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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】処置具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/128 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
A61B17/128
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020553442
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041596
(87)【国際公開番号】W WO2020085406
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】62/749,877
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 直輝
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 基
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-085859(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173474(WO,A1)
【文献】実開平01-077703(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B17/00-17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能な複数のアームを有し、前記複数のアームが互いに閉じた閉状態と前記複数のアームが互いに開く開状態とを遷移するアーム部材と
記アーム部材に着脱可能に連結されるワイヤと、
前記ワイヤを挿通させるシースと、
前記シースの基端に連結され、先端側から基端側に延びる操作部と、
前記ワイヤに連結され、前記操作部に摺動可能に取り付けられるスライダと
前記アームが前記閉状態の時に前記スライダの前記先端側への移動を制限するスライダ制限機構と、を備え、
前記スライダ制限機構は、
互いに乗り越えてすれ違うことが可能である第1の部材と第2の部材とにより構成されたラチェット機構を有し、
前記第1の部材と前記第2の部材とが互いに乗り越えた状態の時、前記スライダの前記先端側および前記基端側への移動を許容する、
置具。
【請求項2】
前記スライダ制限機構は、前記操作部の先端と前記スライダとの間に配置される、請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記第1の部材と前記第2の部材とは、使用者が外力を加えて前記スライダを前記先端側へ移動させることで、互いに乗り越えてすれ違うように構成される、請求項1に記載の処置具。
【請求項4】
前記第1の部材は、第1突起を有し、
前記第2の部材は、第2突起を有し、
前記第1突起と前記第2突起とが互いを乗り越えた状態の時、前記スライダの前記先端側および前記基端側への移動を許容する、請求項1に記載の処置具。
【請求項5】
前記第1突起と前記第2突起とが係合することによって、前記第1の部材と前記第2の部材とが互いに離れる方向への動きを制限する、請求項4に記載の処置具。
【請求項6】
前記スライダは、第1の範囲に配置されると前記複数のアームが互いに閉じた前記閉状態になり、第2の範囲に配置されると前記複数のアームが互いに開く前記開状態になるよう構成され、
前記スライダ制限機構は、前記スライダが前記第1の範囲に配置された第1の状態において、前記スライダの動作範囲を前記第1の範囲に制限し、使用者が外力を加えて前記スライダを前記第1の範囲から前記第2の範囲へ移動させることで、前記スライダの前記動作範囲を前記第1の範囲に制限する前記第1の状態から、前記第2の範囲を含む第2の状態に遷移させる、
請求項1に記載の処置具。
【請求項7】
前記ワイヤを挿通し、前記シースの先端に設けられ、前記アーム部材を収容するパイプをさらに備え、
前記アーム部材は、少なくとも一部が前記パイプに収容された第1の位置と、前記パイプの先端から放出された第2の位置と、を有し、
前記アーム部材は前記第1の位置から前記第2の位置に付勢される、請求項6に記載の処置具。
【請求項8】
前記シースの湾曲状態に関わらず、前記スライダ制限機構が前記第2の状態となり前記アーム部材が前記第2の位置となった場合に、前記スライダを前記第1の範囲に移動させることにより前記アーム部材が前記第1の位置に移動する、
請求項7に記載の処置具。
【請求項9】
