(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】巻線装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20221111BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01F41/04 F
H01F41/12 D
(21)【出願番号】P 2018148779
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 崇行
(72)【発明者】
【氏名】青島 宏之
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-161608(JP,A)
【文献】特開昭63-009532(JP,A)
【文献】特開昭55-165167(JP,A)
【文献】特開2001-006922(JP,A)
【文献】特開平06-132157(JP,A)
【文献】特開平04-247610(JP,A)
【文献】特開昭63-050009(JP,A)
【文献】特開2007-209140(JP,A)
【文献】特開昭60-143615(JP,A)
【文献】特開2012-033386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0057752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/04
H01F 41/06
H01F 41/12
H01F 27/32
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯に沿ってワイヤを巻回することで多層コイルを製造する巻線装置であって、
前記巻芯を有し、軸回転により前記ワイヤを巻き取るボビンと、
円周面に樹脂が付着した円筒体により成り、当該円周面で前記ボビン中の前記多層コイルと隣接し、軸回転により前記ボビン中の前記多層コイルに前記樹脂を転写するコーティングロールと、
前記コーティングロールと前記ボビンとの最近接線よりもボビン回転方向手前に、前記ボビン中の前記多層コイルに当接して、前記多層コイルの表面を整えるワイヤ整形ローラと、
前記ボビンに対して前記コーティングロールを接離させる駆動機構と、
前記ボビンのトルクを検出する転写位置制御部と、
を備え
、
前記転写位置制御部は、前記ボビンのトルクが一定になるように前記駆動機構を制御することで、前記多層コイルの表面形状に追従して、前記多層コイルの表面と一定距離を保つように、前記コーティングロールを移動させること、
を特徴とする巻線装置。
【請求項2】
前記コーティングロールを軸回転させる第1の回転モータを備え、
前記第1の回転モータは、前記多層コイルの外径増加に伴って、前記多層コイルの周速度と同一速度に、前記コーティングロールの周速度を変化させること、
を特徴とする請求項1記載の巻線装置。
【請求項3】
円筒体により成り、当該円周面で前記コーティングロールと隣接し、軸回転により前記コーティングロールに付着した余分な前記樹脂を扱くドクターロールを備えること、
を特徴とする請求項1又は2記載の巻線装置。
【請求項4】
前記コーティングロールの円周面と前記ドクターロールの円周面とで画成され、前記樹脂を貯留する樹脂貯留部を備えること、
を特徴とする請求項3記載の巻線装置。
【請求項5】
前記樹脂貯留部内に、前記樹脂を攪拌するミキサーを備えること、
を特徴とする請求項4記載の巻線装置。
【請求項6】
前記ドクターロールは、前記コーティングロールと同一方向に回転し、前記コーティングロールと対面する位置では互いにすれ違うこと、
を特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載の巻線装置。
【請求項7】
前記ドクターロールを前記コーティングロールに対して接離させて、前記ドクターロールと前記コーティングロールとの間の隙間を調整する調整部を備えること、
を特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載の巻線装置。
【請求項8】
前記ドクターロールの回転速度を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記樹脂の粘度及び温度を加味して前記ドクターロールの回転速度を制御すること、
を特徴とする請求項3乃至7の何れかに記載の巻線装置。
【請求項9】
前記巻芯は、真円、楕円、又は多角形の断面形状を有すること、
を特徴とする請求項
1乃至8の何れかに記載の巻線装置。
【請求項10】
前記樹脂が転写された後の領域で、前記ボビン中の前記多層コイルに当接して、前記多層コイルに転写された前記樹脂を整える樹脂整形ローラを備えること、
