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特許7175161リチウムイオン二次電池用電解液及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用電解液及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電解液及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20221111BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20221111BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221111BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018207964
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020077456
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】トドロフ ヤンコ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉本 信子
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】平山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/077712(WO,A1)
【文献】特開2009-043624(JP,A)
【文献】特開2016-167408(JP,A)
【文献】特開2012-238524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩であるヘキサフルオロリン酸リチウム、溶媒である環状カーボネート、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1~3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf~Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表されるフッ素化リン酸エステル及び下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表されるフッ素化エステルを含み、
前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記環状カーボネートがモル比で0.5以上2.0以下、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化リン酸エステルがモル比で0.5以上2.0以下、且つ前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化エステルがモル比で3.0以上6.0以下であるリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項2】
前記環状カーボネートとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項3】
前記環状カーボネートとして、エチレンカーボネートを含有する請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項4】
前記フッ素化リン酸エステルとして、リン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル及びリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチルからなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項5】
前記フッ素化リン酸エステルとして、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を含有する請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項6】
前記フッ素化エステルとして、酢酸(2,2-ジフルオロエチル)、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、プロピオン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)からなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項7】
前記フッ素化エステルとして、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)を含有する請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項8】
正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極と、セパレータと、請求項1から7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液とを備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電解液、及び当該電解液を含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、高出力密度、高エネルギー密度を有し、携帯電話、ノートパソコン、タブレット型コンピューター等の電源として汎用されている。このような非水系二次電池の電解液は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の高誘電率の環状カーボネート溶媒に、低粘度溶媒であるジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを混合して成る有機溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム等のリチウム塩からなる電解質塩を溶解したものが一般的に用いられている。しかし、これらの溶媒は室温付近に引火点を持つため、製造中や保管中の電池からの液漏れや電池の過充電による発熱や破裂によって引火する恐れがある。そのため、リチウムイオン電池の高度な安全化は、大きな課題である。
【0003】
以上の問題を解決するために、非特許文献1には電解液にフッ素化リン酸エステルを加えて電解液の難燃化を行っている。電解液の完全な不燃化を達成するためには10%の添加が必要であることが記載されているが、フッ素化リン酸エステルの添加によって充放電サイクル特性が低下している。また特許文献1には、環状カーボネート、フッ素化リン酸エステルを含む非引火性電解液が提案されている。該電解液を用いた電池は比較的良好な充放電サイクル性能を示すものの、電解液のイオン電導度は従来電解液に比して低く、高率充放電性能等の検討が十分になされていない。
