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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】低Co水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20221111BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221111BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20221111BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221111BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C22C19/00 F
H01M4/38 A
C22F1/00 621
C22F1/00 641A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 687
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691C
C22F1/00 691B
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
B22F1/00 M
B22F9/04 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021196559
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2022-01-05
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 孝志
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特許第6608558(JP,B1)
【文献】特許第6934097(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/123752(WO,A1)
【文献】特開2010-255104(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147044(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/014871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/07
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表され、CaCu型結晶構造を有し、前記Mmは、LaおよびCeの割合が全Mmに対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり
エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で相分析したときに検出されるLaとNiを含む第1相が面積比で97.5%以上100%未満であると共に、Ni、Mnを主として含む第2相が面積比で0%を超え1.5%以下であり、かつ前記第1相が300μm以上のサイズの結晶を含むことを特徴とする水素吸蔵合金のインゴット
【請求項2】
0≦d≦0.05であることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金のインゴット
【請求項3】
前記第2相の円相当直径の平均が10μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の水素吸蔵合金のインゴット
【請求項4】
前記第1相の結晶の平均サイズが160μm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水素吸蔵合金のインゴット
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水素吸蔵合金のインゴットを粉砕した水素吸蔵合金粉末を負極活物質としたことを特徴とする負極。
【請求項6】
請求項5に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池の負極として用いられるCaCu型の結晶構造を有するCo含有量の少ない水素吸蔵合金に関する。更に本発明は、この水素吸蔵合金を用いた負極およびこの負極を使用した電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素電池は、1990年代前半に商品化され、その後、広く普及している。
【0003】
ニッケル水素電池は、商品化当初は携帯電話やノートパソコンの電源として活躍していたが、その後は、徐々に小型で軽量なリチウムイオン電池へと置き換えられ、現在では、低廉さと安全性の高さ、及び、体積当りのエネルギー密度とのバランスの良さなどから、玩具、小型機器、更にはハイブリッド自動車などに用いられている。
【0004】
このようなニッケル水素電池に用いられる水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金である。この水素吸蔵合金は、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出することができる。
