(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】配線シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20221111BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H05K3/18 G
H05K3/18 A
H05K1/02 A
H05K1/02 J
(21)【出願番号】P 2018215728
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 真司
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-041826(JP,A)
【文献】特開2001-094264(JP,A)
【文献】特開2018-026464(JP,A)
【文献】特開2006-120667(JP,A)
【文献】特開2006-147701(JP,A)
【文献】特開2007-115993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/18
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、前記基材シートの表面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートの製造方法であって、
第一面に開口する溝部を有する前記基材シートを準備し、
前記基材シートの前記第一面に金属層を密着させ、前記溝部の一部分を覆った状態で、前記金属層を電極として用いて電気めっきを行い、前記溝部の中に、前記金属層と接合し、前記溝部の壁面に沿う第一導電部を形成し、
さらに前記金属層の一部をエッチングにより除去して、第二導電部を形成する工程(B)を有する、配線シートの製造方法。
【請求項2】
前記基材シートを作製する工程(A1)を有し、
前記工程(A1)において、凸部が形成された成形型に樹脂又は樹脂前駆体を含む樹脂材料を導入し、前記樹脂材料を硬化させて、前記成形型の凸部に対応する溝部が第一面に開口する前記基材シートを作製する、請求項1に記載の配線シートの製造方法。
【請求項3】
前記基材シートを作製する工程(A2)を有し、
前記工程(A2)において、成形型に樹脂又は樹脂前駆体を含む樹脂材料を導入し、前記樹脂材料を硬化させてシートを作製し、前記シートの第一面に開口する溝部を形成し、前記基材シートを得る、請求項1に記載の配線シートの製造方法。
【請求項4】
前記基材シートがエラストマーによって形成されている、請求項1~3の何れか一項に記載の配線シートの製造方法。
【請求項5】
第一面に開口する溝部を有する基材シートと、
前記基材シートの第一面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートであって、
前記導電性配線は、
前記溝部の中に形成された第一導電部と、
前記第一面上に、前記第一導電部に接合した第二導電部と、を有し、
前記第一導電部は、前記溝部の壁面に形成されためっき層であ
り、
前記溝部の長さ方向に直交する前記第二導電部の幅が、前記第一導電部の幅よりも広い、
配線シート。
【請求項6】
前記基材シートがエラストマーによって形成されている、請求項5
に記載の配線シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの導電回路を形成する方法として印刷技術を利用するプリンテッドエレクトロニクスに関する研究開発が盛んである。特許文献1には、厚さ方向に貫通するバンクパターン層を基材の表面に印刷法を用いて形成する工程と、前記バンクパターン層の凹部にめっき法を用いて導電膜を形成する工程を有する、導電パターンの形成方法が提案されている。同方法によれば、バルク金属と同等の導電性を有する導電パターンを、フォトリソ法を用いるよりも容易かつ低コストで形成することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷法により基板表面に配線や導電パターンを形成する場合、配線同士のピッチを狭くするためには高精細な印刷が要求される。しかし、基板表面に塗布したインク材料が面方向に広がるので、高精細を実現することは容易ではない。また、印刷により形成する表面の微細構造の厚さを増すことが難しく、重ね印刷により厚さを稼ぐと、基板の面方向にインク材料が広がる傾向が一層大きくなる。