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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/08 20060101AFI20221111BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B43K1/08 100
B43K7/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018130104
(22)【出願日】2018-07-09
(65)【公開番号】P2020006589
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 節
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142114(JP,A)
【文献】特開2001-080260(JP,A)
【文献】特開2001-80262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンからなる硬質相成分、コバルト及びニッケルからなる群のうちの少なくとも1つからなる結合相成分、クロム並びにモリブデンを含有する混合物からなる筆記ボールを有するボールペンチップと、
樹脂粒子が配合された水性インク組成物と、を備えることを特徴とする水性ボールペン。
【請求項2】
前記樹脂粒子は、スチレンアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の水性ボールペン。
【請求項3】
前記水性インク組成物に占める前記樹脂粒子の含有量は0.5~10.0質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質相成分及び結合相成分を有する筆記ボールを備えた水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンのボールを構成する材質として、下記特許文献1~3のように、超硬合金やセラミックなどが広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭52-106235号公報
【文献】特開2002-19366号公報
【文献】特開2015-51571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タングステンカーバイドを主体とした超硬合金から構成されるボールを用いたボールペンは広く知られている。また、これらのボールがボールペンの性能に与える影響も広く知られている。
【0005】
また、主にチタンのような金属の炭化物や窒化物など硬質化合物の粉末を金属の結合材と混合して焼結した複合材料である、いわゆるサーメットと称される材質からなるボールを用いたボールペンでは、筆記をすることで、ボールを保持するボールペンチップのボール受座にチタン成分が堆積し、それにより引っかかり感のような筆記感の悪化がもたらされることがある。
【0006】
本発明では、上記したようなサーメットを材質とする筆記ボールを用いた水性ボールペンにおいて、筆記によってチタン成分がボール受座に堆積することによって悪化した筆記感の改善を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の第1の態様に係る水性ボールペンは、炭窒化チタンからなる硬質相成分、コバルト及びニッケルからなる群のうちの少なくとも1つからなる結合相成分、クロム並びにモリブデンを含有する混合物からなる筆記ボールを有するボールペンチップと、
樹脂粒子が配合された水性インク組成物と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様に係る水性ボールペンは、上記第1の態様の特徴に加え、前記樹脂粒子は、スチレンアクリル樹脂であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の第3の態様に係る水性ボールペンは、上記第1又は第2の態様の特徴に加え、前記水性インク組成物に占める前記樹脂粒子の含有量は0.5~10質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成されているので、本発明は、いわゆるサーメットと称される材質からなる筆記ボールを用いた水性ボールペンにおいて、筆記によってチタン成分がボール受座に堆積することによって悪化した筆記感を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る水性ボールペンを正面断面図で示したものである。
図2】本発明の実施の形態に係る水性ボールペンのボールペンチップ先端付近を拡大して正面断面図で示したものである。
図3】本発明の別の実施の形態に係る水性ボールペンに内蔵されるリフィルを正面断面図で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の1の実施の形態を説明する。
【0013】
(1)水性ボールペン10
