(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】脱水方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/121 20190101AFI20221111BHJP
【FI】
C02F11/121 ZAB
(21)【出願番号】P 2018200273
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】國谷 正
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸浩
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-007300(JP,A)
【文献】特開2007-136279(JP,A)
【文献】特開平11-347313(JP,A)
【文献】特開昭58-017900(JP,A)
【文献】特公昭48-031469(JP,B1)
【文献】特開昭58-079586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00- 11/20
C02F 1/02- 1/18
B01D 23/00- 35/04
B01D 35/08- 37/08
B01D 35/06
B01D 43/00
B01D 57/00- 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内に収容された、固形分及び水分を含有する脱水対象物から、
積層体を用いて前記水分を除去する脱水方法であって、
前記積層体は、表面及び裏面のうちの少なくとも一方が凹凸を有する
樹脂製のシート状体が複数枚重畳されてなり、
複数枚の前記シート状体
を重畳することにより、前記シート状体が接触する界面に毛細管現象を発現し得る複数の流路を有
し、
前記積層体の一端部を、前記脱水対象物に浸漬させることで、前記複数の流路を通じて前記水分を移送して、前記槽の外へ排出することを含む、
脱水方法。
【請求項2】
前記複数枚のシート状体のうちの少なくとも一枚が
、太さ0.05mm以上1.50mm以下の樹脂製の糸からなる、透水性を有するろ布である、請求項1に記載の脱水方法。
【請求項3】
前記積層体の最表面のシート状体が、太さ0.05mm以上1.50mm以下の樹脂製の糸からなる、透水性を有するろ布である、請求項1又は2に記載の脱水方法。
【請求項4】
前記槽内の水分は、前記積層体の前記脱水物に浸漬させた一端部から吸水され、前記複数の流路を通じて槽外へ移送される、請求項1~3のいずれか一項に記載の脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水方法に関する。特に、本発明は、水分及び固形分を含有する処理対象物を脱水する際に好適に適用しうる脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥及び粉粒状に成形された合成物質のような、種々の粉粒状の廃棄物と、水分とを含有するスラリー状態の処理対象物を焼却処分等するにあたり、処理対象物の含水量を低減する、即ち、脱水することが必要とされる場合がある。
【0003】
従来、水分及び粉粒状廃棄物を含む、スラリー状態の廃棄物を脱水するに当たり、毛細管現象を利用することが試みられてきた(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された方法では、貯蔵タンク内に収容されたスラリーから、毛細管現象を起こす媒体である毛管媒体を用いて、毛細管現象により水分を除去する。特許文献1では、毛管媒体としては、紙、ガーゼ、及びろ布等の、繊維で構成され、水との接触角が40°以下の親水性の素材を用いることができるとされていた。具体的には、上記のような素材を格納管内に保持して使用する、或いは、上記のような繊維を束ねて使用することで、毛細管現象を利用して水分を移送することができることが開示されている。特許文献1に記載されたように、水分の搬送に際して毛細管現象を利用することで、動力を費やすことなく、スラリー状態の廃棄物から水分を除去することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたような、従来の、毛細管現象を利用した脱水方法では、水分の搬送速度が遅く、脱水処理速度に高速化の余地があった。