このため、面方向の幅に対する厚さ方向の高さのアスペクト比(高さ/幅)を大きくした配線を形成することが困難である、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、配線同士のピッチを狭くすること、及び配線のアスペクト比を大きくすることが容易な配線シートの製造方法と、基材シートに対する配線の接着性が向上した配線シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 基材シートと、前記基材シートの表面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートの製造方法であって、第一面に開口する溝部を有する前記基材シートを準備し、前記基材シートの前記第一面に金属層を密着させ、前記溝部の一部分を覆った状態で、前記金属層を電極として用いて電気めっきを行い、前記溝部の中に、前記金属層と接合し、前記溝部の壁面に沿う第一導電部を形成し、さらに前記金属層の一部をエッチングにより除去して、第二導電部を形成する工程(B)を有する、配線シートの製造方法。
[2] 前記基材シートを作製する工程(A1)を有し、前記工程(A1)において、凸部が形成された成形型に樹脂又は樹脂前駆体を含む樹脂材料を導入し、前記樹脂材料を硬化させて、前記成形型の凸部に対応する溝部が第一面に開口する前記基材シートを作製する、[1]に記載の配線シートの製造方法。
[3] 前記基材シートを作製する工程(A2)を有し、前記工程(A2)において、成形型に樹脂又は樹脂前駆体を含む樹脂材料を導入し、前記樹脂材料を硬化させてシートを作製し、前記シートの第一面に開口する溝部を形成し、前記基材シートを得る、[1]に記載の配線シートの製造方法。
[4] 前記基材シートがエラストマーによって形成されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の配線シートの製造方法。
[5] 第一面に開口する溝部を有する基材シートと、前記基材シートの第一面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートであって、前記導電性配線は、前記溝部の中に形成された第一導電部と、前記第一面上に、前記第一導電部に接合した第二導電部と、を有し、前記第一導電部は、前記溝部の壁面に形成されためっき層である、配線シート。
[6] 前記溝部の長さ方向に直交する前記第二導電部の幅が、前記第一導電部の幅よりも広い、[5]に記載の配線シート。
[7] 前記基材シートがエラストマーによって形成されている、[5]又は[6]に記載の配線シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の配線シートの製造方法によれば、配線同士のピッチを狭くし、さらには配線の高さ/幅で表されるアスペクト比が大きい配線シートを容易に製造することができる。
本発明の配線シートは、第一導電部と第二導電部の接合が優れており、導電性が高く、繰り返しの使用における耐久性にも優れる。また、第一導電部は基材シートの第一面に埋め込まれた状態にあるので、第一導電部及び第二導電部からなる配線の基材シートに対する接着性が向上している。さらに、配線が第一導電部を有しているので、配線の長さ方向(溝部の長さ方向)に直交する断面積が増えている。配線の断面積が増加したことにより、配線の長さ方向の電気抵抗が低減し、優れた導電性が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】基材シート1の第一面1aに金属層Eを設置した様子を示す平面図である。
【
図2】
図1のII-II線で切断した断面図である。
【
図3】基材シート1の溝部2内にめっき層からなる第一導電部3を形成した様子を示す断面図である。
【
図4】基材シート1の第一面1aに第二導電部8を形成した様子を示す断面図である。
【
図6】成形型Kの表面に樹脂材料Lを塗布した様子を示す断面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線で切断した断面図である。
【
図8】成形型Kの表面に基材シート1を形成した様子を示す断面図である。
【
図9】成形型Wの表面に樹脂材料Lを塗布した様子を示す断面図である。
【
図10】成形型Wの表面にシートαを形成した様子を示す断面図である。
【
図11】配線シート10の一部を厚さ方向に沿って切断した断面を拡大した断面図である。
【
図14】
図12のXIV-XIV線に沿う断面図の一例である。
【
図15】
図12のXIV-XIV線に沿う断面図の別の一例である。
【
図18】
図16のXVIII-XVIII線に沿う断面図の一例である。
【
図19】
図16のXVIII-XVIII線に沿う断面図の別の一例である。
【
図23】