本実施の形態に係る水性ボールペン10は、図1に示すようなボールペンであり、先端が開放し、後端が閉鎖した筒状の軸筒12と、この軸筒12の先端に継手11を介して装着されるボールペンチップ20と、この軸筒12の内部空間の前半部に当たるコレクター収納部14の軸心を貫通するインク誘導部13と、この軸筒12の内部空間の後半部に当たるインク収容部15の内部空間に収容される直液状態の水性インク組成物40と、ボールペンチップ20の先端からコレクター収納部14の後端付近までを被蓋する図示しないキャップとから構成されている。
【0014】
コレクター収納部14の内面から、インク誘導部13の外面にかけては、リング状の薄板を軸方向に重ねたコレクター17が形成されている。コレクター17は、直液式ボールペンにおいて、気圧や温度の変化でインク収容部15の空気が膨張した際、水性インク組成物40を保留し、外部への漏れを防止するためのものである。
【0015】
なお、水性インク組成物40は、直液式による供給ではなく中綿式での供給であってもよい。また、別体のリフィル18(図3参照)に収容してもよい。
【0016】
図2に、ボールペンチップ20先端付近の拡大断面図を示す。ボールペンチップ20は、図示しない円筒状の胴体部と、この胴体部の先端からボールペンチップ20の先端に向かって縮径するように形成されたテーパー部27とを有するホルダー21と、ホルダー21の内部に抱持される球状の筆記ボール30から構成されている。また、ホルダー21は、ボールペンチップ20の後端から貫通されたインク誘導孔26と、ホルダー21の先端付近の内周を切削して拡げて形成したボールハウス22と、ボールハウス22の内周面先端とテーパー部27の先端とに挟まれた部位で、かつ、筆記ボール30の中心方向への塑性変形によってかしめられたカシメ部23から構成されている。また、ボールハウス22の底部に設けられ、かつ、インク誘導孔26の周囲に形成されたボール受座24と、ボール受座24とインク誘導孔26とを連絡するようにインク誘導孔26の周囲4箇所に等配されたインク溝25を有している。なお、インク溝25は水性インク組成物40の粘度等に応じて幅や数を変えてもよい。
【0017】
ホルダー21の組み立ての際は、その先端からボールハウス22に、筆記ボール30を挿入する。そして、筆記ボール30の上部を後端方向に押圧することによって、ボール受座24を筆記ボール30の外形に沿って変形させる。その後、テーパー部27の先端にテーパー状のローラーを用いてかしめ加工を施してカシメ部23を設けることでホルダー21が形成される。
【0018】
このホルダー21は、ビッカース硬度が200から420程度のステンレスから形成されている。ホルダー21の材料は、他に洋白、真鍮、又は黄銅などの金属や樹脂を用いて形成することもできるが、ビッカース硬度は170から450であることが望ましい。
【0019】
さらに、ホルダー21は本実施の形態では、中実の線材からの切削加工にて形成されているが、線材からの切削加工に限定されず、たとえば中空状のパイプ材を塑性加工にて形成されてもよい。
【0020】
(2)筆記ボール30
本実施形態の筆記ボール30は、主成分として炭窒化チタン(TiCN)からなる硬質相成分と、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群のうちの少なくとも1つからなる結合相成分と、クロム(Cr)と、モリブデン(Mo)と、を含有する混合物からなる。この混合物は、いわゆるサーメットと称されるものである。ここで、上記にて言及されている金属元素に関しては、単体であっても、化合物であってもいずれでもよい。
【0021】
硬質相成分が筆記ボール30の全体に占める割合は70質量%以上であることが望ましい。なお、上記した以外の成分として前記混合物に炭化タングステン(WC)が含有される場合、その含有量は15質量%以下であることが望ましい。
【0022】
そして、前記した硬質相成分、結合相成分、クロム及びモリブデンの材料粉末、並びにそれ以外の成分がある場合にはその成分の材料粉末を粉砕混合した混合物を、略球状に形成した後、焼結して球体に形成する。そして、得られた球体を、一定間隔に保持した2枚の砥石の間でダイヤモンドパウダーとともに転がし、ボール表面31を鏡面に仕上げることで、筆記ボール30が形成される。このボール表面31のビッカース硬度(Hv)は1,600~2,000である。
【0023】
(3)水性インク組成物40
本実施形態の水性インク組成物40は、樹脂粒子が配合された水性インクである。この樹脂粒子とは、合成樹脂を粒子化したものである。前記樹脂粒子の材料である合成樹脂は、後述の粒子径であればその種類は特に限定されないが、後述する「コロ」のような役割を果たすのに適した硬さを有していることから、スチレンアクリル樹脂が好ましい。
【0024】
また、水性インク組成物40は、前記樹脂粒子以外にも、エチレングリコール、グリセリン又はプロピレングリコールのような溶剤、水及び各種添加剤(顔料分散剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、pH調整剤等)を成分として適宜含有している。
【0025】
