(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】コンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2018158639
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正雄
(72)【発明者】
【氏名】中原 将吾
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-065497(JP,A)
【文献】特開2013-027201(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192399(WO,A1)
【文献】特開2018-057223(JP,A)
【文献】特開2010-178501(JP,A)
【文献】特開2015-216081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00~ 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのスイッチング素子が直列接続された第1レグと、2つのスイッチング素子が直列接続された第2レグとを有する第1フルブリッジ回路と、
2つのスイッチング素子が直列接続された第3レグと、2つのスイッチング素子が直列接続された第4レグとを有する第2フルブリッジ回路と、
一端が前記第1レグの中点に接続され、他端が前記第2レグの中点に接続された第1巻線と、一端が前記第3レグの中点に接続され、他端が前記第4レグの中点に接続された第2巻線と、を有し、前記第1巻線と前記第2巻線とが磁気結合するトランスと、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、
前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、
を備え、
前記第1フルブリッジ回路は低圧側であり、前記第2フルブリッジ回路は高圧側であり、
前記制御回路は、
前記第2フルブリッジ回路の各スイッチング素子をソフトスイッチングし、
前記第1フルブリッジ回路が有するスイッチング素子のうち、少なくとも一つをハードスイッチングし、他をソフトスイッチング
し、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子は、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを有し、
ソフトスイッチングの対象となる前記スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上であり、
前記閾値電流は、前記等価インダクタに蓄積されるエネルギーが、ソフトスイッチングの対象となる前記スイッチング素子が有する前記キャパシタに蓄積されるエネルギー以上となるように、設定されている、
コンバータ。
【請求項2】
請求項1に記載のコンバータであって、
前記制御回路は、
前記第1レグまたは前記第2レグの一方が有する2つのスイッチング素子をハードスイッチングし、他方が有する2つのスイッチング素子をソフトスイッチングする、
コンバータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコンバータであって、
前記閾値電流をIref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、
Iref=α・Vx√(2C/L)、
を満たす、コンバータ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のコンバータであって、
前記閾値電流をIref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、
Iref=α・Vx√(4C/L)、
を満たす、コンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトスイッチングを行うコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DC-DCコンバータなどの電力変換装置では、パワートランジスタに関するスイッチング制御の一つとして、ゼロボルトスイッチング(以下、ZVSと言う)が広く採用されている。かかるスイッチング制御は、スイッチング損失を低減し且つ高効率で電力伝送を行い、また、ノイズを低減してスイッチングサージを抑え、耐圧の低い安価な素子の利用を可能とさせる。特許文献1には、1次側直流電圧と2次側直流電圧の電圧差が大きい場合に、ZVS動作を成立させる技術が紹介されている。このDC--DCコンバータでは、1次側および2次側それぞれで電力を検出し、それら2つの電力差が最小となるように、1次側スイッチのデューティと2次側スイッチのデューティとを増減させている。このように、同装置では、ZVS動作を常に成立させる設計思想が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の取組に見られるように、双方のフルブリッジ回路についてZVS動作を成立させることは、非常に困難な要求であり、これを常に満足させることは本来的に不可能な場合がある。そこで、電力伝送効率の低下を抑えた上で、ZVSから逸脱した動作制御を限定的に許容する、極めて斬新なスイッチング動作を本発明者は見出した。
【0005】