【0005】
水素吸蔵合金としては、LaNiに代表されるAB型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB型合金のほか、AB型、AB型、AB型などの様々なタイプの合金が知られている。これらの合金は、水素との親和性が高く水素吸蔵量を高める役割を果たす元素グループ(希土類元素,Ca,Mg,Ti,Zr,V,Nb,Pt,Pd等)と、水素との親和性が比較的低く吸蔵量は少ないが、水素化反応が促進して反応温度を低くする役割を果たす元素グループ(Ni,Mn,Co,Al等)との組合せで構成されている。
【0006】
これらの中で、CaCu型結晶構造を有するAB型水素吸蔵合金、例えば、Aサイトに希土類系の混合物であるミッシュメタル(以下「Mm」という。)を用い、BサイトにNi,Mn,Co,Al等の元素を用いた合金は、他の組成の合金に比べて、比較的安価な材料で負極を形成することができる。
【0007】
AB型水素吸蔵合金では、Aサイト原子量に対するBサイト原子量の割合(AB比)、及びNiの一部をCo、Mn、Al等の置換量を調整することにより、それを用いた負極の充放電容量、入出力特性、サイクル寿命などの様々な特性を調整することができる。そのような特徴をもつAB型水素吸蔵合金は、様々な用途に応じたニッケル水素蓄電池を造り分けすることを可能としている。
【0008】
ハイブリッド自動車を普及拡大させるためには、ニッケル水素電池の製造コストを低く抑え、負極の寿命特性および入出力特性をさらに向上させる必要がある。この目的を達成するために、AB型水素吸蔵合金の研究開発が活発に行なわれている。特に高価なレアメタルであるCoの使用量を可能な限り低減したAB型水素吸蔵合金にて、寿命特性の維持向上を目的として、合金中の「偏析相」に着目した検討が行われている。
【0009】
例えば、特許文献1において、水素吸蔵合金電極の活物質として、CaCu型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAlからなる水素吸蔵合金粉末であって、少なくとも水素吸蔵合金粉末の内部にMgNiCoMnAl合金相からなる微細な偏析相が分散して存在している水素吸蔵合金粉末を適用する。また、好ましくは、前記水素吸蔵合金粉末の表面に、NiとCoの合金からなる表面層を備えた水素吸蔵合金粉末を適用することが提案されている。このようにすることで、水素吸蔵合金粉末の微細化が抑制されるとしている。
【0010】
また特許文献2において、La量が60~90wt%のミッシュメタル、Mg、Ni、Co、Mn及びAlを含み、ミッシュメタルとMgの合計量を基準として、Mg量が2~6原子%である水素吸蔵合金であって、母相中に少なくとも一相の偏析相が存在し、該偏析相中のMg濃度が母相中のMg濃度より高いことを特徴とする希土類系水素吸蔵合金が提案されている。このようにすることで、電池活性化時に合金中の偏析相が選択的に腐食されて、偏析相付近から表面積が増大し、早期に合金が活性化されるとしている。
【0011】
また特許文献3において、負極活物質として、Mm(Mmは30重量%以上のLaを含む2種類以上の希土類元素の混合物を表す)と、少なくともNi、Co、Mn及びAlを構成元素とする水素吸蔵合金であって、上記水素吸蔵合金中にNiを主体とする偏析相を有し、かつ合金断面の任意の15μm平方の領域に露出する偏析相の数(ただし、偏析相に最小直径で外接する円の直径が0.05μm以上の偏析相の数)が1~40である水素吸蔵合金を用いることが提案されている。このようにすることによって、高容量で、低温での高率放電が可能であり、かつ高温貯蔵特性が優れるとしている。
【0012】
そして特許文献4において、CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金が提案されている。このようにすることで、優れたサイクル特性を得るとしている。該偏析相が、母相の水素吸蔵・放出に伴う格子の膨張・収縮による歪みを緩和する役割(クッションの役割)を果たしているとしている。
【0013】
さらに特許文献5において、一般式MmNix My(Mmはミッシュメタルまたは希土類元素の混合物、MはAl、Mn、Co、Cu、Fe、Cr、TiおよびVよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、5.0≦x+y≦5.5)で表され、その合金組織が、CaCu型の結晶構造を有し水素を可逆的に吸蔵放出する相と、Mm以外の元素を主成分とし水素を吸蔵しない1種または複数の相からなり、後者の相が前者の相中に島状に分散している水素吸蔵合金が提案されている。そのようにすることで、多量のCoを含まなくとも長寿命と優れた高率放電特性を兼ね備えるとしている。水素を吸蔵しない相が、水素を吸蔵する相自体を応力に強い構造にするとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2005-93297号公報
【文献】特開2004-269929号公報
【文献】特開2000-353542号公報
【文献】特開2009-30158号公報
