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特許7175365超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20220101AFI20221111BHJP
【FI】
G01F1/66 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021163641
(22)【出願日】2021-10-04
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】514046862
【氏名又は名称】桓達科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 俊儒
(72)【発明者】
【氏名】張 國育
(72)【発明者】
【氏名】蕭 金椿
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224685(JP,A)
【文献】特開2020-034367(JP,A)
【文献】特開2005-201836(JP,A)
【文献】米国特許第05831175(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法であって、
前記超音波流量計は、第1音響信号を送信し、第2音響信号を受信する第1の音波送受信ユニットと、前記第2音響信号を送信し、前記第1音響信号を受信する第2の音波送受信ユニットと、を備え、
前記方法は、
(a)前記第1音響信号に対応する第1波形および前記第2音響信号に対応する第2波形を受信するステップと、
(b)前記第1波形および前記第2波形の複数のピーク値をサンプリングするステップと、
(c)これらのピーク値に基づき、サーチ範囲を設定するステップと、
(d)前記サーチ範囲内の最初の前記ピーク値である第1ピーク値を特性ピーク値として設定するステップと、
(e)前記特性ピーク値後のゼロクロス点の前とゼロ点との間の第1時間およびゼロ点とゼロクロス点の後との間の第2時間を記録し、かつ前記第1時間および前記第2時間の平均時間を計算するステップと、
(f)前記平均時間に基づいて総飛行時間を計算するステップと、を含む判断方法。
【請求項2】
ステップ(b)の前に、さらに、
(f)標準差下限閾値と標準差上限閾値とを設定するステップを含み、
ステップ(d)は、さらに、
(d1)第1ピーク値が前記標準差上限閾値より大きい場合、前記特性ピーク値として設定するステップと、
(d2)第1ピーク値が前記標準差下限閾値より小さい場合、前記特性ピーク値として排除するステップと、
(d3)続くピーク値が前記標準差上限閾値より大きいと判断される場合、前記特性ピーク値として設定するステップと、を含む、
請求項1に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項3】
ステップ(b)の前に、さらに、
(f)標準差下限閾値と標準差上限閾値とを設定するステップを含み、
ステップ(d)は、さらに、
(d1)第1ピーク値が前記標準差上限閾値より大きい場合、前記特性ピーク値として設定するステップと、
(d2)第1ピーク値が前記標準差下限閾値より小さい場合、前記特性ピーク値として排除するステップと、
(d3)続くピーク値が前記標準差下限閾値以上であり、かつ前記標準差上限閾値以下であると判断される場合、後のピーク値が前のピーク値よりも大きいか否かを判断し、もし大きい場合は前記特性ピーク値として設定するステップと、を含む、
請求項1に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項4】
ステップ(d3)は、
(d4)後のピーク値が前のピーク値より大きく、かつ後のピーク値が前のピーク値よりある変化量分大きい場合、前記特性ピーク値として設定するステップを含む、
請求項3に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項5】
前記変化量は任意の隣接する2つのピーク値の最大傾斜変化量の割合である、
請求項4に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項6】
さらに、
(e1)前記第1音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値とを取得するステップと、
(e2)前記第2音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値とを取得するステップと、
(e3)これら第1ピーク値とこれら第2ピーク値とを互いに比較し、前記第1音響信号と前記第2音響信号とが揃っているか否かを判断するステップと、
