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特許7175355ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用
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  • 特許-ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20221111BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221111BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021127006
(22)【出願日】2021-08-02
(62)【分割の表示】P 2019544835の分割
【原出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2021182554
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】201711321650.6
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520417045
【氏名又は名称】貝特瑞新材料集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BTR NEW MATERIAL GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7A, 7B, and 8, High-Tech Industrial Park, Xitian Community, Gongming Office, Guangming New District Shenzhen, Guangdong 518106 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲でん▼志強
(72)【発明者】
【氏名】▲ぱん▼春雷
(72)【発明者】
【氏名】任建国
(72)【発明者】
【氏名】黄友元
(72)【発明者】
【氏名】岳敏
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素系活性物質、導電材料および可撓性ポリマーを含み、
前記導電材料は、鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料とを含み、
前記鱗片状黒鉛は、前記ケイ素系活性物質の表面に密着され、
前記可撓性ポリマーは、前記ケイ素系活性物質および前記鱗片状黒鉛の表面に被覆され、
前記ナノカーボン系材料は、前記ケイ素系活性物質の表面の、前記鱗片状黒鉛に密着されていない領域を補填し、および/または、前記ケイ素系活性物質の表面の、前記可撓性ポリマーで被覆されていない領域を補填し、
前記ケイ素系活性物質は、Si、SiOx(0<x≦2)またはケイ素合金のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、ケイ素系負極材料。
【請求項2】
前記可撓性ポリマーは、天然の可撓性ポリマーおよび/または合成された可撓性ポリマーであり、および/または、
前記可撓性ポリマーは、ポリオレフィンおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、若しくはアルギン酸およびその誘導体のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせであり、および/または、
前記可撓性ポリマーの重量平均分子量は2000~1000000であり、および/または、
前記可撓性ポリマーは、熱架橋性官能基を含み、前記熱架橋性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、二重結合または三重結合のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項1に記載のケイ素負極材料。
【請求項3】
前記鱗片状黒鉛は、天然鱗片状黒鉛および/または人造鱗片状黒鉛であり、および/または、
前記ナノカーボン系材料は、導電性黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項1又は2に記載のケイ素負極材料。
【請求項4】
前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記可撓性ポリマーの質量百分率は0~10%(0を含まず)であり、および/または、
前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記鱗片状黒鉛の質量百分率は0~20%(0を含まず)であり、および/または、
前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記ナノカーボン系材料の質量百分率は0~5%(0を含まず)である、請求項1又は2に記載のケイ素負極材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のケイ素系負極材料の製造方法であって、
可撓性ポリマーを溶媒に溶解し、可撓性ポリマー溶液を取得する工程と、