前記スライダ制限機構は、
前記スライダの前記先端側への移動に対して抗力を有するバネを有し、
前記第1の状態において、前記シースの湾曲の度合いが大きくなることで前記シースが伸長して前記スライダの待機範囲が前記操作部の前記先端側に拡大するのに伴い可逆的に収縮し、
前記第2の状態において、前記操作部の前記先端と前記スライダとから力を受けることにより不可逆的に収縮する、
請求項8に記載の処置具。
【請求項10】
記第1の部材と前記第2の部材とは、互いに係合させた場合にはすれ違う方向にのみ相対移動が可能であり、
前記第1の状態において前記第1の部材と前記第2の部材とが係合せず、
前記第2の状態において前記第1の部材と前記第2の部材とが係合する、
請求項9に記載の処置具。
【請求項11】
前記スライダ制限機構は、
前記スライダの摺動方向に沿って連なる降伏点が異なる複数のバネを備える、
請求項1に記載の処置具。
【請求項12】
前記パイプに設けられ、前記アーム部材を前記第2の位置に付勢する力を有する弾性部材を備える、
請求項7に記載の処置具。
【請求項13】
前記アーム部材は鉗子である、
請求項1に記載の処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置具に関する。本願は、2018年10月24日に、米国に仮出願された米国特許出願第62/749,877号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、処置具(内視鏡用処置具)が用いられている。処置具は、ワイヤに接続され、ワイヤを挿通するシースから露出した生検鉗子、把持鉗子又は内視鏡クリップ等の処置機構を有する。処置具は、内視鏡チャンネルを通して処置対象箇所に到達する。処置機構は、ワイヤをシースに対して移動させることで動作し、処置を行う。
【0003】
特許文献1に記載の内視鏡用処置具は、使用される際の曲がり具合によってシースの実質的な長さが変化し内視鏡用処置具を動作させるために必要な操作ストロークが変化することに着目している。特許文献1に記載の内視鏡用処置具は、ワイヤが接続されワイヤをストロークするスライダ(第2の指かけ)がシースに対して相対移動できる範囲を制限するストッパが設けられている。特許文献1に記載の内視鏡用処置具は、ストッパにより、適宜必要な操作ストローク量が再現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第3370601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内視鏡クリップを処置対象箇所に到達させる場合では、アーム部材が開状態で内視鏡クリップを内視鏡チャンネル内で移動させると、アーム部材の先端が内視鏡チャンネルに接触して内視鏡チャンネルを損傷させてしまう虞がある。内視鏡クリップのアーム部材は先端側へ付勢されている。そのため、内視鏡チャンネルの損傷を防ぐためには、使用者は、付勢に抗してスライダを引きながら、シースの先端に設けられるパイプにアーム部材が収納された状態を維持して内視鏡クリップを処置対象箇所に到達させる必要がある。
【0006】
生検鉗子や把持鉗子を処置対象箇所に到達させる場合では、シースの先端に設けられるパイプからカップや把持部が露出した状態で内視鏡チャンネル内を進ませると、カップや把持部の先端が内視鏡チャンネルに接触して内視鏡チャンネルを損傷させてしまう虞がある。内視鏡チャンネルの損傷を防ぐためには、使用者は、スライダを引いた状態で、カップや把持部がパイプに収納された状態を維持しながら生検鉗子を処置対象箇所に到達させる必要がある。
【0007】
しかし、一般に、使用者がスライダを引きながら処置具を処置対象箇所に到達させる操作は難しい。内視鏡クリップを扱う場合では、スライダを引きながら内視鏡クリップを処置対象箇所に到達させる場合に、スライダを引く力が強くなりすぎることで、誤って内視鏡クリップをロックさせてしまう虞がある。
【0008】
上記事情を踏まえ、本発明は、処置対象箇所に到達するまでに使用者がスライダを引く動作を必要としない処置具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様に係る処置具は、開閉可能な複数のアームを有し、前記複数のアームが互いに閉じた閉状態と前記複数のアームが互いに開く開状態とを遷移するアーム部材と、前記アーム部材に着脱可能に連結されるワイヤと、前記ワイヤを挿通させるシースと、前記シースの基端に連結され、先端側から基端側に延びる操作部と、前記ワイヤに連結され、前記操作部に摺動可能に取り付けられるスライダと、前記アームが前記閉状態の時に前記スライダの前記先端側への移動を制限するスライダ制限機構と、を備え、前記スライダ制限機構は、互いに乗り越えてすれ違うことが可能である第1の部材と第2の部材とにより構成されたラチェット機構を有し、前記第1の部材と前記第2の部材とが互いに乗り越えた状態の時、前記スライダの前記先端側および前記基端側への移動を許容する。
