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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ブレード制御装置及びブレード制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/84 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
E02F3/84 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018105661
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019210644
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆男
(72)【発明者】
【氏名】登尾 大地
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084683(JP,A)
【文献】特開2010-255292(JP,A)
【文献】特開平09-209393(JP,A)
【文献】特開平10-088611(JP,A)
【文献】米国特許第09328479(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の前方に存在する第1面及び前記第1面よりも下方に配置され前記第1面の前端部との間で段差を形成する第2面を含み、前記作業車両の車体に支持されるブレードで掘削される掘削対象の目標形状を示す設計面を取得する設計面取得部と、
前記車体の前後方向の傾斜角度を示す観測ピッチ角度を取得する車体角度取得部と、
前記車体の少なくとも一部が前記第1面に位置付けられ前記ブレードが前記第2面の上方に位置付けられている状態において、前記作業車両の特定部位と前記第2面との高さ方向の距離を示す特定部位高さを算出する特定部位高さ算出部と、
前記特定部位高さに基づいて前記観測ピッチ角度を補正して、前記車体の補正ピッチ角度を算出する補正ピッチ角度算出部と、
前記補正ピッチ角度に基づいて、前記ブレードの高さを調整する油圧シリンダの目標シリンダ速度を算出する目標シリンダ速度算出部と、を備える、
ブレード制御装置。
【請求項2】
前記設計面において前記第1面の前端部を示す変曲位置を探索する変曲位置探索部を備え、
前記特定部位高さ算出部は、前記変曲位置に基づいて、前記特定部位高さを算出する、
請求項1に記載のブレード制御装置。
【請求項3】
前記車体の位置を取得する車体位置取得部と、
前記油圧シリンダの作動量を取得する作動量取得部と、
前記車体の位置と前記車体の傾斜角度と前記油圧シリンダの作動量とに基づいて、前記ブレードの高さを算出する実高さ算出部と、
前記設計面に基づいて算出された前記ブレードの目標高さを取得する目標高さ取得部と、
前記補正ピッチ角度に基づいて前記目標高さを補正して、補正目標高さを生成する目標高さ補正部と、を備え、
前記目標シリンダ速度算出部は、前記ブレードの刃先の高さと前記補正目標高さとの偏差が小さくなるように、前記目標シリンダ速度を算出する、
請求項1又は請求項2に記載のブレード制御装置。
【請求項4】
前記目標シリンダ速度算出部は、前記補正目標高さに基づいて前記目標シリンダ速度を算出し、
前記補正目標高さに基づいて、補正目標高さ変化量を算出する微分部と、
前記特定部位高さと前記補正目標高さ変化量とに基づいて目標シリンダ速度補正値を算出する補正シリンダ速度算出部と、
前記目標シリンダ速度と前記目標シリンダ速度補正値とを加算して補正シリンダ速度を算出する加算部と、
前記補正シリンダ速度に基づいて、前記ブレードの高さを制御する制御指令を出力する制御指令出力部と、を備える、
請求項3に記載のブレード制御装置。
【請求項5】
前記作業車両は、前輪と、後輪と、前記前輪及び前記後輪に支持される履帯とを有し、
前記特定部位は、前記履帯の接地面の前部を含む、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のブレード制御装置。
【請求項6】
作業車両の前方に存在する第1面及び前記第1面よりも下方に配置され前記第1面の前端部との間で段差を形成する第2面を含み、前記作業車両の車体に支持されるブレードで掘削される掘削対象の目標形状を示す設計面を取得することと、
前記車体の前後方向の傾斜角度を示す観測ピッチ角度を取得することと、
前記車体の少なくとも一部が前記第1面に位置付けられ前記ブレードが前記第2面の上方に位置付けられている状態において、前記作業車両の特定部位と前記第2面との高さ方向の距離を示すと特定部位高さを算出することと、
前記特定部位高さに基づいて前記観測ピッチ角度を補正して、前記車体の補正ピッチ角度を算出することと、
前記補正ピッチ角度に基づいて、前記ブレードの高さを調整する油圧シリンダの目標シリンダ速度を算出することと、を含む
ブレード制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレード制御装置及びブレード制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレードを有する作業車両は、掘削対象の掘削又は整地に使用される。ブレードを設計面に追従させる作業車両が提案されている。設計面とは、掘削対象の目標形状をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/083469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレードは、油圧システムにより駆動する。油圧システムは、ブレード制御装置から出力される制御指令に基づいて駆動する。設計面が異なる勾配の複数の面によって構成される場合がある。異なる勾配の面の境界をブレードが通過するとき、制御遅れが発生すると、ブレードは設計面を追従しきれなくなる可能性がある。その結果、ブレードが設計面を超えて掘削対象を掘削してしまい、掘削対象が所望の形状に掘削されない可能性がある。
【0005】