撹拌の条件で、前記可撓性ポリマー溶液に鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料とを含む導電材料を加え、混合被覆液を取得する工程と、
前記混合被覆液に反溶媒を加え、撹拌し、過飽和化された混合被覆液を取得する工程と、
撹拌の条件で、前記過飽和化された混合被覆液にケイ素系活性物質を加え、撹拌して分離し、負極材料前駆体を取得する工程と、
前記負極材料前駆体を熱処理し、ケイ素系負極材料を取得する工程と、
を含む、ケイ素系負極材料の製造方法。
【請求項6】
前記可撓性ポリマーは、熱架橋性官能基を含み、前記熱架橋性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、二重結合若しくは三重結合のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、および/または、
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、ポリピロリドン、イソプロパノール、アセトン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、n-へキサンまたはハロゲン化炭化水素のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせであり、および/または、
前記反溶媒は、可撓性ポリマーの貧溶媒であり、および/または、
前記反溶媒は、メタノール、エタノール、ポリピロリドン、イソプロパノール、アセトン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、n-へキサン若しくはハロゲン化炭化水素から選ばれるいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせであり、および/または、
前記熱処理の温度は100~400℃であり、前記熱処理の時間は2~12hである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
熱架橋性官能基を含む可撓性ポリマーを溶媒に溶解し、25~100℃の条件で撹拌し、可撓性ポリマー溶液を取得する工程と、
撹拌の条件で、可撓性ポリマー溶液に鱗片状黒鉛およびナノカーボン系材料を添加し、2~4h撹拌し続け、混合被覆液を取得する工程と、
混合被覆液に反溶媒を加え、1~2h撹拌し、過飽和化された混合被覆液を取得する工程と、
撹拌の条件で、過飽和化された混合被覆液にケイ素系活性物質を加え、25~80℃で2~4h撹拌し、分離して負極材料前駆体を取得する工程と、
負極材料前駆体を150~250℃で2~12h熱処理し、ケイ素系負極材料を取得する工程と、
を含み、
前記反溶媒は、熱架橋性官能基を含む可撓性ポリマーの貧溶媒である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のケイ素系負極材料、または請求項に記載のケイ素系負極材料の製造方法で製造されたケイ素系負極材料を含む、負極。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のケイ素系負極材料、または請求項に記載のケイ素系負極材料の製造方法で製造されたケイ素系負極材料を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2018年11月29日に日本国特許庁に提出された、出願番号が特願2019-544835であり、発明の名称「ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用」の日本特許出願の分割出願である。
【0002】
本発明はリチウムイオン二次電池の分野に関し、ケイ素系負極材料、その製造方法および使用に関し、特に、ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池の大規模な応用分野への発展に伴い、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度、パワー密度等の性能指標を、更に向上させる必要がある。負極材料の面で、従来の黒鉛炭素負極材料の比容量は限られ(372mAh/g)、高エネルギー密度電池の要求を満たすことが困難であり、高比容量を有する負極材料は現在の研究の重点となる。ケイ素系材料は、4200mAh/gと高い理論的比容量を有するため、注目されている。しかし、深刻な体積効果および悪い導電性により、ケイ素負極材料は可逆容量が低く、サイクル安定性が悪くなる。上記ケイ素系材料の問題を解決するために、研究者らは、導電性重合被覆、炭素被覆、金属酸化物との複合、ナノ化および多孔化等のような大量の実験研究を行った。
【0004】