【文献】特開平7―286225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の通り、これまでにも検討がなされてきているが、近年レアメタルであるCoの取引価格が高騰するなか、Coを含有するAB型水素吸蔵合金の原料コストを維持あるいは低減するためには、Coの含有率を可能な限り低減する必要がある。しかし、AB型水素吸蔵合金のCo含有率を低減すると、水素の吸蔵放出が繰り返されることによる合金の微粉化が促進し、負極の寿命特性が低下する傾向がある。Co含有量の低減と、負極の寿命特性を両立させるための有効な課題解決策は見つかっていない。
【0016】
特許文献1には、水素吸蔵合金電極の活物質として、CaCu型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAlからなる水素吸蔵合金粉末であって、少なくとも水素吸蔵合金粉末の内部にMgNiCoMnAl合金相からなる微細な偏析相が分散して存在し、前記MgNiCoMnAlからなる偏析相の比率が0.5~1.5wt%が好ましいとしている。しかし、この水素吸蔵合金のCo含有量は0.2~1.0モルとしており、実施例でのCo含有量は0.75モルの場合だけと、Co量が多すぎる課題がある。即ち、Co量が少ない組成域でかつMgが存在しない組成域で、偏析相の効果を有するということは記載も示唆もない。
【0017】
特許文献2では、La量が60~90wt%のミッシュメタル、Mg、Ni,Co、Mn及びAlを含み、ミッシュメタルとMgの合計量を基準として、Mg量が2~6原子%である水素吸蔵合金であって、母相中に少なくとも一相の偏析相が存在し、該偏析相中のMg濃度が母相中のMg濃度より高いことを特徴としている。しかし、この水素吸蔵合金のCo含有量は0.2モル以上0.7モル以下としており、実施例でのCo含有量も0.3モルの場合だけと、Co含有量が多い課題がある。同様に、Co量が少ない組成域でかつMgが存在しない組成域で、偏析相の効果を有するということは記載も示唆もない。
【0018】
特許文献3には、Mm(Mmは30重量%以上のLaを含む2種類以上の希土類元素の混合物を表す)と、少なくともNi、Co、MnおよびAlを構成元素とする水素吸蔵合金であって、上記水素吸蔵合金中にNiを主体とする偏析相を有し、かつ合金断面の任意の15μm平方の領域に露出する偏析相の数(ただし、偏析相に最小直径で外接する円の直径が0.05μm以上の偏析相の数)が1~40である水素吸蔵合金を用いることを特徴としている。しかし、この水素吸蔵合金のCo含有量は0.2モル以上0.7モル以下と多く、比較例で示すようにCo含有量0.25モルでは偏析相が多く劣化が進むという課題がある。即ち、Co量が少ない組成域で、偏析相の効果を有するということは記載も示唆もない。また、15μm平方に露出する偏析相、即ちm15μm平方に偏析相が存在することを必須としているので、更に広間隔で点在する偏析相の分散では効果が得られないことを意味する。
【0019】
特許文献4には、CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴としている。Co含有量は0.35モル以下に設定し、Coに代わってFeで加えることで微粉化特性(すなわち寿命特性)を提案したものであるが、充放電容量に相当する水素吸蔵量(H/M)等の記載はなく、この文献に示した結果だけでは、Co含有量の低減と負極の寿命特性を両立しているとはいえない。また、Feを含む組成を必須としているので、Feを含まない組成における微粉化特性に関する記載や示唆はない。
【0020】
特許文献5には、多量のCoを含まなくとも長寿命と優れた高率放電特性を兼ね備え、低コストの水素吸蔵合金を提供することを目的に、合金組織がCaCu型の結晶構造を有し水素を可逆的に吸蔵放出する相と、Mm以外の元素を主成分とし水素を吸蔵しない1種または複数の相からなり、後者の相が前者の相中に島状に分散している水素吸蔵合金が提案されているが、Co含有量が0.3モル以下であるものの、Coに代わる元素として、Cu、Fe、Cr、Yによる置換も行っていることからAB比が大きく、概ね初期容量が低下する問題がある。
【0021】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、Coを含有するAB型水素吸蔵合金について、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制することで、負極活物質に用いたときの寿命特性を維持することができる水素吸蔵合金および水素吸蔵合金を用いた負極、電池を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究し、AB型水素吸蔵合金において、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、Coによる微粉化抑制効果を代替する方法を検討した結果、先行技術文献にあるような偏析相が水素吸蔵相の歪みを緩和する役割となるのではく、寧ろ水素吸蔵によって体積変化する相と体積変化しない相が混在すると割れが発生しやすい(微粉化しやすい)ことが分かり、寧ろ、水素吸蔵相の大きな結晶粒の間に少量適度に偏析相が存在する水素吸蔵合金とすることでニッケル水素電池の負極とするために粉砕した際に偏析相を起点に割れるので負極とする水素吸蔵合金相に歪みを与えず微粉化し難くなることを見出し、その結果、合金の水素吸蔵量の低下がなく、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制でき、負極活物質に用いたときの寿命特性が維持されることになり、本発明を完成させた。
