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特許7175110窒化アルミニウム組成物及びその製造方法、前記窒化アルミニウム組成物を含有する複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム組成物及びその製造方法、前記窒化アルミニウム組成物を含有する複合体
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20221111BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221111BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20221111BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20221111BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C01B21/072 Z
C01B21/072 G
C08L101/00
C08K3/28
C08K7/04
D01F9/08 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018124481
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020001981
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-280022(JP,A)
【文献】特開平11-130411(JP,A)
【文献】米国特許第05876682(US,A)
【文献】米国特許第05525320(US,A)
【文献】特表2011-523928(JP,A)
【文献】特開平03-137009(JP,A)
【文献】国際公開第03/097527(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/141783(WO,A1)
【文献】特開平03-076820(JP,A)
【文献】国際公開第2006/103930(WO,A1)
【文献】末廣隆之 ほか,ガス還元窒化反応によるAlN繊維の合成に及ぼす原料特性の影響,Journal of the Ceramic Society of Japan,2002年,Vol.110, No.1,pp.67-69,DOI:10.2109/jcersj.110.67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
D01F 9/08 - 9/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、
(iv)前記窒化アルミニウム前駆体を、窒化物ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、
を含む、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物の製造方法。
【請求項2】
(i)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、
(iv)前記窒化アルミニウム前駆体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、
を含む、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム組成物、窒化アルミニウム繊維、有機樹脂中に前記窒化アルミニウム組成物又は前記窒化アルミニウム繊維を含有する複合体及び前記窒化アルミニウム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは高電気絶縁性、高熱伝導性、耐衝撃性、耐酸性、耐プラズマ性を有し、線膨張係数が低い材料であることが知られている。そのため、窒化アルミニウムからなる組成物(例えば繊維や粒子など)は放熱材などの様々な産業用途に使用されている。
このような窒化アルミニウム組成物として、例えば、特開平9-314718号公報(特許文献1)には、非晶質アルミナ繊維不織布を、アンモニアガス雰囲気下、1200~1700℃で加熱処理して得られた窒化アルミニウム繊維不織布が開示されている。なお、特許文献1には、不織布に形成する際にバインダーとして微細なアルミナ粒子が液体中に分散したアルミナゾル、または微細なシリカ粒子が液体中に分散したシリカゾルを添加することが好ましいことが開示されている。なお、非特許文献1には、アルミナゾル及びシリカゾルは粒子表面のOH基が乾燥、焼成により結合し硬化することでバインダー性を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-314718号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日揮触媒化成株式会社、シリカゾル・アルミナゾル(<URL>http://www.jgccc.com/products/fine/usage-field/silica-sol-alumina-sol/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の窒化アルミニウム繊維不織布は、構成する窒化アルミニウム繊維の柔軟性が低く、脆いため取り扱い性に問題があった。また、上述の窒化アルミニウム繊維不織布を有機樹脂と複合して複合体にする際に、窒化アルミニウム繊維不織布の形状が崩れ、複合体の熱伝導性が低くなることがあった。