例えば、特許CN106229495Aは、導電性ポリマーで被覆されたケイ素系負極材料およびその製造方法を開示している。その技術的なポイントは、インサイチュ重合により、導電性ポリマー(ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール)をケイ素系材料に被覆し、アルギン酸ナトリウムを加えて安定性を向上させ、三次元網目構造を構築してケイ素材料の膨張を緩衝することであるが、該方法により被覆された導電性ポリマーは導電率が低く、しかも導電性能が不安定であり、脱ドープが起こりやすくて導電性を失い、材料のサイクル特性の低下を招き、また、使用されるインサイチュ重合の製造プロセスが複雑である。CN105186003Aは、高容量リチウムイオン二次電池負極材料の製造方法を開示し、ポリマー、導電剤および非炭素系負極材料を適当な溶媒に分散し、均一な乳液を形成した後、冷凍または噴霧乾燥を行い、均一な黒色の粉末材料を得て、真空で乾燥し、導電性ポリマーで被覆された高容量負極材料を得て、ポリマーを用いて非炭素系負極のサイクル中の体積変化を改善するが、該方法により製造された材料は、導電剤が活性材料の周囲に分散され、サイクル中に活性材料との連結が失われ、且つ、ポリマーの強度が低く、非炭素系負極材料の膨張を効果的に改善することができない。
【0005】
そのため、サイクル特性に優れ、体積膨張効果が低いケイ素負極材料、およびその製造方法の開発は、依然として所属分野の技術的課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に存在する上記した技術的課題に対して、本発明の目的は、ケイ素系負極材料、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池における使用を提供することであり、本発明のケイ素系負極材料は、優れた電気化学サイクルおよび膨張抑制性能を有し、リチウムイオン二次電池の耐用年数を延長することができる。本発明の製造方法は、プロセスが簡単で、効果的で、コストが低く、工業化を実現しやすくて生産プロセスが環境に優しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記出願の目的を実現するために、本発明は以下の技術案を採用する。
【0008】
手段1として、本発明は、ケイ素系活性物質と、前記ケイ素系活性物質の表面に被覆された、可撓性ポリマーおよび導電材料を含む複合層とを含み、前記導電材料は、鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料とを含むケイ素系負極材料を提供する。
【0009】
上記した方案において、複合層は、ケイ素系活性物質の表面に被覆され、鱗片状黒鉛は、ケイ素系活性物質の表面に密着し、高強度の可撓性ポリマーは、ケイ素系活性物質および鱗片状黒鉛の表面に被覆され、ナノカーボン系材料は、ケイ素系活性物質の表面の、密着されていない領域および被覆されていない領域を補填し、上記3種類の物質の協働作用は、ケイ素系材料の膨張をより効果的に抑制することができ、更に、被覆により得られたケイ素系負極材料は、導電率が高く、導電性が安定するため、本発明に係るケイ素系負極材料は、リチウムイオン二次電池に使用されることに非常に適し、優れたサイクル膨張性能を有する
【0010】
施可能な一形態において、前記ケイ素系活性物質の粒径は0.5μm~100μmであり、ケイ素系活性物質の粒径は、例えば、0.5μm、2μm、5μm、10μm、20μm、35μm、50μm、70μm、80μm、90μmまたは100μm等であってもよく、ここで限定されない。
【0011】
ケイ素系活性物質は、Si、SiO(0<x≦2)またはケイ素合金のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。しかし、上記列挙されたケイ素系活性物質に限定されず、炭素で被覆されたケイ素酸化物のような他の本分野でよく使用されるケイ素系活性物質も本発明に使用できる。
【0012】
実施可能な一形態において、前記複合層の厚さは10nm~100nmであり、複合層の厚さは、例えば、10nm、20nm、30nm、45nm、60nm、70nm、80nm、85nm、90nm、95nmまたは100nm等であってもよく、ここで限定されない。
【0013】
実施可能な一形態において、前記可撓性ポリマーは、天然の可撓性ポリマーおよび/または合成された可撓性ポリマーである。
【0014】
実施可能な一形態において、前記可撓性ポリマーは、ポリオレフィンおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、若しくはアルギン酸およびその誘導体のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせである。
【0015】
本発明に係る「天然の可撓性ポリマーおよび/または合成された可撓性ポリマー」とは、天然の可撓性ポリマーであってもよく、合成された可撓性ポリマーであってもよく、更に、天然の可撓性ポリマーと合成された可撓性ポリマーとの混合物であってもよいことを意味する。
【0016】
前記可撓性ポリマーの組み合わせの非限定的な代表例は、ポリオレフィンとポリビニルアルコールとの組み合わせ、ポリビニルアルコールとカルボキシメチルセルロースとの組み合わせ、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸との組み合わせ、ポリアミドとカルボキシメチルセルロースの誘導体との組み合わせ、ポリオレフィンとポリオレフィンの誘導体とポリアクリル酸との組み合わせ、ポリビニルアルコールとポリアミドの誘導体とアルギン酸との組み合わせ、ポリオレフィンとポリビニルアルコールとポリアクリル酸の誘導体とポリアミドとアルギン酸との組み合わせ等を有する。
【0017】