図20のXXIII-XXIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪配線シートの製造方法≫
本発明の配線シートの製造方法の第一実施形態は、基材シートと、前記基材シートの表面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートの製造方法であり、以下の工程(B)を少なくとも有する。工程(B)は、第一面に開口する溝部を有する前記基材シートを準備し、前記基材シートの前記第一面を覆い、且つ前記溝部の一部分を覆わずに開口した状態を残して金属層を設置し、前記金属層を電極として用いて電気めっきを行い、前記溝部の中に、前記金属層と接合し、前記溝部の壁面に沿う第一導電部を形成し、さらに前記金属層の一部をエッチングにより除去して、第二導電部を形成する工程である。前記基材シートは工程(B)以外の工程で作製される。以下、図面を参照して実施形態の一例を説明する。
【0010】
<工程(B)>
図1、
図2に示すように、本工程で用いる絶縁性の基材シート1は、平面視矩形であり、第一面1aに複数の溝部2が形成されている。溝部2は、基材シート1が構成する絶縁部6の表面に形成された凹構造である。各溝部2は、長さ方向(長手方向)が一方向に揃えられ、互いに平行である。
本工程では、まず、基材シート1の第一面1aに電気めっき用の平板電極である金属層Eを密着させる。この際、各溝部2において、金属層Eにより一部分のみを覆い、残りの部分を覆わず、開口した部分を残す。図示例では各溝部2を長さ方向に見たときの第一端部2a(2)と、第二端部2b(2)とが開口した状態としている。この状態で、図示しない電気めっき槽に基材シート1及び金属層Eを浸漬すると、めっき液が溝部2の第一端部2a及び第二端部2bの開口から溝部2の中に自然に流入し、電気めっきに必要な成分が溝部2内に拡散可能な状態となる。
【0011】
次いで、常法により電気めっきすることにより、溝部2の各々の中に、金属層Eの基材シート1側の面と接合し、溝部2の壁面に沿う第一導電部3を形成する。溝部2の壁面に所望の厚さでめっき層が充分に成長したのち、電気めっきを終了する(
図3)。
めっき層である第一導電部3は、電極である金属層Eを起点の一つとして成長するので、第一導電部3の金属層Eに対する接合性が優れる。この優れた接合性の発現は、めっき層が金属層Eに接合する箇所のめっき層の厚みが充分に厚くなることによる。
【0012】
各溝部2を覆う金属層Eは、図示しない支持フィルムを、基材シート1に接する側と反対側の面に備えていてもよい。支持フィルムは後段で必要に応じて剥離して、取り除くことができる。支持フィルムと金属層Eの間には、剥離を容易にする材料を含む剥離層が介在していてもよい。このような支持フィルム付の金属層Eとして、例えば、樹脂製の支持フィルムの表面にアルミニウム層が蒸着され、さらにニッケル層がめっき法により形成されたものが挙げられる。金属層Eであるニッケル層を基材シート1に密着させた状態で、剥離層であるアルミニウム層を溶剤によって選択的にエッチングすることにより、支持フィルムを剥離することができる。
【0013】
次に、第一面1aに設置した金属層Eの一部をエッチングにより除去して、互いに独立に区画された複数の第二導電部8を形成する。
図4、
図5の例では、平面視で短冊状の矩形の第二導電部8の複数が、長さ方向を揃えて配置されるように金属層Eを除去した。この結果、各々の第二導電部8の直下には、配線をなす第一導電部3が1つある状態となる。互いに電気めっきによって接合した第二導電部8と第一導電部3の接合性が優れているので、導電性が高く、耐久性にも優れる。
【0014】
図示例では、平面視で第一導電部3の幅(即ち溝部2の幅)よりも第二導電部8の幅の方が広い。この構成であると、第二導電部8が基材シート1の第一面1aに接着するので、第一導電部3及び第二導電部8からなる配線の基材シート1に対する接着性がより一層向上するので好ましい。ここで、第一導電部3の幅は、第一導電部3の長さ方向に直交する向きの第一面1a上の幅である。
【0015】
金属層Eの一部をエッチングする方法としては、レーザ加工が好ましい。UVレーザはレーザ径が小さく、微細な第二導電部8の形成に特に適している。加工用レーザを照射した箇所の第二導電部8は熱により除去される。第二導電部8が除去されると第一面1aが露出する。露出した第一面1aが、仮に少しエッチングされた(オーバーエッチングが起きた)としても配線シート10の機能に悪影響を及ぼすことはない。
【0016】
レーザ加工は、金属層Eの任意の領域を所望の形状でエッチングできるので、任意の模様やパターンで第二導電部8を形成することができる。例えば、
図4、
