(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
(21)【出願番号】P 2018105624
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017108645
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 健郎
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-005037(JP,A)
【文献】特開昭57-102324(JP,A)
【文献】特開昭51-019069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であって、
平均孔径が0.03~0.2μmの範囲にあり、
気孔率が25%よりも大きく90%以下であり、
厚さ方向に平行な断面における幅23μm×厚さ1μmの領域内に存在する細孔の数が40~120個の範囲にあり、
200~1200万の範囲の数平均分子量を有するポリテトラフルオロエチレンによって構成されており、
単位厚さあたりの突き刺し強度が5.0~15gf/μmの範囲にある、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項2】
前記気孔率が30~90%の範囲にある、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項3】
前記気孔率が30~58%の範囲にある、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレンが300~1200万の範囲の数平均分子量を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項5】
前記平均孔径が0.03~0.16μmの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項6】
凝集力が10~20N/25mmの範囲にある、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項7】
膜厚が89~107μmの範囲にある、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項8】
前記気孔率が50~72%の範囲にある、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜は、フィルタ、通音膜、通気膜、隔膜、液体吸収体などの様々な用途に使用されている。
【0003】
PTFE多孔質膜は、一般に、ペースト押出法と呼ばれる方法によって製造されている(特許文献1)。ペースト押出法においては、PTFE粉末に成形助剤としての有機溶媒を加えてPTFEペーストを調製する。PTFEペーストをロッド状に成形したのち、ロッド状成形体を押出機によって成形し、シート状成形体を作製する。成形助剤が揮散しないうちにシート状成形体を圧延する。圧延されたシート状成形体は、乾燥、焼成などの工程を経て、PTFE多孔質膜となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法によって製造されたPTFE多孔質膜は、比較的大きい平均孔径及び比較的高い気孔率を有する。平均孔径及び気孔率は、原料であるPTFEの分子量、圧延倍率、延伸倍率などの条件の変更によってある程度調整可能である。しかし、その自由度には限界がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本開示の目的は、従来の方法では製造することが困難な構造を有していながら、高い強度を有するPTFE多孔質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本開示は、
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であって、
平均孔径が0.03~0.2μmの範囲にあり、
気孔率が25%よりも大きく90%以下であり、
厚さ方向に平行な断面における幅23μm×厚さ1μmの領域内に存在する細孔の数が40~120個の範囲にあり、
200~1200万の範囲の数平均分子量を有するポリテトラフルオロエチレンによって構成されており、