本発明の態様は、掘削対象を所望の形状に掘削することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、作業車両の前方に存在する第1面及び前記第1面よりも下方に配置され前記第1面の前端部との間で段差を形成する第2面を含み、前記作業車両の車体に支持されるブレードで掘削される掘削対象の目標形状を示す設計面を取得する設計面取得部と、前記車体の前後方向の傾斜角度を示す観測ピッチ角度を取得する車体角度取得部と、前記車体の少なくとも一部が前記第1面に位置付けられ前記ブレードが前記第2面の上方に位置付けられている状態において、前記作業車両の特定部位と前記第2面との高さ方向の距離を示す特定部位高さを算出する特定部位高さ算出部と、前記特定部位高さに基づいて前記観測ピッチ角度を補正して、前記車体の補正ピッチ角度を算出する補正ピッチ角度算出部と、前記補正ピッチ角度に基づいて、前記ブレードの高さを調整する油圧シリンダの目標シリンダ速度を算出する目標シリンダ速度算出部と、を備える、ブレード制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、掘削対象を所望の形状に掘削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る作業車両を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係る作業車両を模式的に示す図である。
図3図3は、本実施形態に係るブレード制御装置を示す機能ブロック図である。
図4図4は、本実施形態に係る目標高さ算出部による目標高さの算出処理を説明するための図である。
図5図5は、本実施形態に係る設計面を模式的に示す図である。
図6図6は、本実施形態に係る特定部位高さを説明するための図である。
図7図7は、本実施形態に係る推定用テーブルを示す図である。
図8図8は、本実施形態に係る推定用テーブルを示す図である。
図9図9は、本実施形態に係るブレード制御方法を示すフローチャートである。
図10図10は、比較例に係る作業車両の動作を模式的に示す図である。
図11図11は、本実施形態に係る作業車両の動作を模式的に示す図である。
図12図12は、本実施形態に係るコンピュータシステムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
以下の説明においては、グローバル座標系及びローカル座標系を規定して、各部の位置関係について説明する。グローバル座標系とは、地球に固定された原点を基準とする座標系をいう。グローバル座標系は、GNSS(Global Navigation Satellite System)によって規定される座標系である。GNSSとは、全地球航法衛星システムをいう。全地球航法衛星システムの一例として、GPS(Global Positioning System)が挙げられる。GNSSは、複数の測位衛星を有する。GNSSは、緯度、経度、及び高度の座標データで規定される位置を検出する。ローカル座標系とは、作業車両1の車体2に固定された原点を基準とする座標系をいう。ローカル座標系において、上下方向、左右方向、及び前後方向が規定される。後述するように、作業車両1は、シート13及び操作装置14が設けられる車体2と、駆動輪15及び履帯17を含む走行装置3とを備える。上下方向とは、履帯17の接地面と直交する方向をいう。上下方向は、作業車両1の高さ方向と同義である。左右方向とは、駆動輪15の回転軸と平行な方向をいう。左右方向は、作業車両1の車幅方向と同義である。前後方向とは、左右方向及び上下方向と直交する方向をいう。
【0011】
上方とは、上下方向の一方向をいい、履帯17の接地面から離れる方向をいう。下方とは、上下方向において上方の反対方向をいい、履帯17の接地面に近付く方向をいう。左方とは、左右方向の一方向をいい、操作装置14と正対するようにシート13に着座した作業車両1の運転者を基準として左側の方向をいう。右方とは、左右方向において左方の反対方向をいい、シート13に着座した作業車両1の運転者を基準として右側の方向をいう。前方とは、前後方向の一方向をいい、シート13から操作装置14に向かう方向をいう。後方とは、前後方向において前方の反対方向をいい、操作装置14からシート13に向かう方向をいう。
【0012】
また、上部とは、上下方向において部材又は空間の上側の部分をいい、履帯17の接地面から離れた部分をいう。下部とは、上下方向において部材又は空間の下側の部分をいい、履帯17の接地面に近い部分をいう。左部とは、シート13に着座した作業車両1の運転者を基準としたときの部材又は空間の左側の部分をいう。右部とは、シート13に着座した作業車両1の運転者を基準としたときの部材又は空間の右側の部分をいう。前部とは、前後方向において部材又は空間の前側の部分をいう。後部とは、前後方向において部材又は空間の後側の部分をいう。
【0013】
[作業車両]
図1は、本実施形態に係る作業車両1を示す図である。図2は、本実施形態に係る作業車両1を模式的に示す図である。本実施形態においては、作業車両1がブルドーザであることとする。作業車両1は、車体2と、走行装置3と、作業機4と、油圧シリンダ5と、位置センサ6と、傾斜センサ7と、速度センサ8と、作動量センサ9と、ブレード制御装置10とを備える。
【0014】
車体2は、運転室11とエンジン室12とを有する。エンジン室12は、運転室11の前方に配置される。運転室11には、運転者が着座するシート13と、運転者に操作される操作装置14とが配置される。操作装置14は、作業機4を操作するための作業レバー及び走行装置3を操作するための走行レバーを含む。
【0015】
走行装置3は、車体2を支持する。走行装置3は、スプロケットと呼ばれる駆動輪15と、アイドラと呼ばれる遊動輪16と、駆動輪15及び遊動輪16に支持される履帯17とを有する。遊動輪16は、駆動輪15の前方に配置される。駆動輪15は、油圧モータのような駆動源が発生する動力により駆動する。駆動輪15は、操作装置14の走行レバーの操作により回転する。駆動輪15が回転して履帯17が回転することにより作業車両1が走行する。
【0016】
作業機4は、車体2に移動可能に支持される。作業機4は、リフトフレーム18とブレード19とを有する。
【0017】
リフトフレーム18は、車幅方向に延在する回転軸AXを中心に上下方向に回動可能に車体2に支持される。リフトフレーム18は、球関節部20、ピッチ支持リンク21、及び支柱部22を介して、ブレード19を支持する。
【0018】
ブレード19は、車体2の前方に配置される。ブレード19は、球関節部20に接触する自在継手23と、ピッチ支持リンク21に接触するピッチング継手24とを有する。ブレード19は、リフトフレーム18を介して、車体2に移動可能に支持される。ブレード19は、リフトフレーム18の上下方向の回動に連動して、上下方向に移動する。
