(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20221111BHJP
H02M 7/06 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H02M3/155 E
H02M3/155 K
H02M7/06 G
(21)【出願番号】P 2019047435
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2020-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】長野 昌明
(72)【発明者】
【氏名】谷野 光平
【合議体】
【審判長】須田 勝巳
【審判官】山澤 宏
【審判官】篠原 功一
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-122926(JP,A)
【文献】特開平8-103071(JP,A)
【文献】特開平10-232722(JP,A)
【文献】特開平10-14225(JP,A)
【文献】特開2018-133927(JP,A)
【文献】特開2003-169474(JP,A)
【文献】特開2014-27853(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/43912(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109088535(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源によって電源ラインを介して供給される交流電圧を、チョッパ部を介して直流電圧に変換する電源装置であって、
上記電源ラインに介挿され、上記交流電圧の供給をオン、オフする電源スイッチと、
上記電源ラインに介挿され、誘導性リアクタンスを介して上記交流電圧を整流する整流回路と、
上記チョッパ部に含まれ、上記整流によって得られた入力直流電圧をチョッパ制御する第1スイッチング素子と
、
上記第1スイッチング素子の入力端とグランドとの間に接続され、ノイズ低減用のコンデンサと突入電流制限用の抵抗とが直列接続されてなる直列回路と、
上記抵抗の両端に接続された第2スイッチング素子と、
上記第1スイッチング素子の入力端の電圧が上記入力直流電圧に向かって立ち上がってから予め定められた遅延時間で、上記第2スイッチング素子をオフ状態からオン状態にする遅延回路と
、
上記第1スイッチング素子の出力端の出力が非発生となるのに応じて、上記第2スイッチング素子を直ちにオフ状態にする付加回路と、を備え、
上記付加回路は、
上記第1スイッチング素子の出力端を流れる電流を検出する検出部と、
上記検出部の出力が非検出となった場合に、上記第2スイッチング素子を直ちにオフさせる第3スイッチング素子と、
を備える、ことを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源装置に関し、より詳しくは、交流電源によって供給される交流電圧を直流電圧に変換する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電源装置としては、例えば、特許文献1(特開2008-11688号公報)に開示されているように、スイッチング電源装置における突入電流などのサージを、サーミスタを使用して抑制するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1(特開2008-11688号公報)に記載のものでは、軽負荷状態で稼働中に定格負荷に移行すると、サージ抑制素子としてのサーミスタによる電圧上昇(サージ電圧)が大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、この発明の課題は、サージ電圧を抑制することができる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、この開示の電源装置は、
交流電源によって電源ラインを介して供給される交流電圧を、チョッパ部を介して直流電圧に変換する電源装置であって、
上記電源ラインに介挿され、上記交流電圧の供給をオン、オフする電源スイッチと、
上記電源ラインに介挿され、誘導性リアクタンスを介して上記交流電圧を整流する整流回路と、
上記チョッパ部に含まれ、上記整流によって得られた入力直流電圧をチョッパ制御する第1スイッチング素子と、を備え、