単位厚さあたりの突き刺し強度が5.0~15gf/μmの範囲にある、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、0.03~0.2μmという小さい平均孔径、25%よりも大きく90%以下という高い気孔率を有していながら、高い強度を有するPTFE多孔質膜を提供することができる。さらに、大きい分子量のPTFEは、PTFE多孔質膜の強度(凝集力及び単位厚さあたりの突き刺し強度)の向上に寄与するだけでなく、PTFE多孔質膜の平均孔径を下げる観点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るPTFE多孔質膜の製造方法を示す工程図
【
図4】凝集力及び突き刺し強度の測定結果を示すグラフ
【
図5A】サンプル1のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5B】サンプル2のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5C】サンプル3のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5D】サンプル4のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5E】サンプル5のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5F】サンプル7のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5G】サンプル9のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【
図5H】サンプル10のPTFE多孔質膜の断面SEM像
【発明を実施するための形態】
【0010】
従来のペースト押出法によれば、乾燥工程の前の段階でシート状成形体が既に多孔性を有する。そのため、乾燥及び焼成の各工程を経て製造されるPTFE多孔質膜の平均孔径は比較的大きく、気孔率も比較的高い。例えば、大きい分子量を有するPTFEを原料として使用すると、小さい平均孔径を有するPTFE多孔質膜が得られる。しかし、平均孔径を大幅に減少させることは難しい。
【0011】
本発明者らは、高い気孔率を有しているにもかかわらず、小さい平均孔径を有するPTFE多孔質膜を製造できないかどうか鋭意検討を重ねた結果、以下に説明するPTFE多孔質膜の開発に成功した。得られたPTFE多孔質膜は、小さい平均孔径及び高い気孔率を有しているだけでなく、特徴的な構造に由来する十分な強度を有している。そのため、本開示のPTFE多孔質膜は、小さい平均孔径及び高い気孔率を必要とする様々な用途に好適に使用されうる。
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0013】
本実施形態のPTFE多孔質膜は、ノード及びフィブリルによって構成された網目構造を有する。網目構造に含まれた多数の細孔には、PTFE多孔質膜の第1主面と第2主面との間でPTFE多孔質膜に通気性を付与する複数の連通孔が含まれている。もちろん、通気に寄与しない独立孔が存在していてもよい。
【0014】
本実施形態のPTFE多孔質膜は、
図1に示す方法によって製造することができる。
図1に示す方法においては、PTFE粉末と成形助剤との混合物からPTFEのシート状成形体を作製し、PTFEの融点よりも高い温度でシート状成形体を焼成してPTFE無孔膜を形成し、PTFE無孔膜を所定方向に延伸する。
【0015】
まず、PTFE粉末10と成形助剤12(液状潤滑剤)とを混合することによってPTFEペースト14を調製する(ペースト調製工程(A))。PTFE粉末10としては、乳化重合法のような公知の方法によって製造された市販品を使用できる。PTFE粉末10の一次粒子の平均粒径は、例えば、0.2~1.0μmの範囲にある。成形助剤12としては、流動パラフィン、ナフサなどの炭化水素油を使用できる。例えば、100質量部のPTFE粉末10に対して5~50質量部の成形助剤12を使用することができる。なお、「平均粒径」は、レーザー回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、粒子数の積算値50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0016】