【0019】
ブレード19は、刃先19Pを有する。刃先19Pは、ブレード19の下端部に配置される。掘削作業又は整地作業において、刃先19Pが掘削対象を掘削する。
【0020】
油圧シリンダ5は、作業機4を移動させる動力を発生する。油圧シリンダ5は、リフトシリンダ25と、アングルシリンダ26と、チルトシリンダ27とを含む。
【0021】
リフトシリンダ25は、ブレード19を上下方向(リフト方向)に移動可能な油圧シリンダ5である。リフトシリンダ25は、上下方向のブレード19の位置を示すブレード19の高さを調整可能である。リフトシリンダ25は、車体2及びリフトフレーム18のそれぞれに連結される。リフトシリンダ25が伸縮することによって、リフトフレーム18及びブレード19は、回転軸AXを中心に上下方向に移動する。
【0022】
アングルシリンダ26は、ブレード19を回転方向(アングル方向)に移動可能な油圧シリンダ5である。アングルシリンダ26は、リフトフレーム18及びブレード19のそれぞれに連結される。アングルシリンダ26が伸縮することによって、ブレード19は、回転軸BXを中心に回動する。回転軸BXは、自在継手23の回転軸とピッチング継手24の回転軸とを通る。
【0023】
チルトシリンダ27は、ブレード19を回転方向(チルト方向)に移動可能な油圧シリンダ5である。チルトシリンダ27は、リフトフレーム18の支柱部22とブレード19の右上端部とに連結される。チルトシリンダ27が伸縮することによって、ブレード19は、回転軸CXを中心に回動する。回転軸CXは、球関節部20とピッチ支持リンク21の下端部とを通る。
【0024】
位置センサ6は、作業車両1の車体2の位置を検出する。位置センサ6は、GPS受信機を含み、グローバル座標系における車体2の位置を検出する。位置センサ6の検出データは、車体2の絶対位置を示す車体位置データを含む。
【0025】
傾斜センサ7は、水平面に対する車体2の傾斜角度を検出する。傾斜センサ7の検出データは、車体2の傾斜角度を示す車体角度データを含む。傾斜センサ7は、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)を含む。
【0026】
速度センサ8は、走行装置3の走行速度を検出する。速度センサ8の検出データは、走行装置3の走行速度を示す走行速度データを含む。
【0027】
作動量センサ9は、油圧シリンダ5の作動量を検出する。油圧シリンダ5の作動量は、油圧シリンダ5のストローク長を含む。作動量センサ9の検出データは、油圧シリンダ5の作動量を示す作動量データを含む。作動量センサ9は、油圧シリンダ5のロッドの位置を検出する回転ローラと、ロッドの位置を原点復帰する磁力センサとを有する。なお、作動量センサ9は、作業機4の傾斜角度を検出する角度センサでもよい。また、作動量センサ9は、油圧シリンダ5の回転角度を検出する角度センサでもよい。
【0028】
作動量センサ9は、リフトシリンダ25、アングルシリンダ26、及びチルトシリンダ27のそれぞれに設けられる。作動量センサ9は、リフトシリンダ25のストローク長、アングルシリンダ26のストローク長、及びチルトシリンダ27のストローク長を検出する。
【0029】
図2に示すように、リフトシリンダ25のストローク長Lに基づいて、ブレード19のリフト角θが算出される。リフト角θとは、作業機4の初期位置からのブレード19の下降角度をいう。図2の二点鎖線で示すように、作業機4の初期位置とは、ブレード19の刃先19Pが履帯17の接地面と平行な所定面に接触したときの作業機4の位置をいう。リフト角θは、所定面と所定面よりも下方に配置された刃先19Pとの距離(貫入深さ)に相当する。ブレード19の刃先19Pが所定面よりも下方に配置された状態で作業車両1が前進することによって、ブレード19による掘削作業又は整地作業が実施される。
【0030】
[ブレード制御装置]
図3は、本実施形態に係るブレード制御装置10を示す機能ブロック図である。ブレード制御装置10は、コンピュータシステムを含む。ブレード制御装置10に目標高さ生成装置30が接続される。目標高さ生成装置30は、コンピュータシステムを含む。
【0031】
ブレード制御装置10は、ブレード19の刃先19Pの高さを制御する。ブレード制御装置10は、ブレード19を上下方向に移動可能なリフトシリンダ25を制御することによって、刃先19Pの高さを制御する。
【0032】
作業車両1は、リフトシリンダ25に供給される作動油の流量及び方向を制御する制御弁28を有する。ブレード制御装置10は、制御弁28を制御することによって、刃先19Pの高さを制御する。
【0033】
制御弁28は、比例制御弁を含む。制御弁28は、ブレード19を駆動するための作動油を吐出する油圧ポンプ(不図示)とリフトシリンダ25との間の油路に配置される。油圧ポンプは、制御弁28を介して、リフトシリンダ25に作動油を供給する。リフトシリンダ25は、制御弁28により制御された作動油に基づいて駆動する。
【0034】
目標高さ生成装置30は、掘削対象の目標形状を示す設計面ISに基づいて、ブレード19の刃先19Pの目標高さを示す目標高さデータを生成する。刃先19Pの目標高さとは、ローカル座標系において設計面ISに一致させることができる刃先19Pの位置をいう。
【0035】
<目標高さ生成装置>
目標高さ生成装置30は、設計面データ記憶部31と、車両データ記憶部32と、データ取得部33と、目標高さ算出部34とを含む。
【0036】
設計面データ記憶部31は、ブレード19で掘削される掘削対象の目標形状である設計面ISを示す設計面データを記憶する。設計面ISは、掘削対象の目標形状を示す3次元形状データを含む。設計面ISは、例えば掘削対象の目標形状に基づいて作成されたCAD(Computer Aided Design)データを含み、設計面データ記憶部31に予め記憶される。
【0037】
なお、設計面データは、作業車両1の外部から通信回線を介して目標高さ生成装置30に送信されてもよい。
【0038】
車両データ記憶部32は、作業車両1の寸法及び形状を示す車両データを記憶する。作業車両1の寸法は、リフトフレーム18の寸法及びブレード19の寸法を含む。作業車両1の形状は、ブレード19の形状を含む。車両データは、作業車両1の設計データ又は諸元データから導出可能な既知データであり、車両データ記憶部32に予め記憶される。
【0039】