以上のように、電解液の安全性向上と電池性能の向上の両方を達成するのは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2013-20713号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】GS Yuasa Technical Report 2005年6月, 第2巻,第1号, 26~31ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自己消火性を有し、電池の充放電サイクル特性及び高率充放電特性に優れる電解液、及び当該電解液を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行い、特定組成とすることで、自己消火性を有し、電池のサイクル特性及び高率充放電特性に優れる電解液、及び当該電解液を用いたリチウムイオン二次電池を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は下記の要旨に係るものである。
[1] 電解質塩であるヘキサフルオロリン酸リチウム、溶媒である環状カーボネート、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1~3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf~Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表されるフッ素化リン酸エステル及び下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表されるフッ素化エステルを含むリチウムイオン二次電池用電解液。
[2] 前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記環状カーボネートがモル比で0.5以上2.0以下、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化リン酸エステルがモル比で0.5以上2.0以下、且つ前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化エステルがモル比で2.0以上6.0以下である[1]に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[3] 前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記環状カーボネートがモル比で0.5以上2.0以下、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化リン酸エステルがモル比で0.5以上2.0以下、且つ前記ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して前記フッ素化エステルがモル比で3.0以上6.0以下である[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[4] 前記環状カーボネートとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選ばれる1種以上を含有する[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[5] 前記環状カーボネートとして、エチレンカーボネートを含有する[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[6] 前記フッ素化リン酸エステルとして、リン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル及びリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチルからなる群から選ばれる1種以上を含有する[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[7] 前記フッ素化リン酸エステルとして、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を含有する[1]乃至[6]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[8] 前記フッ素化エステルとして、酢酸(2,2-ジフルオロエチル)、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、プロピオン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)からなる群から選ばれる1種以上を含有する[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[9] 前記フッ素化エステルとして、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)を含有する[1]乃至[8]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[10] 正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極と、セパレータと、[1]乃至[9]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液とを備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自己消火性を有し、電池のサイクル特性及び高率充放電特性に優れる電解液、及び当該電解液を用いたリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例に係る2032コインセルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の1つの実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<電解液>
本発明の電解液は、リチウムイオン二次電池用電解液であって、電解質塩であるヘキサフルオロリン酸リチウムと、溶媒である環状カーボネート、後述の一般式(1)で表されるフッ素化リン酸エステル、及び後述の一般式(2)で表されるフッ素化エステルとを含む。
【0013】
本発明の電解液においては、ヘキサフルオロリン酸リチウムに対して環状カーボネートがモル比で0.5以上2.0以下、且つヘキサフルオロリン酸リチウムに対してフッ素化リン酸エステルがモル比で0.5以上2.0以下、且つヘキサフルオロリン酸リチウムに対してフッ素化エステルがモル比で2.0以上6.0以下が好ましい。該組成を備える本発明の電解液は、より優れた自己消火性を有し、且つリチウムイオン二次電池に用いた場合に優れたより高率充放電特性及びより優れた充放電サイクル特性を示す。さらに、ヘキサフルオロリン酸リチウムに対してフッ素化エステルがモル比で3.0以上6.0以下であることが、高率充放電特性をさらに改善できるため、より好ましい。
【0014】
この理由は定かではないが、環状カーボネート及びフッ素化リン酸エステルがヘキサフルオロリン酸リチウムに対しこのような特定の組成で存在することで、これらは電解液中でヘキサフルオロリン酸リチウムのリチウムイオンに溶媒和し、その結果正極表面での耐酸化性や負極表面での耐還元性が向上することでサイクル特性が改善されると考えられる。また、フッ素化エステルをヘキサフルオロリン酸リチウムに対しこのような特定の組成で存在させることにより、電解液の粘度が減少するなどの効果により、効率充放電特性が改善すると考えられる。さらに特定組成の電解液は、上記電池性能への効果に加え、難燃効果を示すフッ素化エステルが有効に作用し、電解液の自己消火性が改善されるものと推察される。