本実施形態において、PTFE粉末10を構成するPTFEの分子量(数平均分子量)、言い換えれば、PTFE多孔質膜を構成するPTFEの分子量は、例えば、200~1200万の範囲にある。PTFEの分子量の下限値は、300万であってもよく、400万であってもよい。PTFEの分子量の上限値は、1000万であってもよい。大きい分子量を有するPTFEを使用すると、高い強度(凝集力及び単位厚さあたりの突き刺し強度)を有するPTFE膜を得やすい。大きい分子量を有するPTFEは長い分子鎖を有するため、分子鎖が規則的に配列した構造を形成しにくい。この場合、非晶質部の長さが増加し、分子同士の絡み合いの度合いが増加する。分子同士の絡み合いの度合いが高い場合、PTFE多孔質膜は、加えられた負荷に対して変形しにくく、優れた機械的強度を示すと考えられる。また、大きい分子量を有するPTFEを使用すると、小さい平均孔径を有するPTFE多孔質膜を得やすい。PTFE膜が延伸される場合、ある1つのモルフォロジーから繊維が伸長し、他の新たなモルフォロジーから別の繊維が伸長することによって多孔質化が促進される。大きい分子量を有するPTFEが使用されている場合、繊維の伸張過程において分子同士が絡み合いやすい。そのため、1つのモルフォロジーから延びる繊維の長さが短くなり、結果的にPTFE多孔質膜の平均孔径が小さくなると考えられる。
【0017】
PTFEの数平均分子量の測定方法としては、標準比重(Standard Specific Gravity)から求める方法、及び、溶融時の動的粘弾性による測定法がある。標準比重から求める方法は、ASTM D-4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D-792に準拠した水置換法によって実施することができる。動的粘弾性による測定法は、例えば、S.Wuによって、Polymer Engineering & Science, 1988, Vol.28, 538、及び、同文献1989, Vol.29, 273に説明されている。
【0018】
次に、PTFEペースト14からPTFEのシート状成形体を作製する(成形工程(B))。本実施形態では、PTFEペースト14を円筒状に予備成形したのち、押出機16を使用してPTFEペースト14をシート状に成形する。得られたシート状成形体18を必要に応じて縦方向(MD方向)に圧延し、その厚さを調整してもよい(圧延工程(C))。また、押出機16を使用せず、ロッド状のPTFEペースト14を圧延することによってシート状成形体18を作製することも可能である。シート状成形体18の厚さは、例えば、0.1~1.0mmの範囲にある。
【0019】
次に、シート状成形体18から成形助剤12を除去する。具体的には、シート状成形体18を加熱及び乾燥させることによって、シート状成形体18から成形助剤12を除去する(乾燥工程(D))。この乾燥工程は、シート状成形体18をPTFEの融点よりも低く、成形助剤12を速やかに揮発させることができる温度環境にシート状成形体18を置くことによって実施されうる。例えば、シート状成形体18を100~250℃の温度(周囲温度)で加熱し、成形助剤12を除去する。なお、有機溶媒を使用して成形助剤12をシート状成形体18から抽出し、除去することも可能である。乾燥工程は、例えば、帯状のシート状成形体18を搬送しながら加熱することによって実施できる。このことは、後述する焼成工程及びアニール工程にも当てはまる。
【0020】
次に、乾燥したシート状成形体18を焼成する(焼成工程(E))。PTFEの融点よりも高い温度でシート状成形体18を加熱することによって、シート状成形体18を焼成することができる。焼成前の段階において、シート状成形体18は多孔質である。詳細には、押出機16から押し出された時点でシート状成形体18は多孔質である。多孔質のシート状成形体18をPTFEの融点(約327℃)よりも十分に高い温度で加熱すると、PTFEの流動によって細孔が閉じ、シート状成形体18が無孔化する。つまり、焼成工程は、シート状成形体18を無孔化してPTFE無孔膜18aを作製するための工程でありうる。細孔を有するシート状成形体18が不透明かつ白色を呈するのに対し、PTFE無孔膜18aは透明である。
【0021】
従来の製造方法において、PTFEのシート状成形体は、無孔化されることなく、延伸され、その後、焼成される。この場合、小さい平均孔径のPTFE多孔質膜を製造することが難しい。これに対し、本実施形態によれば、高温での加熱によって細孔を潰し、いったんPTFE無孔膜18aを形成する。そして、PTFE無孔膜18aを少なくとも一軸方向(例えば横方向)に延伸することによってPTFE多孔質膜を作製する。この方法によれば、小さい平均孔径及び高い気孔率を有するPTFE多孔質膜を製造することができる。
【0022】
