(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】皮膚接着性医療器具用緩衝接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20221111BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20221111BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20221111BHJP
C09J 123/22 20060101ALI20221111BHJP
C09J 133/02 20060101ALI20221111BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20221111BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20221111BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20221111BHJP
A61F 13/02 20060101ALI20221111BHJP
A61L 15/20 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J153/02
C09J11/08
C09J123/22
C09J133/02
C09J7/30
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L15/24
A61F13/02 310J
A61L15/20 100
(21)【出願番号】P 2021147388
(22)【出願日】2021-09-10
(62)【分割の表示】P 2019168112の分割
【原出願日】2014-08-21
【審査請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2014-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591000414
【氏名又は名称】ホリスター・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HOLLISTER INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】テイラー、マイケル・ジェラード
(72)【発明者】
【氏名】ムラハタ、リチャード・イワオ
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/130566(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/095578(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/118173(WO,A1)
【文献】特開2013-034868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
A61L 15/20
A61L 15/24
A61L 15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚接着性医療器具用接着剤組成物であって、
1000~8000ダルトンの分子量を有する液体ポリイソブチレン(PIB)と、
pH緩衝作用及び流体吸収作用の両方を提供し且つ非中和高分子量ポリマー酸及び部分的中和高分子量ポリマー酸を含む高分子量ポリマー緩衝剤組成物と
を含み、
前記液体ポリイソブチレン(PIB)は前記接着剤組成物の5重量%~7重量%含まれる、皮膚接着性医療器具用接着剤組成物。
【請求項2】
前記非中和高分子量ポリマー酸及び前記部分的中和高分子量ポリマー酸は、それぞれ独立して、ポリアクリル酸、ポリ(2-アルキルアクリル酸)、アクリル酸モノマーと2-アルキルアクリル酸モノマーとのコポリマー、アクリル酸モノマーと2-アルキルアクリル酸モノマーとマレイン酸とのコポリマー、及び遊離カルボン酸基を含む側鎖で置換されたオレフィン系ポリマーからなる群から選択され、アルキルは炭素原子数1~5個の長さであり且つ直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーをさらに含む請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
綿繊維、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維からなる群から選択される繊維をさらに含む請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記高分子量ポリマー緩衝剤組成物は、非中和高分子量ポリアクリル酸及び50%~100%未満の中和度を有する部分的中和高分子量ポリアクリル酸を含む請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記部分的中和高分子量ポリアクリル酸の中和度は、75%である請求項5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
可撓性外層と、前記可撓性外層の一方の面に塗布された接着剤組成物とを含む、創傷被覆材であって、
前記接着剤組成物が、1000~8000ダルトンの分子量を有する液体ポリイソブチレン(PIB)と、pH緩衝作用及び流体吸収作用の両方を提供し且つ非中和高分子量ポリマー酸及び部分的中和高分子量ポリマー酸を含む高分子量ポリマー緩衝剤組成物とを含み、
前記液体ポリイソブチレン(PIB)は前記接着剤組成物の5重量%~7重量%含まれる、創傷被覆材。
【請求項8】
接着剤組成物を含む、オストミー皮膚バリアであって、
前記接着剤組成物が、1000~8000ダルトンの分子量を有する液体ポリイソブチレン(PIB)と、pH緩衝作用及び流体吸収作用の両方を提供し且つ非中和高分子量ポリマー酸及び部分的中和高分子量ポリマー酸を含む高分子量ポリマー緩衝剤組成物とを含み、
前記液体ポリイソブチレン(PIB)は前記接着剤組成物の5重量%~7重量%含まれる、オストミー皮膚バリア。
【請求項9】
接着剤組成物を含む、オストミーバリアリングであって、
前記接着剤組成物が、1000~8000ダルトンの分子量を有する液体ポリイソブチレン(PIB)と、pH緩衝作用及び流体吸収作用の両方を提供し且つ非中和高分子量ポリマー酸及び部分的中和高分子量ポリマー酸を含む高分子量ポリマー緩衝剤組成物とを含み、
