(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】携帯用作業工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20221111BHJP
B26B 15/00 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B25F5/00 D
B25F5/00 H
B25F5/00 F
B25F5/00 C
B26B15/00
(21)【出願番号】P 2020570490
(86)(22)【出願日】2018-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2018067010
(87)【国際公開番号】W WO2020001740
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】599130287
【氏名又は名称】ルーカス ヒュードラウリク ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ザウアービアー、カルステン
(72)【発明者】
【氏名】キルヒナー、ウーヴァ
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510644(JP,A)
【文献】国際公開第2017/190799(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0083821(US,A1)
【文献】特開2016-096722(JP,A)
【文献】特開2017-192347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B26B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張工具、切断工具、または切断および拡張機能を有する組み合わせ工具などの携帯用作業工具であって、
電動モータと、
前記作業工具に収納された充電式バッテリと、
拡張作業、および/または、切断作業、および/または、持ち上げもしくは押圧作業を実行するための機械的または油圧的に駆動される可動ピストンロッドと、
前記電動モータを制御、および/または、調整するための電子制御調整部と、を備え、
ブラシレス直流モータは、電動モータとして設けられ、
前記電子制御調整部は、前記電動モータが第1の周波数F1で動作する第1の動作モードを確立し、
前記電子制御調整部は、前記電動モータが第2の周波数F2で動作する第2の動作モードを確立し、
手動で操作可能な切り替え手段によって、動作モードは、前記作業工具の作業者によって、第1の動作モードと第2の動作モードとの間で切り替えることができ、
前記電動モータの回転速度は、前記第1の周波数F1よりも前記第2の周波数F2において速いことを特徴とする、携帯用作業工具。
【請求項2】
前記第1の周波数F1から前記第2の周波数F2への切り替えは、前記電動モータの全パワースペクトルの部分的な範囲でのみ可能である、請求項1に記載の作業工具。
【請求項3】
前記
電動モータの前記回転速度は、それぞれの場合において、前記第1の周波数F1および前記第2の周波数F2で一定である、請求項1または請求項2に記載の作業工具。
【請求項4】
消費電力閾値SWが指定されており、それを超えると、前記第1の周波数F1から前記第2の周波数F2への切り替え、または前記第2の周波数F2での前記作業工具の操作ができなくなる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の作業工具。
【請求項5】
前記ピストンロッドの移動方向を切り替えるための制御弁が設けられており、前記制御弁を作動させることにより、前記第1の動作モードと前記第2の動作モードとの間で動作モードの切り替えが行われる、請求項1から請求項4のいずれかに記載の作業工具。
【請求項6】
前記制御弁は回転弁であり、第1の動作モードと第2の動作モードとの間の動作モードの切り替えは、前記制御弁を追加の角度範囲Δαだけ回転させることによって起こる、請求項5に記載の作業工具。
【請求項7】
前記電動モータの引き出し電流Aによって動作中に発生する熱Wが記録され、制御変数として使用もされる、請求項1から請求項6のいずれかに記載の作業工具。
【請求項8】
前記電動モータの引き出し電流Aによって動作中に発生する熱Wは、前記電子制御調整部の局所領域に記録される、請求項1から請求項7のいずれかに記載の作業工具。
【請求項9】
前記電動モータの引き出し電流によって動作中に発生する熱Wを記録する第1の温度プローブが設けられている、請求項1から請求項8のいずれかに記載の作業工具。
【請求項10】
周囲温度Tが記録され、制御工程に含まれる、請求項1から請求項9のいずれかに記載の作業工具。
