(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/09 20060101AFI20221111BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20221111BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20221111BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221111BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20221111BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20221111BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20221111BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C08J3/09 CEZ
C08J7/044 CFD
C08K5/17
C08L101/00
C08L101/12
H01B1/12 F
H01B1/20 A
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
(21)【出願番号】P 2018024465
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝則
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115215(JP,A)
【文献】特開2004-175373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、5/00-5/02、
5/12-5/22、7/04-7/06、99/00
C08L 1/01-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 2/00-2/38、61/00-61/12
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
H01B 1/00-1/24
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と
、前記π共役系導電性高分子の化学酸化重合に用いた触媒及び酸化剤と、を含有する導電性高分子水分散液に、アミン化合物及び非水溶性有機溶剤を添加して、導電性複合体のアミン付加物を生成すると共に前記導電性複合体のアミン付加物を非水溶性有機溶剤中に抽出して導電性高分子分散液を得る工程を有
し、
前記アミン化合物と前記導電性複合体との質量比(前記アミン化合物の質量/前記導電性複合体の質量)が1.0以上3.0以下である、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記導電性高分子水分散液に、前記アミン化合物及び前記非水溶性有機溶剤に加えて水溶性有機溶剤を添加する、請求項1
に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤がイソプロパノールである、請求項
2に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記抽出により得た前記導電性高分子分散液を分液により分取する工程をさらに有する、請求項1から
3のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項5】
分液により回収した前記導電性高分子分散液を水で洗浄する、請求項
4に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項6】
分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらに希釈用有機溶剤を添加する工程を有する、請求項
4又は
5に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記希釈用有機溶剤がイソプロパノール及びメチルエチルケトンの少なくとも一方である、請求項
6に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項8】
分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらにバインダ成分を添加する工程を有する、請求項
4から
7のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項9】
前記バインダ成分が活性エネルギー線硬化性を有する、請求項
8に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項10】
前記非水溶性有機溶剤がトルエンである、請求項1から
9のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項11】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1から1
0のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項12】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1から1
1のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項13】
前記アミン化合物がトリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方である、請求項1から1
2のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項14】
請求項1から1
3のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法により導電性高分子分散液を製造する工程と、前記導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工する工程と、塗工した導電性高分子分散液を乾燥する工程と、を有する導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記導電性高分子分散液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合、 塗工した導電性高分子分散液を乾燥して形成した塗膜に活性エネルギー線を照射する工程をさらに有する、請求項1
4に記載の導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性高分子水分散液を使用することがある。