なお、水性インク組成物40は、いわゆるゲルインクであってもよい。このようなゲルインクとしての水性インク組成物40は、図3に示すような、リフィル18に収容される。リフィル18は、水性インク組成物40を収容する長軸円筒状のインク収容部15の先端に、継手11を介してボールペンチップ20が装着された構造を有する。ボールペンチップ20の構造は図2に示すとおりである。なお、水性インク組成物40の後端には、水性インク組成物40がインク収容部15の後端から流出するのを防止するために、グリース状のフォロワー41が注入されている。このフォロワー41は、筆記によって水性インク組成物40が消費されていくのに伴い、先端方向へ追随していく。このリフィル18は、図示しない軸筒に装着され、水性ボールペン10として使用可能となる。
【0026】
(4)作用及び効果
筆記の際、インク収容部15の水性インク組成物40は、図1に示すような水性ボールペン10の場合、インク誘導部13、インク誘導孔26及びインク溝25を通じてボールハウス22に送られ、ボールハウス22に収容された筆記ボール30に十分に供給される。一方、図3に示すようなリフィル18の場合、インク収容部15の水性インク組成物40は、継手11、インク誘導孔26及びインク溝25を通じてボールハウス22に送られ、ボールハウス22に収容された筆記ボール30に十分に供給される。いずれの場合も、筆記ボール30の回転により、ボール表面31に供給された水性インク組成物40が紙等の記録体に転写若しくは浸透し、筆記が完了となる。
【0027】
ここで、筆記ボール30は、前記したようなサーメットを材質とするものであり、これに対し、水性インク組成物40を使用した場合、筆記ボール30の摩耗により生じたチタン粒子がボール受座24に堆積し、それによりボール受座24の表面に凹凸が生じ、これが、引っかかり感のような筆記感の悪化をもたらす。
【0028】
水性インク組成物40に含有される樹脂粒子は、そのような悪化した筆記感を改善するために水性インク組成物に配合される。このような樹脂粒子は、貼り付いたチタン粒子により凹凸が生じたボール受座24の表面と、ボール表面31との間で「コロ」のような役割を果たすことで、筆記感の改善に寄与するものと推測される。
【0029】
この樹脂粒子の好適な平均粒子径は、0.08~2.5μmであり、より好ましくは0.08~1.0μm、さらに好ましくは0.08~0.6μmである。この樹脂粒子により得られる筆記感の改善効果は平均粒子径には大きく依存しないが、平均粒子径が1μmを超えると樹脂粒子の分散安定性を保つのが難しくなるため、実用的には1μm以下が好ましい。
【0030】
前記水性インク組成物40に占める前記樹脂粒子の好適な含有量については、0.5質量%未満では、上記したような筆記感の向上に十分な効果が得られにくい。また、10.0質量%を超えても上記したような筆記感の向上に対する効果は変わらないが、水性インク組成物40の供給が損なわれることがあり好ましくない。よって、筆記感の向上も含めた水性ボールペン10の機能に鑑みれば、前記水性インク組成物40に占める前記樹脂粒子の好適な含有量は、0.5~10.0質量%が望ましく、より好ましくは1.0~5.0質量%。さらに好ましくは2.0~4.0質量%である。
【実施例
【0031】
(1)筆記ボール30
下記の組成による5種類の筆記ボール30を、前記した方法にて製造した。
【0032】
(1-1)ボール1
以下の組成の混合物を、前記した方法にて筆記ボール30として形成したものをボール1とした。
TiCN(硬質相成分):70質量%
Ni:(結合相成分)12質量%
Cr:6質量%
MoC:12質量%
なお、このボール1は、下記の実施例1、2、7~9及び13並びに比較例1及び2で使用した。
【0033】
(1-2)ボール2
以下の組成の混合物を、前記した方法にて筆記ボール30として形成したものをボール2とした。
TiCN(硬質相成分):85質量%
Ni(結合相成分):8質量%
Cr:3質量%
Mo:4質量%
なお、このボール2は、下記の実施例3及び10で使用した。
【0035】
(1-4)ボール
以下の組成の混合物を、前記した方法にて筆記ボール30として形成したものをボール4とした。
TiCN(硬質相成分):85質量%
Co(結合相成分):8質量%
Cr:3質量%
Mo:4質量%
なお、このボール4は、下記の実施例5で使用した。
【0036】
(1-5)ボール5
以下の組成の混合物を、前記した方法にて筆記ボール30として形成したものをボール5とした。
TiCN(硬質相成分):70質量%
Ni(結合相成分):8質量%
Cr:3質量%
Mo:4質量%
WC:15質量%
なお、このボール5は、下記の実施例6で使用した。
【0037】
(2)実施例及び比較例
以下、各実施例及び比較例において、使用した水性インク組成物40の組成を示す。
【0038】
なお、各組成に示す成分は、下記の製品又は物質を使用した。
顔料:FUJI RED 2510(冨士色素)
顔料分散剤:ジョンクリル61J(BASF JAPAN)
増粘剤:プライマルTT-615(会合型増粘剤、ダウ・ケミカル)
潤滑剤:プライサーフA219B(第一工業製薬)
防腐剤:バイオデン421(日本曹達)
防錆剤:ベンゾトリアゾール
pH調整剤:トリエタノールアミン
水溶性有機溶剤:プロピレングリコール
水:イオン交換水
【0039】
また、各組成で樹脂粒子として使用した樹脂は、以下のとおりである。
