(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】放射線低減構造
(51)【国際特許分類】
G21K 5/00 20060101AFI20221111BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20221111BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
G21K5/00 S
A61N5/10 S
G21F3/00 Z
(21)【出願番号】P 2018239338
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【氏名又は名称】片寄 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】能任 琢真
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-049352(JP,A)
【文献】実開平03-055599(JP,U)
【文献】特開2017-223088(JP,A)
【文献】特開2018-100550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00
A61N 5/10
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射方向へ放射線を照射する放射線発生装置が設置された設置空間の
周囲に設けられ、前記放射線発生装置で発生する放射線を遮蔽する第1遮蔽構造物と、
前記第1遮蔽構造物の
下方に設けられる第2遮蔽構造物と、
を有する放射線低減構造であって、
前記第1遮蔽構造物と前記第2遮蔽構造物との間には、免震装置が設けられ、
前記第2遮蔽構造物は、前記第1遮蔽構造物と空間を介して対向し、
前記放射線発生装置の照射部に対して前記照射方向の下流側に位置する箇所に、前記照射方向の下流側へ凹んだ凹部を有することを特徴とする放射線低減構造。
【請求項2】
前記凹部には、開口部
がすぼんだ形状を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線低減構造。
【請求項3】
前記第1遮蔽構造物と前記第2遮蔽構造物との間は、人が通行可能となっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放射線低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線発生装置が設置された放射線照射室の外側に設けた空間(例えば、免震層などの空間)における放射線管理区域を小さくする放射線低減構造を提供する。
【背景技術】
【0002】
例えば、X線などの放射線の照射室においては、放射線が当該照射室から外部に漏洩することを低減する構造が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-45338号公報)では、通路に屈曲部分(12)を設けることにより、照射室の被照射物から反射されて外部に漏洩する放射線の線量を低減する技術が開示されている。
【文献】特開2004-45338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子リニアック(直線加速器)等の放射線発生装置が設置された放射線照射室では、管理区域外への放射線の漏洩を抑え、管理区域境界の実効線量を法令で定める値以下にするため、コンクリートや鉄を使った厚い遮蔽壁が設けられる。
【0005】
ところで、免震構造の普及により、放射線照射室が免震層の直上に作られる案件が増えている。放射線照射室を免震層の直上に設けるとき、免震層の一部(放射線照射室の直下付近)を放射線管理区域としてしまい、放射線発生装置の稼働中においては当該管理区域内への立ち入りを制限することで、免震層に放射線管理区域を設けない場合に比べ、照射室の床部の遮蔽性能を下げ、建設コストを下げることが考えられる。
【0006】
上記のように、放射線照射室直下の免震層内に放射線管理区域を設ける施設について、免震層のメンテナンス等により当該管理区域内に人が立ち入る場合、放射線発生装置の稼働状況とスケジュールを調整する必要がある。そこで、免震層内の放射線管理区域については可能な限り小さいことが望ましいが、これまで、免震層内の当該管理区域を小さくするための放射線低減構造については提案がされておらず問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る放射線遮蔽構造は、照射方向へ放射線を照射する放射線発生装置が設置された設置空間の周囲に設けられ、前記放射線発生装置で発生する放射線を遮蔽する第1遮蔽構造物と、
前記第1遮蔽構造物の下方に設けられる第2遮蔽構造物と、を有する放射線低減構造であって、
前記第1遮蔽構造物と前記第2遮蔽構造物との間には、免震装置が設けられ、
前記第2遮蔽構造物は、前記第1遮蔽構造物と空間を介して対向し、