を特徴とする請求項
1乃至9の何れかに記載の巻線装置。
【請求項11】
前記ボビンに対して接近及び離反可能に配置され、前記ボビンに被さって前記樹脂を加熱する加熱炉を備えること、
を特徴とする請求項
1乃至10の何れかに記載の巻線装置。
【請求項12】
前記多層コイルに転写された前記樹脂を加熱するヒータを備えること、
を特徴とする請求項
1乃至10の何れかに記載の巻線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、多層コイルを製造する巻線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車や家電のモータコイルとして用いられ、またタービン発電機等において固定子コイルとして用いられる多層コイルが知られている。多層コイルは、ワイヤが渦巻き状に巻回されて成る。各層には1本又は2本以上のワイヤが整列する。この多層コイルは、各層に樹脂が転写されることで樹脂モールドされて製造完了となる。
【0003】
多層コイルを製造する巻線装置としては従来から種々の提案が成されている。巻線装置は、一般的には巻線用の冶具であるボビンを有し、ボビンの回転によりワイヤを巻芯に巻き取っていく。ワイヤが巻芯端部まで巻回されると、ワイヤが上層に段上げされ、ワイヤの送り方向を逆転させながら上層の巻回を他端の巻芯端部まで行っていく。そして、この巻回の作業中に、例えば一層の巻回が終了すると巻線装置を一時停止し、樹脂を手作業で塗布していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、巻線装置でワイヤの巻回を行い、樹脂の塗布は手作業にて行っていた。そのため、樹脂塗布のムラが発生したり、ワイヤの隙間に樹脂が十分に入り込まずに気泡が混入してしまったりする虞がある。樹脂塗布のムラや気泡の混入は、多層コイルの力や電流等のコイル性能を低下させてしまう。
【0006】
本実施形態は、上記課題を解決すべく、ワイヤの巻回中に装置にて樹脂を塗布することができ、高い品質の多層コイルを製造することができる巻線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本実施形態に係る巻線装置は、巻芯に沿ってワイヤを巻回することで多層コイルを製造する巻線装置であって、前記巻芯を有し、軸回転により前記ワイヤを巻き取るボビンと、円周面に樹脂が付着した円筒体により成り、当該円周面で前記ボビン中の前記多層コイルと隣接し、軸回転により前記ボビン中の前記多層コイルに前記樹脂を転写するコーティングロールと、を備えること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る巻線装置の全体構成を示す上面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る巻線装置の全体構成を示す側面図である。
【
図3】ドクターロールの位置変更を示す模式図である。
【
図4】コーティングロールへの樹脂の付着を示す模式図である。
【
図5】多層コイルに対するコーティングロールの位置変更を示す模式図である。
【
図6】塗布装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図7】コーティングロールの周速度の変化を示すグラフである。
【
図8】コーティングロールの移動量を示すグラフである。
【
図9】巻線装置の他の塗布装置の例を示す側面図である。
【
図10】第2の実施形態に係る巻線装置の塗布装置を示す側面図である。
【
図11】第3の実施形態に係る巻線装置の塗布装置を示す側面図である。
【
図12】第4の実施形態に係る巻線装置の塗布装置を示す側面図である。
【
図13】第5の実施形態に係る巻線装置の塗布装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る巻線装置について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る巻線装置の全体構成を示す上面図であり、
図2は、第1の実施形態に係る巻線装置の全体構成を示す側面図である。
図1及び
図2に示す巻線装置1は多層コイル10を製造する装置である。この巻線装置1は、1本のワイヤ11を巻芯21に渦巻き状に巻回しつつ、軸中心に近い下層から外表側の上層へ段上げして、コイルを多層状にする。
【0010】
また、この巻線装置1は、ワイヤ11を巻回しつつ、製造中の多層コイル10の各層に樹脂を転写していく。転写する樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等を主材とする。
【0011】
