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特許7175195付加堆積によって身体代替体を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】付加堆積によって身体代替体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221111BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221111BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20221111BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 B
C12Q1/02
A61L27/58
A61L27/60
A61L27/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018553319
(86)(22)【出願日】2016-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2016053683
(87)【国際公開番号】W WO2017115056
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-11-08
(31)【優先権主張番号】1563461
(32)【優先日】2015-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1651797
(32)【優先日】2016-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518232098
【氏名又は名称】ラボ スキン クリエーションズ
【氏名又は名称原語表記】LABSKIN CREATIONS
(73)【特許権者】
【識別番号】513246470
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロードゥ ベルナー -リヨン1
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE CLAUDE BERNARD-LYON1
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】513023066
【氏名又は名称】アンスティトゥー ナショナル デ サイエンシーズ アプリーク ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】518232102
【氏名又は名称】エコール シュペリュール ドゥ シミ, フィズィーク, エレクトロニック ドゥ リヨン
【氏名又は名称原語表記】ECOLESUPERIEURE DE CHIMIE, PHYSIQUE, ELECTRONIQUEDE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】マルケット, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】プルシェ, レア
(72)【発明者】
【氏名】テポー, アメリ
(72)【発明者】
【氏名】ドス サントス, モルガン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/153815(WO,A1)
【文献】特表2003-533367(JP,A)
【文献】特開2009-207963(JP,A)
【文献】Biofabrication,2014年,Vol. 6,p. 1-10
【文献】Tissue Engineering: Part C,2014年,Vol. 20,p. 473-484
【文献】Journal of BIOACTIVE AND COMPATIBLE POLYMERS,2009年,Vol. 24,p. 249-265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加堆積のためのバイオインクを製造する方法において、
(a)5~40質量%(好ましくは6~30質量%)のゼラチンと0~5質量%のNaClとを含む第1の溶液を用意し、
(b)1~12質量%(好ましくは1~8質量%)のアルギネートと0~5質量%のNaClとを含む第2の溶液を用意し、
(c)1~15質量%(好ましくは3~15質量%)のフィブリノゲンと懸濁液内の生細胞とを含む第3の溶液を用意し、
(d)約35~65体積%の前記第1の溶液、約15~35体積%の前記第2の溶液、および約15~35体積%の前記第3の溶液を含み、これらの割合が合計して100%となるように選択される混合物を作製し、
該方法において、
ステップ(a)、(b)および(c)の順序は任意であり、
前記NaClの含量は、前記第1の溶液および前記第2の溶液を合わせて、0.2~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、さらにより好ましくは0.4~2質量%となるように選択され、
前記生細胞は、あらゆるヒトまたは動物の組織または器官から単離された初代細胞である、方法。
【請求項2】
前記生細胞は、幹細胞(分化全能性、分化多能性、および3重分化能性(tripotent))または分化細胞(生殖系列細胞もしくは体細胞)、あらゆるヒトまたは動物の組織または器官から単離された初代細胞(例えば生殖系列細胞)、体細胞,幹細胞;結合組織または支持組織(骨、靱帯、軟骨、腱、脂肪組織など)、筋組織(血管壁の平滑筋細胞、心筋、骨格筋など)、神経組織および上皮(血管、ワルトン管、口腔粘膜、舌背、硬口蓋、食道、膵臓、副腎、前立腺、肝臓、甲状腺、胃、腸、小腸、直腸、肛門、胆のう、甲状腺濾胞、リンパ管、皮膚、汗腺、体腔上皮、卵巣、卵管、子宮、子宮内膜、子宮頸部(子宮頸管内膜、子宮頸膣部)、膣、大陰唇、直尿細管(tubuli recti)、精巣網、輸出管、精巣上体、精管、射精管、尿道球腺、精のう、中咽頭、喉頭、声帯、気管、細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管曲部、腎臓の遠位尿細管、腎盂、尿管、膀胱、前立腺部尿道など)に由来する細胞;中胚葉、外胚葉、または内胚葉由来の細胞;リンパ球(特にBリンパ球、Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、NKTリンパ球、制御性Tリンパ球、補助リンパ球)、骨髄細胞、顆粒球、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、過分葉好中球、単球、マクロファージ、網状赤血球、血小板(trombocyte)、マスト細胞、血小板、巨核球、樹状細胞、甲状腺細胞、甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞、副甲状腺細胞、副甲状腺主細胞、好酸性細胞、副腎細胞(adrenal cell)、クロム親和性細胞、松果体細胞、グリア細胞、グリア芽細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア細胞、大細胞性神経分泌細胞(magnocellular neurosecretion cell)、星状細胞(stellar cell)、ベッチェル細胞;下垂体細胞、性腺刺激ホルモン分泌細胞、副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞、甲状腺刺激ホルモン分泌細胞、成長ホルモン分泌細胞、乳腺刺激ホルモン分泌細胞(lactotroph)、肺細胞(特にI型肺胞細胞、II型肺胞細胞、クララ細胞);肺胞マクロファージ、心筋細胞(myocardiocyte)、周皮細胞、胃細胞(特に消化細胞(胃主細胞)、壁細胞、杯細胞、パネート細胞、G細胞、D細胞、ECL細胞、I細胞、K細胞、S細胞、腸内分泌細胞、腸クロム親和性細胞、APUD細胞)、肝細胞(特にヘパトサイト、クッパー細胞)、骨細胞(特に骨芽細胞、オステオサイト、破骨細胞、象牙芽細胞、セメント芽細胞、エナメル芽細胞)、軟骨細胞(特に軟骨芽細胞、コンドロサイト)、毛細胞(特にトリコサイト)、皮膚細胞(特にケラチノサイト、脂肪細胞、線維芽細胞、メラノサイト、母斑細胞)、筋細胞(特にミオサイト、筋芽細胞、筋管)、腱細胞、腎細胞(特にポドサイト、傍糸球体細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体外メサンギウム細胞、緻密斑細胞)、精子、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞、卵母細胞、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生細胞は、結合組織もしくは支持組織、筋組織、神経組織または上皮から単離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記生細胞は、臍帯血細胞、幹細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、がん幹細胞、前駆細胞、自家細胞、同系移植細胞、同種異系細胞、異種移植細胞、遺伝子改変細胞、誘導前駆細胞、トランスフェクション細胞からなる群から選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
身体組織代替体を製造する方法において、
(i)5~40質量%のゼラチンを含む第1の溶液と、1~12質量%のアルギネートを含む第2の溶液と、1~15質量%のフィブリノゲンと生細胞とを含む第3の溶液との混合液であるバイオインクであって、前記混合液は、約35~65体積%の前記第1の溶液と、約15~35体積%の前記第2の溶液と、約15~35体積%の前記第3の溶液との混合液であり、これらの割合が合計して100%となるように選択され、0.2~5質量%のNaClを含む、付加堆積のためのバイオインクを用意し、
(ii)1~5質量%のカルシウムイオンと、2U/mL~40U/mL(好ましくは5U/mL~40U/mL、さらにより好ましくは10U/mL~30U/mL)のトロンビンとを含む水溶液(「重合溶液」と呼称する)を用意し、
(iii)前記バイオインクをそのゲル化点より高い温度T1にして、前記バイオインクの前記ゲル化点より低い温度T2の基質に堆積させ、該基質において、前記バイオインクはゲルとなって「未処理のプリント物体」と呼称される制御された3次元物体を形成し、
(iv)前記未処理のプリント物体を前記重合溶液で処理して、前記未処理のプリント物体を身体組織代替体へと固定し、
(v)前記身体代替体を細胞培地にてインキュベートする、方法。
【請求項6】
T1は27℃~32℃であり、T2は4℃~20℃である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記未処理のプリント物体は、T1よりも高い温度T3で、好ましくは35℃~38℃で、浸漬することによって前記重合溶液で処理される、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記身体組織代替体は皮膚代替体前駆体であり、