データ取得部33は、車体2の絶対位置を示す車体位置データを位置センサ6から取得する。データ取得部33は、車体2の傾斜角度を示す車体角度データを傾斜センサ7から取得する。データ取得部33は、リフトシリンダ25のストローク長を示す作動量データを作動量センサ9から取得する。
【0040】
データ取得部33は、設計面ISを示す設計面データを設計面データ記憶部31から取得する。データ取得部33は、作業車両1の寸法及び形状を示す車両データを車両データ記憶部32から取得する。
【0041】
目標高さ算出部34は、車体位置データと、車体角度データと、作動量データと、車両データと、設計面データとに基づいて、刃先19Pの目標高さを算出する。
【0042】
図4は、本実施形態に係る目標高さ算出部34による目標高さの算出処理を説明するための図である。設計面ISは、グローバル座標系において規定される。刃先19Pの目標高さは、ローカル座標系において規定される。
【0043】
図4に示すように、ローカル座標系の原点は、遊動輪16の回転軸を通り前後方向に延在するラインLa上に規定される。ローカル座標系の原点は、車体2の重心を通りラインLaに直交する垂線LbとラインLaとの交点である。また、位置センサ6により、グローバル座標系における車体2の高さを示す車体高さが検出される。本実施形態において、車体高さは、ラインLbと履帯17の接地面との交点を示す重心投影点の高さである。重心投影点を通り前後方向に延在するラインLcが規定される。
【0044】
車体高さは、位置センサ6により検出された車体位置データと車両データとに基づいて算出される。ローカル座標系において、グランドライン高さが規定される。グランドライン高さとは、ローカル座標系の上下方向におけるラインLaとラインLcとの距離をいう。
【0045】
リフトシリンダ25が駆動すると、リフトシリンダ25の駆動に連動して、刃先19Pの位置が変化する。また、車体2が傾斜すると、車体2の傾斜に連動して、刃先19Pの位置が変化する。ローカル座標系において、ピッチ回転高さが規定される。ピッチ回転高さとは、車体2の傾斜に連動して変化する刃先19Pの高さをいう。車体2の前後方向の傾斜角度をピッチ角度PAとし、前後方向における重心投影点と刃先19Pとの距離をWとした場合、ピッチ回転高さは、[W×sin(PA)]で表わされる。
【0046】
目標高さは、ラインLaに垂直で刃先19Pを通り、設計面と交わる線分の長さで表される。本実施形態において、目標高さは、車体高さとグランドライン高さとピッチ回転高さとの和として近似して表わされる。
【0047】
このように、目標高さ算出部34は、車体位置データと、ピッチ角度PAを含む車体角度データと、車両データと、作動量データと、設計面データとに基づいて、刃先19Pの目標高さを算出する。
【0048】
車体2の前後方向の傾斜角度を示すピッチ角度PAは、傾斜センサ7により検出される。以下の説明においては、傾斜センサ7により検出された車体2の前後方向の傾斜角度を適宜、観測ピッチ角度PA,と称する。なお、傾斜センサ7は、車体2の車幅方向の傾斜角度を検出することもできる。
【0049】
<ブレード制御装置>
ブレード制御装置10は、設計面取得部101と、変曲位置探索部102と、特定部位高さ算出部103と、目標シリンダ速度算出部104と、車体位置取得部105と、車体角度取得部106と、作動量取得部107と、車両データ取得部108と、実高さ算出部109と、目標高さ取得部110と、補正ピッチ角度算出部111と、目標高さ補正部112と、微分部115と、補正シリンダ速度算出部113と、加算部116と、制御指令出力部114とを有する。
【0050】
設計面取得部101は、設計面ISを示す設計面データを設計面データ記憶部31から取得する。
【0051】
変曲位置探索部102は、設計面ISにおいて作業車両1の前方に存在する第1面F1の前端部を示す変曲位置CPを探索する。
【0052】
図5は、本実施形態に係る設計面ISを模式的に示す図である。設計面ISが異なる勾配の複数の面によって構成される場合がある。図5に示す例において、設計面ISは、作業車両1の前方に存在する第1面F1及び第1面F1よりも下方に配置され第1面F1の前端部との間で段差を形成する第2面F2を含む。作業車両1の前方に設計面ISの第1面F1が存在し、第1面F1よりも前方に第2面F2が存在する。第1面F1の前端部と第2面F2の後端部とが第3面F3により結ばれる。第3面F3の上端部と第1面F1の前端部とが接続される。第1面F1と第3面F3とにより角部が形成される。第3面F3の下端部と第2面F2の後端部とが接続される。変曲位置CPは、第1面F1の前端部と第3面の上端部との境界を含む。
【0053】
本実施形態において、段差とは、第1面F1と第2面F2とが第3面F3を介して結ばれている場合において、第1面F1から第2面F2に向かって走行する作業車両1の履帯17の特定部位が第3面F3に接触しない形状をいう。上下方向における第3面F3の寸法は、前後方向における履帯17の接地面の寸法よりも短い。
【0054】
第1面F1の勾配と第3面F3の勾配とは異なる。第2面F2の勾配と第3面F3の勾配とは異なる。水平面に対する第1面F1の傾斜角度αは、水平面に対する第3面F3の傾斜角度γよりも小さい。水平面に対する第2面F2の傾斜角度βは、水平面に対する第3面F3の傾斜角度γよりも小さい。水平面に対する第1面F1の傾斜角度αは、水平面に対する第2面F2の傾斜角度βと同じでもよいし異なってもよい。
【0055】
図5に示す例において、第1面F1は、作業車両1の前方に向かって下方に傾斜する。第2面F2は、作業車両1の前方に向かって下方に傾斜する。なお、第1面F1及び第2面F2の少なくとも一方が、作業車両1の前方に向かって上方に傾斜してもよい。第1面F1の前端部が第2面F2の後端部よりも上方に配置されていればよい。
【0056】
変曲位置探索部102は、設計面取得部101により取得された設計面データに基づいて、第1面F1の前端部を示す変曲位置CPを探索することができる。変曲位置探索部102は、例えば設計面データから導出される傾斜角度αと傾斜角度γと傾斜角度βとに関係に基づいて、段差の有無及び変曲位置CPの特定を実施することができる。なお、変曲位置探索部102は、第1面F1の前端部と第2面F2の後端部との相対位置に基づいて、段差の有無及び変曲位置CPの特定を実施してもよい。
【0057】