前記放射線発生装置の照射部に対して前記照射方向の下流側に位置する箇所に、前記照射方向の下流側へ凹んだ凹部を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る放射線遮蔽構造は、前記凹部には、開口部がすぼんだ形状を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る放射線遮蔽構造は、前記第1遮蔽構造物と前記第2遮蔽構造物との間は、人が通行可能となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る放射線低減構造は、少なくとも第2遮蔽構造物で放射線照射範囲に該当する箇所は、他の箇所より凹んだ凹構造部を有しており、このような放射線低減構造によれば、例えば、放射線照射室の下に設けた免震層における管理区域を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る放射線低減構造1の適用先の一つである免震層を下部に有する放射線照射室2の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る放射線低減構造1を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る放射線低減構造1による効果を説明する図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る放射線低減構造1の概要を説明する模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る放射線低減構造1の他の適用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施形態に係る放射線低減構造1の適用先の一つである免震層を下部に有する放射線照射室2の一例を示す図である。
【0014】
放射線照射室2には、放射線発生装置が設置されている。本実施形態においては、このような放射線発生装置における放射線源3のみを示すこととする。放射線発生装置の一例としては、X線照射を行う電子リニアック(直線加速器)を挙げることできる。ただし、本発明に係る放射線低減構造1は、放射線源3としてX線を照射するものを含め、α線、β線、γ線、イオンなどの各放射線を照射する線源にも対応することができるものである。
【0015】
ここで、放射線発生装置が設置される空間である放射線照射室2を、設置空間Aとして定義する。また、放射線源3は、放射線照射範囲Rに対して放射線を照射するものとする。放射線照射室2においては、放射線照射範囲R内に治療台5が載置され、当該治療台5上で患者(不図示)が放射線照射による治療を受けることが想定されている。
【0016】
設置空間Aの下部には、放射線源3で発生する放射線を遮蔽するために配されている第1遮蔽構造物Bが設けられる。この第1遮蔽構造物Bとしては、一般的にはコンクリートや鉄などが用いられる。この第1遮蔽構造物Bの外側には、免震装置7が収容された免震層などの空間が配される。この免震層などの空間を、外側空間Cとして定義する。この外側空間Cの外周囲には、免震装置7の基礎となると共に、放射線の遮蔽役としても機能する第2遮蔽構造物Dが設けられている。
【0017】
本発明に係る放射線低減構造1は、放射線源3が配されてなる設置空間Aと、この設置空間Aから離れる順に、第1遮蔽構造物Bと、主として空洞の外側空間Cと、第2遮蔽構造物Dとがレイアウトされた構造物に適用されることが前提となる。
【0018】
以上のような前提の下、本発明に係る放射線低減構造1では、第2遮蔽構造物Dにおいて凹構造部10を設けることによって、外側空間Cにおける実効線量を低減させるようにしている。このような凹構造部10を有する本発明に係る構造物について、
図1に示した従来の構造物との相違に基づいて説明する。
【0019】
図2は本発明の実施形態に係る放射線低減構造1を説明する図であり、
図2(A)は従来の放射線照射室2周辺の構造を示しており、
図2(B)は本発明に係る放射線低減構造1が適用された放射線照射室2周辺の構造を示している。なお、図において免震装置7については図示省略している。
【0020】
本発明に係る放射線低減構造1は、
図2(B)に示すように、少なくとも第2遮蔽構造物Dにおいて放射線照射範囲Rに該当する箇所(両矢印に示される箇所)は、他の箇所より凹んだ凹構造部10を有することを特徴としている。第2遮蔽構造物Dが他の箇所より凹んでいる凹構造部10は、通常の高さの床の底面より低い底面を有する構造を言う。
【0021】
設置空間Aから放射線源3により放射線を照射すると、第1遮蔽構造物Bを透過した放射線のうち、一部は第1遮蔽構造物B内で散乱し、外側空間Cに広がるが、第1遮蔽構造物Bを透過した放射線は、第2遮蔽構造物Dにおける床の窪みである凹構造部10を通してさらに下方側の底面に到達する。さらに、床面に到達した放射線は、凹構造部10の内部で一部が反射を繰り返し、減衰され、外側空間Cにおける線量を低減させることができる。
【0022】
なお、凹構造部10には、放射線を比較的通しやすいグレーチング等を設置することで、足場を設けることもできる。
【0023】
本発明に係る放射線低減構造1の凹構造部10による実効線量の低減効果についてモンテカルロ計算によるシミュレーションにより評価を行った。計算コードとしては、3次元モンテカルロ計算コードMCNP5を用いた。
【0024】
当該計算において、放射線源3の第1遮蔽構造物Bの底面から2.295mとした。第1遮蔽構造物Bは普通コンクリート製とした。また、第1遮蔽構造物Bの厚さを1.6m、外側空間Cの高さを1.0mとした。
【0025】
また、放射線源3からは、円錐状のX線ビームを、線源から1.0m離れた地点で照射面積が0.16m2、同地点での水に対する吸収線量が360Gy/hになるように下向きに照射した。
【0026】
