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▶ アサヒ飲料株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】飲料及び飲料における塩味の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20221111BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20221111BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20221111BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/38 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018232735
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020092647
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】山口 航
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-12004(JP,A)
【文献】特開2016-96729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F,A23L,C12C,C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
CAPLUS/FSTA(STN)/Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クワシンを含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、
ブリックス値が3.0以下である、飲料。
【請求項2】
食塩を含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
スポーツ飲料である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
クワシンを配合することを特徴とする、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつブリックス値が3.0以下である飲料における塩味の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料及び飲料における塩味の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
暑熱環境下やスポーツ時において体内から失われた水分や塩分を補給するための、熱中症予防に適した清涼飲料水(スポーツドリンク等)が種々上市されている。このような清涼飲料水として、「『熱中症対策』表示ガイドライン」(全国清涼飲料連合会)には、ナトリウム濃度として少なくとも飲料100mlあたり40~80mg含有する清涼飲料水が規定されている。
【0003】
他方で、上記ナトリウム濃度を有する飲料は、通常、塩味が強過ぎる傾向にある。そのため、該飲料を飲みやすくするために、その他の溶媒(主に、糖類の溶液)で薄めて調製する等の手法が採られている。しかし、このように飲料を薄めるとナトリウムが不足し、十分な塩分を補給できない可能性がある。また、飲料を薄めるための溶媒が糖類の溶液である場合、塩味をマスキングできる一方で、甘味が強くなり過ぎてしまう問題がある。
【0004】
そのため、十分なナトリウム濃度を有しながらも、塩味を抑える技術へのニーズがある。例えば、非特許文献1には、カフェインの濃度が増加すると塩味が弱く感じられる旨の報告がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「にがり成分が食塩の呈味性に及ぼす影響」日本海水学会誌、第69巻、第2号、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、カフェインは飲料の苦みを強くする傾向があり、利尿作用を有するため、熱中症予防のための飲料には適さない可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、甘味及び塩味の強さがいずれも抑制されたナトリウム高含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高濃度のナトリウムを含む飲料にクワシンを配合することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) クワシンを含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、
ブリックス値が3.0以下である、飲料。
【0010】
(2) 食塩を含む、(1)に記載の飲料。
【0011】
(3) スポーツ飲料である、(1)又は(2)に記載の飲料。
【0012】
(4) クワシンを配合することを特徴とする、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつブリックス値が3.0以下である飲料における塩味の抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、甘味及び塩味の強さがいずれも抑制されたナトリウム高含有飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0015】
<本発明の飲料>
本発明の飲料は、クワシンを含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつ、ブリックス値が3.0以下である。これにより、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができる。
【0016】
以下、本発明の飲料の構成について詳述する。
【0017】
(クワシン)
クワシン(Quassin)とは、ニガキ(Picrasma quassioides)から抽出される、香料等として用いられる成分である。本発明者の検討の結果、クワシンが、意外にも、ナトリウムに由来する塩味の強さを抑制できることが見出された。そのため、クワシンをナトリウム高含有飲料に配合すれば、糖類の配合量が少なくとも、又は、糖類を用いずに、塩味がマスキングされたナトリウム高含有飲料が得られる。
【0018】
本発明の飲料に含まれるクワシンの含量は特に限定されず、配合されるナトリウムの含量や、得ようとする塩味抑制効果の程度等に応じて適宜調整できる。例えば、クワシンの含量の下限は、十分な塩味抑制効果を奏する観点から、飲料中に、好ましくは1.0ppb以上、より好ましくは5.0ppb以上であってもよい。クワシンの含量は、塩味抑制効果を奏しつつ、クワシンに由来する風味(苦み等)を抑えられやすいという観点から、好ましくは100ppb以下、より好ましくは50.0ppb以下、さらに好ましくは40.0ppb以下であってもよい。クワシンの含量が、飲料中に、36.0ppb未満であると、塩味抑制効果が奏され、クワシンに由来する風味(苦み等)が抑えられるだけではなく、飲料の後味が顕著に高まるという効果が奏されるため、特に好ましい。
【0019】
飲料中のクワシンの含量は、クワシンの濃度は、例えば、LC-MS(液体クロマトグラフ質量分析計)等の公知の方法で測定することができる。