通常、導電層が塗工されるフィルム基材は疎水性のプラスチックフィルムであることが多い。水系塗料である前記導電性高分子水分散液は、プラスチックフィルムに対する親和性が低い傾向にあった。また、導電性高分子分散液が水系であると、疎水性樹脂又は疎水性樹脂を形成する硬化性化合物の分散性が低くなるため、それらをバインダ成分として使用することが困難になる。そのため、水系の導電性高分子分散液では、バインダ成分の種類が限定されている。
そこで、導電性高分子水分散液の分散媒である水を有機溶剤に置換した導電性高分子有機溶剤分散液を用いることがある。
分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液の製造方法としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液を凍結乾燥して乾燥体を得た後、該乾燥体に有機溶剤及びアミン化合物を添加する方法が知られている(特許文献1)。
また、分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液の他の製造方法としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液にアミン化合物又はエポキシ化合物を添加して、導電性複合体を疎水化して析出させ、得られた析出物を有機溶剤に再分散させる方法が知られている(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-032382号公報
【文献】特開2008-045061号公報
【文献】国際公開第2014/125827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の導電性高分子分散液の製造方法は、分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液を製造する際の操作が煩雑であった。特に、疎水化した導電性複合体を水系溶媒から分離する手法が煩雑であった。また、従来の導電性高分子分散液の製造方法では、通常、π共役系導電性高分子を得る際に使用した触媒及び酸化剤の残渣を除去するために、精密ろ過又はイオン交換等を利用して処理するが、この処理が煩雑であった。したがって、従来の導電性高分子分散液の製造方法においては、分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液を簡便に製造することが求められていた。
本発明は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体を有機溶剤に分散させた導電性高分子分散液を簡便に製造できる導電性高分子分散液の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、導電性フィルムの製造コストを削減できる導電性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子水分散液に、アミン化合物及び非水溶性有機溶剤を添加して、導電性複合体のアミン付加物を生成すると共に前記導電性複合体のアミン付加物を非水溶性有機溶剤中に抽出して導電性高分子分散液を得る工程を有する、導電性高分子分散液の製造方法。
[2]前記アミン化合物と前記導電性複合体との質量比(前記アミン化合物の質量/前記導電性複合体の質量)が1.0以上3.0以下である、[1]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[3]前記導電性高分子水分散液に、前記アミン化合物及び前記非水溶性有機溶剤に加えて水溶性有機溶剤を添加する、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[4]前記水溶性有機溶剤がイソプロパノールである、[3]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[5]前記抽出により得た前記導電性高分子分散液を分液により分取する工程をさらに有する、[1]から[4]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[6]分液により回収した前記導電性高分子分散液を水で洗浄する、[5]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[7]分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらに希釈用有機溶剤を添加する工程を有する、[5]又は[6]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[8]前記希釈用有機溶剤がイソプロパノール及びメチルエチルケトンの少なくとも一方である、[7]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[9]分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらにバインダ成分を添加する工程を有する、[4]から[8]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[10]前記バインダ成分が活性エネルギー線硬化性を有する、[9]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[11]前記非水溶性有機溶剤がトルエンである、[1]から[10]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[12]前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]から[11]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[13]前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]から[12]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[14]前記アミン化合物がトリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方である、[1]から[13]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[15][1]から[14]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液の製造方法により導電性高分子分散液を製造する工程と、前記導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工する工程と、塗工した導電性高分子分散液を乾燥する工程と、を有する導電性フィルムの製造方法。