【請求項11】
第2の温度プローブが設けられている、請求項1から請求項10のいずれかに記載の作業工具。
【請求項12】
前記電動モータの制御は、引き出し電流A、前記電動モータの引き出し電流Aによって生成された熱、および/または、周囲温度Tに基づいて行われる、請求項1から請求項11のいずれかに記載の作業工具。
【請求項13】
前記第2の
動作モードから前記第1の
動作モードへの自動切り替えまたはシャットダウンは、制御工程の範囲内で行われる、請求項1から請求項12のいずれかに記載の作業工具。
【請求項14】
前記切り替えは、時間遅延tを考慮して行われる、請求項13に記載の作業工具。
【請求項15】
動作中に前記電動モータによって引き出される電流Aに基づいて前記作業工具の出力が表示される負荷表示、および/または、
前記作業工具が第2の動作モードにあることを示す動作状態表示、および/または、
最大出力の継続時間を超えたことを示す動作状態表示、および/または、
半導体素子の現在の動作温度がどの範囲にあるかを示す温度表示
を備える表示装置が設けられている、請求項1から請求項14のいずれかに記載の作業工具。
【請求項16】
前記負荷表示には、前記作業工具が過負荷範囲にあり、作業工程を停止する必要があることを示す警告モードがある、請求項15に記載の作業工具。
【請求項17】
前記作業工具は、
油圧ポンプ、および/または、
油圧タンク、および/または、
ピストンロッド、および/または、
前記可動ピストンロッドを保持するための油圧シリンダ、および/または、
油圧ライン、および/または、
補償装置
を備える、請求項1から請求項16のいずれかに記載の作業工具。
【請求項18】
前記第1の動作モードから前記第2の動作モードに切り替えられることによりターボモードへの切り替えが行われ、前記ピストンロッドが前記第1の周波数F1よりも速く伸縮する、請求項1から請求項17のいずれかに記載の作業工具。
【請求項19】
前記第1の周波数F1から前記第2の周波数F2への切り替えが消費電力に依存する方法で行われる、請求項1から請求項18のいずれかに記載の作業工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械式または電気油圧式の携帯用作業工具、例えば、拡張工具、切断工具、または切断および拡張機能を有する組み合わせ工具、またはリフティングジャッキ(または救助ラム)に関する。上記の工具は、救助作業において使用されることが好ましい。
【背景技術】
【0002】
ここで対象とする種類の電気機械式または電気油圧式の携帯用作業工具または救助工具は、作業者が持ち運ぶことができ、さまざまな用途で使用される。例えば、拡張工具、切断工具、またはいわゆる組み合わせ工具、すなわち、例えば事故車両から負傷者を救助するために、または地震の被災者を救出するために、救助隊員(消防隊)によって使用される切断および拡張機能を備えた工具および救助ラムである。ここで、作業工具または救助工具の種類は様々である。切断、拡張、または押圧用の好ましくは硬化した工具インサートを備えた電気油圧的または電気機械的に駆動される作業工具または救助工具がある。このような工具を使用すると、使用場所に応じて、非常に高い機械的負荷と様々な環境の影響(熱、冷気、湿気)にさらされる。
【0003】
ここで特に重要なのは、救助作業を常に迅速に実行する必要があり、予期しない操作上の誤動作が致命的な結果をもたらす可能性があるため、救助工具を使用するときに特に高いレベルの操作の信頼性を確保することである。
【0004】
さらに、そのような作業工具は、使用中に時間の経過とともにこれまで以上に高い機械的応力にさらされる。これは、例えば、自動車構造の分野では、ますます高強度の材料が使用されており、この材料は、例えば、切断工具によって切断されなければならないためである。ただし、このような作業工具の操作には、豊富な経験も必要である。たとえば、自動車のいわゆるBピラーの切断が切断工具を使用して行われる場合、切断工具の2つのブレードは最初に材料にすばやく貫通する。その後、切断工程が遅くなり、切断工程が停止する。切断工具に十分な力があると、材料内を移動するマイクロクラックが形成される。これらのマイクロクラックは肉眼では見ることができない。経験の浅い作業者は工具が性能限界に達したと考え、この状況で切断工具を置いて、その後切断を再開する。対照的に、このような状況では、経験豊富な作業者は一定時間待機するため、2つのブレードの全負荷が切断された材料に残る。この待機時間中、マイクロクラックはさらに移動し、ブレードに加えられた負荷により、マイクロクラックとその結果生じるマクロクラックの継続により、材料が最終的に破壊される。しかしながら、対照的に、切断される材料が実際には硬すぎて、全負荷で過度に待機しても、材料の所望の切断が得られない状況も起こり得る。その結果、これらの状況を特定することはこれまで困難であった。