前記液体ポリイソブチレン(PIB)は前記接着剤組成物の5重量%~7重量%含まれる、オストミーバリアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、使用者の皮膚表面に接着固定することを目的とした、オストミー製品、創傷被覆材、その他の医療器具などの、医療用被覆材及び皮膚貼着部材のための接着剤組成物の技術分野に関する。本開示は特に、高分子量緩衝剤を含むとともに、流体を吸収でき且つ通常の皮膚pH値に維持することができる接着剤組成物と、そのような組成物を製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの医療用途においては、創傷被覆材、又はオストミー皮膚バリア若しくはバリアリングの場合のように、製品は皮膚に直接接着される。そのような製品は所定の位置に保持されるよう、皮膚にしっかりと貼着されなければならず、また、汗、傷からの滲出液、流動性糞便物質など、その下に、又はその周辺に生じる流体はいかなるものであっても吸収しなければならない。また、製品は、使用中、完全な構造が保持されなければならない。
【0003】
創傷被覆材は一般に治癒を促進するいくつかの機能を有している。これらの機能には、傷からの滲出液の吸収、最適な治癒環境を作り、また微生物活性を低下させるためのpHの調節、及び傷の感染からの保護が含まれる。そのような創傷被覆材の多くは自己接着性を有し、装着者の皮膚の創傷周囲に通常接着する接着層を含む。創傷被覆材下の皮膚にしばしば炎症が起きることが知られている。
【0004】
既知の創傷被覆材はいくつかの個々の成分を使用することによって前述した機能性を得ている。例えば、既知の被覆材は、創傷滲出液を吸収するため、親水コロイド、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ペクチン、又はゼラチンをよく使用している。親水コロイドには、独立して、pHを調節することができるものもあるが、それらによって提供し得るpHの緩衝作用の程度は、被覆材において利用できる親水コロイドの量によって限られ、次には、被覆材の所望の流体処理性に応じて変わる。さらに、親水コロイド単独の緩衝効果は最善とは言えない。
【0005】
また、適切な吸収、pHの制御及び構造の完全性を同時に獲得することは困難である場合が多い。pHの制御には、創傷被覆材によるある程度の吸収が求められ、創傷被覆材においては一般に望ましいことである。しかしながら、流体の過剰な量の吸収は、創傷被覆材の望ましくない量の膨潤を引き起こし、膨張及び接着力の低下の可能性につながる。場合によっては、過剰な量の流体の吸収によって接着剤組成物の分解が起こり得る。それも非常に望ましくないことである。
【0006】
親水コロイドを含む接着剤組成物は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13及び特許文献14に開示されているようによく知られている。これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。親水コロイドは、通常、親水コロイド皮膚バリア又は親水コロイド創傷被覆材と一般に呼ばれているものに使用される。そのような皮膚バリア及び創傷被覆材は、通常、連続相として水不溶性の感圧接着剤を含み、液体を吸収する膨潤性非連続相として、接着剤全体に分散された1種以上の親水コロイド粒子を有する。
【0007】
市販の皮膚バリア及び創傷被覆材の水不溶性接着剤相は、通常、ポリイソブチレン(PIB)、若しくはスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)などのブロックコポリマー、又はこれらの材料のブレンド物から構成される。表面の粘着性は粘着付与剤成分によって改質し得る。
【0008】
恒久的又は一時的オストミー(コロストミー、イレオストミーなど)を有する患者は、排泄された糞便物質及び尿を入れるパウチを必要とする。パウチは、通常、パウチを皮膚に接着させ、パウチに入らないオストミーから流れる液体、又はストーマ周囲の皮膚で生じた流体を吸収する接着性皮膚バリアにより、ストーマの周囲の皮膚に取り付けられる。皮膚バリアは通常3~5日毎に交換されるが、最大1週間、そのまま保持されることもある。バリアの使用中、ストーマ周囲の皮膚は糞便物質との長期にわたる接触により炎症を起こすおそれがある。時間の経過とともに、炎症は酷くなり得る。オストミー器具は、使用者の皮膚に対して器具を密封して漏れを防止するため、及び/又はオストミーから流出する流体をさらに吸収するため、ストーマに近接した領域に配置されるバリアリングも含み得る。
【0009】
用途によっては、オストミー皮膚バリアに、固定をさらに強化するため、外周に接着性テープ縁部を有するものがある。前記縁部の接着剤は、一般に、アクリル系接着剤である。本明細書で使用する場合、「皮膚バリア」という用語は、接着性テープ縁部を有するか又は有しない皮膚バリアを含むものとする。
【0010】
傷からの滲出液及び糞便物質はいずれも、タンパク質分解酵素及び脂肪分解酵素を含む。これらの酵素は、密閉された湿潤環境に含まれると、角質層を分解し、傷又はストーマの周囲の皮膚に観察される炎症の一因となる。さらに、創傷被覆材及びオストミー皮膚バリアは、通常、定期的に除去及び再適用されるため、それらの下の皮膚の完全性が損なわれ、正常な皮膚よりさらに炎症が生じやすい。
【0011】
正常な皮膚は、皮膚の表面のpHを通常約4.0~5.5(弱酸性)に保持する、いわゆる「酸外套」を有する。この範囲のpHは、有益な微生物の増殖を促進し、有害な微生物の増殖を抑え、皮膚の完全性を維持するのを助ける。このpH値では、創傷滲出液又は糞便物質からのタンパク質分解酵素及び脂肪分解酵素の活性(及び、従って、それによって引き起こされる損傷)が増大することはない。しかしながら、創傷滲出液及びストーマからの流体は、通常、6.0~8.0の範囲のpHを有する。このような正常な皮膚のpHを超えるpHの上昇は、酵素の活性を大きく増大させ、従って、炎症を引き起こす能力を増大させる。
【0012】
創傷被覆材と同様、適切な吸収性、pH制御及び構造の完全性を同時に獲得することは、オストミー皮膚バリア及びバリアリングでは多くの場合、難しい。pHの制御には、皮膚バリア又はバリアリングによりある程度の吸収が生じることが要求され、一般に望ましい。しかしながら、過剰な量の流体が吸収されると、皮膚バリア又はバリアリングには望ましくない量の膨潤が起こり、膨張及び接着力の低下の可能性につながり得る。場合によっては、過剰な量の流体が吸収されることによって、接着剤組成物の分解が引き起こされるおそれがある。それも非常に望ましくないことである。