焼成工程においては、例えば、330~500℃の温度(周囲温度)でシート状成形体18を加熱する。焼成時間は、例えば、1~30分間である。乾燥工程及び焼成工程は、大気中で実施してもよいし、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で実施してもよい。また、乾燥工程を省略し、焼成工程のみを実施してもよい。
【0023】
次に、必要に応じて、PTFE無孔膜18aをMD方向に圧延する(圧延工程(F))。圧延工程は、例えば、1対の圧延ロールの間にPTFE無孔膜18aを通すことによって行われる。圧延工程によって、PTFE無孔膜18aを所望の厚さに調整することができる。圧延倍率は、例えば、1.1~6.0倍である。圧延倍率は、圧延前の厚さに対する圧延後の厚さの比率で表される。圧延後のPTFE無孔膜18aの厚さは、例えば、30~300μmである。
【0024】
圧延工程には、厚さの調整だけでなく、PTFE多孔質膜の強度を向上させる効果もある。PTFE無孔膜18aを圧延すると、PTFEの分子同士が密に接触し合い、PTFE多孔質膜の強度、特に、凝集力が向上すると考えられる。比較的大きい分子量を有するPTFEを原料に使用しつつ、無孔化後の圧延工程を実施することによって、十分な強度を有するPTFE多孔質膜が得られる。
【0025】
次に、PTFE無孔膜18aをアニールする(アニール工程(G))。PTFE無孔膜18aを延伸する前にこのアニール工程を実施することによって、PTFE無孔膜18aを延伸しやすくなり、微細かつ均一な大きさの細孔を形成することが可能となる。
【0026】
アニール工程の手順は、PTFEの結晶性を高めることができる限り特に限定されない。例えば、第1段階及び第2段階を含む複数の段階でアニール工程を実施することができる。第1段階では、焼成工程における焼成温度よりも低く、かつ、PTFEの融点よりも高い温度でPTFE無孔膜18aを加熱する。具体的には、第1段階において、350~500℃の温度(周囲温度)でPTFE無孔膜18aを加熱する。第1段階における加熱時間は、例えば、10分間~5時間である。第2段階では、PTFEの融点よりも低い温度でPTFE無孔膜18aを加熱する。具体的には、第2段階において、250~330℃の温度(周囲温度)でPTFE無孔膜18aを加熱する。第2段階における加熱時間は、例えば、30分間~20時間である。もちろん、第1段階のみをアニール工程として実施してもよいし、第2段階のみをアニール工程として実施してもよい。アニール工程は、大気中で実施してもよいし、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で実施してもよい。さらに、PTFE無孔膜18aをロールに巻き取り、巻き取られたPTFE無孔膜18aを上記の温度及び処理時間に設定された熱処理炉に入れることによってアニール工程を実施してもよい。
【0027】
なお、アニール工程は必須ではなく、場合によっては省略可能である。さらに、焼成工程と圧延工程との間にアニール工程を実施してもよい。
【0028】
最後に、PTFE無孔膜18aを横方向(TD方向)に延伸する(延伸工程(H))。延伸倍率は、例えば、1.1~10倍である。延伸工程は、PTFEの融点未満の温度、例えば、50~300℃の温度環境下で公知のテンター法によって実施することができる。また、TD方向だけでなく、MD方向の延伸を実施してもよい。さらに、MD方向の延伸を実施したのち、TD方向の延伸を実施してもよい。延伸の順序は特に限定されない。
【0029】
以上の工程を経て、小さい平均孔径及び高い気孔率を有するPTFE多孔質膜20が得られる。PTFE多孔質膜20の厚さは、例えば、1~200μmの範囲にある。PTFE多孔質膜20の厚さの下限値は、5μmであってもよい。PTFE多孔質膜20の厚さの上限値は、100μmであってもよい。平均孔径は、例えば、0.03~0.2μmの範囲にあり、典型的には、0.03~0.1μmの範囲にある。平均孔径の下限値は、0.04μmであってもよい。平均孔径の上限値は、0.16μmであってもよく、0.07μmであってもよい。
【0030】
PTFE多孔質膜20の気孔率は、例えば、25%よりも大きく90%以下である。気孔率の下限値は、30%であってもよく、40%であってもよく、50%であってもよい。気孔率の上限値は、80%であってもよく、58%であってもよい。
【0031】
平均孔径は、ASTM(米国試験材料協会)F316-86に準拠した方法によって測定することができる。気孔率は、PTFE多孔質膜の質量M(g)、PTFE多孔質膜の体積V(cm3)及びPTFEの真密度D(g/cm3)を下記式に代入することによって算出することができる。PTFEの真密度は2.18g/cm3である。