前記バイオインクは生線維芽細胞を含む懸濁液であり、
前記インキュベートは36℃~38℃の温度で行われ、8~40日継続する第1のインキュベート期と5~10日継続する第2のインキュベート期とを含み、ケラチノサイトの水性懸濁液を前記第1のインキュベート期と前記第2のインキュベート期との間において前記皮膚代替体の表面に堆積させる、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記未処理のプリント物体はほぼ平坦な上部面を含み、平坦な上部面のcm当たり0.2~10×10(好ましくは0.2~2×10)の線維芽細胞に等しい線維芽細胞が均一に分布する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
線維芽細胞の濃度は、バイオインクのcm当たり0.6~12×10の線維芽細胞、好ましくはバイオインクのcm当たり1~7×10の線維芽細胞、さらにより好ましくはバイオインクのcm当たり1~5×10の線維芽細胞である、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
堆積されるケラチノサイトの量は、平坦な上部面のcm当たり0.05~50×10のケラチノサイト(好ましくは0.2~20×10、より好ましくは0.5~10×10のケラチノサイト)である、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記身体組織代替体は皮膚代替体であり、前記方法において、
(i)第1のステップにおいて、前駆脂肪細胞および/または成熟脂肪細胞を含む請求項1~のいずれか1項に記載のバイオインクを用いて、皮下組織を複数の層状にプリントし、
(ii)第2のステップにおいて、線維芽細胞を含む請求項1~のいずれか1項に記載のバイオインクを用いて、皮下組織を複数の層状にプリントし、
(iii)第3のステップにおいて、ケラチノサイトを含む請求項1~のいずれか1項に記載のバイオインクを用いて、1または複数の層をプリントする、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
特に身体組織における毒性、治療的もしくは美容的有効性、または貫通性を評価する目的で、医薬品もしくは化粧料活性成分における試験を行うため、または化学製品における試験を行うための、請求項12のいずれか1項に記載された方法によって得られた身体組織代替体の使用。
【請求項14】
前記身体組織代替体は病的細胞を含むバイオインクで作製され、有効成分の一般または個別の治療的有効性を評価することを目的とする、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、より詳細には身体組織代替体、特に皮膚組織の代替体に関する。本発明は、特に、身体へのインプラントを意図した身体代替体(皮膚など)を製造すること、または医薬品または化粧料活性成分における試験を行って身体組織におけるその毒性、その有効性もしくは貫通性を評価することに関する。
【背景技術】
【0002】
欧州では、化粧料に使用される化学物質は実験動物において試験することはできない。したがって、皮膚代替体は、天然の真皮の特徴により酷似する特徴を得るため、その製造および使用のコストを低減するために、引き続き改善されている。生物工学的材料および基質を製造するための種々の実験方法のなかでも、付加堆積法は過去数年にわたって大きく注目を浴びているものである。
【0003】
その一部が「ステレオリソグラフィー」または「3Dプリンティング」の用語で知られる付加製造法は、当初、プラスチック製のモデル工業用部品(高速プロトタイピング、特許文献1参照)を製造するために設計されたが、過去約10年の間、数多くの適用分野で研究されている。付加製造法には、一般に、最初の基質において、制御された3次元形状に粉末、ペースト、または液(インク)相を堆積すること、続いてこの堆積相を固化させて、制御された3次元形状を有する物体を取得することを含む。この堆積は通常複数のパスで行われ、そのそれぞれが粉末、ペースト、または液相を制御された3次元形態に堆積させるものである。従来、これらの堆積物はパス毎(層毎)に固化される。該粉末、ペースト、または液相は均質であってもよく(例えば均質な粉末または溶融型熱可塑性ポリマー)、または液相内に分散した固体粒子を含んでいてもよい。その粘性は重要なパラメータであり得、これは、その堆積後に得られるプリフォームが固化を待つ間(この待ち時間は1秒の何分の1かであり得る)に崩れてはならないためである。また、インクの組成に応じて、種々の技術によって固化することができる。また、特に固化する溶融状態の押出しポリマーの場合、またはチキソトロピー性ペーストの場合、または互いに反応する分子を含む組成を有するポリマーの場合に、自発的に起こることもある(特許文献2に記載されている)。
【0004】
例として、プラスチック部品は、レーザービームの光によって(または吸収によって発生した熱によって)重合可能なインクを堆積することで製造することができ、金属部品は、レーザービームの影響下で(通常は中間的融解によって)凝固する金属粒子または粉末を含むペーストを堆積することで製造することができ(粉末焼結積層造形法(SLS(Selective Laser Sintering))として知られている技術)、溶融金属も直接的に堆積することができる。このように、複雑な形状の工業部品を製造することができる。FDM(登録商標)(Fused Deposition Modeling、溶融堆積モデリング)、マルチジェットモデリング、およびFTI(Film Transfer Imaging、フィルム転写イメージング)など、市場において多数の技術(およびその省略形)が存在する。省略形のSFF(Solid Freeform Fabrication、固体自由形状製造法)は、付加技術を用いてCAD(Computer-Aided Design、コンピュータ支援設計)ファイルから直接的に3次元構造を製造するために使用できる一連の技術を指すために用いられる。
【0005】
付加製造技術の使用は、バイオテクノロジー分野の先行技術において既知である。つまり、「生物学的」材料系の3次元構造がプリントされている。より正確には、この場合、使用されるインクは固化可能な生体適合性材料である。これらの材料は生細胞のための足場材として使用することができ、該生細胞は足場材が固化された後に導入される。また、生細胞は、生細胞を含む懸濁液であるインク内に直接的に導入することもでき、これらのインクは「バイオインク」と呼ばれることもある。
【0006】
この固化は光化学法によって行うことができる。例として、特許文献3は、生細胞がコロニー形成可能な足場材を作製するための、いくつかのタイプの光重合性ヒドロゲル、すなわちPEG-DA(=ポリエチレングリコールジアクリレート)、PEG-DA-PEA(ポリエステルアミド)、GMA-キトサンおよびアルギネートの使用を記載している。特許文献4は、PPF(ポリプロピレンフマレート)系の吸収性足場構造の製造を記載している。特許文献5および特許文献6は、光化学反応によって固化されるポリエチレングリコールヒドロゲルを使用するステレオリソグラフィーの他の実施形態を記載している。しかしながら、光化学による固化は、相当量の光触媒、光開始剤、および/または染色剤を必要とする(例えば2%光開始剤)。これらの添加剤は毒性学的問題をもたらし得る。光触媒に関して、たとえそれ自体に毒性はないとしても、通常、フリーラジカルの生成は、細胞死や、得られる産生物を妨害する危険性を招くものである。これが、バイオテクノロジー用途のために光重合の代替を見出すことが求められる理由である。
【0007】
また、ヒドロゲルは固化可能なペースト媒体として過去に使用されてきた。特許文献7は、その非常に長いリストを記載している。特許文献8には、メタクリレート系光硬化性ヒドロゲルが記載されている。特許文献9は、熱可逆性ヒドロゲルをより具体的に記載している。特許文献10は、温度が臨界ゲル化温度未満に低下したときに固化可能な第1のヒドロゲル前駆体と、架橋可能な第2のヒドロゲル前駆体とを含む、生細胞の懸濁液が堆積され、堆積された懸濁液は冷却することで固化されて、硬化剤が添加される方法を記載している。第2前駆体は、アルギネート、ヒアルロン酸、セルロース誘導体、キトサン、キサンタン、フィブリン、ペクチンゲル、またはポリビニルアルコールとすることができる。一般に、細胞培養足場用の固化したヒドロゲルは、「格子」の名称で当業者には知られている。他の固化可能なシステムは、特許文献11および特許文献12に記載されている。
【0008】
また、アルギネート系インクは、細胞培養用足場を製造するために溶液で固化されるとして既知である。そうしたシステムおよび方法は特許文献13、特許文献14、特許文献15に記載されている。
【0009】
特許文献16は、骨細胞、骨芽細胞を堆積させることができる3次元構造を作製するためのヒドロキシアパタイト堆積物を記載している。
【0010】
バイオテクノロジーでも、細胞培養誘導を促す足場材に生細胞を含むインクを塗布するために3Dプリンティングが使用されていた。特許文献17および特許文献18は、ヒト細胞を含有するコラーゲン系インク(アルギネートを含み得る)による3Dプリンティングを記載している。特許文献19は、生物学的または合成的支持体に、3Dプリンティングによってヒドロゲルに懸濁した平滑筋細胞を堆積することを記載している。
【0011】
特許文献20は、3Dプリンティングによって多孔性基質(足場材)に4つの異なる細胞型を堆積することを記載しており、それぞれが専用プリントヘッドから発射される懸濁液として堆積されて、組織を再現する複雑な3次元構造を作製する。特許文献21は、3Dプリンティングによって「格子」型生体適合性構造体を製造することを記載しており、該構造体には特定の範囲の組織に特有の生組織が固定され、平滑筋細胞、皮膚線維芽細胞、内皮細胞、肝星細胞、肝細胞、単球、マクロファージを含む。the Journal Biomaterials 30(2009年)、1587~1595ページに掲載されたW.Leeらによる「3次元自由形状造形によるヒト皮膚線維芽細胞とケラチノサイトとの多層培養(Multi-layered culture of human skin fibroblasts and keratinocytesthrough three-dimensional freeform fabrication)」と題する刊行物は、同様の方法で堆積される、I型コラーゲン系ヒドロゲル格子における3Dプリンティングによる細胞の堆積を記載している。特に、この刊行物は、いくつかの層が線維芽細胞またはケラチノサイトを組み込んだ多層コラーゲン構造を製造することを記載している。細胞のインキュベート後、該構造体を皮膚モデルとして使用することができる。
【0012】