(e4)もし前記第1音響信号と前記第2音響信号とが揃っていない場合、互いに対応する前記第1ピーク値と前記第2ピーク値とを置き換えて、前記第1音響信号と前記第2音響信号とを揃うようにするステップと、を含む、
請求項4に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項7】
ステップ(e4)は、
前記第1音響信号が前記第2音響信号よりも前にある場合、前記第1音響信号の前記第2ピーク値を前記第1音響信号の前記第1ピーク値に置き換え、
前記第2音響信号が前記第1音響信号よりも前にある場合、前記第2音響信号の前記第2ピーク値を前記第2音響信号の前記第1ピーク値に置き換える、ことを含む、
請求項6に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項8】
前記標準差上限閾値は信号雑音比が10に等しく、前記標準差下限閾値は信号雑音比が5に等しい、
請求項2または3に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【請求項9】
ステップ(b)において、前記第1音響信号の周波数および前記第2音響信号の周波数付近以外のピーク値は削除される、
請求項1に記載の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計の音響信号の判断方法に関し、特に、超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流量計は、工業測定における重要な機器の一つであり、各産業の応用や科学研究において、密接な関連を有し、測定精度の要求もますます高くなっている。流量計は、各分野に広く応用され、半導体の製造過程のように、塗布設備、エッチング設備、洗浄設備、乾燥設備の製造過程でみな流量計の測定技術が使用されている。
【0003】
超音波技術は、従来はよく軍事や医療等の用途に使用されていたが、近年では多くの産業で応用されるようになっている。超音波流量計は、比較的最近出現した測定機器であるが、測定対象と非接触式であるため、流体に抵抗が生じず、センサの寿命が長く、汚染しない等の特性によって、近年はより多くの産業に注目され、使用されてきている。
【0004】
超音波流量計の測定方式は、超音波の伝播時間差演算法を用いて管路内の流速を測定した後、流速により流量を換算するものである。超音波と流体とが同じ方向に移動する場合、流速が速いほど伝播の時間差は大きくなる。また、流体の状態が超音波の進む速度を変えるため、前後の検知器で得られた時間差によって流速および流量を概算することができる。
【0005】
しかしながら、対応する前後の検知器が受信した音波(超音波)の波形が対応して一致しない場合、すなわち前の検知器と後の検知器とによって得られた音波特性時間基準波が一致しない場合、流速および流量の予測には極めて大きな誤差が生じ、精密測定の役目を果たすことができない。
【0006】
このため、どのように超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法を設計し、音波に対して前(予備)処理および音響信号の判断を行って、超音波流量計の精密測定を実現することは、本発明者が研究を行う大きな課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の問題を解決できる、超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を実現するために、本発明が提案する超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法では、前記超音波流量計は、第1音響信号を送信し、第2音響信号を受信する第1音波送受信ユニットと、第2音響信号を送信し、第1音響信号を受信する第2音波送受信ユニットと、を備えている。前記方法は、(a)第1音響信号に対応する第1波形および第2音響信号に対応する第2波形を受信するステップと、(b)第1波形および第2波形の複数のピーク値をサンプリングするステップと、(c)これらのピーク値に基づき、サーチ範囲を設定するステップと、(d)サーチ範囲内の最初の前記ピーク値である第1ピーク値を特性ピーク値として設定するステップと、(e)特性ピーク値後のゼロクロス点の前とゼロ点との間の第1時間およびゼロ点とゼロクロス点の後との間の第2時間を記録し、かつ第1時間および第2時間の平均時間を計算するステップと、(f)平均時間に基づいて総飛行時間を計算するステップと、を含む。
【0009】
一実施例において、ステップ(b)の前にさらに以下のステップを含む。(f)標準差下限閾値と標準差上限閾値とを設定するステップ。ステップ(d)はさらに以下のステップを含む。(d1)第1ピーク値が標準差上限閾値より大きい場合、特性ピーク値として設定するステップと、(d2)第1ピーク値が標準差下限閾値より小さい場合、特性ピーク値として排除するステップと、(d3)続くピーク値が標準差上限閾値より大きいと判断される場合、特性ピーク値として設定するステップ。