[16]前記導電性高分子分散液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合、塗工した導電性高分子分散液を乾燥して形成した塗膜に活性エネルギー線を照射する工程をさらに有する、[15]に記載の導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体を有機溶剤に分散させた導電性高分子分散液を簡便に製造できる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性フィルムの製造コストを削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子分散液及びその製造方法>
本発明の導電性高分子分散液の製造方法の一態様について説明する。
本態様の製造方法によって製造される導電性高分子分散液は、少なくとも、導電性複合体と非水溶性有機溶剤とを含有する分散液である。
本態様の導電性高分子分散液においては、導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量を0質量%以上5.0質量%以下、特に0質量%以上1.0質量%以下にすることができる。
【0008】
(導電性複合体)
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子と、アニオン基を有するポリアニオンとを含む。前記ポリアニオンは前記π共役系導電性高分子に配位し、ポリアニオンのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープするため、導電性を有する導電性複合体を形成する。
ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。本態様においては、前記の余剰のアニオン基の少なくとも一部に、アミン化合物が付加している。余剰のアニオン基にアミン化合物が付加していることにより、導電性複合体を疎水化できる。疎水化した導電性複合体は、有機溶剤との親和性に優れる。
【0009】
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0010】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
前記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0011】
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、又はカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ポリアニオンの余剰のアニオン基の一部にアミン化合物が付加することにより、疎水性置換基を形成でき、導電性複合体の疎水性を高くできる。
なお、導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、ポリアニオンのアニオン基とアミン化合物との反応によって、-HNR1R2R3で示される疎水性置換基が形成されると推測される。前記R1,R2,R3は、後述するアミン化合物に由来する置換基である。例えば、R1,R2,R3の少なくとも1つは炭化水素基(但し、その炭化水素基の水素原子の少なくとも一つがアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基等で置換されていてもよい。)である。R1,R2,R3のうち炭化水素基でないものは水素原子である。
前記疎水性置換基は、アニオン基の酸素原子に結合する。
【0013】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子分散液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0014】
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。ポリアニオンの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0016】
(非水溶性有機溶剤)
非水溶性有機溶剤は、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g未満の有機溶剤である。非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子分散液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0017】
本態様の導電性高分子分散液における非水溶性有機溶剤の含有割合は、全分散媒の合計質量を100質量%とした際の1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、5質量%以上80質量%であることがより好ましい。前記の全分散液の合計質量とは、非水溶性有機溶剤の質量と後述する水溶性有機溶剤の質量と水の質量との合計である。非水溶性有機溶剤の含有割合が前記下限値以上であれば、疎水性のバインダ成分を容易に溶解でき、また、疎水性のフィルム基材に対する導電性高分子分散液の濡れ性が高くなり、フィルム基材に対する導電層の接着力が高くなる。非水溶性有機溶剤の含有割合が、前記のより好ましい上限値以下であれば、水溶性有機溶剤及び水を完全に除去する必要がなくなり、本態様の導電性高分子分散液をより容易に製造できる。
【0018】
(水溶性有機溶剤)
本態様の導電性高分子分散液には、水溶性有機溶剤が含まれてもよい。
水溶性有機溶剤は、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本態様の導電性高分子分散液を導電層形成用塗工液として使用する場合、塗工液としての適性が良好になることから、2-プロパノール及びメチルエチルケトンの少なくとも一方を希釈用溶剤として使用することが好ましい。
【0019】
本態様の導電性高分子分散液を導電層形成用塗工液として使用する場合、全分散媒を100質量%とした際の水溶性有機溶剤の含有割合は1質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。水溶性有機溶剤の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性高分子分散液の塗工液としての適性がより良好になり、前記上限値以下であれば、導電性複合体の分散性低下を抑制できる。
【0020】
(バインダ成分)
バインダ成分は、導電層において導電性複合体を結着させ、導電層の強度を高める成分である。本態様の導電性高分子分散液に含まれるバインダ成分は、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の非硬化性の樹脂であってもよいし、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の樹脂を形成する硬化性成分であってもよい。
非硬化性の樹脂状のバインダ成分、硬化性のバインダ成分から形成された樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0021】