【0023】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0024】
(1)一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表され、CaCu型結晶構造を有し、前記Mmは、LaおよびCeの割合が全Mmに対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり
エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で相分析したときに検出されるLaとNiを含む第1相が面積比で97.5%以上100%未満であると共に、Ni、Mnを主として含む第2相が面積比で0%を超え1.5%以下であり、かつ前記第1相が300μm以上のサイズの結晶を含むことを特徴とする水素吸蔵合金のインゴット

(2)0≦d≦0.05であることを特徴とする(1)記載の水素吸蔵合金のインゴット
(3)前記第2相の円相当直径の平均が10μm以上80μm以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載の水素吸蔵合金のインゴット
(4)前記第1相の結晶の平均サイズは160μm以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の水素吸蔵合金のインゴット
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の水素吸蔵合金のインゴットを粉砕した水素吸蔵合金粉末を負極活物質としたことを特徴とする負極。
(6)(5)に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制したAB型水素吸蔵合金を提供することができ、負極や電池に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の水素吸蔵合金(実施例1)についての相分析を行った組織写真である。
図2】本発明の水素吸蔵合金(実施例10)についての相分析を行った組織写真である。
図3】本発明の水素吸蔵合金(実施例12)についての相分析を行った組織写真である。
図4】比較例の水素吸蔵合金(比較例1)についての相分析を行った組織写真である。
図5】比較例の水素吸蔵合金(比較例2)についての相分析を行った組織写真である。
図6】比較例の水素吸蔵合金(比較例3)についての相分析を行った組織写真である。
図7】相分析による第1相の面積比と微粉化難度との関係をプロットしたグラフである。
図8】相分析による第2相の面積比と微粉化難度との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明者は、Co含有量の少ないAB型水素吸蔵合金において、水素吸蔵・放出に伴う微粉化と偏析相の関係について詳細に検討した結果、次のような結論に達した。先行技術文献のように水素吸蔵・放出に伴う体積変化する水素吸蔵相と水素吸蔵・放出しない偏析相が共存していると、体積変化する相と体積変化しない相の界面で亀裂が発生して微粉化が進む、即ち、偏析相が存在しない方がよいということが分かった。よって、偏析相は電池の負極として使用されているときには無い方が良いということである。しかしながら、発明者らは、更に深く検討した結果、水素吸蔵相の結晶を大きく成長させてその結晶粒界面に偏析相を僅かに存在させることで、電池の負極とするために水素吸蔵合金を粉砕する際に偏析相を起点に亀裂が入って該合金が割れることにより水素吸蔵相の結晶内部に歪みや残留応力が発生し難くなることを見出した。このような歪みや残留応力の少ない結晶相でできた水素吸蔵合金では、水素吸蔵・放出の繰り返しがなされても微粉化が進み難く、その結果耐久性に優れ長寿命の電池とすることができた。
【0029】
以上のことを踏まえて具体的に水素吸蔵合金を開発した結果、本発明の水素吸蔵合金は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表され、CaCu型結晶構造を有し、前記Mmは、LaおよびCeの割合が全Mmに対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、エネルギー分散型X線分析装置(EDS、Energy dispersive X-ray spectroscopy)で相分析したときに検出されるLaとNiを含む第1相が面積比で97.5%以上100%未満であり、かつ前記第1相が300μm以上のサイズの結晶を含み、Ni、Mnを主として含む第2相が、面積比で0%以上1.5%以下とするものである。
上記のような組織は、どのような方法によって形成させても本発明の効果が得られるものであるが、1つの例として次のようの考え方で本発明の組織を形成させることができる。
【0030】
水素吸蔵合金の製造工程において、溶融金属の鋳型面で不均一核発生をさせ、発生した結晶核を成長させるように凝固させるという方法に注目し、そのような凝固を起こすために溶湯を鋳型で冷却する工程で、熱伝導率の高い鋳型を用いて鋳型面で溶湯から核発生を起こし該結晶核を成長させるように凝固させることにより、柱状の大きな結晶が成長するので偏析相の生成を抑制できる。このようにして得られた組織から熱処理によって結晶成長させると、水素吸蔵相が大きな結晶となり、僅かに形成される偏析相の該大きな結晶の結晶粒界に位置しやすくなる。その結果、上述のように、Co含有量が少なくても、微粉化難度が低下せず、負極に用いたときに寿命特性が維持されるAB型水素吸蔵合金を製造できる。