本願出願人らがその理由を確認したところ、窒化アルミニウム組成物に含まれる窒化アルミニウムの結晶子サイズが大きいと、窒化アルミニウムの柔軟性が低くなることを見出した。
【0006】
本発明はこのような状況下でなされたものであり、柔軟性に優れる窒化アルミニウム組成物、窒化アルミニウム繊維、そして、有機樹脂中に柔軟性に優れる前記窒化アルミニウム組成物又は前記窒化アルミニウム繊維を含有することから熱伝導性に優れる複合体及び前記窒化アルミニウム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は「結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物。」である。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は「結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム繊維。」である。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は「有機樹脂中に請求項1に記載の窒化アルミニウム組成物又は請求項2に記載の窒化アルミニウム繊維を含有する、複合体。」である。
【0010】
本発明の請求項4に係る発明は「(i)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、(iv)前記窒化アルミニウム前駆体を、窒化物ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、を含む、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項5に係る発明は「(i)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、(ii)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、(iv)前記窒化アルミニウム前駆体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、を含む、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る窒化アルミニウム組成物は、結晶子サイズの平均値が390Å未満と結晶子サイズが小さい窒化アルミニウムを含有している。そのため、柔軟性に優れ、取り扱い性がよい窒化アルミニウム組成物である。
【0013】
本発明の請求項2に係る窒化アルミニウム繊維は、結晶子サイズの平均値が390Å未満と結晶子サイズが小さい窒化アルミニウムを含有している。そのため、柔軟性に優れ、取り扱い性がよい窒化アルミニウム繊維である。
【0014】
本発明の請求項3に係る複合体は、有機樹脂中に本発明に係る柔軟性に優れる窒化アルミニウム組成物又は窒化アルミニウム繊維を含有しているので、複合体中の窒化アルミニウム組成物または窒化アルミニウム繊維の形状が崩れにくく、伝熱路(パーコレーション)を維持しやすいことから熱伝導性に優れる複合体である。
【0015】
本願出願人らは、アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより調製した、曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製し1300℃以下で焼成する窒化アルミニウム組成物の製造方法によって、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム組成物を提供できることを見出した。そのため、本発明に係る製造方法により、柔軟性に優れ、取り扱い性がよい窒化アルミニウム組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の窒化アルミニウム組成物は、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する。
本発明の窒化アルミニウム組成物の形態は、例えば、球状、板状、燐片状や不定形の粒子、繊維などが挙げられる。例えば、窒化アルミニウム組成物の形態が繊維であると、有機樹脂と複合して複合体を製造した際に、伝熱路(パーコレーション)の形成が容易であり、有機樹脂と複合する窒化アルミニウム繊維が少量でも高い熱伝導性が得られることから、結果として複合体の柔軟性を損ないにくい。そのため、本発明の窒化アルミニウム組成物の形態は、繊維であるのが好ましい。
【0017】
