ、広範囲を短い時間で塗装できるので、製造効率に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、スプレー塗布法は製造効率に優れた膜の製造方法であるが、スプレー塗布法を使用して、透明導電性膜形成用塗布液から透明導電性膜を製造した場合には、透明導電性膜に実用上の問題が認められる。即ち、スプレー塗布法を使用すると、塗布膜中に塊状物が局在化する事が見受けられた。また、透明導電性膜が平坦性に劣り、表面に色むらが発生する。
【0007】
透明導電性膜の色むらとは、目視もしくは光学顕微鏡で確認できる有色の斑点状の塗布むらをいう。色むらによる斑点は、直径1mm以上の大きさになると目立つようになり、透明導電性膜の外観が悪くなり、ディスプレイの視認性に悪影響を与えることがある。塗膜中の塊状物及び色むらの問題は、導電性高分子としてポリチオフェン系化合物/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む透明導電性膜形成用塗布液を使用した場合に発生し易い。
【0008】
本発明は上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、製造効率に優れ、塗膜中の塊状物、色むらが発生し難い、ポリチオフェン系化合物/ポリスチレンスルホン酸を含む透明導電性膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリチオフェン系化合物/ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子とバインダ前駆体と溶媒とを含み、3質量%以下の固形分濃度を有するコーティング組成物を、0.05~0.35MPaのノズル圧で透明基材の一方の面にスプレー塗布することで塗膜を形成する工程を包含する透明導電性膜の製造方法を提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記ノズル圧は、0.05~0.35MPaの霧化圧及び0.05~0.35MPaのスワ-ル圧から成る群から選択される一方又は両方である。
【0011】
ある一形態においては、前記コーティング組成物は、コーティング組成物を基準にして10~70質量%の水を含有する。
【0012】
ある一形態においては、前記コーティング組成物は、キノン化合物、ニトロソアミン化合物及びフェノール系化合物から成る群から選択される少なくとも一種の酸化防止剤を更に含む。
【0013】
ある一形態においては、前記コーティング組成物は、リン酸、塩酸及び硫酸から成る群から選択される少なくとも一種の無機酸を更に含む。
【0014】
ある一形態においては、前記酸化防止剤は、キノン化合物である。
【0015】
ある一形態においては、前記導電性高分子は、導電性高分子及びバインダ前駆体の合計量を基準にして5~25質量%の量でコーティング組成物に含まれる。
【0016】
ある一形態においては、前記塗膜を乾燥及び硬化させることで成膜する工程を更に包含する。
【0017】
ある一形態においては、前記透明基材が1mm未満の厚さを有するガラスである。
【0018】
ある一形態においては、前記バインダ前駆体がシラン化合物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造効率に優れ、塗膜中の塊状物、色むらが発生し難い、ポリチオフェン系化合物/ポリスチレンスルホン酸を含む透明導電性膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<透明導電性膜形成用コーティング組成物>
本発明の一形態では、透明導電性膜は、透明導電性膜形成用コーティング組成物を使用して、スプレー塗布法により形成される。透明導電性膜形成用コーティング組成物は導電性高分子とバインダ前駆体と溶媒とを少なくとも含む。バインダ前駆体とは、溶媒が蒸発して固形化した場合に、バインダを形成する物質をいう。バインダ前駆体は溶媒に溶解又は分散した状態のバインダであってもよい。
【0021】
導電性高分子は、Conductive Polymers(CPs)と呼ばれる高分子であり、ドーパントによるドーピングによって、ポリラジカルカチオニック塩又はポリラジカルアニオニック塩が形成された状態で、それ自体が導電性を発揮し得る高分子をいう。
【0022】
本発明の一形態では、導電性高分子として、ポリチオフェン系化合物とドーパントとを含むものを用いる。本発明の一形態における導電性高分子としては、ポリチオフェン系化合物としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸とを含む混合物(PEDOT/PSSともいう。)を用いることができる。PEDOT/PSSは導電性、耐湿熱性及び耐候性に優れており、有用であるが、溶媒中に分散させた場合に凝集及び偏在し易い性質をも有している。
【0023】