【0032】
気孔率(%)={1-(M/(V・D))}×100
【0033】
また、厚さ方向に平行な断面を観察したとき、本実施形態のPTFE多孔質膜20は、厚さ方向に密につながった樹脂部分を有している。具体的には、厚さ方向に平行な断面における幅23μm×厚さ1μmの所定領域内に存在する細孔の数が40~120個の範囲にある。このような構造は、本実施形態のPTFE多孔質膜20が従来の方法で製造されたPTFE多孔質膜よりも高い強度を有する原因の1つであると考えられる。なお、PTFE多孔質膜の断面は、走査電子顕微鏡(SEM)によって観察することができる。
【0034】
なお、細孔の数は以下の方法によって数えることができる。まず、汎用の画像解析ソフトウェア(例えば、Image-J)を用い、PTFE多孔質膜の断面SEM像を二値化する。二値化された画像における黒色部が細孔に対応する場合、所定の領域に存在する黒色部の数を数えることによって、細孔の数を特定することができる。所定の領域の境界線上に黒色部が存在するとき、その黒色部の半分以上(面積比で)が所定の領域の内側にあることを条件として、その黒色部が所定の領域に存在するものと判断する。また、二値化された画像における黒色部の面積を黒色部の数で割ることによって、平均孔径を算出することもできる。なお、断面SEM像を二値化するとき、白色部(樹脂部分)と黒色部(細孔部分)との間の閾値は、下記式によって決定することができる。
閾値=((画像全体の平均輝度値)+対象部分(黒色部)の平均輝度値)/2
【0035】
本実施形態のPTFE多孔質膜20は、例えば、10~20N/25mmの範囲の凝集力(180°ピール強度)を有する。厚さ方向の密な構造が高い凝集力を生み出していると考えられる。PTFE多孔質膜20の凝集力の下限値は、12N/25mmであってもよい。PTFE多孔質膜20の凝集力の上限値は、18N/25mmであってもよく、16N/25mmであってもよい。
【0036】
PTFE多孔質膜20の凝集力の測定は、日本工業規格JIS Z 0237(2009)に準拠して、以下に説明する方法にて実施することができる。まず、試験片としてのPTFE多孔質膜20を100mm×25mmの大きさに裁断する。試験片は、PTFE多孔質膜20のMD方向に沿って100mmの寸法を持ち、PTFE多孔質膜20のTD方向に沿って25mmの寸法を持つ。MD方向及びTD方向は、それぞれ、PTFE多孔質膜20の製造時における方向である。次に、
図2に示すように、PTFE多孔質膜20の両面に接着剤30を塗布し、各面にアルミ箔31を貼り合わせる。これにより、凝集力測定用試料が得られる。一方のアルミ箔31の端部をチャックし、他方のアルミ箔31を速度60mm/min、25℃、60%RHの条件で180°反対方向に引っ張り、PTFE多孔質膜20において凝集破壊を生じさせる。測定開始後、最初の25mmの長さの測定値は無視し、その後、50mmの長さの試験片に関して連続的に記録された測定値(単位:N)の平均値をPTFE多孔質膜20の凝集力とする。
【0037】
また、本実施形態のPTFE多孔質膜20は、例えば、400~1000gfの範囲の突き刺し強度を有する。厚さ方向の密な構造が高い突き刺し強度を生み出していると考えられる。PTFE多孔質膜20の厚さに応じて突き刺し強度も変化する。単位厚さあたりの突き刺し強度は、PTFE多孔質膜20の強度の指標として適切である。本実施形態のPTFE多孔質膜20の単位厚さあたりの突き刺し強度は5.0~15gf/μmの範囲にある。単位厚さあたりの突き刺し強度の下限値は、6.0gf/μmであってもよい。単位厚さあたりの突き刺し強度の上限値は、10gf/μmであってもよく、9.0gf/μmであってもよい。
【0038】
突き刺し強度は、日本工業規格JIS Z 1707(1997)に準拠して、以下に説明する方法にて実施することができる。
図3に示すように、突き刺し強度は、試験片であるPTFE多孔質膜20を冶具32に固定し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針33を6mm/minの速度で突き刺し、針が貫通するまでの最大応力を測定する。5個以上の試験片について測定を行い、平均値をPTFE多孔質膜20の突き刺し強度とする。
【0039】