上記第1スイッチング素子の入力端とグランドとの間に接続され、ノイズ低減用のコンデンサと突入電流制限用の抵抗とが直列接続されてなる直列回路と、
上記抵抗の両端に接続された第2スイッチング素子と、
上記第1スイッチング素子の入力端の電圧が上記入力直流電圧に向かって立ち上がってから予め定められた遅延時間で、上記第2スイッチング素子をオフ状態からオン状態にする遅延回路と
を備える、ことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「チョッパ制御」とは、例えば、第1スイッチング素子のオン・オフを繰り返すことによって入力直流電圧から、実効値として任意の電圧や電流を擬似的に作り出す電源装置の制御方式を指す。
【0008】
「遅延時間」は、典型的には、上記第1スイッチング素子の入力端の電圧がサージによって変化する期間の長さと同程度か、またはその期間よりも若干長い程度に設定される。
【0009】
この開示の電源装置では、電源スイッチ投入時は、交流電源から交流電圧が誘導性リアクタンスを含む整流回路を介して上記直列回路に印加される。このとき、上記第2スイッチング素子がオフ状態にあるので、上記抵抗によって、上記第1スイッチング素子の入力端に対するサージ電圧を抑制できる。また、上記遅延回路は、上記第1スイッチング素子の入力端の電圧が上記入力直流電圧に向かって立ち上がってから予め定められた遅延時間で、上記第2スイッチング素子をオフ状態からオン状態にする。これにより、上記直列回路のうち、上記抵抗は短絡され、実質的に上記コンデンサのみが機能する状態(定常状態)となる。この定常状態で、この電源装置は、上記交流電源によって供給される交流電圧を、チョッパ部を介して直流電圧に変換する。この定常状態では、上記コンデンサによって高周波ノイズを低減することが可能となる。
【0010】
一実施形態の電源装置では、上記第1スイッチング素子の出力端の出力が非発生となるのに応じて、上記第2スイッチング素子を直ちにオフ状態にする付加回路を備える、
ことを特徴とする。
【0011】
この一実施形態の電源装置では、付加回路は、上記第1スイッチング素子の出力端の出力が非発生となるのに応じて、上記第2スイッチング素子を直ちにオフ状態にする。したがって、仮に、交流電源遮断の直後、交流電源が再度立ち上がっても、最初の電源投入時と同様に、サージ電圧を抑制することが可能となる。
【0012】
一実施形態の電源装置では、
上記付加回路は、
上記第1スイッチング素子の出力端を流れる電流を検出する検出部と、
上記検出部の出力が非検出となった場合に、上記第2スイッチング素子を直ちにオフさせる第3スイッチング素子と、を備える、
ことを特徴とする。
【0013】
この一実施形態の電源装置では、検出部は、上記第1スイッチング素子の出力端を流れる電流を検出する。第3スイッチング素子は、上記検出部の出力が非検出となった場合に、上記第2スイッチング素子を直ちにオフさせる。これにより、突入電流制限用の抵抗の両端を開放することができる。この構成によれば、上記付加回路が簡単に構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上より明らかなように、この開示の電源装置によれば、サージ電圧を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この開示に係る第1の実施形態の電源装置の構成を示す回路図である。
【
図2】この開示に係る第2の実施形態の電源装置の構成を示す回路図である。
【
図3】
図3(A)は、電源スイッチのオン、オフ状態を示すタイムチャートである。
図3(B)は、第2スイッチング素子のオン、オフ状態を示すタイムチャートである。
図3(C)は、第3スイッチング素子のオン、オフ状態を示すタイムチャートである。
図3(D)は、第1スイッチング素子のオン、オフ状態を示すタイムチャートである。
図3(E)は、検出部のハイレベル、ローレベルの状態を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4(A)は、従来における、電源スイッチをオンした場合の時間経過に伴う第1スイッチング素子の入力端における電圧の変化を示す図である。