【0005】
このような工具のもう1つの問題は、用途によっては、当該作業工具の開閉時間が非常に長くなる可能性があることである。たとえば、救助ラムの長さは、収縮状態では40cmであるが、伸長状態では150cmである。その結果、救助ラムをピストンが必要な長さまで伸ばすために、必要な長さまで伸ばされるまでに比較的長い時間がかかる場合がある。救助作業では常に可能な限り迅速に救助を行う必要があるため、可動ピストンロッドを備えた作業工具の開閉時間をできるだけ短くすることが急務である。
【0006】
電気油圧式作業工具は油圧比例弁を有するが、作業工具の開閉時間はわずかな影響しか受けない。
【0007】
(先行技術文献)
WO2012/019758A1は、第1および第2の作業工具用の制御装置を記載しており、その出力は単一の油圧切替弁を介して並列に接続された2つのポンプによって制御され、それによって2つのポンプの出力が第1の圧力ラインにのみ提供されたり、第2の圧力ラインにのみ提供されたり、特定の比率で第1の圧力ラインおよび第2の圧力ラインに提供されたりする。その選択は、油圧制御弁のそれぞれの位置を介して行われる。
【0008】
油圧ポンプ装置を操作する方法は、WO2013/127452から知られており、負荷依存制御は、負荷状態から無負荷状態へ、またはその逆に切り替わるように、モータ電流の関数として行われる。この方法は、エネルギーを節約し、それによって充電式バッテリを節約するために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、携帯用作業工具用の一般的な油圧ポンプ装置の使用効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、請求項1の特徴によって解決される。本発明の適切な実施形態は、さらなる請求項に記載されている。
【0011】
本発明によれば、電子制御調整部は、電動モータが第1の周波数F1で動作する第1の動作状態に加えて、電動モータが第2の周波数F2で動作する第2の動作状態を決定する。ここで、手動で操作可能な切替手段によって、動作状態は、作業工具の作業者によって第1の動作状態と第2の動作状態との間で切り替えることができ、第2の周波数F2における電動モータの回転速度は、第1の周波数F1よりも速い。これにより、ピストンロッドは、必要に応じて第2の周波数F2に切り替えることにより、以前の作業工具よりも大幅に速く伸縮させることができる。これにより、それぞれが関連する電動モータによって駆動される必要がある並列に接続された2つの別々のポンプの配置を省くことができる。電動モータを第2の周波数F2(ターボモード)に切り替える機能は、充電式バッテリ駆動の携帯用作業工具に簡単に実装できる。これにより、選択する周波数の大きさにより電動モータの回転速度が決定され、自由に選択できる。周波数が高いほど、電動モータがより速く回転して、下流の装置または下流の油圧ポンプを駆動する。本発明によれば、電動モータは、ブラシレス直流モータ(または「電子整流モータ」または「ECM」または「ECモータ」)を含む。
【0012】
実用的には、第1の周波数F1から第2の周波数F2への切り替えは、電動モータの全パワースペクトルの部分的な範囲でのみ可能である。特に、電気油圧式作業工具に関しては、第2の動作状態への切り替えは、所定の圧力(例えば、500バール)で開始することはもはや不可能である。これにより、油圧回路の機械的な問題が回避される。
【0013】
切り替えは、一定の周波数F1および周波数F2の間で行われることが好ましい。
【0014】
実用的には、第1の周波数F1から第2の周波数F2に切り替える能力は、消費電力に依存する方法で行われる。例えば、消費電力閾値SWを指定することができ、それを超えると、第1の周波数F1から第2の周波数F2への切り替え、または第2の周波数F2での作業工具の操作はできなくなる。この手段は、能動的作業(切断、拡張、または押圧)ができる動作状態が存在するかどうか、または工具のみを開閉する動作状態が存在するかどうかについての妥当性検査を実行するために用いられる。たとえば、作業工具の切断工具がすでに材料を貫通している場合、第1の周波数F1から第2の周波数F2への切り替えはできない。
【0015】
ピストンロッドの移動方向を切り替えるための油圧制御弁(油圧マルチポート弁)が設けられており、この制御弁を作動させることにより、動作モードを第1の動作モードと第2の動作モードとの間で切り替えるので、作業者にとって作業工具の直感的な使用感が維持され、これは救助作業において有利である。ピストンロッドの移動方向や電動モータの動作状態について、作業者は制御弁のみをONにする。作業者は通常どおり救助工具を操作する。他の点では変更されていない制御弁には、追加の操作機能が1つだけある。
【0016】