【0020】
(ナトリウム)
本発明の飲料におけるナトリウム濃度は、20mg/100ml以上80mg/100ml以下である。このナトリウム濃度は、飲料分野において相対的に高い値であり、熱中症予防や水分補給に適した清涼飲料水等において通常採用される値である。
【0021】
上記のとおり、本発明においてはナトリウム濃度が高くとも良好に塩味を抑制できるため、ナトリウム濃度の下限は、飲料中に、好ましくは30mg/100ml以上、より好ましくは35mg/100ml以上、さらに好ましくは40mg/100ml以上であってもよい。ナトリウム濃度の上限は、過度な塩味を抑制する観点から、飲料中に、好ましくは60mg/100ml以下であってもよい。
【0022】
飲料中のナトリウム濃度は、原子吸光法で特定する。
【0023】
飲料に配合されるナトリウムの形態は、通常飲食品に配合されるものであれば特に限定されない。例えば、食塩(塩化ナトリウム)、クエン酸三ナトリウム等のナトリウム塩やナトリウムを含む飲食品(果汁、乳、茶、コーヒー等)が挙げられる。これらのうち、飲料に対して特に強い塩味を付与する成分であり、本発明による効果が奏されやすいという観点からナトリウム塩が好ましく、食塩がより好ましい。
【0024】
(ブリックス値)
ブリックス値は、飲料中の可溶性固形分量を示す値である。飲料のブリックス値が低いほど、飲料の甘味は弱い傾向がある。
【0025】
本発明の飲料のブリックス値は3.0以下であるため、飲料の甘味は相対的に弱い。本発明においては、ナトリウム濃度が高くとも、従来のように糖類の添加によって甘味を強めることで塩味をマスキングしなくとも、良好に塩味が抑制される。
【0026】
より甘味の抑えられた飲料を得る観点から、本発明の飲料のブリックス値の上限は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下であってもよい。本発明の飲料のブリックス値の下限は、特に限定されないが、0.1以上であってもよい。
【0027】
飲料のブリックス値は、実施例に示した方法で特定する。
【0028】
飲料に配合される糖類は、通常飲食品に配合されるものであれば特に限定されない。例えば、ぶどう糖、果糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、はちみつ、デキストリン、糖アルコール等が挙げられる。本発明の飲料には糖類が含まれなくともよい。
【0029】
(その他の成分)
本発明の飲料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的な飲料に通常用いられる他の原材料や添加剤を適宜配合することができる。配合量は得ようとする効果に応じて適宜設定できる。
【0030】
本発明の飲料に配合し得る成分としては、下記のものが挙げられる;溶媒(水、アルコール等)、糖類(砂糖、果糖、ぶどう糖、乳糖、麦芽糖等の単糖や二糖)、糖アルコール(オリゴ糖、エリスリトールやマルチトール等)、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖等)、人工甘味料(ステビア、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース等)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等)、増粘安定剤(大豆多糖類、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等)、酸化防止剤(トコフェロール、塩酸システイン等)、色素(カロチノイド色素、アントシアニン色素、カラメル色素、各種合成着色料等)、香料、苦味料(ナリンジン等)、保存料、防腐剤、防かび剤、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE等)やミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム等)、食物繊維等。
【0031】
本発明の飲料の形態は特に限定されないが、任意の清涼飲料水等として調製できるが、ナトリウム濃度が高いという性質上、スポーツドリンクに適する。スポーツドリンクとしては、「『熱中症対策』表示ガイドライン」(全国清涼飲料連合会)に規定される要件を満たすものが挙げられる。
【0032】
<本発明の飲料の特性>
本発明の飲料は、ナトリウム濃度が高いにもかかわらず、甘味でマスキングしなくとも塩味の強さが抑制されている。また、本発明の飲料は、良好な後味も有し得る。塩味や後味は、実施例に示した方法で評価される。
【0033】
<本発明の飲料の製造方法>
本発明の飲料は、飲料の製造において採用される任意の条件や方法を用いて調製される。例えば、本発明の飲料は、上記成分を配合した溶液を調製し、任意の容器に充填することで得てもよい。
【0034】
<飲料における塩味の抑制方法>
上記のとおり、本発明によれば、クワシンを配合することで、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつブリックス値が3.0以下である飲料における塩味を抑制することができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
表1に示す組成を有する飲料を調製した。得られた飲料を95℃で瞬間殺菌した後、以下の評価を行った。各結果を表に示す。
【0037】
(ブリックス値)
糖用屈折計(商品名「デジタル屈折計Rx-5000」、ATAGO社製)を用い、温度20℃における示度を飲料のブリックス値として測定した。
【0038】
(pH)
飲料を20℃に調整後、pHメーターにて測定した。
【0039】
(クエン酸酸度)
各飲料100g中に含まれる有機酸含量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100g)を飲料の酸度として特定した。具体的には、0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定した。滴定の終点は、水素イオン濃度系を用いて、pHが8.1になったときを終点とし、以下式によって算出した。
クエン酸酸度(W/V%)=A×f×100/S×0.064
(式中、A:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液による滴定量(ml)、f:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価、S:試料量(ml)、0.064は0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlに相当する無水クエン酸の重量(g))
【0040】
(官能評価)
5人のパネリストによって、比較例1を4点とした分量評定法を用いて香味(塩味又は後味)を評価し、各パネルが付けた評価点数の平均値を算出した。なお、塩味及び後味は7段階で評価し、数字が大きいほど、香味が強く感じられ、香味が良かったことを示す。
【0041】
【表1】
【0042】
いずれの実施例の飲料においても、高濃度のナトリウムを含み、かつ、ブリックス値が低いにもかかわらず、クワシンによって飲料の塩味の強さが抑制される傾向にあり、良好な塩味が呈された。
【0043】
特に、クワシン濃度が36ppb未満(0.0036mg/100ml未満)であると、苦み等が少なく後味が特に良いという意外な効果も奏された。