この巻線装置1は、巻芯21を有するボビン2、ワイヤ11を供給する供給系31、供給系31から供給されたワイヤ11をボビン2の巻芯21に沿って平行に移動させて巻回位置を決定するトラバーサ51、及びボビン2の間近に配置されてワイヤ11に樹脂を塗布していく塗布装置90を備える。
【0012】
供給系31は、供給ボビン41、テンショナ42及び送りローラ43を有する。ワイヤ11は、供給ボビン41から引き出され、テンショナ42により張力をかけられ、送りローラ43に架けられて、トラバーサ51に入る。テンショナ42は、供給ボビン41と送りローラ43との間の直線経路に介在するブロックであり、ワイヤ11を引っ掛けて経路を屈曲させることにより、ワイヤ11に張力をかける。
【0013】
トラバーサ51は、ボビン2にワイヤ11を供給する最終経路を成す。このトラバーサ51は、ワイヤ11の最終経路を巻芯21に対して直交させて延ばしている。即ち、トラバーサ51は、可動ローラ61、可動ガイド溝62及び可動ベース63を備えている。
【0014】
可動ベース63は幅広の板状部材であり、巻芯21の軸に沿って平行移動可能となっている。可動ローラ61は可動ベース63に設置され、供給系31から引き出されたワイヤ11が各々架設される。可動ガイド溝62は、可動ローラ61を経たワイヤ11をボビン2に案内する。この可動ガイド溝62は、可動ベース63に固定され、ボビン2の巻芯21と直交して延び、当該巻芯21の間際に至る。可動ガイド溝62には、延び方向に沿って溝が穿設されており、この溝内をワイヤ11が通る。
【0015】
トラバーサ51は、当該トラバーサ51を巻芯21に沿って平行移動させるトラバーサ駆動機構71を備えている。トラバーサ駆動機構71は、回転モータ81とボールネジ82を備える。ボールネジ82は、巻芯21の軸と平行に延び、トラバーサ51の可動ベース63と螺合している。回転モータ81は、ボールネジ82を軸回転させる。これにより、トラバーサ51は、トラバーサ駆動機構71の駆動に応じて巻芯21に沿って平行移動する。
【0016】
ボビン2は巻芯21と鍔部22とから成る。巻芯21は、ワイヤ11が巻回される円筒部材であり、端から端まで同一半径の柱状を成す。鍔部22は、巻芯21の両端に接続されている。この鍔部22は、巻芯21と同軸であり、巻芯21よりも長径であり、巻芯21に巻回されたワイヤ11の崩れを阻止する。回転軸24は、ボビン2を巻芯21と同軸で軸支する。回転モータ23は回転軸24を軸回転させる。この回転モータ23が駆動すると、ボビン2は回転軸32に連動して軸回転し、ワイヤ11を巻き取ることになる。
【0017】
塗布装置90は、例えば液膜転写法を用いた装置である。この塗布装置90は樹脂貯留部93、コーティングロール91及びドクターロール92を備えている。樹脂貯留部93は液状の樹脂を貯留する。コーティングロール91は、樹脂貯留部93の樹脂が付着し、巻芯21に巻回されたワイヤ11に対して、付着した樹脂を転写する。ドクターロール92は、コーティングロール91に付着した樹脂の膜圧を均一にする。
【0018】
このコーティングロール91は、ボビン2の巻芯21と平行軸を有する円筒体であり、回転モータ94によって軸回転する。コーティングロール91は、ボビン2の軸、即ち巻芯21と平行に円筒軸を延ばし、ボビン2と連接配置されている。コーティングロール91の周面は、ボビン2に巻回されている多層コイル10の周面と接触又は近接する。即ち、コーティングロール91の軸方向長さは巻芯21と一致し、鍔部22間に入り込み可能となっている。コーティングロール91における接触又は近接とは、コーティングロール91の周面に存在する樹脂が巻芯21に巻回されたワイヤ11に少なくとも届く程度である。
【0019】
ドクターロール92は、ボビン2の巻芯21及びコーティングロール91と平行軸を有する円筒体であり、回転モータ95によって軸回転する。このドクターロール92は、コーティングロール91と連接配置されている。ドクターロール92の軸方向長さはコーティングロール91と同一である。ドクターロール92の周面は、コーティングロール91の周面と接触又は近接する。ドクターロール92における接触又は近接とは、コーティングロール91の周面に付着する樹脂が所望の膜厚となるように、余分な樹脂を扱き取ることができる程度である。
【0020】
樹脂貯留部93は、コーティングロール91とドクターロール92との間の隙間であり、コーティングロール91とドクターロール92との最近接線を底部とし、互いに離れていく周面で側壁が画成され、断面V字形状を有する溝である。溝両端部は、例えばコーティングロール91とドクターロール92にフランジ(不図示)が立ててあり、このフランジによって閉塞されている。図示しない樹脂供給ラインから液状の樹脂が滴下され、この樹脂貯留部93に樹脂が貯まる。尚、この樹脂貯留部93内には、樹脂を攪拌して均一な液状態を維持するミキサー93aが備えられている。このミキサー93aは、例えば円柱軸から放射状に複数の羽根を延ばして成り、円柱軸がモータ等によって軸回転する。複数の羽根は円柱軸に沿って螺旋状に立設され、ミキサー93aはスクリュー状を有していても良い。