the Journal Biotechnology and Bioengineering、105(6)巻、1178~1186ページにおいて、2010年に掲載されたW.Leeらによる「流体チャネルを有する多層化ヒドロゲル足場材のオンデマンド3次元自由形状造形(On-Demand Three-Dimensional Freeform Fabrication of Multi-LayeredHydrogel Scaffold With Fluidic Channels)」と題する刊行物は、コラーゲン系ヒドロゲルとゼラチン溶液との交互の層から生体材料を堆積させる方法を記載している。ヒドロゲルは重炭酸ナトリウムで架橋される一方で、ゼラチン溶液は堆積時に冷却することによって固化する。培養される細胞は、コラーゲンヒドロゲルに含まれる。インキュベート時に、ゼラチン溶液は液体になり、リンスすることで除去される。その結果、ゼラチンを喪失することで残るわずかに密な層と交互になる、コラーゲンヒドロゲルの密な層を含む構造が形成される。この生体材料は細胞の培養に使用することができるが、皮膚代替体ではない。
【0013】
the journal Tissue Engineering、C部、20(6)(2014年)、473~484ページに掲載されたV.Leeらによる「3次元バイオプリンティングによるヒト皮膚の設計と製造(Design and Fabrication of Human Skin by Three-Dimensional Bioprinting)」と題する刊行物には、手動による組み立ておよび3Dプリンティングによって得られた多層システムは、細胞培養条件のもとで非常に異なって発生することが示されている。3Dプリンティングによって作製されたシステムは成長してその形状を維持する一方で、手動で組み立てられたシステムはしぼんでしまう。
【0014】
現在のところ、バイオテクノロジーにおける大多数の3Dプリント製品は、科学研究のモデルとして使用可能な製品となっている。この方法で、多様な細胞および器官を再現することができる。モデルシステムは、体内条件と同様の条件下で成長および維持した細胞培養物において医薬有効成分を評価するために使用することができる。the Journal Biofabrication 6(1914)、doi:10.1088/1758-5082/6/3/035001に掲載されたY.Zhaoらによる「インビトロにおける子宮頸癌モデルのためのHela細胞の3次元プリンティング(Three-dimensional printing of Hela cells for cervical tumor model invitro)」と題する刊行物が例を提示している。
【0015】
一方で、ヒト皮膚の分野では未だに、依然として満たされない多くの需要があるため、治療的関心は高い。したがって、特許文献22には、人体表面の広範囲の領域に、表皮細胞を含む固化可能なヒドロゲルを人工皮膚として堆積させる装置が記載されている。この装置は重度の熱傷の処置のために設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】仏国特許出願公開第2567668号明細書
【文献】米国特許第6942830号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0052285号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0304233号明細書
【文献】米国特許第7780897号明細書
【文献】米国特許第8197743号明細書
【文献】米国特許第7051654号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/003932号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0012407号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2670669Al号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0164339号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/00998709号明細書
【文献】米国特許第8639484号明細書
【文献】米国特許第8691974号明細書
【文献】米国特許第8691274号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0017564号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/0208466号明細書
【文献】国際公開第2014/039427号
【文献】米国特許出願公開第2011/0250688号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0089238号明細書
【文献】国際公開第2013/040087号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0012225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、身体にインプラントすることか、または医薬品もしくは化粧料活性成分の試験を行うことを意図した身体代替体、特に皮膚代替体の分野に関する。本発明者らは、身体代替体、特に皮膚代替体を製造する従来の方法は2つの点で長い時間を要することを認識した。第1に、身体代替体、特に皮膚代替体の製造が複雑な工程であるため、該方法は長い操作時間(工数で表示)を必要とする。第2に、皮膚代替体の製造に必要な多孔性基質(足場材)はそれ自体では使用できず、培養条件下で使用する前にまず数ヶ月(通常約6ヶ月)の時間をおく必要がある。培養期自体には少なくとも6~7週間かかる。製造時の複雑な操作は、培養物汚染のリスクを意味することにも留意する必要がある。
【0018】
バイオインクから皮膚代替体を製造する技術は容易に自動化することができ、その再現性は良好であり、したがって標準化した製品を得るために使用可能であり、また、より迅速である。生体材料は、製造する日に細胞と混合されて、バイオインクを構成し、真皮は10~15日で成熟する。
【0019】
しかしながら結果は良好ではなく、これは、天然の皮膚の実際的モデルとして使用され得る、真皮表面上の層状表皮の培養に使用可能な人工真皮を得られないためである。2015年にJ. of Laboratory Automation、1~14ページ(doi:10.1177/2211068214567146)に掲載された、M.Riemannらの「ヒト初代細胞による軟組織モデルの標準化3Dバイオプリンティング(Standardized 3D Bioprinting of Soft Tissue Models with Human PrimaryCells)」と題する刊行物には、光重合性バイオインクの連続層(個々の厚さ:0.05mm)の付加堆積による皮膚代替体の製造が記載されている。基質層は、線維芽細胞を含む層と交互になっている。この層は直ちに光重合される。バイオインクはPEG系である。しかしながら、このようにして得られた皮膚代替体は、天然の表皮の層状構造を有さず、多数の穴を含む。
【0020】
現在のところ、付加技術を用いて、天然の皮膚に構造的および機能的に十分に類似する皮膚代替体を製造することの課題に対する解決法は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本課題は、異なる3つの手段で固化される天然ゼラチン、アルギネート、およびフィブリノゲンの混合物を含む新規の組成のバイオインクを使用することで、本発明によって解決される。インク堆積時、ゼラチンは冷却によって固化され、堆積インクのビード形状を維持することができる。堆積後、堆積物をカルシウムイオンおよびトロンビンを含む溶液で処理して、カルシウムイオンによってアルギネートを固化するとともにトロンビン作用によりフィブリノゲンを凝固させる。
【0022】
したがって、本発明の第1の主題は付加堆積のためのバイオインクを製造する方法であって、該方法において、
(a)5~40質量%(好ましくは6~30質量%)のゼラチンと0~5質量%のNaClとを含む第1の溶液を用意し、
(b)1~12質量%(好ましくは1~8質量%)のアルギネートと0~5質量%のNaClとを含む第2の溶液を用意し、
(c)1~15質量%(好ましくは3~15質量%)のフィブリノゲンと任意的に懸濁液内の生細胞(線維芽細胞など)とを含む第3の溶液を用意し、
(d)約35~65体積%の第1の溶液、約15~35体積%の第2の溶液、および約15~35体積%の第3の溶液を含み、これらの割合が合計して100%となるように選択される混合物を作製し、
ステップ(a)、(b)、および(c)の順序は任意であり、
NaClの含量は、第1の溶液および第2の溶液を合わせて、0.2~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、さらにより好ましくは0.4~2質量%となるように選択される。
【0023】
皮膚代替体の調製のために、生細胞は、真皮、表皮、皮下組織、血管およびリンパ管、毛包、皮脂腺、汗腺、毛穴、立毛筋(hair erection muscles)、筋肉、マイスナー小体、パチニ小体、ルフィーニ小体、結合組織、基底膜である異なる皮膚構造に由来してもよい。より具体的には、これらの細胞は、ケラチノサイト、メラノサイト(特にフィッツパトリックスケールによるフォトタイプI、II、III、IVおよびV)、線維芽細胞(乳頭(papillary)および網状(reticular)線維芽細胞を含む)、メルケル細胞、ランゲルハンス細胞、脂腺細胞、真皮樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞、毛包の上皮細胞、毛包毛乳頭の線維芽細胞、前駆脂肪細胞、幹細胞(特に、脂肪細胞組織の幹細胞)、感受性ニューロン、筋細胞とすることができる。これらの細胞は健康であるかまたは病的であってもよい。
【0024】
本発明の他の主題は、この方法を用いて得ることができるバイオインクである。これは、生細胞、特に線維芽細胞を含むことができる。ゼラチンは、典型的には27℃~32℃、好ましくは28℃~30℃の温度の転移点(ゲル化点)でこのバイオインクに粘度を与える。バイオインクはこの温度より高いと流体であり、この温度より低いとゲルになる。このゲル化は、特に、そのゲル化点より高い温度T1となったバイオインクがこのゲル化点より低い温度T2に低下したときに起こる。この場合、バイオインクは、場合によっては押出しビードの形状を維持して、完全に広がることなく直ちに固化することができる。このように、バイオインクは付加堆積方法に使用することができる。
【0025】
本発明の他の主題は、身体組織代替体を製造する方法であって、該方法において、
(i)本発明のバイオインクを用意し、