なお、本明細書において自己消火性を有する電解液とは、電解液を火源にさらしても着火しないか着火しても燃焼が継続せずに直ぐに消火する電解液であり、具体的には電解液を含浸させたグラスファイバーフィルターを、大気下において炎に5秒間さらした後、炎から離し、3秒以内に鎮火する電解液を自己消火性電解液と定義する。
【0015】
ヘキサフルオロリン酸リチウムに対する環状カーボネート及びフッ素化リン酸エステルのモル比がそれぞれ0.5より小さいときは、へキサフルオロリン酸リチウムのイオン解離が範囲内にある場合と比較して十分でない。また、該比がそれぞれ2.0より大きいときは、溶媒和していない環状カーボネート又はフッ素化リン酸エステルのいずれかが、正極表面又は負極表面上で分解されるため、範囲内にある場合と比較して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下すると推察される。
【0016】
一方、ヘキサフルオロリン酸リチウムに対するフッ素化エステルのモル比が2.0より小さいときは、希釈効果が小さくなり電解液の粘度が上昇し、範囲内にある場合と比較してリチウムイオン二次電池の高率充放電性能が低下する場合がある。また、該比が6.0より大きいときは電解質塩の濃度が低くなるため、範囲内にある場合と比較して高率充放電特性が低下する場合がある。
【0017】
<電解質塩>
本発明の電解液は、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウムを含有する。ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度は特に限定されず当業者が適宜設定することができるが、通常、0.5mol/L~2.5mol/Lの範囲が好ましく、0.8mol/L~1.5mol/Lがより好ましい。濃度が0.5mol/L未満の場合は範囲内にある場合と比較して高率充放電特性が低下し易い。また、2.5mol/Lより濃度が高い場合は粘度が上昇することにより、範囲内にある場合と比較して高率充放電特性が低下したり、サイクル特性が悪化する場合がある。
【0018】
<溶媒>
本発明の電解液に溶媒として含まれる環状カーボネートは、主な役割として、電解質塩に配位しイオン解離を促進させイオン伝導度を高めるために添加される。
環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネート等を挙げることができる。これらのうち、高率充放電性能等の電池性能の点からエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネートがより好ましい。これら環状カーボネートは、2種以上混合して使用してもよい。
【0019】
本発明の電解液に溶媒として含まれるフッ素化リン酸エステルは、一般式(1)で表され、主な役割として電解液の自己消火性を発現させるために添加される。
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(1)においてRf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1~3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf~Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。
なお、本明細書において、含フッ素アルキル基とは、少なくとも一つの水素原子がフッ素原子により置換されているアルキル基をいう。炭素数1~3の直鎖または分岐の含フッ素アルキル基としては、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロイソプロピル基などを例示することができる。
一般式(1)で表されるフッ素化リン酸エステルとしては、例えばリン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2-ジフルオロエチル)(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2-ジフルオロエチル)メチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)エチル等を挙げることができる。これらのうち、電解液に自己消火性の機能を付与する効果が高く、且つ粘度が比較的低く高率充放電性能等の電池性能が良好である等の点から、リン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル及びリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチルが好ましく、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)がより好ましい。これらフッ素化リン酸エステルは、2種以上混合して使用してもよい。
【0022】
また、本発明の電解液に溶媒として含まれるフッ素化エステルは、一般式(2)で表され、主な役割として、電解液の粘度を低下させ、良好な高率充放電特性を得るために添加される。
【0023】
【化4】
【0024】
一般式(2)において、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐のアルキル基を表し、Rは炭素数1~3の直鎖または分岐の含フッ素アルキル基を表す。
一般式(2)で表されるフッ素化エステルの具体例としては、酢酸(2,2-ジフルオロエチル)、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、酢酸(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、酢酸(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、酢酸(ヘキサフルオロイソプロピル)、プロピオン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、ブタン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、2-メチルプロピオン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。これらのうち、電解液の粘度を低下させ高率充放電性能を高める効果が大きい点で酢酸(2,2-ジフルオロエチル)、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)、プロピオン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)が好ましく、酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル)がさらに好ましい。これらフッ素化エステルは、2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
<リチウムイオン電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記組成の電解液を使用するものであり、リチウムを吸蔵及び放出可能な正極活物質を含む正極、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極、セパレータを備えている。
【0026】
正極は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物等の正極活物質、導電材及びバインダーを有機溶媒又は水でスラリー化したものを金属集電体に塗布・乾燥し、必要に応じて圧延することで作製される。
【0027】