図5の配線シート10の変形例として、配線シート10では互いに隣接していた第二導電部8を任意の組み合わせで結合するようにエッチングした別の形態が挙げられる。この別の形態では、1つの第二導電部8に対して複数の第一導電部3が一続きに接続している。複数の第二導電部8を任意に結合した形態によって、第一面1aに回路を形成することも可能である。
【0017】
最後に、必要に応じて、平面視で外側の枠部分の形状(外形)を成形するために、基材シート1が構成する絶縁部6の一部を切除することにより、目的の配線シート10が得られる(
図4、
図5)。
【0018】
図示例では第一導電部3は第二面1bに露出していないが、基材シート1の第二面1bを接触式又は非接触式の公知の加工方法により、第一導電部3の下端部を第二面1bに露出させ、第一導電部3を基材シート1の厚さ方向に貫通する貫通配線としてもよい。
前記接触式の加工方法としては、研磨、切削等が挙げられ、前記非接触式の加工方法としては、レーザ加工、プラズマ処理等が挙げられる。
【0019】
配線シート10が有する個々の第二導電部8の高さhを調整する方法として、(1)製造時に基材シート1の第一面1aに設置する金属層Eの厚さを調整する方法と、(2)前記オーバーエッチングの程度を調整する方法とが挙げられる。
【0020】
以上で得られた配線シート10の第一面1aには第二導電部8が露出している。第一導電部3と第二導電部8は電気めっきによって強く接合しているので、第二導電部8と第一導電部3の接合性が優れており、導電性が高く、繰り返しの使用にも耐える優れた耐久性を示す。また、各第一導電部3は基材シート1内に埋め込まれており、第一導電部3が第一面1aにアンカーしている(錨を下ろしている)状態となっている。この状態により、第一導電部3及び第二導電部8からなる配線の基材シート1に対する接着性が向上している。さらに、配線が第一導電部3を有しているので、配線の長さ方向(溝部2の長さ方向)に直交する断面積が増えて、高さ/幅のアスペクト比が大きくなっている。配線の断面積が増加したことにより、配線の長さ方向に対する電気抵抗が低減し、優れた導電性が発揮される。
【0021】
以上で説明した工程(B)では、金属層Eを電極として用いた電気めっきを行っているが、別の方法として、金属層Eを用いずに無電解めっきを行ってもよい。基材シート1の第一面1a及び溝部2の内面の所望の領域に、絶縁物を無電解めっきする目的で用いられる公知の触媒を含む触媒溶液を塗布した後、その塗布面である第一面1aを無電解めっきする。これにより、前記所望の領域に導電層を形成することができる。つまり、無電解めっきにより、溝部2内の第一導電部3と、基材シート1の第一面1a上の第二導電部8とを形成することができる。無電解めっきを適用すると、溝部2の内面に、均一な膜厚の導電層からなる第一導電部3を形成することができる。なお、均一な厚さの第二導電部8を形成する観点から、金属層Eを用いる上述の方法が好ましい。
【0022】
次に、他の実施形態を例示する。配線シート10と同様の方法により、
図12に示す配線シート20を形成することができる。配線シート20の領域Aに形成した配線は、基材シート1の第一面1aに形成した溝部2の内部の第一導電部3と第一面1a側に突出した第二導電部8とからなる配線である。この領域Aの配線は、第一面1aの平面視で、幅広の第二導電部8の直下に、第二導電部8よりも細い第一導電部3が形成されている(
図13参照)。
【0023】
一方、配線シート20の領域Bの配線の実施形態として、
図14に例示する実施形態B1と、
図15に例示する実施形態B2とが挙げられる。実施形態B1の配線は、第一面1aに第二導電部8を有さず、溝部2内に形成された第一導電部3のみによって形成されている。実施形態B2の配線は、溝部2内の第一導電部3の真上にのみ、第一面1aから突出する第二導電部8が形成されている。
実施形態B1は、第一面1aに形成した第二導電部8を研磨又はスライス等の方法を用いて、第一面1aから第二導電部8を研削することにより形成することができる。
実施形態B2は、第一面1aの上方から加工用のレーザを照射して、第一導電部3と重ならない部分の第二導電部8を除去することにより形成することができる。
【0024】
さらに、配線シート20の第一面1aの領域Bに、絶縁樹脂層を形成可能な樹脂塗料を塗布するか、又は絶縁フィルムを貼付して、絶縁層9を形成することにより、領域Bを被覆した構成も例示できる(
図16~
図19参照)。
【0025】
以上で説明した領域Bの配線によれば、幅広な第二導電部8を有しないので、配線同士の間隔をより狭くすることができる。図示例のように配線の幅を狭くした場合にも、基材シート1の厚さ方向のアスペクト比を高くすることにより、配線の電気抵抗を小さくすることができる。