本実施形態のPTFE多孔質膜20は、フィルタ、通音膜、通気膜、隔膜、液体吸収体、シール材、圧力センサなどの様々な用途に使用されうる。PTFE多孔質膜に粘着剤を塗布することによって得られる粘着テープを例に挙げると、粘着テープをロールから巻き出す際、又は、粘着テープを台紙から剥離させる際、基材であるPTFE多孔質膜において凝集破壊が起こることがある。高い凝集力を有するPTFE多孔質膜は凝集破壊を起こしにくいので、粘着テープの基材に適している。また、通音膜、通気膜などの用途において、突起物などが膜に当たって膜が損傷することがある。高い突き刺し強度を有するPTFE多孔質膜は、そのような用途に適している。
【0040】
例えば、小さい平均孔径を有するPTFE多孔質膜をろ過膜として使用する場合、より微細な粒子を回収することが可能となる。また、小さい平均孔径を有するPTFE多孔質膜を通気膜又は通音膜として使用する場合、耐圧性の向上を期待できる。一方、PTFE多孔質膜が大きい気孔率を有する場合、ろ過膜などの湿式の用途では透水性の向上が期待でき、通気膜、通音膜などの乾式の用途では通気量の増大及び通音性の向上が期待できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本開示をさらに具体的に説明する。本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0042】
(サンプル1)
100重量部のPTFE微粉末(ダイキン工業社製、F104(標準比重2.17、数平均分子量600万))に対して成形助剤としてn-ドデカン(ジャパンエナジー社製)を20重量部の割合で混合し、PTFE微粉末とn-ドデカンとを含むPTFEペーストを調製した。このPTFEペーストを円筒状に予備成形したのち、ラム押出機を用いてシート状に成形した。得られたシート状成形体を1対の金属ロールに通してMD方向に0.2mmの厚さに圧延し、さらに、150℃の温度でシート状成形体を乾燥させて成形助剤を除去した。乾燥したシート状成形体を400℃で5分間かけて焼成した。得られたPTFE無孔膜をMD方向に圧延し、その厚さを0.1mmに調整した。
【0043】
次に、PTFE無孔膜を380℃で4時間かけて熱処理したのち、315℃で15時間かけて熱処理した(アニール工程)。熱処理後のPTFE無孔膜を熱処理炉内に放置して徐冷した。最後に、PTFE無孔膜を300℃に加熱したテンター内にて、TD方向に歪み速度100%/sec、延伸倍率3.0倍の条件で延伸し、その後、MD方向に歪み速度100%/sec、延伸倍率2.0倍の条件で延伸した。このようにして、サンプル1のPTFE多孔質膜を得た。サンプル1のPTFE多孔質膜の厚さは91μmであった。PTFE多孔質膜の厚さは、デジタルアップライトゲージ(尾崎製作所社製、R1-205、測定子の直径:φ5mm、測定力:1.1N以下)を使用して測定した。25℃±2℃、65±20%RHの環境下にて5点の厚さを測定し、測定値の平均をPTFE多孔質膜の厚さとして算出した。
【0044】
(サンプル2)
MD方向の延伸倍率を1.5倍に変更したことを除き、サンプル1と同じ方法でサンプル2のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル2のPTFE多孔質膜の厚さは107μmであった。
【0045】
(サンプル3)
サンプル1で作製したPTFE無孔膜(厚さ0.2mm)をMD方向に2.0倍の圧延倍率で圧延した。アニール工程は省略した。その後、PTFE無孔膜を300℃に加熱したテンター内にて、TD方向に歪み速度100%/sec、延伸倍率3.0倍の条件で延伸した。このようにして、サンプル3のPTFE多孔質膜を得た。サンプル3のPTFE多孔質膜の厚さは99μmであった。
【0046】
(サンプル4)
TD方向の延伸倍率を4.0倍に変更したことを除き、サンプル3と同じ方法でサンプル4のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル4のPTFE多孔質膜の厚さは95μmであった。
【0047】
(サンプル5)
MD方向の圧延倍率を3.0倍に変更したことを除き、サンプル3と同じ方法でサンプル5のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル5のPTFE多孔質膜の厚さは96μmであった。
【0048】
(サンプル6)
TD方向の延伸時のテンターの温度を350℃に変更し、TD方向の延伸倍率を6.0倍に変更したことを除き、サンプル3と同じ方法でサンプル6のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル6のPTFE多孔質膜の厚さは89μmであった。