本発明の窒化アルミニウム組成物が繊維である場合、分散性に優れ凝集しにくいことから厚さの薄い複合体を製造しやすいため、窒化アルミニウム繊維の繊維径は細いのが好ましい。例えば、窒化アルミニウム繊維の平均繊維径が3μm以下であると、薄く、均一な物性(例えば機械的強度及び熱伝導性など)を有する複合体を製造しやすい。窒化アルミニウム繊維の平均繊維径が小さければ小さい程、薄く、均一な物性を有する複合体を製造しやすく、近年の軽薄短小化の要望に合う複合体を提供しやすいため、平均繊維径は2μm以下であるのがより好ましく、1μm以下であるのが更に好ましい。一方、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当であり、0.05μm以上であるのが好ましい。なお、「平均繊維径」は、窒化アルミニウム繊維50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は、窒化アルミニウム繊維を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、窒化アルミニウム繊維の長さ方向に対して直交する方向における長さをいう。窒化アルミニウム繊維の断面が円形でない異形断面の場合は、異形断面の断面積を計測し、その断面積を有する円の直径を繊維径とみなす。
【0018】
また、本発明の窒化アルミニウム繊維は熱伝導性に優れるように、実質的に連続繊維であっても良いし、複合体とした場合に、均一に分散しやすい短繊維であっても良い。なお、窒化アルミニウム繊維が「実質的に連続繊維」であるとは、500倍の電子顕微鏡写真を撮影した場合に、過半数の窒化アルミニウム繊維における両端部を確認できないことを意味する。
【0019】
窒化アルミニウム繊維が短繊維である場合には、窒化アルミニウム繊維のアスペクト比が1000以下であるのが好ましい。このようなアスペクト比であると、複合体を製造する場合、窒化アルミニウム繊維が凝集しにくく、全体に均一に分散した複合体を製造しやすいためである。窒化アルミニウム繊維の分散性を考慮すると、アスペクト比は750以下であるのが好ましく、500以下であるのがより好ましく、300以下であるのが更に好ましく、200以下であるのが更に好ましく、100以下であるのが更に好ましい。なお、「アスペクト比」は、窒化アルミニウム繊維の平均繊維長(単位:μm)を平均繊維径(単位:μm)で除した値である。一方で、窒化アルミニウム繊維のアスペクト比の下限は5以上であるのが好ましい。アスペクト比が5以上であると、有機樹脂中に窒化アルミニウム組成物を含有する複合体を製造する場合、繊維径に比して繊維長が長いため、窒化アルミニウム繊維量が少なくても、機械的強度及び熱伝導性などの諸物性に優れる複合体を製造しやすいためである。より好ましくは10以上であり、更に好ましくは20以上であり、更に好ましくは30以上であり、更に好ましくは40以上である。なお、「平均繊維長」は、窒化アルミニウム繊維50本における繊維長の算術平均値をいい、「繊維長」は、窒化アルミニウム繊維を撮影した50~5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、窒化アルミニウム繊維の長さ方向における長さをいう。
【0020】
本発明の窒化アルミニウム繊維が上述のようなアスペクト比1000以下である場合、繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃っているのが好ましい。このように繊維長が揃っていると、複合体を製造する場合、窒化アルミニウム繊維が凝集しにくく、複合体全体に均一に分散していることによって、熱伝導性に優れる複合体を製造しやすいためである。この繊維長のCV値が小さければ小さい程、繊維長が揃っていることを意味するため、繊維長のCV値は0.6以下であるのが好ましく、0.5以下であるのがより好ましく、0.4以下であるのが更に好ましく、0.3以下であるのが更に好ましく、0.2以下であるのが更に好ましく、理想としては0である。この繊維長のCV値は、(繊維長の標準偏差/平均繊維長)で算出できる。なお、「標準偏差」は、平均繊維長測定時の窒化アルミニウム繊維50本の繊維長から得られる値である。
【0021】
本発明の窒化アルミニウム組成物は、窒化アルミニウムのほかに、有機化合物やヒドロキシアパタイトなどの無機成分、あるいは染料等の添加剤を含有していてもよい。
【0022】
本発明の窒化アルミニウム組成物の重量に占める、窒化アルミニウム比率は、熱伝導性に優れるように、85wt%以上が好ましく、90wt%以上がより好ましく、95wt%以上が更に好ましい。
本発明における「窒化アルミニウム比率」は、X線回折装置(卓上X線回折装置MiniFlex600、リガク株式会社製)へ測定対象物を供し測定した結果(測定条件:2θ測定範囲 +3~140°、管電圧:30kV、管電流:15mA)から、参照強度比(RIR)を用いて定量した値を意味する。
【0023】
また、本発明における窒化アルミニウム組成物に含まれる窒化アルミニウムの結晶子サイズの平均値は、柔軟性及び熱伝導性に優れるように、390Å未満であるが、上述の効果が更に発揮できることから、332Å未満がより好ましい。
本発明における「窒化アルミニウムの結晶子サイズの平均値」は、前述したX線回折装置における測定条件で得られた測定結果に基づいて、Scherrer法を用いて、半値幅から求めた結晶子サイズを意味する。つまり、窒化アルミニウムで最も回折強度が強く、均一性の高い(100)面の半値幅を次に示すScherrerの式に代入して、結晶子サイズを求める。なお、標準物質には、LaBを使用する。
Scherrerの式:D=K×λ/(β×cosθ)
D:結晶子サイズ(Å)
K:Scherrer定数(K=0.94)