【0021】
コーティングロール91及びドクターロール92は、共通の可動台96上に支持されている。コーティングロール91は、可動台96上に固定されている。一方、ドクターロール92は、可動台96に対して調整部97を介して支持されている。調整部97は、可動台96上において、ドクターロール92とコーティングロール91の平行及び高さの関係を保ったまま、ドクターロール92をコーティングロール91に対して接触方向及び離反方向に移動可能とし、ドクターロール92とコーティングロール91との間の隙間を調整する。この調整部97は、例えば、可動台96上に延設されたレール97aと、レール97aを把持してレール97aに沿って摺動可能なスライダ97bである。レール97aは、ドクターロール92及びコーティングロール91の軸と直交して延びている。ドクターロール92は、このスライダ97bに固定されている。
【0022】
また、塗布装置90は、可動台96を介してコーティングロール91及びドクターロール92を一緒に移動させるローラ駆動機構98を備える。ローラ駆動機構98は、例えば可動台96と螺合するボールネジ98aと、ボールネジ98aを軸回転させる回転モータ98bとにより構成される。ボールネジ98aは、ボビン2、コーティングロール91及びドクターロール92の軸と直交して延び、また可動台96は、この直交方向に沿って摺動可能となっている。このローラ駆動機構98は、コーティングロール91及びドクターロール92の位置関係は固定のまま、コーティングロール91をボビン2に対して接近又は離反させることになる。
【0023】
このような塗布装置90においては、まず、ワイヤ11の線径、ワイヤ11により成る多層コイル10の外形状に応じて、コーティングロール91とドクターロール92との間の隙間を調整する。即ち、
図3に示すように、調整部97によってコーティングロール91に対するドクターロール92の位置を変更する。この位置変更は、手動であってもよいし、例えばスライダ97bに外力を与えるモータを設置しておき、またワイヤ線径とコイル外形状の組み合わせに対して、必要な隙間情報をコンピュータに記憶させておき、ワイヤ線径及びコイル外形状をマンマシンインターフェース等で入力させることで、隙間情報を選択し、隙間情報に一致する駆動量でスライダ97bを移動させるようにしてもよい。
【0024】
コーティングロール91に対するドクターロール92の位置が決定すると、樹脂貯留部93に液状の樹脂を貯留する。樹脂の貯留中は、ミキサー93aを稼働させて、樹脂貯留部93内の樹脂を攪拌する。そして、ワイヤ11のボビン2への巻き取りに連動して、コーティングロール91の回転モータ94及びドクターロール92の回転モータ95を稼働させ、コーティングロール91及びドクターロール92を軸回転させる。
【0025】
図4に示すように、コーティングロール91が軸回転すると、コーティングロール91の周面は、大きく開いた口から順番に樹脂貯留部93に入り、樹脂貯留部93内の樹脂が付着し、そして樹脂を付けたまま、樹脂貯留部93の底から出てボビン2へ向かう。このとき、付着した樹脂の膜厚は、コーティングロール91とドクターロール92の隙間によって規制される。即ち、調整部97によって膜厚がコントロールされている。
【0026】
また、ドクターロール92は、コーティングロール91と同方向に回転させる。例えば、コーティングロール91が反時計回りに回転するならば、ドクターロール92も反時計回りに回転する。これにより、コーティングロール91とドクターロール92とが対面する箇所では、互いにすれ違う方向に回転するために、ずり速度が発生して、ずり応力により余分な樹脂が扱き取られ、コーティングロール91に付着した樹脂の膜厚は、コーティングロール91とドクターロール92との間の隙間に均一化されている。
【0027】
ここで、
図5に示すように、予め、ローラ駆動機構98を稼働させておいて、コーティングロール91と多層コイル10の外表面との間の隙間を、コーティングロール91とドクターロール92との間の隙間以下に設定しておく。隙間には、隙間がゼロ、即ち接触も含まれる。換言すれば、コーティングロール91に付着した樹脂の膜厚以下に設定しておく。回転モータ98bを駆動させてボールネジ98aを軸回転させることにより、可動台96をボビン2に対して接近又は離反させればよい。最初は、巻芯21に1本分のワイヤ11を巻回した径、又はコーティングロール91とドクターロール92との隙間分を当該径に加えた距離以下に接近させておけばよい。
【0028】