本発明は、電力伝送効率の低下を抑制しつつ、ソフトスイッチングを行うコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1発明のコンバータは、2つのスイッチング素子が直列接続された第1レグと、2つのスイッチング素子が直列接続された第2レグとを有する第1フルブリッジ回路と、2つのスイッチング素子が直列接続された第3レグと、2つのスイッチング素子が直列接続された第4レグとを有する第2フルブリッジ回路と、一端が前記第1レグの中点に接続され、他端が前記第2レグの中点に接続された第1巻線と、一端が前記第3レグの中点に接続され、他端が前記第4レグの中点に接続された第2巻線と、を有し、前記第1巻線と前記第2巻線とが磁気結合するトランスと、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、を備え、前記第1フルブリッジ回路は低圧側であり、前記第2フルブリッジ回路は高圧側であり、前記制御回路は、前記第2フルブリッジ回路の各スイッチング素子をソフトスイッチングし、前記第1フルブリッジ回路が有するスイッチング素子のうち、少なくとも一つをハードスイッチングし、他をソフトスイッチングし、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子は、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを有し、ソフトスイッチングの対象となる前記スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上であり、前記閾値電流は、前記等価インダクタに蓄積されるエネルギーが、ソフトスイッチングの対象となる前記スイッチング素子が有する前記キャパシタに蓄積されるエネルギー以上となるように、設定されている。
【0007】
本願の第2発明のコンバータは、第1発明のコンバータであって、前記制御回路は、前記第1レグまたは前記第2レグの一方が有する2つのスイッチング素子をハードスイッチングし、他方が有する2つのスイッチング素子をソフトスイッチングする。
【0010】
本願の第3発明のコンバータは、第1発明または第2発明のコンバータであって、前記閾値電流をIref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、Iref=α・Vx√(2C/L)、を満たす。
【0011】
本願の第4発明のコンバータは、第1発明または第2発明のコンバータであって、前記閾値電流をIref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、Iref=α・Vx√(4C/L)、を満たす。
【発明の効果】
【0012】
本願の第1発明~第4発明によれば、低圧側の第1フルブリッジ回路において、制御回路は、少なくとも一つのスイッチング素子をソフトスイッチングせず、ハードスイッチングする。これにより、第1フルブリッジ回路と、第2フルブリッジ回路とで、スイッチタイミングが重なる場合でも、電力伝送効率の影響が大きい高圧側の第2フルブリッジ回路においてソフトスイッチングの条件を満たすことができ、スイッチング素子をソフトスイッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係るDC-DCコンバータの回路図である。
【
図2】各スイッチング素子のオンオフのタイミングチャートである。
【
図3】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図4】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図5】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、本発明の「コンバータ」について、DC-DCコンバータを例に挙げて説明する。また、以下では、ソフトスイッチングの一例として、ZVSを例に挙げて説明する。
【0015】
<1.DC-DCコンバータの回路構成>
図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。
【0016】
DC-DCコンバータ1は、一対の入出力端子IO11および入出力端子IO12と、一対の入出力端子IO21および入出力端子IO22と、を備える。入出力端子IO11、IO12には、直流電源E1が接続される。入出力端子IO21、IO22には、直流電源E2が接続される。DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO11、IO12から入力される直流電源E1の電源電圧を変圧し、入出力端子IO21、IO22から出力する。また、DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO21、IO22から入力される直流電源E2の電源電圧を変圧し、入出力端子IO11、IO12から出力する。つまり、DC-DCコンバータ1は、双方向に電力伝送が可能なコンバータである。
【0017】
DC-DCコンバータ1は、第1フルブリッジ回路10と、第2フルブリッジ回路20と、トランスTと、を備えている。
【0018】
トランスTは、第1巻線n1と、第2巻線n2とを備えている。第1巻線n1と第2巻線n2とは磁気結合する。第1巻線n1は、第1フルブリッジ回路10を介して、入出力端子IO11、IO12に接続されている。第2巻線n2は、第2フルブリッジ回路20を介して、入出力端子IO21、IO22に接続されている。
【0019】
第1フルブリッジ回路10は、スイッチング素子Q11と、スイッチング素子Q12とが直列接続された第1レグと、スイッチング素子Q13と、スイッチング素子Q14とが直列接続された第2レグと、を有している。
【0020】
トランスTの第1巻線n1の一端は第1レグの中点に接続され、他端は第2レグの中点に接続されている。トランスTの第1巻線n1と、第1レグの中点との間には、インダクタL1が設けられている。ただし、インダクタL1は、第1巻線n1または第2巻線n2に直列接続されていればよく、その配置場所は適宜変更可能である。例えば、インダクタL1は、第1巻線n1と第2レグの中点との間に設けられていてもよい。また、インダクタL1は、実素子、トランスTの漏れインダクタンス、または、実素子と漏れインダクタンスとの組み合わせであってもよい。