バインダ成分として使用される硬化性成分は、ラジカル重合可能なモノマー又はオリゴマーを使用することができる。硬化性及び硬化後の機械的物性の点から、硬化性成分は、(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリル化合物が好ましい。ここで、「(メタ)アクリル化合物」は、アクリル化合物及びメタクリル化合物の総称である。
前記硬化性成分は、硬化速度が速いことから、活性エネルギー線硬化性であることが好ましい。ここで、活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、可視光線のことである。活性エネルギー線としては、特に紫外線が使用されることが多い。活性エネルギー線によって硬化性成分を硬化させる場合には、光重合開始剤を併用する。
【0022】
活性エネルギー線硬化性を生じうる(メタ)アクリル化合物としては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素-(2,2,2-トリ-(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2官能以上6官能以下の(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
(メタ)アクリル化合物は、前記(メタ)アクリル化合物にウレタン化合物を反応させて得たウレタンアクリレート、前記(メタ)アクリル化合物にエポキシ化合物を反応させて得たエポキシアクリレート、アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等であってもよい。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本態様の導電性高分子分散液がバインダ成分を含有する場合、バインダ成分の含有量は、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、導電層の強度を向上させることができる。しかし、バインダ樹脂の含有量が前記上限値を超えると、導電性複合体の含有割合が低下するため、導電性が低下することがある。バインダ成分の含有量が前記上限値以下であれば、導電層の導電性を確保できる。
【0024】
(高導電化剤)
導電性高分子分散液は、導電層の導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、アミン化合物、非水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤、及びバインダ成分は、高導電化剤に分類されない。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子分散液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0025】
(その他の添加剤)
導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、重合開始剤、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、アミン化合物、非水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤、バインダ成分及び高導電化剤以外の化合物からなる。
重合開始剤としては、光重合開始剤、熱重合開始剤が挙げられる。前記バインダ成分としての硬化性化合物は、光重合開始剤の存在下、活性エネルギー線を照射された際に、ラジカル重合が生じて硬化可能である。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0026】
本態様の導電性高分子分散液においては、導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量が0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
(導電性高分子分散液の製造方法)
本態様の導電性高分子分散液の製造方法は、導電性高分子水分散液から導電性複合体を非水溶性有機溶剤に抽出する抽出工程を有する。
本態様において使用する導電性高分子水分散液は、導電性複合体が水に分散した分散液である。前記導電性高分子水分散液を製造する方法としては、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合する方法が挙げられる。
また、導電性高分子水分散液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの導電性複合体を含む市販の水分散液を使用しても構わない。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。化学酸化重合後、これらの触媒及び酸化剤は、導電性高分子水分散液中に残留する。
導電性高分子水分散液に含まれる導電性複合体の固形分濃度は、水分散液の総質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
具体的に抽出工程では、導電性高分子複合体を含有する導電性高分子水分散液に、アミン化合物及び非水溶性有機溶剤を添加して、導電性複合体のアミン付加物を生成する。非水溶性有機溶剤は水相である導電性高分子水分散液に混ざりにくい。そのため、非水溶性有機溶剤と導電性高分子水分散液とは分離する。
導電性複合体にアミン化合物を添加すると、導電性複合体のポリアニオンのフリーのアニオン基にアミン化合物が付加し、親水性が失われて疎水性になる。そのため、導電性複合体のアミン付加物は水相から非水溶性有機溶剤に移行する。したがって、導電性複合体のアミン付加物を非水溶性有機溶剤中に抽出することができる。
導電性高分子水分散液にアミン化合物及び非水溶性有機溶剤を添加し、混合し、静置した後には、油相である上層と水相である下層とに分離する。上層は、導電性複合体のアミン付加物が非水溶性有機溶剤に分散した導電性高分子分散液であり、下層は、導電性高分子水分散液から導電性複合体が抽出されて残った水系残液である。
抽出後の導電性高分子分散液における導電性複合体の固形分濃度は、導電性高分子分散液の総質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
前記抽出工程においては、アミン化合物の質量と導電性複合体の質量との比(アミン化合物の質量/導電性複合体の質量)を1.0以上3.0以下にすることが好ましく、1.5以上2.5以下にすることがより好ましい。前記のアミン化合物の添加量は、導電性高分子水分散液に対するアミン化合物の仕込み量である。
(アミン化合物の質量/導電性複合体の質量)を前記下限値以上にすれば、導電性複合体を非水溶性有機溶剤に分散させた導電性高分子分散液がゲル化することを抑制でき、塗工液としての適性がより高くなる。(アミン化合物の質量/導電性複合体の質量)を前記上限値以下にすれば、導電性複合体の含有割合が多くなるため、導電性高分子分散液から形成した導電層の導電性が高くなる。