【0031】
本発明の組織にすることで微粉化し難くなる主な理由は、上述したが、次のような要因もあると考えている。
(1)一方向性凝固させることで、即ち、六方晶であるCaCu型結晶構造をもつAB型水素吸蔵合金が、結晶成長する方向が揃った状態で凝固させることにより、集合組織、合金組成の均一性が向上し、偏析相の生成が抑制される。
(2)偏析相が低減したことにより、偏析相を含む水素吸蔵相の粒子が殆どなくなり、水素吸蔵放出に伴う結晶格子の膨張収縮が粒子全体に均一に進むために(膨張収縮しない偏析相が存在しないので偏析相との間で発生する応力がない)、粒子全体に均一に歪む。
(3)偏析相では水素吸蔵量が少なく或いは水素吸蔵しなく、水素吸蔵に伴う結晶格子の膨張が小さい或いは膨張しない。そのため、水素吸蔵放出によって膨張収縮して歪む周囲の水素吸蔵相の結晶との間に応力が発生し、その応力が割れの起因となっていたが、その偏析相が電池に組み込んだ際に殆どなくなっている。
【0032】
本発明のAB型水素吸蔵合金において、まずAサイトを構成する金属について説明する。本発明では、Aサイトを構成する金属として、LaまたはLaの一部もしくは全部が希土類金属混合物であるミッシュメタル(Mm)を用いる。Mmでは、LaおよびCeが、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内の割合を占めている、より好ましくは、Laが70~96質量%、Ceが4~30質量%の範囲であり、更に好ましくは、Laが74~94質量%、Ceが6~26質量%の範囲である。
【0033】
次にBサイトを構成する金属について説明する。本発明では、Bサイトを構成する金属として、Ni、Mn、Al、及びCoを用いる。これら金属のモル比は以下の条件を満たすものである。
Niモル比(a) 4.30≦ a≦4.75
Mnモル比(b) 0.25≦ b≦0.45
Alモル比(c) 0.35≦ c≦0.45
Coモル比(d) 0≦ d ≦0.12
AB比 5.20≦(a+ b + c + d ) ≦5.55
好ましい条件は、次の通りである。
Niモル比(a) 4.40≦ a≦4.70
Mnモル比(b) 0.25≦ b≦0.41
Alモル比(c) 0.38≦ c≦0.42
Coモル比(d) 0≦ d ≦0.05
AB比 5.25≦(a+ b + c + d ) ≦5.46
Coのモル比dは、原料コスト低減のため、なるべく少ない方が好ましく、0≦d≦0.12としている。dを0より大きく、0.12以下とすることにより、即ち、Co置換することにより、水素の吸蔵放出が繰り返されても微粉化し難くなり、置換量が増加するとその傾向が著しくなる。しかし、d=0、即ち、Co置換しなくても、本発明のAB型水素吸蔵合金にすることにより、水素の吸蔵放出が繰り返されても微粉化し難くさせることができる。そのため、Coモル比(d)は0≦d≦0.12であり、好ましくは0≦d≦0.05である。なお、dが0.12を超えると、原料コスト低減につながらない。
【0034】
MmのLa、Ceの比率、Ni、Mn、Alのモル比を上記の通りに設定した理由としては、AB型水素吸蔵合金の水素吸蔵量(H/M)が、0.85~1.00とすることにより充放電容量を確保すること、平衡圧を0.04~0.07MPaとして初期活性化しやすくすること、PCT曲線におけるプラトー域をなるべく広くすることを考慮したためである。
Mmでは、LaおよびCeが、MmのMm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内とすることで、水素吸蔵量(H/M)を0.85~1.00として充放電容量を確保することができるためである。Niの割合(a)は、上述の通り、4.30以上4.75以下の範囲内であるが、水素吸蔵合金粉末を活物質として負極を作製した際、その出力特性を維持し易く、しかもその寿命特性を格別に悪化させることもない。Mnの割合(b)は、上述の通り、0.25以上0.45以下の範囲内であるが、この範囲内であれば、水素吸蔵合金粉末の微粉化難度を維持し易くすることができる。Alの割合(c)は、上述の通り、0.35以上0.45以下の範囲内であるが、この範囲内であれば、PCT特性におけるヒステリシスが小さく水素吸蔵合金粉末の充放電効率の悪化を抑えることでき、かつ水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵量の低下を抑えることができる。
【0035】
前記、水素吸蔵合金において、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で相分析したときに検出されるLa及びNiを含む第1相が面積比で97.5%以上100%未満であり、Ni、Mnを主として含む第2相が、面積比で0%を超え1.5%以下、さらには1.2%以下であることが好ましい。より好ましくは、第1相が面積比で98.5%以上100%未満であり、更に好ましくは、第2相が面積比で0%を超え1.0%以下である。第1相と第2相がこの範囲をとることで、Co含有量が少ない水素吸蔵合金においても、微粉化難度を0.48~0.60の範囲とすることが可能になる。なお、水素吸蔵合金の第1相と第2相を合計しても、100%にならない場合があるが、これは、後記するように、合金を大気雰囲気下で研磨して観察するために一部が酸化してしまうこと、研磨材由来の不純物等が残存するためである。また、Ni、Mnを主として含む第2相とは、後述するように、EDSによる相のマップ分析において、Ni元素とMn元素とが重なって位置する部分の相を意味するものであり、例えば、Ni元素とMn元素とが重なる位置にLa元素が少量存在するような場合を含むものとする。つまり、Ni、Mnを主として含むとは、第2相を構成する元素の60%以上がNi元素とMn元素からなることを意味する。