λ:測定X線波長(Å)
β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり(rad)
θ:回折線のブラッグ角
【0024】
窒化アルミニウム組成物と有機樹脂を複合して複合体とする場合には、窒化アルミニウム組成物と有機樹脂の親和性を高めるために、窒化アルミニウム組成物表面がシランカップリング剤などの表面処理剤によって、改質されていてもよい。
【0025】
本発明の複合体は、有機樹脂中に本発明に係る窒化アルミニウム組成物を含有するものであれば、その形態は特に限定するものではないが、例えば、シート状といった二次元形態や、直方体、円柱、角柱、角錐といった三次元形態などであることが出来る。特に、本発明の複合体が、平均繊維径が3μm以下の窒化アルミニウム繊維、又は平均粒子径が100μm以下の窒化アルミニウム粒子を含んでいると、厚さが1mm以下であるようなシート状の薄膜であることができる。
【0026】
本発明の複合体を構成する有機樹脂の種類は、用途によって異なるため特に限定するものではないが、例えば、複合体を半導体デバイス用途やサーマルプリンタ用途に使用する場合には、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。また、接着剤用途に使用する場合は、スチレン系エラストマー樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。さらに、太陽電池用途に使用する場合には、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などを採用できる。
【0027】
本発明の複合体に占める、窒化アルミニウム組成物の体積割合は、75体積%以下であるのが好ましい。これは、75体積%を超えると複合体の柔軟性が損なわれる傾向があるためで、より好ましくは50体積%以下であり、更に好ましくは45体積%以下であり、更に好ましくは40体積%以下である。一方で、複合体の機械的強度や熱伝導性が優れているように、1体積%以上であるのが好ましく、3体積%以上であるのがより好ましく、5体積%以上であるのが更に好ましい。
この複合体における窒化アルミニウム組成物の体積割合(P)は、次の式(1)によって算出される値である。
P=(F/H)×100 (1)
式中、Fは窒化アルミニウム組成物の体積(cm)、Hは複合体の体積(cm)をそれぞれ意味する。
【0028】
本発明の複合体は、熱伝導率が3W/m・K以上の熱伝導性に優れるものであることが好ましい。より好ましくは3.5W/m・K以上であり、更に好ましくは4W/m・K以上であり、更に好ましくは4.5W/m・K以上であり、更に好ましくは5W/m・K以上である。
この熱伝導率は、次のようにして測定した値をいう。
(熱伝導率の測定方法)
(1)複合体から、たて10mm、よこ10mm、厚さ0.1mm以上の試料片を採取する。
(2)この試料片の熱拡散率、比熱及び密度を次の方法により測定した後、下記式(A)に代入し、試料片(複合体)の熱伝導率(W/m・K)を求める。
<熱拡散率>
キセノンフラッシュアナライザー(登録商標:LFA 467HT HyperFlash、ネッチ・ジャパン株式会社製)を用いて、25℃で測定する。
<比熱>
示差走査熱量計(DSC)を用い、サファイア標準物質との比較により測定する。
<密度>
アルキメデスの原理を用いて測定する。
<熱伝導率>
熱伝導率=(熱拡散率)×(比熱)×(密度) (A)
このような本発明の複合体は常法により製造することができる。例えば、有機樹脂を溶解させた溶解液に、窒化アルミニウム組成物を添加し、分散液を調製した後、分散液を成型または支持体に塗工し、分散液に含まれる溶媒を除去し、続いて、支持体から剥離することで複合体を製造することができる。
【0029】
また、有機樹脂を溶融させた溶融液に、窒化アルミニウム組成物を添加し、分散液を調製した後、成形して、複合体を製造することもできる。
更に、有機樹脂を溶解させた溶液を、窒化アルミニウム繊維シートに含浸又は塗布し、乾燥して、複合体を製造することができる。或いは、前記と同様の溶液を支持体に塗布した後、塗布液上に窒化アルミニウム繊維シートを乗せ、必要であれば、窒化アルミニウム繊維シートに前記と同様の溶液を塗布し、乾燥して、複合体を製造することができる。
【0030】
本発明における、窒化アルミニウム組成物の製造方法は、
(i)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、
(ii)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、
(iv)前記窒化アルミニウム前駆体を、窒化物ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、
または、
(i´)アルミニウムアルコキシド溶液を用意する工程、
(ii´)前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(iii´)前記曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する工程、
(iv´)前記窒化アルミニウム前駆体と窒化物を、不活性ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成する工程、