あるいは、前記可撓性ポリマーは、ポリオレフィンおよびその誘導体、またはポリオレフィンおよびその誘導体と、アルギン酸およびその誘導体との組み合わせである。
【0018】
あるいは、前記可撓性ポリマーの重量平均分子量は2000~1000000であり、例えば、2000、5000、10000、15000、20000、30000、40000、50000、60000、75000、100000、200000、300000、350000、400000、500000、600000、650000、700000、800000、900000または1000000等であってもよく、好ましくは、100000~500000である
【0019】
るいは、前記可撓性ポリマーに熱架橋性官能基(熱架橋可能官能基ともいう)が含まれ、前記熱架橋性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、二重結合または三重結合のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。熱架橋性官能基は、一定の温度に加熱された条件下で架橋反応が生じると理解される。
【0020】
あるいは、前記鱗片状黒鉛は天然鱗片状黒鉛および/または人造鱗片状黒鉛である。
【0021】
本発明に係る「天然鱗片状黒鉛および/または人造鱗片状黒鉛」とは、天然鱗片状黒鉛であってもよく、人造鱗片状黒鉛であってもよく、更に、天然鱗片状黒鉛と人造鱗片状黒鉛との混合物であってもよいことを意味する。
【0022】
あるいは、前記導電材料は、鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料との組み合わせである。導電材料がちょうど全てこれらの2種類の材料の混合物である場合、これらの2種類の物質をケイ素系複合材料と協働してケイ素系材料の膨張を抑制する作用をより良好に発揮させ、導電率および導電安定性を更に向上させることができる。
【0023】
あるいは、前記ナノカーボン系材料は、導電性黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む
【0024】
るいは、前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記可撓性ポリマーの質量百分率は0~10%(0を含まず)であり、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、3%、4%、5%、6.5%、8%、9%または10%等であり、好ましくは、3~7%である。
【0025】
あるいは、前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記鱗片状黒鉛の質量百分率は0~20%(0を含まず)であり、例えば、0.5%、1%、3%、3.5%、5%、6%、8%、10%、12%、13%、15%、16%、18%または20%等であり、好ましくは、5~10%である。
【0026】
あるいは、前記ケイ素系活性物質の総質量を100%として計算すると、前記ナノカーボン系材料の質量百分率は0~5%(0を含まず)であり、例えば、0.5%、1%、2%、2.5%、3%、4%または5%等であり、好ましくは、1~3%である
【0027】
として、本発明は、
可撓性ポリマーを溶媒に溶解し、可撓性ポリマー溶液を取得する工程と、
撹拌の条件で、前記可撓性ポリマー溶液に鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料とを含む導電材料を加え、混合被覆液を取得する工程と、
前記混合被覆液に反溶媒を加え、撹拌し、過飽和化された混合被覆液を取得する工程と、
撹拌の条件で、前記過飽和化された混合被覆液にケイ素系活性物質を加え、撹拌して分離し、負極材料前駆体を取得する工程と、
前記負極材料前駆体を熱処理し、ケイ素系負極材料を取得する工程と、
を含むケイ素系負極材料の製造方法を提供する。
【0028】
本発明の方法は、ケイ素系活性物質を、鱗片状黒鉛およびナノカーボン系材料が分散された可撓性ポリマーの過飽和溶液に分散することにより、過飽和溶液の特性を利用し、可撓性ポリマーを徐々にケイ素系活性物質の表面に被覆するとともに、可撓性ポリマーの引き取りおよび結束作用により、溶液に分散された鱗片状黒鉛および導電材料がケイ素系活性物質の表面に密着するように設けられる。
【0029】
本発明の方法により製造されたケイ素系負極材料において、鱗片状黒鉛の非常に良好な密着性およびナノカーボン系材料の空隙補填の作用を利用し、被覆された材料の構造を安定させ、導電率が高く、導電性が安定する。
【0030】
本発明に係る方法の好ましい技術案として、前記可撓性ポリマーは、熱架橋性官能基を含み、前記熱架橋性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、二重結合または三重結合のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。この好ましい技術案において、可撓性ポリマーは大量の架橋可能官能基を含み、後続の熱処理で架橋し、被覆層の強度を向上させ、材料のサイクル中の膨張を抑制する。
【0031】