MG-161E:スチレンアクリル樹脂、平均粒子径0.1μm、固形分20質量%(日本ペイント)
FS-102E:スチレンアクリル樹脂、平均粒子径0.08μm、固形分20質量%(日本ペイント)
OP-84J:スチレンアクリル樹脂中空粒子、平均粒子径0.55μm、固形分40質量%(日本ペイント)
ケミパールW900:ポリエチレン樹脂、平均粒子径0.6μm、固形分40質量%(三井化学)
ケミパールW500:ポリエチレン樹脂、平均粒子径2.5μm、固形分40質量%(三井化学)
MG-155E:アクリル樹脂、平均粒子径0.1μm、固形分20質量%(日本ペイント)
【0040】
なお、上記した樹脂粒子の平均粒子径は、粒子径分布解析装置(HRA9320-X100、日機装)を用いて、屈折率1.81にて、体積基準で算出されたD50の値として求めたものである。
【0041】
(2-1)実施例1
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(MG-161E):15.0質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:53.6質量%
【0042】
(2-2)実施例2
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(FS-102E):15.0質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:53.6質量%
【0043】
(2-3)実施例3
実施例1と同じ。
【0045】
(2-5)実施例5
実施例1と同じ。
【0046】
(2-6)実施例6
実施例2と同じ。
【0047】
(2-7)実施例7
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(OP-84J):7.5質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:61.1質量%
【0048】
(2-8)実施例8
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(ケミパールW900):7.5質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:61.1質量%
【0049】
(2-9)実施例9
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(ケミパールW500):7.5質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:61.1質量%
【0050】
(2-10)実施例10
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(MG-155E):15.0質量%(正味の樹脂含有量:3.0質量%)
水:53.6質量%
【0053】
(2-13)実施例13
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
増粘剤:1.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
樹脂(MG-161E):20.0質量%(正味の樹脂含有量:4.0質量%)
水:47.6質量%
【0054】
(2-14)比較例1
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
水:68.6質量%
【0055】
(2-15)比較例2
顔料:8.0質量%
顔料分散剤:6.0質量%
増粘剤:1.0質量%
潤滑剤:0.5質量%
防腐剤:0.2質量%
防錆剤:0.3質量%
pH調整剤:1.4質量%
水溶性有機溶剤:15.0質量%
水:67.6質量%
【0056】
(3)筆記感試験
上記した各種筆記ボール30を装着したボールペンチップ20と、上記した各種水性インク組成物40を備えた、各実施例及び比較例に係る水性ボールペン10を、JIS S6054-2000の規定に基づき機械筆記を400m行った後の筆記感を評価した。具体的には、室温25℃、湿度60%の環境において、試験者が機械筆記前の水性ボールペン10による試し書きを行ってから、自動筆記試験機を用いて、下記条件にて、機械筆記を400m行った。
筆記力:1N
筆記角度:60°
筆記速度:4.5m/分
筆記パターン:線ピッチ3mmで円周100mmの連続筆記
【0057】
上記機械筆記後、再び試験者が前記と同様に試し書きを行い、機械筆記前との筆記感の違いを下記基準に従って官能評価した。
A:筆記感に変化なし。
B:僅かに引っかかり感が生じた。
C:弱い引っかかり感は生じたが、筆記描線に影響はない。
D:著しいひっかかり感が発生し、筆記描線が途切れる場合がある。
【0058】
上記官能評価の結果を、各実施例及び比較例の概要とともに下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