を含む。
【0031】
本発明の製造方法によれば、アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより調製した、曳糸性ゾル溶液から窒化アルミニウム前駆体を調製し、前記窒化アルミニウム前駆体を窒化物ガスまたは不活性ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成して窒化アルミニウムを製造することから、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物を製造することができる。また、従来窒化アルミニウムを製造する際の焼成温度よりも低温で焼成しても窒化アルミニウムを製造できる。さらに、低温で焼成して窒化アルミニウムを製造することで、結晶子サイズの小さい窒化アルミニウムを製造できる。
【0032】
具体的には、まず、アルミニウムアルコキシド溶液を用意する。
前記アルミニウムアルコキシド溶液は、溶媒[例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)]、前記アルミニウムアルコキシド溶液に含まれるアルミニウムアルコキシドを加水分解するための水、及び触媒(例えば、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなど)を含んでいることができる。
【0033】
その他、前記アルミニウムアルコキシド溶液には、窒化アルミニウム前駆体と反応するヒドラジン、ジエタノールアミンなどの窒化物、柔軟性調整などの各種機能を付与するための有機化合物(例えば、ポリビニルピロリドン)、ヒドロキシアパタイトなどの無機成分、あるいは染料等の添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの添加剤は、後述する加水分解を行う前、加水分解を行う際、あるいは加水分解後に添加することができる。
【0034】
さらに、前記アルミニウムアルコキシド溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいてもよい。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化イットリウム、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001~1μm、より好ましくは0.002~0.1μmである。
【0035】
次に、前記アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製する。
アルミニウムアルコキシド溶液に含まれるアルミニウムアルコキシドを加水分解するための水の量は、アルミニウムアルコキシドの分子構造によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートの場合、曳糸性ゾル溶液とすることができるように、水の量はアルコキシドの4倍モル以下であるのが好ましい。
【0036】
また、アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させる際の溶液の反応温度は、低くすることで加水分解の速度を落としてゾルが高次元になることを抑制し、低温で焼成しても窒化アルミニウムを製造しやすくなることから、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましい。一方、溶液の反応温度が低過ぎると、反応時に使用する反応釜やフラスコ中の大気に含まれる水蒸気が液化して水になり、前記水が溶液に混入し加水分解反応が急速に進行するおそれがあることから、0℃以上が好ましい。
【0037】
さらに、加水分解に続く縮重合の際の溶液の反応温度は、加水分解時の温度よりも高ければよく、特に限定するものではないが、25℃以上で実施すれば、効率的に縮重合させることができる。
【0038】
なお、「曳糸性」の有無は、以下の(判定法)に示す条件で判断できる。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から紡糸溶液(固形分濃度:10~50wt%)を吐出する(吐出量:0.5~1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1~3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上連続して紡糸し、金属板上に繊維を集積させる。
この集積した繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上の繊維を製造できる条件が存在する場合、その紡糸溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記繊維を製造できる条件が存在しない場合、その紡糸溶液は「曳糸性なし」と判断する。