(ii)1~5質量%のカルシウムイオンと、2U/mL~40U/mL(好ましくは5U/mL~40U/mL、さらにより好ましくは10U/mL~30U/mL)のトロンビンとを含む水溶液(「重合溶液」と呼称する)を用意し、
(iii)バイオインクをそのゲル化点より高い温度T1にして、バイオインクのゲル化点より低い温度T2の基質に堆積させ、該基質において、バイオインクはゲルとなって「未処理のプリント物体」と呼称される制御された3次元物体を形成し、
(iv)未処理のプリント物体を重合溶液で処理して、未処理のプリント物体を身体組織代替体へと固定し、
(v)任意的に、バイオインクが生細胞を含む場合、身体代替体前駆体を細胞培地にてインキュベートする。有利には、このインキュベートは、好ましくは5%COの湿潤雰囲気下で、36℃~38℃の温度で行われる。
【0026】
この工程は、単一堆積または付加堆積によって行われることができ、単一堆積は、単層または単一のインクのビードを堆積することからなる一方で、付加堆積は、所定の制御された2次元の延出部を有する、または制御された3次元形状を有する物体ですらある未処理のプリント物体を作製するために使用されることができる。特に、この方法は、押出し(例えば、ピストンまたはネジを備えたシリンジを使用する)、インクジェット(通常は、バイオインクが固化するような適切な温度の足場材にバイオインク滴を射出することに関する)、またはレーザー(例えば、バイオインク層を、レーザーからの光を吸収することができる材料から形成された層上に堆積させることに関し、後者の層はレーザーによって局所的に照射され、バイオインクを固化させるように適切な温度に保たれた基質上にインク滴の出射を行う)による堆積(単一または付加)を含むことができる。
【0027】
有利には、T1は28℃~37℃(好ましくは28℃~33℃)であり、T2は0℃~20℃(好ましくは4℃~18℃)である。
【0028】
プリント物体は、重合溶液での処理によって確実に固定される。カルシウムによるアルギネートの凝固は、場合によってカルシウムを喪失することにより少なくとも部分的に可逆的であり得るが、トロンビンによるフィブリノゲンの凝固は不可逆的である。本発明による工程では、この固定は物体の厚さ全体で均質である。
【0029】
未処理のプリント物体は、好ましくは温度T1よりも高い温度T3で、好ましくは35℃~38℃で、浸漬することによって重合溶液で処理することができる。
【0030】
本発明の特定の一実施形態において、身体組織前駆体は、皮膚代替体前駆体である。この場合、バイオインクは生線維芽細胞を含む懸濁液である。有利には、36℃~38℃の温度、5%COの湿潤雰囲気下で、インキュベートが行われる。該インキュベートは、有利には、1~40日継続する第1のインキュベート期と、5~40日継続する第2のインキュベート期とを含み、ケラチノサイトの水性懸濁液を第1のインキュベート期と第2のインキュベート期との間において皮膚代替体の表面に堆積させる。ケラチノサイトはまた、特に薄層状に、本発明によるバイオインクを堆積することによって皮膚代替体の表面に堆積させることもできる。
【0031】
皮膚代替体前駆体は平坦であってもよく、あるいは別の形状を有してもよい。一実施形態では、未処理のプリント物体は、ほぼ平坦な上部面を含み、平坦な上部面のcm当たり0.2~10×10(好ましくは0.2~2×10)の線維芽細胞に等しい線維芽細胞が均一に分布している。
【0032】
別の実施形態では、線維芽細胞の濃度は、バイオインクのcm当たり0.6~12×10の線維芽細胞、好ましくはバイオインクのcm当たり1~7×10の線維芽細胞、さらにより好ましくはバイオインクのcm当たり1~5×10の線維芽細胞であり、これは好ましい実施形態である。
【0033】
さらに皮膚代替体を調製する目的で、堆積されるケラチノサイトの量は、有利には、平坦な上部面のcm当たり0.05~50×10のケラチノサイト(好ましくは0.2~20×10のケラチノサイト)であり、最も好ましい濃度は平坦な上部面のcm当たり0.5~10×10のケラチノサイトである。
【0034】
本発明のさらに別の目的は、本発明の方法によって得られる生体組織代替体、特に皮膚代替体(または皮膚代替体の前駆体)である。
【0035】
本発明の方法は、多様な身体代替体を製造するために用いることができる。特に、該方法は、特に線維芽細胞を含有する真皮層、特にケラチノサイトおよびメラノサイトを含有する表皮層および角質層を含む皮膚代替体の製造に用いることができる。この構造は十分に層状化かつ分化されている。本発明による皮膚代替体は、化粧料もしくは皮膚科学的有効成分の効果を研究するために、または毒性学的研究のために使用することができる。また該皮膚代替体は、修復、美容または形成外科的処置にも使用することができる。
【0036】
例えば、病的細胞とともに作製された身体代替体は、有効成分の一般的または個別の有効性を試験するために使用することができる。
【0037】
図1図17は、本発明の一部の態様を示しているが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
組織学的および免疫組織学的分析は、当業者に既知の技術に基づく。光学顕微鏡写真は、パラフィンに包埋されるとともにホルマリンで固定されて、脱パラフィンおよび再水和後に着色した断層切片(5μm)に基づく。NISタイプのソフトウェアに接続されたDS-Ri1タイプのCCDカメラ(Nikon社)を使用して、非圧縮16ビットフォーマットの画像を生成した(1サンプル当たり6つの代表的な観察結果)。適切な抗体を用いて5μmの凍結切片に免疫蛍光実験を行い、LSM700共焦点レーザー走査型システム(Zeiss)に接続したObserver ZI光学顕微鏡でサンプルを観察して、非圧縮8ビットフォーマットの画像を生成した(1サンプル当たり6つの代表的な観察結果)。透過型電子顕微鏡用のサンプルを2%のグルタルアルデヒドを含有するカコジル酸ナトリウム(0.1M)の緩衝液(pH7.5)で4℃で固定し、次いで1%のOsO溶液で処理した。サンプルを脱水し、次いでエポキシ樹脂に包埋し、56℃で3日間重合させた。次いで、切片を酢酸ウラニル(7%)および酢酸鉛の溶液で処理した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、本発明の方法を模式的に示す。
図2図2は、実施例2に関するものであり、本発明の皮膚代替体の断面の光学顕微鏡写真を示す。右下の黒色線は長さ50μmである。
図3図3は、実施例3に関するものであり、ビメンチンによる免疫組織化学的標識を伴う、本発明の皮膚代替体の断面の光学顕微鏡写真を示す。右下の白色線は長さ50μmを表す。
図4図4は、実施例4b(本発明には含まれない)に関するものであり、本発明に含まれないバイオインクで作製された皮膚代替体の断面の光学顕微鏡写真を示す。該バイオインクはいずれのフィブリノゲンも含まず、GFP(緑色蛍光タンパク質)と結合したNIH3T3型線維芽細胞を含有する。図面では、バイオインクがフィブリノゲンを含まない場合、線維芽細胞が3次元に拡散せず、固化したバイオインクに接着せず、最終的に死に至ることを示している。
図5図5は、実施例6に関するものである。図5(a)は、それぞれ異なる濃度の生細胞を含む3つのインクで作製された皮膚代替体前駆体について、アラマーブルーによる着色後に光吸収度の比として表される細胞の生存性を示す(570nmおよび600nmで吸光度を測定、生細胞の量はこれらの2つの吸光度値の比によって判断される)。図5(b)は、100000線維芽細胞/mLを含有するバイオインクを用いて作製された皮膚代替体について7、10、および14日間のインキュベート後の細胞の生存性(同様の方法で測定される)を示す。細胞数の増加は細胞増殖を反映している。図5(c)および図5(d)は、生細胞を表す灰色のベールを生じさせるDAPI、および死細胞を表す白色染色を生じさせるヨウ化プロピジウムで染色した後の顕微鏡法による断面を示し、図5(c)は14日間のインキュベート後の身体代替体に関する一方で、図5(d)は、細胞を死滅させるドデシル硫酸ナトリウム(0.5%)で処理した後の同じ身体代替体(コントロール実験)に関する。
図6図6において、図6(a)は、本発明に記載の方法の一実施形態に関与するステップを模式的に示す。図6(b)および図6(c)は、マルチウェルプレートのウェル(左)および培養ボックス(図6(c))内での、培地に浸漬した最初の7日間のインキュベート時(図6(c))および培地の表面(図6(b))における、サンプルの位置を示す。
図7(a)】図7(a)は実施例7に関し、はHPS(ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン)染色をした本発明における皮膚切片の光学顕微鏡法による断面を示す。
図7(b)-(l)】図7(b)-(l)は実施例7に関し、図7(b)はマッソントリクローム染色をした本発明における皮膚切片の光学顕微鏡法による断面を示し、図7(c)-(l)は特定の免疫組織学的画像(実施例で説明される図7(c)、(e)、(f)*、(g)*、(h)*、(i)、(j)、(k)*、および(l)*、アスタリスクの付いた図は健康なヒトの皮膚に関し、他のものは本発明による真皮代替体に関するものである)を示す。
図8図8は実施例7に関し、本発明による真皮代替体の透過型電子顕微鏡画像(図8(a)、(b)、(c)、(d))を示す。
図9図9は実施例7に関する。
図10図10は実施例7に関し、特定の免疫組織学的画像(実施例で説明される図10(a)、(b)、(c)、(d)*、(e)*、(f)*、アスタリスクの付いた図は健康なヒトの皮膚に関し、他のものは本発明による真皮代替体に関するものである)を示す。
図11図11は実施例7に関し、本発明による真皮代替体の透過型電子顕微鏡画像(図11(a)、(b)、(c)、(d)、(e))を示す。
図12図12は実施例8に関し、本発明の身体代替体のインキュベート後の細胞増殖曲線を示す。
図13図13は実施例9に関し、本発明の身体代替体のインキュベート後の細胞増殖曲線を示す。
図14図14は実施例10に関し、本発明の身体代替体のインキュベート後の細胞増殖曲線を示す。
図15図15は実施例11に関し、本発明の身体代替体のインキュベート後の細胞増殖曲線を示す。
図16図16は実施例12に関し、それぞれ4つの異なる濃度で調製された本発明による異なる2つのバイオインクの細胞の生存曲線(図16(a)、図16(b))と、顕微鏡写真(図16(c)および図16(d))を示す。一方は脂肪組織幹細胞で調製され(図16(a))、他方は前駆脂肪細胞で調製され(図16(b))、これらは2つのタイプの脂肪細胞前駆体である。これらの皮下組織代替体は本発明の方法でバイオプリンティングされ、次いで分化因子(当業者に既知である)で分化させると、機能的皮下組織が得られる。これは、細胞が脂肪細胞に典型的な脂肪酸で満たされた脂肪空胞を有するためである。図16(c)の顕微鏡写真は、脂肪滴表面に典型的に発現するタンパク質であるペリリピンAの免疫標識を示す。図16(d)の顕微鏡写真は細胞の脂肪含量の着色を示し、この着色は、脂肪に特異的な染色であるナイルレッドで得られている。