抽出工程において、(アミン化合物の質量/導電性複合体の質量)を前記範囲内にすることによって、塗工液として適した導電性高分子分散液を容易に製造でき、導電性高分子分散液から形成した導電層が優れた導電性を発揮できる。
【0030】
抽出工程の際には、前記導電性高分子水分散液に、前記アミン化合物及び前記非水溶性有機溶剤に加えて水溶性有機溶剤を添加することが好ましい。アミン化合物は水及び非水溶性有機溶剤よりも水溶性有機溶剤に溶解しやすい傾向にある。そのため、導電性高分子水分散液にアミン化合物及び非水溶性有機溶剤に加えて水溶性有機溶剤を添加すれば、多くのアミン化合物を水溶性有機溶剤に溶解させることができる。水溶性有機溶剤に溶解させたアミン化合物の少なくとも一部が水に移行にし、導電性複合体のアニオン基に付加して導電性複合体を疎水化させる。したがって、アミン化合物及び非水溶性有機溶剤に加えて水溶性有機溶剤を添加すると、導電性複合体を非水溶性有機溶剤に移行させやすくなり、分散媒が有機溶剤の導電性高分子分散液をより容易に製造できる。
【0031】
導電性高分子水分散液に、アミン化合物、非水溶性有機溶剤、及び水溶性有機溶剤を添加する順序には特に制限はないが、導電性複合体を抽出しやすいことから、水溶性有機溶剤、アミン化合物、非水溶性有機溶剤の順が好ましい。
導電性高分子水分散液に、アミン化合物、非水溶性有機溶剤、及び必要に応じて水溶性有機溶剤を添加した後には、前記成分を攪拌混合することが好ましい。前記成分を攪拌混合することによって、導電性高分子水分散液に含まれる導電性複合体を非水溶性有機溶媒に充分に抽出できる。
攪拌混合においては、撹拌機を使用してもよいし、前記成分を入れた容器を振とうさせてもよい。
【0032】
前記抽出工程の後には、導電性複合体のアミン付加物が非水溶性有機溶剤中に分散した導電性高分子分散液を分液により分取して回収する分液工程をさらに有することが好ましい。分液工程によって、導電性複合体のアミン付加物が非水溶性有機溶剤中に分散した導電性高分子分散液を水相から分離できる。
分液工程においては、導電性高分子分散液を容易に分液できることから、分液漏斗を用いてもよい。分液漏斗を用いる場合には、導電性高分子水分散液とアミン化合物と非水溶性有機溶剤とを混合した混合液を分液漏斗内に入れ、分液漏斗を振とうさせて混合液をかき混ぜた後、しばらく静置して上層の油相と下層の水相とに分離する。その後、下層のみを分液漏斗から抜き出し、残った油相の導電性高分子分散液を回収する。
【0033】
分液により分取した前記導電性高分子分散液は、水で洗浄することが好ましい。水による洗浄によって、導電性高分子分散液に含まれる水溶性の不純物(例えば、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合した際に使用した酸化剤等)を低減させることができる。また、抽出工程の際に、水溶性有機溶剤を添加した場合には、水の洗浄によって水溶性有機溶剤を除去することができる。
分液により分取した前記導電性高分子分散液を水で洗浄する方法の例としては、水相を取り除いて得た油相の導電性高分子分散液に水を添加し、混合した後、静置して、上層の油相と下層の水相とに分離し、下層の水相を除去する。これにより導電性高分子分散液を水により洗浄する。この洗浄操作は複数回繰り返すことが好ましい。
水による洗浄の際、抽出した導電性高分子分散液には、導電性高分子分散液の体積に対して、好ましくは0.1倍以上100倍以下、より好ましくは0.5倍以上50倍以下の体積の水を添加する。水の添加量が前記下限値以上であれば、充分な洗浄効果が得られる。水の添加量が前記上限値以下であれば、簡便に導電性高分子分散液を洗浄できる。
【0034】
本態様の導電性高分子分散液の製造方法においては、分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらに希釈用有機溶剤を添加する工程を有してもよい。分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらに希釈用有機溶剤を添加すると、導電性高分子分散液の塗工液としての適性がより高くなる。
希釈用有機溶剤としては特に制限されず、前記非水溶性有機溶剤及び前記水溶性有機溶剤と同様の溶剤を使用できる。得られる導電性高分子分散液の塗工液の適性がより高くなる点では、希釈用有機溶剤は水溶性有機溶剤が好ましく、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤がより好ましく、イソプロパノール及びメチルエチルケトンの少なくとも一方がさらに好ましい。希釈用有機溶剤を添加すれば、導電性高分子分散液を適度な粘度に容易に調整でき、塗工性が高くなるため、塗工液としての適性がより高くなる。
希釈用有機溶剤の添加量は、希釈後に得られる導電性高分子分散液の固形分濃度が、導電性高分子分散液の総質量に対して0.05質量%以上10質量%以下になる量であることが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下になる量であることがより好ましい。希釈用有機溶剤の添加量が前記下限値以上であれば、導電性高分子分散液の塗工液としての適性をより向上させることができる。希釈用有機溶剤の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から形成する導電層の厚さを容易に厚くできる。
【0035】
本態様の導電性高分子分散液の製造方法においては、分液により回収した前記導電性高分子分散液にさらに前記のバインダ成分を添加する工程を有してもよい。分液により回収した導電性高分子分散液にバインダ成分を添加すれば、導電性高分子分散液を塗工することにより形成される導電層の製膜性及び強度を向上させることができる。
バインダ成分は疎水性であることが多い。そのため、添加したバインダ成分は、分散媒が有機溶剤である導電性高分子分散液に溶解しやすい。
バインダ成分の添加量は、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ樹脂の添加量が前記下限値以上であれば、導電層の強度を向上させることができる。しかし、バインダ樹脂の添加量が前記上限値を超えると、導電性複合体の含有割合が低下するため、導電性が低下することがある。バインダ成分の添加量が前記上限値以下であれば、導電層の導電性を確保できる。
【0036】
以上説明した本態様の導電性高分子分散液の製造方法では、導電性高分子水分散液にアミン化合物及び非水溶性有機溶剤を添加して非水溶性有機溶剤中に導電性複合体を移行させることにより、分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液を製造できる。この製造方法では、簡便な操作によって、導電性高分子水分散液から、分散媒を有機溶剤とした導電性高分子分散液を製造できる。また、導電性複合体を非水溶性有機溶剤に抽出する本態様の導電性高分子分散液の製造方法によれば、π共役系導電性高分子を得る際に使用した触媒及び酸化剤の残渣を精密ろ過又はイオン交換等を利用しなくても、導電性高分子分散液中の前記残渣の含有量を少なくできる。触媒及び酸化剤は水溶性であり、油相中に移行しにくいため、得られる導電性高分子分散液中の前記残渣の含有量は少なくなる。よって、本態様の導電性高分子分散液の製造方法によれば、導電性複合体を有機溶剤に分散させた導電性高分子分散液を簡便に製造できる。