制御弁が特にリング状のグリップまたはスターグリップを備えた回転弁である限り、第1の動作モードと第2の動作モードとの間の動作モード切り替えの起動は、制御弁を作動させる実際の角度範囲に角度範囲Δαだけ追加して単に制御弁を回転させることによって行うことができる。したがって、電動モータを第1の動作状態から第2の動作状態に切り替えるために、作業者は、追加の角度範囲Δαだけ回転弁を回転させる。
【0017】
実用的には、制御弁は弁設定の遷移が連続しているいわゆる比例弁であり、それによって可変体積流量を実現できる。第1の動作モードから第2の動作モードへの本発明による切り替え能力は、比例弁に重ね合わされ、一種の「キックダウン」機能に匹敵する。
【0018】
本発明によれば、動作中に電動モータの引き出し電流Aによって生成される熱Wが測定され、制御変数として使用されるので、過度に長い過負荷動作による有害な影響を効果的に防止することができる。ただし、同時に、現在の動作モードがまだ負荷制限の一方の側にあるのか、既にもう一方の側にあるのかを継続的に考慮する必要なしに、作業者は以前よりも「限界まで」達することもできる。これにより、作業者の個々の経験レベルは無関係になる。任務の成功の可能性が高まる。これにより、一般的な油圧ポンプ装置の任務遂行の有効性が大幅に向上する。
【0019】
好ましくは、動作中に電動モータの引き出し電流Aによって生成される熱Wは、電子制御調整部または少なくともその局所近傍、特にプリント回路基板またはその半導体アセンブリの領域(例えば、IGFETまたはMOSFETの領域)に記録される。熱Wは、動作中に電動モータの引き出し電流Aによって特にそこで発生するので、特にそこで良好に記録することができる。
【0020】
熱Wまたは温度または温度上昇を記録するために、第1の温度プローブまたは温度センサーを設けることができ、これは、動作中に電動モータの引き出し電流Aによって生成される熱Wを記録し、それを電子制御調整部に転送する。これには、温度の尺度として電気信号を供給する電気または電子部品が含まれる場合がある。特に、これらは、温度変化に応じて抵抗が変化する部品(例えば、PTC、NTC)または処理可能な電気信号を直接供給する部品(例えば、統合半導体温度センサー(ソリッドステート回路)またはダイオード接続されたトランジスタのベースエミッタ電圧の温度依存性を使用する)でもよい。
【0021】
特に、電動モータは、タスクの実行中に負荷がかかったときに電動モータの回転速度は、少なくとも本質的に一定のままであり、負荷がかかると、電動モータの引き出し電流のみが増加するように設計することができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、作業工具の周囲温度Tも測定され、制御工程に含めることができる。特に、動作中に電動モータの引き出し電流Aによって生成される熱と作業工具の周囲温度Tとの合計、または必要に応じて比率も、制御目的に利用することができる。これは、周囲温度が半導体アセンブリの熱の蓄積に追加の影響を及ぼし、また切替工程において、電動モータの引き出し電流Aのために時間遅延して熱の蓄積が起きる可能性があるため、有利である。周囲温度をさらに測定することで、熱の蓄積をさらに正確に測定できる。
【0023】
実用的には、周囲温度Tを測定するための油圧ポンプ装置は、第2の温度プローブを備える。これは、温度の尺度として電気信号を供給する電気または電子部品でもよい。特に、これらは、温度変化に応じて抵抗が変化する部品(例えば、PTC、NTC)または処理可能な電気信号を直接供給する部品(例えば、統合半導体温度センサー(ソリッドステート回路)またはダイオード接続されたトランジスタのベースエミッタ電圧の温度依存性を使用する)でもよい。
【0024】
制御工程の範囲内で、電動モータの引き出し電流Aを制限することができ、および/または、電動モータを完全に停止することができる。どちらの場合も、この手段により過熱や熱が低減され、作業工具を操作する際の効果的な保護対策になる。
【0025】
電動モータの引き出し電流Aを制限する、および/または電動モータを停止する切替工程は、時間遅延tを考慮して実用的に行われる。これにより、時間遅延して発生する過熱を防ぐことができるので有利である。
【0026】
時間遅延tを確立または決定するために、周囲温度Tを有利に使用することもできる。
【0027】
好ましくは、本発明に係る作業工具は、以下を含む表示装置を含む。
- 動作中に電動モータの引き出し電流Aに基づいて、作業工具の出力を表示する負荷表示、および/または、
- 作業工具がどの動作状態であるか、または作業工具が第2の動作モードにあるかどうかを示す動作状態表示、および/または、
- 全負荷継続時間を超えたことを示す全負荷動作状態表示、および/または、
- 半導体部品の現在の動作温度が存在する範囲を示す温度表示。
【0028】
