(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】時計用の潤滑剤組成物が付着した時計
(51)【国際特許分類】
A44C 5/18 20060101AFI20221111BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20221111BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20221111BHJP
C10M 105/04 20060101ALN20221111BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20221111BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20221111BHJP
C10M 143/02 20060101ALN20221111BHJP
C10M 143/04 20060101ALN20221111BHJP
C10M 143/06 20060101ALN20221111BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221111BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20221111BHJP
【FI】
A44C5/18 F
C10M169/04
C10M101/02
C10M105/04
C10M137/04
C10M137/02
C10M143/02
C10M143/04
C10M143/06
C10N30:00 Z
C10N40:00 Z
(21)【出願番号】P 2019507432
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2018005095
(87)【国際公開番号】W WO2018173555
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2017059799
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-001333(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115602(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115603(WO,A1)
【文献】特開2003-194970(JP,A)
【文献】特開2010-190678(JP,A)
【文献】国際公開第2001/059043(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/018594(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/074242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
A44C 5/00-5/24
C01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計のバンドの中留の係止部に、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む時計用の潤滑剤組成物が付着した時計であって、
前記潤滑剤(A)が、パラフィンワックス(A-1)を含むか、または融点が45℃以上であり炭素数が23以上38以下の脂肪族飽和炭化水素(A-2)から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記耐摩耗剤(B)が、下記一般式(b-1)で表わされる中性リン酸エステル(B-1)および下記一般式(b-2)で表わされる中性亜リン酸エステル(B-2)から選ばれる少なくとも1種を含み、
さらに流動性調整剤(F)を含み、
前記流動性調整剤(F)が、エチレン-α-オレフィン共重合体またはポリイソブチレンを含み、
前記潤滑剤(A)、前記耐摩耗剤(B)および前記流動性調整剤(F)の合計を100質量部としたときに、前記潤滑剤(A)および前記流動性調整剤(F)の合計を10質量部以上80質量部以下の量で含み、前記耐摩耗剤(B)を20質量部以上90質量部以下の量で含み、
潤滑剤(A)および流動性調整剤(F)の合計を100質量部としたときに、潤滑剤(A)を10質量部以上90質量部以下の量で含み、流動性調整剤(F)を10質量部以上90質量部以下の量で含むことを特徴とする時計。
【化1】
(式(b-1)中、R
b11~R
b14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b15~R
b18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化2】
(式(b-2)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用の潤滑剤組成物、時計潤滑用の処理液および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計用の潤滑油組成物として、基油(A1)を含む潤滑剤成分(A)と、特定の構造を有する中性リン酸エステル(B-1)または中性亜リン酸エステル(B-2)を含む耐摩耗剤(B)と、酸化防止剤(C)とを含み、該組成物の全酸価が0.8mgKOH/g以下である潤滑油組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された時計用の潤滑油組成物を機械式時計の摺動部に用いると、油流れが発生する。また、特許文献1に記載された時計用の潤滑油組成物を時計のバンドの中留に用いると、油流れが発生する。
【0005】
そこで、本発明は、機械式時計の摺動部または時計のバンドの中留に用いても、油流れを抑制できる時計用の潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む時計用の潤滑剤組成物であって、上記潤滑剤(A)が、パラフィンワックス(A-1)を含むか、または融点が45℃以上であり炭素数が23以上38以下の脂肪族飽和炭化水素(A-2)から選ばれる少なくとも1種を含み、上記耐摩耗剤(B)が、中性リン酸エステルおよび中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の時計用の潤滑剤組成物は、機械式時計の摺動部または時計のバンドの中留に用いても、油流れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る時計(機械式時計)を説明するための図である。
【
図2】
図2は、実施形態2に係る時計を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実施形態2に係る時計を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
実施形態に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む。
【0011】
<実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物>
まず、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物について説明する。本明細書において、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物を潤滑剤組成物(I)ともいう。実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む。また、潤滑剤組成物(I)から形成された膜を硬くする観点からは、後述する流動性調整剤(F)を含まないことが好ましい。
【0012】
〔潤滑剤(A)〕
潤滑剤(A)は、パラフィンワックス(A-1)を含むか、または融点が45℃以上であり炭素数が23以上38以下の脂肪族飽和炭化水素(A-2)から選ばれる少なくとも1種を含む。パラフィンワックス(A-1)および脂肪族飽和炭化水素(A-2)は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
機械式時計が有する脱進機の摺動部は、大きな圧力および振動がかかる。この摺動部を潤滑する際に、従来の時計用の潤滑油組成物を用いると、油流れが発生することがある。そこで、油流れを抑制するために、上記摺動部に撥油処理を行ってから上記潤滑油組成物を付着することがある。しかしながら、撥油処理を行うと、上記潤滑油組成物の層(潤滑剤層)が厚く付着する。これにより、摺動抵抗が大きくなり、機械式時計の性能が低下する場合がある。これに対して、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、特定の潤滑剤(A)を含むため、油流れを抑制できる。予め撥油処理を行う必要がなくなり、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物の層(潤滑剤層)を比較的薄く付着できる。したがって、摺動抵抗の増加が抑えられ、機械式時計の性能も向上できる。また、撥油処理の必要がないため、脱進機の摺動部を簡便に潤滑できる。さらに、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は蒸発しにくいため、長期に渡って上記摺動部を潤滑できる。なお、機械式時計の脱進機については、後で詳しく述べる。
【0014】
パラフィンワックス(A-1)は、融点が45℃以上80℃以下であることが好ましく、50℃以上75℃以下であることがより好ましい。融点がこの範囲にあると、油流れを好適に抑制できる。パラフィンワックス(A-1)としては、たとえば石油の減圧蒸留留出油、減圧蒸留残渣油または重質留出油等に対する脱ろう法によって分離された未精製のパラフィンワックス(スラックワックス、スケールワックス等)、これら未精製のパラフィンワックスを脱色・精製した精製パラフィンワックスなどが挙げられる。
【0015】