【0010】
一実施例において、ステップ(b)の前にさらに以下のステップを含む。(f)標準差下限閾値と標準差上限閾値とを設定するステップ。ステップ(d)はさらに以下のステップを含む。(d1)第1ピーク値が標準差上限閾値より大きい場合、特性ピーク値として設定するステップと、(d2)第1ピーク値が標準差下限閾値より小さい場合、特性ピーク値として排除するステップと、(d3)続くピーク値が標準差下限閾値以上であり、かつ標準差上限閾値以下であると判断される場合、後のピーク値が前のピーク値よりも大きいか否かを判断し、もし大きい場合は特性ピーク値として設定するステップ。
【0011】
一実施例において、ステップ(d3)は以下のステップを含む。(d4)後のピーク値が前のピーク値より大きく、かつ後のピーク値が前のピーク値よりある変化量分大きい場合、特性ピーク値として設定するステップ。
【0012】
一実施例において、変化量は任意の隣接する2つのピーク値の最大傾斜変化量の割合である。
【0013】
一実施例において、特性時間基準波の判断方法はさらに以下のステップを含む。(e1)第1音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値を取得するステップと、(e2)第2音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値とを取得するステップと、(e3)これら第1ピーク値とこれら第2ピーク値とを互いに比較し、第1音響信号と第2音響信号とが揃っているか否かを判断するステップと、(e4)もし第1音響信号と第2音響信号とが揃っていない場合、互いに対応する第1ピーク値と第2ピーク値とを置き換えて、第1音響信号と第2音響信号とを揃うようにするステップ。
【0014】
一実施例において、ステップ(e4)は以下を含む。第1音響信号が第2音響信号よりも前にある場合、第1音響信号の第2ピーク値を第1音響信号の第1ピーク値に置き換え、第2音響信号が第1音響信号よりも前にある場合、第2音響信号の第2ピーク値を第2音響信号の第1ピーク値に置き換える。
【0015】
一実施例において、標準差上限閾値は信号雑音比が10に等しく、標準差下限閾値は信号雑音比が5に等しい。
【0016】
一実施例において、第1音響信号の周波数および第2音響信号の周波数付近以外のピーク値は削除される。
【0017】
本発明が所定の目的を達成するために採用する技術、手段、効果をより一層明確に理解できるよう、以下に本発明の詳細な説明と図面を提供する。これにより本発明の目的、特徴、特性はより一層深く、かつ、具体的に理解できるようになるが、図面はあくまでも参考と説明のためであって、本発明を限定するものではないと理解されるべきである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流量の計算(予測)を実現することができる。また、超音波流量計の測定結果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の超音波流量計の操作概略図である。
図2】本発明の超音波流量計の音響信号の波形概略図である。
図3】従来技術の超音波流量計の流量計算の概略図である。
図4】本発明の音波送受信ユニットが受信した音響信号の波形概略図である。
図5】本発明の音響信号の特性時間基準波の判断に対して最適化を行った波形概略図である。
図6】本発明の音響信号の特性時間基準波の判断に対して別の最適化を行った波形概略図である。
図7】本発明の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の技術内容および詳細な説明について、以下、図面と合わせて説明する。
【0021】
図1に示すように、図1は本発明の超音波流量計の操作概略図で縦断面を示す。本発明の超音波流量計100は、第1音波送受信ユニット11と第2音波送受信ユニット12とを備えている。本実施例において、第1音波送受信ユニット11と第2音波送受信ユニット12とは、流通管路の外面の相対する位置に対となって設置されている。ただし、2つの送受信ユニットの対となった設置は、図1に示すものに限定されない。すなわち、他の実施例において、第1音波送受信ユニット11と第2音波送受信ユニット12とは、流通管路の外面の同一線上の位置に設置してもよい。第1音波送受信ユニット11は第1音響信号S1を送信し、第2音響信号S2を受信するものであり、第2音波送受信ユニット12は第2音響信号S2を送信し、第1音響信号S1を受信するものである。このうち、第1音響信号S1および第2音響信号S2は、超音波信号(ultrasonic signal)である。