【発明の効果】
【0010】
上記処置具によれば、処置対象箇所に到達するまでに使用者がスライダを引く動作を必要としない処置具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る処置具の断面図であり使用開始前の図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る処置具の内視鏡クリップまわりの拡大断面図でありアーム部材が開状態の図である。
図3図2の状態からアーム部材を閉状態とした図である。
図4図3の状態から内視鏡クリップを離脱させた図である。
図5図1に示す処置具の断面図でありシースがストレートの状態でアーム部材を開状態とした図である。
図6図5の状態からスライダを操作部の基端側に移動させた図である。
図7】本発明の第二実施形態に係る処置具の断面図であり使用開始前の図である。
図8図7の状態からスライダを先端側に移動させた状態の図である。
図9図8の状態からスライダを動作範囲に移動させた状態の図である。
図10図9の状態からスライダを待機範囲に移動させた状態の図である。
図11図1に示す処置具の断面図でありシースが湾曲した状態の待機範囲の図である。
図12図1に示す処置具の断面図でありシースが湾曲した状態の動作範囲の図である。
図13図1に示す処置具の断面図でありシースが1巻きした状態の待機範囲の図である。
図14図1に示す処置具の断面図でありシースが1巻きした状態動作範囲の図である。
図15】本発明の第三実施形態に係る処置具のスライダ制限機構の斜視図である。
図16図15に示すスライダ制限機構の平面図である。
図17】本発明の第三実施形態に係る処置具の断面図であり使用開始前の図である。
図18図17に示す処置具の断面図でありシースがストレートの状態で動作範囲とした図である。
図19図17に示す処置具の断面図でありシースが湾曲した状態で動作範囲とした図である。
図20図17に示す処置具の断面図でありシースが1巻きした状態で動作範囲とした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一実施形態について、図1から図9を参照して説明する。
本実施形態に係る処置具1は、内視鏡チャンネルを通して例えば内視鏡クリップECを処置対象箇所に到達させ、操作するために使用される装置である。
【0013】
図1は、本実施形態に係る処置具1の断面図である。図1に示すように、処置具1は、操作部2と、スライダ3とスライダ制限機構4と、ワイヤ5と、シース6と、内視鏡クリップECと、を備える。
【0014】
操作部2は、使用者が処置具1を把持するために設けられる。操作部2には、基端2p側に例えば楕円形状の穴である指かけ部2fが設けられている。使用者は、親指を指かけ部2fに挿入して処置具1を把持する。
【0015】
スライダ3は、ワイヤ5を介して内視鏡クリップECを先端側又は基端側に移動させるために設けられる。スライダ3は、操作部2の基端2pと先端2tとの間を摺動可能に操作部2に取り付けられる。使用者は、例えば人差し指と中指とでスライダ3を挟持し、スライダ3を操作部2の基端2p側及び先端2t側に移動させることにより、内視鏡クリップECを先端側及び基端側に移動させる。
【0016】
スライダ制限機構4は、内視鏡クリップECが有する先端側への付勢に抗してスライダ3の移動を制限するために設けられる。スライダ制限機構4は、ワイヤ5が挿通され、操作部2の先端2tとスライダ3との間に設けられる。
【0017】
スライダ制限機構4は、掴持部(第1の部材)41と、被掴持部(第2の部材)42と、を備える。掴持部41及び被掴持部42は、それぞれ、軸方向に沿ってワイヤ5が挿通される中空部分を有し、軸に関して対称な形状を有する。
【0018】
掴持部41と被掴持部42とはラチェット機構を構成している。スライダ制限機構4が収縮するにつれて掴持部41と被掴持部42とが当接し互いにすれ違う方向に動く場合には、掴持部41の突起41Pと被掴持部42の突起42Pとは互いに乗り越えてすれ違うことが可能である。突起41Pと突起42Pとが互いを乗り越えると、突起41Pと突起42Pとが係合することで、互いに離れる方向への動きを阻止する。被掴持部42の突起42Pは、本実施形態では軸方向に沿って1つ設けられているが、複数設けられていてもよい。
【0019】
ワイヤ5は、スライダ3のストロークに伴って内視鏡クリップECを先端側に移動させるために設けられている。ワイヤ5は、先端が内視鏡クリップECに着脱可能に連結され、基端がスライダ3に連結されている。
【0020】