脂肪族飽和炭化水素(A-2)は、融点が45℃以上である。脂肪族飽和炭化水素(A-2)は、融点が80℃以下であることが好ましい。また、脂肪族飽和炭化水素(A-2)は、炭素数が23以上38以下であり、直鎖の脂肪族飽和炭化水素であることが好ましく、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、トリトリアコンタン、テトラトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサトリアコンタン、ヘプタトリアコンタンまたはオクタトリアコンタンであることがより好ましい。このような脂肪族飽和炭化水素(A-2)は、油流れを好適に抑制できる。
【0016】
取扱いやすいため、パラフィンワックス(A-1)を用いることがより好ましい。
【0017】
〔耐摩耗剤(B)〕
耐摩耗剤(B)は、中性リン酸エステルおよび中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含む。好ましくは、耐摩耗剤(B)は、下記一般式(b-1)で表わされる中性リン酸エステル(B-1)および下記一般式(b-2)で表わされる中性亜リン酸エステル(B-2)から選ばれる少なくとも1種を含む。中性リン酸エステル(たとえば中性リン酸エステル(B-1))および中性亜リン酸エステル(たとえば中性亜リン酸エステル(B-2))は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。1種または2種以上の中性リン酸エステル(たとえば中性リン酸エステル(B-1))および1種または2種以上の中性亜リン酸エステル(たとえば中性亜リン酸エステル(B-2))を混合して用いてもよい。
【0018】
機械式時計が有する脱進機の摺動部は、大きな圧力および振動がかかる。この摺動部を潤滑する際に、従来の時計用の潤滑油組成物を用いると、摩耗粉や錆のような析出物が生成して、上記摺動部の一部が茶褐色に変色することがある。これは、従来の潤滑油組成物が、耐圧力が低いクォーツ式時計に合わせこんで製造されていることによると考えられる。また、クォーツ式時計の材質がりん青銅などであるのに対して、機械式時計の材質が鉄系材料であることにも起因すると考えられる。これに対して、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物では、潤滑剤(A)とともに耐摩耗剤(B)(特に中性リン酸エステル(B-1)または中性亜リン酸エステル(B-2))を組み合わせているため、耐摩耗性および極圧性が改善できる。摩耗粉や錆のような析出物の生成が抑えられ、上記摺動部の変色も起こりにくくなる。このように、大きな圧力および振動がかかる機械式時計の脱進機に用いた場合も、長期に渡って好適に潤滑できる。
【0019】
【0020】
式(b-1)中、Rb11~Rb14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0021】
Rb15~Rb18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0022】
中性リン酸エステル(B-1)は、Rb15~Rb18に特定の置換基を有しているため、大きな圧力および振動がかかる脱進機に上記時計用の潤滑剤組成物を用いた場合も、耐摩耗性および極圧性が改善できる。これは、Rb15~Rb18に特定の置換基を有していると、脱進機の摺動部に付着させた上記時計用の潤滑剤組成物の膜が強固になるためであると考えられる。
【0023】
特に、Rb15およびRb17が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb16およびRb18が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、上述した耐摩耗性および極圧性の改善の効果がより高まる。
【0024】
Rb191およびRb192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0025】
ただし、Rb191およびRb192の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb191が水素原子のときは、Rb192は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb191がメチル基のときは、Rb192は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb191がエチル基のときは、Rb192は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。特に、上記時計用の潤滑剤組成物の膜がより強固になるため、Rb191が水素原子であり、Rb192が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0026】
【0027】
式(b-2)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0028】
Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0029】
中性亜リン酸エステル(B-2)は、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、大きな圧力および振動がかかる脱進機に上記時計用の潤滑剤組成物を用いた場合も、耐摩耗性および極圧性が改善できる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、脱進機の摺動部に付着させた上記時計用の潤滑剤組成物の膜が強固になるためであると考えられる。
【0030】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、上述した耐摩耗性および極圧性の改善の効果がより高まる。
【0031】
Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0032】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。特に、上記時計用の潤滑剤組成物の膜がより強固になるため、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0033】
上記時計用の潤滑剤組成物に使用する場合に構造安定性がより高いと考えられるため、中性亜リン酸エステル(B-2)がさらに好適に用いられる。
【0034】
上記中性リン酸エステルとしては、中性リン酸エステル(B-1)以外の中性リン酸エステルを用いてもよく、たとえばトリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスフェート、テトラ(トリデシル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルフォスフェート、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスフェート、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスフェート、トリステアリルフォスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスフェート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスフェートポリマー等を用いてもよい。
【0035】
上記中性亜リン酸エステルとしては、中性亜リン酸エステル(B-2)以外の中性亜リン酸エステルを用いてもよく、たとえばトリオレイルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルフォスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリステアリルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイトポリマー等を用いてもよい。
【0036】
中性リン酸エステル(B-1)の方が、これ以外の中性リン酸エステルよりも、機械式時計の摺動部において油流れをより抑制できる。また、中性亜リン酸エステル(B-2)の方が、これ以外の中性亜リン酸エステルよりも、機械式時計の摺動部において油流れをより抑制できる。
【0037】
〔酸化防止剤(C)〕
実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、酸化防止剤(C)をさらに含んでいてもよい。実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、酸化防止剤(C)を含んでいると、長期に渡って変質が抑えられる。酸化防止剤(C)としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノールが挙げられる。
【0039】
アミン系酸化防止剤としては、潤滑剤組成物の変質をより抑えられるため、ジフェニルアミン誘導体、すなわちジフェニルアミンのベンゼン環の水素原子が炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基で置換されている化合物が好適に用いられる。このような化合物としては、具体的には下記一般式(c-1)で表わされるジフェニルアミン誘導体(C-1)がより好適に用いられる。
【0040】
【0041】
式(c-1)中、Rc11およびRc12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基などが挙げられる。
【0042】
pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数、好ましくは0~3の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。
【0043】
ジフェニルアミン誘導体(C-1)は、たとえばジフェニルアミンと、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を置換基として導入させるための化合物(エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、2-ブテン、2-メチルプロペン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,4,4-トリメチルペンテンなどの二重結合を有する化合物)との反応により得られる。
【0044】
アミン系酸化防止剤としては、潤滑剤組成物の変質をより抑えられるため、下記一般式(c-2)で表わされるヒンダードアミン化合物(C-2)もより好適に用いられる。