【0026】
<工程(A1)>
本工程は、基材シートを作製する工程の一例である。まず、
図6、
図7に示す成形型Kを準備する。成形型Kの表面には、凹部Nと、凹部N内に配置された複数の直方体状の凸部Mが形成されている。
凹部Nの形状は、大まかには配線シート10の外形に相当する。図示例では上方に開口した扁平な直方体の空間である凹部Nが成形型K内の表面に形成されている。凹部Nは、配線シート10が有する絶縁部6を形成する空間であり、凹部Nの形状が反映された基材シート1を有する配線シート10を形成することができる。
凸部Mの各々の断面形状や配置は、配線シート10が有する第一導電部3の各々の断面形状や配置に相当する。
各凸部Mの高さは、凹部Nの深さと同じであってもよいし、異なっていてもよい。つまり、凸部Mの先端の位置は、成形型Kの表面Kaと面一であってもよいし、表面Kaよりも低い位置(即ち、凹部Nの内部)にあってもよいし、表面Kaよりも高い位置(即ち、凹部Nの外部であって上方)にあってもよい。図示例では、各凸部Mの高さ位置は成形型Kの表面Kaと面一である。
【0027】
図6、
図7に示すように、凹部N及び凸部Mを有する成形型Kの表面に、樹脂又は樹脂前駆体を含む液状の樹脂材料Lを塗布する。樹脂材料Lは、絶縁部6を形成する非導電性樹脂材料(絶縁性材料)である。塗布により樹脂材料Lは凹部N内に導入される。この際、凹部Nに入り切らない余剰の樹脂材料Lは成形型Kの表面Kaに溢れる。樹脂材料Lの凹部N内への導入を促進するために、真空処理、スキージによる押し込み等を行ってもよい。
【0028】
次に
図8に示すように、成形型Kの各凹部N内に充填した樹脂材料Lを硬化させ、成形型K内に基材シート1を形成する。この際、凹部N内に入らずに溢れた樹脂材料Lが、基材シート1の第二面1bを覆う残膜Rになる。
続いて、成形型Kから基材シート1を脱型する。得られた基材シート1の第一面1aには、成形型Kの凸部Mに対応する複数の溝部2が形成されている(
図1、
図2)。
【0029】
図示例では、溝部2は平面視で短冊状の矩形であるが、平面視で折れや曲がりのある非直線的な形状であってもよい。各溝部2の形状は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。凸部Mに対応して形成される溝部2の個数は1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0030】
<工程(A2)>
本工程は、基材シートを作製する工程の別の一例である。
図9に示す成形型Wを準備する。成形型Wの表面Waには、作製する配線シート10の外形に対応する、上方に開口した扁平な直方体の空間である凹部Uが形成されている。
まず、
図9に示すように、成形型Wの表面Waに、樹脂又は樹脂前駆体を含む液状の樹脂材料Lを塗布する。この際、凹部Uに入り切らない余剰の樹脂材料Lは成形型Wの表面Waに溢れる。
次に、
図10に示すように、成形型Wの凹部U内に充填した樹脂材料Lを硬化させ、成形型W内にシートαを形成する。この際、凹部U内に入らずに溢れた樹脂材料Lが、シートαの第二面を覆う残膜Rになる。
続いて、成形型Wから脱型したシートαの第一面に、所望の形状の溝部2を任意の数で形成することにより、基材シート1を得る。溝部2の配置や形状は作製する配線シート10が有する第一導電部3の配置に対応している。溝部2を形成する方法は特に制限されず、例えば、ドリル掘削、レーザ加工等の樹脂シートの表面を加工する公知方法が適用される。
【0031】
以上の工程(A1)及び工程(A2)によれば、成形型を用いて導電部よりも先に絶縁部を形成するので、隣接する第一導電部同士の短絡を確実に防止できる。また、隣接する第一導電部3のピッチに対応する、溝部2同士のピッチを狭くすることが容易である。さらには、第一導電部3のアスペクト比に対応する、溝部2の高さ/幅で表されるアスペクト比を大きくすることも容易である。
【0032】
[電気めっきの方法]
各実施形態の製造方法において、電気めっきにより基材シート1の溝部2の壁面に金属薄膜を形成し、さらに溝部2の長さ方向に沿う配線を形成する方法は、樹脂に対する公知の電気めっき法が適用される。好適な方法として、例えば、次の方法が挙げられる。すなわち、まず、無電解めっきの触媒となる金属イオンを予め溝部2の壁面に担持させ、次いで無電解めっきにより、めっき膜を形成した後、電気めっきにより所望の厚みの金属薄膜を形成する方法である。無電解めっきにより下地の金属薄膜を形成した後、電気めっきにより重ねて金属薄膜を形成することにより、溝部2の壁面に対する密着性が高い配線を形成することができる。溝部2内に形成する配線は中実でもよいし、中空でもよい。前記配線が中空である場合、溝部2の壁面に形成する金属薄膜の厚さとしては、例えば、0.1μm~10μmが挙げられる。