図17図17は実施例13に関し、異なる製造段階における、本発明によって製造された身体代替体前駆体の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、付加堆積(3Dプリンティングなど)によって、身体代替体、および特定の同等の真皮を作製するために用いることができる。この新規の製造方法は、時間を節約し、身体代替体(および特に真皮代替体)を製造するための非常に有利かつ簡易で再現性のある方法を提供する。製造および成熟時間は大きく短縮される。特に、この製造方法は、押出し、インクジェット堆積およびレーザー堆積による堆積(単一または付加)である、付加堆積技術を使用することができる。
【0041】
本発明のバイオインクは、ヒドロゲルを形成可能な生体材料と細胞との混合物からなる。また、本発明のバイオインクは、使用直前に安定的な水溶液から調製することもできる。溶液は、適切な濃度で調製されたら、単に押出しシリンジ内で細胞の懸濁液(目的が皮膚代替体、典型的には線維芽細胞である場合)と慎重に混合する必要があるのみである。次いで、シリンジはバイオプリンタに取り付けられる。有利には、シリンジプッシャーがフローを制御するように設けられている。例えば、シリンジプッシャーは、押し出される液体またはゲルに一定の圧力を加えるウォームネジおよびモータによって制御することができる。このようにヒドロゲル物体がプリントされる。この物体は通常、平坦な物体である。ヒドロゲルは、プリントされると、生体適合性の重合溶液に浸漬する必要があり、該生体適合性の重合溶液は、生体材料が強固なネットワークを形成するとともに、要求される3次元形状を維持することを可能にする。細胞は、その後、「成熟ステップ」とも呼ばれるステップで成長させるために置かれる。このように細胞が3次元ネットワークへ成長するとき、重合ヒドロゲルに含まれるプリント細胞(皮膚代替体の場合は線維芽細胞)は、その細胞外マトリックスを分泌する。ヒドロゲルは次第に吸収され、特定の機能が現れる新合成(neosynthesized)組織が発生するための空間を残し、これは、生物材料が吸収可能ではない場合もある「足場材」型手法と比較して明らかな利点である。
【0042】
目的が皮膚代替体である場合、有利には、ケラチノサイトが本発明のバイオインクの堆積によってまたは表面播種によって添加される。このステップの後に適切なインキュベートが行われ、真皮、真皮表皮接合部、表皮、および角質層を含む層状化かつ分化した皮膚代替体が得られる。
【0043】
本発明の方法を実施するために、バイオインクは、正確かつ既定の順序および割合で調製される必要がある
【0044】
第1のステップにおいて、アルギネートとゼラチン粉末とを用意し、それらを滅菌および可溶化して2つの原液を得る。第1の溶液は、NaCl溶液(好ましくは0.2%m/v~5%m/v、より好ましくは0.4%m/v~3%m/v、最も好ましくは0.5%m/v~1.4%m/vの濃度)にゼラチン粉末を溶解して(好ましくは5%m/v~40%m/vの濃度)得られるゼラチン水溶液であり、第2の溶液は、NaCl溶液(好ましくは0.2%m/v~5%m/v、より好ましくは0.4%m/v~3%m/v、最も好ましくは0.5%m/v~1.4%m/vの濃度)に1%m/v~10%m/v(好ましくは2%m/v~7%m/v)の濃度でアルギネート粉末を溶解して(好ましくは「極めて低粘度」特性)得られるアルギネート水溶液である。これら2つの溶液は安定しており、保管することができる。
【0045】
有利には、同じNaCl溶液を用いてこれら2つの溶液を調製する。
・6%m/v~30%m/vのゼラチン溶液、1%m/v~8%m/vのアルギネート溶液、0.2%m/v~3%m/v(好ましくは0.4%m/v~2%m/v、より好ましくは0.5%m/v~1.4%m/v)のNaCl溶液、
・10%m/v~30%m/vのゼラチン溶液、2%m/v~6%m/vのアルギネート溶液、0.2%m/v~3%m/v(好ましくは0.4%m/v~2%m/v、より好ましくは0.5%m/v~1.4%m/v)のNaCl溶液、
・15%m/v~26%m/vのゼラチン溶液、2%m/v~6%m/v(好ましくは3%m/v~5%m/v)のアルギネート溶液、0.2%m/v~3%m/v(好ましくは0.4%m/v~2%m/v、より好ましくは0.5%m/v~1.4%m/v)のNaCl溶液、
・17%m/v~24%m/vのゼラチン溶液、2%m/v~6%m/v(好ましくは3%m/v~5%m/v)のアルギネート溶液、0.4%m/v~2%m/v(好ましくは0.5%m/v~1.4%m/v、より好ましくは0.6%m/v~1.3%m/v)のNaCl溶液、
である濃度範囲が特に有利である。
【0046】
これらの溶液におけるNaClの役割は、バイオインクにおける細胞成長に有利な浸透圧環境を支援し、アルギネートの溶解を促進することである。
【0047】
アルギネート粉末は市販の粉末であり、「低粘度」特性が好ましく、「極めて低粘度」特性がさらに好ましい。
【0048】
バイオインクが過剰なアルギネートを含むと、付加堆積技術に使用するには過度に固いものとなり、バイオインクが十分なアルギネートを含まないと、カルシウムイオンによる重合が不十分となり、得られる前駆体が十分に固体でないことがある。
【0049】
バイオインクが過剰なフィブリノゲンを含むと、付加堆積技術に使用するには過度に固いものとなり、バイオインクが十分なフィブリノゲンを含まないと、細胞はバイオインクに接着せず、拡散せず、最終的に死滅する。これが、バイオインクに0.2質量%濃度のフィブリノゲンが必要である理由であり、好ましくは最少含量は0.3%である。同様に、トロンビン濃度は、フィブリノゲンがフィブリンに転換可能であるように選択される必要がある。
【0050】
さらに、第3の溶液を調製し、該第3の溶液は、適切な細胞数(典型的には、0.05~100万細胞/mL(好ましくは、1mL当たり0.1~0.6百万)を添加した、好ましくは1%m/v~15%m/v(より好ましくは3%m/v~12%m/v、さらにより好ましくは5%m/v~10%m/v)の濃度のフィブリノゲン水溶液である。例として、皮膚代替体前駆体の堆積試験では、この溶液2mLを調製することができた。細胞は、特に線維芽細胞とする。
【0051】
バイオインク内の細胞数は、本発明の身体代替体を調製するための方法をなすために重要である。細胞数が過度に少ないと、細胞は標的の天然組織と十分に類似した組織を形成することができない。例として、線維芽細胞の場合、形成される細胞外マトリックスは、バイオインクの成分を置換するには不十分である。ケラチノサイトなどの上皮細胞の場合、細胞は近接せず、最終的に死滅することが観察される。
【0052】
バイオインク内の細胞数が過度に多いと、構造が成長する代わりに分解され、驚くべきことに、その性状が変化して使用不可能になる(文字どおり「融解する」)ことが観察される。
【0053】
第3のステップにおいて、バイオインクをこれらの3つの溶液から調製して、合計100%になるように、第1の溶液(ゼラチン)を約35%~65%(好ましくは約45%~55%、さらにより好ましくは約50%)、第2の溶液(アルギネート)を約15%~35%(好ましくは20%~30%、さらにより好ましくは約25%)、および第3の溶液を約15%~35%(好ましくは約20%~30%、より好ましくは約25%)含有する混合物を得る。これらのパーセンテージは体積%で表される。
【0054】
第4のステップにおいて、重合溶液である第4の水溶液が調製される。第4の水溶液は、トロンビンが約10U/mLの最終濃度で添加された、約1~5%m/v、好ましくは約3%m/vの溶液内のカルシウムを含有する。この重合溶液は、3Dプリンティングによって得られる物体を浸漬して均質な重合ゲルを得ることができるように、十分な量を調達する必要がある。この第4のステップは、前の3つのステップの前または後、または前の3つのステップ中に行うことができるが、この第4の溶液の保管時間は限られている。本発明者らは、第4の溶液を使用直前に調製したとき、バイオインクの固化および重合がより均質であることを観察した。
【0055】
第4の溶液が十分なカルシウムを含有しないと、アルギネートの重合が起こらないか、または十分ではない。第4の溶液が過度のカルシウムを含有すると、カルシウムが細胞傷害性を有し得るため、細胞の生存性が低下する。
【0056】
第5のステップにおいてプリントが行われる、つまり、インクを足場材に堆積する。これを行う前に、インクの温度T1を十分に上昇させてゼラチンを融解する。この温度T1は、インクの正確な組成に対応し、簡易な試験によって決定する必要がある。上述の最も好ましい組成範囲については、約28℃~29℃の温度T1が適切であり得る。このプリントは、例えばシリンジが軸に沿って移動してキャリッジが軸に直交する方向に移動する、キャリッジに取り付けられたシリンジを用いて、任意の適切な手段によって行うことができる。基質は、テーブルまたはプラットフォームに配置される。高さ軸に沿った移動は、シリンジを支持するキャリッジのために、または基質キャリアテーブルまたはプラットフォームのために行われ得る。
【0057】
基質は、有利には、ゼラチンが直ちに固化するように冷却される。この基質の温度T2は、インクの組成および温度T1、ならびにその堆積速度に対応する。温度T2は、簡易な試験によって決定可能である。別の実施形態では、プリント組立体は、低温室に、つまり温度T2で配置され、任意的にシリンジを温度T1に加熱することができる。堆積されたばかりのインク層を通る熱伝導により、現在堆積されているインク層が十分に迅速に冷却できないようにして、より厚いまたはより複雑な形状の構造が製造可能であるという点で、この実施形態は有利である。
【0058】
第6のステップにおいて、未処理のプリント物体を、好ましくは全浸漬して、重合溶液(第4溶液)で処理することで固定させる。得られた結果は、いわゆる「固化した物体」となる。未処理のプリント物体と重合溶液との接触時間は、好ましくは少なくとも15分である。このステップ時において、重合溶液の温度T3は、好ましくはゼラチンの融解温度よりも高いものである。これは、ゼラチンが水相へと変化することができ、したがってゼラチンの大部分が固化した物体から除かれるということを意味する。得られた結果は、「身体組織前駆体」と呼ばれ、「皮膚組織前駆体」であり得る。温度T3は約37℃であってもよい。
【0059】
ステップ5および6は模式的に図1に示される。
【0060】
第6のステップにおいて、身体組織前駆体(皮膚代替体前駆体であり得る)をインキュベートして、代替身体組織(例えば皮膚代替体)を得る。このインキュベートは3期で行われる。第1のインキュベート期のとき、皮膚代替体前駆体は、好ましくは約37℃の温度で、適切な線維芽細胞培地に浸漬される。このインキュベートの期間は、3日~20日(ケラチノサイトでは40日まで)であり得る。8日~15日の期間が好ましい。12日の期間は線維芽細胞にとって最適である。
【0061】
この第1のインキュベート期の終了時に、皮膚代替体前駆体の表面にケラチノサイトの水性懸濁液が添加される。 1~5×10細胞/cmの濃度が適切である。