【0022】
第1音波送受信ユニット11は、流通管路内の流体の流動方向に対して斜め方向に超音波信号を伝送し、かつ第2音波送受信ユニット12により受信するが、このとき、第1音波送受信ユニット11および第2音波送受信ユニット12の送受信を切り換え、第2音波送受信ユニット12により流通管路内の流体の反流動方向に対して斜め方向に超音波信号を伝送し、かつ第1音波送受信ユニット11により受信すると、超音波信号の流体内の伝達時間差から流量を測定できるようになる。詳細は後述する。
【0023】
図2に示すように、図2は本発明の超音波流量計の音響信号の波形概略図である。音響信号の波形は第1音波送受信ユニット11が伝送し、第2音波送受信ユニット12が受信する第1音響信号S1と、第2音波送受信ユニット12が伝送し第1音波送受信ユニット11が受信する第2音響信号S2とを含んでいる。2つの音響信号の間には時間差が存在するが、時間偏移の設定により2つの音響信号を、頭を揃えて比較することで、音響信号の特性時間基準波位置を正確に判断できるようになる。
【0024】
図3に示すように、図3は従来技術の超音波流量計の流量計算の概略図である。これらのうち、
【数1】
【0025】
ただし、Mは音波経路、Dは管路の内径、θは超音波の入射角、Cは音の媒体内での速度、Vは流体の平均速度(流速)、Tupは上流の所要時間、Tdownは下流の所要時間、Δは2つの音波送受信ユニットの時間差である。したがって、式(1)~式(4)に基づき、流通管路内の流量を(予測)計算することができる。
【0026】
本発明の主な技術的特徴は、音波送受信ユニットが受信した音響信号(例えば第2音波送受信ユニット12が受信した第1音響信号S1と、第1音波送受信ユニット11が受信した第2音響信号S2と)に対して前(予備)処理および音響信号の判断を行うことにある。
【0027】
図4に示すように、図4は音波送受信ユニットが受信した音響信号の波形概略図である。超音波流量計の音響信号の特性時間基準波を正確に判断(探知)する(すなわち流量計算における音波の1番目である初期波として用いる)ため、本発明の技術手段は以下のように説明される。
【0028】
理想的な超音波信号は完全な包絡形態である。ただし測定の位置や測定の条件などの要素により、超音波信号はそのような完全な包絡形態を表せない。したがって、本発明が提案する音響信号の特性時間基準波の判断方法は、主に以下の幾つかの重要なステップを含むことができる。
【0029】
ステップ1:音波が受信されるタイミングを設定する。例を挙げて説明すると、第1音波送受信ユニット11から発した第1音響信号S1が第2音波送受信ユニット12に届く時間には遅延が生じる。したがって、第1音響信号S1が第2音波送受信ユニット12に近づいたときに、例えば音波の速度、媒体の種類、・・・等の要素に基づき、音波が受信されるタイミングをどのように設定すれば、第2音波送受信ユニット12の受信器をオン(有効)にして、所望の音響信号を受信し始めるようにするかは、例えば図4に示す時間t1の箇所である。
【0030】
ステップ2:ノイズの標準差を計算する。音波を送信する周波数は既知のもの(例えば1MH)であるため、受信する音響信号の周波数に基づいてノイズか否かを判断し、ノイズ(大きさ)の標準差をさらに計算することができる。したがって、合理的なノイズの大きさの標準差に基づき、後に判断する閾値の大きさを動態的に設計することができる。
【0031】
ステップ3:音波のピーク値を構築する。受信した音波のピーク値(バレー値を含む)をサンプリングすることにより、当該音波のピーク値、すなわち音波の波形特性を取得(構築)する。実際は、音波を送信する周波数は既知のものであるため、二次フィルタリング方式により正確な波形に属さない可能性のある正しくはないノイズまたはグリッチ(glitching)を除去し、所望の音響信号として見なすことができ、すなわち所望の周波数上のピーク値だけを残すことができる。
【0032】
ステップ4:サーチウィンドウを構築する。音響信号と音波のノイズおよびサンプリングするピーク値とを決定すると、予測された特性時間基準波位置に近づく前にサーチウィンドウ(search window)を開くことができる。構築されたサーチウィンドウにより、サーチウィンドウ内のデータだけを計算でき、計算時間と計算するデータ量とを節約することができる。例を挙げて説明すると、通常、取得(サンプリング)するデータは4000件余りであるが、4000件余りのデータ全てを計算する場合、データ量の計算に負担が生じる。サーチウィンドウの範囲について言えば、特性時間基準波データをカバーできることを原則として設計を行う。例えば図4に示す時間t2においてサーチウィンドウを開き、時間t3においてサーチウィンドウを終了する。
【0033】