【0033】
溝部2の壁面に前記金属イオンを担持させる方法としては、例えば、基材シート1を金属イオンが含まれた溶液に浸漬して、溝部2内に前記溶液を流入させて、金属イオンを壁面に接触させる方法が挙げられる。溝部2の壁面に金属イオンが吸着しやすくなるように、アルカリ溶液等によって壁面を粗面化したり、金属イオンを吸着する又は金属イオンを含む有機層を壁面に形成したりしてもよい。
【0034】
具体的な電気めっき方法としては、例えば、特許第6011841号公報に開示された、樹脂に対する電気めっき方法が挙げられる。同公報では、(1)蔗糖の存在下で金属塩を還元することにより形成される金属コロイドを樹脂基材に吸着させることで、蔗糖由来化合物で被覆された金属微粒子を当該基材に吸着させ、(2)樹脂表面に吸着された金属微粒子を被覆する蔗糖由来化合物層に対し、オゾン、過酸化水素、又はアルカリ水溶液による処理を行った後、シランカップリング剤で処理することにより、樹脂表面に接着促進層を形成させ、(3)無電解めっきにより樹脂表面に設けた接着促進層表面に下地の金属薄膜を形成させ、その後、(4)電気めっきにより銅薄膜を作製する方法を開示している。
本発明においてもこのような電気めっき方法が適用できる。
【0035】
金属薄膜を構成する金属の種類としては、電気めっきにより金属薄膜を形成可能な金属であれば特に制限されず、例えば、金、銀、銅、ニッケル及びクロムから任意に選択される1種以上が好ましい。
【0036】
[樹脂又は樹脂前駆体]
樹脂材料Lに含まれる樹脂又は樹脂前駆体は、基材シート1の絶縁部6を構成する主材料である。樹脂前駆体は、樹脂を形成する化合物であり、例えば重合反応により樹脂を形成するモノマーが挙げられる。
前記樹脂としては、例えば、光重合性樹脂、熱重合性樹脂、活性エネルギー線重合性樹脂、触媒重合性樹脂等の公知の硬化性樹脂が挙げられる。
【0037】
可撓性を有する配線シート10を製造する観点から、樹脂材料Lの前記樹脂は、エラストマーであることが好ましい。
前記エラストマーとしては、例えば、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。これらの中でも、成形型から取り出した後の寸法変化が小さく、成形型から取り出した後の反りが生じ難く、圧縮永久歪が小さく、耐熱性が高い、シリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムは、縮合型、付加型のいずれでもよい。
【0038】
各実施形態で用いられる樹脂材料には、前述した樹脂又は樹脂前駆体の他に、従来の配線シートの基材に添加される任意の物質、例えば樹脂前駆体の重合を促す触媒、樹脂同士の架橋を促す架橋剤、抗酸化剤、染料、顔料、充填剤、レベリング剤等が添加されてもよい。これらの添加剤は、樹脂材料の総質量に対して例えば0~5質量%程度で含有され得る。また、成形型に対する樹脂材料の塗工性を向上させるために、樹脂材料に希釈溶剤を添加してもよい。
【0039】
≪配線シート≫
本発明の配線シートは、第一面に開口する溝部を有する基材シートと、前記基材シートの第一面に少なくとも一部が露出する導電性配線と、を備える配線シートであって、前記導電性配線は、前記溝部の中に形成された第一導電部と、前記第一面上に、前記第一導電部に接合した第二導電部と、を有し、前記第一導電部は、前記溝部の壁面に形成されためっき層である。
ここで、導電性配線の一部が第一面に「露出する」とは、その一部が他の部材で被覆されていないことを意味する。その一部は第一面から突出していてもよいし、第一面と面一でもよいし、第一面から陥没した位置にあってもよい。
【0040】
本発明の配線シートは前述の方法によって製造することができる。本発明の配線シートの一例である配線シート10は、
図4及び
図5に示すように、基材シート1を備える。基材シート1は、第一面1aとこれに対向する第二面1bを有する。配線シート10は複数の第一導電部3と絶縁部6とを備え、第一導電部3が島部分で、絶縁部6が海部分である海島構造を形成している。各第一導電部3は、基材シート1の第一面1aに形成された複数の溝部2の長さ方向に沿っており、第一面1a上に露出する第二導電部8に接合されている。各第一導電部3は互いに独立し、絶縁部6によって互いの絶縁性が保たれている。また、複数の第二導電部8は、絶縁部6の上に形成されており、空気によって互いの絶縁性が保たれている。
【0041】
配線シート10は、平面視矩形のシート状であり、その長手方向をX方向、その短手方向をY方向、その第一面1aに対する垂線方向(すなわちシートの厚さ方向)をZ方向とする。