あるいは、前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、ポリピロリドン、イソプロパノール、アセトン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、n-へキサンまたはハロゲン化炭化水素のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせである。
【0032】
あるいは、可撓性ポリマーを溶媒に溶解した後、25℃~100℃の条件で撹拌し、撹拌の温度は、例えば、25℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃または100℃等である。
【0033】
あるいは、前記導電材料は、鱗片状黒鉛とナノカーボン系材料との組み合わせである。導電材料がちょうど全てこの2種類の材料の混合物である場合、この2種類の物質をケイ素系複合材料と協働してケイ素系材料の膨張を抑制する作用をより良好に発揮させ、導電率および導電安定性を更に向上させることができる
【0034】
るいは、可撓性ポリマー溶液に鱗片状黒鉛およびナノカーボン系材料を含む導電材料を加えた後、2h~4h撹拌し続け、例えば、2h、2.5h、3h、3.5hまたは4h等である。
【0035】
あるいは、前記反溶媒は可撓性ポリマーの貧溶媒であり、メタノール、エタノール、ポリピロリドン、イソプロパノール、アセトン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、n-へキサンまたはハロゲン化炭化水素から選ばれるいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせである。
【0036】
あるいは、前記撹拌の時間は1h~2hであり、例えば、1h、1.2h、1.5h、1.6h、1.8hまたは2h等である。
【0037】
あるいは、過飽和化された混合被覆液にケイ素系活性物質を加えた後、25℃~80℃で2h~4h撹拌する。撹拌の温度は、例えば、25℃、30℃、40℃、45℃、50℃、60℃、70℃または80℃等であり、撹拌の時間は、例えば、2h、2.5h、3h、3.2h、3.5hまたは4h等である。
【0038】
あるいは、前記分離の方式は、常圧濾過、減圧濾過または遠心分離のいずれか1種を含むが、上記列挙された分離方式に限定されず、他の本分野でよく使用される同じ効果を達成可能な分離方式も本発明に適用できる。
【0039】
あるいは、前記熱処理の温度は100~400℃であり、例えば、100℃、125℃、150℃、170℃、200℃、220℃、240℃、260℃、300℃、350℃または400℃等であり、好ましくは、150~250℃である。
【0040】
あるいは、前記熱処理の時間は2~12hであり、例えば、2h、4h、5h、6.5h、8h、10h、11hまたは12h等である。
【0041】
本発明の方法において、負極材料前駆体は、鱗片状黒鉛、ナノカーボン系材料および可撓性ポリマーで共に被覆されたケイ素系材料であり、熱処理を経た後、可撓性ポリマーは架橋性基によって架橋が発生し、被覆層の強度を向上させ、材料のサイクル中の膨張を抑制する。
【0042】
本発明に係る方法の好ましい技術案として、前記方法は、
熱架橋性官能基を含む可撓性ポリマーを溶媒に溶解し、25~100℃の条件で撹拌し、可撓性ポリマー溶液を取得する工程と、
撹拌の条件で、可撓性ポリマー溶液に鱗片状黒鉛およびナノカーボン系材料を添加し、2~4h撹拌し続け、混合被覆液を取得する工程と、
混合被覆液に反溶媒を加え、1~2h撹拌し、過飽和化された混合被覆液を取得する工程と、
撹拌の条件で、過飽和化された混合被覆液にケイ素系活性物質を加え、25~80℃で2~4h撹拌し、分離して負極材料前駆体を取得する工程と、
負極材料前駆体を150~250℃で2~12h熱処理し、ケイ素系負極材料を取得する工程と、
を含み、
ここで、前記反溶媒は、熱架橋性官能基を含む可撓性ポリマーの貧溶媒である。
【0043】
手段として、本発明は、手段1に係るケイ素系負極材料を含む負極を提供する。
【0044】
手段として、本発明は、手段3に係る負極を含むリチウムイオン二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0045】
関連技術に比べ、本発明は以下のような有益な効果を有する。
【0046】
(1)本発明は、ポリマー過飽和溶液の特性を利用し、ポリマーが沈殿してケイ素系活性物質を被覆するとともに、ポリマーの引き取りおよび結束作用により、鱗片状黒鉛をケイ素系活性物質の表面に強固に密着させ、ナノカーボン系材料を空隙内に強固に補填させ、ケイ素系活性物質のサイクル膨張中に電気接続を維持し、ケイ素系活性物質の表面に完全に密着された鱗片状黒鉛と、ケイ素系活性物質の表面に被覆された高強度ポリマー被覆と、空隙に補填されたナノカーボン系材料との共同作用を結び付け、これによりケイ素系活性物質の膨張を効果的に抑制することができ、それと同時に、鱗片状黒鉛の密着およびナノカーボン系材料の空隙補填により、製造された被覆後のケイ素系負極材料は性能に優れ、リチウムイオン二次電池に使用されることに非常に適し、導電率が高く、導電性が安定し、鱗片状黒鉛の密着、可撓性ポリマーの被覆、およびナノカーボン系材料の補填の共同作用で、ケイ素系活性物質のサイクル膨張を抑制する性能を著しく向上させ、リチウムイオン二次電池の耐用年数を延長する。
【0047】