透明導電性膜形成用コーティング組成物における導電性高分子の含有量は、導電性高分子及びバインダ前駆体の合計量を基準にして5~25質量%である。導電性高分子の使用量が導電性高分子及びバインダ前駆体の合計量を基準にして7.5質量%未満であると、透明導電性膜の平坦性が低下して色むらが発生し易くなり、15.0質量%を超えると、導電性高分子が凝集して塗膜中の塊状物が発生し易くなる。導電性高分子の含有量は、導電性高分子及びバインダ前駆体の合計量を基準にして、好ましくは7.5~15質量%であり、より好ましくは9~13質量%である。
【0024】
バインダ前駆体としては、透明性が高く、粒子状の無機系バインダを構成できるシラン化合物を用いることができる。無機系バインダを粒子状に形成し、導電性高分子を無機系バインダの粒子の間に配置することにより、得られる透明導電性膜の電気特性を向上できる。
【0025】
シラン化合物は、加水分解及び脱水縮合する。シラン化合物は、アルコキシシランであることが好ましい。また、アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン及びアルコキシシランオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランが例示される。
【0026】
テトラアルコキシシランの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラiso-プロポキシシラン、テトラt-ブトキシシラン等の炭素数1~4のアルコキシ基でテトラ置換されたシランが挙げられる。具体例としては、信越化学社製の“KBE-04”(商品名)等が挙げられる。
【0027】
トリアルコキシシランの例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリiso-プロポキシシラン、トリL-ブトキシシラン等の炭素数1~4のアルコキシ基でトリ置換されたシランが挙げられる。
【0028】
ジアルコキシシランの例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
アルコキシシランオリゴマーは、アルコキシシリル基を持つ比較的低分子のレジンである。具体例としては、信越化学社製の“X-40-2308”、“X-40-9225”、“X-40-9226”、“X-40-9238”、“X-40-9247”、“X-40-9250”、“KC-89S”、“KR-220LP”、“KR-401N”、“KR-500”、“KR-510”、“KR-9218”(商品名)、コルコート社製の“エチルシリケート40”、“エチルシリケート48”、“メチルシリケート51”、“メチルシリケート53A”、“EMS-485”、“SS101”(商品名)等が挙げられる。
【0030】
また、アルコキシシランとしては、ビニルメトキシシラン、p-スチリルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフロロプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシランモノマーも用いることができる。
【0031】
また、テトラアルコキシシラン及びトリアルコキシシランを併用することができる。
【0032】
アルコキシシランとして、テトラアルコキシシランとトリアルコキシシランとを併用する場合は、テトラアルコキシシランとトリアルコキシシランとのモル比は9:1~5:5であることが好ましく、より好ましくは8:2~6:4である。このモル比関係が好ましい理由は、透明導電性膜の硬度の低下を防止しつつ、経時変化によって透明導電性膜に亀裂が発生する危険性をより一層なくし、且つ透明基材との密着性をより高めることができるからである。テトラアルコキシシランは、高い膜硬度の発現に作用し、トリアルコキシシランは、透明導電性膜の亀裂発生防止、透明基材との密着性に作用すると考えられる。
【0033】
透明導電性膜形成用コーティング組成物におけるシラン化合物の含有量は、コーティング組成物全体を基準にして0.05~10質量%である。シラン化合物の含有量が0.05質量%未満であると、鉛筆硬度が低下し、10質量%を超えるとインク保存性が悪化する。シラン化合物の含有量は、コーティング組成物全体を基準にして、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.3~3質量%である。
【0034】
溶媒は、プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒とを含むことが好ましい。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒とを併用することにより、比較的低い乾燥温度で透明性に優れた透明導電性膜を得ることができる。
【0035】
プロトン性極性溶媒とは、プロトン供与性を有する溶媒を意味する。プロトン性極性溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、酢酸等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒とは、プロトン供与性を有さない溶媒を意味する。非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。特に好ましい溶媒は、ジメチルスルホキシド、水、及びエタノールを含むものである。