【0013】
ペクチン及びCMCのような親水コロイドを含む現在の皮膚バリアは、pH緩衝能のみが限られている。それらは、水又は食塩水に晒されると、pH値を約4.0~5.5の所望の範囲に調節することができる。しかしながら、ストーマ産生物又は創傷滲出液などの生理液も緩衝され、pH値は通常中性に近くなることに注意しなければならない。現在の皮膚バリアがそのような流体に晒されると、生理液本来の強力な緩衝能が、皮膚バリアの弱い緩衝能を圧倒する。その結果、皮膚バリア表面のpHが上昇し、皮膚バリアに接する生理液のpHに近付く。従って、高いpH緩衝能を有する皮膚バリアを提供することが望ましいであろう。また、最適な吸収特性を有する皮膚バリアを提供することが望ましいであろう。
【0014】
同様に、ペクチン及びCMCのような親水コロイドを含む現在のバリアリングは、限られたpH緩衝能のみを有する。上記と同じ理由で、最適な吸収特性を有するバリアリングを提供することが望ましいであろう。
【0015】
オストミーバリアリングにおけるさらなる懸念は、使用中のリングの構造の完全性の維持である。使用中、バリアリングは、オストミーから流出する流体、又はストーマ周辺の皮膚で生じる流体の作用により浸食される。皮膚バリア(バリアリングを含む)は最大1週間その場に保持されるため、最適な吸収特性も維持しながら、予想される使用期間中、構造完全性を維持することが重要である。
【0016】
上記を考慮すると、使用者の皮膚に本質的に炎症を起こさせることなく、創傷被覆材、ストーマ皮膚バリアなどの製品下の皮膚のpHを約4.0~約5.5に維持する好適な緩衝剤を含み、且つ最適な流体吸収性を有する接着剤組成物を有することが望ましいであろう。また、使用時、(上記特性に加え、さらに)構造完全性を維持するバリアリングに使用することができる組成物を有することも望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許第5,571,080号明細書
【文献】米国特許第3,339,546号明細書
【文献】米国特許第4,192,785号明細書
【文献】米国特許第4,296,745号明細書
【文献】米国特許第4,367,732号明細書
【文献】米国特許第4,813,942号明細書
【文献】米国特許第4,231,369号明細書
【文献】米国特許第4,551,490号明細書
【文献】米国特許第4,296,745号明細書
【文献】米国特許第4,793,337号明細書
【文献】米国特許第4,738,257号明細書
【文献】米国特許第4,867,748号明細書
【文献】米国特許第5,059,169号明細書
【文献】米国特許第7,767,291号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示の一態様においては、最適な流体吸収能及びpH緩衝能を有する高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物が提供される。
【0019】
本開示の他の態様においては、最適な流体吸収能及びpH緩衝能を有する高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含む創傷被覆材が提供される。
【0020】
本開示の他の態様においては、最適な流体吸収能及びpH緩衝能を有する高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含むオストミー皮膚バリアが提供される。
【0021】
本開示の他の態様においては、最適な流体吸収能及びpH緩衝能を有する高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含み、且つ、使用時、浸食に対する耐性を有し、それ故、最適な構造完全性保持能を有するオストミーバリアリングが提供される。
【0022】
本開示の他の態様においては、創傷被覆材、オストミー皮膚バリア又はオストミーバリアリングなどの医療用皮膚貼着部材を製造するために、高分子量ポリマー緩衝剤組成物を使用する方法が提供される。
【0023】
本開示の一実施形態は、可撓性外層と、その一方の面に塗布された高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物とを含み、前記接着剤は装着者の皮膚に起きる炎症を最小にするpH緩衝性及び最適な流体吸収性を提供する、創傷被覆材である。
【0024】
本開示の他の実施形態は、その一方の面に塗布された高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物を含み、前記接着剤組成物は装着者の皮膚に起きる炎症を最小にするpH緩衝性及び最適な流体吸収性を提供する、オストミー皮膚バリアである。
【0025】
本開示の他の実施形態は、高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物を含む流体浸食に耐性を有するオストミーバリアリングであって、前記接着剤組成物は、装着者の皮膚に起きる炎症を最小にするpH緩衝性及び最適な流体吸収性と、その構造完全性に対する最適な保持性とを提供する、オストミーバリアリングである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】バリア一式のAqua Keep濃度に対する吸収の依存性を示す。
【
図2】バリア一式のCarbopol濃度に対する吸収の依存性を示す。
【
図3】Carbopol 980 NF濃度とバリア表面pHとの関係を示す。
【
図4】Aqua Keep 10SH-PF濃度とバリア表面pHとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の一実施形態は、汗、創傷滲出液及び糞便物質などの流体を吸収し、pHを調節し、且つ酵素活性を低下させる高分子量ポリマー緩衝剤を含む接着剤組成物を対象とする。
【0028】
本開示の一実施形態は、特に、酸性サイトに富む1種以上の高分子量ポリマーの使用を意図する。ポリ酸官能基を有するポリマーは、それらのプロトン化形態及び中和形態の混合物を使用することによって緩衝剤として機能し得る。部分的に中和され得るペンダントカルボキシル基を有する高分子量ポリマーは、本開示の使用に適している。好適なポリマーとしては、例えば、アルキル鎖が炭素原子数1~5個の長さで、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい、ポリアクリル酸及びポリ(2-アルキルアクリル酸)が挙げられる。ポリメタクリル酸は、好ましいポリ(2-アルキルアクリル酸)である。他の好適なポリマーは、アクリル酸モノマーと2-アルキルアクリル酸モノマーの任意のコポリマー、前記モノマーとマレイン酸とのコポリマー、例えば、二酸、三酸又はポリ酸でエステル化されたポリビニルアルコール(例えば、ポリビニルアルコールサクシネート)などの遊離カルボン酸基を含む側鎖で置換されたオレフィン系ポリマーなどである。