変曲位置探索部102は、2次元平面において変曲位置CPを探索してもよいし、3次元空間において変曲位置CPを探索してもよい。2次元平面において変曲位置CPを探索する場合、変曲位置探索部102は、ローカル座標系において刃先19Pを通り前後方向に延在する面と設計面ISとの交線上で第1面F1と第3面F3との交点を探索することによって、変曲位置CPを特定することができる。3次元空間において変曲位置CPを探索する場合、変曲位置探索部102は、車体2の前方に存在する設計面ISの車体2に対する高さデータの変化具合に基づいて、変曲位置CPを特定することができる。
【0058】
以下の説明において、水平面に対する第2面F2の傾斜角度βを適宜、設計面ピッチ角度β、と称する。変曲位置探索部102は、設計面取得部101により取得された設計面データに基づいて、変曲位置CPの位置及び第2面F2の設計面ピッチ角度βを特定することができる。
【0059】
車体位置取得部105は、車体2の位置を示す車体位置データをデータ取得部33から取得する。
【0060】
車体角度取得部106は、車体2の傾斜角度を示す車体角度データをデータ取得部33から取得する。上述のように、車体2の傾斜角度は、車体2の前後方向の傾斜角度を示す観測ピッチ角度PAを含む。車体角度取得部106は、傾斜センサ7により検出された車体2の観測ピッチ角度PAをデータ取得部33から取得する。
【0061】
作動量取得部107は、ブレード19を移動可能なリフトシリンダ25の作動量を示す作動量データをデータ取得部33から取得する。
【0062】
車両データ取得部108は、作業車両1の寸法及び形状を示す車両データをデータ取得部33から取得する。
【0063】
実高さ算出部109は、車体位置データと、車体角度データと、作動量データと、車両データとに基づいて、ローカル座標系におけるブレード19の刃先19Pの実際の高さを示す実高さを算出する。
【0064】
実高さ算出部109は、作動量データに基づいて、ブレード19のリフト角θを算出する。実高さ算出部109は、リフト角θと車両データとに基づいて、ローカル座標系におけるブレード19の刃先19Pの高さを算出する。また、実高さ算出部109は、ローカル座標系の原点と車体位置データとに基づいて、グローバル座標系におけるブレード19の刃先19Pの高さを算出することができる。
【0065】
目標高さ取得部110は、目標高さ算出部34において設計面ISに基づいて算出されたブレード19の刃先19Pの目標高さを目標高さ算出部34から取得する。
【0066】
特定部位高さ算出部103は、車体2の少なくとも一部が第1面F1に位置付けられ、ブレード19が第2面F2の上方に位置付けられている状態において、作業車両1の履帯17の接地面の特定部位SPと第2面F2との高さ方向(上下方向)の距離を示す特定部位高さHaを算出する。
【0067】
図6は、本実施形態に係る特定部位高さHaを説明するための図である。図6に示すように、特定部位高さHaとは、ローカル座標系において履帯17の接地面に規定される特定部位SPと第2面F2との上下方向の距離をいう。
【0068】
作業車両1は、前輪である遊動輪16と、後輪である駆動輪15と、遊動輪16及び駆動輪15に支持される履帯17とを有する。本実施形態において、特定部位SPは、履帯17の接地面の前部に規定される。より詳細には、特定部位SPは、遊動輪16の回転軸の直下の履帯17の接地面に規定される。なお、特定部位SPは、遊動輪16の回転軸の直下の履帯17の接地面とは異なる位置に規定されてもよい。
【0069】
特定部位高さ算出部103は、変曲位置CPに基づいて、特定部位高さHaを算出する。例えば、作業車両1が第1面F1を前進し、作業車両1の重心投影点が変曲位置CPを通過すると、重力の作用により、車体2の姿勢は、履帯17の接地面の特定部位SPが第2面F2に接触するまで前方に倒れるように変化する可能性がある。特定部位高さHaは、作業車両1の重心投影点が変曲位置CPを通過した後、前方に倒れるときに予測される車体2の上下方向における特定部位SPの位置の変化量を示す。
【0070】
本実施形態において、特定部位高さ算出部103は、第1面F1を前進する作業車両1の遊動輪16が変曲位置CPを通過したときに、特定部位高さHaの算出を開始する。特定部位高さ算出部103は、位置センサ6により検出される車体位置データと車両データとに基づいて、第1面F1を前進する作業車両1の遊動輪16が変曲位置CPを通過したか否かを判定することができる。
【0071】
特定部位高さ算出部103は、傾斜センサ7により検出され車体角度取得部106により取得される車体2の観測ピッチ角度PAと、目標高さ取得部110により取得される刃先19Pの目標高さと、車両データ取得部108により取得される車両データとに基づいて、特定部位高さHaを算出する。
【0072】
図6において、特定部位高さ算出部103は、特定部位SPを通り、第2面F2と平行な仮想面Faを規定する。また、特定部位高さ算出部103は、履帯17の接地面を通り、履帯17の接地面と平行な仮想面Fbを規定する。特定部位高さ算出部103は、傾斜センサ7により検出される観測ピッチ角度PAに基づいて、仮想面Faを規定することができる。特定部位高さ算出部103は、車両データに基づいて、仮想面Fbを規定することができる。
【0073】
特定部位高さ算出部103は、ローカル座標系において、刃先19Pを通る位置における仮想面Faと仮想面Fbとの上下方向の距離H2を算出する。
【0074】
特定部位高さ算出部103は、ローカル座標系において、原点を通り前後方向に延在するラインLaと仮想面Fbとの上下方向の距離H3を算出する。特定部位高さ算出部103は、車両データに基づいて、距離H3を算出することができる。
【0075】
なお、距離H3は、ブレード制御装置10が有する記憶部に記憶されていてもよい。
【0076】
特定部位高さ算出部103は、目標高さ取得部110から刃先19Pの目標高さHrを取得する。特定部位高さHaは、[Hr-H3+H2]により表わされる。以上のように、特定部位高さ算出部103は、車体2の観測ピッチ角度PAと、刃先19Pの目標高さHrと、車両データとに基づいて、特定部位高さHaを算出することができる。
【0077】
補正ピッチ角度算出部111は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaに基づいて車体2の観測ピッチ角度PAを補正して、車体2の補正ピッチ角度PAcを算出する。
【0078】