そのため、樹脂が付着した領域がボビン2内の多層コイル10に対面すると、コーティングロール91の表面の樹脂が多層コイル10の表面にも接触し、多層コイル10に転写される。多層コイル10への転写効率を向上させるべく、コーティングロール91は、ボビン2と同一方向に回転する。例えば、ボビン2が反時計回りに回転するならば、コーティングロール91は反時計回りに回転する。これにより、コーティングロール91はボビン2と対面する箇所で、ボビン2とすれ違う方向に回転し、コーティングロール91は、多層コイル10に樹脂を擦り付けることができ、転写効率が向上する。
【0029】
以上の塗布装置90は、
図6に示す制御部100により制御される。即ち、巻線装置1は、コーティングロール91の回転モータ94、ドクターロール92の回転モータ95及びローラ駆動機構98を制御する制御部100を備えている。
図6に示す制御部100は、所謂コンピュータであり、CPU、RAM、HDD、ドライバ回路と、ボビン2のトルク及び回転数を検出する回転計を備えている。外部記憶装置にはプログラムや各種データが記憶され、このプログラムや各種データは主記憶装置に展開され、演算制御装置により実行される。ドライバ回路は、演算制御装置の実行結果に従って制御信号を出力する。制御信号は、その出力タイミングによって駆動タイミングを規定し、駆動速度情報を内容に含む。
【0030】
この制御部100は、転写速度制御部101、転写位置制御部102及び膜厚制御部103を備えている。転写速度制御部101は、コーティングロール91と多層コイル10の外表面の周速を常に一定に保つ。転写位置制御部102は、コーティングロール91と多層コイル10の外表面との距離を常に一定に保つ。膜厚制御部103は、コーティングロール91に付着させる膜厚を設定する。
【0031】
転写速度制御部101は、主にCPU、コーティングロール91の回転モータ94に対するドライバ回路、及び回転計を含み構成される。この転写速度制御部101は、ボビン2の回転速度を検出する。また、転写速度制御部101は、ボビン2の回転数を検出し、ボビン2の回転数から、コイル11Aの巻回によって大きくなっていく多層コイル10の外径を演算する。そして、転写速度制御部101は、ボビン2の回転速度と多層コイル10の外径から、多層コイル10の外周面の周速度を演算し、演算結果の周速度でコーティングロール91が回転するように、回転モータ94を制御する。これにより、回転モータ94は、多層コイル10の外径増加に伴って、多層コイル10の周速度と同一速度に、コーティングロール91の周速度を変化させることになり、多層コイル10の各層各位置に同量の樹脂を転写する。
【0032】
例えば、ボビン2の回転数がV(rpm)であり、1層1巻きであると、1回転する時間は1/Vである。ワイヤ11の直径をdとすると、1/Vの時間が経過する毎に、多層コイル10の周速度は2πdVだけ増加するから、
図7に示すように、転写速度制御部101は、巻芯21の半径をrとして、1/Vの時間がn回経過したときに、コーティングロール91の周速度Vcを2π{r+(n+1)d}Vに変更すればよい。また、1層当たりm周回巻く場合には、m/Vの時間が経過する毎に多層コイル10の周速度は2πdVだけ増加する。従って、この場合には、m/Vの時間がn回経過したときに、コーティングロール91の周速度Vcを2π{r+(n+1)d}Vに変更すればよい。
【0033】
転写位置制御部102は、主にCPU、ローラ駆動機構98に対するドライバ回路、及び回転計を含み構成される。この転写位置制御部102は、ボビン2のトルクを検出し、トルクが常に一定になるように、ローラ駆動機構98を制御する。これにより、ローラ駆動機構98は、多層コイル10の表面形状に追従して、多層コイル10の表面と一定距離を保つように、コーティングロール91を移動させる。従って、多層コイル10の各層各位置には同量の樹脂が転写される。
【0034】
例えば、トルクが大きくなれば、コーティングロール91と多層コイル10との接触圧が高くなっており、接触圧が上がっていれば、コーティングロール91と多層コイル10との間の距離が狭くなっている。従って、トルクが大きくなれば、このトルクを一定に戻すように、コーティングロール91を多層コイル10から離れる方向に移動させる。そうすると、多層コイル10の外径が増加していっても、コーティングロール91は、多層コイル10の外表面と常に一定距離を保つ。
【0035】
このとき、ボビン2の回転数がV(rpm)であり、1層1巻きであると、1回転する時間は1/Vであり、ワイヤ11の直径をdとすると、1/Vの時間が経過する毎に、多層コイル10の半径はdだけ増加するから、