【0062】
次に、第2のインキュベート期に、皮膚代替体前駆体を適切な培養液、例えばグリーン培地に浸漬する。栄養素を定期的に(好ましくは毎日)添加する必要がある。この第2のインキュベート期は5日~10日間、好ましくは約7日間継続する。温度は37℃である。
【0063】
そして最後に、第3のインキュベート期に、皮膚代替体前駆体を分化培地の表面に維持し、15~30日間、好ましくは18~25日間、典型的には21日間インキュベートする。温度は37℃である。このようにして皮膚代替体が得られる。分化培地は、典型的には、DMEMおよび特定の添加剤を含む。有利な一実施形態において、これらの添加剤は、ヒドロコルチゾン(0.4μg/mL)、インスリン(5μg/mL)、ウシアルブミン(8mg/mL)である。
【0064】
本発明のバイオプリンティング工程は、数センチメートルまたはさらにはデシメートルの寸法を有する物体を得るために使用することができる。プリンタは、従来のFDM(溶融堆積モデリング)3Dプリンタに類似するが、シリンジプッシャーがプラスチック押出し機に置き換わっている。
【0065】
本発明のバイオインクは、
・プリント(押出し)工程時にヒドロゲルの適切なレオロジーを維持し、
・得られた3D形状を維持する、均質に重合した物体の形成、
・3Dで細胞格子の成長を可能にする、という3つの目的を満たすものである。
【0066】
これらの3つの機能は、以下の生体材料の使用により検証されている。29℃の相転移温度を有するコラーゲン系ポリマーであるゼラチンは、レオロジー的成分として使用され、バイオインクがプリント後に冷却基質上に残ることを確実にし、その後に本方法の後のステップで除去することができる。カルシウムの存在下でヒドロゲルを構成する性質を有する炭水化物ポリマーであり、構造要素として使用されるアルギネートは、ゼラチンが可溶化されると、プリントされたバイオインクに機械的安定性を与える。トロンビンの作用下でヒドロゲルを構成する能力を有する糖タンパク質であるフィブリノゲンは、その細胞接着成分(RGDパターン)のために構築要素および成熟要素の両方として使用される。
【0067】
図6(a)は、用いられる方法の手順を模式的に示す。本発明の方法は、正常ヒト真皮線維芽細胞(normal human dermal fibroblasts、NHDF)を含有する皮膚代替体前駆体の堆積を含む。37℃の培地内における4日間の全浸漬にてインキュベートを行って、細胞外マトリックスの合成を促進する。次のステップは、正常ヒト表皮ケラチノサイト(normal human epidermal keratinocytes、NHEK)を播種して、細胞増殖、遊走および接着を促進するためにさらに3日間インキュベートするように置くことである。インキュベート開始から7日目の後、合計21日目まで、細胞分化を得るために気相-液相界面でインキュベートを継続する。
【0068】
インキュベートは、マルチウェルプレートのウェルまたはペトリボックスで行うことができる。図6(c)は、左側のマルチウェルプレート3、右側の培養ボックスにおける、浸漬でのインキュベート条件を模式的に示す(最初の7日間使用)。「マルチウエルプレート」変形では、バイオプリント身体代替体前駆体1は、マルチウエルプレートのウエル3に位置する培養用インサート2に配置される。培地4は、身体代替体前駆体1を覆う。「培養ボックス」変形では、バイオプリント身体代替体前駆体1は、培地4を含むタンク8に配置され、蓋5がタンク8を覆う。
【0069】
図6(b)は、左側のマルチウェルプレート3、右側の培養ボックスにおける、液浸(emersion)でのインキュベート条件を模式的に示す(8日目から使用開始)。「マルチウエルプレート」変形では、身体代替体1は培養用インサート2に配置され、その底面はマルチウエルプレートのウェル3に位置する培地4の上面に接触する。「培養ボックス」変形では、身体代替体1は、タンク8に含まれる培地4にわずかに浸漬したステンレス鋼格子6上に配置される。格子6の上面は吸取紙で覆われ、蓋5がタンク8を覆う。
【0070】
本発明には多くの用途がある。本発明の身体組織代替体を製造する方法は、身体組織代替体の種々の形体を製造するために使用することができる。あらゆるタイプの生細胞を本発明のバイオインクに組み込むことができる。例として、他のすべてのタイプの皮膚細胞をバイオインクに組み込むことができる(特にADSC(Adipose-Derived Stem Cell、脂肪由来幹細胞)、脂肪細胞および前駆脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、真皮樹状細胞、ランゲルハンス細胞、メラノサイト、メルケル細胞、脂腺細胞、マクロファージ、マスト細胞、毛包上皮細胞、毛包毛乳頭(hair follicle papilla)の線維芽細胞、誘導多能性幹細胞)。特に、本方法は、種々の身体組織の代替体、特に角膜、口腔粘膜、食道、軟骨、脈管、膣粘膜の代替体を製造するために使用することができる。
【0071】
一般に、あらゆるタイプの細胞、好ましくは生細胞を本発明の枠組みに組み込むことができる。
【0072】
細胞は、胚性幹細胞(分化全能性、分化多能性、および3重分化能性(tripotent))または分化細胞(生殖系列細胞もしくは体細胞)、あらゆるヒトまたは動物の組織または器官から単離された初代細胞(例えば、生殖系列細胞(配偶子))、体細胞、ならびに成体幹細胞であってもよい。細胞は、特に、結合組織または支持組織(骨、靱帯、軟骨、腱、脂肪組織など)、筋組織(血管壁の平滑筋細胞、心筋、骨格筋など)、神経組織および上皮(血管、ワルトン管、口腔粘膜、舌背、硬口蓋、食道、膵臓、副腎、前立腺、肝臓、甲状腺、胃、腸、小腸、直腸、肛門、胆のう、甲状腺濾胞、リンパ管、皮膚、汗腺、体腔上皮、卵巣、卵管、子宮、子宮内膜、子宮頸部(子宮頸管内膜、子宮頸膣部)、膣、大陰唇、直尿細管(tubuli recti)、精巣網、輸出管、精巣上体、精管、射精管、尿道球腺、精のう、中咽頭、喉頭、声帯、気管、細気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管曲部、腎臓の遠位尿細管、腎盂、尿管、膀胱、前立腺部尿道など)に由来することができる。
【0073】
細胞は中胚葉、外胚葉、または内胚葉由来の細胞であるとよい。
【0074】
ヒトまたは動物細胞は、リンパ球(特にBリンパ球、Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、NKTリンパ球、制御性Tリンパ球、補助リンパ球)、骨髄細胞、顆粒球、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、過分葉好中球、単球、マクロファージ、網状赤血球、血小板(trombocyte)、マスト細胞、血小板、巨核球、樹状細胞、甲状腺細胞、甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞、副甲状腺細胞、副甲状腺主細胞、好酸性細胞、副腎細胞(adrenal cell)、クロム親和性細胞、松果体細胞、グリア細胞、グリア芽細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア細胞、大細胞性神経分泌細胞(magnocellular neurosecretion cell)、星状細胞(stellarcell)、ベッチェル細胞、下垂体細胞、性腺刺激ホルモン分泌細胞、副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞、甲状腺刺激ホルモン分泌細胞、成長ホルモン分泌細胞、乳腺刺激ホルモン分泌細胞(lactotroph)、肺細胞(I型肺胞細胞、II型肺胞細胞、クララ細胞)、杯細胞、肺胞マクロファージ、心筋細胞(myocardiocyte)、周皮細胞、胃細胞(胃主細胞、壁細胞、杯細胞、パネート細胞、G細胞、D細胞、ECL細胞、I細胞、K細胞、S細胞、腸内分泌細胞、腸クロム親和性細胞、APUD細胞)、肝細胞(ヘパトサイト、クッパー細胞)、骨細胞(骨芽細胞、オステオサイト、破骨細胞、象牙芽細胞、セメント芽細胞、エナメル芽細胞)、軟骨細胞(軟骨芽細胞、コンドロサイト)、毛細胞(トリコサイト)、皮膚細胞(ケラチノサイト、脂肪細胞、線維芽細胞、メラノサイト、母斑細胞)、筋細胞(ミオサイト、筋芽細胞、筋管)、腱細胞、腎細胞(ポドサイト、傍糸球体細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体外メサンギウム細胞、緻密斑細胞)、精子、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞、卵母細胞からなる群から選択されてもよい。
【0075】
また、細胞は、病気の組織、例えばがんの組織から単離されてもよい。
【0076】
例として、細胞は、乳がん;胆道がん;膀胱がん;グリオブラストーマおよび髄芽腫を含む脳がん;子宮頸がん;絨毛がん;結腸がん;子宮内膜がん;食道がん;胃がん;白血病を含む血液腫瘍;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内腫瘍;肝がん;肺がん;ホジキン病を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮がんを含む口腔がん;上皮細胞、間質細胞、生殖系列および間葉系細胞のがんを含む卵巣がん;膵がん;前立腺がん;直腸がん;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;メラノーマ、メルケル細胞がん、カポジ肉腫、基底細胞がん、および扁平上皮がんを含む皮膚がん;セミノーマ、非セミノーマ(奇形腫、絨毛がん)などの生殖系列細胞腫瘍、間質腫瘍、および生殖系列細胞腫瘍を含む精巣がん;甲状腺腺がんおよび髄様がんを含む甲状腺がん;腺がんおよびウィルムス腫瘍を含む腎がんである、多くのタイプのがんから単離する、または多くのタイプのがんを由来とすることができる。
【0077】
細胞は、臍帯血細胞、幹細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、がん幹細胞、前駆細胞、自家細胞、同系移植細胞、同種異系細胞、異種移植細胞および遺伝子改変細胞とすることができる。細胞は、誘導前駆細胞とすることができる。細胞は、幹細胞に関連する遺伝子をトランスフェクションして細胞に分化多能性を誘導した対象、例えばドナー対象から単離された細胞であってもよい。幹細胞に関連する遺伝子は、Oct3、Oct4、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、Nanog、Lin28、C-Myc、L-MycおよびN-Mycからなる群から選択することができる。細胞は、幹細胞に関連する遺伝子をトランスフェクションして分化多能性を誘発した対象から単離されて、所定の細胞株に分化した細胞であり得る。
【0078】