また、本態様の導電性高分子分散液の製造方法によれば、有機溶剤に導電性複合体が均一に分散した導電性高分子分散液を容易に製造できる。
また、本態様の導電性高分子分散液の製造方法によれば、導電性高分子分散液中の水分量を容易に少なくできる。例えば、導電性高分子分散液における水の含有量を0質量%以上5質量%以下、特に0質量%以上1質量%以下にすることができる。
【0037】
<導電性フィルム>
本発明の導電性フィルムの製造方法の一態様について説明する。
本態様における導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。
【0038】
フィルム基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-αオレフィン共重合樹脂、プロピレン-αオレフィン共重合樹脂等が挙げられる。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
【0039】
フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の厚さは、任意の10箇所以上について厚さを、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定し、その測定値を平均した値である。
【0040】
本態様における導電層は、前記態様の導電性高分子分散液が塗工されて形成された層である。したがって、本態様における導電層は、少なくとも、前記導電性複合体を含有する。前記態様の導電性高分子分散液が、非硬化性の樹脂からなるバインダ成分をさらに含有する場合には、本態様における導電層は、前記樹脂を含有する。前記態様の導電性高分子分散液が、硬化性成分からなるバインダ成分をさらに含有する場合には、本態様における導電層は、前記硬化性成分の硬化物を含有する。
また、導電性高分子分散液が、高導電化剤及び添加物の少なくとも一方をさらに含有する場合には、導電層も高導電化剤及び添加物の少なくとも一方をさらに含有する。
【0041】
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性及び防汚性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
導電層の厚さは、任意の10箇所以上について厚さを、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定し、その測定値を平均した値である。
【0042】
導電層は、前記導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工することにより形成される。
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、導電性高分子分散液を簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
【0043】
導電性高分子分散液を塗工した後には、塗工した導電性高分子分散液を乾燥することが好ましい。
その乾燥方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、通常は50℃以上150℃以下の範囲であり、好ましくは60℃以上130℃以下、より好ましくは70℃以上120℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
また、充分に分散媒を除去する点で、乾燥時間は5分以上であることが好ましい。
【0044】
導電性高分子分散液に、硬化性成分からなるバインダ成分及び光重合性開始剤が含まれる場合には、活性エネルギー線を照射することによって導電性高分子分散液を硬化することができる。したがって、導電性高分子分散液が硬化性成分及び光重合開始剤を含有する場合には、塗工した導電性高分子分散液を乾燥した後に活性エネルギー線を照射することが好ましい。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm2以上が好ましい。照度が100mW/cm2未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0045】
上述したように、本態様の導電性フィルムの製造方法では、前記態様の導電性高分子分散液の製造方法によって得られた導電性高分子分散液を使用して導電層を形成する。前記態様の導電性高分子分散液の製造方法では、簡便に導電性高分子分散液が得られるから、その導電性高分子分散液を使用する本態様の導電性フィルムの製造方法においては、導電性フィルムの製造コストを削減できる。
また、前記態様の導電性高分子分散液の製造方法によって得られた導電性高分子分散液は、有機溶剤に導電性複合体が均一に分散した分散液であるから、塗工して形成した導電層は導電性を充分に発揮できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
下記の例において、質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
【0047】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。得られたポリスチレンスルホン酸の質量平均分子量は20万であった。
次いで、得られたポリスチレンスルホン酸を水に溶解し、固形分濃度10質量%のポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0048】
(製造例2)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した0.76gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。得られたポリスチレンスルホン酸の質量平均分子量は30万であった。
次いで、得られたポリスチレンスルホン酸を水に溶解し、固形分濃度10質量%のポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0049】
(製造例3)
60℃に加熱した220gのイソプロピルアルコールに、4gのラジカル重合開始剤(日油株式会社製、パーロイル355S、脂肪族ジアシルパーオキサイド)と25gのイソプロパノールとの混合溶液を添加して、重合開始剤溶液を得た。
次いで、前記重合開始剤溶液に、メタクリル酸メチル30gとアクリル酸ブチル30gとメタクリル酸2-ヒドロキシエチル30gとメタクリル酸10gとを含むモノマー混合液を、3時間かけて連続的に添加した。これにより、前記モノマーを重合させて、固形分濃度29質量%のアクリルポリマー溶液を得た。
【0050】