シース6は、内視鏡クリップECの動作を補助するために設けられる。シース6は、基端が操作部2の先端2tに連結され、ワイヤ5を挿通し、先端に内視鏡クリップECを露出させる。
【0021】
内視鏡クリップECは、人体に形成された開口や血管などを結紮するために設けられる。内視鏡クリップECは、弾性部材7と、パイプ8とアーム部材9と、を備える。
【0022】
アーム部材9は、図1及び図2に示すように、パイプ8に押えられて閉状態となる第1の位置と、パイプ8から放出されアーム部材9自体の付勢により開状態となる第2の位置と、に遷移する。
【0023】
弾性部材7は、ワイヤ5が先端側へ移動した場合に、アーム部材9を確実に先端側へ移動させ第2の位置に遷移させるために設けられる。弾性部材7は、アーム部材が第1の位置にある場合は復元力によりアーム部材9を第2の位置に付勢する。弾性部材7は、ワイヤ5が先端側へ移動した場合に復元力によりアーム部材9を先端側に移動させ、アーム部材9が第2の位置に遷移すると、アーム部材9を付勢から解放する。
【0024】
スライダ3は、アーム部材9を第1の位置に配置する待機範囲WAから前進することで、アーム部材9を第2の位置に配置する動作範囲AAに移動する。
【0025】
スライダ3を介して弾性部材7から受ける圧縮力では、掴持部41の突起41Pと被掴持部42の突起42Pとは互いに乗り越えない。
【0026】
処置具1の動作について説明する。図1は使用開始前の図である。使用開始前の状態では、シース6がストレートな状態である。アーム部材9には、弾性部材7による先端側への付勢が作用している。また、アーム部材9には、ワイヤ5及びスライダ3を介してスライダ制限機構4による基端側への向きの力が作用している。弾性部材7による付勢とスライダ制限機構4による力が釣り合っており、アーム部材9は第1の位置に静止している。スライダ制限機構4はスライダ3の動作を待機範囲WAに制限している(第1の状態)。
【0027】
使用者は、スライダ3に力を加えず操作部2を押し込むことにより、処置具1を図示しない内視鏡チャンネルを通して処置対象箇所に到達させる。この時、第1の状態が維持される。
【0028】
図2に示すように、使用者が処置具1を処置対象箇所に到達させ、内視鏡クリップECを開口Iと対向させると、使用者は、スライダ3を先端側にストロークして前進させ、アーム部材9を第2の位置とする。
【0029】
図3に示すように、使用者は、スライダ3を引き戻し、アーム部材9を第1の位置とすることで、アーム部材により開口Iの縁を掴んで開口Iを塞ぐ。
【0030】
図4に示すように、使用者は、一定量を超える力でスライダ3を引くことで、ワイヤ5からアーム部材9を離脱させる。ワイヤ5から離脱したアーム部材9は、パイプ8に押えられ閉状態を維持して開口Iを塞ぎながら処置対象箇所に留置される。
【0031】
図5に示すように、処置具1は、掴持部41の突起41Pが被掴持部42の突起42Pを乗り越える力を加えてスライダ3を前進させることにより、アーム部材9が第2の位置となる。スライダ制限機構4が収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0032】
図6に示すように、スライダ制限機構4が第2の状態である場合に使用者がスライダ3を待機範囲WAまで引き戻した場合には、アーム部材9が再び第1の位置をとる。使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力により、スライダ3が動作範囲AAに移動してアーム部材9が再び第2の位置をとる。そのため、開口Iの縁を掴んで開口Iを塞ぐ動作に失敗しても、掴み直すことが可能である。
【0033】
本実施形態に係る処置具1によれば、待機範囲WAにおいてアーム部材9の先端側への付勢が、ワイヤ5及びスライダ3を介して、スライダ制限機構4により抑制されている。そのため、アーム部材9をパイプ8に収容しながら処置具1を処置対象箇所に到達させる際に、使用者がスライダ3を引く必要がない。
【0034】
次に、本発明の第二実施形態について、図7から図19を参照して説明する。
本実施形態に係る処置具1Aは、処置具1と同様、内視鏡チャンネルを通して例えば内視鏡クリップECを処置対象箇所に到達させ、操作するために使用される装置である。処置具1Aは、処置具1においてスライダ制限機構4に代えてスライダ制限機構4Aを備える構成である。そのため、スライダ制限機構4に代えてスライダ制限機構4Aを備えることに影響する事項のみ説明する。
【0035】
図7に示すように、スライダ制限機構4Aは、掴持部(第1の部材)41と、被掴持部(第2の部材)42と、バネ43と、を備える。バネ43は、掴持部41と、被掴持部42と、に挟持される。掴持部41及び被掴持部42は、それぞれ、軸方向に沿ってワイヤ5が挿通される中空部分を有し、軸に関して対称な形状を有する。スライダ制限機構4Aは、バネ43の復元力より大きい軸方向の圧縮力が加わることにより、収縮する。被掴持部42の突起42Pは、本実施形態では軸方向に沿って3つ設けられているが、少なくとも1つ設けられていればよい。