【0036】
透明導電性膜形成用コーティング組成物は10~70質量%の水を含有することが好ましい。透明導電性膜形成用コーティング組成物の水の含有量が10質量%未満であると導電性高分子が凝集して塗膜中の塊状物が発生し易くなり、70質量%を超えると透明導電性膜の平坦性が低下して色むらが発生し易くなる。水の含有量は、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは25~45質量%である。
【0037】
非プロトン性極性溶媒の含有量は、溶媒全体に対して1.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。非プロトン性極性溶媒の含有量が、溶媒全体に対して1.0質量%を下回ると透明導電性膜の光学特性が低下し、50.0質量%を超えると透明導電性膜の耐湿熱性が低下する。
【0038】
溶媒の含有量は特に限定されないが、コーティング組成物全体に対して、50.0質量%以上99.5質量%以下とすればよい。また、溶媒には、無極性溶媒を含んでいてもよい。
【0039】
透明導電性膜形成用コーティング組成物は、有機系バインダを用いてもよい。透明導電性膜が有機系バインダを含むことにより、透明導電性膜と透明基材との密着性を向上できる。特に、透明基材としてプラスチックフィルム等のフレキシブル基材を用いる場合に、透明導電性膜が有機系バインダを含むことは、透明導電性膜と透明基材との密着性や追従性の観点で好ましい。
【0040】
有機系バインダ前駆体としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、多糖類、その他の光重合性樹脂等が挙げられる。また、有機系バインダ前駆体の使用形態としては、溶媒溶解型又はエマルジョン型が使用できる。無機系バインダ前駆体と有機系バインダ前駆体とを併用してもよい。透明導電性膜形成用コーティング組成物は有機系バインダ前駆体を含有しなくてもよい。
【0041】
透明導電性膜形成用コーティング組成物には、無機酸を含有させても良い。これにより、透明導電性膜形成用コーティング組成物の保存安定性が向上する。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸等を使用する。特に好ましい無機酸はリン酸である。
【0042】
無機酸は、好ましくは、導電性高分子の含有量を基準にして30質量%以下の量で含有させる。無機酸の使用量が導電性高分子の含有量を基準にして30質量%を超えると、無機酸が導電性高分子と反応するため、透明導電性膜の耐候性が低下し、コーティング組成物の保存安定性が低下する。無機酸の使用量は、導電性高分子の含有量を基準にして、好ましくは30質量%未満、5質量%以上30質量%未満、より好ましくは7~25質量%である。
【0043】
透明導電性膜形成用コーティング組成物には、酸化防止剤を含有させても良い。そのことで、透明導電性膜の耐湿熱性及び耐候性が向上し、コーティング組成物の保存安定性が更に向上する。酸化防止剤としては、キノン化合物、ニトロソアミン化合物、フェノール系酸化防止剤等を使用する。
【0044】
キノン化合物としては、例えば、ヒドロキノン、メトキノン、メチルヒドロキノン、4-tert-ブチルピロカテコールtert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル フリーラジカル、メキノール、フェノチアジン、4-ヒドロキシTEMPO等が挙げられる。
ニトロソアミン化合物としては、例えば、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンセリウム塩等が挙げられる。
【0045】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、没食子酸プロピル、2,4,5-トリヒドロキシブチロフェノンノルジヒドログアヤレチック酸、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸オクチル、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸ドデシル等が挙げられる。
【0046】
特に好ましい酸化防止剤はヒドロキノン、メトキノン、メチルハイドロキノンである。酸化防止剤は、導電性高分子の含有量を基準にして20質量%以下の量で含有させる。酸化防止剤の使用量が導電性高分子の含有量を基準にして20質量%を超えると、無機系バインダの比率が少なくなり、塗膜硬度が低下するため、酸化防止剤の使用量は、導電性高分子の含有量を基準にして、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0047】
透明導電性膜形成用コーティング組成物には、表面調整剤を含有させても良い。表面調整剤としては、シリコン系表面調整剤を使用でき、例えば、シロキサン系表面調整剤等を使用する。表面調整剤は、コーティング組成物全体を基準にして0.01~10質量%の量で使用する。表面調整剤の使用量を上記範囲に調節することで、透明導電性膜、特にスプレー皮膜の厚さが均一化される。表面調整剤の使用量は、コーティング組成物全体を基準にして、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0048】