負荷表示は、作業工具が追加で負荷が発生できる状態にあるのか、または全負荷運転の状態にあるのかを作業者に示す。負荷表示は、たとえばライトバーの配置として実行できる。動作状態表示は、作業工具が第1の動作状態または第2の動作状態にあるかどうかに関する情報を作業者に提供する。全負荷動作状態表示は、全負荷継続時間を超えたことを示すので、例えば、作業者は運転を停止して作業工具を再起動することができる。温度表示は、半導体アセンブリの温度が存在する範囲、特に現在の動作温度が可能な全範囲のどの範囲にあるかに関する情報を作業者に提供する。
【0029】
好ましくは、負荷表示は、作業工具が現在過負荷範囲にあることを示す警告モードを含んでもよい。これにより、作業者は、作業工程を停止すべきことに気づく。これにより、任務遂行の有効性が大幅に向上する。
【0030】
実用的には、作業工具は以下のものを備えている。
- 油圧ポンプ、
- 油圧タンク、
- ピストンロッド、
- 可動ピストンロッドを保持するための油圧シリンダ、
- 油圧ライン、および/または、
- 補償装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好適な実施形態を以下により詳細に記載する。分かりやすくするために、繰り返される特徴には、参照符号を1回だけラベル付けする。図示されているのは以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、電気油圧式の電池式切断工具の形態での作業工具の全体図である。
【
図3】
図3は、
図1による作業工具の過負荷保護の重要な部品の非常に簡略化された概略図である。
【
図4】
図4は、
図1による作業工具の制御弁の機能切替位置の非常に簡略化された概略図である。
【
図5】
図5は、
図1および
図2による作業工具のモータ出力を制御するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、様々な周囲温度が与えられた場合の、
図1による作業工具の電子機器の加熱の比較図である。
【
図7】
図7は、
図1による作業工具の出力のための表示装置の例である。
【0033】
図1の参照符号1は、本発明に係る作業工具全体を示している。
図1による実施形態では、作業工具1は、例えば、電気油圧式の電池式切断工具(カッター)である。作業工具1は、筐体12を備え、その中に、電動モータ3、油圧ポンプ2、ならびに油圧タンク19が配置されている。さらに、作業工具1の動作中に作動油の量を補償するための補償装置17が設けられている。これは、例えば、可撓性膜または同様のものでもよい。筐体12には、ディスプレイ14およびON/OFFスイッチ13が取り付けられている。作業者は、ディスプレイ14で動作状態を見ることができる。
【0034】
作業工具の前側には、2つの工具の半体11a、11bがあり、これらは、
図1に示されている実施形態において、切断工具の半体である。2つの切断工具の半体11a、11bは、ピストンロッド(
図1には図示せず)によって駆動される。後者は油圧シリンダ内にある(これも図示せず)。油圧シリンダは、
図1に示されているカバー28の下にあり、その領域に第1のハンドグリップ15がある。第2のハンドグリップ16は、筐体2に設けられている。これにより、作業工具1は、作業者が両手で誘導または操作することができる。筐体12の裏側には、充電式バッテリ用の挿入室(
図1には図示せず)が設けられている。油圧弁6を使用して、第2のハンドグリップ16を手に持った作業者は、油圧の流れの方向を手動で制御して、ピストンロッドを引っ込める(工具の半分11a、11bを閉じる)または伸ばす(工具の半分11a、11bを開ける)、または作動油を供給回路に戻す(バイパス動作モード)。
図1に示す制御弁6の実施形態は、ハンドグリップ16の軸の延長において回転可能であり、切替位置を動かすために作業者によって回転されるいわゆるスターグリップを有する制御弁である。
【0035】
本作業工具は、任意の空間配置または方向で操作できる。
【0036】
上記の切断工具に加えて、本発明はまた、拡張工具、切断および拡張機能を有する組み合わせ工具、リフティングジャッキ、または救助ラムを含んでも良い。これらの工具はすべて、油圧シリンダなどのシリンダ内で誘導されるピストンロッドを利用している。
【0037】
図2は、
図1による作業工具の油圧回路図の例を示している。ポンプ2は、例えば4つのシリンダを有するピストンポンプであり、高圧(HD)用に2つのシリンダが設けられ、低圧(ND)用に2つのシリンダが設けられる。それぞれの第2のライン(HD、ND)は、第1のラインに対して時間遅延して加圧され、高圧(HD)または低圧(ND)を生成する。ポンプのピストンは電動モータ3によって駆動される。作動油は、油圧タンク19内に保持され、油圧タンクに対して、例えば、可撓性膜の形で、動作中に作動油の量を補償するための補償装置17を配置することができる。ポンプ2の各HDおよびNDの出口は、例えば、3つの切替位置を有するマルチポート弁である制御弁6、および作動可能な安全弁27a、27bに接続されている。各安全弁27a、27bは、制御線23a、23bを介して、制御弁6の入力側に接続されている。