【0045】
【0046】
式(c-2)中、Rc21およびRc22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0047】
Rc23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0048】
特に、高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRc21、Rc22およびRc23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0049】
アミン系酸化防止剤として、1種または2種以上のジフェニルアミン誘導体(C-1)と、1種または2種以上のヒンダードアミン化合物(C-2)とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、大きな圧力および振動がかかる脱進機の摺動部に、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物を用いた場合も、摩耗粉や錆のような析出物の生成がさらに抑えられ、上記摺動部の変色もさらに起こりにくくなり、耐久性を向上できる。ジフェニルアミン誘導体(C-1)とヒンダードアミン化合物(C-2)とを組み合わせると、摺動時に大きな圧力および振動がかかることにより発生する活性種があっても長期に渡って無害化できるためと考えられる。
【0050】
〔金属不活性剤(D)〕
実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、金属不活性剤(D)をさらに含んでいてもよい。金属不活性剤(D)を含んでいると、金属の腐食をより抑えることができる。金属不活性剤(D)としては、金属の腐食を抑える観点から、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体が好ましい。金属不活性剤(D)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
ベンゾトリアゾール誘導体としては、具体的には、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、下記式に示される構造でR、R'、R”が炭素原子数1~18のアルキル基である化合物、たとえば1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0052】
【0053】
実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、機械式時計の摺動部において油流れを抑制する観点から、潤滑剤(A)100質量部に対して、耐摩耗剤(B)を1質量部以上200質量部以下の量で含むことが好ましく、1質量部以上120質量部以下の量で含むことがより好ましく、1質量部以上80質量部以下の量で含むことがさらに好ましい。上記の量で含まれていると、長期に渡って好適に潤滑できる。
【0054】
また、酸化防止剤(C)は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.2質量部以下の量で含まれることが好ましい。上記の量で含まれていると、耐久性がより向上できる。金属不活性剤(D)は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.2質量部以下の量で含まれることが好ましい。上記の量で含まれていると、腐食をより抑えられる。
【0055】
実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、通常、常温で半固体状である。常温とは、通常の状態における周囲温度を意味し、具体的には15℃以上30℃以下であり、典型的には25℃である。半固体とは、液体と固体の両方の属性をもつ物質で、常温で、液体より固体に近い物質をいう。
【0056】
実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、上述した成分を混合して得られる。たとえば、上述した成分の融点以上に加熱しながら混合してもよい。また、上述した成分に炭化水素溶媒などの溶媒を加えて混合した後、上記溶媒を蒸発させてもよい。蒸発の際には、温風を当ててもよい。上記溶媒としては、特に制限されないが、たとえば、パラフィンワックス(A-1)を用いるときは、ヘキサン、ノナンが好適である。また、脂肪族飽和炭化水素(A-2)を用いるときは、ヘキサン、トルエン、THF、ジエチルエーテル、クロロホルム、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、ジエチルエーテルおよびメタノールから適宜選択することができる。このようにして、実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物が調製できる。
【0057】
<実施形態1に係る時計(機械式時計)>
実施形態1に係る時計(機械式時計)は、上述した時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))が付着している。
図1は、実施形態1に係る時計(機械式時計)を説明するための図である。
図1に示すように、機械式時計は脱進機1を有しており、脱進機1は、がんぎ車2とアンクル3とで構成される。がんぎ車2は、ひげぜんまい4がほどける力によって、歯車の輪列の最後に位置して回る歯車である。アンクル3は、てんぷ5と連動して、往復運動による規則正しい振動により、がんぎ車2の歯を1つずつ進める。この際、アンクル3の爪3a、3bは、がんぎ車2の歯を受け止めたり、がんぎ車2の歯から外れたりする。このアンクル3の爪3a、3bとがんぎ車2の歯との摺動部には大きな圧力および振動がかかる。この摺動部を潤滑するため、上述した時計用の潤滑剤組成物が好適に用いられる。具体的には、アンクル3の爪3a、3bおよびがんぎ車2の歯において上記摺動部を構成する部分に、上記時計用の潤滑剤組成物を付着させる。上記時計用の潤滑剤組成物は、油流れせず、潤滑剤層として比較的薄く付着できるため、摺動抵抗の増加が抑えられ、機械式時計の性能も向上できる。また、撥油処理の必要がないため、脱進機の摺動部を簡便に潤滑できる。さらに、上記時計用の潤滑剤組成物は蒸発しにくいため、長期に渡って上記摺動部を潤滑できる。
【0058】
上記時計用の潤滑剤組成物の付着方法としては、上記時計用の潤滑剤組成物を加温し柔らかくしてから、これを、上記摺動部を構成する部分に塗布して付着させる方法が挙げられる。あるいは、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて時計潤滑用の処理液を調製し、これを、上記摺動部を構成する部分に塗布して付着させてもよい。ここで、時計潤滑用の処理液について説明する。
【0059】
〔時計潤滑用の処理液〕
時計潤滑用の処理液は、潤滑剤(A)、耐摩耗剤(B)および溶媒(E)を含む。潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)については、上記時計用の潤滑剤組成物で説明したとおりである。時計潤滑用の処理液は、さらに、酸化防止剤(C)、金属不活性剤(D)を含んでいてもよい。酸化防止剤(C)および金属不活性剤(D)についても、上記時計用の潤滑剤組成物で説明したとおりである。これらの成分は、時計潤滑用の処理液中に、上記時計用の潤滑剤組成物で説明した量比となるように含ませることが好ましい。
【0060】
溶媒(E)としては、特に制限されないが、たとえば、パラフィンワックス(A-1)を用いるときは、ヘキサン、ノナンが好適である。また、脂肪族飽和炭化水素(A-2)を用いるときは、ヘキサン、トルエン、THF、ジエチルエーテル、クロロホルム、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、ジエチルエーテルおよびメタノールから適宜選択することができる。溶媒(E)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶媒(E)は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)の濃度が合計で0.1質量%以上5質量%以下となるように加えることが好ましい。上記の量で用いると、上記摺動部に上記時計用の潤滑剤組成物が好適に付着する。
【0061】
具体的には、上記時計用の潤滑剤組成物を溶媒(E)に加えて攪拌することにより、時計潤滑用の処理液が調製できる。次いで、上記摺動部に、得られた時計潤滑用の処理液を少量たらし、溶媒(E)を蒸発させる。これにより、上記摺動部に上記時計用の潤滑剤組成物が付着する。すなわち、半固体状の上記時計用の潤滑剤組成物を含む層となって付着する。
【0062】
なお、上記時計用の潤滑剤組成物の付着の際には、上記摺動部を構成する部分のうち、アンクル3の爪3a、3b側およびがんぎ車2の歯側の少なくとも一方に付着させればよい。
【0063】
なお、上述した実施形態1に係る時計用の潤滑剤組成物は、機械式時計において大きな圧力および振動がかかる摺動部であれば、上記脱進機の摺動部以外の摺動部に用いてもよい。この場合も、上述したような効果が発揮できる。大きな圧力および振動がかかる摺動部としては、具体的には、歯車の輪列、レバー、または時刻修正用のばねにおける摺動部が挙げられる。
【0064】
<実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物>
次に、実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物について説明する。本明細書において、実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物を潤滑剤組成物(II)ともいう。実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む。潤滑剤組成物(II)においても、潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)の詳細は、好ましい範囲を含め、潤滑剤組成物(I)の場合と同様である。上記好ましい範囲にあると、長期に渡って中留の係止部を潤滑できる。潤滑剤組成物(II)は、さらに流動性調整剤(F)を含む。
【0065】