次に、曳糸性ゾル溶液を用いて窒化アルミニウム前駆体を調製する。曳糸性ゾル溶液から窒化アルミニウム前駆体を調製する方法は、特に限定するものではない。窒化アルミニウム繊維を製造する場合は、例えば、静電紡糸法や、特開2009-287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法によって窒化アルミニウム前駆体を調製することができる。これらの中でも静電紡糸法によれば、平均孔径が小さく、孔径の揃った窒化アルミニウム前駆体から構成された繊維シートを形成できるため、短繊維の窒化アルミニウム繊維を製造する場合に好適である。つまり、静電紡糸法により形成した窒化アルミニウム前駆体で構成された繊維シートは、前述の通り、平均孔径が小さく、孔径が揃った、窒化アルミニウム前駆体で構成された繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃った状態にある。そのため、この窒化アルミニウム前駆体で構成された繊維シートを焼成してなる窒化アルミニウム繊維シートも同様の状態にある。そのため、窒化アルミニウム繊維シートに対して、窒化アルミニウム繊維の配向を変えないように、プレス機により加圧すると、窒化アルミニウム繊維同士の交差点が強く加圧され、窒化アルミニウム繊維同士の交差点で破断されやすいため、繊維長の揃った窒化アルミニウム短繊維を製造できる。つまり、窒化アルミニウム繊維同士の交差点は窒化アルミニウム繊維同士が重なって、微視的には、窒化アルミニウム繊維シートの厚さが厚くなった箇所に相当するため、プレス機による圧力は窒化アルミニウム繊維同士の交差点に対して優先的に作用する。したがって、繊維長の揃った窒化アルミニウム短繊維を製造できる。
【0039】
この曳糸性ゾル溶液を静電紡糸する際の曳糸性ゾル溶液の粘度は、効率よく静電紡糸できるように、0.01~10Pa・sであるのが好ましく、0.05~5Pa・sであるのがより好ましく、0.1~3Pa・sであるのが更に好ましい。粘度が10Pa・sを超えると、静電紡糸を行う際に細い繊維を紡糸しにくく、0.01Pa・s未満になると繊維形状自体が得られなくなる傾向があるためである。なお、曳糸性ゾル溶液の紡糸を、ノズルを用いて行う場合には、ノズル先端部分における雰囲気をアルミニウムアルコキシド溶液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、粘度が10Pa・sを超える曳糸性ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0040】
その後、窒化アルミニウム前駆体を窒化物ガス又は不活性ガス雰囲気下、1300℃以下で焼成することで窒化アルミニウム化して、結晶子サイズの平均値が390Å未満である窒化アルミニウムを含有する、窒化アルミニウム組成物を製造することができる。
なお、ここでいう「窒化物ガス」とは、分子中に窒素原子と窒素原子と結合するほかの原子を有する分子を含むガスのことをいい、例えば、アンモニアガスが挙げられる。また、「不活性ガス」とは、他の物質と反応しない、もしくは非常に反応しにくい分子で構成されたガスのことをいい、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。前記窒化アルミニウム前駆体を不活性ガス雰囲気下で焼成する場合は、ヒドラジンやジエタノールアミンなどの、窒化アルミニウム前駆体と反応する窒化物を含んだ状態で焼成する必要がある。なお、前記窒化アルミニウム前駆体を窒化物ガス雰囲気下で焼成する場合に、窒化アルミニウム前駆体と反応する窒化物を含んでいてもよい。
【0041】
この焼成は、例えば、オーブン、焼成炉を用いて実施することができる。焼成温度が低いと結晶子の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい窒化アルミニウムが実現できることから、焼成温度は1200℃以下がより好ましく、1150℃以下が更に好ましい。焼成温度の下限は、窒化アルミニウムが生成できれば特に限定されるものではないが、窒化アルミニウム前駆体に含まれる有機成分が分解されるように、600℃以上が好ましい。焼成時間は、十分に窒化アルミニウム化させて、優れた熱伝導性を発揮できるように、また、窒化アルミニウムの結晶が成長しすぎて窒化アルミニウムの結晶子サイズの平均値が390Å以上になることがないように適宜調整するが、具体的には、1~5時間であるのが好ましく、1~3時間であるのがより好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
(実施例1)
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、硝酸イットリウム、水、2-プロパノールを1:0.03:1.5:20のモル比になるように、溶液の温度0℃で混合し、24時間攪拌してアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートを加水分解させた。その後、温度70℃で24時間加熱攪拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより焼成後に生成する窒化アルミニウムが混合液の20wt%となる濃度になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性ゾル溶液を得た。
その後、前記曳糸性ゾル溶液を用い、以下に示す静電紡糸条件で紡糸し集積することで、窒化アルミニウム前駆体連続繊維シートを調製した。
<静電紡糸条件>
・電極:金属製ノズル
・捕集体:アースしたドラム