(2)本発明の製造方法は、原料が安価で、プロセスが簡単で、効果的で、条件が温和であり、設備への要求が高くなく、コストが低く、大規模な生産が容易である。それと同時に、製造プロセスにおいて、有毒有害な中間生成物の生成がなく、生産プロセスが環境に優しい
【図面の簡単な説明】
【0048】
本願の実施例又は従来技術の技術案をより明確に説明するために、以下に実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に紹介し、明らかに、以下に記載の図面は本願のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的な労力を要することなく、これらの図面に基づいて他の図面を取得することができる。
【0049】
図1】本発明の実施例3で得られたリチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を用いて製造された電池の50サイクルの容量維持率図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本願の技術案をよりよく理解するために、以下に図面を参照しながら本願の実施例について詳細に説明する
【0051】
発明の出願目的、技術案および技術的効果をより明確に説明するために、以下、具体的な実施例および図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0052】
実施例1
【0053】
本実施例は、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を提供し、前記ケイ素系負極材料は、以下のような方法製造により製造される。
【0054】
4gのポリアクリル酸を100gの蒸留水に溶解し、40℃の温度で十分に溶解した後、撹拌の条件で1gのカーボンナノファイバーおよび5gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、2時間撹拌した後、200gのエタノールを加え、0.5時間撹拌し続け、更に90gのSiO(x=1.0)を撹拌下で加え、60℃の温度で2時間撹拌した後、室温まで降温し、吸引濾過して材料を分離し、その後、180℃の乾燥機で4時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するポリアクリル酸、CSG-3およびカーボンナノファイバーで被覆されたSiO負極材料、すなわち、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0055】
実施例2
【0056】
本実施例は、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を提供し、前記ケイ素系負極材料は以下のような方法製造により製造される。
【0057】
2.5gのポリアクリル酸を100gの蒸留水に溶解し、40℃の温度で十分に溶解した後、撹拌の条件で0.5gのカーボンナノチューブおよび3gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、4時間撹拌した後、200gのエタノールを加え、0.5時間撹拌し続け、更に、95gのSiO/C(x=1.0)を撹拌下で加え、60℃の温度で2時間撹拌した後、室温まで降温し、吸引濾過して材料を分離し、その後、180℃の乾燥機で4時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するポリアクリル酸、CSG-3およびカーボンナノチューブで被覆されたSiO/C負極材料、すなわち、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0058】
実施例3
【0059】
本実施例は、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を提供し、前記ケイ素系負極材料は以下のような方法製造により製造される。
【0060】
2gのポリアクリル酸および1gのカルボキシメチルセルロースナトリウムを100gの蒸留水に溶解し、50℃の温度で十分に溶解した後、1gのグラフェンおよび3gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、4時間撹拌した後、200gのメタノールを加え、1時間撹拌し続け、更に、90gのSiO/C(x=1.0)を加え、50℃の温度で4時間撹拌した後、室温まで降温し、遠心分離して材料を分離し、その後、250℃の乾燥機に仕込んで4時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するポリアクリル酸-カルボキシメチルセルロースナトリウム、CSG-3およびグラフェンで被覆されたSiO/C負極材料、すなわち、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0061】
図1は、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を用いて製造された電池の50サイクルの容量維持率図であり、図から分かるように、電池の50サイクルの容量維持率は91.2%に達する。
【0062】
実施例4
【0063】
本実施例は、リチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を提供し、前記ケイ素系負極材料は以下のような方法製造により製造される。