【0036】
前記水素吸蔵合金において、水素吸蔵量(H/M)が0.85~1.00であり、かつ微粉化難度が0.48~0.60、プラトー圧力が0.04~0.07MPaであることで、水素吸蔵合金粉末を負極としたときに、充放電容量が大きく、寿命特性が長く、及び初期活性化がしやすい負極となる。
ここで、微粉化難度とは、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」で除した値である。また、プラトー圧力は、測定温度45℃水素放出側のH/M=0.5における平衡水素圧力(MPa)のことである。
【0037】
微粉化難度を0.48~0.60とした理由は、高すぎると初期活性化し難く、かつ、電池の入出力特性が低下するためであり、反対に低すぎると、電池の寿命特性が確保されないためである。微粉化難度は水素吸蔵量(H/M)と相関があり、H/Mが多いほど微粉化難度は低め、H/Mが少ないほど微粉化難度は高めになる傾向があるため、H/Mと組み合わせて考慮する必要がある。H/Mを0.85~1.00とした理由は、ニッケル水素電池用負極を作製したときに、目標の充放電容量を確保するためである。
【0038】
本発明の水素吸蔵合金では、前記第1相が300μm以上のサイズの結晶を含むものである。前記第1相が300μm以上のサイズの結晶を含まないような小さな結晶相から形成された組織であると、電池とするために該合金を粉砕した際に1つの粒子内に結晶粒界が含まれた粒子が多くなったり、粒子内に第2相を含んだ粒子が多くなったりする。これらが要因で微粉化が進みやすくなる。1つの粒子内に結晶粒界が存在すると水素を吸蔵放出による変形度合いが1つの粒子内で異なるので結晶粒界に応力が発生して割れやすくなる。また、1つの粒子内に第2相が存在すると、上述のように、水素の吸蔵放出で変形する相と殆ど変形しない相が共存するのでそれらの界面に応力が発生してクラックが生じやすくなる。
よって、前記第1相の結晶の平均サイズは、160μm以上であるのがよりこのましい。前記第1相は、大きな結晶であるほど前記理由で好ましいが、現実的な製造条件で得られる最大の平均サイズは、800μm程度である。
尚、前記第1相の結晶のサイズは、電子線後方散乱回析法(EBSD)によって決めるものである。水素吸蔵合金のインゴットにおいて、冷却面付近より数mm四方程度の欠片をサンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察用に直径1インチの樹脂に包埋、鏡面研磨し、最終仕上げとして粒径60nmのコロイダルシリカを用いて研磨を行う。SEMにて100から300倍程度の倍率で、二次電子像を観察する。任意の面において、菊池パターンと呼ばれる電子線回折パターンが明確に観察できる視野にて、結晶型にLaNiを選定してEBSDマップ分析を行い、結晶相を色分けして表示させる。このとき結晶粒界を区別する角度は5°とする。その後、結晶粒(グレイン)の解析を行い、検出された各結晶粒の面積から、結晶粒サイズを円相当径で計測することができ、その際に300μm以上のサイズを有する結晶の存在が確認される。また、本発明でいう第1相の結晶の平均サイズは、10視野を観察してそれぞれ前記計測にて求めた平均値とする。
【0039】
本発明の水素吸蔵合金では、更に、前記第2相の円相当直径の平均が10μm以上80μm以下であると本発明の作用効果をより好適に得られるので好ましい。上述のように、第2相の役割は、水素吸蔵合金を電池に用いるために粉砕する過程において第1相の結晶粒界に存在する第2相が起点になって割れることで第1相に残留応力や結晶歪みを生じさせないようにできること、また、このような割れ方をすることで第2相が粒子表面に存在させるようにできること(粒子内部に第2相を存在させないようにすること)で、微粉化が進み難くなる。したがって、第2相が10μm未満で小さく分散していると、粒子内部に閉じ込める確率が高くなって前記効果が望めなくなる場合があったり、粉砕の際に第2相を起点に割れが生じなくなる場合があったりする。第2相が80μmを超えるようになると第2相の分散数が少なくなり過ぎて本発明の効果が得られなくなる場合がある。第2相は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で面分析して検出される第2相の形態から円相当直径を求める。10個の第2相を測定して平均したものを前記第2相の円相当直径の平均とする。
【0040】
本発明の水素吸蔵合金は、本発明の要件を満たす組織にできれば、どのような方法で製造しても本発明の作用効果を奏するものである。以下に、本発明の水素吸蔵合金の製造方法の1つの例を示す。