そこで、本発明は、脱水処理速度の速い、毛細管現象を利用した脱水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定のシート状物体(以下、「シート状体」とも称する)を積層して形成した積層体を用いることで、毛細管現象を利用しながらも、従来よりも高速で水分を搬送することができる方途を新たに見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の脱水方法は、槽内に収容された、固形分及び水分を含有する脱水対象物から、毛細管現象を利用して前記水分を除去する脱水方法であって、表面及び裏面のうちの少なくとも一方が凹凸を有するシート状体が複数枚重畳されてなり、複数枚の前記シート状体間の界面に毛細管現象を発現し得る複数の流路を有する、積層体の一端部を、前記脱水対象物に浸漬させることで、前記複数の流路を通じて前記水分を移送して、前記槽の外へ排出することを含む、ことを特徴とする。シート状体間の界面に形成された複数の流路を介して、脱水対象物内に含まれていた水分を移送して槽外へ排出することで、毛細管現象を利用しながらも、充分に速い速度で脱水処理することができる。
なお、「シート状体」とは、厚みを介して相互に対向する表面及び裏面を有する形状の物体であって、表面及び裏面のうちの少なくとも一方の表面形状が凹凸を有することで、複数枚のシート状体を相互に重畳させて積層体を形成した場合に、シート状体間の界面にて、流体が拡散可能な流路(間隙)を形成し得る物体を意味する。
【0008】
さらに、本発明の脱水方法にて、前記複数枚のシート状体のうちの少なくとも一枚がろ布であることが好ましい。積層体の少なくとも一部をろ布により構成することで、脱水処理速度を一層速めることができるからである。
【0009】
また、本発明の脱水方法にて、前記複数枚のシート状体の全てがろ布であることが好ましい。積層体にて相互に重畳される複数枚のシート状体の全てがろ布であれば、脱水処理速度を一層高めるとともに、積層体の洗浄容易性を高めることができる。
【0010】
さらに、本発明の脱水方法にて、前記ろ布を構成する糸の太さが0.05mm以上1.50mm以下であることが好ましい。構成する糸の太さが0.05mm以上1.50mm以下であるろ布を用いて積層体の少なくとも一部を構成すれば、脱水処理速度を一層高めることができる。
なお、「糸の太さ」は、実施例に記載の方法で算出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脱水処理速度の速い、毛細管現象を利用した脱水方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一例に従う脱水方法を実施することができる脱水装置を導入した、天日乾燥施設の概略図である。
【
図2】実施例1~2、及び比較例1の脱水試験結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1~3の脱水試験結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1及び4の脱水試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の脱水方法は、固形分及び水分を含有する各種廃棄物の処理施設において採用されうる。中でも、本発明の脱水方法は、含水汚泥の天日乾燥施設にて好適に導入することができる。含水汚泥の天日乾燥施設は、含水汚泥の脱水及び乾燥を、自然の作用を利用して行う施設である。天日乾燥施設では、含水汚泥から上澄水を除去する等により含水汚泥の含水率を下げた後、太陽熱及び風等の作用を利用して、含水汚泥から水分を更に蒸発させることができる。なお、本発明の脱水方法は、既存の天日乾燥施設に対して、本発明の脱水方法を実施可能な装置を追加で導入することで、比較的容易に適用することができる。
【0014】
本発明の脱水方法は、槽内に収容された、固形分及び水分を含有する脱水対象物から、毛細管現象を利用して前記水分を除去する脱水方法である。かかる本発明の脱水方法に用いる積層体は、表面及び裏面のうちの少なくとも一方が凹凸を有するシート状体が複数枚重畳されてなり、複数枚のシート状体間の界面に毛細管現象を発現し得る複数の流路を有する。そして、かかる積層体の一端部を脱水対象物に対して浸漬させることで、積層体中の複数の流路を通じて脱水対象物から吸収した水分を移送して、槽の外へ排出することができる。このように、シート状体の積層物を用いて脱水処理を実施することで、毛細管現象を利用しながらも、充分に速い速度で脱水処理を実施することができる。
【0015】