【0038】
図2では、制御弁6の左側の切替位置で、圧力(HDまたはND)が、油圧シリンダ4のピストンロッド5とは反対側の領域に蓄積され、それによりピストンロッド5が伸ばされるが、
図2の右側に示される、制御弁6の右側の切替位置において、対応する圧力が油圧シリンダ4の反対側に蓄積され、ピストンロッド5がこれにより引っ込められる。この作動によってそれぞれの場合に排出された作動油は、タンクライン33を介して油圧タンク19に戻される。
【0039】
制御弁6の中間位置は、ピストンロッド5が動かされることなく、作動油がバイパス動作モードで運ばれる位置を表す。
【0040】
例えば、ポンプ2が高圧モードで作動する場合、作動圧力は、第1の分岐点24aで、制御弁6および作動された安全弁27aに向かって分割される。高圧(HD)が加えられると、安全弁27aは、制御線23aを介して閉じられる。安全弁27aは、追加の制御線23bを介して制御圧力を受ける。低圧要素(ND)の供給流もまた、第2の分岐点24bで分割され、制御弁6および安全弁27bに向かって運ばれる。安全弁27bの制御圧力が低圧要素の圧力よりも高い場合、安全弁27bが開かれ、低圧要素の供給流がタンク19に戻される。
【0041】
あるいは、ポンプ2が低圧モードで作動する場合、安全弁27bの制御圧力は、低圧要素の供給流に対して作動することができない。両方の供給流(高圧および低圧)は、制御弁6に向かって運ばれる。
【0042】
制御弁6と油圧シリンダ4との間に負荷保持要素26が配置されている。負荷保持要素26は、交差する制御線を備える。例えば、制御弁6の左側の切替位置にポンプ2からの圧力がある場合、負荷要素26の逆止弁25は、2つの制御線のうちの1つを介して開かれ、作動油が逆流することができる。逆方向ではあるが、同じことが切替弁6の右側の切替位置に対して当てはまる。
【0043】
制御弁6は、ハンドルを用いて手動で作動し、バネ式である。制御弁6のハンドルによって、ばね力は、制御弁6の左位置および右位置の両方について乗り越えなければならない。ハンドルを離すとすぐに、制御弁6は自動的に初期位置(中間位置)に戻る。実用的には、制御弁は、作動油の線断面が連続的に増加または減少する、すなわち、急激な遷移がない、いわゆる比例弁であってもよい。油圧ポンプ2と制御弁6との間に、いずれの場合も逆止弁25がある。
【0044】
電動モータ3は、特に、いわゆるブラシレス直流モータであり、その回転速度に関して、制御調整部を介して制御または調整することができる。
【0045】
図3は、作業工具1の過負荷保護の重要な部品の非常に簡略化された概略図を示す。油圧シリンダ4、ピストンロッド5、制御弁6、ポンプ2、電動モータ3、および充電式バッテリ18などの部品は、簡略化された方法で表されている。分かりやすくするために、
図3では、ポンプ2に関して単一のポンプ記号のみを使用している。
分かりやすくするために、タンクへの油圧リターンラインは示していない。
【0046】
電動モータ3を操作するために、ディスプレイ14を有する制御調整部7が設けられる。制御調整装置7は、制御線32を介して電動モータ3に接続され、制御線31を介して制御弁6に接続されている。制御調整部7は、マイクロコントローラ20ならびに周波数変換器21を備える。制御調整部7またはマイクロコントローラ20は、メモリ(図示せず)を含んでもよい。さらに、制御調整部7は、電動モータ3の引き出し電流を検出することができる電流検出器22を備える。
【0047】
作業工具に収容された充電式バッテリ18は、電動モータ3に電気エネルギーを、具体的には電圧および電流の形で提供する。充電式バッテリの充電が次第に失われると、電圧が低下する。電気エネルギーは、複数のいわゆるMOSFETを含む周波数変換器21に蓄えられる。これらは、一定の電気抵抗を持つ電子スイッチである。周波数変換器21の目的は、充電式バッテリ18からの直流を交流に変換することである。交流電流は、電圧、電流、周波数によって区別される。これにより、周波数レベルは、電動モータ3の回転速度によって決定される。周波数が高いほど、電動モータ3の回転が速くなる。これにより、電圧はほぼ一定に保たれる。高速に回転するモータはより多くのエネルギーを必要とするため、モータの回転速度を上げると、それに応じて電力需要が高くなる。これにより電力損失が発生し、電動モータ3によって引き出される電流が大きくなるほど電力損失が大きくなる。電力損失は熱に変換され、周波数変換器21のMOSFETを加熱する。
【0048】