【0029】
当業者であれば分かるように、本開示の緩衝接着剤組成物は、実施例1に記載のリン酸緩衝液チャレンジテストで、試験製品のpHを約6.0未満に保持することができる、部分的に中和可能なペンダントカルボキシル基を有する1種以上の任意の高分子量ポリマーを使用することができる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態は、酸性サイトに富む、少なくとも2つの形態、1つは中和されていない形態で、他は部分的に中和されている形態の高分子量ポリマーを含む緩衝接着剤組成物である。驚いたことに、本発明者らは、酸性サイトに富む、同種又は異種の高分子量ポリマーの非中和形態及び部分的中和形態の組合せが、患者の皮膚に装着する医療部材、例えば創傷被覆材、オストミー皮膚バリア又はオストミーバリアリングに用いる接着剤組成物の吸収性及びpH制御の程度、非常に望ましい品質を独立して改質することを見出した。
【0031】
非中和ポリ酸と部分的に中和したポリ酸との割合と、部分的に中和したポリ酸の中和の程度には相関がある。部分的に中和したポリ酸の中和の程度は、約50%~約100%が好都合であり、約75%が好ましい。いかなる程度の中和がされようと、非中和ポリ酸と部分的に中和したポリ酸との割合は、創傷被覆材下又はオストミー皮膚バリア下で所望の4.0~約5.5のpH範囲になるように調整すべきである。接着剤の処方技術分野において通常の技術を有する者であれば、所望のpH範囲にするため、部分的に中和したポリ酸の中和の所与の程度に対し、非中和ポリ酸と部分的に中和したポリ酸との適切な割合を容易に選択することができる。
【0032】
本開示の接着剤組成物は、約8700ダルトンというPIBのエンタングルメント分子量未満であるような分子量を有する液体PIBなどの粘着付与化合物を含んでもよい。
【0033】
好ましい実施形態において、約75%が中和されている部分的中和架橋ポリ酸では、高分子量ポリマー酸の非中和形態及び部分的中和形態は、約4:1~約1:4、好ましくは約3:1~約1:1の割合で含まれ得る。高分子量ポリマー酸の2つの形態は合計で、接着剤組成物全体の約10重量%~約25重量%、好ましくは接着剤組成物全体の約15重量%~約20重量%含まれ得る。
【0034】
本開示の実施形態における使用に特に適したポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)及びポリメタクリル酸(PMA)が挙げられる。PAA及びPMAはいずれも、例えば、Sigma-Aldrich Co.,から、種々の形態、例えば、粉末及び溶液で、且つある範囲の分子量のものが入手可能である。アクリル酸の誘導体のなかで、PAAが、化合物1グラム当たりのカルボン酸サイトの密度が最も高く、従って、化合物1グラム当たりの緩衝の程度が最も高いことから好ましい。本明細書で使用されるとき、「高分子量」PAAは、約60,000ダルトン超で、数百万ダルトンに及ぶことを意味する。この用語は、上記のPMA、及びその他のポリマーについても同様の意味を有する。
【0035】
当業者であれば、特定のポリマーの中和の適切な度合いと使用とは容易に決定することができる。PAAの部分的中和は、PAA(適切なら、水を加える)を化学量論的に適切な量の強塩基(例えば、NaOH)と、所望の中和の度合いに達するまで混合することによって行うことができる。他のポリマーも同様に処理することができる。PAAなどの部分的に中和したポリ酸も商業的に入手可能である。
【0036】
PAA及び関連するポリマーは、架橋及び非架橋の両方の形態で存在し、架橋度は変化させることができる。本開示で使用されるポリマーは架橋されていることが好ましい。
【0037】
上述したように、高分子量ポリマー、例えば、PAA及びPMAは、効率的なpH緩衝作用と、汗、創傷滲出液又は糞便物質などの流体に対する効率的な吸収性の両方を提供する。より具体的に言えば、それらのポリマーは、接着剤マトリクスに分散されると、ペクチン及びCMCのような親水コロイドに似た作用をする。すなわち、それらは吸収し、膨張し、装着者の皮膚に粘膜付着する粘性ゲルを形成する。分かるであろうが、高分子量ポリマーは、創傷被覆材又は皮膚バリアの適用性及び所望の流体取扱い能に応じて、唯一の親水コロイド成分であってよく、また、他の実施形態では、他の親水コロイドと組み合わされてもよい。
【0038】
特にオストミーバリアに有用な、本開示の一実施形態においては、高分子量架橋PAA及び部分的に中和された高分子量架橋PAAが、ポリイソブチレン、及びスチレン-イソプレン-スチレンコポリマー若しくはポリマー繊維(又は、その両方)と組み合わされる。そのような一実施形態においては、接着剤組成物は、架橋高分子量PAAと、部分的に中和された架橋高分子量PAAと、ポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーとを含む。そのような他の一実施形態においては、接着剤組成物は、架橋高分子量PAAと、部分的に中和された架橋高分子量PAAと、ポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーと、綿、又は好ましくはポリオレフィン、例えば、ポリエチレン若しくはポリプロピレンの繊維とを含む。
【0039】
本開示の組成物の接着剤成分は、繊維材料に強い親和性を示す、感圧接着性を有する任意の材料であり得る(繊維が使用される場合)。それは単一の感圧接着剤であっても、2種以上の感圧接着剤の併用であってもよい。本開示に有用な接着剤としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、スチレンブロックコポリマー、ポリビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリレート(アクリレート及びメタクリレートの両方を含む)、ポリオレフィン及びシリコーンが挙げられる。本開示のために選択される材料として特に好ましいと考えられている接着剤は、ポリオレフィン、すなわち、ポリイソブチレン(PIB)であるが、類似の特性を有する他の感圧接着性材料も好適であると考えられる。
【0040】