ステップ5:サーチウィンドウ内の第1ピーク値を取得する。サーチウィンドウとサンプリングされる複数のピーク値とに基づき、サーチウィンドウ内における第1ピーク値を取得することができる。例えば図4に示す時間t2における当該ピーク値である。また、サーチウィンドウ内の第1ピーク値に基づいて音波の特性時間基準波であるか否かを判断し、もし特性時間基準波でなければ、次のピーク値を判断する。ただし、特性時間基準波であるか否かを判断する方式は以下のとおりである。
【0034】
(1)信号雑音比(SNR)が5より小さいかで判断する。もしピーク値がSNR=5より小さい場合、当該ピーク値は特性時間基準波ではないと直接判断する。
【0035】
(2)信号雑音比(SNR)が10より大きいかで判断する。もしピーク値がSNR=10より大きい場合、当該ピーク値は特性時間基準波であると直接判断する。図4に示す時間t4における当該ピーク値はSNR=10より大きいため、当該ピーク値は特性時間基準波であると判断される。
【0036】
(3)もし信号雑音比(SNR)が5と10との間にある場合、さらなる判断を行い、ピーク値が特性時間基準波であるか否かを決定する。詳細な説明は後述する。
【0037】
ただし、信号雑音比の値は前述の数値(SNR=5、SNR=10)に限られるものではなく、あくまでもこれら2つの数値の大きさの関係によりこれらピーク値が特性時間基準波であるか否かを直接判断すること、または、2つの数値の間にある場合はより細かな判断を行うということを説明するものである。
【0038】
ステップ6:ゼロクロス点時間を計算する。ピーク値の信号雑音比が10より大きく特性時間基準波であると判断された後(例えば図4の時間t4)、ゼロクロス点の前とゼロ点との間の時間差と、ゼロ点とゼロクロス点の後tpとの間の時間差とにより算術平均を行って計算し、求められた時間差により音波の波形が有する偏移(offset)によって生じる誤差を解消することができる。
【0039】
ステップ7:総飛行時間(TOF、time of flight)を計算する。平均時間に基づいて総飛行時間を計算し、流量の計算(予測)を実現する。
【0040】
特性時間基準波を判断する方式のうち、(3)において、もし信号雑音比が5と10との間にある場合は、比較的説明する意味がある。サンプリングしたピーク値が信号雑音比SNR=5または信号雑音比SNR=10の近くにある場合、特性時間基準波であるか否かの誤判断が生じやすい。以下、図面と合わせて説明する。
【0041】
図5に示すように、図5は本発明の音響信号の特性時間基準波の判断に対して最適化を行った波形概略図である。以下の説明は、前述のステップ3(音波のピーク値を構築する)とステップ4(サーチウィンドウを構築する)とを前提としており、後述のピーク値はサーチウィンドウにおいて取得したピーク値である。図5に示すように、時間t1のとき、可能性のある特性時間基準波を取得する(そのピーク値が信号雑音比5と10との間にあるため)。したがって、サンプリングしたピーク値が時間t1のときに取得したピーク値より大きいか否かを後に再判断する。もし大きくない場合、時間t1のときに取得したピーク値は特性時間基準波ではないと判断する。また、新しいピーク値が特性時間基準波であるか否かを、正確な特性時間基準波が見つかるまで、後に判断し直す。
【0042】
図5に示すように、90個のサンプリング点を経過した後、時間t2のときに別のピーク値が見つかったと(仮定)する。このとき、第2ピーク値(Tup2)が第1ピーク値(Tup1)よりも大きいか否かを判断する。さらに、もし第2ピーク値(Tup2)が第1ピーク値(Tup1)より大きい場合、第2ピーク値(Tup2)が第1ピーク値(Tup1)よりも十分に大きいか否かを判断する。但し、判断の基準は隣接する2つのピーク値の最大傾斜を根拠として判断することができ、例えば、2つのピーク値の最大傾斜はSmaxであり、もし第2ピーク値(Tup2)と第1ピーク値(Tup1)との差が最大傾斜の20%(すなわち0.2*Smax)より大きい場合、このように限定するわけではないが、第2ピーク値(Tup2)は第1ピーク値(Tup1)より大きいと判断することができる。したがって、この第2ピーク値(Tup2)は新しい(可能性のある)特性時間基準波として認定(設定)される。そして、サンプリングピーク値に対してもさらに後に同様の判断を行い、ピーク値が信号雑音比5と10との間にあるときの真の特性時間基準波を判断することができる。
【0043】