まず、平均粒子径0.1μmのスチレンアクリル樹脂粒子を3.0質量%含有する水性インク組成物40を収容し、筆記ボール30として前記ボール1を使用した実施例1の水性ボールペン10では、筆記感の評価がAと優れていた。なお、このボール1は、硬質相成分としてTiCNを70質量%、及び、結合相成分としてNiを12質量%それぞれ含有するものであるが、樹脂粒子を含有しない以外は実施例1と同条件の比較例1の水性ボールペンでは筆記感の評価がDと極めて劣っていたことと比較すると、硬質相成分であるチタン粒子により悪化した筆記感が、樹脂粒子を水性インク組成物40に含有させることで改善していることが明らかに認められた。
【0061】
また、同じスチレンアクリル樹脂だが平均粒子径0.1μmが実施例1に比べやや小さい樹脂粒子が水性インク組成物40に含有される以外は実施例1と同条件の実施例2の水性ボールペン10もまた、筆記感の評価がAと優れていた。よって、この実施例2の樹脂粒子によっても、硬質相成分であるチタン粒子により悪化した筆記感が改善することが認められた。
【0062】
硬質相成分としてのTiCNの含有量が85質量%と実施例1のボール1よりも多い前記ボール2を筆記ボール30として使用した以外は実施例1と同条件の実施例3の水性ボールペン10もまた、筆記感の評価がAと優れていた。よって、実施例1で使用された樹脂粒子はより高いチタン含有量の筆記ボール30においても、悪化した筆記感を改善する効果が認められた。
【0064】
結合相成分として、前記ボール2で使用されていたNiに代えてCoを使用した前記ボール4を筆記ボール30として使用した以外は実施例3と同条件の実施例5の水性ボールペン10もまた、筆記感の評価がAと優れていた。よって、実施例3(すなわち、実施例1)で使用された樹脂粒子は、結合相成分としてCoを使用した筆記ボール30においても、悪化した筆記感を改善する効果が認められた。
【0065】
硬質相成分として前記ボール1と同様にTiCNを70質量%含有しつつ、WCを15質量%含有する前記ボール5を筆記ボール30として使用した以外は実施例2と同条件の実施例6の水性ボールペン10もまた、筆記感の評価がAと優れていた。よって、実施例2で使用された樹脂粒子は、Tiを主成分としつつWCを一定量含有する筆記ボール30においても悪化した筆記感を改善する効果が認められた。
【0066】
なお、実施例1及び実施例2における樹脂粒子と同様にスチレンアクリル樹脂だが中空粒子を樹脂粒子として使用した実施例7の水性ボールペン10もまた、筆記感の評価がAと優れていた。よって、実施例7で使用したスチレンアクリル樹脂の中空粒子もまた、実施例1及び実施例2の樹脂粒子と同程度に、悪化した筆記感を改善する効果が認められた。
【0067】
平均粒子径が0.6μmのオレフィン系樹脂であるポリエチレン樹脂粒子を使用した以外は実施例1と同条件の実施例8の水性ボールペン10では、筆記感の評価がBと、実施例1に比べやや劣ることとなった。しかし、樹脂粒子を含有しない以外は同条件である比較例1の評価のDよりは優れた評価であった。よって、この実施例8で使用されたオレフィン系樹脂粒子は、ある程度は悪化した筆記感を改善する効果があると認められた。
【0068】
上記実施例8と同様にオレフィン系樹脂であるポリエチレン樹脂ではあるが平均粒子径が2.5μmと大きい樹脂粒子を使用した実施例9の水性ボールペン10では、筆記感の評価がCと、実施例8よりも劣っていた。これは、粒子径が大きくなったことによるものと推察される。しかし、樹脂粒子を含有しない以外は同条件である比較例1の評価のDよりは幾分優れた評価であったため、この実施例9で使用されたオレフィン系樹脂粒子は、僅かながら悪化した筆記感を改善する効果があると認められた。
【0069】
実施例1と同様に平均粒子径が0.1μmではあるが材質の異なるアクリル樹脂粒子を使用した以外は実施例1と同条件の実施例10の水性ボールペン10では、筆記感の評価がBと、実施例1に比べやや劣ることとなった。しかし、樹脂粒子を含有しない以外は同条件である比較例1の評価のDよりは優れた評価であった。よって、この実施例10で使用されたアクリル樹脂粒子は、ある程度は悪化した筆記感を改善する効果があると認められた。
【0071】
なお、水性インク組成物40として、増粘剤を含有したゲルインクが使用され、この水性インク組成物40中に実施例1の樹脂粒子が4.0重量%含有されていた実施例13の水性ボールペン10では、筆記感の評価がCと、余り優れてはいなかった。しかし、樹脂粒子を含有しない以外は同条件である比較例2の評価のDよりは優れた評価であった。よって、実施例1の樹脂粒子は、ゲルインクで使用される場合においても、僅かながらではあるが、悪化した筆記感を改善する効果があると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、水性ボールペンに利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 水性ボールペン 11 継手 12 軸筒
13 インク誘導部 14 コレクター収納部 15 インク収容部
17 コレクター 18 リフィル
20 ボールペンチップ 21 ホルダー 22 ボールハウス
23 カシメ部 24 ボール受座 25 インク溝
26 インク誘導孔 27 テーパー部
30 筆記ボール 31 ボール表面
40 水性インク組成物 41 フォロワー
図1
図2
図3