【0036】
処置具1Aの動作について説明する。図7は使用開始前の図である。使用開始前の状態では、アーム部材9に加わる弾性部材7の付勢と、バネ43による基端の力が釣り合っており、アーム部材9は第1の位置に静止している。スライダ3は、バネ43により前進に対する抗力を受ける。
【0037】
図8は、シース6がストレートな状態においてアーム部材9が第1の位置を維持する範囲のストローク量で使用者がスライダ3を先端側にストロークした状態の図である。この範囲では、掴持部41と被掴持部42とが係合しない。使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力にスライダ制限機構4Aのバネ43の復元力が打ち勝ち、スライダ制限機構4Aがスライダ3を押し戻す。スライダ制限機構4Aはスライダ3の動作を待機範囲WAに制限している(第1の状態)。
【0038】
図9に示すように、処置具1Aは、シース6がストレートな状態において、掴持部41の突起41Pが被掴持部42の最も基端側の突起42Pを乗り越え、バネ43の復元力に抗する力を加えてスライダ3を前進させることにより、アーム部材9が第2の位置となる。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0039】
スライダ制限機構4Aの収縮は、突起41Pと突起42Pとが係合してバネ43の復元を無効とした不可逆的な収縮である。
【0040】
この状態においては、スライダ制限機構4Aはバネ43の復元力によりスライダ3を基端側へ押し戻さない。そのため、使用者がスライダ3に加える力を解除しても、弾性部材7の復元力によりスライダ3は動作範囲AAに維持される。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0041】
図10に示すように、スライダ制限機構4Aが第2の状態である場合に使用者がスライダ3を待機範囲WAまで引き戻した場合には、アーム部材9が再び第1の位置をとる。使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力により、スライダ3が動作範囲AAに移動してアーム部材9が再び第2の位置をとる。そのため、開口Iの縁を掴んで開口Iを塞ぐ動作に失敗しても、掴み直すことが可能である。
【0042】
図11に示すように、処置具1Aは、シース6が湾曲した状態においてはシース6が実質的に伸長する。シース6が実質的に伸長することで、シース6が内視鏡クリップECに先端側への力を加える。そのため、ワイヤ5及びスライダ3を介してスライダ制限機構4Aが圧縮されて収縮し、スライダ3を先端側へ前進させる。シース6がストレートな状態の場合よりも、待機範囲WAが操作部2の先端2t側に拡大する。スライダ制限機構4Aの収縮は、バネ43の弾性変形による可逆的な収縮である。
【0043】
図11は、シース6が湾曲した状態においてアーム部材9が第1の位置を維持する範囲にある状態の図である。この範囲では、掴持部41と被掴持部42とが係合しない。この範囲で使用者がスライダ3を先端側にストロークし、使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力にスライダ制限機構4Aのバネ43の復元力が打ち勝ち、スライダ制限機構4Aがスライダ3を押し戻す。スライダ制限機構4Aはスライダ3の動作を待機範囲WAに制限している(第1の状態)。
【0044】
図12に示すように、シース6が湾曲した状態において、掴持部41の突起41Pが被掴持部42の最も基端側から先端よりの突起42Pを乗り越え、バネ43の復元力に抗する力を加えてスライダ3を前進させることにより、アーム部材9が第2の位置となる。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0045】
スライダ制限機構4Aの収縮は、突起41Pと突起42Pとが係合してバネ43の復元を無効とした不可逆的な収縮である。
【0046】
この状態においては、スライダ制限機構4Aはバネ43の復元力によりスライダ3を基端側へ押し戻さない。そのため、使用者がスライダ3に加える力を解除しても、弾性部材7の復元力によりスライダ3は動作範囲AAに維持される。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0047】