時計のバンドが有する中留は、留めたり外したりする際に大きな圧力がかかる。この中留に、従来の時計用の潤滑油組成物を用いると、油流れが発生することがある。また、ふき取ってもしみが残ることがある。これに対して、実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、特定の潤滑剤(A)および流動性調整剤(F)を含むため、油流れを抑制できるとともに、好ましい硬さを有する潤滑剤組成物(II)の膜を形成できる。また、実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は蒸発しにくいため、留めたり外したりする中留の機能を長期に渡って維持できる。さらに、潤滑剤組成物(II)はわずかな量で中留の機能を発揮させられるため、しみとして視認されにくい。
【0066】
流動性調整剤(F)としては、従来公知の粘度指数向上剤を用いることができる。流動性調整剤(F)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。流動性調整剤(F)としては、たとえば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、ポリエステル、α-オレフィン共重合体、イソブチレンフマレート、スチレンマレエートエステル、酢酸ビニルフマレートエステル、ポリブタジエン・スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート・ビニルピロリドン共重合体、エチレン・アルキルアクリレート共重合体が挙げられる。これらのうちで、潤滑剤組成物(II)の膜の硬さの観点から、ポリイソブチレン、α-オレフィン共重合体が好適に用いられ、ポリイソブチレンがより好適に用いられる。
【0067】
ポリアクリレートとしては、具体的には、アクリル酸の重合物、アクリル酸の炭素原子数1~10のアルキルエステルの重合物が挙げられる。ポリメタクリレートとしては、メタクリル酸の重合物、メタクリル酸の炭素原子数1~10のアルキルエステルの重合物が挙げられる。これらのうちで、メタクリル酸メチルを重合させたポリメタクリレートが好ましい。
【0068】
ポリイソブチレンは、単独重合体であることが好ましい。また、ポリイソブチレンは、数平均分子量(Mn)が3000以上80000以下であることが好ましく、潤滑性の観点から3000以上50000以下がより好ましい。数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法(標準物質:ポリスチレン)によって求めたポリスチレン換算の値である。
【0069】
ポリアルキルスチレンとしては、具体的には、ポリα-メチルスチレン、ポリβ-メチルスチレン、ポリα-エチルスチレン、ポリβ-エチルスチレン等の炭素原子数1~18の置換基を有するモノアルキルスチレンのポリマーが挙げられる。
【0070】
ポリエステルとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジペンタエリスリトール等の炭素原子数1~10の多価アルコールと、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、フタル酸等の多塩基酸とから得られるポリエステルが挙げられる。
【0071】
α-オレフィン共重合体としては、具体的には、エチレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。たとえば、エチレン(15~80モル%)と、プロピレン、1-ブテン、1-デセンなどの炭素数3~20のα-オレフィン(20~85モル%)との共重合体が挙げられ、ランダム体でもブロック体でもよい。α-オレフィン共重合体は、重量平均分子量(Mw)が2000以上9000以下であることが好ましく、3000以上8000以下であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法(標準物質:ポリスチレン)によって求めたポリスチレン換算の値である。
【0072】
潤滑剤組成物(II)は、さらに酸化防止剤(C)または金属不活性剤(D)を含んでいてもよい。潤滑剤組成物(II)においても、酸化防止剤(C)および金属不活性剤(D)の詳細は、好ましい範囲を含め、潤滑剤組成物(I)の場合と同様である。上記好ましい範囲にあると、長期に渡って中留の係止部を潤滑できる。
【0073】
実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)、耐摩耗剤(B)および流動性調整剤(F)の合計を100質量部としたときに、潤滑剤(A)および流動性調整剤(F)の合計を10質量部以上80質量部以下の量で含み、耐摩耗剤(B)を20質量部以上90質量部以下の量で含むことが好ましく、潤滑剤(A)および流動性調整剤(F)の合計を25質量部以上35質量部以下の量で含み、耐摩耗剤(B)を65質量部以上75質量部以下の量で含むことがより好ましい。上記の量で含まれていると、油流れを抑制できるとともに、好ましい硬さを有する潤滑剤組成物(II)の膜を形成できる。したがって、長期に渡って好適に中留の係止部を潤滑できる。
【0074】
実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、潤滑剤(A)および流動性調整剤(F)の合計を100質量部としたときに、潤滑剤(A)を10質量部以上90質量部以下の量で含み、流動性調整剤(F)を10質量部以上90質量部以下の量で含むことが好ましい。上記の量で含まれていると、油流れを抑制できるとともに、好ましい硬さを有する潤滑剤組成物(II)の膜を形成できる。したがって、長期に渡って好適に中留の係止部を潤滑できる。
【0075】
また、酸化防止剤(C)は、潤滑剤(A)、耐摩耗剤(B)および流動性調整剤(F)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.2質量部以下の量で含まれることが好ましい。上記の量で含まれていると、耐久性がより向上できる。金属不活性剤(D)は、潤滑剤(A)、耐摩耗剤(B)および流動性調整剤(F)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.2質量部以下の量で含まれることが好ましい。上記の量で含まれていると、腐食をより抑えられる。
【0076】
実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、通常、常温でクリーム状である。
【0077】
実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、上述した成分を混合して得られる。たとえば、上述した成分を加熱しながら混合してもよい。加熱した場合は、常温に戻し、さらに練るように混合することが好ましい。このようにして、実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物が調製できる。
【0078】
<実施形態2に係る時計>
実施形態2に係る時計は、上述した時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(II))が付着している。たとえば、時計のバンドにおいて、中留の係止部に上述した時計用の潤滑剤組成物が付着している。中留の係止部は、留めたり外したりする際に大きな圧力がかかる。上記係止部を潤滑するため、上述した時計用の潤滑剤組成物が好適に用いられる。具体的には、上記係止部に、上記時計用の潤滑剤組成物を付着させる。上記時計用の潤滑剤組成物は、油流れせず、好ましい硬さの潤滑剤層として比較的薄く付着できる。また、上記時計用の潤滑剤組成物は蒸発しにくいため、留めたり外したりする中留の機能を長期に渡って維持できる。さらに、潤滑剤組成物(II)はわずかな量で中留の機能を発揮させられるため、しみとして視認されにくい。
【0079】
実施形態2に係る時計は、特に大きな圧力がかかる中留の係止部を有する時計のバンドを含むことが好ましい。潤滑剤組成物(II)による効果は、特に大きな圧力がかかる中留の係止部に用いると、より好適に発揮できる。このような係止部を有する時計の例について、具体的に説明する。
【0080】
図2および
図3は、実施形態2に係る時計を説明するための図である。
図2に示すように、時計のバンドは中留構造10を有する。中留構造10は中留本体24を備えており、この中留本体24には、一方のバンド部材26の長手方向に中留本体24が摺動できるように、一方のバンド部材26が取付けられている。中留本体24は、断面略コ字形状の摺動枠28を備えており、この摺動枠28は、底板30と、この底板30の幅方向の両側縁から立設された側壁32とから構成されている。また、中留本体24は、押さえ板34を備えている。この押さえ板34の幅方向の両端に形成された支持突起36が、摺動枠28の側壁32に形成された長孔38内に僅かに遊びを有するように嵌合される。これにより、支持突起36が長孔38に案内されて、押さえ板34が上下方向に移動可能に取り付けられている。この押さえ板34は、一方のバンド部材26の上面に軽く接した状態となっており、これにより、摺動枠28が、一方のバンド部材26の長手方向に沿って摺動できるようになっている。また、押さえ板34の先端部は、上方へ僅かに屈曲し、これにより、一方のバンド部材26を、摺動枠28の底板30と押さえ板34の間に挿入し易く構成されている。一方、他方のバンド部材12の端部には、ピン14で回動可能に連結された外側連結板16を備えている。この外側連結板16の他端に、ピン18で外側連結板16に対して、回動可能に連結された連結された内側連結板20を備えている。さらに、内側連結板20の他端は、ピン22を介して、中留本体24に連結されている。さらに、外側連結板16の端部に、ピン40を介して、外側連結板16に対して回動可能に連結された係止板42を備えている。この係止板42は、外側連結板16と、内側連結板20を折り畳んだ状態で、係止板42に突設された係止爪44を、ピン46に係合する。これにより、時計のバンドの径を小さくして、腕に時計を装着できる。すなわち、内側連結板20、外側連結板16、および係止板42が、中留本体24に折り畳まれる折り畳み部を構成する。なお、ピン46には、係止枠58が装着されている。この係止枠58は、一対の側板60と、天板62とから構成されており、これらの一対の側板60に内方へ突出した係止突部64が形成されている。係止突部64を、中留本体24の摺動枠28の側壁32の係止用孔66に係合させると、中留本体24に係止された上記折り畳み部が、さらに確実に中留本体24に対して固定される。