第2遮蔽構造物Dの床には遮蔽構造として、X線ビームの中心軸と中心を合わせた直径3m、深さ0.4mの平面視円形状の凹構造部10を設けた。
【0027】
外側空間C内であって、第2遮蔽構造物Dの床上高さ0.5m、X線ビームの軸からの水平距離(H)が4~9mの位置(×印にて図示した位置)にて、凹構造部10が設けられていない従来の場合、本発明に係る放射線低減構造1の凹構造部10が設けられた場合のそれぞれの実効線量を距離Hで1m毎にモンテカルロ計算によって求めた。この結果を
図3に示す。
【0028】
図3に示すように、モンテカルロ計算で1m毎に実効線量をそれぞれの場合で求めたところ、本発明に係る放射線低減構造1の凹構造部10がありの場合は、凹構造部10なしの場合に比べて平均して実効線量を20%低減させることが確認できた。
【0029】
以上のように、本発明に係る放射線低減構造1は、少なくとも第2遮蔽構造物Dで放射線照射範囲に該当する箇所は、他の箇所より凹んだ凹構造部10を有しており、このような放射線低減構造1によれば、例えば、放射線照射室の下に設けた免震層における管理区域を小さくすることができる。
【0030】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図4は本発明の第2の実施形態に係る放射線低減構造1の概要を説明する模式図である。
図4に示す実施形態では、凹構造部10として、奥側(鉛直下方側)に、凹構造部10の開口部12の面積(S
0)より、大きい面積(S
1。ただし、S
1>S
0)の断面部15を有することを特徴としている。
【0031】
このような第2の実施形態の場合、第1遮蔽構造物Bを透過した放射線は、凹構造部10の開口部12を通してさらに奥の空間に到達する。断面部15の広さが十分にあるとき、その内部で放射線が反射を繰り返し、減衰され、外側空間Cの線量を低減させることができる。第2の実施形態の場合、先の第1の実施形態に比べて、開口部12の奥側に広い空間を有すると共に、断面部15の面積(S1)が、開口部12の面積(S0)より大きく設定されているため、外側空間Cにおけるより大きな線量低減効果を期待できる。
【0032】
第2の実施形態についても、実効線量をモンテカルロ計算によって求めた。
図4において、平面視円形の開口部12の直径は4.0mとし、平面視円形の断面部15の直径は6.0mとした。
【0033】
第2遮蔽構造物Dの床上高さ0.5m、X線ビームの軸からの水平距離(H)が4~9mの位置(×印にて図示した位置)にて、凹構造部10が設けられていない従来の場合、第2の実施形態に係る放射線低減構造1の凹構造部10が設けられた場合のそれぞれの実効線量を距離Hで1m毎にモンテカルロ計算によって求めた。この結果、第2の実施形態に係る放射線低減構造1の凹構造部10がある場合は、凹構造部10なしの場合に比べて平均して実効線量を37%低減させることが確認できた。
【0034】
外側空間Cの実効線量が、管理区域境界の実効線量限度1300μSv/3月の1/10である130μSv/3月となる範囲を平面視正方形で囲んで管理区域とした場合、以下のようになる。
・
図2(A)に示した凹構造部10がないケースでは、X線ビーム中心軸から管理区域境界までの最短距離が6.3m、正方形の面積が159m
2、面積比が100%(本ケースを基準とする)。
・
図2(B)に示した第1の実施形態に係る凹構造部10を有するケースでは、X線ビーム中心軸から管理区域境界までの最短距離が5.8m、正方形の面積が135m
2、面積比が85%。
・
図4に示した第2の実施形態に係る凹構造部10を有するケースでは、X線ビーム中心軸から管理区域境界までの最短距離が5.4m、正方形の面積が117m
2、面積比が73%。
【0035】
以上のように、特に第2の実施形態に係る放射線低減構造1によれば、凹構造部10がない場合、管理区域の面積を27%低減することができた。
【0036】
次に、本発明に係る放射線低減構造1を他の状況に適用した例を示す。
図5は本発明の実施形態に係る放射線低減構造1の他の適用例を説明する図である。
図5は放射線照射室2周辺の構造の平面図を示している。
【0037】
これまで説明した本発明の適用例では、鉛直下方に向かって、放射線源3の設置空間A、第1遮蔽構造物B、外側空間C、第2遮蔽構造物Dが順に配されていた。これに対して、
図5に示す適用例では、放射線源3の設置空間A、第1遮蔽構造物B、外側空間C、第2遮蔽構造物Dが順に水平方向に配されており、外側空間Cは通路20として利用される空間に相当している。このような場合でも、第2遮蔽構造物Dにおける放射線照射範囲Rに該当する箇所には、他の箇所より凹んだ凹構造部10を設けるようにする。このような
図5に示す適用例では、通路20における実効線量を低減することなどが可能となる。
【0038】
以上、本発明に係る放射線低減構造は、少なくとも第2遮蔽構造物で放射線照射範囲に該当する箇所は、他の箇所より凹んだ凹構造部を有しており、このような放射線低減構造によれば、例えば、放射線照射室の下に設けた免震層における管理区域を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・放射線低減構造
2・・・放射線照射室
3・・・放射線源
5・・・治療台
7・・・免震装置
10・・・凹構造部
12・・・開口部
15・・・断面部
20・・・通路
A・・・設置空間
B・・・第1遮蔽構造物
C・・・外側空間
D・・・第2遮蔽構造物
R・・・放射線照射範囲
H・・・X線ビーム中心軸からの水平距離