【0021】
スイッチング素子Q11、Q12、Q13、Q14には、ダイオードD11、D12、D13、D14、および、キャパシタC11、C12、C13、C14が並列に接続されている。スイッチング素子Q11~Q14は、MOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q11~Q14は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD11~D14は、外付けの実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC11~C14は、外付けの実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0022】
第2フルブリッジ回路20は、スイッチング素子Q21と、スイッチング素子Q22とが直列接続された第3レグと、スイッチング素子Q23と、スイッチング素子Q24とが直列接続された第4レグと、を有している。
【0023】
トランスTの第2巻線n2の一端は第3レグの中点に接続され、他端は第4レグの中点に接続されている。上記のインダクタL1は、第2巻線n2と、第3レグまたは第4レグの中点との間に設けられていてもよい。
【0024】
スイッチング素子Q21、Q22、Q23、Q24には、ダイオードD21、D22、D23、D24、および、キャパシタC21、C22、C23、C24が並列に接続されている。スイッチング素子Q21~Q24は、MOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q21~Q24は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD21~D24は、外付けの実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC21~C24は、外付けの実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0025】
スイッチング素子Q11~Q14およびスイッチング素子Q21~Q24それぞれのゲート端子は、制御回路30に接続されている。制御回路30は、DC-DCコンバータ1の出力電力が、設定される目標電力となるように、スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24それぞれをスイッチング制御する。本実施形態では、制御回路30は、スイッチング損失を低減するために、スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24のいずれかをソフトスイッチングする。
【0026】
<2.ソフトスイッチング動作について>
以下に、各スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24のスイッチング動作について説明する。なお、本実施の形態では、3-LEVEL方式のDAB制御が採用されている。
【0027】
DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO11、IO12および入出力端子IO21、IO22の一方から他方、または、他方から一方への電力伝送を行う。以下では、入出力端子IO11、IO12を入力側とし、入出力端子IO21、IO22を出力側として説明する。また、また、本実施形態では、第1フルブリッジ回路10は低圧側、第2フルブリッジ回路20は高圧側とする。
【0028】
図2は、各スイッチング素子Q11~Q14、および、スイッチング素子Q21~Q24のオンオフのタイミングチャートである。
図3、
図4および
図5は、DC-DCコンバータ1での電流経路を説明するための図である。
図3~
図5では、
図1のインダクタL1およびトランスTを等価的なインダクタLで表している。このインダクタLは、本発明の「インダクタンス成分」の一例である。また、各図では、各スイッチング素子は簡略化した回路記号で示している。
【0029】
図2において、V1は、
図1に示す、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12との中点と、スイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14との中点との電位差である。V2は、スイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22との中点と、スイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24との中点との電位差である。I
Lは、インダクタLに流れる電流である。
図2において、スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24について、実線波形はゲート・ソース間電圧の波形であり、破線波形は、ドレイン電流の波形を示す。
【0030】
(t0~t1)
t0~t1期間では、スイッチング素子Q11、Q14および、スイッチング素子Q21、Q24が共にオン、スイッチング素子Q12、Q13および、スイッチング素子Q22、Q23が共にオフである。この場合、
図3(A)に示すように、直流電源E1から、スイッチング素子Q11、インダクタL、スイッチング素子Q21、直流電源E2、スイッチング素子Q24、スイッチング素子Q14の順に電流が流れる。インダクタLには、直流電源E1、E2の電源電圧が印加される。つまり、