配線シート10の平面視の形状は矩形に限定されず、円形、楕円形、多角形、その他の任意の形状が採用できる。
配線シート10の縦×横のサイズは特に限定されず、例えば、1mm×1mm~10cm×10cmとすることができる。
配線シート10を構成する基材シート1の厚さは、例えば、50μm以上500μm以下とすることができる。
配線シート10の形態、サイズ、厚さ等は、配線シート10の用途や目的に合わせて適宜設定される。
【0042】
(第一導電部3)
配線シート10の第一導電部3は、海島構造のうちの島部分であり、海部分によって互いに独立化された複数の直方体状の導電性部分である。各第一導電部3は基材シート1の第一面1aと面一の高さまでの領域であり、第二導電部8によって少なくとも一部が覆われている。第一導電部3の長さ方向の端部は、基材シート1の側面に露出していても構わない。各第一導電部3は、X方向又はY方向に沿って一定のピッチで配置されていてもよいし、特定の繰り返しパターンを有しない配置であってもよい。
【0043】
第一導電部3の長さ方向に直交する平面で切断した断面の形状は、略四角形であることが好ましい。前記断面の形状やサイズは、切断する箇所によらず、第一導電部3の長さ方向に沿って一定であることが好ましい。
第一面1aから第二面1bへ向けた、第一導電部3の中心軸の軸線は、第一面1a及び第二面1bの各々に対して、それぞれ独立に垂直でもよいし、傾いていてもよい。
【0044】
第一導電部3の長さ方向に直交する平面で配線シート10を厚さ方向に切断した断面の一例を
図11に示す。個々の第一導電部3の幅(溝部2の幅)S1は、第一導電部3の長さ方向の抵抗を低減する観点と、第一導電部3を狭いピッチで配置する観点とから、例えば、1μm~100μmが好ましく、3μm~50μmがより好ましく、5μm~25μmがさらに好ましい。個々の第一導電部3の幅S1は、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
前記幅S1は、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段によって測定される。
【0045】
前記断面における第一導電部3及び第二導電部8を合わせた高さZ(Z方向の長さ)と、幅S1との(高さZ/幅S1)で表されるアスペクト比は、5~30が好ましく、10~25がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると隣接する第一導電部3間のピッチを狭くしつつ、配線の長さ方向の抵抗を低減することができる。
上記範囲の上限値以下であると配線の機械的強度を高め、外部からの応力を受けた場合に断線することを確実に防止できる。
前記高さZは、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段によって測定される。
【0046】
前記断面において、互いに隣接する第一導電部3同士のピッチ(中心間距離)Pは、配線シート10の用途や目的に応じて任意に設定される。ピッチPは、例えば、1μm~100μmが好ましく、3μm~50μmがより好ましく、5μm~25μmがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、配線同士の短絡を防止し、配線を両側面から支持する絶縁部6の機械的強度を高めることができ、外部からの応力を受けた場合に断線することを確実に防止できる。
上記範囲の上限値以下であると、高精細な配線を形成できる。
【0047】
第一導電部3の配置は、配線シート10の製造時に任意の位置に形成可能な、溝部2の配置に対応している。図示例では、溝部2は平面視で短冊状の矩形であるが、平面視で折れや曲がりのある非直線的な形状であってもよい。各溝部2の形状は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。配線シート10が有する溝部2の個数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0048】
(絶縁部6)
配線シート10の絶縁部6は、海島構造のうちの海部分であり、絶縁部分である。
絶縁部6のZ方向の長さは、基材シート1の厚さHと同様であり、例えば、25μm以上750μm以下が好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましい。
前記下限値以上であれば、配線シート10の機械的強度がより高くなる。
前記上限値以下であれば、配線シート10の可撓性がより高くなり、薄型化が求められる電子機器の内部に容易に実装することができる。
【0049】