上述のように、目標高さ取得部110は、目標高さ算出部34から刃先19Pの目標高さを取得する。目標高さ算出部34は、車体位置データと、観測ピッチ角度PAを含む車体角度データと、車両データと、作動量データと、設計面データとに基づいて、刃先19Pの目標高さを算出する。例えばデータ送信遅延などに起因して、傾斜センサ7が観測ピッチ角度PAを検出した時点と車体角度取得部105が観測ピッチ角度PAを取得した時点との間にタイムラグが生じる可能性がある。タイムラグが生じると、車体角度取得部105が取得した観測ピッチ角度PAと、車体角度取得部105が観測ピッチ角度PAを取得した時点における真ピッチ角度PArとの間に誤差が生じる可能性がある。真ピッチ角度PArとは、実際の車体2のピッチ角度をいう。このように、タイムラグに起因して、車体角度取得部105は、真ピッチ角度PArに対して遅延した、真ピッチ角度PArとは異なる値を示す観測ピッチ角度PAを取得する可能性がある。
【0079】
本実施形態において、補正ピッチ角度算出部111は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaと、予め記憶されている推定用テーブルとに基づいて、真ピッチ角度PArに対する観測ピッチ角度PAの遅延時間を推定する。真ピッチ角度PArに対する観測ピッチ角度PAの遅延時間とは、傾斜センサ7が観測ピッチ角度PAを検出した時点と車体角度取得部105が観測ピッチ角度PAを示す観測ピッチ角度データを取得した時点とのタイムラグをいう。
【0080】
図7は、本実施形態に係る推定用テーブルを示す図である。推定用テーブルは、特定部位高さHaと、真ピッチ角度PArに対する観測ピッチ角度PAの遅延時間との関係を示す相関データを含む。推定用テーブルは、予備実験又はシミュレーションにより予め定められ、補正ピッチ角度算出部111に記憶される。図7に示すように、特定部位高さHaが大きいほど、遅延時間は大きくなる。特定部位高さHaが小さいほど、遅延時間は小さくなる。
【0081】
補正ピッチ角度算出部111は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaと、図7に示すような推定用テーブルとに基づいて、真ピッチ角度PArに対する観測ピッチ角度PAの遅延時間を推定する。
【0082】
補正ピッチ角度算出部111は、単位時間当たりの観測ピッチ角度PAの変化量に基づいて、車体2の観測ピッチ角速度PAvを算出する。補正ピッチ角度算出部111は、観測ピッチ角度PAを微分処理することにより、車体2の観測ピッチ角速度PAvを算出する。
【0083】
補正ピッチ角度算出部111は、遅延時間と観測ピッチ角速度PAvとに基づいて、真ピッチ角度PArを推定し、真ピッチ角度PArと観測ピッチ角度PAと誤差を算出する。補正ピッチ角度算出部111は、真ピッチ角度PArと観測ピッチ角度PAとの誤差と、観測ピッチ角度PAとに基づいて、補正ピッチ角度PAcを算出する。補正ピッチ角度PAcは、真ピッチ角度PArに相当する。
【0084】
目標高さ補正部112は、補正ピッチ角度算出部111により算出された補正ピッチ角度PAcに基づいて、目標高さ取得部110により取得された刃先19Pの目標高さを補正して、ブレード19の刃先19Pの補正目標高さを生成する。刃先19Pの補正目標高さとは、ローカル座標系において設計面ISの第2面F2に一致させることができる刃先19Pの位置をいう。
【0085】
上述のように、目標高さ算出部34は、観測ピッチ角度データ等に基づいて、刃先19Pの目標高さを算出する。例えば演算遅延又はデータ送信遅延などに起因して、目標高さ算出部34が観測ピッチ角度データに基づいてピッチ回転高さを算出した時点と、ピッチ回転高さに基づいて刃先19Pの目標高さを算出した時点と、目標高さ取得部110が目標高さを取得した時点との間にタイムラグが生じる可能性がある。タイムラグが生じると、目標高さ取得部110が取得した刃先19Pの目標高さと、目標高さ取得部110が目標高さを取得した時点において真に参照すべき目標高さとの間に誤差が生じる可能性がある。このように、タイムラグに起因して、目標高さ取得部110は、真に参照すべき目標高さに対して遅延した、真に参照すべき目標高さとは異なる値を示す目標高さを取得する可能性がある。
【0086】
本実施形態において、目標高さ補正部112は、遅延時間を考慮して補正された補正ピッチ角度PAcに基づいて、目標高さ取得部110により取得された刃先19Pの目標高さを補正して、真に参照すべき補正目標高さを生成する。補正目標高さは、目標高さよりも高い値を示す。
【0087】
目標シリンダ速度算出部104は、補正ピッチ角度PAcに基づいて、ブレード19の刃先19Pの高さを調整するリフトシリンダ25の目標シリンダ速度を算出する。目標シリンダ速度算出部104は、補正ピッチ角度PAcに基づいて算出された補正目標高さに基づいて、リフトシリンダ25の目標シリンダ速度を算出する。
【0088】
目標シリンダ速度算出部104は、実高さ算出部109により算出されたブレード19の刃先19Pの高さと目標高さ補正部112により生成された補正目標高さとの偏差が小さくなるように、目標シリンダ速度を算出する。
【0089】
微分部115は、目標高さ補正部112により生成された刃先19Pの補正目標高さに基づいて、補正目標高さ変化量を算出する。
【0090】
補正シリンダ速度算出部113は、特定部位高さHaと微分部115により算出された補正目標高さ変化量とに基づいて、目標シリンダ速度補正値を算出する。
【0091】
本実施形態において、補正シリンダ速度算出部113は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaと、予め記憶されている補正用テーブルとに基づいて、目標シリンダ速度補正値を算出する。
【0092】
図8は、本実施形態に係る補正用テーブルを示す図である。補正用テーブルは、特定部位高さHaと、補正目標高さ変化量に付与すべき補正ゲインとの関係を示す相関データを含む。補正用テーブルは、油圧に起因するシリンダ速度の遅延を考慮して予備実験又はシミュレーションにより予め定められ、補正シリンダ速度算出部113に記憶される。図8に示すように、特定部位高さHaが大きいほど、補正ゲインは大きくなる。特定部位高さHaが小さいほど、補正ゲインは小さくなる。
【0093】
補正シリンダ速度算出部113は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaと、図8に示すような補正テーブルとに基づいて、特定部位高さHaに応じた補正ゲインを補正目標高さ変化量に付与して、目標シリンダ速度補正値を算出する。補正シリンダ速度は、目標シリンダ速度よりも高い値を示す。
【0094】