正極活物質の例としては、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiFePO、LiNiMnCo(0<x,y,z<1、x+y+z=1.0)、LiMn2-yNi(0≦x≦1、0.45≦y≦0.6)などのリチウムと遷移金属からなる複合酸化物を挙げることができる。
【0028】
負極は、負極活物質を集電体に密着して作製してもよいし、又は負極活物質と導電材及びバインダーを集電体に塗布・乾燥し、必要に応じて圧延することで作製してもよい。
【0029】
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、スズ化合物等を挙げることができる。またリチウムイオンをドープ・脱ドープが可能な炭素材料を負極活物質として用いることができ、このような炭素材料としてはグラファイトでも非晶質炭素でもよく、黒鉛、活性炭、炭素繊維、カーボンブラック、メソカーボンマイクロビーズなどが挙げられる。また黒鉛・シリコン複合体、チタン酸リチウムなども負極活物質として挙げられる。
【0030】
また、セパレータとしては、微多孔性膜等が用いられ、特に限定されないが、厚さ10μm~20μm、空孔率35%~50%の範囲内であることが好ましい。材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体等のフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状、形態等は特に限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型、カード型、大型など本発明の範囲内で任意に選択することができる。
【実施例
【0032】
次に、本発明を実施例、参考例、及び比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また以下に示す実施例及び比較例において、化合物名を以下のように表記して、説明する。
ヘキサフルオロリン酸リチウム :LiPF
エチレンカーボネート :EC
リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル) :TFEP
酢酸(2,2,2-トリフルオロエチル) :TFEAc
ジメチルカーボネート :DMC
【0033】
(電解液の自己消火性試験)
作製した電解液に、0.5cm×3cmのグラスファイバーフィルターを25℃で15分間浸した。電解液を含侵したグラスファイバーフィルターを、大気下で試験炎に5秒間さらした後、試験炎から遠ざけた。該処理を行ったときに引火しなかった場合は◎、引火して3秒以内に消えた場合は○、引火して3秒より長く燃え続けた場合を×とした。
【0034】
(正極の作製)
正極活物質である5Vスピネル(LiMn1.5Ni0.5)(田中化学)、アセチレンブラック(デンカブラック)及びポリフッ化ビニリデン(KUREHA、シャープ1100)を88:6:6の重量比で混合し、NMP溶媒を用いてスラリー溶液を作製した。得られたスラリーを25μmのAl箔上に塗布し、70℃で1時間、更に100℃で5時間、真空下で乾燥した。ロールプレスで圧縮後、φ14mmのサイズになるように打ち抜き、さらに150℃で5時間、真空下で乾燥することによって正極を作製した。
【0035】
(コイン電池の作製)
アルゴン雰囲気中のグローブボックスにて、上述の方法で作製したLCO正極、セパレータにCELGARD(登録商標) 2500、負極にLi箔を使用し、さらに、正極と負極の間の圧力を均等にする事と電解液の保持を目的として、グラスファイバーフィルターをセパレータと負極の間に挟み、図1に示す2032コインセルを組み立てた。
【0036】
(電池試験)
上述した方法で作製したコインセルについて、以下の充放電条件で測定を行った。
充放電レート :0.1C(1Cレート=150mAg-1
充電方法 :4.9Vまで定電流充電
放電方法 :3.0Vまで定電流放電
測定温度 :25℃
【0037】
1と2サイクル目は0.1C、3と4サイクル目は0.2C、5と6サイクル目は0.5C、7と8サイクル目は1C、9と10サイクル目は2C、11~30サイクル目は0.2Cレートにて充放電を行い、2サイクル目の0.1Cレートの放電容量に対する2Cレート(10サイクル目)の放電容量の割合(2Cレート容量/0.1C容量×100)を高率充放電容量維持率とし、その値が高いほど優れた性能(高率充放電特性)を有する。
30回目放電容量を、4回目の放電容量で割った値を充放電サイクル容量維持率とし、その値が高いほど、優れた性能(サイクル特性)を有する。得られた結果は表1に示す。
【0038】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中でサンプル瓶にEC:TFEPが、モル比で1:1になる様に混合しEC:TFEP=1:1の溶液を調製した。
その後、アルゴン雰囲気下のグローブボックス中で別のサンプル瓶にLiPF:EC:TFEP:TFEAcが、モル比で1:1:1:2になるようにLiPF、EC:TFEP=1:1の溶液とTFEAcを混合し、LiPFを溶解させ電解液を調製した。
次に、上記に記載した方法で電解液の自己消火性試験を実施した。またこの電解液を用いて、上記に示した方法でコインセルを作製し、電池試験を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2~6]
表1に示す組成としたほかは実施例1と同様の方法で電解液を調製し、実施例1と同様に電解液の自己消化性試験及びコインセルの電池試験を実施した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中でサンプル瓶にEC:TFEPが、モル比で
EC:TFEP=4.0:3.3になる様に混合し溶液を調製した。その後その溶液を用いて表1に示す組成になる様に実施例1と同様の方法で電解液を調製し、実施例1と同様に電解液の自己消化性試験及びコインセルの電池試験を実施した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中でサンプル瓶にEC:DMCが、モル比でEC:DMC=6.9:5.5になる様に混合し溶液を調製した。その後その溶液を用いて表1に示す組成になる様に実施例1と同様の方法で電解液を調製し、実施例1と同様に電解液の自己消化性試験及びコインセルの電池試験を実施した。結果を表1に示す。
【0042】
表1において、本発明の電解液である実施例1~6の電解液は、いずれも自己消火性を示し、且つリチウムイオン二次電池に使用した場合に良好な高率充放電特性及び充放電サイクル特性を示した。これに対し、従来電解液である比較例1の電解液は、良好な自己消火性を示すものの、リチウムイオン二次電池に使用した場合に高率充放電特性及び充放電サイクル特性が十分でないことが判る。また、比較例2の電解液は、リチウムイオン二次電池に用いた場合の電池性能は良好であるが、燃焼性を示し、安全性の問題があることが判る。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明で得られるリチウムイオン二次電池用電解液は、自己消化性を有するとともに従来と比較して高率充放電特性とサイクル特性が改善されており、例えば非常に高い安全性が求められるスマートウォッチ、補聴器等の人の皮膚に直に触れるウェアラブル端末用のリチウムイオン二次電池などの用途として有望である。
【符号の説明】
【0045】
1 ケース
2 バネ
3 スペーサー
4 SUS304メッシュ
5 リチウム箔
6 ガスケット
7 ガラスファイバーフィルター
8 セパレータ
9 正極
10 アルミ集電体
図1