【0064】
3gのポリビニルアルコールを100gの蒸留水に溶解し、90℃の温度で十分に溶解した後、撹拌の条件で1gのカーボンナノチューブおよび5gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、2.5時間撹拌した後、100gのアセトンを加え、2時間撹拌し続け、更に、100gのSiO/C(x=1.0)を撹拌下で加え、80℃の温度で2.5時間撹拌した後、室温まで降温し、吸引濾過して材料を分離し、その後、200℃の乾燥機に仕込んで6時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するリチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0065】
実施例5
【0066】
5gのアルギン酸を150gの蒸留水に溶解し、60℃の温度で十分に溶解した後、撹拌の条件で2gの導電性黒鉛および2gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、3時間撹拌した後、200gのエタノールを加え、1.5時間撹拌し続け、更に、100gのSiO(x=1.0)を撹拌下で加え、35℃の温度で4時間撹拌した後、室温まで降温し、吸引濾過して材料を分離し、その後、100℃の乾燥機に仕込んで12時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するリチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0067】
実施例6
【0068】
4gのポリアミドを80gのエタノールと20gのイソプロパノールとの混合溶液に溶解し、50℃の温度で十分に溶解した後、撹拌の条件で0.5gのカーボンナノファイバーおよび3gの鱗片状黒鉛CSG-3を加え、3.5時間撹拌した後、150gの石油エーテルを加え、1.5時間撹拌し続け、更に、100gのSiO/C(x=1.0)を撹拌下で加え、80℃の温度で2時間撹拌した後、室温まで降温し、吸引濾過して材料を分離し、その後、375℃の乾燥機に仕込んで2時間熱処理し、冷却後に取り出し、対応するリチウムイオン二次電池用のケイ素系負極材料を得た。
【0069】
比較例1
【0070】
比較例1は、SiO/C負極材料であり、ここで、x=1.0である。
【0071】
実施例1~6で製造された負極材料をリチウムイオン二次電池に適用し、番号はそれぞれSI-1、SI-2、SI-3、SI-4、SI-5およびSI-6である。対照群として、比較例1のSiO/C(x=1.0)を用いて負極材料としてリチウムイオン二次電池を製造し、番号はRefである。
【0072】
上記実施例1~6で製造された負極材料および対照群のSiO/C(x=1.0)を、それぞれカルボキシメチルセルロースナトリウム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、導電性黒鉛(KS-6)およびカーボンブラック(SP)と、92:2:2:2:2の割合でスラリーを作製し、銅箔に均一にコーティングし、乾燥して負極極板を製造し、アルゴン雰囲気のグローブボックス内でボタン型電池を組み立て、使用されるセパレータはポリプロピレン微多孔質膜であり、使用される電解液は1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(溶媒はエチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートと、ジメチルカーボネートとの混合液)であり、使用される対極は金属リチウムシートである。
【0073】
上記4組の電池に対して50サイクルの測定を行い、電圧区間は0.005V~1.5Vであり、電流密度は50mA/gである。サイクル測定の後、容量維持率を計算し、リチウムイオン二次電池を解体して負極極板の厚さを測定する。
【0074】
ここで、50サイクルの容量維持率=50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量*100%であり、結果を表1に示す。負極極板の厚さの50サイクルの膨張率=(50サイクル目後の厚さ-充電されていない極板の厚さ)/充電されていない極板の厚さ*100%であり、結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の測定結果から分かるように、本発明のリチウムイオン二次電池用のケイ素系材料を用いて負極活性材料としての電池は、50サイクルの容量維持率および極板の膨張率はいずれも著しく改善され、本発明に係るリチウムイオン二次電池用のケイ素系材料は、電気化学サイクルにおいて極板の膨張および活性材料の剥離を効果的に抑制できるため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を著しく向上させることができることが示された。
【0077】
本明細書で説明された実施例が、本発明を解釈するためのものであり、言及された具体的な物質、配合比、および反応条件は、本発明で言及された物質、配合比、および反応条件の具体的な例示に過ぎず、本発明を更に限定するものではなく、すなわち、本発明が必ずしも上記詳細な方法に依存しなければ実施できないわけではないことを意味することを、出願人より声明する
図1