本発明の脱水方法によれば、脱水対象物に浸漬された積層体の一端部(以下、「吸水側端部」とも称することがある。)から吸い上げられた水分は、毛細管現象に従って、積層体の流路内を移送されて、積層体の他端部(以下、「排水側端部」とも称することがある。)から排出されうる。積層体の排水側端部は、特に限定されることなく、例えば、排水槽内に配置されうる。さらに、かかる排水槽内にて、積層体の排水側端部が、排水槽の内壁に接していることが好ましい。積層体から水分が流出し易くなり、積層体の流路内にて水分が移送され易くなるからである。
【0016】
脱水対象物は、水分及び固形分を含有し、且つ、その後の処理等において水分含有率を低減した状態とすることが必要とされる物質である限りにおいて、特に限定されることなく、あらゆる物質であり得る。中でも、脱水対象物が含水汚泥である場合に、本発明の脱水方法を好適に適用することができる。
【0017】
積層体は、複数枚のシート状体の積層物である。各シート状体は、表面又は裏面の少なくとも一方の表面形状が、凹凸を有する。このため、シート状体の凹凸を有する側の面が、他のシート状体の面に向かい合うように積層されることで、シート状体同士が接触する界面にて間隙が形成され、かかる間隙が毛細管現象を発現し得る流路となりうる。「シート状体の凹凸を有する側の面」と向かい合う「他のシート状体の面」は、双方ともが凹凸を有していても良いし、一方が凹凸を有していれば、他方が平坦であってもよい。界面を形成する2つの面のうちの少なくとも一方が凹凸を有していれば、流路を形成可能である。
【0018】
ここで、「凹凸」の形状は特に限定されない。例えば、シート状体が、織布又は不織布のような、繊維よりなるシートである場合には、繊維による凹凸が、シート表面に現れ得る。従って、例えば、シート状体が織布よりなる場合には、織布の織目に沿った規則的な形状が、シート状体の表面及び裏面の凹凸形状に対応する。ここで、織目のパターンは特に限定されることなく、あらゆるパターンであり得る。中でも、朱子織及び杉綾織等の、織目を形成する織り糸が一定の方向に並列して配置されている織り方が好ましい。また、例えば、シート状体が、樹脂組成物を、射出成形及び押出成形等の一般的な成形方法によってフィルム状に成形してなる樹脂成形物である場合には、エンボス加工等の表面加工方法に供されることによって、表面に凹凸が形成されうる。この場合、凹凸形状は任意の形状であり得る。一例としては、特開2015-227565号公報に開示されたシートが有する表面形状が挙げられる。
【0019】
そして、これらの種々の形状の凹凸を有する表面同士が相互に対向する、或いは、これらの種々の形状の凹凸を有する表面と、凹凸を有さない表面とが相互に対向することで、毛細管現象を発現し得る複数の流路が積層体内のシート界面にて形成されうる。かかる積層体の一端部(即ち、吸水側端部)が脱水対象物に浸漬されることで、脱水対象物に含まれる水分が流路を通じて吸い上げられる。そして、吸い上げられた水分は、毛細管現象に従って流路内を移送され、積層体の排水側端部に到達し得る。なお、流路内における水分の移送効率は、上記一端部から排水側端部に至るまでの積層体の形状、即ち、積層体のたわみやしなりによっても影響されうるが、積層体の形状は、本発明の脱水方法を適用する用途及び槽の仕様等に応じて、適宜調節することができる。具体的には、積層体を構成するためのシート状体として、所望の形状を保持することができる程度の強度を有するシート状体を選択する、或いは、保持部材等を用いる等して積層体の形状を外的な作用によって保持する等が挙げられる。
【0020】
シート状体の材質は、特に限定されることなく、あらゆる材料であり得る。より具体的には、シート状体を構成する素材の材質は親水性であっても、疎水性であっても良い。例えば、シート状体は、ポリオレフィン、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル等の各種合成樹脂材料、又は、種々の天然樹脂材料にて構成されうる。また、積層体を構成する複数枚のシート状体は、全て同じ種類のシート状体であっても良いし、異なる種類のシート状体であっても良い。換言すると、積層体中に、複数の種類のシート状体が混在していても良い。
【0021】
積層体が複数の種類のシート状体により形成される場合に、かかるシート状体は如何なる態様で積層されていても良い。即ち、種々のシート状体を、あらゆる順序で積層することができる。ただし、積層体を構成する複数のシート状体により形成される全ての界面のうち、少なくとも1つの界面にて、流路が形成されるような積層態様とする必要があり、積層体中の全ての界面にて、流路が形成されるような積層態様とすることが好ましい。換言すると、積層体中で、一方の面のみに凹凸を有するシート状体同士を隣接させる場合に、対向する2つの面が、双方とも凹凸を有さない面とならないように配置することが好ましい。
【0022】