コーティング組成物は、導電性高分子、シラン化合物、無機酸、表面調整剤及び溶媒等を公知の手法により適宜混合することにより製造できる。例えば、各成分を、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナー等のメディアを介在させた機械的処理により、又は超音波分散機、ホモジナイザー、ディスパー、ジェットミル等のメディアレス処理により、混合、分散することができる。
【0049】
また、各成分の添加順序も特に限定されず、例えば、導電性高分子と溶媒とからなる溶液に、シラン化合物と無機酸とを加えてもよいし、導電性高分子と溶媒からなる溶液と、シラン化合物と無機酸と溶媒とからなる溶液とを、別々に作製した後に、各溶液を混合してもよい。
【0050】
コーティング組成物の固形分濃度は、好ましくは、コーティング組成物全体を基準にして3質量%以下である。コーティング組成物の固形分濃度がコーティング組成物全体を基準にして3質量%を超えると、コーティング組成物の粘度が高くなり、スプレー中に導電性高分子が凝集して塗膜中の塊状物が発生し易くなる。コーティング組成物の固形分濃度は、コーティング組成物全体を基準にして、より好ましくは2.5質量%以下である。コーティング組成物の固形分とは不揮発性成分をいう。コーティング組成物の固形分には、典型的には、導電性高分子、シラン化合物、酸触媒、酸化防止剤及び表面調整剤が含まれる。
【0051】
コーティング組成物の粘度は、好ましくは、20cps以下である。コーティング組成物の粘度が20cpsを超えると、スプレー中に導電性高分子が凝集して塗膜中の塊状物が発生し易くなる。コーティング組成物の粘度は、より好ましくは15cps以下、より好ましくは10cps以下である。
【0052】
<透明導電性膜の形成>
透明導電性膜は、透明導電性膜形成用コーティング組成物を透明基材に塗布して塗膜を形成した後に、上記塗膜を乾燥又は硬化させて成膜する。
【0053】
透明基材としては、例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、セラミックス等を含む種々の透明材料が使用できる。透明基材は、好ましくは、透明ガラス基板である。透明基材は、例えば、1mm未満、好ましくは0.2~0.8mmの厚さを有する。
【0054】
コーティング組成物の塗布には、塗布効率を良くする観点から、スプレー塗布法を用いる。スプレー塗布は、0.05~0.35MPaのノズル圧を使用して行う。噴霧器のノズルはスワールアトマイザを使用することが好ましい。スワールアトマイザはノズル内部にうず室をもち、ホローコーン状の広角噴霧を生成するアトマイザである。
【0055】
噴霧器のノズルはスワールアトマイザを使用する場合、スプレー塗布は、0.05~0.35MPaの霧化圧及び0.05~0.35MPaのスワ-ル圧を使用して行う。霧化圧とは、インクの流れにジェット空気を吹き付けて微粒化、霧化する際の空気圧をいう。スワール圧とは、シリンダー中心軸まわりの横渦空気圧をいう。霧化圧又はスワ-ル圧が0.05MPa未満であると、透明導電性膜の平坦性が低下して色むらが発生し易くなり、霧化圧又はスワ-ル圧が0.35MPaを超えると、導電性高分子が凝集して塗膜中の塊状物が発生し易くなる。
【0056】
本発明の一形態で使用する透明導電性膜形成用コーティング組成物はスプレーコート法で塗布するのに適した粘度を有する。また、本発明の一形態で使用する透明導電性膜形成用コーティング組成物は優れた保存安定性を有する。そのため、スプレーコーターに充填してから塗布が完了するまでの時間にわたって塗布に適した粘度が維持され、基材の表面全体に、膜厚が均一な塗膜を形成することができる。
【0057】
コーティング組成物を基材の主面にスプレー塗布した後、加熱によって溶剤を除去し、シラン化合物を脱水縮合させて成膜させる。必要に応じて、塗膜にUV光やEB光を照射して塗膜を硬化させてもよい。本発明の一形態のコーティング組成物及びスプレーコート法を使用して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥及び硬化させて成膜した皮膜は、導電性スプレー皮膜と言うことができる。
【0058】
塗布後の加熱は、コーティング組成物の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100~150℃で5~60分間行うことが好ましい。加熱により、シラン化合物は、加水分解及び脱水縮合反応によりポリシロキサンを含む粒子状の無機系バインダとなり、無機系バインダの粒子の間に導電性高分子が配置され、透明導電性膜の中に3次元的な導電パスが形成される。加熱方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光やEB光を照射して塗膜を硬化させたりして、透明導電性膜を形成してもよい。
【0059】