図6に示すように、図6は本発明の音響信号の特性時間基準波の判断に対して別の最適化を行った波形概略図である。前述のように、超音波流量計は、第1音響信号S1を送信し、第2音響信号S2を受信する第1音波送受信ユニット11と、第2音響信号S2を送信し、第1音響信号S1を受信する第2音波送受信ユニット12とを備えているため、音波の信号は似ている2組である。したがって、前述した判断ステップは、第1音波送受信ユニット11にとって言えば第1ピーク値(Tup1)と第2ピーク値(Tup2)とで、第2音波送受信ユニット12にとって言えば第1ピーク値(Tdn1)と第2ピーク値(Tdn2)とで、かつ同じ判断ステップが2回実行される。すなわち、第1音響信号S1に対して1回実行され、第2音響信号S2に対して1回実行される。
【0044】
より好ましくは、上流送受信ユニットが送信した音波と下流送受信ユニットが送信した音波とを比較する。まず、前述のステップに基づいて第1音波送受信ユニット11の第1ピーク値(Tup1)および第2ピーク値(Tup2)と、第2音波送受信ユニット12の第1ピーク値(Tdn1)および第2ピーク値(Tdn2)とを取得して、“大きさが近い”か否かを2つずつ比較する。すなわち、Tup1とTdn1とを比較し((Tdn1-Tup1)/Tup1により)、Tup1とTdn2とを比較し((Tdn2-Tup1)/Tup1により)、Tup2とTdn1とを比較し((Tdn1-Tup2)/Tup2により)、Tup2とTdn2とを比較し((Tdn2-Tup2)/Tup2により)、第1比較値Cmp1、第2比較値Cmp2、第3比較値Cmp3、第4比較値Cmp4をそれぞれ得る。
【0045】
Tup1とTdn1とが近く、かつTup2とTdn2とも近い場合は、第1音響信号S1と第2音響信号S2とは揃っていると見なすことができると判断する。逆に、Tup2とTdn1とが近い場合は、第1音響信号S1と第2音響信号S2とは揃っておらず、かつ第1音響信号S1は第2音響信号S2よりも前(先)にあることを表す。同様に、Tup1とTdn2とが近い場合は、第1音響信号S1と第2音響信号S2とは揃っておらず、かつ第2音響信号S2は第1音響信号S1よりも前(先)にあることを表す。
【0046】
2つの音波が揃っていないと一旦判断されると、ピーク値の順序を調整する。すなわち、第1音響信号S1が第2音響信号S2よりも前(先)にある時、Tup2はTup1に置き換えられる。逆に、第2音響信号S2が第1音響信号S1よりも前(先)にある時、Tdn2はTdn1に置き換えられる。このようにして、Tup1およびTdn1の計算と、Tup2およびTdn2の計算によって合致(マッチング)させることができ、すなわちTup1はTdn1に対応して計算を行い、Tup2はTdn2に対応して計算を行う。信号を揃える調整(すなわち特性時間基準波を正確な位置に置き換えること)により、信号送信の際に消失が生じ(ノイズに入り)、特性時間基準波に偏移(shift)が生じる状況を除去(相殺)することができる。
【0047】
さらに好ましくは、微小な波形変動によって特性時間基準波の誤判断が起きないために、ピーク値を置換することによりすでに決定した特性時間基準波が動かないように確保することができる。例を挙げて説明すると、もしすでに特性時間基準波として決定されたTup1、またはすでに特性時間基準波として決定されたTdn1の変動が大きくない場合、特性時間基準波をTup1とTdn1とに維持し、これにより特性時間基準波が頻繁に変動することを低減することができる。ただし、特性時間基準波として決定されたTup1または特性時間基準波として決定されたTdn1の変動が非常に大きい場合は、新しい特性時間基準波により特性時間基準波を置換する。
【0048】
こうして、前述の基本的なステップ(ステップ1~ステップ7)により、特性時間基準波の位置を大体判断でき、かつ総飛行時間を算出することで、流量の計算(予測)を実現することができる。さらに、最適化された判断と調整とにより、見つけ出された特性時間基準波の位置をより正確なものとすることができ、それにより超音波流量計の測定結果を向上させ、本発明の技術的な効果を実現させることができる。
【0049】
図7に示すように、図7は本発明の超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法のフローチャートである。図1と合わせて参照すると、前記超音波流量計は、第1音響信号S1を送信し、第2音響信号S2を受信する第1音波送受信ユニット11と、第2音響信号S2を送信し、第1音響信号S1を受信する第2音波送受信ユニット12とを備えている。前記の方法は以下のステップを含む。まず、第1音響信号に対応する第1波形および第2音響信号に対応する第2波形を受信する(S11)。その後、第1波形および第2波形の複数のピーク値をサンプリングする(S12)。その後、これらのピーク値に基づき、サーチ範囲(search window)を設定する(S13)。その後、サーチ範囲内の第1ピーク値を特性ピーク値として設定する(S14)。その後、特性ピーク値後のゼロクロス点の前とゼロ点との間の第1時間およびゼロ点とゼロクロス点の後との間の第2時間を記録し、かつ第1時間および第2時間の平均時間を計算する(S15)。最後に、平均時間に基づいて総飛行時間(time of flight、TOF)を計算する(S16)。