接着剤組成物における繊維は、この技術分野で知られる任意の繊維材料であってよいが、粘着性接着剤成分と混和可能であるものが好ましく、粘着性接着剤成分に強い親和性を有するとさらに好ましい。ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィンはPIBとの混和性が高く、接着剤媒体によって容易に濡れることが分かった。いずれも非極性飽和炭化水素である。
【0041】
この実施形態においては、PIBが、比較的高分子量のPIB(約40,000~60,000ダルトンの範囲の分子量)として含まれることが好ましい。例えば、オストミー用途の皮膚バリアは、通常、60,000ダルトンの分子量のPIBを50重量%~65重量%の範囲で、又は40,000ダルトンの分子量のPIBを40重量%~約55重量%の範囲で含むであろう。さらに、40,000ダルトンの分子量のPIB及び60,000ダルトンの分子量のPIBの組合せ、例えば、40,000ダルトンの分子量のPIB32.5重量%及び60,000ダルトンの分子量のPIB32.5重量%の組合せも使用され得る。
【0042】
本開示の緩衝接着剤組成物にいかなる材料が選択されようとも、組成物は少なくとも最小限の吸収性を有することが非常に望ましい。本組成物の緩衝能は、それらの吸収能とある程度関連している。吸収が起きないなら、高分子量ポリマー緩衝剤は、創傷滲出液又は糞便物質と接触せず、従って効果はないであろう。吸収能の低い組成物も本開示に含まれるが、オストミーバリアに特に有用な本開示の組成物は、実施例1の試験で測定される吸収能が少なくとも約0.15g/cm2であることが好ましいであろう。さらに、緩衝接着剤組成物の吸収能は0.60g/cm2を越えないことが好ましいであろう。下の記載から明らかなように、緩衝接着剤組成物の吸収能は、部分的に中和された高分子量ポリマーと非中和高分子量ポリマーとの比を変えることによって調節することができるため、当業者であれば、緩衝接着剤組成物の吸収能を所望のレベルに容易に調節することができる。
【0043】
オストミーバリアに特に有用な本発明の好ましい代表的な緩衝接着剤組成物は、以下を含む:1)約55.5重量%のPIB、約14.5重量%のSIS、約5%のポリエチレン繊維、約15重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約10重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸、並びに2)約66重量%のPIB、約6.5重量%のSIS、約4%のポリエチレン繊維、約14.5重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約9重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸。上記組成物においては、PIBは平均分子量40,000の粘度を有することが好ましく、また、部分的中和架橋ポリアクリル酸は約75%が中和されていることが好ましい。
【0044】
オストミーバリアリングに特に有用な本開示の実施形態においては、高分子量架橋PAA、及び部分的に中和された高分子量架橋PAAが、高分子量ポリイソブチレン(PIB)、液体PIB及びポリマー繊維と組み合わされる。
【0045】
接着剤組成物における繊維は、当該技術分野で知られる任意の繊維材料であってよいが、粘着性接着剤成分と混和可能であるものが好ましく、粘着性接着剤成分に強い親和性を有するとさらに好ましい。ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィンはPIBとの混和性が高く、接着剤媒体によって容易に濡れることが分かった。いずれも非極性飽和炭化水素である。
【0046】
本実施形態においては、高分子量PIB、液体PIB、ポリマー繊維、高分子量架橋PAA及び部分的に中和された高分子量架橋PAAの相対的重量パーセントは、組成物の流体吸収性と構造完全性を最適化するように選択すべきである。一般的に言えば、組成物の流体吸収能と構造完全性保持能とは反比例している。すなわち、組成物の吸収性が高ければ高いほど、構造完全性の保持能は低下し、他の因子は全て一定である。驚いたことに、本発明者らは、優れた吸収能と構造完全性を同時に示すことができ、オストミーバリアリングに特に適している組成物を見出した。バリアリング用組成物は、実施例3の試験で測定された少なくとも約0.30g/cm2の吸収能と、実施例3の24時間耐浸食性試験で測定された少なくとも50%の組成物保持能を有することが好ましい。
【0047】
本実施形態においては、高分子量PIBは約40,000~60,000ダルトンの分子量を有し、且つ液体PIBはPIBが室温で液体であるような分子量、通常、約1000~約8000ダルトンの範囲の分子量を有することが好ましい。高分子量PIBは、約40,000~60,000ダルトンの分子量を有する単一のPIBを含んでもよく、また、その範囲の分子量を有するPIBの混合物、例えば、分子量40,000ダルトンのPIB及び分子量60,000ダルトンのPIBなどを含んでもよい。液体PIBは約2800~3000ダルトンの数平均分子量を有することが好ましい。
【0048】
オストミーリングに特に使用される本発明の緩衝接着剤組成物は、約55~75重量%の高分子量PIB、約2.5~18重量%の液体PIB、約2~8重量%のポリマー繊維、約8~15重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約4~10重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸を含み得る(但し、繊維含有量が3重量%未満の場合、架橋ポリアクリル酸の量は少なくとも約9.5%で、液体PIBの量は少なくとも約5重量%である)。好ましいそのような接着剤組成物は、約60~75重量%の高分子量PIB、約2.5~7.5重量%の液体PIB、約2~8重量%のポリマー繊維、約8~15重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約4~10重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸を含み得る(但し、繊維含有量が3重量%未満の場合、架橋ポリアクリル酸の量は少なくとも約9.5%で、液体PIBの量は少なくとも約5重量%である)。