【0081】
係止爪44およびピン46は、係止またはその解除の際に、特に大きな圧力がかかる。このような特に大きな圧力がかかる係止部に潤滑剤組成物(II)を付着させると、潤滑剤組成物(II)による効果がより好適に発揮できる。
【0082】
また、
図3に示すように、時計のバンドの中留構造10は、
図2に示す中留構造10と、基本的には同様な構成である。同じ構成部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
図3の中留構造10では、折り畳み部である外側連結板16、内側連結板20を省略して、他方のバンド部材12を、中留本体24と一方のバンド部材26とは分離可能に構成している。そして、他方のバンド部材12の端部に回動可能に連結された係止板部78を備えており、この係止板部78の裏面には、フック部80が突設されている。また、他方のバンド部材12の端部に、フック部96が突設されている。一方、中留本体24の摺動枠28の側壁32には、フック部80を係止する係止ピン98と、フック部96を係止するための係止ピン100が、それぞれ設けられている。このような構成により、係止板部78を中留本体24に対して係止する際には、先ず、他方のバンド部材12の端部のフック部96を係止ピン100に係止する。次いで、係止板部78の裏面のフック部80を係止ピン98に係止する。
【0083】
フック部80および係止ピン98は、係止またはその解除の際に、特に大きな圧力がかかる。このような特に大きな圧力がかかる係止部に潤滑剤組成物(II)を付着させると、潤滑剤組成物(II)による効果がより好適に発揮できる。
【0084】
上記時計用の潤滑剤組成物の付着方法としては、上記時計用の潤滑剤組成物をクリーンルーム用綿棒により、上記係止部に塗布し、余分な組成物をふき取って付着させる方法が挙げられる。これにより、クリーム状の上記時計用の潤滑剤組成物を含む層となって付着する。
【0085】
なお、上述した実施形態2に係る時計用の潤滑剤組成物は、機械式時計において大きな圧力および振動がかかる摺動部に用いてもよい。たとえば、上記脱進機の摺動部、歯車の輪列、レバー、または時刻修正用のばねにおける摺動部が挙げられる。この場合も、上述したような効果が発揮できる。
【0086】
以上より、本発明は以下に関する。
【0087】
〔1〕潤滑剤(A)および耐摩耗剤(B)を含む時計用の潤滑剤組成物であって、
上記潤滑剤(A)が、パラフィンワックス(A-1)、および融点が45℃以上であり炭素数が23以上38以下の脂肪族飽和炭化水素(A-2)から選ばれる少なくとも1種を含み、上記耐摩耗剤(B)が、中性リン酸エステルおよび中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする時計用の潤滑剤組成物。
【0088】
〔2〕上記耐摩耗剤(B)が、下記一般式(b-1)で表わされる中性リン酸エステル(B-1)および下記一般式(b-2)で表わされる中性亜リン酸エステル(B-2)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記〔1〕に記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0089】
【化6】
(式(b-1)中、R
b11~R
b14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b15~R
b18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0090】
【化7】
(式(b-2)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0091】
上記時計用の潤滑剤組成物によれば、機械式時計の摺動部または時計のバンドの中留に用いても、油流れを抑制できる。
【0092】
〔3〕さらに酸化防止剤(C)を含み、上記酸化防止剤(C)が、下記一般式(c-1)で表わされるジフェニルアミン誘導体(C-1)および下記一般式(c-2)で表わされるヒンダードアミン化合物(C-2)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0093】
【化8】
(式(c-1)中、R
c11およびR
c12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。)
【0094】
【化9】
(式(c-2)中、R
c21およびR
c22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、R
c23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0095】
上記のような酸化防止剤(C)を含んでいると、長期に渡って変質が抑えられる。
【0096】
〔4〕さらに金属不活性剤(D)を含むことを特徴とする上記〔1〕~〔3〕いずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0097】
上記金属不活性剤(D)を含んでいると、金属の腐食をより抑えられる。
【0098】
〔5〕上記パラフィンワックス(A-1)は、融点が45℃以上80℃以下であることを特徴とする上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0099】
上記パラフィンワックス(A-1)を含んでいると、油流れをより抑えられる。
【0100】
〔6〕上記脂肪族飽和炭化水素(A-2)が、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、トリトリアコンタン、テトラトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサトリアコンタン、ヘプタトリアコンタンまたはオクタトリアコンタンであることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0101】
上記脂肪族飽和炭化水素(A-2)を含んでいると、油流れをより抑えられる。
【0102】
〔7〕潤滑剤(A)、耐摩耗剤(B)および溶媒(E)を含む時計潤滑用の処理液であって、上記潤滑剤(A)が、パラフィンワックス(A-1)、および融点が45℃以上であり炭素数が23以上38以下の脂肪族飽和炭化水素(A-2)から選ばれる少なくとも1種を含み、上記耐摩耗剤(B)が、中性リン酸エステルおよび中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする時計潤滑用の処理液。
【0103】
〔8〕上記耐摩耗剤(B)が、下記一般式(b-1)で表わされる中性リン酸エステル(B-1)および下記一般式(b-2)で表わされる中性亜リン酸エステル(B-2)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記〔7〕に記載の時計潤滑用の処理液。
【0104】
【化10】
(式(b-1)中、R
b11~R
b14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b15~R
b18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b191およびR
b192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0105】
【化11】
(式(b-2)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0106】
上記時計潤滑用の処理液を用いると、機械式時計の摺動部に、上記時計用の潤滑剤組成物を好適に付着できる。
【0107】
〔9〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物が付着したことを特徴とする時計。
【0108】
上記時計(たとえば機械式時計)は、性能も向上されており、長期に渡って好適に潤滑される。
【0109】
〔10〕上記潤滑剤(A)100質量部に対して、上記耐摩耗剤(B)を1質量部以上200質量部以下の量で含むことを特徴とする上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0110】
上記の量で含まれていると、機械式時計において大きな圧力および振動がかかる摺動部に用いても、長期に渡って好適に潤滑できる。
【0111】
〔11〕さらに流動性調整剤(F)を含み、上記潤滑剤(A)、上記耐摩耗剤(B)および上記流動性調整剤(F)の合計を100質量部としたときに、上記潤滑剤(A)および上記流動性調整剤(F)の合計を10質量部以上80質量部以下の量で含み、上記耐摩耗剤(B)を20質量部以上90質量部以下の量で含むことを特徴とする上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0112】
上記の量で含まれていると、長期に渡って好適に中留の係止部を潤滑できる。
【0113】
〔12〕上記流動性調整剤(F)が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、ポリエステルまたはα-オレフィン共重合体であることを特徴とする上記〔11〕に記載の時計用の潤滑剤組成物。
【0114】
上記のような流動性調整剤(F)を含んでいると、長期に渡って好適に中留の係止部を潤滑できる。
【0115】
[実施例]
[実施例1-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてヘキサン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0116】
[実施例1-2]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部の代わりに、これを5質量部用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0117】
[実施例1-3]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部の代わりに、これを120質量部用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0118】