スライダ制限機構4Aが第2の状態である場合に使用者がスライダ3を待機範囲WAまで引き戻した場合には、アーム部材9が再び第1の位置をとる。使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力により、スライダ3が動作範囲AAに移動してアーム部材9が再び第2の位置をとる。そのため、開口Iの縁を掴んで開口Iを塞ぐ動作に失敗しても、掴み直すことが可能である。
【0048】
図13に示すように、処置具1は、シース6が1巻きした状態においてはシース6が実質的に伸長する。シース6が実質的に伸長することで、シース6が内視鏡クリップECに先端側への力を加える。そのため、ワイヤ5及びスライダ3を介してスライダ制限機構4Aが圧縮されて収縮し、スライダ3を先端側へ前進させる。シース6が湾曲した状態の場合よりも、待機範囲WAが操作部2の先端2t側に拡大する。スライダ制限機構4Aの収縮は、バネ43の弾性変形による可逆的な収縮である。
【0049】
図13は、シース6が1巻きした状態においてアーム部材9が第1の位置を維持する範囲にある状態の図である。この範囲では、掴持部41と被掴持部42とが係合しない。この範囲で使用者がスライダ3を先端側にストロークし、使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力にスライダ制限機構4のバネ43の復元力が打ち勝ち、スライダ制限機構4Aがスライダ3を押し戻す。スライダ制限機構4Aはスライダ3の動作を待機範囲WAに制限している(第1の状態)。
【0050】
図14に示すように、シース6が1巻きした状態において、掴持部41の突起41Pが被掴持部42の最も先端側の突起42Pを乗り越え、バネ43の復元力に抗する力を加えてスライダ3を前進させることにより、アーム部材9が第2の位置となる。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0051】
スライダ制限機構4Aの収縮は、突起41Pと突起42Pとが係合してバネ43の復元を無効とした不可逆的な収縮である。
【0052】
この状態においては、スライダ制限機構4Aはバネ43の復元力によりスライダ3を基端側へ押し戻さない。そのため、使用者がスライダ3に加える力を解除しても、弾性部材7の復元力によりスライダ3は動作範囲AAに維持される。スライダ制限機構4Aが収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0053】
スライダ制限機構4Aが第2の状態である場合に使用者がスライダ3を待機範囲WAまで引き戻した場合には、アーム部材9が再び第1の位置をとる。使用者がスライダ3に加える力を解除すると、弾性部材7の復元力により、スライダ3が動作範囲AAに移動してアーム部材9が再び第2の位置をとる。そのため、開口Iの縁を掴んで開口Iを塞ぐ動作に失敗しても、掴み直すことが可能である。
【0054】
本実施形態に係る処置具1Aによれば、シース6の湾曲状態に関わらず、待機範囲WAにおいてアーム部材9の先端側への付勢が、ワイヤ5及びスライダ3を介して、スライダ制限機構4Aにより抑制されている。そのため、シース6の湾曲状態に関わらず、アーム部材9をパイプ8に収容しながら処置具1を処置対象箇所に到達させる際に、使用者がスライダ3を引く必要がない。
【0055】
さらに、バネ43がスライダ3の前進に対する抗力を有しているため、使用者がスライダ3を引かなくても、アーム部材9が飛び出すことがなく、例えばアーム部材9が飛び出して処置対象箇所の粘膜を損傷させることがない。
【0056】
次に、本発明の第三実施形態について、図15から図20を参照して説明する。
本実施形態に係る処置具1Bは、処置具1と同様、内視鏡チャンネルを通して例えば内視鏡クリップECを処置対象箇所に到達させ、操作するために使用される装置である。処置具1Bは、処置具1Aにおいてスライダ制限機構4Aに代えてスライダ制限機構10を備える構成である。
【0057】
図15は、処置具1Bのスライダ制限機構10の斜視図である。図16は、スライダ制限機構10の平面図である。図15及び図16に示すように、スライダ制限機構10は、渦巻きバネであり、内側の巻きから外側の巻きになるにつれて、巻きが軸方向に離間する。
【0058】
スライダ制限機構10は、軸方向に加わる圧縮力が大きくなるにつれて、内側の巻きから順に降伏するように強度設計がされている。最も内側の巻き11の降伏点F1より第2の巻き12の降伏点F2が大きい。第2の巻き12の降伏点F2より第3の巻き13の降伏点F3が大きい。
【0059】
スライダ制限機構10は、渦巻きバネの巻き数は、本実施形態では座巻き14を除いて軸方向に沿って3巻き設けられているが、少なくとも1巻き設けられていればよい。
【0060】
処置具1Bの動作について説明する。処置具1Bの動作と処置具1の動作との相違点は、スライダ制限機構4Aとスライダ制限機構10との軸方向の寸法の縮小の様態の相違のみである。 そのため、スライダ制限機構10の軸方向の寸法の縮小の様態について説明する。