水素吸蔵合金は、秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程で製造できる電池に使用するには、このようにして製造した水素吸蔵合金を粉砕して使用される(粉砕工程を経て使用される)。秤量工程では、所望の合金組成となるように水素吸蔵合金の各原料が秤量される。混合工程では、秤量された複数種類の原料が混合される。鋳造工程において、高周波加熱溶解炉に混合原料を投入し、混合原料を溶解させて溶湯となし、この溶湯を例えば鋳型に流し込んで1150℃~1550℃の範囲の温度(鋳造温度=鋳造開始時の坩堝内溶湯温度)で鋳造する。鋳造温度が高いほど凝固した組織が第1相の結晶が大きく成長する。第1相の結晶の成長は、鋳造温度だけでなく、鋳型抜熱度合いとの関係が影響する。鋳型抜熱が急速に効果的起こし鋳型側から凝固が進むような鋳造温度と鋳型抜熱の関係にするのが好ましい。即ち、鋳造温度が低いとより鋳型抜熱度合いを大きくすることになるし、鋳造温度が高いと鋳型抜熱度合いが大きくなくてもよい。このようなことを考慮して、鋳造の際に第1相を出来るだけ規則的に大きく結晶を成長させる方が本発明の好ましい組織を形成しやすい。ここで、鋳型による冷却(鋳型抜熱)においては、上述のように、溶融金属が急速凝固して(鋳型面で不均一核発生して)柱状の結晶に成長しやすい条件とすることで、偏析相の生成を抑制できる。そのためには、例えば、20℃における熱伝導率が43W/(m・℃)以上の鋳型を用いることが好ましい。更に好ましくは、20℃における熱伝導率が52W/(m・℃)以上の鋳型を用いることである。
【0041】
鋳造後の合金は、熱処理工程において非酸化雰囲気下で950℃~1250℃の温度で熱処理される。また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、5時間以上から18時間以下である。インゴットの中心部まで所定温度になって、所望の結晶サイズに粒成長するように時間設定すれば良い。
鋳造した合金の結晶サイズが小さい場合には、熱処理工程の条件を高温長時間にすることで大きな結晶サイズにすることになる。鋳造した合金の結晶サイズが大きい場合には、熱処理工程の条件を高温長時間にしなくても十分大きな結晶サイズにすることができるが、もちろん、ここで熱処理工程の条件を高温長時間にするとより大きな結晶サイズにすることができる。このような過程で小さな偏析相が集まって大きな偏析相を形成することになる。
電池に使用するには、このようにして製造した水素吸蔵合金を粉砕して使用される。この粉砕工程では、粗粉砕、微粉砕により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末にする。例えば、インゴットを500μmの篩目を通過するサイズまで粉砕して水素吸蔵合金粉末とする。
【0042】
このようにして得られた水素吸蔵合金粉末は、PCT(水素圧-組成-等温線図)特性評価装置によって、水素吸蔵量(H/M)、プラトー圧力を測定する。
【0043】
本発明におけるエネルギー分散型X線分析装置(EDS)による相分析について説明する。水素吸蔵合金のインゴットより、数mm四方程度の欠片をサンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察用に直径1インチの樹脂に包埋、鏡面研磨する。SEMにて数百倍程度の低倍率で、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で含有する元素(La、Ce、Ni、Mn、Al、Co)についての面分析を行う。任意の面において、各元素の含有率を定量した後に、相の分析を行い、偏析(二次電子像で濃淡の異なる部分)の有無と、その面積比、母相と偏析相がどのような元素で構成されているか確認することができる。相の分析において、Ni元素とLa元素が重なって存在する領域を母相(第1相)として特定し、一方、La元素が検出されずNi元素とMn元素が重なって存在する領域あるいはNi元素とMn元素及び僅かなLa元素が重なって存在する相を偏析相(第2相)として特定し(具体的には、La元素がNi元素やMn元素よりも少なくNi元素とMn元素の合計が60%以上である領域とした。)、観察範囲における第1相(母相)と第2相(偏析相)の面積を測定する。このとき、研磨材由来の元素(Si)を含む不純物相や、母相の一部が酸化した不純物相(酸素(O)を含む相)、特定できない相(Unassigned pixels)は、第1相(母相)、第2相(偏析相)とは見なさい。
【0044】
本発明における微粉化難度の測定方法について説明する。
PCT(水素圧-組成-等温線図)特性評価装置を用いて、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」で除した値を、微粉化難度として指標化した。すなわち、微粉化難度は、1に近いほど水素吸蔵合金粉末が微粉化しにくいことを示し、0に近いほど水素吸蔵合金粉末が微粉化しやすいことを示す。微粉化難度を求めるに当たり、「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」とは、リーズアンドノースラップ社製の粒度分布測定装置7997SRAを用いて測定した平均粒径D50のことである。「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」とは、株式会社鈴木商館製の全自動PCT測定装置(1/2インチ直管サンプルセル,試料量3g)を用いて保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下で水素の吸蔵放出サイクルを10回行った後に、リーズアンドノースラップ社製の粒度分布測定装置7997SRAを用いて測定した平均粒径D50のことである。なお、全自動PCT測定装置における水素吸蔵合金粉末の活性化処理は、活性化温度80℃および水素圧力1.82MPaの環境下で行ない、同装置における水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵放出サイクルは、保持温度45℃、水素吸蔵圧力1.82MPaおよび水素放出圧力0MPaの環境下で行った。