【0049】
(サンプル7)
100重量部のPTFE微粉末(ダイキン工業社製、F104)に対して成形助剤としてn-ドデカン(ジャパンエナジー社製)を20重量部の割合で混合し、PTFE微粉末とn-ドデカンとを含むPTFEペーストを調製した。このPTFEペーストを円筒状に予備成形したのち、ラム押出機を用いてシート状に成形した。得られたシート状成形体を1対の金属ロールに通してMD方向に0.2mmの厚さに圧延し、さらに、150℃の温度で乾燥させて成形助剤を除去した。
【0050】
次に、得られたシート状成形体を260℃、延伸倍率1.5倍の条件でMD方向に延伸し、その後、150℃、延伸倍率6.5倍の条件でTD方向に延伸し、未焼成のPTFE多孔質膜を得た。最後に、未焼成のPTFE多孔質膜を360℃で10分間かけて焼成した。このようにして、サンプル7のPTFE多孔質膜を得た。サンプル7のPTFE多孔質膜の厚さは75μmであった。
【0051】
(サンプル8)
シート状成形体を1対の金属ロールに通してMD方向に0.23mmの厚さに圧延し、MD方向の延伸倍率を3.2倍に変更したことを除き、サンプル7と同じ方法でサンプル8のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル8のPTFE多孔質膜の厚さは80μmであった。
【0052】
(サンプル9)
数平均分子量が400万のPTFE微粉末(旭硝子社製、CD126E(標準比重2.18、数平均分子量400万))を使用したことを除き、サンプル1と同じ方法でサンプル9のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル9のPTFE多孔質膜の厚さは89μmであった。
【0053】
(サンプル10)
数平均分子量が1000万のPTFE微粉末(旭硝子社製、CD123E(標準比重2.16、数平均分子量1000万))を使用し、MD方向の延伸倍率を1.5倍に変更したことを除き、サンプル1と同じ方法でサンプル10のPTFE多孔質膜を作製した。サンプル9のPTFE多孔質膜の厚さは103μmであった。
【0054】
[気孔率、平均孔径、突き刺し強度、凝集力]
サンプル1~10のPTFE多孔質膜の気孔率、平均孔径、突き刺し強度及び凝集力を先に説明した方法に沿って測定した。平均孔径の測定には市販の測定装置(Porous Material社製、Perm-Porometer)を使用した。凝集力測定用試料は、PTFE多孔質膜の両面にアルミ箔を接着剤(三井化学社製、アドマー)で貼り合わせ、225℃、15秒、10kNの条件で加熱処理を行うことによって作製した。凝集力の測定には、引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン万能材料試験機RTFシリーズ)を使用した。突き刺し強度の測定には、卓上形精密万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAGS-Xシリーズ)を使用した。結果を表1及び
図4に示す。
図4において、白抜きのグラフが突き刺し強度を表し、斜線のグラフが凝集力を表す。
【0055】
[断面SEM像]
サンプル1~5,7,9,10のPTFE多孔質膜を厚さ方向に平行に切断し、それらの断面を走査電子顕微鏡(倍率5000倍)で観察した。具体的には、各サンプルをカーボンナノチューブシートで挟み、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、E-3500)にてイオンミリング処理を行った。各サンプルをTD方向及び厚さ方向に平行に切断して断面を露出させた。各サンプルの断面に導電処理を施して走査電子顕微鏡で観察した。得られた断面SEM像を
図5A~5Hに示す。
【0056】
さらに、断面SEM像において、PTFE多孔質膜の厚さ方向の中央位置(表面から深さ50%の位置)を中心とした幅23μm×厚さ18μmの所定領域内に存在する細孔の数を先に説明した方法で計数した。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜は、非常に小さい平均孔径を有していながら、高い気孔率を示した。サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜は、十分に高い凝集力及び高い突き刺し強度(単位厚さあたりの突き刺し強度)を示した。サンプル3~5,10のPTFE多孔質膜は、特に高い突き刺し強度を示した。サンプル2~5のPTFE多孔質膜は、特に高い凝集力を示した。一方、サンプル7のPTFE多孔質膜は、高い気孔率及び比較的小さい平均孔径を示したものの、その凝集力及び突き刺し強度は低かった。サンプル6のPTFE多孔質膜は、サンプル7と同じくらいの気孔率及び平均孔径を有していたが、サンプル6のPTFE多孔質膜の凝集力及び突き刺し強度は、サンプル7のPTFE多孔質膜のそれらよりも優れていた。サンプル8のPTFE多孔質膜は、高い気孔率を示したものの、その平均孔径は比較的大きかった。また、サンプル8のPTFE多孔質膜の凝集力及び突き刺し強度は低かった。