・ノズルからの吐出量:1.0g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/30%RH
最後に、前記窒化アルミニウム前駆体連続繊維シートをアンモニアガス雰囲気下、1150℃で5時間焼成し、平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートA1を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートA1における窒化アルミニウム比率は、97wt%であった。
【0044】
(実施例2)
焼成温度が1300℃であったことを除いては、実施例1と同様にして平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートA2を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートA2における窒化アルミニウム比率は、96wt%であった。
【0045】
(比較例1)
焼成温度が1500℃であったことを除いては、実施例1と同様にして平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートA3を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートA3における窒化アルミニウム比率は、80wt%であった。
【0046】
(実施例3)
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、水、2-プロパノールを1:1.5:20のモル比になるように、溶液の温度0℃で混合し、24時間攪拌してアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートを加水分解させた。その後、温度70℃で24時間加熱攪拌して、縮重合させた。そして、エバポレータにより焼成後に生成する窒化アルミニウムが混合液の20wt%になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性ゾル溶液を得た。
その後、前記曳糸性ゾル溶液を用い、実施例1と同様の静電紡糸条件で紡糸し集積した後、実施例1と同様の焼成条件で焼成し、平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートB1を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートB1における窒化アルミニウム比率は、98wt%であった。
【0047】
(比較例2)
焼成温度が1300℃であったことを除いては、実施例3と同様にして平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートB2を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートB2における窒化アルミニウム比率は、85wt%であった。
【0048】
(比較例3)
焼成温度が1500℃であったことを除いては、実施例3と同様にして平均繊維径0.6μmの窒化アルミニウム連続繊維シートB3を得た。なお、窒化アルミニウム連続繊維シートB3における窒化アルミニウム比率は、95wt%であった。
【0049】
(比較例4)
アルミナ短繊維(デンカアルセン(登録商標)、デンカ株式会社製)をアンモニアガス雰囲気下、1150℃で5時間焼成した。しかし、アルミナが窒化アルミニウムに変化せず、窒化アルミニウム繊維を得ることができなかった。
【0050】
(参考例1)
市販の窒化アルミニウム粉末(Hグレード、トクヤマ株式会社製、窒化アルミニウム比率:98wt%)を準備した。
【0051】
(参考例2)
市販の窒化アルミニウムウィスカー(株式会社U-MaP社製、窒化アルミニウム比率:98wt%)を準備した。
【0052】
実施例1~3、比較例1~3及び参考例1~2で調製あるいは準備した窒化アルミニウムの結晶子サイズの平均値の測定を行い、その測定結果を、表1にまとめた。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から、アルミニウムアルコキシド溶液中のアルミニウムアルコキシドを加水分解させ縮重合させることにより調製した曳糸性ゾル溶液を用いることによって、窒化アルミニウム組成物における窒化アルミニウム比率が80wt%以上であり、結晶子サイズの平均値が390Å未満と、結晶子サイズが小さい窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム組成物を提供できた。
【0055】
(窒化アルミニウム連続繊維シートの曲げ強度、曲げたわみ量の評価)
実施例および比較例の各窒化アルミニウム連続繊維シートの曲げ強度、曲げたわみ量を、荷重変位測定装置(荷重変位測定ユニット FSA-1KE-5N、株式会社イマダ製)を使用して、以下の測定方法に基づいて測定した。
<曲げ強度、曲げたわみ量の測定方法>
(1)窒化アルミニウム連続繊維シートから、たて40mm×よこ7mmの試験片を各々5枚採取した。
(2)先端が2±0.2mmの丸みを有する金属製棒状支点を2つ用意し、2つの棒状支点間距離が16mmとなるように、棒状支点を平行に配置した。
(3)試験片を、2つの棒状支点間を跨ぐように、棒状支点上に配置した。