図2に示すように、インダクタ電流I
Lは増加する。
【0031】
タイミングt1では、スイッチング素子Q14がターンオフされ、スイッチング素子Q13がターンオンされる。このとき、スイッチング素子Q14のターンオフと、スイッチング素子Q13のターンオンとの間に、デッドタイムが設けられている。このデッドタイムでは、スイッチング素子Q13、Q14が共にオフとなる。インダクタLには、その性質上、インダクタ電流ILが流れ続ける。
【0032】
このため、デッドタイムでは、第2フルブリッジ回路20から、第1フルブリッジ回路10のキャパシタC13およびキャパシタC14それぞれに電流が流れる。そして、キャパシタC13は放電され、キャパシタC14は充電される。キャパシタC13の放電が完了すると、
図3(B)に示すように、ダイオードD13がオンとなる。つまり、スイッチング素子Q13のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q13をターンオンすると、ZVSとなる。
【0033】
(t1~t2)
t1~t2期間では、スイッチング素子Q11、Q13、および、スイッチング素子Q21、Q24が共にオン、スイッチング素子Q12、Q14、および、スイッチング素子Q22、Q23が共にオフである。この場合、
図4(A)に示すように、直流電源E2から、スイッチング素子Q21、インダクタL、スイッチング素子Q11、スイッチング素子Q13、スイッチング素子Q24の順に電流が流れる。つまり、インダクタ電流I
Lは、t0~t1期間とは逆方向に流れる。このため、
図2に示すように、インダクタ電流I
Lは減少する。
【0034】
タイミングt2では、スイッチング素子Q24がターンオフされ、スイッチング素子Q23がターンオンされる。このとき、スイッチング素子Q24のターンオフと、スイッチング素子Q23のターンオンとの間に、デッドタイムが設けられている。タイミングt1での説明と同様に、デッドタイムでは、第1フルブリッジ回路10から、第2フルブリッジ回路20のキャパシタC23およびキャパシタC24それぞれに電流が流れる。そして、キャパシタC23は放電され、キャパシタC24は充電される。キャパシタC23の放電が完了すると、ダイオードD23がオンとなる。つまり、スイッチング素子Q23のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q23をターンオンすると、ZVSとなる。そして、
図4(B)に示す経路に電流が流れる。
【0035】
(t2~t3)
t2~t3期間では、スイッチング素子Q11、Q13、および、スイッチング素子Q21、Q23が共にオン、スイッチング素子Q12、Q14、および、スイッチング素子Q22、Q24が共にオフである。この場合、
図4(B)に示す経路に電流が流れる。インダクタLには、直流電源E1、E2の電源電圧が印可されず、
図2に示すように、インダクタ電流I
Lは変化しない。つまり、この期間のインダクタ電流I
Lは無効電流であり、この期間の電力は、無効電力である。
【0036】
タイミングt3では、第1フルブリッジ回路10において、スイッチング素子Q11をターンオフし、スイッチング素子Q12をターンオンする。また、第2フルブリッジ回路20において、スイッチング素子Q21をターンオフし、スイッチング素子Q22をターンオンする。この場合、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれにおいてZVSを実現するためには、後述する条件を満たす必要がある。しかしながら、本実施形態の制御では、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれにおいて、後述する条件を満たすことができない。その理由は後述する。
【0037】
本実施形態では、低圧側の第1フルブリッジ回路10において、スイッチング素子Q11のターンオフと、スイッチング素子Q12のターンオンとの間に、スイッチング素子Q12をターンオンする。つまり、スイッチング素子Q12は、ZVS条件が満たされず、ハードスイッチングする。
【0038】
一方で、高圧側の第2フルブリッジ回路20において、スイッチング素子Q21のターンオフと、スイッチング素子Q22のターンオンとの間に、デッドタイミングが設けられている。このデッドタイミングでは、キャパシタC22が放電され、ダイオードD22がオンされる。そして、スイッチング素子Q22をターンオンすると、ZVSとなる。
【0039】
(t3~t4)
t3~t4期間では、スイッチング素子Q12、Q13、および、スイッチング素子Q22、Q23が共にオン、スイッチング素子Q11、Q14、および、スイッチング素子Q21、Q24が共にオフである。この場合、
図5に示す経路に電流が流れる。インダクタLには、直流電源E1、E2の電源電圧が、
図3(A)の場合と逆方向に印可され、
図2に示すように、インダクタ電流I
Lは減少する。
【0040】
タイミングt4では、タイミングt1での説明と同様、デッドタイムにおいて、キャパシタC14が放電され、ダイオードD14がオンされる。そして、スイッチング素子Q14をターンオンすると、ZVSとなる。
【0041】
<3.ZVSの条件について>
以下に、ZVSを実現するための条件について詳細に説明する。
【0042】
ここでは、タイミングt1を例に挙げてについて説明する。前記のように、タイミングt1でのデッドタイムにおいて、インダクタLによって、キャパシタC13、C14が充放電された後に、切替対象のスイッチング素子Q13のドレイン・ソース間電圧がゼロであれば、スイッチング素子Q13のターンオンはZVSとなる。つまり、インダクタLのエネルギーは、少なくとも、キャパシタC13、C14それぞれに蓄積される全エネルギー以上であれば、スイッチング素子Q13をZVSできる。
【0043】