(実施例1)
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、15gの製造例1のポリスチレンスルホン酸水溶液を137.6mlのイオン交換水に溶かした溶液とを、20℃で混合させた。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、かき混ぜながら、0.3gの過硫酸アンモニウム及び1.1gの硫酸第二鉄を13.6mlのイオン交換水に溶かした酸化触媒溶液を徐々に添加し、3時間攪拌を継続した。これにより、3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させて、固形分濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)水分散液(PEDOT-PSS水分散液)を得た。
得られたPEDOT-PSS水分散液168.1gに、2gのトリオクチルアミンと84gのイソプロパノールとの混合液を添加し、2時間攪拌して、PEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を析出させた。次いで、PEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を含む前記混合液に、42gのトルエンを添加し、2時間攪拌した後、静置して、上層(油相)及び下層(水相)の2層に分離させた。次いで、下層を分離除去した後、上層の60mlに対して160mlのイオン交換水を添加し、再び下層を分離除去するという操作を2回繰り返して、PEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を含むトルエン溶液を得た。
次いで、得られたPEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を含むトルエン溶液に、固形分濃度が0.6質量%になるように希釈用有機溶剤としてイソプロパノールを添加した後、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理した。これにより、固形分濃度0.6質量%のPEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を含むイソプロパノール溶液を得た。
得られたPEDOT-PSSのトリオクチルアミン付加物を含むイソプロパノール溶液100gに、5gのN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを添加し、30分間攪拌した。さらに、100gの製造例3のアクリルポリマー溶液を混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0051】
(実施例2~10)
ポリスチレンスルホン酸水溶液の添加量及び種類、トリオクチルアミンの添加量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0052】
(実施例11)
トリオクチルアミンをトリブチルアミンに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0053】
(実施例12)
希釈用有機溶剤をイソプロパノールからメチルエチルケトンに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0054】
(実施例13)
トリオクチルアミンの添加量を1gに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0055】
(実施例14)
トリオクチルアミンの添加量を7gに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0056】
(実施例15)
トリオクチルアミンの添加量を1gに変更したこと以外は実施例6と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0057】
(実施例16)
トリオクチルアミンの添加量を7gに変更したこと以外は実施例6と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1においてトルエンを添加しなかったこと以外は同様にして検討を行った。しかしながら、2時間攪拌した後、静置しても、上層(油相)及び下層(水相)の2層に分離しなかったため中止した。
【0059】
<評価>
各例の導電性高分子分散液を、No.4のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT-60)に塗工し、120℃で1分間乾燥して、導電層を備える導電性フィルムを得た。
各例の導電性フィルムの表面抵抗値を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10V、印加時間10秒の条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
各実施例によれば、分散媒が非水溶性有機溶剤である導電性高分子分散液が得られた。各実施例の導電性高分子分散液の製造方法では、導電性複合体のアミン付加物を非水溶性有機溶剤であるトルエン中に抽出して導電性高分子分散液を得るため、複雑な操作がなく、導電性高分子分散液の製造が簡便であった。特に、π共役系導電性高分子を得る際に使用した過硫酸アンモニウム及び硫酸第二鉄を、精密ろ過又はイオン交換等によって除去する処理を施さず、簡便であった。
実施例1~12の導電性高分子分散液から形成した導電層は、表面抵抗値が小さく、導電性が高かった。
なお、(アミン化合物質量/導電性複合体質量)が1未満であった実施例13,15は、導電性高分子分散液にゲル化が見られたが、例えば、非水溶性有機溶剤又は水溶性有機溶剤で希釈することにより使用可能になることがある。
(アミン化合物質量/導電性複合体質量)が3超であった実施例14,16は、導電層の表面抵抗値が大きかったが、導電層は導電性複合体を含んでいるため、僅かであるが導電性を有する。
なお、実施例13~16は比較例である。
【0062】
(実施例17)
実施例1の導電性高分子分散液70gに、さらにペンタエリスリトールトリアクリレート30gと光重合開始剤(BASF社製イルガキュア184)1.2gとを添加して、光硬化性導電性高分子分散液を得た。得られた光硬化性導電性高分子分散液の外観に異常は見られず、有機溶剤中の導電性複合体の分散性は良好であった。
前記光硬化性導電性高分子分散液を、No.12のバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT-60)に塗工し、100℃で1分間乾燥して塗膜を形成した。次いで、前記塗膜に400mJの紫外線を照射して、塗工した光硬化性導電性高分子分散液を硬化させた。これにより、導電層を備える導電性フィルムを得た。
得られた導電性フィルムについて、前記実施例と同様に、表面抵抗値を測定したところ、2.0×108Ω/□であり、導電性が高かった。