図8に示すように、転写位置制御部102は、ワイヤ11の最下層が巻回されるときの多層コイル10とコーティングロール91との隙間をD(D≧0)とすると、1/Vの時間がn回経過したときに、コーティングロール91の絶対位置Pを初期からndだけ離す方向に移動させれば、隙間が距離Dを維持する。また、1層当たりm周回巻く場合には、m/Vの時間が経過する毎に多層コイル10の半径はdだけ増加する。従って、この場合には、m/Vの時間がn回経過したときに、、コーティングロール91の絶対位置Pを初期からndだけ離す方向に移動させれば、隙間が距離Dを維持する。
【0036】
膜厚制御部103は、主にCPU、ドクターロール92の回転モータ95に対するドライバ回路、及び外部記憶装置を含み構成されており、樹脂貯留部93に貯留される樹脂の温度及び基準温度での粘度を示す樹脂データ103aが記憶されている。この膜厚制御部103は、樹脂データ103aを参照して、樹脂の粘度を例えばレイノルズ方程式等により算出し、樹脂の粘度に従ってドクターロール92の回転モータ95を制御する。これにより、樹脂の粘度に関わらず、コーティングロール91に付着する樹脂の膜厚が一定になる。例えば、粘度の大小に応じてドクターロール92の回転速度を上げ下げし、ずり速度を上げ下げする。
【0037】
このように、巻芯21に沿ってワイヤ11を巻回することで多層コイル10を製造する巻線装置1は、巻芯21を有し、軸回転によりワイヤ11を巻き取るボビン2と、円周面に樹脂が付着した円筒体により成り、当該円周面でボビン2中の前記多層コイル10と隣接し、軸回転によりボビン2中の多層コイル10に樹脂を転写するコーティングロール91とを備えるようにした。
【0038】
これにより、手作業によらず自動で多層コイル10に樹脂を塗布することができるので、多層コイル10の品質を揃えることでき、歩留まりを抑制できる。即ち、樹脂塗膜のムラが抑制され、またワイヤ11の隙間に樹脂が入り込み難く気泡混入の虞を低減させ、多層コイル10の力及び電流といった性能を均質にできる。
【0039】
尚、この巻線装置1では、1本のワイヤ11を共通の巻芯21に巻回して一個の多層コイル10を製造する方法を例に説明したが、言うまでもなく、2本以上のワイヤ11で成る多層コイル10を製造する場合にも適用することができる。2本以上のワイヤ11で成る多層コイル10を製造する巻線装置1は、供給系31及びトラバーサ51により成るワイヤ11の経路をワイヤ11の数だけ並列して備えていればよい。下層から上層へ巻回位置を段上げする場合には、巻芯21の延び方向に対する複数の経路の並び順を、入れ替えて逆進させてもよい。
【0040】
また、この巻線装置1では、コーティングロール91を軸回転させる回転モータ94を備えるようにした。そして、回転モータ94は、多層コイル10の外径増加に伴って、多層コイル10の周速度と同一速度に、コーティングロール91の周速度を変化させるようにした。これにより、多層コイル10の積層数が多くても、多層コイル10の各層各位置に同量の樹脂を転写することができる。従って、多層コイル10の形状が樹脂のムラによって変形してしまうことがなく、また場所によって耐電圧特性が変わることもなく、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0041】
また、この巻線装置1では、円筒体により成り、当該円周面でコーティングロール91と隣接し、軸回転によりコーティングロール91に付着した余分な樹脂を扱き取るドクターロール92を備えるようにした。これによっても、コーティングロール91に均一な膜厚で樹脂を付着させることができるので、多層コイル10の各層各位置に同量の樹脂を転写することができる。従って、多層コイル10の形状が樹脂のムラによって変形してしまうことがなく、また場所によって耐電圧特性が変わることもなく、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0042】
また、この巻線装置1では、ドクターロール92をコーティングロール91に対して接離させて、ドクターロール92とコーティングロール91との間の隙間を調整する調整部97を備えるようにした。これによって、ワイヤ11の線径に応じて、また多層コイル10の形状に応じて、コーティングロール91に付着させる樹脂の量を調整できるので、これら線径や形状によらず、最適な樹脂量を多層コイル10に供給することができ、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0043】
また、この巻線装置1では、ドクターロール92は、コーティングロール91と同一方向に回転するようにした。これにより、ドクターロール92とコーティングロール91とが対面する箇所では、互いにすれ違うようになり、効率的にずり速度が発生し、余分な樹脂を精度良く扱き取ることができ、多層コイル10の各層各位置に同量の樹脂を転写することができる。尚、ずり速度を発生させることができれば、ドクターロール92は、必ずしもコーティングロール91と同一方向に回転させなくともよく、逆に回転させてもよく、また停止させてもよい。