(4)配置した試験片における棒状支点間の中心部分に対して、先端が5±0.1mmの丸みを有する金属製棒状加圧くさびを用いて、速度1mm/min.で加圧し、試験片の中心部分に折れが生じた時の荷重を0.001N単位で測定した。
(5)上記結果をもとに、次の式から曲げ強度(S、単位:MPa)を算出した。
S=3PL/(2Wh
ここで、Pは試験片の中心部分に折れが生じた時の荷重(単位:N)、Lは棒状支点間距離(=16mm)、Wは試験片の幅(=7mm)、hは試験片の厚さ(単位:mm)を、それぞれ意味する。
(6)前記曲げ強度の測定を5枚の試験片に対して行ない、その算術平均値を「曲げ強度」とした。
(7)また、上記曲げ強度の測定において、試験片の中心部分に折れが生じた時の棒状加圧くさびによる押し込み量(=試験片の上面又は下面の初期位置と折れた位置との距離)を曲げたわみ量(mm)とした。
(8)5枚の試験片から得られた曲げ強度及び曲げたわみ量の算術平均値を「曲げたわみ量」とした。
【0056】
実施例および比較例の各窒化アルミニウム連続繊維シートの曲げ強度、曲げたわみ量の評価結果を、表2に示す。なお、比較例の窒化アルミニウム連続シートは、もろく柔軟性がないため試験片の採取自体ができず、曲げ強度・曲げたわみ量の測定を行うことができなかった。
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から、結晶子サイズのより小さい窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム組成物は、より柔軟性に優れるものであることがわかった。特に結晶子サイズの平均値が390Å未満であるとより柔軟性に優れ、取り扱い性がよい窒化アルミニウム組成物であることがわかった。
【0059】
(実施例4)
窒化アルミニウム連続繊維シートA1から、質量約1gの窒化アルミニウム繊維シート片を複数枚採取した。続いて、これらの窒化アルミニウム繊維シート片を重ねて、1.5cmの厚さとした後、プレス機により、5.5MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、繊維状窒化アルミニウムフィラーA1(平均繊維長:0.8μm、アスペクト比:20、繊維長のCV値:0.4)を調製した。
次に、前記繊維状窒化アルミニウムフィラーA1を、シリコーン樹脂に混合し、攪拌機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した。その後、前記繊維状窒化アルミニウムフィラーA1とシリコーン樹脂の混合物を平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度100℃で180分間の乾燥を行った後、ガラス板上から剥離し、繊維状窒化アルミニウムフィラーA1分散シリコーン複合体を調製した。なお、繊維状窒化アルミニウムフィラーA1分散シリコーン複合体における繊維状窒化アルミニウムフィラーA1の体積割合は40体積%であった。
【0060】
(実施例5)
窒化アルミニウム連続繊維シートB1から、質量約1gの窒化アルミニウム繊維シート片を複数枚採取した。続いて、これらの窒化アルミニウム繊維シート片を重ねて、1.5cmの厚さとした後、プレス機により、5.0MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、繊維状窒化アルミニウムフィラーB1(平均繊維長:0.8μm、アスペクト比:20、繊維長のCV値:0.4)を調製した。その後、実施例4と同じ方法で混合、製膜、乾燥、剥離を行うことで、繊維状窒化アルミニウムフィラーB1分散シリコーン複合体を調製した。なお、繊維状窒化アルミニウムフィラーB1分散シリコーン複合体における繊維状窒化アルミニウムフィラーB1の体積割合は40体積%であった。
【0061】
(比較例5)
実施例4,5で使用したシリコーン樹脂と同じシリコーン樹脂を用いて、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度100℃で180分間の乾燥を行ってガラス板上から剥離し、シリコーンシートを調製した。
【0062】
(複合体及びシリコーンシートの熱伝導率の評価)
実施例4,5の複合体及び比較例5のシリコーンシートからたて10mm、よこ10mm、厚さ0.3mmの試験片を採取した。採取した試験片の、厚さ方向における熱伝導率の測定をそれぞれ行った。
熱伝導率の評価結果を、表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果から、有機樹脂中に本発明に係る窒化アルミニウム組成物を含有する実施例の複合体は、熱伝導性に優れるものであった。
このことから、柔軟性に優れる窒化アルミニウム組成物を含有する本発明の複合体は、熱伝導性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の窒化アルミニウム組成物、窒化アルミニウム繊維は柔軟性に優れ、取り扱い性がよく、また、本発明の前記窒化アルミニウム組成物又は前記窒化アルミニウム繊維が有機樹脂中に含まれる複合体は熱伝導性に優れるものである。そのため、これらの物性を必要とする用途、例えば、半導体デバイス用途、サーマルプリンタ用途、接着剤用途、太陽電池用途などに使用することができる。