透明導電性膜の表面抵抗値は、好ましくは150~3000Ω/□である。表面抵抗値が小さいほど良好な電気特性を示す。透明導電性膜の表面抵抗値は、より好ましくは250~2000Ω/□、更に好ましくは500~1000Ω/□である。
【0060】
透明導電性膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定されるが、通常、0.01~5μm程度である。膜厚が薄すぎても厚すぎても、均一な透明導電性膜を形成することが困難となる。透明導電性膜の膜厚は、好ましくは0.05~1μm、より好ましくは0.1~0.3μmである。
【0061】
透明導電性膜のヘイズは、好ましくは2%以下である。ヘイズ値が低いほど透明性が高いことを示す。ヘイズは、ヘイズメーター、例えば、日本電色工業社製の“NDH2000”により測定可能である。透明導電性膜のヘイズは、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
【0062】
透明導電性膜の全光線透過率は、好ましくは90%以上である。全光線透過率が高いほど良好な光学特性を示す。全光線透過率は、分光光度計、例えば、日本分光社製の“V-570”により測定可能である。透明導電性膜の全光透過率は、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0063】
透明導電性膜の硬度は、好ましくは、鉛筆硬度2H以上である。鉛筆硬度は、日本工業規格(JIS)K5400の測定方法に基づき決定される。透明導電性膜の硬度は、より好ましくは、鉛筆硬度3H以上である。
【0064】
以下、実施例を用いて本発明の一形態を具体的に説明する。但し、本発明の一形態は以下の実施例に限定されるものではない。特に指摘がない場合、下記において、「部」及び「%」は質量基準である。
【実施例】
【0065】
<透明導電性膜形成用コーティング組成物の製造>
以下の成分を準備し、表1及び表2に示す組成になる量で混合して、透明導電性膜形成用コーティング組成物を製造した。
【0066】
(1)導電性高分子分散液(ヘレウス社製、商品名“クレビオスPH1000”、導電性高分子:PEDOT/PSS、固形分濃度:1.12質量%、溶媒:水)
(2)シラン化合物:アルコキシシラン(信越化学工業社製、商品名“X-40-2308”、“KR-220LP”、“KR-500”)
(3)非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド)
(4)酸触媒(リン酸)
(5)酸化防止剤(ヒドロキノン)
(6)表面調整剤(ポリシロキサン系)
(7)水
(8)プロトン性極性溶媒(エチルアルコール)
【0067】
【0068】
【0069】
<透明導電性膜の製造>
厚さ0.7mmの10cm角の無アルカリガラス(全光線透過率:91.2%)を基板として用い、基板の一方の面の全面に上記透明導電性膜形成用塗布液をスプレーコート法により塗布して、塗膜を形成した。スプレーコーターには、ノードソン社製のスプレーガン(スワールノズル、口径:1.0mm)を用いた。塗布条件は次の通りとした。即ち、スプレーガン速度10~1500mm/秒、塗布ピッチ2~30mm、ガン高さ1~20cmである。ノズル圧、即ち、霧化圧及びスワ-ル圧は表3に示すとおり変化させた。その後120℃で1時間加熱した。これにより、ガラス基板の一方の面に透明導電膜性膜が形成された透明導電性シートを作製した。
【0070】
次に、上記透明導電性膜について、以下に示す各評価を行った。透明導電性膜の組成及び評価結果を表3に示す。
【0071】
<塗膜中の塊状物>
直径10μm以上の塊状物を塗膜中の塊状物とする。塗膜表面の10cm×10cmの範囲に存在する塗膜中の塊状物を数えた。塗膜中の塊状物の数を面積1mm2当たりの数に換算した。面積1mm2当たりの塗膜中の塊状物の数が10以下の場合は「〇」、11個以上の場合は「×」と評価した。
【0072】
<塗膜色むら>
透明導電性膜の表面を目視で観察して、直径1mm以上の斑点が確認された場合に「有」、確認されない場合に「無」と評価した。
【0073】
<表面抵抗>
透明導電性膜の表面抵抗値(Ω/□)は、三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定装置“Loresta-GP”(MCP-T610型)とLSPプローブを用いて測定した。
【0074】
<膜厚>
透明導電性膜の膜厚(μm)は、導電性膜をガラス基板ごと切断し、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製“S-4500”)にて断面観察して、膜厚を測定した。
【0075】
<ヘイズ>
透明導電性膜のヘイズ(%)は、日本電色工業社製のヘイズメータ"NDH2000"を用いて測定した。
【0076】
<全光透過率>
透明導電性膜の全光線透過率(%)は、日本分光社製の分光光度計“V-570” を用いて測定した。
【0077】
<鉛筆硬度>
透明導電性膜の鉛筆硬度は、日本工業規格(JIS)K5400に規定された鉛筆硬度の測定方法に基づき、新東科学社製の表面性試験機“HEIDON-14DR”を用いて測定した。
【0078】