【0061】
図17は使用開始前の図である。使用開始前の状態では、アーム部材9には、ワイヤ5及びスライダ3を介してスライダ制限機構10による基端側への向きの力が作用している。弾性部材7による付勢とスライダ制限機構10による力が釣り合っており、アーム部材9は第1の位置に静止している。
【0062】
処置具1Bは、スライダ制限機構10の弾性により、スライダ3の動作を待機範囲WAに制限している(第1の状態)。
【0063】
図18に示すように、処置具1Bは、シース6がストレートな状態においてアーム部材9が第2の位置となるストローク量で、巻き11に圧縮力F1が作用して巻き11が降伏する。巻き11が降伏することでスライダ制限機構10の軸方向の寸法が縮小する。スライダ制限機構10が収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0064】
図19に示すように、処置具1Bは、シース6が湾曲した状態においてはシース6が実質的に長くなり、アーム部材9が第2の位置となるストローク量で、巻き12に圧縮力F2が作用して巻き12が降伏する。巻き12が降伏することでスライダ制限機構10の軸方向の寸法が縮小する。スライダ制限機構10が収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0065】
図20に示すように、処置具1Bは、シース6が1巻きした状態においてはシース6が実質的に長くなり、アーム部材9が第2の位置となるストローク量で、巻き13に圧縮力F3が作用して巻き13が降伏する。巻き13が降伏することでスライダ制限機構10の軸方向の寸法が縮小する。スライダ制限機構10が収縮することで、スライダ3の動作の範囲を待機範囲WA及び動作範囲AAとする(第2の状態)。
【0066】
本実施形態に係る処置具1Bによれば、シース6の湾曲状態に関わらず、待機範囲WAにおいてアーム部材9の先端側への付勢が、ワイヤ5及びスライダ3を介して、スライダ制限機構10により抑制されている。そのため、シース6の湾曲状態に関わらず、アーム部材9をパイプ8に収容しながら処置具1を処置対象箇所に到達させる際に、使用者がスライダ3を引く必要がない。
【0067】
さらに、スライダ制限機構10がスライダ3の前進に対する抗力を有しているため、使用者がスライダ3を引かなくても、アーム部材9が飛び出すことがなく、例えばアーム部材9が飛び出して処置対象箇所の粘膜を損傷させることがない。
【0068】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および以下で示す変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0069】
例えば、処置具1及び処置具1Aは、掴持部41がスライダ3と一体となっている構成と、被掴持部42が操作部2と一体となっている構成と、の一方の構成であってもよい。
【0070】
処置具1及び処置具1Aは、掴持部41が先端側に配置され、被掴持部42が基端側に配置されてもよい。
【0071】
処置具1、処置具1A及び処置具1Bは、アーム部材が鉗子である生検鉗子又は把持鉗子であってもよい。
【0072】
処置具1Bのスライダ制限機構10は、渦巻きバネでなくてもよく、スライダの摺動方向に沿って連なる、降伏点が異なる複数のバネであってもよい。
【0073】
処置具1のスライダ制限機構4、処置具1Aのスライダ制限機構4A、又は処置具1Aのスライダ制限機構10は、処置具1、処置具1A、又は処置具1Bに予め取り付けられていてもよく、使用者が使用時に取り付けられるようにしてもよい。
【0074】
処置具1、処置具1A及び処置具1Bの内視鏡クリップECは、弾性部材7を備えなくてもよい。アーム部材9が開状態に付勢され、アーム部材9の先端がパイプ8から露出していることにより、アーム部材9はパイプ8の先端に当接する。これにより、アーム部材9がパイプ8の先端に基端側への力を及ぼし、その反力でアーム部材9が先端側へ付勢されるので、弾性部材7を備えなくてもアーム部材9は先端側へ付勢される。
【符号の説明】
【0075】
1、1A、1B 処置具
2 操作部
2p 基端
2t 先端
3 スライダ
4、4A スライダ制限機構
41 掴持部(第1の部材)
41P 突起
42 被掴持部(第2の部材)
42P 突起
43 バネ
5 ワイヤ
6 シース
7 弾性部材
8 パイプ
9 アーム部材
10 スライダ制限機構
11、12、13 巻き
14 座巻き
WA 待機範囲
EC 内視鏡クリップ
AA 動作範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20