加算部116は、目標シリンダ速度算出部104により算出された目標シリンダ速度と、補正シリンダ速度算出部113により算出された目標シリンダ速度補正値とを加算して、補正シリンダ速度を算出する。補正シリンダ速度は、目標シリンダ速度よりも高い値を示す。
【0095】
リフトシリンダ25は、油圧により駆動する。そのため、目標シリンダ速度に対して、実際のリフトシリンダ25のシリンダ速度が遅延する可能性がある。加算部116は、油圧に起因するシリンダ速度の遅延が解消されるように、目標シリンダ速度を補正して、補正シリンダ速度を算出する。
【0096】
制御指令出力部114は、加算部116により算出された補正シリンダ速度に基づいて、ブレード19の刃先19Pの高さを制御する制御指令を制御弁28に出力する。制御指令出力部114から出力される制御指令は、リフトシリンダ25を補正シリンダ速度で駆動させるための制御指令である。制御指令出力部114は、補正シリンダ速度でリフトシリンダ25が駆動するように、制御指令を制御弁28に出力する。制御指令出力部114から出力される制御指令は、制御弁28を制御する電流を含む。
【0097】
[ブレード制御方法]
次に、本実施形態に係るブレード制御方法について説明する。図9は、本実施形態に係るブレード制御方法を示すフローチャートである。図9に示す処理は、規定の周期で実施される。
【0098】
設計面取得部101は、設計面ISを設計面データ記憶部31から取得する(ステップS10)。本実施形態において、作業車両1が前進している状態で、作業車両1の前方の規定範囲(例えば10[m])における設計面ISが目標高さ生成装置30からブレード制御装置10に送信される。設計面取得部101は、作業車両1の前方の規定範囲における設計面ISを設計面データ記憶部31から取得する。設計面取得部101は、作業車両1の前進に伴って変化する作業車両1の前方の規定範囲における設計面ISを規定の周期で取得する。
【0099】
変曲位置探索部102は、設計面取得部101により取得された設計面ISにおいて第1面F1の前端部を示す変曲位置CPを特定する。また、変曲位置探索部102は、第2面F2の高さ方向の位置及び観測ピッチ角度βを特定する(ステップS20)。
【0100】
目標高さ取得部110は、刃先19Pの目標高さを取得する(ステップS22)。
【0101】
車両データ取得部108は、車両データを取得する(ステップS24)。
【0102】
車体角度取得部106は、観測ピッチ角度PAを含む車体角度データを取得する(ステップS30)。
【0103】
特定部位高さ算出部103は、車体2の少なくとも一部が第1面F1に位置付けられブレード19が第2面F2の上方に位置付けられている状態において、車体2の観測ピッチ角度PAと、刃先19Pの目標高さと、車両データとに基づいて、作業車両1の接地面の特定部位SPと第2面F2との高さ方向の距離を示す特定部位高さHaを算出する(ステップS40)。
【0104】
補正ピッチ角度算出部111は、特定部位高さ算出部103により算出された特定部位高さHaと、予め記憶されている推定用テーブルとに基づいて、真ピッチ角度PArに対する観測ピッチ角度PAの遅延時間を推定する(ステップS50)。
【0105】
補正ピッチ角度算出部111は、観測ピッチ角度PAを微分処理して、観測ピッチ角速度PAvを算出する(ステップS60)。
【0106】
補正ピッチ角度算出部111は、ステップS60において算出された観測ピッチ角速度PAvと、ステップS50において推定された遅延時間とに基づいて、真ピッチ角度PArと観測ピッチ角度PAとの誤差を算出する(ステップS70)。補正ピッチ角度算出部111は、観測ピッチ角速度PAvと遅延時間とを乗算することによって真ピッチ角度PArを算出し、真ピッチ角度PArと観測ピッチ角度PAとの誤差を算出する。
【0107】
補正ピッチ角度算出部111は、ステップS70において算出された誤差と観測ピッチ角度PAとに基づいて、補正ピッチ角度PAcを算出する(ステップS80)。補正ピッチ角度算出部111は、ステップS70において算出された誤差を観測ピッチ角度PAに加算することによって、補正ピッチ角度PAcを算出する。補正ピッチ角度PAcは、真ピッチ角度PArに相当する。
【0108】
目標高さ補正部112は、ステップS80において算出された補正ピッチ角度PAcに基づいて、目標高さ取得部110により取得された刃先19Pの目標高さを補正して、補正目標高さを生成する(ステップS90)。すなわち、目標高さ補正部112は、補正ピッチ角度PAcで車体12が傾斜したとき、刃先19Pが第2面F2に合致するように、目標高さを補正して、補正目標高さを生成する。
【0109】
目標シリンダ速度算出部104は、補正目標高さに基づいて、ブレード19の高さを制御するための目標シリンダ速度を算出する(ステップS100)。目標シリンダ速度算出部104は、刃先19Pが第2面F2に合致するように、補正目標高さに基づいて目標シリンダ速度を算出する。
【0110】
微分部115は、補正目標高さに基づいて、補正目標高さ変化量を算出する(ステップS110)。
【0111】
補正シリンダ速度算出部113は、補正用テーブルと特定部位高さHaとに基づいて、目標シリンダ速度についての補正ゲインを決定する(ステップS120)。
【0112】
補正シリンダ速度算出部113は、ステップS120において決定した補正ゲインに基づいて目標シリンダ速度補正値を算出する(ステップS130)。補正シリンダ速度算出部113は、ステップS120において決定した補正ゲインとステップS110で算出された補正目標高さ変化量とを乗算して、目標シリンダ速度補正値を算出する。
【0113】
加算部116は、目標シリンダ速度と目標シリンダ速度補正値とを加算して補正シリンダ速度を算出する(ステップS140)。
【0114】
制御指令出力部114は、ステップS140において算出された補正シリンダ速度に基づいて、制御指令を生成し、制御弁28に出力する(ステップS150)。
【0115】
[作用]
図10は、比較例に係る作業車両1の動作を模式的に示す図である。作業車両1が第1面F1に沿って前進し、作業車両1の重心投影点が変曲位置CPを通過すると、重力の作用により、車体2の姿勢は、履帯17の接地面の特定部位SPが第2面F2に接触するまで前方に倒れるように変化する可能性がある。車体2が前方に倒れ込むとき、ブレード19の制御遅れが発生すると、ブレード19は設計面ISを追従しきれなくなる可能性がある。ブレード19の位置及び移動速度は、油圧により制御されるため、制御遅れが発生する可能性がある。また、例えば目標高さ生成装置30からブレード制御装置10に対する各種のデータ送信遅延、目標高さ生成装置30における各種の演算遅延、及びブレード制御装置10における各種の演算遅延等に起因して、制御遅れが発生する可能性がある。ブレード19の制御遅れが発生すると、図10に示すように、刃先19Pが設計面ISの第2面F2よりも下方に超えた状態でブレード19が掘削対象を掘削してしまい、掘削対象が所望の形状に掘削されない可能性がある。