ここで、インダクタLのインダクタンスをL、キャパシタC11~C14、C21~C24それぞれのキャパシタンスをC、直流電源E1の電源電圧をVx(
図1参照)で表す場合、以下の式(1)が成り立つと、上記条件が満たされる。
【数1】
式(1)は、以下の式(2)に変換される。なお、式(2)のαは補正係数であり、必要に応じて適宜値が設定される。以下では、α=1とする。
【数2】
【0044】
式(2)のα・Vx√(2C/L)を閾値電流Irefとする。タイミングt1でのデッドタイムにおいて、|IL|≧|Iref|であれば、スイッチング素子Q13のZVSが可能となる。他のタイミングにおいても、|IL|≧|Iref|であれば、ZVSが可能となる。
【0045】
しかしながら、タイミングt3では、上記のように、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれで、スイッチング素子がターンオン、ターンオフされる。タイミングt3では、
図4(B)に示す経路で電流が流れる。第1フルブリッジ回路10において、スイッチング素子Q11と、インダクタLとは同極性となる。また、第2フルブリッジ回路10において、スイッチング素子Q21と、インダクタLとは逆極性となる。つまり、スイッチング素子Q11をZVSするための条件は、I
L>0となり、スイッチング素子Q21をZVSするための条件は、I
L<0となる。したがって、スイッチング素子Q11と、スイッチング素子Q21との両方について、ZVSを実現させる条件を満たすことができない。
【0046】
そこで、本実施形態では、無効電力から有効電力への切り替え時に、電力伝送効率の影響が小さい低圧側の第1フルブリッジ回路10において、スイッチング素子Q11はZVSせず、ハードスイッチングする。これにより、電力伝送効率の影響が大きい高圧側の第2フルブリッジ回路20においてZVSの条件を満たすことができ、スイッチング素子Q21をZVSすることができる。
【0047】
なお、タイミングt0において、スイッチング素子Q11をターンオン、スイッチング素子Q21をターンオフする場合も同様である。つまり、タイミングt0では、スイッチング素子Q11はハードスイッチングし、スイッチング素子Q21はZVSする。このように、本実施の形態では、低圧側のブリッジ回路10でのみハードスイッチングされる。
【0048】
以上のように、本実施形態では、第1レグと第3レグとのスイッチングタイミングが重なるため、低圧側である第1フルブリッジ回路10の第1レグのスイッチング素子Q11、Q12をハードスイッチングする。これにより、高圧側である第2フルブリッジ回路20のスイッチング素子Q21、Q22をZVSすることができる。第2レグ、第3レグ、第4レグの各スイッチング素子をZVSすることで、スイッチング損失を低減し、電力伝送効率の低下を抑制できる。
【0049】
即ち、ここでは、双方のブリッジ回路のうち少なくとも何れかが、ハードスイッチングを余儀なくされる場面であると理解されたい。この場面では、低電圧側のブリッジ回路10で一時的にハードスイッチを許容し、高電圧側のブリッジ回路20が常にZVS動作され続けることが分かる。このように、本実施の形態では、高電圧側のブリッジ回路20の設計に際し、その電気的条件に見合ったパワートランジスタを選択できる。一方、低電圧側のブリッジ回路10では、低電圧の環境下で制御される性質上、スイッチングサージは大きくならず、ここにあってもパワートランジスタの耐圧スペックを低廉なものとできる。上述の如く、本実施の形態に係るコンバータでは、この回路全体として、搭載すべきパワートランジスタのハイスペック化を招かぬ工夫が施されている。
【0050】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0051】
上記の実施形態では、入出力端子IO11、IO12を入力側とし、入出力端子IO21、IO22を出力側として説明した。しかしながら、DC-DCコンバータ1は双方向に電力伝送可能である。したがって、入出力端子IO11、IO12を出力側とし、入出力端子IO21、IO22を入出力側とすることが可能である。この場合、上記の実施形態と同様に説明することができため、その説明を省略する。なお、DC-DCコンバータ1は、双方向型でなくてもよい。
【0052】
また、ZVSを満たす条件は、スイッチング素子のスイッチングタイミングに応じて、適宜変更される。例えば、第1フルブリッジ回路10において、デッドタイミングで、スイッチング素子Q11~Q14がオフとなる場合、インダクタLのエネルギーは、少なくとも、キャパシタC11~C14それぞれに蓄積される全エネルギー以上であれば、スイッチング素子Q11~Q14をZVSできる。この場合、インダクタLに閾値電流Iref(Iref=α・Vx√(4C/L))以上のインダクタ電流ILが流れるように適宜設定することで、スイッチング素子Q11~Q14のZVSが可能となる。
【0053】
また、上記の実施形態または変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 :DC-DCコンバータ
10 :第1フルブリッジ回路
20 :第2フルブリッジ回路
30 :制御回路
C11、C12、C13、C14:キャパシタ
C21、C22、C23、C24:キャパシタ
D11、D12、D13、D14:ダイオード
D21、D22、D23、D24:ダイオード
E1 :直流電源
E2 :直流電源
IO11 :入出力端子
IO12 :入出力端子
IO21 :入出力端子
IO22 :入出力端子
L :インダクタ
L1 :インダクタ
Q11、Q12、Q13、Q14:スイッチング素子
Q21、Q22、Q23、Q24:スイッチング素子
T :トランス
Vx :電源電圧
Vy :電源電圧
V1 :電圧
V2 :電圧
n1 :第1巻線
n2 :第2巻線