【0050】
ステップ(S12)の前にさらに以下のステップを含む。標準差下限閾値と標準差上限閾値とを設定するステップ。ただし標準差下限閾値と標準差上限閾値とは信号雑音比(signal-to-noise ratio、SNR)である。
【0051】
ステップ(S14)はさらに以下のステップを含む。第1ピーク値が標準差上限閾値(例えばSNR=10)より大きい場合、前記特性ピーク値として設定する。第1ピーク値が標準差下限閾値(例えばSNR=5)より小さい場合、前記特性ピーク値として排除する。または、続くピーク値が前記標準差上限閾値より大きいと判断される場合、前記特性ピーク値として設定する。
【0052】
ステップ(S14)はさらに以下のステップを含む。第1ピーク値が前記標準差上限閾値より大きい場合、前記特性ピーク値として設定する。第1ピーク値が前記標準差下限閾値より小さい場合、前記特性ピーク値として排除する。または、続くピーク値が前記標準差下限閾値以上であり、かつ前記標準差上限閾値以下であると判断される場合、後のピーク値が前のピーク値よりも大きいか否かを判断し、もし大きい場合は前記特性ピーク値として設定する。ただし、後のピーク値が前のピーク値より大きく、かつ後のピーク値が前のピーク値よりある変化量分大きい場合、前記特性ピーク値として設定する。一実施例において、変化量は任意の隣接する2つのピーク値の最大傾斜変化量の割合である。
【0053】
特性時間基準波の判断方法はさらに以下のステップを含む。第1音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値とを取得する。第2音響信号の第1ピーク値と第2ピーク値とを取得する。前記第1ピーク値と前記第2ピーク値とを比較して、第1音響信号と第2音響信号とが揃っているか否かを判断する。および、もし第1音響信号と第2音響信号とが揃っていない場合、互いに対応する第1ピーク値と第2ピーク値とを置き換えて、第1音響信号と第2音響信号とを揃うようにする。ただし、第1音響信号が第2音響信号よりも前にある場合、第1音響信号の第2ピーク値を第1音響信号の第1ピーク値に置き換える。第2音響信号が第1音響信号よりも前にある場合、第2音響信号の第2ピーク値を第2音響信号の第1ピーク値に置き換える。
【0054】
このようにして、本発明が提供する超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法によれば、基本的なステップ(ステップ1~ステップ7)により特性時間基準波の位置を大体判断でき、かつ、総飛行時間を算出することで、それにより流量の計算(予測)を実現することができる。さらに、最適化された判断と調整とにより、見つけ出された特性時間基準波の位置をより正確なものとすることができ、それにより超音波流量計の測定結果を向上させ、本発明の技術的な効果を実現させることができる。
【0055】
以上は本発明の好ましい具体的な実施例についての詳細な説明および図であって、本発明の特徴はこれらに限られるものではなく、これにより本発明を限定するものではない。本発明の範囲は以下に記載の特許請求の範囲を基準とし、本発明の特許出願の範囲に合致する思想とそれに類似する変形例も全て本発明の範疇に含まれ、当業者が本発明の範囲において容易に行える変形や修正もみな以下の本特許請求の範囲に含まれると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0056】
100 超音波流量計
11 第1音波送受信ユニット
12 第2音波送受信ユニット
S1 第1音響信号
S2 第2音響信号
S11~S16 ステップ
【要約】      (修正有)
【課題】超音波流量計の音響信号の特性時間基準波の判断方法の提供。
【解決手段】超音波流量計は、第1音響信号を送信し、第2音響信号を受信する第1音波送受信ユニットと、第2音響信号を送信し、第1音響信号を受信する第2音波送受信ユニットと、を備えている。方法は、(a)第1音響信号に対応する第1波形および第2音響信号に対応する第2波形を受信するステップと、(b)第1波形および第2波形の複数のピーク値をサンプリングするステップと、(c)これらのピーク値に基づき、サーチ範囲を設定するステップと、(d)サーチ範囲内の第1ピーク値を特性ピーク値として設定するステップと、(e)特性ピーク値後のゼロクロス点の前とゼロ点との間の第1時間およびゼロ点とゼロクロス点の後との間の第2時間を記録し、かつ第1時間および第2時間の平均時間を計算するステップと、(f)平均時間に基づいて総飛行時間を計算するステップと、を含む。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7