したがって、本発明の身体組織代替体は、化粧料、医薬品および化学製品の試験のための皮膚代替体としてだけでなく、例えば修復および再建手術における臨床用途にも使用することができる。例として、本発明の皮膚代替体は、熱傷を負った人の皮膚として使用することができる。また、本発明の付加堆積による身体組織代替体の製造方法は、複雑な物体を製造するためにも使用することができ、したがって、例えばその身体代替体を使用する患者から採取した細胞を用いて、耳または鼻の代替体を製造するために使用することができる。
【0079】
一般に、本発明の身体代替体は、患者(ヒトもしくは動物)の身体にインプラントすることができ、関心のある物質を研究する(特に薬理学的もしくは化粧品について、または化学物質を評価する)ためのモデルとして使用することができ、または指導するため(特に実際の作業と手術準備用試験のため)のモデル物体として使用することができる。有利には、本発明の身体代替体は、重度の熱傷を負った人の皮膚および軟骨(耳、鼻)、歯肉のインプラント、人工食道、人工尿道および尿管、角膜の外科用途に使用することができる。
【0080】
さらに、本発明の身体皮膚代替体は、身体組織における種々の化学物質の毒性、有効性、および貫通性を評価するために使用することができる。また、身体皮膚代替体は、アレルゲン試験にも使用することができる。
【0081】
本発明は、いうまでもなく、ヒト細胞、および他の動物細胞、特に他の哺乳動物細胞に、隔てなく適用可能である。
【実施例
【0082】
以下の実施例は、本発明の一部の態様を示すものであり、その範囲を限定しない。
【0083】
[実施例1:細胞の培養と採取]
この実施例は、本発明の皮膚代替体の製造に使用可能な細胞(線維芽細胞およびケラチノサイト)を増幅し採取する方法を示す。
【0084】
真皮ケラチノサイトと線維芽細胞とをヒト包皮から単離した。
【0085】
ケラチノサイトは、ヒト上皮成長因子(10ng/mL)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/mL)、インスリン(Humulin(登録商標)、5μg/mL)、2×10-9Mトリヨード-L-チロニン(5μg/mL)、10-10Mイソプロテレノール、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、および10%ウシ胎仔血清とともに、アデニン(24.3μg/mL)を添加した、DMEMとハムF12と(3:1の比)を含む「グリーン培地」として既知の培地を用いて、当業者に周知の技術を用いて照射したヒト線維芽細胞において培養した。2、3および4継代の間に採取したケラチノサイトを使用した。
【0086】
線維芽細胞は、DMEM、20%ウシ新生仔血清、および抗生物質を含む適切な培地において、5%COを含む雰囲気内で37℃にて培養した。5、6、7および8継代の間に採取した線維芽細胞を使用した。
【0087】
[実施例2:付加技術による堆積(本発明の方法)]
ゼラチンの第1の水溶液は、0.9%m/vのNaCl溶液に20%m/vのゼラチン粉末を溶解することにより調製した。アルギネートの第2の水溶液は、0.9%m/vのNaCl溶液に4%m/vのアルギネート粉末(極めて低粘度)を溶解することによって調製した。フィブリノゲンの第3の水溶液は、8%m/vで調製し、2百万細胞/mLの細胞数で(実施例1で得られた)懸濁液の線維芽細胞を加えた。
【0088】
これら3つの溶液を混合して、50体積%の第1の溶液(ゼラチン)、25体積%の第2の溶液(アルギネート)、および25体積%の第3の溶液(線維芽細胞はフィブリノゲン内で回収)を含有する混合物(「バイオインク」と呼称)を得た。
【0089】
3%m/vカルシウムと20U/mLの最終濃度のトロンビンとを含有する重合水溶液を調製した。
【0090】
このバイオインクは、29℃で粘性転移をする。バイオインクを約30℃の温度に加熱し、フローを制御できるようにシリンジプッシャーに嵌合したシリンジによって、既知のタイプの堆積技術による付加堆積にこの温度で使用した。基質は約4℃の温度であり、結果として堆積したインクは直ちに固化した。直径300μmのビードから開始して、いくつかの層を約10mmの総厚さで約数平方センチメートルの面積にわたって堆積した。得られた結果は、cm当たり2.5×10線維芽細胞の密度で線維芽細胞が均質に分布した平坦な物体であった。
【0091】
このようにして堆積した未処理のプリント物体のそれぞれを重合溶液に浸漬するとともに、37℃の温度に維持したフィブリノゲンを架橋および凝固させて、アルギネートを重合させるとともに、フィブリノゲンを凝固させた。このようにして得られた平坦な物体は、「皮膚代替体前駆体」と呼称される。
【0092】
[実施例3:皮膚代替体前駆体の成熟(本発明の方法)]
皮膚代替体前駆体を、1mMのアスコルビン酸2-リン酸を含有する線維芽細胞培地で12日間インキュベートした。皮膚代替体前駆体に毎日栄養を与えた。12日後、皮膚代替体前駆体の表面にケラチノサイトをcm当たり2.5×10細胞の濃度で適用した。
【0093】
皮膚代替体前駆体を、1mM濃度のアスコルビン酸2-リン酸と抗生物質とを含む上述のグリーン培地に浸漬して、最初の7日間のインキュベート期間インキュベートした。皮膚代替体前駆体に毎日栄養を与えた。
【0094】
次いで、皮膚代替前駆体を、ヒドロコルチゾン(0.4μg/mL)、インスリン(5μg/mL)、アスコルビン酸2-リン酸、および抗生物質とともにDMEMを含有する分化培地内の液体の表面に維持して、第2の21日間のインキュベート期間、インキュベートした。分化培地は8mg/mLのウシ血清アルブミンを含有していた。
【0095】
このようにして皮膚代替体を得た。皮膚代替体は、化粧料または化学製品の試験を行うために使用することができる。
【0096】
図2はそうした皮膚代替体の断面を示す。表皮は、真の角質層をその外面に含み、ケラチノサイトを含むことが分かる。真皮表皮接合部ははっきりと認められる。真皮は線維芽細胞を含む(図2において黒い線で囲まれた核のみが認められる)。真皮には孔が認められる。これらの孔は、次第に、線維芽細胞によって分泌される細胞外マトリックスで充填される。
【0097】
図3は、真皮代替体における線維芽細胞の細胞骨格の中間径フィラメントを示す(ビメンチンによる免疫組織化学的標識)。健康な天然の真皮に見受けられるものと類似した3次元形態の細胞骨格が認められる。
【0098】
[実施例4:良好ではない種々の試験]
この実施例は、良好ではない現状技術または新規の方法を用いた真皮代替体を製造する試みを含む。
【0099】
[実施例4a:光重合性のPEGジアクリレート系インク]
皮膚代替体前駆体は、本発明に関して記載したものと同様の方法を用いて、光重合性PEG-DA(ポリエチレングリコールジアクリレート)系バイオインクを使用して調製した。光開始剤は、Irgacure(登録商標)819(CIBAによるビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド)であった。インキュベート後、2日後に100%の細胞死滅率が観察された。この理論に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、これは細胞毒性である光開始剤自体ではなく、光開始剤によって生成が促進されるフリーラジカルであると考えている。
【0100】
[実施例4b:フィブリノゲンを含まない本発明のインク]
NIH3T3株の蛍光マウス線維芽細胞を用いて、他のすべての成分について本発明に沿って、フィブリノゲンを含まないバイオインクを作製した。本発明の方法のステップを用いて、このバイオインクから皮膚代替体前駆体を調製した。この場合において、ゲルが良好に保持されるにもかかわらず、ゲル内の細胞接着パターンの欠如のために、細胞はインキュベート時に十分に成長しなかった。図4から分かるように、細胞は拡散せずに最終的に死滅する。ゆえに、この皮膚代替体は、化粧料、医薬品および化学製品の試験には使用できない。
【0101】
[実施例4c:過度に流体であるインク]
「極めて低粘度」の代わりに「低粘度」および「高粘度」である粘度によって特に区別される異なるタイプのアルギネートを用いて、本発明の方法を使用した。「高粘度」インクでは良好に押し出されないことが分かる。本方法は、「低粘度」インクを用いて未処理のプリント物体を得るように調整することができるが、その実施形態は、押出しの安定性を低下させ、好ましくない。
【0102】
[実施例4d:他の不良の原因]
・適用後のバイオインクと重合溶液との接触時間が過度に短い(約15分未満)、
・重合時のバイオインク堆積物の全浸漬の不良、
・時間が経過した重合溶液、の場合に、不良(不十分な形態および/または特性を有する皮膚代替体前駆体の形成)が観察された。
【0103】
[実施例5:3つの皮膚層(皮下組織、真皮、および表皮)を有する全皮膚の製造(本発明の方法)]
3つの皮膚層は、同じ方法を用いるが、バイオインクおよび異なる細胞を含有する3つの異なるシリンジで、プリント可能である。
第1のシリンジは、バイオインクに希釈した前駆脂肪細胞および/または成熟脂肪細胞を含む。この皮下組織は複数の層状にプリントされ、最初に皮膚の最も深い層を形成するためにプリントされる。
第2のシリンジは、本方法において記載するようにバイオインクに線維芽細胞を含む。真皮のこの部分は、以前にプリントした皮下組織の表面上に複数の層状にプリントされる。
第3のシリンジは、わずかに異なるバイオインクに希釈されたケラチノサイトを含有する。この表皮は、真皮層の表面上に1または複数の層状にプリントされる。1/10~1/2の割合のメラノサイトを任意の時点でケラチノサイト懸濁液に添加して、色素性皮膚を得ることができる。
【0104】
[実施例6:細胞含量を変えた本発明のバイオインク]
本発明の3つのバイオインクを調製したが、それらの間の唯一の違いは、バイオインク1mL当たり50,000細胞、バイオインク1mL当たり100,000細胞、およびバイオインクmL当たり200,000細胞である、生細胞(ヒト線維芽細胞)の含量であった。真皮代替体前駆体は、本発明の方法を用いてこれらのバイオインクで作製した。プリントした真皮代替体前駆体を、5体積%COのもとで、37℃において4日間インキュベートするために置いた。生細胞のフラクションをアラマーブルー試験(570nmおよび600nmでの吸光度の測定、生細胞の量は、これらの2つの吸光度値の比率の結果である)で測定した。バイオインクは、真皮代替体における線維芽細胞の生存を可能にすること、真皮代替体前駆体におけるこれらの生細胞の濃度は、バイオインク内の生細胞の濃度に比例することが観察される(図5a参照)。
【0105】
所定の細胞密度(実際には100,000)について、生細胞の量を、上述のインキュベート条件下における培養の7、10および14日後に測定した。結果を図5(b)に示す。これらの細胞は皮膚代替体内で経時的に増殖することが分かる。
【0106】
14日後、DAPI(生細胞の核を染色する)とヨウ化プロピジウム(死細胞の核を染色する)とによって皮膚代替体の染色が行われた。図5(c)は、光学顕微鏡法による断面における、DAPI染色(灰色のベール)とヨウ化プロピジウムで染色されたいくつかの領域(白色のスポット)を示す。図5(d)は、同じサンプルについてのコンロール実験を示す。該コンロール実験において、細胞は、ドデシル硫酸ナトリウム(0.5%)での処理により死滅した。白色のヨウ化プロピジウム染色が認められる。