絶縁部6の全質量に対するエラストマーの含有量は、70~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。
前記含有量が70質量%以上であることにより、配線シート10の可撓性が充分に高まり、外部からの応力に対する耐性がより一層高まる。
【0050】
(第二導電部8)
配線シート10が有する個々の第二導電部8の平面視の形状は特に制限されず、任意の配線の形状が適用できる。例えば、直線部と屈曲部を任意に組み合わせた形状が挙げられる。個々の第二導電部8の平面視の形状は、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
第二導電部8の長さ方向に直交する平面で配線シート10を切断した断面において、第二導電部8のうち、端子部の幅S2は接続性向上の観点から、第一導電部3の幅S1よりも広いことが好ましい。また、第二導電部8のうち、回路部の幅S2は配線の狭ピッチ化の観点から第一導電部3の幅S1以下であることが好ましい。第二導電部8は回路部にはなくても良い。前記端子部としては、例えば、
図12に示す配線シート20の領域A、
図20に示す配線シート40の領域Aが挙げられる。前記回路部としては、例えば、
図12に示す配線シート20の領域B、
図20に示す配線シート40の領域B1及び領域B2が挙げられる。
前記幅S2は、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段によって測定される。
【0051】
第二導電部8の高さhは特に制限されず、例えば、1μm~50μmが挙げられる。各々の第二導電部8の高さhは、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
第二導電部8の高さhは、
図11に示すように、配線シート10の厚さ方向の断面を公知方法により撮像した画像から求められる。上述の第二導電部8の高さhは、例えば、10個以上、好ましくは30個以上の第二導電部8が写った断面の画像から、無作為に選択した5個以上、好ましくは10個以上の第二導電部8の高さを画像処理により得て算出した平均値であることが好ましい。
【0052】
本発明の配線シートが前述の方法によって製造された場合、第一導電部は、第二導電部に由来する金属層を電極として形成されためっき層である。したがって、第一導電部と第二導電部の接合が優れており、導電性が高く、繰り返しの使用における耐久性にも優れる。また、第一導電部は基材シートの第一面に埋め込まれた状態にあるので、第一導電部及び第二導電部からなる配線の基材シートに対する接着性が向上している。さらに、配線が第一導電部を有しているので、配線の長さ方向(溝部の長さ方向)に直交する断面積が増えている。配線の断面積が増加したことにより、配線の長さ方向に対する電気抵抗が低減し、優れた導電性が発揮される。
【0053】
[配線シートの使用方法]
本発明の配線シートの用途としては、公知の配線や回路を備えた電子基板と同じ用途が挙げられる。例えば、電子デバイスの端子の導通試験を行う検査用途や、電子機器内に備えられる回路基板を構成する実装用途に適用できる。
配線シートの基材シートがエラストマーを含んでいる場合、配線シートは優れた柔軟性を有し、弾性変形するので、電子デバイスへの設置および取り外しが容易である。
【0054】
具体的な配線シートの一例として、例えば、
図20~23に示す配線シート40が挙げられる。
配線シート40の領域Aにおける基材シート1の第一面1aには、第一導電部3よりも幅広で、第一面1aから突出した第二導電部8からなる第一接続部が形成されている。この第一接続部には別のデバイス等が電気的に接続可能とされている。
配線シート40の領域B1における基材シート1の第一面1aには、第二導電部8は無く、第一導電部3の表面が第一面1aと面一の位置にあり、第一導電部3の表面及び第一面1aは、レジストからなる絶縁層9によって被覆されている。
配線シート40の領域B2の平面視で、第一導電部3の真上のみに第二導電部8が備えられており、第二導電部8は第一面1aから突出しており、第二接続部を構成する。この第二接続部には別のデバイス等が電気的に接続可能とされている。
配線シート40の領域Aにおける配線同士のピッチよりも、領域B2における配線同士のピッチの方が狭ピッチである。
【符号の説明】
【0055】
1…基材シート、1a…第一面、1b…第二面、2…溝部、2a…第一端部、2b…第二端部、3…第一導電部、6…絶縁部、8…第二導電部、9…絶縁層、10,20,30,40…配線シート、E…金属層、K…成形型、Ka…表面、L…樹脂材料、M…凸部、N…凹部、P…ピッチ、R…残膜、S1…幅、S2…幅、U…凹部、W…成形型、Wa…表面、α…シート