[実施例1-4]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部の代わりに、これを200質量部用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0119】
[実施例1-5]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部の代わりに、これを40質量部用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0120】
[実施例1-6]
パラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部と、ジフェニルアミン誘導体(商品名 イルガノックスL57、チバスペシャリティケミカルズ(株)製) 0.9質量部と、ヒンダードアミン化合物(C-2)としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル) 0.9質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0121】
[実施例1-7]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部と、金属不活性剤(D)としてベンゾトリアゾール 0.09質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0122】
[実施例1-8]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0123】
[実施例1-9]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例1-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0124】
[実施例1-10]
脂肪族飽和炭化水素(A-2)としてテトラコサン(融点50~53℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部とをトルエンに加えて混合した後、トルエンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてトルエン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0125】
[実施例1-11]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例1-10と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例1-10と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0126】
[実施例1-12]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 80質量部とを加温しながら混合して、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
【0127】
[実施例2-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性リン酸エステル(B-1)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてヘキサン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0128】
[実施例2-2]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部の代わりに、これを5質量部用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0129】
[実施例2-3]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部の代わりに、これを120質量部用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0130】
[実施例2-4]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部の代わりに、これを200質量部用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0131】
[実施例2-5]
4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部の代わりに、これを40質量部用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0132】
[実施例2-6]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0133】
[実施例2-7]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例2-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0134】
[実施例2-8]
脂肪族飽和炭化水素(A-2)としてテトラコサン(融点50~53℃) 100質量部と、中性リン酸エステル(B-1)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 80質量部とをトルエンに加えて混合した後、トルエンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてトルエン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0135】
[実施例2-9]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例2-8と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例2-8と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0136】
[実施例3-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)としてトリオレイルフォスファイト 80質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてヘキサン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0137】
[実施例3-2]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例3-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例3-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0138】
[実施例3-3]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例3-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例3-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0139】
[実施例3-4]
脂肪族飽和炭化水素(A-2)としてテトラコサン(融点50~53℃) 100質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)としてトリオレイルフォスファイト 80質量部とをトルエンに加えて混合した後、トルエンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてトルエン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0140】
[実施例3-5]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例3-4と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例3-4と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0141】
[実施例4-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 100質量部と、中性リン酸エステル(B-1)としてトリクレジルフォスフェート 80質量部とをヘキサンに加えて混合した後、ヘキサンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてヘキサン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0142】
[実施例4-2]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例4-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例4-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0143】
[実施例4-3]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例4-1と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例4-1と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0144】
[実施例4-4]
脂肪族飽和炭化水素(A-2)としてテトラコサン(融点50~53℃) 100質量部と、中性リン酸エステル(B-1)としてトリクレジルフォスフェート 80質量部とをトルエンに加えて混合した後、トルエンを蒸発させて、時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。
上記潤滑剤組成物0.9質量部を溶媒(E)としてトルエン99.1質量部に加えて混合し、時計潤滑用の処理液を得た。
【0145】