電動モータ3の電子制御調整部7によって、電動モータ3が第1の周波数F1または回転速度で動作する第1の動作状態が確立される。さらに、電子制御調整部7によって、電動モータ3が第2の周波数F2で動作する第2の動作状態が確立され、第2の周波数F2での電動モータの回転速度は、第1の周波数F1での回転速度よりも高い。さらに、好ましくは手動で操作可能な切り替え手段が設けられ、これにより、作業工具1の作業者は、第1の動作状態と第2の動作状態との間で切り替えることができる。これにより、動作中に、「キックダウン」の意味の範囲内での一種のターボ機能を実行することができ、油圧シリンダ4のピストンロッド5を特に速く動かして、工具を可能な限り迅速に作業位置に持っていくことができる。このようにして、例えば、救助ラムは、例えば、40cmの長さの収縮状態から、例えば、150cmの長さの伸長状態に非常に迅速に持っていくことができる。
【0049】
周波数変換器21の領域には、第1の温度プローブ8があり、それを用いて、熱、すなわち熱損失が、周波数変換器21またはその内部に配置されたMOSFETの領域で測定され、制御工程に供給される。
【0050】
さらに、制御調整部7は、周囲温度を測定するために設けられる第2の温度プローブ9を含み、これは、制御工程においても利用することができる。第2の温度プローブ9は、筐体2の開口部(図示せず)の領域に配置してもよい。温度プローブは、好ましくは、温度が変化したときに抵抗が変化する部品(例えば、PTC、NTC)または処理可能な電気信号を直接提供する部品(例えば、統合半導体温度センサー(ソリッドステート回路)またはダイオード接続されたトランジスタのベースエミッタ電圧の温度依存性を使用する)である。
【0051】
ディスプレイ14は、表示装置10を備え、これは、例えば、負荷表示10aおよび/または動作状態表示10bおよび/または温度表示10cを備えていてもよい(
図7参照)。
【0052】
制御調整部7ならびにディスプレイ14は、好ましくは、共通のプリント回路基板28上に配置される。ただし、それらは別々のプリント回路基板に配置することもできる。
【0053】
制御調整部7は、制御線31を介して制御弁6に接続されている。この手段の目的は、作業者が制御弁6を介してピストンロッドの移動方向(伸長、収縮、またはバイパス位置)を制御できるだけでなく、制御弁6によってもたらされる制御信号を介して、動作状態をそれぞれ第1の周波数F1と第2の周波数F2の間で切り替えることもできることである。これにより、作業者は、制御弁6を解放することなく、動作中にいつでも作業工具1のターボ機能を作動または非作動にすることができる。
【0054】
図4は、作業工具1の制御弁6の様々な切替位置を簡略化された概略図で例示的に示している。
図4の制御弁6に関しては、その制御弁の作動要素のみが示され、この特殊な場合では、いわゆる回転可能なスターグリップ29である。
図4に示すスターグリップ29の位置では、制御バルブ6は中央位置にあり、ピストンロッド5は収縮も伸長もせず、ピストンロッド5を動かさずに作動油のみがそれぞれのリリーフ弁27a、27bを介してタンクに戻される。たとえば、スターグリップ29が
図4で左に10°の角度だけ回された場合、制御弁6は、例えば
図2に示されている左の切替位置に移動する。一方、スターグリップ29を右に10°回すと、制御弁6は
図2の右の切替位置に置かれる。電動モータの低周波数F1から高周波数F2への切り替えもまた、スターグリップ29を作動させることによって行われる。好ましくは、この目的のために、スターグリップ29を20°の角度範囲で回転させて、ピストンロッド5を収縮または伸長するときにターボ機能も作動させることができる。これにより、作業工具1の実装が特に簡略化される。作業者がスターグリップ29を偏向位置で放すとすぐに、スターグリップ29は必ずばね力によって
図4に示される開始位置に回転して戻される。スターグリップ29を10°の角度範囲の分だけ回転させて戻すと、ピストンロッド5の収縮または伸長中にターボ機能は無効になる。力によって乗り越えることができる切り替え点を、通常の機能の角度または角度範囲とターボ機能の角度または角度範囲との間に設けることができる。
【0055】
図5に基づいて、ターボ機能の制御と過負荷保護について以下でより詳しく説明する。制御の目的で、次のパラメータが事前に定義されている。
- N0 = 回転速度の下限(ターボ機能なしの回転速度)
- Nmax = 回転速度の上限(ターボ機能付きの最大回転速度)
- N = 正確に測定されたシステムの現在の回転速度
- Na = メモリに保存されている最後に測定された回転速度
- Imax = 電動モータによって引き出される最大電流
- Tmax = 第1の温度プローブの領域の最高温度
まず、最初のステップS1で、最後に測定された回転速度Naが回転速度の下限N0に設定される。ステップS2において、現在の回転速度N、現在引き出されている電流I、および現在の温度が、第1の温度プローブ8の領域で測定される。検証ステップS3では、ターボ機能が作動しているかどうかを検証する。ターボ機能が作動していない場合、一定時間(ステップS8)後にパラメータN、I、およびTを再測定する(ステップS2)。