他の好ましいそのような接着剤組成物は、約62.5~72.5重量%の高分子量PIB、約5.5~7.5重量%の液体PIB、約5~8重量%のポリマー繊維、約10~14重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約4~7重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸を含み得る。さらに他の好ましいそのような接着剤組成物は、約65~70重量%の高分子量PIB、約6.5~7.5重量%の液体PIB、約6.5~7.5重量%のポリマー繊維、約13~14重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約4.5~5.5重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸を含み得る。他の好ましいそのような接着剤組成物は、約67重量%の高分子量PIB、約7重量%の液体PIB、約7重量%のポリマー繊維、約13.8重量%の架橋ポリアクリル酸、及び約5.2重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸を含み得る。上記組成物において、部分的中和架橋ポリアクリル酸は約75%が中和されていることが好ましい。
【0049】
次の実施例は、本開示の代表的な実施形態の製造及び試験を記載する。
【0050】
試験試料:バリア材料を0.020インチの厚みに熱圧縮することによって、試験試料を製造し、除去可能な放出ライナーと可撓性を有する裏打ちフィルムとの間に積層した。
【0051】
材料
高分子量ポリイソブチレン(PIB)
JXエネルギー(株)製の粘度平均分子量40,000ダルトンのNippon Himol 4H
【0052】
液体ポリイソブチレン(PIB)
Texas Petrochemicalsにより提供された数平均分子量2800ダルトンのPolyisobutylene TPC 1285
【0053】
スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)
Kraton Polymers製のKratonTM D-1161P
【0054】
ポリオレフィン繊維
MiniFIBERS,Inc.より供給されたPolyethylene Short Stuff Synthetic Pulp E380F
【0055】
架橋ポリアクリル酸
The Lubrizol Corporationより提供されたCarbopol(登録商標)980 NF
【0056】
部分的中和架橋ポリアクリル酸
Sanyo Corporation of Americaより提供されたAqua KeepTM 10 SH-PF
【0057】
pH緩衝剤チャレンジ:ストック緩衝液(リン酸塩中100mM、0.9%NaCl、pH7.4)を調製した。ストックバッファを適切な量の0.9%NaClで希釈することによって、低リン酸塩濃度バッファを調製した。バリアの表面10cm2を緩衝剤チャレンジ溶液10mLに晒した。
【0058】
実施例1-接着バリア配合物
高分子量PIB、ポリエチレン繊維及び部分的中和ポリアクリル酸をベースとした一連の配合物(2つの異なる分子量及び2つの異なる中和度を有する)を調製した。Brabender Type REE6ミキサーを用いて85℃で組成物を調製した。85%のSIS及び15%のPIBを含む「マスターバッチ」を別に調製した。所要量のマスターバッチをミキサーに添加し、36rpmで4分間混合した。所要量の半分の高分子量PIBを添加し、4分間、混合を続けた。所要量の乾燥粉末(PE繊維、Carbopol 980 NF及びAqua Keep 10 SH-PF)を予めブレンドし、その後、ミキサーに4分間かけて添加した。高分子量PIB成分の残りの半分を添加し、10分間混合を続けた。混合チャンバーを密封し、真空にして、15分間混合を続けた。真空を解放し、混合物をミキサーから取り出し、試験を実施する前に、室内条件で平衡化した。下記の表1は、この方法で調製した組成物を表示した成分の重量パーセントによって、これらの組成物の試験結果と共に示す。
【0059】
流体吸収及びpH:流体吸収は、EN規格13726-1:2002(Test methods for primary wound dressings-Part 1:Aspects of absorbency,Section 3.3)の手順に従って測定した。水和流体は生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)であった。吸収された流体の質量を、20mLの生理食塩水に晒した10cm2の表面領域の試料における重量増加により測定した。試料は、炉(37℃、相対湿度15%)内に所定時間保持した。表面pHの測定は、流体吸収後の試料について、較正済みのpHメーター及びフラットpHプローブ(Ross(登録商標)model 8135BN)を使用して行った。
【0060】
【0061】
使用者の要望に応えるため、皮膚バリアの流体吸収特性及びpH制御特性を調節することが必要になることがある。現在の処方では2種類のポリアクリレート成分、非中和架橋高分子量ポリアクリル酸のCarbopol 980 NF及び、部分的中和架橋高分子量ポリアクリル酸のAqua Keep 10 SH-PFの成分濃度は、主に、流体吸収特性とpH特性とに関与している。吸収特性及びpH特性を独立して調節することができれば、異なる組み合わせの特性を有する様々なバリアの処方が可能になるであろう。バリアの全ての特性が全成分の相対量に影響されることを認めるものの、驚くべきことに、部分的中和架橋高分子量ポリアクリル酸成分は吸収特性には大きく影響するが、pH特性には最小限の影響を及ぼすだけであり、一方、非中和架橋高分子量ポリアクリル酸成分はpH特性には大きく影響するが、吸収特性には最小限の影響を及ぼすだけであることを見出した。これらの効果は、製品の性能特性とこれらの2種の成分の成分濃度との間の相関を調べることによって示される。これを、2種の成分の成分濃度に対する24時間の流体吸収結果をプロットすることによってグラフで示す。
【0062】
図1は、バリア一式のAqua Keep濃度に対する吸収の依存性を示している。直線はデータに合った線形回帰である。R
2値0.8757は、流体吸収の測定値の観察された変化の87%超が、Aqua Keep濃度の変化と相関していることを意味する。対照的に、
図2に示すように、流体吸収とCarbopol濃度とは実質的に相関しない(R
2=0.0141)。
【0063】
同様に、
図3及び
図4は、バリア表面のpHはCarbopol 980 NF濃度と強く相関し(
図3、R
2=0.7773)、一方、Aqua Keep 10SH-PF濃度とは実質的な相関がない(
図4、R