【0044】
また、ドクターロール92の回転速度を制御する膜厚制御部103を備え、膜厚制御部103は、樹脂の粘度及び温度を加味してドクターロール92の回転速度を制御するようにした。これにより、付着させる樹脂の膜厚を樹脂の粘度が変わっても、余分な樹脂を精度良く扱き取ることができ、多層コイル10の各層各位置に同量の樹脂を転写することができる。
【0045】
また、この巻線装置1では、樹脂貯留部93内に、樹脂を攪拌するミキサー93aを備えるようにした。これにより、多層コイル10の製造中において樹脂を良好に管理することができ、多層コイル10の巻き始めから巻き終わりまで、常に均質の樹脂を転写しつづけることができ、品質の良い多層コイル10となる。
【0046】
また、この巻線装置1では、ボビン2に対してコーティングロール92を接離させるローラ駆動機構98を備えるようにした。このローラ駆動機構98は、多層コイル10の表面形状に追従して、多層コイル10の表面と一定距離を保つように、コーティングロール91を移動させる。これにより、多層コイル10の外径が変化しても各層各位置には同量の樹脂が転写されるので、多層コイル10の形状が樹脂のムラによって変形してしまうことがなく、また場所によって耐電圧特性が変わることも無く、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0047】
また、このローラ駆動機構98によれば、真円、楕円、又は三角形、四角形、六角形等の各種多角形の断面形状を有する多層コイル10の製造に対応できる。即ち、例えば、
図9に示すように、巻線装置1のボビン2が備える巻芯21は、四角形の断面形状を有するものであってもよい。この巻芯21によれば、多層コイル10は角部が丸まった概略四角形の断面形状を有して製造される。
【0048】
具体的には、塗布装置100は、例えばボビン2のトルクがフィードバックされて、このトルクを一定にするように、コーティングロール92を接離させる。そのため、コーティングロール91に対面する多層コイル10の位相がどこであっても、即ち多層コイル10の辺の端がコーティングロール91に対面しようとも、多層コイル10の辺の中心がコーティングロール91に対面しようとも、多層コイル10の角がコーティングロール91に対面しようとも、コーティングロール91は多層コイル10の形状に追従しながら、均一な膜厚の樹脂を多層コイル10に転写することができる。
【0049】
尚、多層コイル10の外面に対するコーティングロール91の追従制御として、ボビン2のトルクをフィードバックする方式を例に説明したが、これに限らず各種追従制御方式を採ることができる。例えば、コーティングロール91に対面する多層コイル10の箇所は、ボビン2の位相によって検出可能であるので、ボビン2の回転速度からボビン2の位相を検出し、その位相に合わせてコーティングロール91を接離させるように、シーケンス制御してもよい。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る巻線装置1について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、第1の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0051】
図10に示すように、この巻線装置1は、ボビン2中の多層コイル10の外表面に当接するワイヤ整形ローラ110を備えている。このワイヤ整形ローラ110は、多層コイル10の外表面に並ぶワイヤ11に対して、巻芯21に向けた接触圧をかける。ワイヤ整形ローラ110は、ボビン2と平行軸のローラを少なくとも一機以上備えて多層コイル10の外表面に接触させている。ワイヤ整形ローラ110の位置は、コーティングロール91とボビン2との最近接線よりもボビン回転方向手前である。
【0052】
このワイヤ整形ローラ110によれば、樹脂が転写される前に、ワイヤ11の膨らみ等を是正し、ワイヤ11を正しく整列させ、即ち多層コイル10を整形する。これによって、ワイヤ11は巻芯21に密着し、また下層に上層が密着し、空気層を多層コイル10内に形成することなく、樹脂を転写することができる。従って、場所によってボイドが発生することを抑制でき、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0053】
特に、巻芯21が真円ではなく、