図4(B)は、この開示に係る第1の実施形態の電源装置における、電源スイッチをオンした場合の時間経過に伴う第1スイッチング素子の入力端における電圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この開示の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、この開示の第1の実施形態の電源装置の構成を示す回路図を示している。この電源装置1は、大別して、交流電源Vに接続された電源ラインVLと、電源ラインVLに介挿され、交流電圧を整流する整流回路Z0と、チョッパ部CHと、突入電流制限部LMと、遅延回路DEと、を備えている。
【0018】
交流電源Vは、電源ラインVLを介して交流電圧を後述する整流回路Z0、チョッパ部CHに供給する。電源ラインVLには、交流電圧の供給をオン、オフする電源スイッチSが介挿されている。
【0019】
整流回路Z0は、誘導性リアクタンスL0,L0’とダイオードブリッジDBとを含んで交流電圧を整流する。この例では、誘導性リアクタンスL0,L0’には、トランス、コイルなどが含まれる。
【0020】
チョッパ部CHは、降圧チョッパ回路を構成し、整流回路Z0によって得られた入力直流電圧をチョッパ制御する第1スイッチング素子Q1と、第1スイッチング素子Q1と出力端とグランドとの間に接続されたダイオードZ1と、平滑用コイルL1と、平滑用コンデンサC3とを備える。コイルL1とコンデンサC3とは、第1スイッチング素子Q1の出力端とグランドとの間に直列接続されている。第1スイッチング素子Q1は、制御端子に図示しない制御回路から、第1スイッチング素子Q1をオン、オフ制御する制御信号が供給される。この例では、第1スイッチング素子Q1は、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などが用いられる。制御回路には、PWM(Pulse Width Modulation)制御回路などが用いられる。チョッパ部CHは、コイルL1とコンデンサC3との接続箇所から直流電圧を出力する。
【0021】
突入電流制限部LMは、第1スイッチング素子Q1の入力端とグランドとの間に接続され、ノイズ低減用のコンデンサC1と突入電流制限用の抵抗R1とが直列接続されてなる直列回路である。電圧ラインVLから突入電流iが突入電流制限部LMに入力されたとき、突入電流iは、ノイズ低減用のコンデンサC1を通過し、突入電流制限用の抵抗R1で抑制される。したがって、サージ電圧を抑制することが可能となる。この例では、ノイズ低減用のコンデンサC1=1.5μF、突入電流制限用の抵抗R1=560Ωが用いられる。
【0022】
遅延回路DEは、電源ラインVLとグランドとの間に直列接続された分圧用の抵抗R2,R3と、抵抗R3に並列接続されたコンデンサC2とを備えている。コンデンサC2の一端は、ツェナーダイオードZ2と抵抗R4を介して第2スイッチング素子Q2の制御端子に接続されている。遅延回路DEでは、第1スイッチング素子Q1の入力端の電圧が入力直流電圧に向かって立ち上がると、入力直流電圧を抵抗R2と抵抗R3とによって分圧された電圧がコンデンサC2に印加される。コンデンサC2が充電されて、コンデンサC2両端の電圧が予め定められた電圧になった時、遅延回路DEは、第2スイッチング素子Q2をオフ状態からオン状態にスイッチングさせる。したがって、遅延回路DEは、第1スイッチング素子Q1の入力端の電圧が入力直流電圧に向かって立ち上がってから予め定められた遅延時間τで、第2スイッチング素子Q2をオフ状態からオン状態にする。その結果、直列回路のうち、抵抗R1は、短絡される。この例では、第2スイッチング素子Q2は、MOSFETなどが用いられる。
【0023】
図3(A)は、電源スイッチSのオン、オフ状態を示す。時刻t1で、電源スイッチSは、オン状態になる。交流電源Vは、電源ラインVLを介して交流電圧を整流回路Z0、チョッパ部CHに供給する。この際、
図3(B)によって分かるように、遅延回路DEは、第1スイッチング素子Q1の入力端の電圧が入力直流電圧に向かって立ち上がってから遅延時間τで、第2スイッチング素子Q2をオフ状態からオン状態にする。この例では、遅延時間τは、第1スイッチング素子Q1の入力端の電圧がサージによって変化する期間の長さと同程度か、またはその期間よりも若干長い程度に設定される。
【0024】
第2スイッチング素子Q2が、オフ状態からオン状態になると、直列回路のうち、抵抗R1は、短絡される。この状態では、電源装置1は、実質的にノイズ低減用のコンデンサC1のみが機能する状態(定常状態)となる。この定常状態で、電源装置1は、交流電源Vによって供給される交流電圧を、整流回路Z0、チョッパ部CHを介して直流電圧に変換する。この定常状態では、ノイズ低減用のコンデンサC1によって高周波ノイズを低減することが可能となる。