【0116】
図11は、本実施形態に係る作業車両1の動作を模式的に示す図である。本実施形態においては、特定部位高さHaが算出され、特定部位高さHaに基づいて観測ピッチ角度PAが補正され、補正ピッチ角度PAcが算出される。目標高さ生成装置30からブレード制御装置10に対する観測ピッチ角度データの送信遅延が発生しても、推定用テーブルと特定部位高さHaとに基づいて、観測ピッチ角度データの送信の遅延時間が推定される。遅延時間が推定されることにより、補正ピッチ角度算出部111は、真ピッチ角度PArに相当する補正ピッチ角度PAcを算出することができる。
【0117】
また、目標高さ算出部34による刃先19Pの目標高さの演算遅延が発生したり、目標高さ生成装置30からブレード制御装置10に対する目標高さを示す目標高さデータの送信遅延が発生したりしても、補正ピッチ角度PAcに基づいて、目標高さ補正部112は、演算遅延又は送信遅延が解消されるように、刃先19Pの目標高さを補正して、補正目標高さを生成することができる。
【0118】
目標シリンダ速度算出部104は、制御遅れを解消するように算出された補正目標高さに基づいて、目標シリンダ速度を算出する。補正目標高さは、目標高さよりも高い位置に設定されるため、ブレード19の制御遅れが発生しても、刃先19Pが第2面F2に追従するようにブレード19が制御され、刃先19Pが第2面F2よりも下方に移動してしまうことが抑制される。したがって、掘削対象が深掘りされてしまうことが抑制される。
【0119】
また、ブレード19は、油圧により駆動されるため、油圧の応答性に起因する制御遅れが発生する可能性がある。本実施形態においては、特定部位高さHaに基づいて目標シリンダ速度が補正され、補正シリンダ速度が算出される。油圧の応答性に起因する制御遅れが発生しても、補正用テーブルと特定部位高さHaとに基づいて、油圧に起因する制御遅れが解消されるように、補正シリンダ速度が算出される。補正シリンダ速度は、目標シリンダ速度よりも高い値に設定されるため、ブレード19の制御遅れが発生しても、刃先19Pが第2面F2に追従するようにブレード19が制御され、刃先19Pが第2面F2よりも下方に移動してしまうことが抑制される。したがって、掘削対象が深掘りされてしまうことが抑制される。
【0120】
[コンピュータシステム]
図12は、本実施形態に係るコンピュータシステム1000を示すブロック図である。上述のブレード制御装置10及び目標高さ生成装置30のそれぞれは、コンピュータシステム1000を含む。コンピュータシステム1000は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ1001と、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリ1002と、ストレージ1003と、入出力回路を含むインターフェース1004とを有する。上述のブレード制御装置10の機能及び目標高さ生成装置30の機能は、プログラムとしてストレージ1003に記憶されている。プロセッサ1001は、プログラムをストレージ1003から読み出してメインメモリ1002に展開し、プログラムに従って上述の処理を実行する。なお、プログラムは、ネットワークを介してコンピュータシステム1000に配信されてもよい。
【0121】
[効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、特定部位高さHaに基づいて、補正ピッチング角度PAcが算出され、補正ピッチ角度PAcに基づいてブレード19の高さを調整するリフトシリンダ25の目標シリンダ速度が算出される。これにより、データ送信遅延又は演算遅延が生じる可能性がある場面においても、刃先19Pが設計面ISに追従するようにブレード19が制御される。したがって、掘削対象が深掘りされてしまうことが抑制され、掘削対象は所望の形状に掘削される。
【0122】
また、本実施形態においては、特定部位高さHaに基づいて、目標シリンダ速度が補正されて補正シリンダ速度が算出され、補正シリンダ速度でリフトシリンダ25が駆動するように、制御指令が出力される。これにより、油圧に起因する制御遅れが生じる可能性がある場面においても、刃先19Pが設計面ISに追従するようにブレード19が制御される。したがって、掘削対象が深掘りされてしまうことが抑制され、掘削対象は所望の形状に掘削される。
【0123】
[他の実施形態]
なお、上述の実施形態においては、作業車両1がブルドーザである例について説明した。作業車両1は、ブレードを有するモータグレーダでもよい。
【符号の説明】
【0124】
1…作業車両、2…車体、3…走行装置、4…作業機、5…油圧シリンダ、6…位置センサ、7…傾斜センサ、8…速度センサ、9…作動量センサ、10…ブレード制御装置、11…運転室、12…エンジン室、13…シート、14…操作装置、15…駆動輪、16…遊動輪、17…履帯、18…リフトフレーム、19…ブレード、19P…刃先、20…球関節部、21…ピッチ支持リンク、22…支柱部、23…自在継手、24…ピッチング継手、25…リフトシリンダ、26…アングルシリンダ、27…チルトシリンダ、28…制御弁、30…目標高さ生成装置、31…設計面データ記憶部、32…車両データ記憶部、33…データ取得部、34…目標高さ算出部、101…設計面取得部、102…変曲位置探索部、103…特定部位高さ算出部、104…目標シリンダ速度算出部、105…車体位置取得部、106…車体角度取得部、107…作動量取得部、108…車両データ取得部、109…実高さ算出部、110…目標高さ取得部、111…補正ピッチ角度算出部、112…目標高さ補正部、113…補正シリンダ速度算出部、114…制御指令出力部、AX…回転軸、BX…回転軸、CX…回転軸、F1…第1面、F2…第2面、IS…設計面、L…ストローク長、PA…観測ピッチ角度、α…傾斜角度、β…傾斜角度(設計面ピッチ角度)、θ…リフト角。
図1
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図12