なお、積層体を構成するシート状体の積層枚数は、特に限定されることなく、2枚以上数十枚以下でありうる。積層枚数は、本発明の脱水方法を適用する用途及び槽の仕様等に応じて、適宜調節することができる。また、積層体の積層枚数は、積層体の平面積等の諸条件によっても異なるが、実施例に記載したような小型の試験装置を用いた脱水試験を行うことで、最適化することができる。
【0023】
脱水処理速度を一層速める観点から、積層体を構成する複数枚のシート状体のうちの、少なくとも1枚がろ布であることが好ましく、全てがろ布であることがより好ましい。さらに、ろ布が、織布であることが好ましい。これは、織布により形成される流路のネットワーク構造が、脱水処理速度を一層向上するように作用するためであると推察される。更には、織布では、織目を形成する複数の織り糸が同じ向きに並列配置されているため、かかる配置に対応する流路の構造が、流路内の水分の流速を速めるように作用し得ることも想定される。なお、積層体が複数枚のろ布を含む場合に、複数枚のろ布は、構成する糸の太さ等の諸属性の点で、同一であっても良いし、相異なっていても良い。
【0024】
さらに、積層体が少なくとも1枚のろ布を含んで構成される場合に、積層体の最表面にろ布が配置されることが好ましい。ここで、ろ布は透水性を有している。このため、積層体の最表面にろ布が配置されていれば、かかる最表面に対して洗浄水をかけることで、最表面のろ布を通じて、積層体内部に形成された流路の少なくとも一部を洗浄することができる。このため、積層体を分解することなく積層体内部に留まった固形分の少なくとも一部を積層体外に除去することができるようになり、積層体の洗浄容易性が高まる。このような洗浄容易性向上効果を一層高める観点からも、積層体を構成する複数枚のシート状体が、全てろ布であることが好ましい。
【0025】
ここで、洗浄容易性が高い、ということは、本発明の脱水方法を継続的に実施するにあたり、有利である。本発明の脱水方法に従って、処理対象物から水分を除去するにあたり、積層体の流路に侵入可能なサイズの固形分が流路内に入り込み、留まることがある。流路内に固形分が留まれば、その体積分、流路を通過可能な水分量が減少することとなる。或いは、流路が固形分により目詰まりすることがある。よって、上記のように、積層体を分解することなく、表面から水をかけるという簡易な操作だけで積層体を洗浄可能であるという属性は、脱水処理効率の観点からみて、非常に有利である。
【0026】
そして、積層体に含まれるろ布を構成する糸の太さが、0.05mm以上であることが好ましく、0.30mm以上であることがより好ましく、1.50mm以下であることが好ましく、1.10mm以下であることがより好ましい。ろ布を構成する糸の太さが上記範囲内であることで、かかるろ布により形成される流路にて、毛細管現象を効果的に発現可能である。特に、糸の太さが上記下限値以上であれば、本発明の脱水方法における脱水処理速度を速めることができる。また、特に、糸の太さが上記上限値以下であれば、積層体の流路を通じて槽外へ排出される水分に、固形分が随伴することを効果的に抑制することができる。従って、本発明の脱水方法における固液分離能を高めることができる。
【0027】
なお、積層体の平面形状は、特に限定されることなく、四角形、又は、水分の移送方向が長手方向に相当する帯状でありうる。積層体の、脱水対象物に対して浸漬する側の端部である吸水側端部、及び、その反対側の端部である排水側端部の平面形状は、特に限定されることなく、例えば、ジグザグ形状、又は、水分の移送方向に対して垂直又は傾斜した直線状であり得る。特に、積層体の排水側端部が、ジグザグ形状、又は、水分の移送方向(即ち、吸水側端部から排水側端部に向かう方向)に対して傾斜した直線状(即ち、長辺の一方と鋭角を成す形状)である場合には、排水側端部にて、水滴が集中し易い位置が創出されるため、排水効率が高まり得る。
【0028】
このように、本発明の脱水方法を用いることで、毛細管現象を利用しながらも、充分に高い効率で、脱水処理を実施することができる。さらに、本発明の脱水方法は、毛細管現象ではなく、ポンプを用いた脱水方法と比較して、下記のような利点がある。
まず、本発明の脱水方法を用いる場合には、ポンプを設ける際に必要となる配管等を省略することができるため、ポンプを用いる脱水方法を実施するための装置と比較して、装置を小型化することができる。
また、本発明の脱水方法によれば、ポンプを用いる脱水方法と比較して、より多くの水分を除去することができる。より具体的には、ポンプを用いた脱水方法を実施する場合には、脱水対象物の上澄み液が少なくなると、水を汲み上げることができなくなるが、本発明に従う脱水方法では、毛細管現象を発現し得る限りにおいて、水分を槽外へ排出することができる。