【実施例
【0045】
以下、本発明の実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものはない。
【0046】
[実施例1~12、比較例1~5]
Ni、Mn、Al、Co、及びMmとしてLaとCeの各金属原料を、表1に示した合金組成となるように秤量した。それらの原料を溶解炉内のルツボに入れて真空排気した後、アルゴンガス雰囲気とした。次いで高周波加熱装置で加熱溶解し、溶湯を鋳型に流し込んで鋳造を行い、不活性雰囲気下で熱処理を行って合金インゴット(水素吸蔵合金)を得た。得られた合金インゴットは、不活性雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて、不活性雰囲気下でカッティングミルを用いて粉砕し、続いて篩目500μmを通過する粒子サイズ(500μm以下)の水素吸蔵合金粉末とした。
【0047】
(PCT特性の測定)
得られた水素吸蔵合金粉末について、PCT特性評価装置により、水素吸蔵量(H/M)、プラトー圧力を測定した。
【0048】
(微粉化難度の測定)
粒度分布測定装置及びPCT特性評価装置を用いて、微粉化難度を測定した。
【0049】
(偏析相の測定)
熱処理後の合金インゴットの自由冷却面付近より、数mm四方程度の欠片をサンプリングし樹脂包埋、鏡面研磨後に、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7900F)に付帯しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、水素吸蔵合金に含まれる元素について面分析を行った。このときの二次電子像の観察倍率は300倍とした。またEDSの解析ソフトは、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社のAZtecを使用した。面分析の後に「相の分析」を実施し、偏析相の構成元素、面積比を調査した。ただし、面積比については、複数個所の観察領域で測定して得た値の平均値を面積比として算出した。相分析を行った組織写真を、図1図3図6に示し、組織写真から測定・算出した第1相(母相)、第2相(偏析相)の面積比の値を表2に示し、また、不純物相を含めた各相の面積比率を表3に示す。
なお、第1相(母相)、第2相(偏析相)及び不純物相の面積比率の測定・算出は、電子顕微鏡の画像処理の機能を用い、偏析して色味が違ったピクセル数をカウントし、全体のピクセル数に対する割合を求めることによって、観察領域における各相の面積比率を算出することができる。また、第1相及び第2相の特定は前述のとおりとして、相の分析でNi元素とLa元素が重なって存在する領域を母相(第1相)とし、La元素が検出されずNi元素とMn元素が重なって存在する領域、あるいは、Ni元素とMn元素及び僅かなLa元素が重なって存在するがLa元素がNi元素やMn元素よりも少なくNi元素とMn元素の合計が60%以上である領域を偏析相(第2相)とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
図1図3には、実施例の代表的な相分析の組織写真(実施例1、実施例10、実施例12)と、図4図6には、比較例の代表的なの相分析の組織写真(比較例1、比較例2、比較例3)を示す。
また、図7として、縦軸に微粉化難度、横軸に第1相の割合をプロットしたグラフを示し、更には、図8として、縦軸に微粉化難度、横軸に第2相(偏析相)の割合をプロットしたものを示す。
【0053】
表2、図1~6、及び図7~8より、本発明の水素吸蔵合金(実施例1~12)は、第2相(偏析相)が少なくかつ微粉化難度が高い結果を示した。更に、H/Mが、0.90以上と高く、プラトー圧力も低めであることが確認できた。これに対して、比較例1~5は、H/M、プラトー圧力については本発明とほぼ同等であったが、第2相(偏析相)の生成を十分に抑制することができず、本発明の実施例1~12に匹敵する微粉化難度を得ることができなかった。このことから、本発明の水素吸蔵合金は、Co含有量が少なく原料コストが低く、初期特性、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適な合金であることが確認できた。
【要約】
【課題】ニッケル水素電池の負極として用いられるCo含有CaCu5型水素吸蔵合金について、Co含有量低減による原料コスト抑制と、負極の寿命特性とを両立させることを課題とする。
【解決手段】水素吸蔵合金は、CaCu型結晶構造の母相を有する。この母相は、MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表される。そして、この水素吸蔵合金では、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)で相分析したときに検出されるLa及びNiからなる第1相が面積比で97.5%以上100%未満であり、Ni、Mnを主として含む第2相が面積比で0%を超えて1.5%以下である。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8