【0059】
サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜の気孔率は、それぞれ、67%、58%、50%、50%、51%、72%、68%、52%であった。気孔率の上限値は、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。気孔率の下限値も、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。
【0060】
サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜の平均孔径は、それぞれ、0.066、0.056、0.059、0.063、0.060、0.16、0.070、0.048であった。平均孔径の上限値は、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。平均孔径の下限値も、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。
【0061】
サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜の単位厚さあたりの突き刺し強度は、それぞれ、7.69、6.97、8.60、8.60、8.59、5.08、7.65、7.59(単位:gf/μm)であった。単位厚さあたりの突き刺し強度の上限値は、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。単位厚さあたりの突き刺し強度の下限値も、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。
【0062】
サンプル1~6,9,10のPTFE多孔質膜の凝集力は、それぞれ、13.4、15.1、15.4、15.1、15.2、11.2、12.7、16.1(単位:N/25mm)であった。凝集力の上限値は、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。凝集力の下限値も、これらから選ばれる値によって規定されてもよい。
【0063】
図5Fに示すように、サンプル7のPTFE多孔質膜は、粗い断面構造を有していた。これに対し、
図5A~5E,5G,5Hに示すように、サンプル1~5,9,10のPTFE多孔質膜は、密な断面構造を有していた。言い換えれば、サンプル1~5,9,10のPTFE多孔質膜においては、厚さ方向の樹脂部分(白色部分)の繋がりが密であった。このことは、幅23μm×厚さ18μmの所定領域内に存在する細孔の数に反映されたと考えられる。結果として、サンプル1~5,9,10のPTFE多孔質膜は、高い凝集力及び高い突き刺し強度を示したと考えられる。
【0064】
上記の所定領域内の細孔の数は、サンプル6で840個、サンプル5で1650個であった。これに対し、サンプル7では650個であった。この結果から、所定領域内に存在する細孔の数が800~2000個、望ましくは800~1700個のときに良好な結果が得られると言える。
【0065】
PTFE多孔質膜の厚さが18μmに満たない場合でも、断面SEM像において、PTFE多孔質膜の厚さ方向の中央位置(表面から深さ50%の位置)を中心とした幅23μm×厚さ1μmの所定領域内に存在する細孔の数を計数することができる。表1におけるカッコ内の数値は、幅23μm×厚さ18μmの所定領域内に存在する細孔の数を幅23μm×厚さ1μmでの数に換算することによって得られた値である。サンプル6で47個、サンプル5で92個であった。これに対し、サンプル7では36個であった。この結果から、幅23μm×厚さ1μmの所定領域内に存在する細孔の数が40個以上のときに良好な結果が得られると言える。所定領域内に存在する細孔の数の上限値は、例えば、120個である。
【符号の説明】
【0066】
10 PTFE粉末
12 成形助剤
14 PTFEペースト
18 シート状成形体
18a PTFE無孔膜
20 PTFE多孔質膜