【0025】
(第2の実施形態)
図2は、この開示の第2の実施形態の電源装置の構成を示す回路図を示している。第2の実施形態の電源装置1は、第1の実施形態の電源装置1に付加回路SUを加えた構成である。その他の構成は、第1の実施形態の電源装置1と同様である。
【0026】
付加回路SUは、第1スイッチング素子Q1の出力端の出力が非発生となるのに応じて、第2スイッチング素子Q2を直ちにオフ状態にする。より詳しくは、この付加回路SUは、第1スイッチング素子Q1の出力端を流れる電流を検出する検出部Tと、検出部Tの一端に接続されるダイオードZ3と、一端がダイオードZ3のカソードに直列に接続されて他端が第3スイッチング素子Q3のベースに接続される抵抗R5と、第3スイッチング素子Q3のベース、コレクタ間を接続する抵抗R6とを備える。付加回路SUは、検出部Tの出力がローレベルとなった場合に、第3スイッチング素子Q3をオン状態にする。これにより、第3スイッチング素子Q3は、第2スイッチング素子Q2を直ちにオフさせる。その結果、突入電流制限部LMは、突入電流制限用の抵抗R1がサージ電圧を抑制することが可能となる。この例では、検出部Tは、トランスなどが用いられる。第3スイッチング素子Q3は、PNP型トランジスタなどが用いられる。
【0027】
電源装置1は、付加回路SUにより、仮に、交流電源遮断の直後、交流電源Vが再度立ち上がっても、サージ電圧を抑制することが可能となる。付加回路SUは、検出部Tと第3スイッチング素子Q3の構成によれば、構成が簡単になる。
【0028】
図3は、第2の実施形態の電源装置1のタイムチャートを示す。
図3(A)は、電源スイッチSのオン、オフ状態を示す。
図3(B)は、第2スイッチング素子Q2のオン、オフ状態を示す。
図3(C)は、第3スイッチング素子Q3のオン、オフ状態を示す。
図3(D)は、第1スイッチング素子Q1のオン、オフ状態を示す。
図3(E)は、検出部Tのハイレベル、ローレベルの状態を示す。各時刻(t1からt6)での電源装置1の動作については、
図3のタイムチャートの中で説明する。
【0029】
図3によって分かるように、時刻t1では、例えば、ユーザの操作によって、電源スイッチSは、オン状態になる。この状態では第2スイッチング素子Q2がオフ状態になっているので、突入電流iは、ノイズ低減用のコンデンサC1を通過し、突入電流制限用の抵抗R1で抑制される。時刻t2では、第2スイッチング素子Q2がオン状態に、第1スイッチング素子Q1がオン状態になり、検出部Tがハイレベルになるとともに、第3スイッチング素子Q3がオフ状態になる。時刻t3では、例えば、瞬断により、電源スイッチSがオフ状態になることに応じて、検出部Tがローレベルになり、第3スイッチング素子Q3がオン状態になるとともに、第2スイッチング素子Q2がオフ状態になる。時刻t4では、電源装置1のチョッパ部CHが動作終了することに応じて、第1スイッチング素子Q1は、オフ状態になる。時刻t5では、再度、電源スイッチSが、オン状態になる。この状態では第2スイッチング素子Q2がオフ状態になっているので、突入電流iは、ノイズ低減用のコンデンサC1を通過し、突入電流制限用の抵抗R1で抑制される。時刻t6では、第2スイッチング素子Q2がオン状態に、第1スイッチング素子Q1がオン状態になり、検出部Tがハイレベルになるとともに、第3スイッチング素子Q3がオフ状態になる。このように、サージ電圧を抑制することが可能となる。
【0030】
図4(A)は、従来における、電源スイッチをオンした場合の時間経過に伴う第1スイッチング素子Q1の入力端における電圧の変化を示す。
図4(B)は、第1の実施形態の電源装置における、電源スイッチをオンした場合の時間経過に伴う第1スイッチング素子Q1の入力端における電圧の変化を示す。
【0031】
図4(A)に示すように、従来では、入力交流電圧=400Vで、最大発生電圧=1200Vであった。
図4(B)に示すように、第1の実施形態の電源装置1では、入力交流電圧=400Vで、最大発生電圧=700Vであった。このことから分かるように、従来に比較して、電源装置1は、サージ電圧を十分抑制することが可能である。
【0032】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 電源装置
CH チョッパ部
LM 突入電流制限部
DE 遅延回路
SU 付加回路