2=0.0596)ことを示している。
【0064】
上記のような高分子量ポリマーは、皮膚への刺激が少なく、強化されたpH緩衝能及び吸収能を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、クエン酸などの低分子量の酸は、本開示における緩衝系には不適当であることを見出した。そのような低分子量の酸は緩衝剤として認められるほどに機能するが、低分子量酸緩衝系は、本明細書で想定するような用途では、使用者の皮膚に容認し難い炎症を引き起こす。高分子量ポリマー緩衝剤に代えて、クエン酸/クエン酸塩緩衝剤を用いた以外は本開示のものと類似している緩衝接着剤組成物が、ヒト被験者の接着被覆材に使用された場合、被験者の被覆材の下に点状潰瘍を生じた。試験結果を以下に示す。このような接着剤組成物は、医療用途には不適当であろう。この結果は、驚くべきことで、且つ予想外でもあった。クエン酸緩衝系の評価は、以下の実施例2に記載されている。
【0065】
実施例2-刺激性試験
1968年に、Lanmanらは、数日間の繰返し暴露により低刺激性化粧品間を区別する方法が生みだされることを報告した。短い期間(例えば、21日など)を含む変更を加えて、この方法は、軽度の皮膚の炎症を引き起こす製品の可能性を決定する標準試験として維持されてきた。この方法論は、閉塞した状態での21日間の連続塗布を含む。不織布パッド上に塗布した1%のラウリル硫酸ナトリウム(SLS)溶液を陽性対照として用い、同様にして塗布した防腐剤の入っていない0.9%の塩化ナトリウムを陰性対照として用いた。この標準試験を、21日間の連続塗布を通じて、皮膚に直接塗布する様々なバリア処方の炎症を引き起こす可能性を評価するために用いた。バリア材料は自己接着性であるため、無菌生理食塩水で湿らせた不織布パッドの使用、並びに緩衝剤を用いて構築されるバリア及び緩衝剤なしで構築されるバリアの使用により、皮膚からバリアを分離したとき、観察される炎症と、直接塗布により生じる炎症の結果とを比較することにより、機械的特性による炎症(皮膚剥離)の影響と化学的刺激による炎症の影響とを部分的に区別することが可能であった。
【0066】
30人分の実験成果を確実にするために、十分な数の一般のボランティアの被験者を募集した。各被験者を全ての試験物質に晒し、その部位を標準的なラテン方格法により無作為化した。評価者には、材料が何かを知らせなかった。材料を、21日間連続して、又は中止のスコアに到達するまで、同じ部位に再塗布した。刺激データを順位和解析を用いて処理した。ランクの合計は1~10の範囲で、数が大きいほど刺激がより大きいことを示す。
【0067】
刺激性試験で使用した処方を以下に記載する。
【0068】
クエン酸塩バリア
Oppanol(登録商標)B12 PIB(BASF) 44.0%
TPC Group TPC1285 液体PIB 7.0%
ポリエチレン繊維 3.5%
ペクチン 8.5%
ナトリウムカーボキシメチルセルロース 17.0%
無水クエン酸一ナトリウム 16.0%
クエン酸三ナトリウム二水和物 4.0%
【0069】
PAAバリア
Oppanol(登録商標)B12 PIB(BASF) 55.0%
TPC Group TPC1285 液体PIB 8.7%
ポリエチレン繊維 4.4%
部分的中和PAA 31.9%
【0070】
この標準的な方法論によれば、20%のクエン酸塩バリアを含む処方の刺激性(平均ランク9.59)は、陽性対照(平均ランク9.27)と類似していた。クエン酸塩を含むバリア処方のみが、SLSに晒されて一般に観察される、より一般的な刺激とは異なり、限局性糜爛(点状病変)を伴う炎症を引き起こした。PAA(平均ランク6.70)を用いて処方されたバリアは、陽性対照又はクエン酸塩緩衝剤処方よりも、刺激性が著しく低かった。PAAバリア処方に繰返し晒されることによって観察されるわずかな炎症は、繰り返される機械的外傷、すなわちテープ剥離のより均一な「グレージング(glazing)」性であった。これらのグループの両方が陰性対照(平均ランク2.68)とは異なった。ワセリン中に適用されるPAA緩衝剤(ワセリン中、31.8%のPAA)は、PAAに繰返し晒されることによる本来の化学的刺激を示さず、非刺激性であった。この観察は、PAAが配合されたバリアで観察されるわずかな刺激が、繰り返される機械的な損傷に起因するという解釈と矛盾しない。
【0071】
実施例3
例示配合物-バリアリング
高分子量PIB、液体PIB、ポリエチレン繊維、架橋ポリアクリル酸及び部分的中和架橋ポリアクリル酸をベースとした一連の配合物を調製した。循環油加熱ジャケットを備えたAMK Type VI U 20 Lミキサーを用い、混合ブレードの回転速度32rpmで例示配合物を調製した。各例の全バッチサイズは12.9Kgであった。
段階的な混合計画は以下の通りであった。
1.ミキサーを110°Fに加熱する。
2.Nippon 4H PIBを添加し、10分間混合する。
3.Aqua Keep 10 SH-PFを添加し、10分間混合する。
4.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。Carbopol 980 NFの1/2を添加し、10分間混合する。
5.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。Carbopol 980 NFの1/2を添加し、10分間混合する。
6.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。PE繊維を1/4”篩に通し、20分間かけてゆっくり添加する。
7.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。8分間混合する。
8.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。液体PIBを添加し、8分間混合する。
9.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。16分間混合する。
10.ミキサーを止め、ミキサーの側壁を削り取る。真空にし、32分間混合する。
真空を解放し、混合物をミキサーから取り出し、試験を実施する前に、室内条件で平衡化した。下記の表2は、この方法で調製した組成物を表示した成分の重量パーセントによって、これらの組成物の試験結果と共に示す。
【0072】