【0107】
[実施例7:本発明の皮膚代替体の調製]
本発明の皮膚代替体を、より具体的には図6に示す方法を用いて、調製した。図7(a)は、本発明の方法を用いて得られた真皮基質の断面を示す。この図は、HPS(ヘマトロキシリン-フロキシン-サフラン)染色を用いて得た。図7(b)は同じ真皮代替体の断面(厚さ5μ)を示す。マッソントリクロームを用いて染色を行った。線維芽細胞核(N)および線維芽細胞によって新合成された細胞外マトリックス(ECM)が、バイオプリントした真皮に見受けられる。図7(c)、図7(d)および図7(e)は、本発明にしたがってバイオプリントした真皮における(表皮および真皮に重なる領域)、コラーゲンI(図7(c))、コラーゲンV(図7(d))およびフィブリリン(図7(e))に特異的な免疫組織学的標識を示す一方で、図7(f)、図7(g)および図7(h)は、比較のためにヒトの皮膚において同じ条件下で得られた対応する画像を示す(これら6つの図の一部の線は、より見やすくするように破線で引き直されている)。
【0108】
ビメンチンおよびエラスチンも検出された(図示せず)。
【0109】
図7(i)および図7(j)は、本発明にしたがってバイオプリントした真皮における(表皮および真皮に重なる他の領域)、ラミニン332(図7(i))およびコラーゲンVII(図7(j))に特異的な免疫組織学的標識を示す一方で、図7(k)および図7(l)は、比較のために同じ条件下で得られた、ヒトの皮膚の対応する画像を示す。
【0110】
図8(a)および図8(b)は、図7(c)のバイオプリントした真皮の領域の拡大図、すなわち線維芽細胞(図8(a))(N、ReおよびRbの記号は核、細網(reticulum)およびリボソームをそれぞれ示す)と、新合成コラーゲンを(図8(b))とを示す。図8(a)において、左側の黒色線は0.5μmの長さを表し、図8(b)では200nmの長さを表す。
【0111】
図8(c)および図8(d)は、図8(b)の詳細、すなわち線条コラーゲン(図8(c))および可溶性エラスチンの沈着(図8(d))を示す。
【0112】
図9は、本発明のバイオプリントした真皮の画像を示す。数字の符号は、微細構造の特徴、すなわちサイトケラチンの中間径フィラメント10、ヘミデスモソーム11、透明帯12、緻密層13、アンカーフィブリラ(anchor fibrilla)14、コラーゲン線維15を示す。を示す。右下の垂直線は0.2μmの長さを表す。
【0113】
図10(a)、図10(b)および図10(c)は、本発明にしたがってバイオプリントした真皮における(表皮および真皮に重なる他の領域)、サイトケラチン10(図10(a))、フィラグリン(図10(b))およびロリクリン(図10(c))に特異的な免疫組織学的標識を示す一方で、図10(d)、図10(e)および図10(f)は、比較のためにヒトの皮膚において同じ条件でヒトに得られた対応する画像を示す。
【0114】
図11(a)は、本発明の真皮代替体の他の微細構造画像を示す。この領域は角質層を示す。図11(b)、図11(c)、図11(d)、および図11(e)はd詳細、すなわちコルネオデスモソーム(図11(b))、デスモソーム(図11(c))、ケラトヒアリン顆粒(図11(d))、オドランド層板体(Odland lamellar bodies)(図11(e))を示す。
【0115】
この実施例において、本発明の方法を用いて得られた真皮代替体は、健康なヒトの皮膚と形態学的に類似しているだけでなく、表皮分化および増殖に関連するすべてのバイオマーカー(例えば、サイトケラチン10、フィラグリン)を発現し、機能性バリアーとして作用可能であり(特にロリクリンの発現を参照)、通常は細胞外マトリックスに見受けられるタンパク質を発現する(特にコラーゲンI、コラーゲンV、フィブリリン、ビメンチン、エラスチン)ことが示される。これは、本発明の真皮代替体とヒト真皮との、形態学的、組織学的、および機能的に近い類似を示すものである。
【0116】
[実施例8:ヒト内皮細胞を伴う本発明の身体代替体]
本発明にしたがって2つのバイオインクを調製し、一方は1ミリリットル当たり200,000のヒト真皮内皮細胞を含み、他方は1ミリリットル当たり400,000のヒト真皮内皮細胞を含むものであった。身体代替体前駆体を堆積し、上述のアラマーブルー試験でインキュベートの4、8および14日後に細胞の生存性を測定した。図12は、初期細胞密度の関数として、プリントした内皮細胞の増殖を示す。
【0117】
[実施例9:ヒト角膜線維芽細胞を伴う本発明の身体代替体]
本発明にしたがって2つのバイオインクを調製し、一方は1ミリリットル当たり150,000のヒト角膜線維芽細胞を含み、他方は1ミリリットル当たり200,000のヒト角膜線維芽細胞を含むものであった。身体代替体前駆体を堆積し、上述のアラマーブルー試験でインキュベートの4および8日後に細胞の生存性を測定した。図13は、初期細胞密度の関数として、プリントした細胞の増殖を示す。
【0118】
[実施例10:ヒト口腔粘膜線維芽細胞を伴う本発明の身体代替体]
本発明にしたがって2つのバイオインクを調製し、一方は150,000のヒト口腔粘膜線維芽細胞を含み、他方は200,000のヒト口腔粘膜線維芽細胞を含むものであった。身体代替体前駆体を堆積し、上述のアラマーブルー試験でインキュベートの4および8日後に細胞の生存性を測定した。図14は、初期細胞密度の関数として、プリントした細胞の増殖を示す。
【0119】
[実施例11:ヒト毛包真皮乳頭線維芽細胞を伴う本発明の身体代替体]
本発明にしたがって2つのバイオインクを調製し、一方は150,000のヒト毛包真皮乳頭線維芽細胞を含み、他方は200,000のヒト毛包真皮乳頭線維芽細胞を含むものであった。身体代替体前駆体を堆積し、上述のアラマーブルー試験でインキュベートの4および8日後に細胞の生存性を測定した。図15は、初期細胞密度の関数として、プリントした細胞の増殖を示す。
【0120】
[実施例12:種々の生細胞のバイオインク]
本発明にしたがって4つのバイオインクを調製し、実施例6に記載のものと同様に、1つはバイオインク1ミリリットル当たり100,000の脂肪幹細胞を含み、他はバイオインク1ミリリットル当たり200,000、400,000、および600,000の脂肪幹細胞を含むものであり、身体代替体前駆体を調製した。バイオインクは身体代替体前駆体内における脂肪幹細胞の生存を可能にすることと、該前駆体におけるこれら生細胞の濃度は、バイオインク内の生細胞の濃度に比例するということとが観察される(図16a参照)。
【0121】
同様に、本発明にしたがって4つのバイオインクを調製し、1つはバイオインク1ミリリットル当たり100,000の前駆脂肪細胞を含み、他はバイオインク1ミリリットル当たり200,000、400,000、および600,000の前駆脂肪細胞を含むものであり、身体代替体前駆体を調製した。バイオインクは身体代替体前駆体内における前駆脂肪細胞性幹細胞の生存を可能にすることと、該前駆体におけるこれら生細胞の濃度は、バイオインク内の生細胞の濃度に比例するということとが観察される(図16b参照)。図16(c)および図16(d)については(図面の項に)上述されている。
【0122】
[実施例13:耳代替体前駆体の製造]
本発明の方法の使用において、約8cmの最大サイズを有するヒトの耳代替体の前駆体を調製した。このバイオインクは、10%(w/v)のウシゼラチン(CAS番号9000-70-8)(Sigma Aldrich(仏国)から供給)、0.5%(w/v)のアルギネート(極めて低粘度、CAS番号9005-38-3)(Aesar(仏国)から供給)、2%(w/v)のフィブリノゲン(CAS番号9001-32-5)(Sigma Aldrich(仏国)から供給)を用いて37℃の温度で調製した。新たにトリプシン処理した細胞を、3Dプリンティングの直前に、バイオインク1ミリリットル当たり1×10細胞の含量で添加した。均質化したバイオインクをシリンジに移した。この充填したシリンジを15℃~37℃で保管して、必要なレオロジー特性を得た。マイクロピペットの直径は200μmであった。基質を周囲温度とした。未処理のプリント物体(図17、画像1)を、トロンビン(20U/mL、CAS番号9002-04-4)の存在下において、CaClの溶液(100mM)内で30分間処理した。図17が参照される(画像BおよびC)。
【0123】
[実施例14:付加堆積方法のレオロジー]
本発明のバイオインクについて、円錐/平板幾何学的形状(25mm)を有する回転粘度計(AR2000、TA Instruments社)を使用して、せん断速度走査モード(0.1~100s-1)を用いて28℃で粘度を評価した。この温度は付加堆積時の温度を表す。せん断速度は、
【数1】
の式を用いて計算し、該式においてτw[Pa]、
【数2】
[s-1]、およびη[Pa.s]はそれぞれ、せん断応力、押出しノズルの壁部wのせん断速度、バイオインクの粘度を示す。
【0124】
せん断速度は、Q=0.183mm.s-1である固定バイオインクフローに対してポアズイユの式を用いて、
【数3】
の式にしたがって計算した。
【0125】
ノズル入口(t)の後とノズル出口(b)とのせん断応力(τw)は、半径(R)、せん断速度
【数4】
および、粘度(η)から開始して、測定した。
【0126】
表1は、Q=0.183mm.s-1のフローを有する円錐台形ノズル(長さ15mm)による、本発明のバイオインク押出し方法のレオロジー特性を示す。
【表1】
【0127】
本発明のバイオインクでは、実際的な作業条件下で、せん断応力は約50Paであることが分かる。細胞の生存性は、約5000Paのせん断応力が細胞に加えられたときに多くのタイプの細胞において減少するということが現状技術において報告されていることから、これは、先の実施例で観察された優れた細胞の生存性を説明するものである。したがって、本発明のバイオインクは、市販のシリンジおよびオリフィスを使用して、特に押出し技術によって、付加堆積技術を用いて2次元または3次元の物体を製造する方法に使用することができる。
【0128】
[実施例15:薬理試験のため、病的細胞を含むバイオインクで作製した身体組織代替体]
本発明の方法の使用において、病的細胞、すなわち、アトピー性皮膚炎に罹患した患者から採取した線維芽細胞およびケラチノサイトを含有する皮膚組織代替体が作製される。この皮膚組織代替体は、この疾患の分子機構を研究し、特に局所的形態(活性成分を含有するクリーム)または全身的形態(活性成分が培地の溶液内に存在する)における様々な医薬品および化粧料調製物の効果を研究するための調査モデルとして用いられた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)-(l)】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17