さらにまた、本発明の脱水方法では、積層体内の流路を通過することができない粒子(例えば、汚泥)を排出しない。このため、本発明の脱水方法は、ポンプを用いる脱水方法と比較して、固液分離能が高い。
【0029】
以下、
図1を参照して、本発明の一例に従う脱水方法を天日乾燥施設に適用する場合について説明する。
図1は、本発明の一例に従う脱水方法を好適に実施することができる脱水装置を導入した、天日乾燥施設の概略図である。
図1に示す脱水装置100は、複数の脱水ユニット10を有しており、これらの複数の脱水ユニット10は、それぞれ、積層体1と、排水トレイ2とを有している。そして、複数の脱水ユニット10は、各排水トレイ2の間を排水が流れることが可能なように、介在ドレーン3を介して相互に連結されている。そして、端部に配置された端部ドレーン4は、図示しない排水管等に脱水対象物30から分離した水分を排水するように構成されている。そして、脱水ユニット10の積層体1は、天日乾燥槽20内に収容された脱水対象物30に対して、一端部が浸漬されている。なお、「天日乾燥槽」は、一般的に、「天日乾燥床」とも称されうる。
【0030】
脱水対象物30は、含水汚泥であり、上澄水と、天日乾燥槽20の底部に沈殿した汚泥とを含んでなる。積層体1の吸水側端部は、脱水対象物30に対して浸漬され、脱水対象物30(特には、上澄水)から水分を吸収して、吸収した水分を積層体1内の流路で生じる毛細管現象に従って移送する。積層体1の排水側端部は、排水トレイ2の底部に接するように配置されている。なお、積層体1は、図示しない固定具により固定されていても良く、また、図示しないフレーム等の保持部材により流路での水分の円滑な移送を妨げうる過度な歪みが生じないように支持されていても良い。即ち、積層体1は、流路内における水分の移送が円滑に生じるよう、固定具及び/又は支持部材により固定及び/又は支持されていても良い。
【0031】
そして、積層体1によって排水トレイ2内に排水された水分は、介在ドレーン3及び端部ドレーン4を通じて排水される。なお、上流側の脱水ユニット10から、端部ドレーン4に近い側の下流側の脱水ユニット10にかけて、傾斜が設けられていても良い。傾斜により、脱水対象物30から吸い上げて天日乾燥槽20の外に排出した水分を、系外へ排出し易くなる。
【0032】
なお、
図1では脱水装置100が、介在ドレーン3を介して相互に連結された複数の脱水ユニット10と、端部ドレーン4とを備えるように図示しているが、本発明に従う脱水方法を実施可能な脱水装置の概略構成は、図示の態様に限定されるものではなく、例えば、脱水装置が1つの脱水ユニットだけを有する態様も想定されうる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例の実施条件(脱水対象物、試験装置、シート状体)は以下の通りとした。また、ろ布の糸の太さの測定方法は以下に従った。
【0034】
<脱水対象物及び試験装置>
実施例、比較例にて、脱水対象物としては、固形物濃度が2%の浄水汚泥を用いた。また、試験装置としては、脱水対象物を収容する槽(以下、「汚泥収容槽」とも称する。)のサイズが縦314mm×横215mm×深さ52mmであり、積層体の平面サイズが縦200mm×横300mmであり、1つの汚泥収容槽に対して1つの積層体が配置される態様の、小型の試験装置を用いた。積層体の排水側端部は、脱水対象物を収容した槽と同じサイズの槽(以下、「排水トレイ」とも称する。)内に配置した。
【0035】
<シート状体>
また、実施例、比較例にて用いた、シート状体は、以下の通りであった。シートのサイズは、全て、200mm×300mmとした。
(1)シート状体A
スリーエム ジャパン株式会社製、「3MTM コンクリート給水養生用 水搬送シート1117」。
片面のみ凹凸を有する樹脂成形物よりなるシート。
基材:特殊ポリオレフィン
厚さ:0.4mm
(2)シート状体B
中尾フィルター工業社製、「NY1260B」。
朱子織の織布よりなるろ布である(両面に凹凸を有する。)。
厚さ:0.3mm
糸材質:ナイロン
糸の太さ:0.2mm
(3)シート状体C
敷島カンバス社製、「T1194L」。
1/2杉綾織の織布よりなるろ布である(両面に凹凸を有する。)。
厚さ:1.9mm
糸材質:ポリエステル
糸の太さ:0.89mm
【0036】
<糸の太さ>
実施例で用いたろ布を顕微鏡観察して、ランダムに選出した10点の測定箇所について、糸の太さを測定し、数平均値を得た。
【0037】
(実施例1)
シート状体Aを上側、シート状体Bを下側に配置して、上側が片面凹凸の樹脂組成物シート、下側がろ布よりなる積層体とした。積層の向きは、シート状体Bに対して、シート状体Aの凹凸を有する面の側が面するようにして、両シートの界面に流路となる間隙が形成されるようにした。