【0056】
ただし、ターボ機能が作動している場合、次のステップS4で、現在の回転速度NがNmax未満、測定電流IがImax未満、測定温度TがTmax未満であるかどうかを測定する。これらの条件が満たされている場合、次のステップS5で、測定された回転速度がNmaxを下回る定義された回転速度閾値よりも小さいかどうかを検証する。この場合、次のステップS6において、回転速度が一定量増加し、一定の待機時間(ステップS7)の後、N、IおよびTの測定が再度行われる(ステップS2)。
【0057】
ステップS4の条件が満たされない場合、ステップS9において、測定された回転速度NがN0+xよりも大きいかどうかを決定する。ここで、xは回転速度の大きさ(例えば、100)である。この場合、ステップS11において、最後に測定された回転速度を回転速度x(例えば、100)だけ減少させ、それをNaとしてメモリに記憶し、一定時間待機し(ステップS13)、その後再度測定を行う(ステップS2)。ステップ9の条件が満たされない場合、回転速度の下限N0が最後に測定された回転速度としてメモリに入力される。これにより、回転速度をこれ以上下げることはできない。この場合、ステップS12で、引き出し電流Iおよび/または測定された温度Tが高すぎるという警告メッセージが出される。
【0058】
制御工程の範囲内で、より高い周波数F2の第2の動作状態からより低い周波数F1の第1の動作状態への自動切り替えが行われる。この切り替えは、好ましくは、時間遅延tを考慮して、たとえばパラメータTmaxに達する前にターボモードをオフにすることによって行うことができる。
【0059】
図6に簡略化した形で示すように、MOSFETの電力損失によって生成される熱に関連する周囲温度は、周囲温度の関数として異なる値に達するため、周囲温度は電動モータの制御に含めることが好ましい。このように、例えば、周囲温度が30℃であるとすると、制御調整部7は、
図6から分かるように、周囲温度が10℃であるときよりもかなり早く介入しなければならない。切替時間は、シャットダウンプロセス後でも、システムが最高温度を超えることなく熱力学的慣性によりわずかに加熱できるように、時間遅延txを考慮して選択する必要がある。対応する時間遅延も
図6に示されている。
【0060】
図7は、本発明に係る作業工具1の表示装置10の一部を示している。表示装置10は、現在の出力を棒グラフのように示す複数のフィールドを有する出力表示装置10aを備える。照明および/または色で示されるバーに加えて、現在の出力値をパーセントで示す数値をバー表示のそれぞれの部分に表示できる。領域25は、例えば175バールの圧力に対応し、領域50は350バールの圧力に対応し、領域75は525バールの圧力に対応し、領域100は700バールの圧力に対応する。
【0061】
電動モータ3の制御の範囲内で、作業ステップ、例えば、切断がいつ停止されるべきかを作業者に示す機能も提供される。実用的には、これは、全負荷動作時に100%の出力を表示する出力表示によって行うことができ、この場合、一定の時間が経過すると、100%の表示が点滅し始める。これは、新しい作業サイクルを開始するための作業者への表示である。
【0062】
また、表示装置10には、ターボモードが作動しているか否かを示す動作状態表示10bを設けてもよい。追加的または代替的に、例えば英数字表示または棒グラフの形式の温度表示10cを、この目的のために提供してもよい。
【0063】
個々の特徴およびサブの特徴の組み合わせは、本発明に不可欠であると考えられ、本出願の開示された内容に含まれるべきであることをもう一度明確に指摘する。
【符号の説明】
【0064】
1 作業工具
2 油圧ポンプ
3 電動モータ
4 油圧シリンダ
5 ピストンロッド
6 制御弁
7 制御調整部
8 第1の温度プローブ
9 第2の温度プローブ
10 表示装置
10a 負荷表示
10b 動作状態表示
10c 温度表示
10d 表示装置
11 工具の半体
12 筐体
13 ON/OFFスイッチ
14 ディスプレイ
15 第1のハンドグリップ
16 第2のハンドグリップ
17 補償装置
18 充電式バッテリ
19 油圧タンク
20 マイクロコントローラ
21 周波数変換器
22 電流検出器
23a 制御線
23b 制御線
24a 第1の分岐点
24b 第2の分岐点
25 逆止弁
26 負荷保持要素
27a 安全弁
27b 安全弁
28 プリント回路基板
29 スターグリップ
30a 安全弁
30b 安全弁
31 制御線
32 制御線
33 タンクライン
A 引き出し電流
F1 周波数
F2 周波数
HD 高圧
LD 低圧
t 時間遅延
T 周囲温度
SW 消費電力閾値