流体吸収及びpH:流体吸収は、EN規格13726-1:2002(Test methods for primary wound dressings-Part 1:Aspects of absorbency,Section 3.3)の手順に従って測定した。水和流体は生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)であった。吸収された流体の質量を、20mLの生理食塩水に晒した10cm2の表面領域の試料における重量増加により測定した。試料は、炉(37℃、相対湿度15%)内に所定時間保持した。表面pHの測定は、流体吸収後の試料について、較正済みのpHメーター及びフラットpHプローブ(Ross(登録商標)model 8135BN)を使用して行った。
【0073】
耐浸食性:
バリアリング試料(直径0.5インチの円形)の重さを量った(W1)。生理食塩水(0.9%NaCl、37℃)をバリアリング試料の表面に、1分当たり4ミリリットルの速度で所定時間連続的に滴下した。生理食塩水に晒した後、試料を乾燥させ(65℃、最小48時間)、乾燥した試料の重さを量った(W2)。耐浸食値(残存率)を、残存率=100×W2/W1で算出した。このインビトロでの耐浸食性試験の好ましい結果が好ましい臨床結果と相関していることが示された。Canadian Association for Enterostomal Therapy Annual Meeting,Ottawa,May 25-28,2006;Poster:“Laboratory Measurements and User Appreciation of a Novel Ostomy Barrier Ring with Improved Wear Characteristics”,M.G.Taylor,H.Geiger,M.R.Reimer,and R.I.Murahata。
【0074】
【0075】
実施例4-刺激性試験
30人分の実験成果を確実にするために、十分な数の一般のボランティアの被験者を募集した。被験者は刺激性の評価のために21日間の暴露期間に従った。試験品及び対照を皮膚と同じ側に21日間連続してパッチ貼付を繰り返した。1回の貼付当たり24時間曝露した。全てのパッチが被験者から取り除かれた後、約15分で採点を行った。採点は全て完了した。評価者には、材料が何かを知らせなかった。
【0076】
試験材料は、67重量%の高分子量PIB(Nippon Himol 4H)、約7重量%の液体PIB(TPC 1285)、約7重量%のポリエチレン繊維、約13.8重量%の架橋ポリアクリル酸(Carbopol 980 NF)及び約5.2重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸(Aqua Keep 10 SH-PF)を含む、本開示の代表的な実施形態のものであった。
【0077】
試験材料を被験者の皮膚に2通りの方法(皮膚に直接、又は緩衝酵素溶液で予め濡らしたWebrilパッドで覆う)で貼付した。酵素溶液は、リパーゼ及びプロテアーゼを含む50mmリン酸塩、0.9%NaCl pH7.4であった。対照は、生理食塩水(陰性)、SLS(陽性)及び活性酵素pH7.4(陽性)であった。試験材料の2通りの方法と3つの対照とのために各被験者の背中の5ヶ所の部位(約2cm×2cm)を使用した。
【0078】
皮膚に直接塗布したとき、又は緩衝酵素溶液で濡らしたパッドで覆ったときの試験材料の刺激性は最小であった。特に、試験材料は、緩衝酵素溶液の刺激性を、生理食塩水と同等のレベルまで、軽減することができた。陽性対照のみ(SLS、及び緩衝酵素溶液pH7.4のみ)が重度の刺激性を引き起こした。
【0079】
この研究は、試験材料が皮膚活性酵素に対する緩衝能を提供することができ、一方、化学的活性及び毎日の繰り返される剥離に対しては実質的に非刺激性であることを示した。
【0080】
本開示の実施形態は、創傷被覆材の接着剤層に組み込まれる高分子量ポリマー緩衝剤組成物の使用を意図している。創傷被覆材は、フィルムなどの可撓性の外層を含むことが好ましい。親水コロイド層は、外層の内側にあり、本発明の高分子量ポリマー緩衝剤組成物を、任意選択的にCMC又はペクチンのような他の親水コロイドと共に含む。理解されるように、親水コロイド層は、創傷床と直接接触する。
【0081】
一実施形態においては、創傷被覆材は、創傷床における被覆成分の潜在的な崩壊を避けるために水和されたとき、非常に高い凝集力を有する接着剤成分を含む。理解されるように、本発明の緩衝剤組成物を組み込んだ非接着性創傷被覆材も可能であり得る。
【0082】
自己接着性創傷被覆材に適した処方は、例えば、創傷滲出液を処理するのに有用で、高い流体吸収性及び緩衝能と共に、比較的高い含有量のSISによる高い凝集力を有する表1の処方8である。自己接着性創傷被覆材の製造にこの製剤を使用する方法は当業者には明らかであろう。
【0083】
本開示の他の実施形態は、オストミー皮膚バリアに組み込まれる高分子量緩衝剤組成物の使用を意図している。皮膚バリアは、オストミーパウチに恒久的に取り付けられてもよいし(「1ステップ」又はワンピース構成)、フランジクリップシステムを用いて別々に取り付けられてもよい(ツーピース構成)。本開示のこの実施形態は、ストーマ周囲のpHを約4.0~約5.5の正常な皮膚のpH近傍に維持し、それ故、ストーマ周囲の領域の炎症の発生を減少、又は取り除くであろう。
【0084】
オストミー皮膚バリアのための有用な例示配合物としては、ポリエチレン繊維又はSISを含むものが挙げられる。例えば、表1の処方13は、望ましい流体処理能と優れたpH制御能を兼ね備えている。オストミー皮膚バリアの製造にこの製剤を使用する方法は当業者には明らかであろう。
【0085】
オストミーバリアリングのための有用な例示配合物としては、表2に記載のものが挙げられる。例えば、表2の処方34は、望ましい流体処理能と優れたpH制御能及び構造完全性とを兼ね備えている。オストミーバリアリングの製造にこの製剤を使用する方法は当業者には明らかであろう。
【0086】
また、本開示には、上述した高分子量ポリマー緩衝剤組成物の使用方法が含まれる。この組成物は、意図する使用者の皮膚へ皮膚貼着部材を安全に取り付けるために効果的な一定量の組成物を、該部材の側面又は表面に施すことにより、任意の皮膚貼着部材の製造に使用してもよい。
【0087】
好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、種々の明らかな変更がなされ得ること、及び、等価物が本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、それらの要素と置換することができることは、当業者には理解されるであろう。従って、本発明が開示した特定の実施形態に限定されるものではないことが意図されている。