図10に示す四角形等の多角形や楕円であると、角部及び曲率が大きい箇所でワイヤ11が膨らみ易くなり、空気層が混入する虞があるが、このワイヤ整形ローラ110によれば、下層と上層とを密着させることができるので、品質の向上は顕著となる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る巻線装置1について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、第1及び2の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0055】
図11に示すように、この巻線装置1は、ボビン2中の多層コイル10の外表面に当接する樹脂整形ローラ120を備えている。この樹脂整形ローラ120は、転写された表層の樹脂に対して接触圧をかける。樹脂整形ローラ120は、ボビン2と平行軸のローラを少なくとも一機以上備えて多層コイル10の外表面に接触させている。樹脂整形ローラ120の位置は、樹脂が転写された後の領域である。
【0056】
この樹脂整形ローラ120によれば、樹脂を多層コイル10に密着させることができ、また気泡を潰して外部へ放出することができる。これによって、場所によってボイドが発生することを抑制でき、品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0057】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る巻線装置1について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、第1乃至3の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
図12に示すように、この巻線装置1は、ボビン2中の多層コイル10に熱を与えるヒータ131を備えている。このヒータ131は、ボビン2中の多層コイル10の近傍に設置される。ヒータ131の熱量は所望の硬化時間に応じて設定される。このヒータ131により、多層コイル10に転写された樹脂は加熱され、効率良く硬化する。従って、転写した樹脂の液だれによって多層コイル10の形状が歪になることを抑制でき、コンパクトで品質の良い多層コイル10を製造することができる。尚、ヒータ131の加熱温度としては、本硬化のためではなく、樹脂の液だれを抑制する程度でも良い。
【0059】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る巻線装置1について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、第1乃至4の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0060】
図13に示すように、この巻線装置1は、ボビン2を覆う加熱炉132を備えている。この加熱炉132は、ボビン2を覆い隠す大きさの内部空間を有し、一端がボビン2の外形よりも大きく開口している。また、加熱炉132内はヒータが設置される等によって高熱環境となっている。この加熱炉132は、ボビン2に対して移動可能となっている。
【0061】
多層コイル10の製造完了後、ローラ駆動機構98は、コーティングロール91とドクターロール92をボビン2から離す方向に移動させ、加熱炉132の移動余地を作る。加熱炉132は、ボビン2に覆い被さるように移動し、ボビン2中の多層コイル10を高熱環境に置く。これにより、多層コイル10に転写された樹脂は加熱され、効率良く硬化する。従って、転写した樹脂の液だれによって多層コイル10の形状が歪になることを抑制でき、コンパクトで品質の良い多層コイル10を製造することができる。
【0062】
尚、ヒータ131と併用し、多層コイル10の製造中はヒータ131によって液だれを阻止する程度に硬化させ、多層コイル10の製造完了後は加熱炉132によって完全硬化させるようにし、多層コイル10の製造時間を短縮するようにしてもよい。
【0063】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 巻線装置
10 多層コイル
11 ワイヤ
2 ボビン
21 巻芯
22 鍔部
23 回転モータ
24 回転軸
31 供給系
41 供給ボビン
42 テンショナ
43 送りローラ
51 トラバーサ
61 可動ローラ
62 可動ガイド溝
63 可動ベース
71 トラバーサ駆動機構
81 回転モータ
82 ボールネジ
90 塗布装置
91 コーティングロール
92 ドクターロール
93 樹脂貯留部
93a ミキサー
94 回転モータ
95 回転モータ
96 可動台
97 調整部
97a レール
97b スライダ
98 ローラ駆動機構
98a ボールネジ
98b 回転モータ
100 制御部
101 転写速度制御部
102 転写位置制御部
103 膜厚制御部
103a 樹脂データ
110 ワイヤ整形ローラ
120 樹脂整形ローラ
131 ヒータ
132 加熱炉