[実施例4-5]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例4-4と同様にして時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を得た。また、上記時計用の潤滑剤組成物を用いて、実施例4-4と同様にして時計潤滑用の処理液を得た。
【0146】
[比較例]
比較例として、時計用の潤滑油組成物(商品名:9415、メービス社製)を用意した。
【0147】
[評価方法および結果]
図1に示す脱進機1において、アンクル3の爪3a、3bに、実施例1-1で得られた時計潤滑用の処理液を塗り、溶媒(E)を蒸発させた。この部品を用いて脱進機1を有する機械式時計を作製し、上記機械式時計を2か月間および3か月間動作させた。実施例1-2~1-11、2-1~2-9、3-1~3-5、4-1~4-5で得られた時計潤滑用の処理液についても、同様にして機械式時計を2か月間および3か月間動作させた。
【0148】
また、
図1に示す脱進機1において、アンクル3の爪3a、3bに、実施例1-12で得られた時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を塗り付けた。この部品を用いて脱進機1を有する機械式時計を作製し、上記機械式時計を2か月間および3か月間動作させた。
【0149】
また、
図1に示す脱進機1において、アンクル3の爪3a、3bを撥油処理した後、アンクル3の爪3a、3bに、比較例の時計用の潤滑油組成物を塗った。この部品を用いて脱進機1を有する機械式時計を作製し、上記機械式時計を2か月間および3か月間動作させた。
【0150】
機械式時計の2か月間の動作後および3か月間の動作後について、時刻の進みおよび遅れが見られたかを調べた。表1~4に、以下の基準で判断した評価結果を示す。
A:時計の時刻に進みおよび遅れは見られなかった。
B:時計の時刻に少し遅れが見られた。
C:時計の時刻に大きな進みまたは大きな遅れが見られた。
【0151】
【0152】
実施例で得られた時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を用いた機械式時計では、2か月後および3か月後において、時刻の大きな進みまたは大きな遅れは見られなかった。実施例で得られた時計用の潤滑剤組成物(潤滑剤組成物(I))を用いると油流れが抑制できるため、摺動抵抗が変化せず、時刻の大きな進みまたは大きな遅れは見られなかったと考えられる。
【0153】
一方、比較例の時計用の潤滑油組成物を用いた機械式時計では、2か月後および3か月後において、時刻が大きく進んでいた。比較例の時計用の潤滑油組成物を用いると油流れが発生するため、摺動抵抗が減少し、時刻に大きな進みが見られたと考えられる。
【0154】
図1に示すアンクル3の爪3a、3bに、実施例1-1で得られた時計潤滑用の処理液を塗り、溶媒(E)を蒸発させた。また、がんぎ車2を、実施例1-1で得られた時計潤滑用の処理液に浸けた後、溶媒(E)を蒸発させた。これら部品を用いて脱進機1を有する機械式時計を作製し、2か月間および3か月間動作させた。この機械式時計の2か月間の動作後および3か月間の動作後について、時刻の進みおよび遅れが見られたかを調べた。アンクル3の爪3a、3bのみに時計潤滑用の処理液を塗った場合と、同じ評価結果が得られた(2か月後および3か月後ともに「A」であった。)。実施例1-2~1-11、2-1~2-9、3-1~3-5、4-1~4-5で得られた時計潤滑用の処理液についても、同様であった。すなわち、アンクル3の爪3a、3bのみに時計潤滑用の処理液を塗った場合と、それぞれ同じ評価結果が得られた。
【0155】
[実施例5-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてエチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000) 15質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0156】
[実施例5-2]
パラフィンワックス130°F 27質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 3質量部とを用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0157】
[実施例5-3]
パラフィンワックス130°F 21質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 9質量部とを用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0158】
[実施例5-4]
パラフィンワックス130°F 9質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 21質量部とを用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0159】
[実施例5-5]
パラフィンワックス130°F 3質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 27質量部とを用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0160】
[実施例5-6]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0161】
[実施例5-7]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0162】
[実施例5-8]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、テトラコサン(融点50~53℃)を用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0163】
[実施例5-9]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0164】
[実施例5-10]
エチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000)の代わりに、エチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC600、重量平均分子量(Mw)4700)を用いた他は、実施例5-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0165】
[実施例6-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてエチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000) 15質量部と、中性リン酸エステル(B-1)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0166】
[実施例6-2]
パラフィンワックス130°F 27質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 3質量部とを用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0167】
[実施例6-3]
パラフィンワックス130°F 21質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 9質量部とを用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0168】
[実施例6-4]
パラフィンワックス130°F 9質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 21質量部とを用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0169】
[実施例6-5]
パラフィンワックス130°F 3質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 27質量部とを用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0170】
[実施例6-6]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0171】
[実施例6-7]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0172】
[実施例6-8]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、テトラコサン(融点50~53℃)を用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0173】
[実施例6-9]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0174】
[実施例6-10]
エチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000)の代わりに、エチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC600、重量平均分子量(Mw)4700)を用いた他は、実施例6-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0175】
[実施例7-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000) 15質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスファイト 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0176】
[実施例7-2]
パラフィンワックス130°F 27質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 3質量部とを用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0177】
[実施例7-3]