汚泥収容槽内の処理対象物の上層部に、積層体の長さ200mmの辺(吸水側端部)が浸漬され、積層体の反対側の辺(排水側端部)が排水トレイ内に配置されるように、配置した。
配置後40分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表1、及び
図2~
図4に示す。
【0038】
(実施例2)
シート状体Aを上側、シート状体Cを下側に配置した以外は、実施例1と同じ試験装置構成とした。そして、積層体の配置後、20分、40分、及び60分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表1、及び
図2~
図3に示す。
【0039】
(実施例3)
シート状体Bを上側、シート状体Cを下側に配置して、上下共にろ布(糸の太さ、織目、及び厚さ等は相異なる)よりなる積層体を得て、使用した以外は、実施例1と同じ試験装置構成とした。そして、積層体の配置後、15分、及び20分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表1及び
図3に示す。
【0040】
(実施例4)
シート状体Bを2枚積層して、上下が同じろ布よりなる積層体を得て、使用した以外は、実施例1と同じ試験装置構成とした。そして、積層体の配置後、30分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表1及び
図4に示す。
【0041】
(比較例1)
積層体を用いなかった。具体的には、シート状体A1枚を、凹凸面を上側にして配置した。かかる点以外は実施例1と同じ試験装置構成とした。そして、積層体の配置後、30分、及び1000分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表1及び
図2に示す。
【0042】
【0043】
表1及び
図2より、比較例1で、シート状体Aを1枚のみ用いた場合と比べて、実施例1~2で、シート状体Aとろ布とを組み合わせて形成した積層体を用いることで、脱水速度が飛躍的に早まることが分かる。更に、実施例1及び2の比較により、脱水速度は、樹脂組成物シートに対して重ねて用いるろ布の糸の太さが大きいほど早くなる傾向を示すことが分かる。
また、表1、
図3~4より、脱水速度を速める観点から、複数枚のシート状体を組み合わせるにあたり、全てをろ布とすることが特に好ましいこと(実施例1,4)、及び、組み合わせるろ布として、ろ布の糸の太さが大きいものを選択することが好ましいこと(実施例1~3)が分かる。
【0044】
(実施例5)
縦200mm×横300mmのシート状体Bを2枚積層して、2枚の同じろ布よりなる積層体とした。かかる積層体を用いて、長さ200mmの辺(吸水側端部)が汚泥収容槽内の処理対象物の上層部に浸漬されるように配置した以外は実施例1と同じ試験装置構成とした。そして、積層体の配置後、30分の時点で、排水トレイ内に蓄積された水分量(g)を測定した。結果を表2に示す。
【0045】
(実施例6)
シート状体Bの積層枚数を4枚とした以外は実施例5と同様にして脱水試験を行った。結果を表2に示す。
【0046】
(実施例7)
積層体の形成にあたり、縦100mm×横200mmのシート状体Bを用いた以外は、実施例5と同様にして脱水試験を行った。結果を表2に示す。脱水量の数値としては、シート幅200mm当たりの数値に換算した値を示す(即ち、実際の脱水量を2倍した値を表2に示した)。
【0047】
(実施例8)
積層体の形成にあたり、縦100mm×横200mmのシート状体Bを用いた以外は、実施例6と同様にして脱水試験を行った。結果を表2に示す。脱水量の数値は、実施例7と同様に、シート幅200mm当たりの数値に換算した値を示す。
【0048】
【0049】
表2から明らかなように、積層枚数を多くすることで、脱水速度を速めることができることが分かる。また、実施例5~8の結果により、積層体の形成に用いるシート状体のサイズ、及び枚数の組み合わせを最適化することで、効率的に脱水速度を速め得る条件を見出すことができる可能性が示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、脱水処理速度の速い、毛細管現象を利用した脱水方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 積層体
2 排水トレイ
3 介在ドレーン
4 端部ドレーン
10 脱水ユニット
20 天日乾燥槽
30 脱水対象物
100 脱水装置