パラフィンワックス130°F 21質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 9質量部とを用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0178】
[実施例7-4]
パラフィンワックス130°F 9質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 21質量部とを用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0179】
[実施例7-5]
パラフィンワックス130°F 3質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 27質量部とを用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0180】
[実施例7-6]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0181】
[実施例7-7]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0182】
[実施例7-8]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、テトラコサン(融点50~53℃)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0183】
[実施例7-9]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0184】
[実施例7-10]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード4T、数平均分子量(Mn)59000)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
[実施例7-11]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード5T、数平均分子量(Mn)69000)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
[実施例7-12]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード6T、数平均分子量(Mn)80000)を用いた他は、実施例7-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0185】
[実施例8-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000) 15質量部と、中性リン酸エステル(B-1)として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルフォスフェート) 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0186】
[実施例8-2]
パラフィンワックス130°F 27質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 3質量部とを用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0187】
[実施例8-3]
パラフィンワックス130°F 21質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 9質量部とを用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0188】
[実施例8-4]
パラフィンワックス130°F 9質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 21質量部とを用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0189】
[実施例8-5]
パラフィンワックス130°F 3質量部とエチレン-α-オレフィン共重合体 27質量部とを用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0190】
[実施例8-6]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス120°F(融点50℃)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0191】
[実施例8-7]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、パラフィンワックス150°F(融点66℃)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0192】
[実施例8-8]
パラフィンワックス130°Fの代わりに、テトラコサン(融点50~53℃)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0193】
[実施例8-9]
テトラコサンの代わりに、ドトリアコンタン(融点69~72℃)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0194】
[実施例8-10]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレンポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード4T、数平均分子量(Mn)59000)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
[実施例8-11]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード5T、数平均分子量(Mn)69000)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
[実施例8-12]
ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000)の代わりに、ポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード6T、数平均分子量(Mn)80000)を用いた他は、実施例8-1と同様にして潤滑剤組成物(II)を得た。
【0195】
[実施例9-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてエチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000) 15質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)としてトリオレイルフォスファイト 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0196】
[実施例9-2]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてエチレン-α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:ルーカントHC2000、重量平均分子量(Mw)7000) 15質量部と、中性リン酸エステル(B-1)としてトリクレジルフォスフェート 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0197】
[実施例10-1]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000) 15質量部と、中性亜リン酸エステル(B-2)としてトリオレイルフォスファイト 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0198】
[実施例10-2]
パラフィンワックス(A-1)としてパラフィンワックス130°F(融点55℃) 15質量部と、流動性調整剤(F)としてポリイソブチレン(JXTGエネルギー株式会社製、商品名:テトラックス グレード3T、数平均分子量(Mn)49000) 15質量部と、中性リン酸エステル(B-1)としてトリクレジルフォスフェート 70質量部とを加熱しながら混合した。混合物を室温に戻した後、さらに練って、潤滑剤組成物(II)を得た。
【0199】
[評価方法および結果]
調製した潤滑剤組成物(II)を用いて、
図2に示す中留の係止部を処理した。なお、処理前の中留の係止部は、製造されたままであり、係止部は機能しなかった。すなわち、留め外しはできなかった。具体的には、クリーンルーム用綿棒により、ピン46に、実施例5-1で得られた潤滑剤組成物(II)を塗り付けた。次いで、係止部の係止操作およびその解除操作を数回繰り返して、ピン46に圧力をかけ、ピン46表面とともに、係止爪44にも上記組成物を付着させた。次いで、余分に付着した上記組成物をふき取った。このようにして、係止爪44およびピン46の表面を処理した。この処理によって、係止部が機能するようになった。実施例5-2~5-10、6-1~6-10、7-1~7-12、8-1~8-12、9-1~9-2および10-1~10-2で得られた潤滑剤組成物(II)についても、同様に、係止爪44およびピン46の表面を処理した。
この処理によって、いずれも係止部が機能するようになった。なお、上記処理後において、いずれも係止部ではしみは発生していなかった。
【0200】
上記組成物を付着させた中留について、係止部の係止操作およびその解除操作を1000回繰り返した(係止/解除操作繰り返し試験)。係止/解除操作繰り返し試験後の係止部の潤滑性、すなわち係止/解除操作がスムーズに行えるかを調べた。また、係止部にしみが発生していないかを調べた。結果を以下の評価基準で評価した。評価結果を表5~9に示す。
潤滑性 A:係止/解除操作がスムーズに行えた
B:係止/解除操作が少し固くなり、スムーズに行えなかった
しみの発生 A:しみは発生していなかった
B:しみが発生していた
【0201】
【0202】
【符号の説明】
【0203】
1 脱進機
2 がんぎ車
3 アンクル
3a、3b 爪
4 ひげぜんまい
5 てんぷ
10 中留構造
12 他方のバンド部材
24 中留本体
26 一方のバンド部材
44 係止爪
46 ピン
80 フック部
98 係止ピン